自閉症

 「自閉症」というその名前から、他人に対して心を閉ざし、自分の殻に閉じこもってしまう病気と思う方もいるかもしれませんが、これは違います。自閉症は心の病気ではありません。 自閉症は親の育て方や環境が原因ではない、脳の特性によって起こる発達障害です。脳の特性のために、目や耳から入ってきた情報を整理し、それらを意味のあるまとまったこととして認知することが難しくなってしまうのです。

 極端に言薬が遅れていた子が3才で急にぺらぺらと話し始めたり、成長につれてこだわりが出現したり、3才までは症状の評価は難しいものです。また、自閉症の約3割は、「セットバック現象」といって、1才半頃までは健常の発達をしていたのに、ある時期から発達が停滞、あるいは後戻りする現象が見られます。乳児期には「いない いない ばあ」などをしていたのに、2才になりまったくしなくなったというような例です。弟・妹の誕生や引っ越しが重なると、それが原因で起きた一時的な赤ちゃん返りと混同されやすく、診断の遅れにつながります。

 自閉症は、最初に挙げた「三つ組」の障害が生涯に渡って続くことがわかった時点で確定的となりますが、その判断ができるのは、おおむね3才を過ぎてからです。しかし、3才未満の子でも、3つの条件がそろっている場合、自閉症の特性に合わせたしつけや教育をしてあげたほうが、子どもはまっすぐに伸びていきやすいものです。

 

自閉症の3つの症状(「三つ組」の障害)  

 自閉症といっても、症状の現れ方は千差万別ですが、必ず根底には3つの能力障害があります。これを「三つ組」の障害と言い、これがセットであったときに『自閉症』と診断するという医学的な取り決めになっているのです。

 「三つ組」の障害がセットである場合には、症状の現れ方が違っていても、子どもの伸ばし方の原則がとても共通します。自閉症かどうかを判断するということは、いま何からどんな教え方をしたら伸びやすいかを調べるということなのです。

(1) 対人交渉の質的な問題  

 自閉症というと、人嫌いとか殻にこもるというように、人づき合いの「量」が乏しいと思われがちですが、そうではありません。それどころか、見知らぬ人に突拍子もない言葉をかける子もいます。自分と相手との関係を正しく理解できずに不適切な行動をとってしまうのです。 赤ちゃんの場合だと、人見知りがなくて誰にでも平気で抱かれたり、お母さんの後追いが乏しかったりします。  

 人見知りや後追いが極端に強くて2~3才を過ぎても、お父さんにすら自分の世話をさせないという子もいます。あやしたときの反応が乏しかったり、手遊び歌をいっしょに楽しむカが伸びにくいこともあります。2~3才になると友達を意識した行動をし始めるものです。しかし、自閉症では友達への関心が薄かったり関わりはもてても極端に一方的だったりします。

(2) コミュニケーションの質的問題  

 自閉症では、幼児のときには、ほとんどの子に話し言葉の遅れが見られます。中には言葉の遅れのない子もいます。診断上重要なのは、遅れのある・なしより、言葉の獲得の偏りや奇妙さです。通常、子どもは「パパ」「ママ」「ネンネ」など、日常で必要な言葉から覚えていき、覚えた言葉はさっそく使ってみます。言葉は人に対して使うために獲得されるのですからです。しかし、自閉症の子は、興味があるものや繰り返し聞く言葉は言えるのに、肝心の「ママ」「パパ」といった言葉を言わなかったり、覚えた言葉も独り言で言うぱかりということが多く見られます。

 言葉のオウム返しが大きくなっても残ることもあります。あるいは、家に帰ってきたときに「ただいま」ではなく「お帰り」というように、相手の言うべき言葉を言ってしまったり、「バイバイ」と手を振るときに、見えたとおりに手のひらを自分のほうに向けて振る「さかさまのバイバイ」をすることがあります。これは、自分と相手の立場を置き換えて学習することが若手なためと考えられます。また、視線が合いにくかったり、逆に失礼なほど他人の目を凝視したり。微妙な目配せの意味もなかなか理解できません。

(3) イマジネーション障害  

 AかもしれないしBかもしれない、という不確定要素を楽しんだり、臨機応変に対応する力が極端に不足しています。不測の事態が起きるとパニックに陥って、本来ならできるはずのことができなくなってしまいます。そのため、いつも同じ状態であることに強く固執します。いつもと同じ道順をたどりたがったり、物の置き場所に勝手に決め事を作ったりします。いつも手に何かを握っていないとイヤだというこだわりもあります。

 遊び方にも特徴が現れて、一列に並べることに没頭したり、2~3歳になっても「穴に入れる」とか「押すと鳴る」といった単純なおもちゃに熱中したりします。電車やマーク、文字、数字、特定のキャラクターなどに強い偏った関心を示すこともあります。

 こうした偏った強い興味は、少し大きくなると特殊な能力として発揮されることもあります。教えないのに2才でアルファベットが書けてしまう、世界中の国旗の国名が言えてしまう、過去や未来のどの日付を言われても曜日を即答できるなどです。音楽や絵画などに大変優れた能力を発揮する人もいます。また、常同運動といって、手をヒラヒラさせる、上下に飛び跳ねる、クルクル回る、体を前後に揺らすなどの、動きに没頭することもあります。

 

予後(経過の見通し)と治療

 一般に、自閉症の症状は生涯続きます。7歳までに小児がどれだけコミュニケーション可能な言語能力を獲得できるかによって、予後は大きく異なります。たとえば、自閉症の小児の標準的な知能指数(IQ)検査結果が50未満の場合など、知能検査の数値が低い場合は、成人期になっても緊密な支援が必要となる可能性が高くなります。

 多くの場合、ASDの小児には、集中的な行動修正療法が有効です。知能指数が比較的高い小児の場合、社会的能力を伸ばすことを目的とした療育法が有効です。それぞれの小児にあわせた特別な教育を行うことがきわめて重要です。たいていの場合、自閉症の小児の療育プログラムには、言語療法、作業療法、理学療法、行動療法などが組み込まれています。

 薬物療法では自閉症そのものを治すことはできません。しかし、フルオキセチン、パロキセチン、フルボキサミンなどの選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)は、自閉症の小児の儀式的行動を軽減するのにしばしば効果があります。自傷行為を減らすために抗精神病薬のリスペリドンを使う場合があります。副作用(体重増加や運動障害など)のリスクを考慮しなくてはなりません。

 食事療法、胃腸療法、免疫療法などを試みる親もいますが、これまでのところ、このような治療法が自閉症に有効であるという証拠はありません。