北海道電力事件 札幌高裁判決(昭和48年7月30日)

(分類)

 退職

(概要)

 日比谷公園での反戦集会に参加した後のデモにおいて逮捕された労働者の両親が提出した退職願の効力が争われた事例。

 以上の認定事実によると、前記退職願の提出について、被控訴人の明示または黙示による同意があったとは認められず、むしろ同人の同意を得ていなかったことが認められる。すなわち、前記認定のとおり、昭和46年11月1日には、被控訴人の父母が退職の意思のない被控訴人をしてその手をとって強引に退職願(疎乙第1号証)に押印させたものであるから、右退職願が被控訴人の意思に基づき作成されたものであることは到底認められず、したがって、同日被控訴人が右退職願の提出に明示または黙示的に同意していたことはこれを認めるに由ない。尤も、翌2日に再度警察署の取調室で被控訴人と面会した父Aが被控訴人に右退職願の提出の承諾を求めた際、被控訴人が首を縦に振る動作を示したことは前記認定のとおりであるが、当時被控訴人は依然として退職する意思はなく、ただ懲戒解雇になることをおそれて、どうしていいやらわからず困惑している最中に右動作をなしたものであることも前記認定のとおりであるから、右動作は極めて不明確曖昧なものといわざるを得ず、しかも前記認定のとおり当時被控訴人は満20歳になったばかりの若年の女性であったうえ初めて逮捕勾留され既に10日間に及ぶ拘禁生活と連日の取調のため肉体的精神的に極めて疲労していたことも明らかであるから、場合によっては自己の一生を左右することもある退職を熟慮して決断する気力や余裕もほとんどなかったことが優に推認でき、このような場合においてなされた右動作をもって被控訴人が退職の決断をしその意思を表示したと認定することは困難である。また、前記認定のとおり、退職願提出の際およびその後において、被控訴人の父AがB係長らに対し右提出につき被控訴人の同意を得た旨説明している事実はあるが、以上の認定事実を考え合すと、これは、右父が我子を思う親心から、被控訴人が懲戒解雇になることをおそれて、依願退職になることを強く希求し、被控訴人が退職願の提出に同意していないにもかかわらず、これに同意したと由の説明をしたものであることが認められる。以上によると、被控訴人が前記退職願の提出に明示または黙示的に同意したことは到底認められない。

 そうすると、その余の点につき検討するまでもなく、右退職願の有効を前提としてなされた被控訴人の前記依願退職の発令によっては、控訴人と被控訴人間の雇傭契約は解約されないといわなければならない。

(関係法令)

 労働基準法2章

(判例集・解説)

 労働判例185号76頁

 

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