野村證券(男女差別)事件 東京地裁判決(平成14年2月20日)

(分類)

 昇格  均等  

(概要)

 證券会社Yの吸収分割前の旧Y社の女性従業員(定年退職者も含む)X1~X13ら13名が、同期同学歴の男性社員は入社後13年次には課長代理(現在の職位は総合管掌「指導職一級」)に昇格したのにX1~X13らが課長代理に昇格していないのは、Yによる女性差別であるとして、Yに対し、
〔1〕在職中のX1ら11名は総合管掌「指導職一級」の職位にあるものとして取り扱われる地位にあること、
〔2〕入社後13年次に課長代理へ昇格したことを前提とするYの退職慰労金規程、退職年金規程の適用を受ける地位にあることの確認を求めるとともに、
〔3〕入社後13年次課長代理に昇格したとした場合の月例賃金、一時金とX1~X13らが現実に受領した賃金等との差額、及び慰謝料等の支払を請求したケースで、
〔2〕については確認の利益を欠くとして却下、〔1〕〔3〕については、まず昇格時期とこれに連動する賃金について男女間で著しい格差があるとし、男女をコース別に採用、処遇していたということができるとしたうえで、X1~X13らの入社時において男女のコース別採用、処遇が不合理差別として公序に反するとはいえないものの、改正均等法が施行された平成11年4月1日以降は、X1~X13らとYとの労働契約中において、かかる処遇を維持し、かかる処遇を行っていることは、同法六条に違反するとともに、不合理な差別として公序に反することとなったというべきであるとし、そのうえで〔1〕については、労働契約上あるいは労働基準法13条からもX1~X13らに昇格請求権は認められないとして請求が棄却、〔3〕については、差額賃金等の請求は理由がないとして棄却されたが、慰謝料請求については、X1~X13ら(改正均等法施行前に退職した者を除く)の請求が一部認容された事例。

 会社においては、高卒男性社員は入社後13年次にその大半が課長代理に昇格しているのに対し、高卒女性社員はその時期に昇格することは全くないのであるから、高卒採用社員について、男性と女性との間では、昇格時期に著しい格差があり、これと連動する賃金等についても同様に著しい格差があると認めることができる。〔中略〕

 同時期に入社した同学歴の男女の社員間において、昇格、賃金等について著しい格差がある場合には、その格差が生じたことについて合理的な理由が認められない限り、性の違いによって生じたものと推認することができると解される。〔中略〕

 会社は、高卒社員につき、被告訴訟引受人主張のようにまず職種の違いがあることを前提とするものではなく、男女の性による違いを前提に男女をコース別に採用し、その上でそのコースに従い、男性社員については主に処理の困難度の高い業務を担当させ、勤務地も限定しないものとし、他方、女性社員については主に処理の困難度の低い業務に従事させ、勤務地を限定することとしたものと認めるのが相当である。そして、その結果、賃金交渉における会社の対応や人事考課、昇格運用から明らかなように、会社においては、入社後の昇格、賃金についても、その決定方法、内容が男女のコース別に行われていたもので、それに伴い、昇格時期、昇格内容及びこれに伴って賃金にも格差が生じていたということができる。〔中略〕 労基法3条は、その文言から明らかなように、性による差別の禁止を規定したものではなく、また、労働条件についての差別的取扱いを禁止しているに止まる。募集、採用に関する条件は労働条件に含まれないから、会社のとった男女のコース別採用、処遇が労基法3条に違反するとはいえない。  また、労基法4条は、性による賃金差別を禁止しているに止まるから、採用、配置、昇進などの違いによる賃金の違いは、同条に違反するものではなく、会社が行った男女のコース別の採用、処遇の違いにより男女間に賃金に差が生じても、それは、採用、配置、その後の昇進の違いによるものであるから、同条に直接違反するともいえない。〔中略〕

 使用者である企業は、採用後の社員の処遇についても広範な労務管理権を有しているから、社員に区分を設け、その区分に応じた処遇を行うことができると解されるが、前記イ、ウのような形態での男女別の採用、処遇をすることは、性別に基づくものであって、少なくとも均等法が施行された平成11年4月以降において、このような男女のコース別に社員を採用した上、男女に区分して処遇をすることが合理的であるということはできないから、会社が均等法施行後においてこの採用、処遇をすることは、均等法に違反すると同時に、公序に反するものとして違法であることは明らかである。しかしながら、〔中略〕原告らが入社した当時は、一般的にみて、企業においては、女性について全国的な異動を行うことは考え難かったといえるから、企業においても効率的な労務管理を行うためには、女性社員の採用、処遇についても、そのことを考慮せざるを得ず、これを考慮した会社の男女のコース別の採用、処遇が、原告らの入社当時において、不合理な差別として公序に反するとまでいうことはできない。〔中略〕

 平成9年に均等法が制定され、平成11年4月1日から施行されているところ、同法が定めた男女の差別的取扱い禁止は使用者の法的義務であるから、この時点以降において、会社が、それ以前に会社に入社した社員について、男女のコース別の処遇を維持し、男性を総合職掌に位置づけ、女性のほとんどを一般職掌に位置づけていることは、配置及び昇進について、女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをするものであり、均等法6条に違反するとともに、公序に反して違法であるというべきである。この間、会社は、昭和62年4月以降、女性社員の大半が属する一般職ないし一般職掌から男性社員の属する総合職ないし総合職掌への職種転換制度を設け、女性社員についても職域の拡大を図る努力をしている。しかしながら、職種転換制度は、一般職ないし一般職掌から総合職ないし総合職掌への転換のみを認めるもので、両職ないし両職掌の転換に互換性があるわけではないこと、一般職ないし一般職掌から総合職ないし総合職掌への転換に当たっても、上司の推薦を必要とし、一定の試験に合格した者のみの転換を認めていることからすれば、会社の設けた職種転換制度は、女性社員の大半が属する一般職ないし一般職掌と男性社員の属する総合職ないし総合職掌との間で差異を設け、また、女性に対して特別の条件を課するものといわざるを得ず、配置に関する会社の労務管理権を考慮しても、会社が、総合職ないし総合職掌を勤務地の限定のない者としたことや、総合職掌について1種外務員資格の取得を義務づけた点はともかくとして、職種転換制度の存在により、配置における男女の違いが正当化されるとすることはできない。〔中略〕

 会社は、会社における社員の昇格については、査定、選抜を行い、昇格決定の発令を経た上で昇格させているのであり、この昇格の決定についての使用者の総合的裁量的判断は尊重されるべきであるから、一般的には、発令行為のない段階で「あるべき昇格」を認めるのは困難であること、各原告らが入社した当時、会社のとっていた男女のコース別の採用、処遇が公序に反するものとまではいえないこと、この間に勤務地を異にすること等により、男性社員と女性社員との間で積まれた知識、経験にも違いがあったと考えられ(このことは、均等法施行後を取り出してみても同様である。)、したがって、この男性社員についての昇格状況が各原告ら主張のように会社における男性社員の昇格基準であったとしても、そのことから、直ちに高卒女性社員についても同様の昇格をさせるべきであったともいえないこと、以上のことからすれば、会社が各原告らを入社後13年次で課長代理に昇格させなかったからといって、そのことが違法とはいえず、各原告らにその昇格請求権があるともいえないから、労基法13条に基づく各原告らの地位確認請求も理由がないといわざるを得ない。〔中略〕

 労基法4条は、男女同一賃金の原則をうたっているとはいえ、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」と規定しているにとどまるから、文言上、同条から差別を受けた女性の差額賃金請求権が直接発生するとすることは困難であり、同条に基づき、原告らが差額賃金請求権を有するとはいえない。〔中略〕

 原告X1を除くその余の原告らは、会社のした違法な男女差別により、性により差別されないという人格権を侵害されたものということができるから、会社は、原告らが被った精神的苦痛に対する慰謝料を支払う義務がある。

(関係法令)

 労働基準法3条 4条 13条  男女雇用機会均等法6条   民法90条 

(判例集・解説)

 時報1781号34頁  タイムズ1089号78頁  労働判例822号13頁 
 労政時報3537号47~48頁  労働法学研究会報53巻12号1~27頁 
 法学セミナー49巻1号122頁  労働法律旬報1526号4~11頁 
 判例評論526〔判例時報1797〕210~215頁  労働判例827号15~28頁  
 ジュリスト1258号195~198頁

 

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