川崎重工業事件 大阪高等裁判所(昭和38年2月18日)

(分類)

 整理解雇

(概要)

1.政治的信条による差別的整理解雇は、憲法14条、労働基準法3条に違反すると共に、公序良俗に違反するものとして無効である。

2.職場ごとの組合員が組合執行部の指示を離れて独自に争議行為を実施することは、組合規約に反し、組合自体の統一的意思に対する侵害として許されないばかりでなく、争議権を行使しえない集団による企業阻害行為として、使用者に対する違法な争議行為である。

3.共産党細胞員の公安条例反対デモ参加が細胞活動としての一面をもつていても、右デモ参加が組合の方針として決定され、他の多数の組合員も参加した場合には、組合としての合法的な政治活動たる性格をも否定することはできない。

4.共産党細胞員が推進力となり、組合員の先頭に立つて行つた集団的行動にも「労働組合運動」、「職場闘争」としての経済闘争たる性格が認められた事例。

5.会社の配転計画について、組合の方針に反して職制に執拗に抗議し、配転予定者に対して配転を集団的に拒否するよう働掛けた行為は、会社の業務運営を不当に阻害するものである。

6. 組合幹部に対し実力行使の停止等を要求した決議文を提出した組合員に「殴つてしまえ」、「殺してしまえ」など、ののしり暴行を加え、組合員大衆の面前で謝罪させ、決議文の焼却を強要するなどの集団的リンチは、単に組合内部の問題にとどまらず、従業員としての社内秩序を乱すものであつて違法不当の行為である。

7. 組合の了解した会社内の他工場への工員の貸渡を集団的に拒否するよう扇動した行為は、会社の企業運営を阻害するものである。

8.上部団体役員が自己の権限を超えて下部組合の争議行為を指導した場合には、その際発生した暴力行為に対しても責任を負う。

9.賃金債権その他従業員たる地位に伴い発生する個々の具体的な権利ないし利益は、雇用関係存続確認の訴とは訴訟物を異にし、後者の訴によつて直接かつ当然にその確保を期しうるものではないから、定年退職後に雇用関係の存続確認を求める訴はその利益がない。

10.昭和25年7月18日付連合国最高司令官の内閣総理大臣あての書簡の趣旨に関する最高裁判所に対する解釈指示は、同裁判所を覊束する趣旨の下に同裁判所に向けられた解釈指示命令であって、その他の裁判機関および関係当事者を拘束するような法規範ではない。

11.就業規則における「やむを得ない業務上の都合」による解雇とは、会社側のみの経営上の必要による解雇に限らず従業員側の帰責事由を理由の一つとして会社の労務管理上の必要からなされる解雇をも含む。

12.大量解雇だからといつて使用者には組合と協議しなければならない法的義務はないから、組合との協議なしにされた大量解雇も解雇権の濫用にはならない。

13. 供託にかかる退職金受領当時地位保全仮処分を申請しており、また右金員を給料の一部として受領する旨を通知している場合、右供託金受領をもつて解雇を承認したものと認めることはできない。

14.昭和25年7月18日付連合国最高司令官の書簡の趣旨に関する最高裁判所に対してなされた解釈指示は、同裁判所を拘束する趣旨のもとに同裁判所に向けられたものであり、その他の裁判機関および関係当事者をも拘束するような解釈法規範を設定する趣旨の下になされたものでないと解すべきである。

15.いわゆる書簡は、直接我が国の民間重要産業の経営者に対して、その企業から共産党およびその同調者を排除することを要請したものではない。

16.昭和25年7月18日連合国最高司令官の書簡および連合国総司令部エーミス労働課長が同年8月、9月にした談話は、重要産業の経営者に対して、企業破壊的活動分子である共産党員およびその支持者の排除の国内的処理、すなわち憲法の尊厳を失墜することなくしてその運用による自主的排除を命じたものであり、単に共産党員またはその支持者という理由で排除しうることまで許容したものではない。

17.いわゆるレツド・パージに際し会社が設定した解雇基準について評価基準が示された。

18.会社から退職の申込を勧告し、一定期限まで退職の申出がないときは右期限の翌日限りで解雇する旨の期限付解雇の意思表示が、雇用契約の合意解約の申入をなし、その承諾を勧告すると共に、退職の申込の誘引をも行つたものであり退職勧告期限後に勧告に応じた労働者が提出した辞職願を会社が受理したことにより合意解約が成立したものと認められた事例。

19.合意解約の申入をなすと共に退職の申込を勧告し、一定期限までに合意退職の申出がないときは右期限の翌日限りで解雇する旨の期限付解雇の意思表示がなされ、右勧告に応じて退職願が提出され、合意解約が成立した場合、右期限付解雇と合意退職は相当因果関係に立ち、期限付解雇の意思表示に不当労働行為的意図その他の公序良俗に反するような意図があれば、右合意退職も無効になる。

20.退職願の提出および餞別金の受領以前に地位保全仮処分を申請しており、合意退職する意思のなかつたことが認められるが、使用者が右真意を知らなかつたし、また知りうべかりし状況になかつたものと認められた事例。

(判例集・解説)

 労働関係民事裁判例集14巻1号46頁

 

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