ケンウッド異動命令無効確認等事件 最高裁第3小(平成12・1・28)

(分類)

 配転   均等  懲戒解雇 

(概要)

 通勤時間が片道約1時間40分強となり長男の保育園への送迎に支障が生じるとして、東京都目黒区の事務所の庶務の仕事から東京都八王子市の事業所の製造ライン勤務への異動命令を拒否し、出勤しなかったことを理由に懲戒解雇したことについて、東亜ペイント事件判決を引用しつつ、「被上告人の八王子事業所のHICプロジェクトチームにおいては昭和62年末に退職予定の従業員の補充を早急に行う必要があり、本社地区の製造現場経験があり40歳未満の者という人選基準を設け、これに基づき同年内に上告人を選定の上本件異動命令が発令されたというのであるから、本件異動命令には業務上の必要性があり、これが不当な動機をもってされたものとはいえない。

 また、これによって上告人が負うことになる不利益は必ずしも小さくないが、なお通常甘受すべき程度を著しく超えるとまではいえない。したがって、他に特段の事情の伺われない本件においては、本件異動命令が権利の濫用に当たるとはいえない」とし、「本件異動命令に従わなかったことを理由としてされた本件各懲戒処分には、所論の違法はないというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、前記判決(東亜ペイント事件)に抵触するものではない。」とするもの。

 元原利文裁判官の補足意見として、「上告人の学歴と上告人と被上告人との間に雇用契約が締結された時期を考えると、このような経歴の女性労働者については、特段の事情のない限り、明示的な合意をしないでも、広域での異動をしないことが黙示的に合意されていると見られるのであって、原審が就労場所を特定の勤務地に限定する合意がされたとは認められないとしているのも、東京都内において勤務場所を変更する異動が命じられたという本件事例を前提としたものと理解すべきであり、」とし、「近時、男女の雇用機会の均等が図られつつあるとはいえ、とりわけ未就学児童を持つ高学歴とまではいえない女性労働者の現実に置かれている立場にはなお十分な配慮を要するのであって、本件判決をもってそのような労働者であっても雇用契約締結当時予期しなかった広域の異動が許されるものと誤解されることがあってはならない」とするもの。

 本件は原審において、会社が上告人と勤務時間、保育問題について話し合ってできる限りの配慮をしたいと考えていたが、上告人が話し合いに積極的に応じようとしなかったことが認定されている事案である。 

(関係法令)

 労働基準法  均等法  民法

(判例集・解説)

     労判774・7

(関連判例)

 東亜ペイント事件 最高裁第2小(昭和61・7・14)  
 帝国臓器製薬単身赴任事件 最高裁第2小(平成11・9・17) 
 片山組事件 最高裁第1小(平成10・4・9) 
 日産自動車村山工場事件 最高裁第1小(平成1・12・7) 
 九州朝日放送事件 最高裁第1小(平成10・9・10)
 直源会相模原南病院事件 最高裁第2小(平成11・6・11)  

 

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