労災で障害になったとき
障害(補償)給付は、業務上の負傷又は疾病が治った後、身体に一定の障害が残った場合に支給されるものです。
この場合、傷病が治ったというのは必ずしも完全に元どおりの身体になったときという意味ではなく、症状が固まってそれ以上治療を続けてもその効果が期待できない状態になったことをいうものです。
障害の程度により「障害(補償)年金」と「障害(補償)一時金」の2種類があります。
(1) 障害(補償)年金
障害等級第1級~第7級の場合に、障害補償年金として等級に応じて定められた日数分に金給付基礎日額を乗じて得た額が支給されます。
障害補償給付が支給される場合には、障害補償給付のほかに障害の程度に応じて、障害特別支給金、および賞与を算定基礎とする障害特別年金(または障害特別一時金)が支給されます。
労災保険の障害等級は労働能力喪失率を基準としており、各障害等級の労働能力喪失率と支給額は以下の通りになっています。
障害等級 |
労働能力喪失率 |
障害補償年金 |
障害特別支給金 (1回支給) |
障害特別年金 |
第1級 |
100% |
給付基礎日額の313日分 |
342万円 |
算定基礎額の313日分 |
第2級 |
100% |
給付基礎日額の277日分 |
320万円 |
算定基礎額の277日分 |
第3級 |
100% |
給付基礎日額の245日分 |
300万円 |
算定基礎額の245日分 |
第4級 |
92%以上 |
給付基礎日額の213日分 |
264万円 |
算定基礎額の213日分 |
第5級 |
79%以上 |
給付基礎日額の184日分 |
225万円 |
算定基礎額の184日分 |
第6級 |
67%以上 |
給付基礎日額の156日分 |
192万円 |
算定基礎額の156日分 |
第7級 |
56%以上 |
給付基礎日額の131日分 |
159万円 |
算定基礎額の131日分 |
労災保険の「障害等級表」 は こちら
(2) 障害(補償)一時金
障害等級第8級~第14級の場合に、等級に応じて定められた日数分が一時金として支給されます。
障害等級 |
労働能力喪失率 |
障害補償一時金 |
障害特別支給金(1回支給) |
障害特別一時金 |
第8級 |
45%以上 |
給付基礎日額の503日分 |
65万円 |
給付基礎額の503日分 |
第9級 |
35%以上 |
給付基礎日額の391日分 |
50万円 |
給付基礎額の391日分 |
第10級 |
27%以上 |
給付基礎日額の302日分 |
39万円 |
給付基礎額の302日分 |
第11級 |
20%以上 |
給付基礎日額の223日分 |
29万円 |
給付基礎日額の223日分 |
第12級 |
14%以上 |
給付基礎日額の156日分 |
20万円 |
給付基礎額の156日分 |
第13級 |
9%以上 |
給付基礎日額の101日分 |
14万円 |
給付基礎額の101日分 |
第14級 |
5%以上 |
給付基礎日額の56日分 |
8万円 |
給付基礎額の56日分 |
労災保険の「障害等級表」 は こちら
一時金の等級に該当する障害については、支給後に障害の程度が重くなっても障害等級の変更は行われません。したがって差額の支給等は行われません。
傷病が再発して再び治ったときに以前より重い障害が残った場合は、その障害等級の一時金と再発前の障害等級の一時金との差額が支給されることになります。
障害等級が第8級から第14級に該当する人に障害が加わり、前以上の一時金の障害等級に該当した場合には、現在の障害等級に応ずる一時金の額から、既にあった障害等級に応ずる一時金の額を差し引いた額が支給されることになります。
障害(補償)年金の請求
業務災害の場合は、「障害補償給付支給請求書」(様式10号)、通勤災害の場合は、「障害給付支給請求書」(様式16号の7)に所定事項を記入の上事業主の証明を受け、所轄労働基準監督署に提出します。
請求を受けた場合、労働基準監督署長は、障害等級に該当するかしないかを判断し、第1級から第7級に該当する人には、「支給決定通知書および年金証書」を、第8級から第14級に該当する人には「支給決定・支払通知書」が送付されます。該当しない人に対しては「不支給決定通知書」が送付されます。
障害(補償)年金の支払
障害補償年金は、傷病が治った日の属する月の翌月から始まり、その事由がなくなった日の属する月まで支給されます。
障害補償年金の支払は、毎年偶数月(2月、4月、6月、8月、10月、12月)の6回に分割してそれぞれ前2ヵ月分が支払われます。
障害等級7級以上に該当して年金給付を受給する者は、その受給者の生年月日に応じて毎年「定期報告書」を提出することになっており、その「定期報告書」に添付された医師の診断書に基づき、障害の程度が増悪又は軽快したと認められる場合は、該当する障害等級が変更されます。
労災で後遺障害が残った場合
後遺障害とは、治療を受けても症状について改善の見込みがなく、固定された状態(一定の後遺症が残っており、それ以上の回復は期待できない状態)のことを指します。
労災で後遺障害が残ってしまった場合、障害(補償)給付申請(労災の申請)をすることで、補償として労災保険から給付金を受けることが可能です。
労災からの障害(補償)給付を受ける前提として、労働基準監督署長による後遺障害の障害等級認定が必要になります。たとえ症状があったとしても、障害等級認定を受けられなければ、労災からの給付を受けることは出来ません。
障害等級の認定を受けるためには、傷病が「なおった」後に、
・業務災害の場合は、「障害補償給付支給請求書(兼、障害特別支給金・障害特別年金・障害特別一時金支給申請書)(様式第10号)、
・通勤災害の場合は、「障害給付支給請求書(兼、障害特別支給金・障害特別年金・障害特別一時金支給申請書)(様式第16号の7)
に、医師の診断書等を添えて、療養給付等を受けていたのと同一の労働基準監督署長に提出します。
後遺障害認定の流れ
症状固定の診断
医師によって症状固定の診断を受けてから、障害(補償)給付などの後遺障害に関する申請を行います。
症状固定の状態とは、治療を続けてもこれ以上の大幅な症状の改善を認められなくなった状態のことをいいます。
障害(補償)給付は後遺障害が残った場合の給付になるので、給付のためには、症状固定の状態になることが前提となります。主治医に症状固定の診断を受けて、後遺障害診断書を作成いただきます(診断書の様式が決められています)。
後遺障害診断書の発行は労災保険の適用になります。労働者に診断書発行料、または文書料の負担はありません。診断書料は4,000円ですが、一度費用を立て替えて支払う必要があるため、後日費用を請求することになります。費用の請求は、業務災害の場合には様式第7号(療養補償の費用請求書)に病院から出された領収書を添付し、労働基準監督署に提出することになります。医療機関によっては消費税分を請求されることや、4,000円を超えた金額を請求されることもあります。なお、労災保険で給付される診断書料は4,000円と定められているため、4000円を超えた分は自己負担となります。
受診した医療機関が労災指定病院ではなかった場合などには、本人が立て替えなければならないケースもありますが、後日、診断書料を請求することで返金されるようです。
労働基準監督署による審査
医師による症状固定の診断の後に、レントゲン写真や医師による診断書などの資料と作成した請求書を労働基準監督署に提出します。
労働基準監督署において、障害の程度を知るための面接や計測などが行われます。負った障害によって、重要視される検査所見は異なります。
事前認定や被害者請求といわれる一般的な後遺障害等級認定の場合には、審査の際に面談を行いません。しかし、労災の後遺障害認定の場合には、提出した診断書などの資料に基づき面談を行います。申請をしてからおおよそ1ヵ月ほどで医師との面談があります。面談では、診断書だけでは把握できない部分の状態などを伝えることになります。そのため、面談には入念な準備をして挑むことが重要になります。
医師との面談を経て、後遺障害診断が確定され、後遺症の残存が認められた場合には障害補償がなされることになります。
仕事中・通勤中に交通事故に遭い、そのケガが完治せずに後遺障害が残ってしまった場合には、労災保険と自賠責の両方に後遺障害認定申請を行うべきです。
ケガがかなりの重傷で高次等級の認定が予想される場合は、必ず労災保険への申請を行いましょう。自賠責からの一時金は貰ってしまえば終わりですが、労災保険からの年金は受給権者が生きている限り支給されます。労災保険からの年金を受け取ることで、充実した生活の保障を受けることができます。
労災保険における障害(補償)給付にも特別支給金がありまして、1回支給されます。障害特別支給金は、加害者側から支払われる損害賠償金と相殺されないというメリットがあります。
障害補償年金と社会保険との調整
障害厚生年金(障害基礎年金)と労災の保険給付が併給できる場合、労災給付は減額して支給されます。
障害厚生年金・障害基礎年金の支給事由になった傷病が業務災害又は通勤災害によるもので、その傷病に対して、労災保険から休業(補償)給付、傷病(補償)年金、障害(補償)年金のいずれかが受給出来る場合、障害年金は全額支給し、労災保険給付の方が減額調整して支給されます。
具体的には、労災の減額前の年金額に、支給される労災保険給付種類と受給する障害厚生年金・障害基礎年金の支給パターンに応じて下表の調整率を乗じて得た額が支給されます。
別表1(調整率)
併給される厚生年金等 |
労災給付 |
|||
障害(補償)年金 |
遺族(補償)年金 |
傷病(補償)年金 |
||
厚生年金保険法及び国民年金法 |
障害厚生年金及び障害基礎年金 |
0.73 |
― |
0.73 |
遺族厚生年金及び遺族基礎年金又は寡婦年金 |
― |
0.80 |
― |
|
厚生年金保険法 |
障害厚生年金 |
0.83 |
― |
0.86 |
遺族厚生年金 |
― |
0.84 |
― |
|
国民年金 |
障害基礎年金 |
0.88 |
― |
0.88 |
遺族基礎年金又は寡婦年金 |
― |
0.88 |
― |
「20歳前障害の障害基礎年金」は、労災の保険給付を受給する期間は支給停止されます。
労災の保険給付に付随して支給される特別支給金は減額されずに支給されます。特別支給金は労災保険からの給付ではなく、労働福祉事業としての給付だからです。
障害厚生年金・障害基礎年金の支給事由になっている傷病と労災の保険給付の支給事由になっている傷病が別傷病の場合は、併給調整の対象外であるため労災保険給付は減額されずに全額が支給されます。
この場合でも、「20歳前障害による障害年金」は、労災給付を受ける間は支給停止になります。
障害年金の受給権者が老齢年金や遺族年金の受給権も持っている場合、老齢年金や遺族年金を選択受給すれば、労災保険給付は減額されず、全額支給されます。
障害手当金は、労災保険給付の受給権を持っている場合は支給されません。
他の社会保険から年金を受けるようになったときは、「労働者災害補償保険 厚生年金保険等の受給関係変更届」を所轄労働基準監督署届け出なければなりません。
社会保険の障害年金と重複給付期間がある場合には、受け過ぎた労災保険の差額分を返還しなければなりません。
労災保険給付が減額支給される場合であっても、その労災保険給付に付随して支給される特別支給金は減額されず満額支給されます。特別支給金は労災保険給付ではなく、労働福祉事業として支給されるものだからです。
労災保険の障害等級8~14級に該当する場合に支給される障害(補償)一時金は、障害厚生年金・障害基礎年金との併給調整の対象にはなりません。
労災保険給付と同一の支給事由(傷病)による障害厚生年金・障害基礎年金の受給者が、老齢年金や遺族年金の受給権も併せて持っている場合でも、労災保険給付は減額されずに満額支給されます。
障害手当金は、その傷病の治癒日に、同一の支給事由(傷病)による労災保険給付の受給権を持っている場合は、たとえ その労災保険給付を実際に受給していない場合であっても、支給されません。
労働基準法上の災害補償との併給調整
国民年金法と厚生年金保険法では、事業主から労働基準法に基づく障害補償が支払われた場合は、障害厚生年金・障害基礎年金が6年間支給停止されることになります。
このケースになるパターンとしては、労災保険未加入の会社で業務災害が発生した場合等が該当します。この労災保険未加入会社の業務災害については、業務災害発生後でも労災保険に加入して被災した労働者の方が労災保険給付を受けることも可能です。(この場合は労災保険との調整に該当します。) 会社に対しては、大きなペナルティがかかります。
障害等級の変更
障害補償年金の受給している間に障害の程度が変わることがありますが、障害の程度が変わったときは、新たな障害等級に応じて障害補償給付が行われることになります。
新たな障害等級が第8級から第14級までの場合には、その等級に応じて一時金が支給され、その後の年金は打ち切られることになります。
併合と併合繰上げ 同一の労災事故により2つ以上の障害を有した場合は、以下の取扱いとなります。
(1) 併合
障害の1つが障害等級14級に該当する場合は、重い方の障害等級がそのまま適用されます。
(2) 併合繰上げ
13級以上の障害を2つ以上有する場合は、その最も重い障害等級が1~3級繰上げされます。具体的には、8級以上の障害が2つ以上有れば2級繰上げ、5級以上の障害が2つ以上有れば3級繰上げ、それ以外の場合が1級繰上げとなります。
加重 (新たな災害により同一部位に障害の程度を加重した場合)
労災事故により、既存障害(先天性の障害も含む)の同一部位に対して更に障害の程度を悪化させた場合は、障害等級は労災事故後の障害等級が適用されますが、その支給額は、原則として「既存障害の障害等級に基づく障害給付相当額を控除した額」が支給されます。
(1) 障害等級が第1級から第7級に該当する人の加重障害の場合
現在の年金額から既存障害の年金額を差引いた額が年金として支給されます。
(2) 障害等級が第8級から第14級に該当する人が、第1級から第7級に該当した場合
該当する障害等級に応じて定められている年金額から前の障害等級に該当する一時金の25分の1の額を差引いた額が年金として支給されます。
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