シャープエレクトロニクスマーケティング事件 大阪地裁判決(平成12年2月23日)

(分類)

 均等

(概要)

 通信機械器具、電気機械器具等の販売等を目的とする被告会社の従業員である女性(原告)が、女性であることを理由として被告から仕事の配置・昇格及び賃金について不当な差別を受けたと主張して、昇格した地位にあることの確認及び債務不履行又は不法行為を理由とする損害賠償を求めたケースで、職種別賃金制度と人事考課に基づく職能給制度を採用する被告とその関連会社においては、男性の方が女性より早く昇格して、高齢になるほど上位に格付けされる傾向があると認められるが、その事実から直ちに被告で男女差別の処遇が行われていたとはいえないものの、原告の担当職務と勤務状況及び男性社員の格付けとの比較からして、ほとんどの男性が入社後10年、遅くとも14年でB4(M5)に昇格しているのに、原告が27年間M4又はB3(いずれも被告の格付け)に据え置かれたことは原告の能力、労働意欲からは説明がつかず、この昇格の遅延は男女を理由とする差別であったとして、損害賠償(慰謝料)が認められた事例。 

 以上によれば、A会社(被告会社に吸収)においても、Bグループ(被告会社を含む関連グループ)同様、全体としては、男性の方が女性より早く昇格して、その結果、高齢になるに伴い、より上位に格付されることになるとの傾向があると認められる。  このような傾向が認められることからすると、A会社においては一般的にも女性に不利益な男女差別の処遇がなされており、原告の格付が同一条件男性の昇格に比し著しく遅れているのも、そのような男女差別の処遇の結果ではないかとの疑念が生じる。

 ところで、右のような傾向は、我が国の多くの企業においてみられるところである。その原因の1としては、男性は経済的に家庭を支え、女性は妻として家庭にあって内助の功により夫を支え、また子供を養育するという役割分担意識のもとで、我が国の企業の多くにおいて、従業員の定年までの長期雇用を前提に、雇用後、企業内における訓練などを通じて能力を向上させ、その向上に伴う労働生産性の向上にともなって賃金を上昇させる年功賃金制度をとるところ、女性従業員は短期間で退職する傾向にあり、企業としても、短期間で退職する可能性の高い女性従業員にコストをかけて訓練機会を与えることをせず、単純労働の要員としてのみ雇用する点にあることが指摘される。女性労働者に深夜労働などの制限があることや出産などに伴い休暇を与えざるを得ない事情が生じる可能性も、企業が、女性を単純労働の要員としてのみ雇用する一原因となっている。これらの事情は、男性と同一条件で雇用した女性労働者にとっては、男女を区別して処遇し、賃金、昇格等に格差を設けることの合理的理由とはなしえないものであるが、他方、女性労働者の側においても、右役割分担意識を否定せず、働くのは結婚又は子供ができるまでと考えて、長期間就労することを希望せず、将来の昇進、昇格には関心を持たず、企業内の教育訓練に消極的で、労働に対する意欲の低い者も多くあることは否定できず、この場合には、男性労働者との間に賃金や昇進、昇格に格差が生じても、仕方がないものである。  右のような役割分担意識や女性の意識は、原告が雇用された昭和38年ころから現在までの間、次第に変化してきていることは公知であるが、前記認定のとおり、Bグループで、格付A4・B4の格付下限年齢充足者のうち、その格付を受けている女性従業員者は、昭和60年度では10パーセント程度にすぎなかったものが、平成3年度では32パーセントに増加していることは、背景にあるそのような社会意識の変化によるものと考えることもできるし、別表9によって、右中央商品受注センターの在籍状況を子細に検討すると、男性従業員の勤続年数は女性より概して長く、B5に格付されている女性は高卒、定期採用、勤続10年であるところ、これと同一条件の男性従業員も未だB5の格付にとどまっており、S2に格付されている女性は短大卒、定期採用、勤続13年であるが、大卒、定期採用、勤続16年であるにもかかわらず未だS2の格付である男性従業員や、不定期採用ではあるけれども、大卒、勤続21年で未だS2の格付である男性従業員も存するのであって、現時点で、勤続年数の比較的浅い層をみると、男女間格差も相当に縮まってきているのではないかとも考えられる。  また、個々の労働者を個別的にみれば、その意図や教育、訓練にかかわらず、能力の向上ができない場合もある。  そうすると、全体的な傾向として、右のような格付及び賃金の男女間格差が存するという事実から直ちに、Bグループ、ひいてはA会社ないし被告において、男女差別の処遇が行われているとまで推認することはいささか飛躍があるというべきである。  原告の格付が、A会社における同一条件男性の平均格付と比して著しく低いものであることは前記認定のとおりであり、これに関して、原告は、その原因は、仕事配置のうえでのA会社ないし被告による男女差別であると主張しているところ、A会社においては、年齢が高齢になるに伴い男性従業員のほうが女性従業員より、より上位に格付されている(したがって、男性従業員の方が一般的には早く昇格している。)との傾向が認められることや人事制度が、現に男女差別的運用がなされているとまでは認められないとしても、恣意的に運用される可能性を孕んでいること、職種別賃金制度のもとでは基本的にはいかなる仕事に配置されるか個人格付を決定するうえでとりわけ重要であることなどと相まって、右の格差を正当とする合理的理由がない限り、原告に対する仕事配置における男女差別を推認できないものではない。  被告の職種別賃金制度のもとでは係長への昇進は、S3に格付されることが必要とされており、原告は未だB4の格付でしかなく、その格付が不当とは認められないから、少なくとも原告に関しては、未だ係長に昇進しないことをもって、これが男女差別によるものとは認められない。
  前述のとおり、格付と賃金とは相関性を有するから、原告が昭和60年4月にB4に昇格したとすれば、賃金は増額したものと認められ、原告は以後、本来受けるべき賃金より低額な賃金しか受給していなかったということができる。しかしながら、昇格した場合に増額すべき金額については、平成3年の昇格時における増額が8,100円に過ぎず、昇格しない場合でもそれ以上に増額したときもあり、昭和60年の昇格によっていかほどの金額が増額したかは、これを具体的に明らかにする証拠はなく、これを認定することはできないというべきである。また、昭和60年4月にB4に昇格した場合の、その後に支払われるべき賃金の額についても、これを認定するに足りる証拠はない。原告は、同一条件男性の平均に等しい賃金、賞与を受給したはずであると主張するが、原告が同一条件男性の平均の格付に至っていないことは前述のとおりであり、これを採用することはできない。そうすると、本来原告が受けるべきであった賃金と現実に支払を受けた賃金の差額については、これを具体的に認定することができないというべきである。

 そこで、慰藉料について検討するに、原告が格付について差別を受けたことにより、著しい精神的苦痛を受けたことは明らかというべきである。そこで、これによって具体的には認定できないものの本来受けるべき賃金より低額な賃金しか受給していなかったことを含め、本件記録から窺われる諸般の事情を考慮し、原告に支払われるべき慰藉料としては、500万円をもって相当とする。

(関係法令)

 労働基準法4条  民法709条 710条

(判例集・解説)

 労働判例783号71頁  労働法律旬報1480号4~7頁  民商法雑誌123巻6号117~126頁 
 判例セレクト’00〔月刊法学教室246別冊付録〕5頁  法律時報73巻1号115~118頁

 

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