昇給・降給となったときの随時改定

 給与の昇給や降給があったときは、社会保険料の変更(随時改定)が必要になる場合があります。被保険者の標準報酬月額は、原則として次の定時決定(9月)が行われるまでは変更しませんが、報酬の額が著しく変動すると、被保険者が実際に受け取る報酬の額と標準報酬月額がかけ離れた額になることがあります。このため、被保険者が実際に受けている報酬の額に著しい変動が生じ保険者が必要と認めた場合には、標準報酬月額の改定を行うことができるようになっています。これを「随時改定」といいます。

 随時改定は、次の3つの全てにあてはまる場合に、固定的賃金の変動があった月から4ヵ月目に改定が行われます。

(1) 昇給・降給・手当の変更、または賃金体系に変更によって、固定給に変動があったとき
 固定的賃金の変動には、固定的賃金が上がったときだけでなく、下がったときも該当します。
 給与体系の変更  時給から日給 日給から月給 など
 基礎単価の変更  時給や日給 など

(2) 固定的賃金の変動月以後継続した3ヵ月の間に支払われた報酬の平均月額を標準報酬月額等級区分にあてはめ、現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じたとき

(3) (2)でいう3ヵ月間の給料の支払いの基礎となる日数(支払基礎日数)が、17日以上あったとき
 月給の方は、その月の暦の日数が支払基礎日数となり、日給や時給の方は、出勤日数が支払基礎日数となります。

 保険料の改定は、例えば、1月に給料の変動があった場合、1・2・3月の平均をとって、4月から改定になります。

固定的賃金

非固定的賃金

支払基礎日数

17日

以上

17日

以上

17日

以上

17日

以上

17日

以上

17日

以上

2等級差以上

月額変更 該当

×

×

 固定的賃金、2等級差以上における矢印の方向が同じときに限り、月額変更に該当します。

 随時改定は、固定的賃金が上がった結果、標準報酬が2等級以上上がった場合や、固定的賃金が下がった結果、標準報酬が2等級以上下がった場合に該当します。

 固定的賃金がわずかに昇給したが、残業手当などの非固定的賃金の大幅な変動により、従前の等級と比べて2等級以上上がった場合はは、随時改定に該当します。

 固定的賃金が上がったのに標準報酬が下がった場合や、固定的賃金が下がったのに標準報酬が上がった場合は、随時改定に該当しません。

 昇給などで固定的賃金が増えたが、残業手当などの非固定的賃金が減ったために、従前の等級と比べて2等級以上下がった場合は、随時改定に該当しません。

 昇給したが等級が下がっており、届出の必要はありません。

例) 基本給194,000円だったのが、4月から210,000円になった場合
 従前 190,000円(健保16級、厚年12級)
 4・5・6月 210,000円 → 改定 220,000円(健保18級、厚年14級)
 月変と算定の月が同じこととなりますが、この場合は月変が優先し、7月月額変更となります。

 標準報酬月額の220,000円に対する保険料控除は8月31日支払分からとなり、翌年の8月もしくは再度月変が行われるまで標準報酬月額は変わりません。

 降給などで固定的賃金が減ったが、非固定的賃金が増えたため、2等級以上報酬月額が上がった場合は、随時改定に該当しません。

 固定的賃金に変動はなかったが、残業手当などの非固定的賃金の変動により、従前の等級と比べて2等級以上の差が生じた場合

 固定的賃金の変動がない限り、随時改定には該当しません。

 病気欠勤、長期欠勤、休職などで固定的賃金が減少し、2等級以上下がった場合
 一時的な状態で固定的賃金が減少した場合には、月額変更は行われません。

固定的賃金とは    
 基本給・家族手当・役付手当・通勤手当・住宅手当など稼働や能率の実績に関係なく、月単位などで一定額が継続して支給される報酬をいいます。

非固定的賃金の例 (支給額や支給率がきまっていないもの)
  残業手当、能率手当、日宿直手当、皆勤手当、精勤手当など
  (関係条文 健康保険法第43条、厚生年金保険法第23条)

 

6月に昇給があった場合  

 定時決定では、4・5・6月の報酬の平均から報酬月額を求めて、算定基礎届にて提出します。その結果、9月分の標準報酬月額から改定されます。保険料は翌月給与から控除できることになっていますので、10月の給与計算から控除することになります。

 6月に昇給があった場合、6・7・8月の報酬の平均から報酬月額を求めて随時改定の届出をします。その結果、9月分の標準報酬月額から改定されます。保険料は翌月給与から控除できることになっていますので、10月の給与計算から控除することになります。この場合、標準報酬月額と保険料の改定時期が重なりますが、この場合は随時改定の方が優先されます。
 より直近の給与額の変動が反映されるということになります

なお、「算定基礎届」にも記入して提出しておいた方が無難です。

 

給与計算期間の途中で昇給した場合  

例 当月末締め翌月末払いの給与で、当月15日以降の給与単価が上がった場合
 昇給・降給した給与が実績として1ヵ月分確保された月を固定的賃金が報酬に反映された月として扱い、それ以後3ヵ月間に受けた報酬を計算の基礎として随時改定の判断を行います。
 例示の場合であれば、給与単価が上がった翌月支払いの給与は単価が上がった実績を1ヵ月分確保できていないため、翌々月を3ヵ月の起算点として随時改定の可否を判断します。

 

固定的賃金の変動の翌月に給与支払い締め日変更があった場合  
例 9月支給分の給与から固定的賃金変動が反映されたが、10月支給の給与から、「月末締め翌月15日払い」→「15日締め翌月15日払い」に変更  
 9月15日支給の給与 (8/1~8/31分)
 10月15日支給の給与 (9/1~9/15分)
 11月15日支給の給与 (9/16~10/15分)

 固定的賃金に変動が発生した後の3ヵ月以内に、給与締め日の変更によって例のように支払基礎日数が17日を下回る月がある場合には、随時改定の対象にはなりません。なお例示の場合、9月支給分から固定的賃金変動が報酬に反映(1ヵ月分確保)されているため、11月を起算月として随時改定を行うこともできません。

 

月額変更届の作成

 「被保険者報酬月額変更届」を年金事務センターへ提出します。

 

役員について報酬額の変更

 株主総会の議事録を添付します。

 

 月額変更届をもとに、新しい標準報酬月額が決められると、その月額を記載した『標準報酬月額改定通知書』が送られてきます。そのときは、該当する被保険者に新しい標準報酬月額を通知します。

 改定された標準報酬月額は、再び改定されることがない限り、改定が6月以前に行われた場合はその年の8月まで、7月以降に行われた場合は翌年の8月まで使用されます。(次の定時決定までの標準報酬月額となります。)

 

標準報酬を大幅に引き下げる場合 (5等級以上)

  「被保険者報酬月額変更届」

添付書類

役員
 (いずれか一つ)
 「株主総会又は取締役会の議事録(写)」
 「代表取締役等による報酬決定通知書(写)」
 「役員間の報酬協議書(写)」
 「債権放棄を証する書類(写)」
 事実発生年月の確認できるもの
 及び
 「賃金台帳(写)」または「所得税源泉徴収簿(写)」  固定的賃金の変動のあった月の前月分以降

役員以外
 「賃金台帳(写)」及び「出勤簿(写)」  固定的賃金の変動のあった月の前月分以降

 

改定予定日の初日(1日)が受付年月日より60日以上遡る場合

 「被保険者報酬月額変更届」

添付書類 

役員
 (いずれか一つ)
 「株主総会又は取締役会の議事録(写)」
 「代表取締役等による報酬決定通知書(写)」
 「役員間の報酬協議書(写)」
 「債権放棄を証する書類(写)」
 事実発生年月の確認できるもの
 及び
 「賃金台帳(写)」または「所得税源泉徴収簿(写)」 固定的賃金の変動のあった月の前月分以降

役員以外
 「賃金台帳(写)」及び「出勤簿(写)」 固定的賃金の変動のあった月の前月分以降

 

保険者算定

 一般的な算定方法によって報酬月額が算定できない場合や算定結果が著しく不当になる特別な場合には、その被保険者が9月以降に受けると予想される報酬(修正平均したもの)の額を算定して、保険者が標準報酬月額を決定することとしています。この方法を「保険者算定」といいます。

 以下のような定時決定または資格取得時の決定の規定では標準報酬の算定が困難なときや算定した額が著しく不当になるときは、保険者において標準報酬を決定します。
 ・4月・5月・6月すべての月の支払基礎日数が17日未満であるとき
 ・4月・5月・6月に病気欠勤等や育児休業等で報酬を受けていないとき
 ・4月・5月・6月のいずれかの月にさかのぼり昇給の差額を受けたとき  
 ・4月・5月・6月のいずれかの月に3月分以前の給料遅配を受けたとき  
 ・4月・5月・6月のいずれかの月または全部に定額の休職給を受けたとき   など

 

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