高野メリヤス事件 東京地裁判決(昭和51年10月29日)

(分類)

 退職

(概要)

 退職にさいして係長以上の役付者は6ケ月以前の退職願の届出、会社の許可を必要とする旨の就業規則を有する会社の企画係長が、退職願を提出してから約3ケ月勤務した後に退職し、退職金等を請求した事例。 (請求一部認容、一部棄却)

 民法第627条は、期間の定めのない雇用契約について、労働者が突然解雇されることによってその生活の安定が脅かされることを防止し、合わせて、使用者が労働者に突然辞職されることによってその業務に支障を来す結果が生じることを避ける趣旨の規定であるところ、労働基準法は、前者(解雇)については、予告期間を延長しているが(第20条)、後者(辞職)については何ら規定を設けていない。  また、同法は、契約期間について、民法第626条で定める期間を短縮し(第14条。但し、例外がある。)、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約を禁止し(第16条)、前借金等と賃金の相殺を禁止し(第17条)、使用者が強制的に貯蓄をさせ、又は貯蓄金を管理することを禁止し(第18条第1項)、また、労働者が自発的に貯蓄金の管理を使用者に委託する場合についても詳細な取締規定を設けており(同条第2項以下)、そして、右各条の違反に対しては罰則が設けられている(同法第120条第1号、第119条第1号。但し、昭和51年法律第34号による改正前のもの。)。右の労働基準法第14条は、端的に、長期の契約期間によって労働者の自由が不当に拘束を受けることを防止するものであり、同法第16条及び第17条は、労働者が違約金や賠償額又は前借金等の支払いのため、その意に反して労働の継続を強制されることを、また、同法第18条は、貯蓄の強制や貯蓄金の使用者管理が場合によっては労働者の足留めに利用され、結局、労働者の自由が不当に拘束されることをそれぞれ防止する趣旨を含むものと解される。  以上によれば、法は、労働者が労働契約から脱することを欲する場合にこれを制限する手段となりうるものを極力排斥して労働者の解約の自由を保障しようとしているものとみられ、このような観点からみるときは、民法第627条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である。  従って、変更された就業規則第30条の規定は、予告期間の点につき、民法第627条に抵触しない範囲でのみ(たとえば、前記の例の場合)有効だと解すべく、その限りでは、同条項は合理的なものとして、個々の労働者の同意の有無にかかわらず、適用を妨げられないというべきである。  

 同規定によれば、退職には会社の許可を得なければならないことになっているが(この点は旧規定でも同じ。)、このように解約申入れの効力発生を使用者の許可ないし承認にかからせることを許容すると、労働者は使用者の許可ないし承認がない限り退職できないことになり、労働者の解約の自由を制約する結果となること、前記の予告期間の延長の場合よりも顕著であるから、とくに法令上許容されているとみられる場合(たとえば、国家公務員法第61条、第77条、人事院規則8112・第73条参照)を除いては、かかる規定は効力を有しないものというべく、同規定も、退職に会社の許可を要するとする部分は効力を有しないと解すべきである。

(関係法令)

 民法627条  労働基準法14条,16条,17条

(判例集・解説)

 時報841号102頁

 

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