大栄交通事件 東京高裁判決(昭和50年7月24日)

(分類)

 再雇用

(概要)

 55歳で定年退職した労働者が、定年退職後特段の欠格事由がないかぎり再雇用される労働慣行が成立していたとして、労働契約関係存在確認を求めた事件の控訴審の事例。  (使用者側控訴棄却)

 A会社では従業員が55歳で定年退職した場合、特段の欠格事由のない限り、その従業員を直ちに嘱託として再雇用するとの労働慣行が確立しているものというべきである。(中略 一般に、老令による定年退職後の再雇用は、その時点での社会福祉政策の現状、退職後の経済的収入の確保など社会一般の老後の生活環境の考慮はもとより、当該企業への寄与程度、再雇用者の効率など諸般の事情を考察して、その要否が決定されるものであるが、現在では、55歳が定年である場合なお当該企業で何らかの形で再雇用すべき必要性が大きいことは一般に知られたところである。この現状によると、使用者が労働者を再雇用するかどうかは、使用者の完全な自由意思に任されているものとはいえず、前記のように、会社が特に必要があると認めた場合に再雇用する旨就業規則に定めた場合であっても、その意思決定に制約を伴なうことはまたやむを得ない。特に会社に前記のような定年退職後は特段の欠格事由のない限り再雇用するとの労働慣行が確立している場合、それが労働慣行となる程の事例の集積により使用者が定年退職者を再雇用するとの同一の意思を表示したことは、その労働者に対してばかりでなく、将来定年に達する他の労働者に対しても、特段の欠格事由がないかぎり、再雇用する旨あらかじめ一般的に黙示の意思表示をしているものとみられ、それは単なる再雇用申込の誘引ではなく、再雇用の申込というべきものであるから、当該労働者が定年退職後に再雇用の意思表示をすることにより、使用者の再雇用の申込に対する承諾があったことになり、それによって直ちに当該労働者と使用者との間に再雇用契約が成立するものと解するのが相当である。本件において、原審における被控訴人Y1本人尋問の結果によると、被控訴人Y1が定年後にA会社に対し再雇用の意思表示をしたことが認められ、前記(一)(2)認定の事実によると、被控訴人Y2が黙示的にA会社に対し定年後に再雇用の意思表示したものとみられ、特段の欠格事由の存しないことは後記のとおりであるから、右説示の点から、同被控訴人らがそれぞれ55歳に達した日の翌日、すなわち、被控訴人Y1については昭和42年10月30日に、被控訴人Y2については昭和41年5月3日に、A会社との間に、再雇用契約が成立したものということができる。

 被控訴人らは、A会社が就業規則を従業員に対し周知徹底させていないから無効である旨抗争するが、労働基準法106条1項の就業規則の周知徹底義務を使用者が尽していないとしても、その成立および効力に直接の影響を及ぼすものではなく、その義務を尽していない場合そこに定めた内容を実現するためにあらためて使用者から従業員に意思表示をすることが必要となることがあるにすぎない。したがって、この点に関する被控訴人らの主張は失当である。

(関係法令)

 労働基準法2章,106条1項  民法623条

(判例集・解説)

 時報798号89頁  東高民時報26巻7号135頁

 

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