文化シャッター事件 静岡地方裁判所浜松支部(平成9年3月24日)

(分類)

 保険金

(概要)

1.保険契約者である会社と生命保険会社との間で団体定期生命保険契約の締結に当たり、保険契約者は保険金の全部又は一部を弔慰金規程に則り支払う金額に充当するなどの記載のある協定書もしくは覚書が取り交わされても、この合意は保険契約者と保険会社との間の合意にすぎず、保険契約者の従業員はこの保険について全く知らず、従業員に保険について周知させるような措置等もとられていない場合には、右合意が保険契約者と従業員との間の就業規則となっているとは認められない。

2.会社を保険契約者兼保険金受取人、従業員全員を被保険者として締結される団体定期生命保険契約においても、被保険者の個別具体的な同意が契約の効力発生要件であり、会社の統括部長からそれ以下の個々の従業員に保険契約を締結することを周知し、これに応ずることを確認することでは商法674条1項本文が要求する被保険者の同意とみることはできない。

3.会社を保険契約者兼保険金受取人、従業員全員を被保険者として締結された団体定期生命保険契約が、被保険者の同意がないため無効である場合に、保険金受取人は被保険者であるとみて被保険者の同意がなくとも商法674条1項但書の規定する保険契約として有効とすることはできない。

4.会社を保険契約者兼保険金受取人、従業員全員を被保険者として締結された団体定期生命保険契約について、被保険者の同意がない場合に、保険金受取人を会社とする指定のみが保険契約と切り離されて無効と解することはできず、保険契約全体が反公序良俗性のゆえに無効となる。

5.会社を保険契約者兼保険金受取人、従業員全員を被保険者とする団体定期生命保険契約が、被保険者の同意なく締結された場合には保険契約は無効であるとして、死亡した被保険者の遺族による会社に対する事務管理、不当利得及び信義則による保険金の支払請求が認められなかった事例。

6.いわゆる団体定期保険(会社が従業員を被保険者とし、自己を保険契約者兼保険金受取人として生命保険会社と締結する定期保険)に基づき、被保険者である従業員の死亡事故によって生命保険会社から保険金全額を受領した会社に対する、右従業員の遺族による保険金の引渡請求につき、団体定期保険は商法674条1項にいう「他人の生命の保険」であり、被保険者の個別的な同意が要件となるところ、本件では右同意がなく、保険契約は無効であるから、会社は保険金を保険会社に返還する義務を負うのであり、保険金を遺族に引き渡さなかったことをもって信義則に反するとはいえないとして、右請求を棄却した事例。

7.団体定期保険契約は純粋に遺族に対する保障のみを目的とするものではないから、右契約締結の事務は、保険契約者であり保険金受取人である使用者の事務であることから、民法697条の「他人の事務」という要件を満たさず事務管理ないし準事務管理とみることはできない。

8.

(1) 団体定期保険契約において使用者を保険金受取人とする指定は、信義誠実の原則、公序良俗に反し無効であり、使用者が保険金を受け取ることが不当利得になると主張するが、本件団体定期保険契約全体が無効であることから、指定のみを切り離して無効となると解することができず、不当利得成立の余地はない。

(2) 右無効な団体定期保険契約により取得した保険金は生命保険会社に返還すべき責務を負うものであるから、被用者からの不当利得返還請求は認められない。

(判例集・解説)

 労働経済判例速報1627号12頁  判例タイムズ949号84頁
 金融・商事判例1016号30頁  労働判例713号39頁  判例時報1611号127頁

 

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