播磨造船事件 神戸地方裁判所龍野支部(昭和38年9月19日)
(分類)
解雇
(概要)
1.労働者が共産党員、またはその同調者ないしは共産主義の信奉者である場合において、単にそれだけを理由とする解雇を是認する根拠は、国内法上存せず、右理由による解雇は、民法90条にいわゆる「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗」に反し無効である。
2.いわゆるレツド・パージによる解雇後10年近く経過してから解雇の効力を争う訴を提起することは、はなはだしく遅延した権利の行使ではあるが、信義則違反とはいえない。
3.一定期日までの退職申出の勧告をし、右期日までに申出のないときは、右期日付をもつて解雇する旨の意思表示がなされたが、右期日までに退職の申出がなく、条件が成就した後、当事者間の話合のうえ、労働者が右期日付で退職願を提出し、会社が異議なくこれを受理した場合には、会社は、これを新たな申込とみなして退職願を受理し、承諾を与えた結果、前記期日まで効力を遡及させる雇用契約の合意解約が成立したものと解すべきである。
4.任意退職勧告が不法な企図ないし誤つた認定に基づくものであつても、被勧告者がこれに応じて退職願を提出した場合には、雇用契約の合意解約が成立しうることは当然であり、勧告の右不法性が必然的に右解約の無効を来すものではない。
5.連合国最高司令官の内閣総理大臣あての昭和25年6月6日付、同月7日付および同年7月18日付各書簡、同年5月3日付同司令官の声明にみられる事実判断や説諭的記載は、日本共産党ないし個々の党員およびその同調者の破壊的性格の有無に関し、裁判所の自由心証に基づく事実認定を拘束するものではない。
6.過去における法律関係の存否確定の訴は許されない。(旧法関係)
7.解雇の意思表示の無効確認を求める訴旨は、現に従業員たる地位にあることの確認を求める趣旨と解すべきである。
8.いわゆるレッド・パージに際し、会社の退職勧告に応じた退職願提出による雇用契約の合意解約につき、退職願の提出が提出者の真意に基づいてなされたものと推認され、また、会社においてもその提出が真意に基づかないものとは考えていなかったとして、心裡留保による無効の主張が排斥された事例。
9.被占領下において、わが国の裁判所は、連合国最高司令官の指示がより上位の法規範に抵触するか否かの審査権を有しなかつたものである。
10.レッド・パージに関する連合国最高司令官の書簡および声明に表明されている事実判断および説諭的記載は、法的規範としての性質を有しないから、裁判所の自由心証に基づく事実認定を拘束するものではない。
11.裁判所は、レッド・パージに関する連合国最高司令官の指示がより上位の法規範に牴触するかどうかについては、審査権を有しない。
12.いわゆるレツド・パージにより解雇された労働者が、供託された退職金、予告手当金を受領しても、当時他の被解雇者が退職願を提出し、任意退職者としての処遇を受けていたにもかかわらず、退職願を提出しない場合には、それだけで解雇の承認と認めるべきではない。
13.日本国裁判所は、被占領下において連合国最高司令官の指示がより上位の法規範に抵触するかどうかの審査権を有せず、それ故に被占領下においてなされた解雇の効力を判断するに当り、右司令官の各書簡の有効、無効をうんぬんすることは無意味である。
14.昭和25年7月18日付連合国最高司令官の内閣総理大臣宛書簡の趣旨に関し、最高裁判所に対してなされた解釈指示が、下級裁判所をも拘束するものとしてなされたという事実が認められないとされた事例。
15.いわゆる書簡は、報道関係を除く民間重要産業からのレツド・パージを指示したものと解することはできず、またいわゆる「エーミス談話」は、官報にも発表されず裁判所を含む日本の国家機関に対し明瞭な形において公式に伝達されたものでなく、その内容も、報道関係を除く民間重要産業からのレツド・パージを命令したのでもなく、こうしたレツド・パージが右書簡で指示されているという解釈を示したのでもなく、精々その早急な実施を勧奨すると共に、これを怠つた場合に業者が受くべき事実上の不利益を警告したに過ぎないと解するのが相当である。
16.「退職してもらいたい、一定期日までに退職したときは依願解雇扱とする、提出しないときは右期日をもつて解雇する」旨の意思表示は、雇用契約の合意解約の申込と被通告者が期間内に退職願を提出しないことを停止条件とする解約の意思表示と解するを相当とし、期間後に退職願を提出した場合でも、提出者から期間内提出として扱つてもらいたい旨申入れ会社が了承するときは、新たな申込に対する承諾として当初の提出期間末日までに効力を遡及させる雇用契約の合意解約が成立する。
17.レツド・パージの際の使用者からの解約申入に対する労働者の退職願の提出をもつてする応諾の意思表示は、使用者において退職願を受理した当時、その提出が労働者の真意に基づくものでなかつたことを知りまた知り得べかりし事情が存在しなければ、心裡留保ということはできない。
18.期限付の任意退職勧告ならびに期限経過を停止条件とする解雇の意思表示に応じて従業員が退職願を提出した以上、合意解約が成立するのであって、退職勧告が会社の不法な動機に基づくものであっても、そのために右合意解約が公序良俗に反するの故をもって無効となるものではない。
19.最高裁判所に対し連合国最高司令官から、昭和25年7月18日付連合国最高司令官の内閣総理大臣あて書簡の趣旨に関する解釈指示がなされたとの事実は、下級裁判所にとって顕著な事実とはいえない。
20.いわゆるレツド・パージによる解雇後10年近く経過してから解雇の効力を争う訴を提起することは、はなはだしく遅延した権利の行使ではあるが、信義則違反とはいえない。
(判例集・解説)
労働関係民事裁判例集14巻5号1181頁
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