標準報酬月額の定時決定

 被保険者が事業所から受ける報酬は、昇給などで変動します。社会保険(健康保険・厚生年金保健)では、被保険者の賃金(報酬)をいくつかの等級に区分した報酬にあてはめ、これを基に保険料や保険給付の計算を行ないます。

 変動後の報酬に対応した標準報酬月額とするため、毎年7月1日現在で標準報酬月額の見直しをすることとしております。これを「定時決定」といいます。

 保険料は最初の資格取得の際に決定されますが、標準報酬月額が実際の給料とかけ離れないように、毎年1回、定時決定により標準報酬月額の見直しをしています。

 そこで、この際に「被保険者標準報酬月額算定基礎届」を7月10日までに、所轄年金事務所の適用調査課の窓口へ提出して行なうことになっています。

 

定時決定の対象者

  7月1日の時点での健康保険・厚生年金の被保険者

 次のいずれかに該当する人は、定時決定は行われません。

(1) 6月1日から7月1日までの間に被保険者となった人
 会社に入社した時などの「被保険者資格取得届」で資格取得時決定が行われます。その効力が翌年の8月まで生きてくるため、その年の算定基礎届は提出不要です。

(2) 7月から9月までのいずれかの月に随時改定、または、育児休業等終了時改定が予定されている人(4月から6月の間に給与等の大幅な変動があった場合)
 7月に随時改定を行うものは、定時決定を行わず、「月額変更届」を提出します。
 この場合の随時改定等も、同様に効力が翌年8月まで生きてきます。
 ただし、8月または9月に月額変更届、育児休業等終了時月額変更届が不該当と判明した際には、算定基礎届(電子媒体による届出を含む。)を速やかに提出していただく必要があります。 

(3) 4月・5月・6月すべて休業(けが・病気等)している人
 3月以前の標準報酬月額で判断されます。

(4) 6月30日までにパート等になって労働日数・労働時間が減少したために、被保険者資格を喪失した人

(5) 7月・8月に退職予定の人(被保険者)

 

報酬となるもの

・基本給、役職手当、通勤手当、家族手当、残業手当、住宅手当、私傷病手当など「○○手当と名のつくもの」
・年4回以上支給される賞与
・現物支給による以下のもの
  通勤定期券  食事  住宅  自社製品

報酬に含まれないもの
・3ヵ月を超える期間ごとに支給されるもの
・年3回以下の賞与 「賞与支払届」を提出します。
・恩恵的に支給するもの
  病気見舞金  結婚祝い金  退職手当  災害見舞金
・労働の対象とならないもの
・健康保険の傷病手当金  労災保険の休業補償給付
・会社役員が会社に対して貸金がある場合の、その役員に対しての返済額

 

標準報酬月額の適用   

 4月、5月、6月の3ヵ月間に支払った給料等の平均額を算出し、「標準報酬月額等級区分」にあてはめ、その年の9月から翌年8月までの「標準報酬月間」を決定します。

 定時決定で決められた標準報酬月額は、通常1年間変わりませんが、給与水準に大幅な変動があったときは、「随時改定」という方法で変更されることがあります。

 

年間平均による保険者算定

 「当年の4、5、6月の3ヵ月にうけた報酬の月平均額から算出した標準報酬月額」と「前年の7月から当年6月までの間に受けた報酬の月平均額から算出した標準報酬月額」の間に2等級以上の差を生じた場合、変換平均で算出した標準報酬月額により定時決定を行うことができます。(いずれも、支払い基礎日数が17日未満の月を除く。)

 保険者算定の対象になるかどうかは、報酬変動が起こる部署を単位として対象とします。適用事業所全体について報酬変動が起こる場合は、適用事業所に勤務する従業員全体が判断対象となりますが、従業員全体というわけではなく、繁忙期に当たる部署のみを判断対象とします。

4月~6月が繁忙期になる業種とは
・4月~6月の時期に収穫期を迎える農産物の加工の業種
・夏に売り上げが上昇する商品の製造を4月~6月に増加する業種  
・取り扱う魚種の漁期により加工が4月~6月に上昇する水産加工業等の業種
・ビルメンテナンス等が年度末(3月~5月)に集中する清掃・設備点検の業種
・田植え時期の準備等で4月~6月残業が増加する農業関係の業種(農業法人等)  
・4月の転勤、入社、入学に合わせて業務が増加する引越し、不動産、学生服販売等の業種

4月~6月が繁忙期になる部署とは 
 
業種を問わず、人事異動や決算のため4月時期が繁忙期になり残業代が増加する総務、会計等の部署

4月~6月の報酬平均が年間の報酬平均よりも低くなる業種とは  
 ・冬季に限定される杜氏、寒天製作業、測量関係等の業種 は  
 ・夏・冬季に繁忙期を迎えるホテル等の業種

育児休業等に入った場合  

 育児休業等に入った場合でも、産休中に給与が支払われるなどの理由によって、4月~6月の支払基礎日数が17日以上あり、通常の算定方法に該当する場合は、通常どおりに算定します。育児休業中で報酬が支払われていない場合は、従前の標準報酬月額で決定されます。

70歳以上の被用者(※1)の場合  

 70歳以上の被用者の算定基礎届は別紙の専用用紙で提出となります。 
 70歳以上の被用者の標準報酬月額相当額は、4月・5月・6月に実際に受けた報酬の平均額に基づいて、毎年改定されます。  

 この標準報酬月額相当額をもとに、在職老齢年金の支給調整が行われます。

※1 70歳以上の被用者とは、下記のすべてに該当する人のことです。 
ⅰ)昭和12年4月2日以降に生まれた人で70歳以上75歳未満の人
ⅱ)厚生年金保険の適用事業所に勤めていて、勤務時間・勤務日数とも一般社員のおおむね4分の3以上の人
ⅲ)過去に厚生年金保険の被保険者期間がある人  

 ⅰ~ⅲの全てに該当した場合は、通常の「算定基礎届」の届出とは別に「70歳以上の被用者の算定基礎届」の届出が必要になってきます。

 

手続きの流れ

届出書類の受領

 6月に入ると年金事務所から「報酬月額算定基礎届」「算定基礎届総括(調査)表」が送付されてきます。記載内容に誤りがないか確認します。

 

支払給与額などの確認

 4月・5月・6月に支払われた報酬額と支払基礎日数などを賃金台帳や出勤簿などをもとに確認します。

 4月に昇給があった場合は、現在の標準報酬額と4~6月に支払われた報酬を確認して「随時改定」が必要かどうかの確認をします。

 報酬額は通貨支給と現物支給のそれぞれの額を確認します。

 支払基礎日数は給与体系によって異なります。月給制の場合は休日や有給休暇の日数も含まれます。

 

「健康保険・厚生年金保険被保険者月額算定基礎届」の作成

 支払った給与をもとに新しい標準報酬月額を決定するために作成します。

 各個人別に、4月・5月・6月に支払われた報酬額と支払基礎日数などを記載します。

 その時の給料の額は、諸手当を含んだ総額になります。(「通勤手当」も含まれる。)

 標準報酬月額の総額と平均額を計算します。

4月、5月、6月の支払賃金額(現物を含む)をそれぞれ記入し、その合計を出し、それを3で割った1ヵ月当りの平均報酬額を出す。

報酬の支払基礎日数が17日以上の月で計算されます。 4月・5月・6月の3ヵ月間のうちに、報酬の支払基礎日数に17日未満の月があるときや中途採用で給与を日割計算で支払ったときは、備考欄にその旨を注記し、その月は除いて合計し、1ヵ月当りの平均額を求める。

*平成18年の定時決定より、支払基礎日数20日未満から17日未満となった。支払基礎日数が17未満の月がある場合はこの月の分は除いて計算します。

以上によって求めた平均報酬額を、標準報酬月額表に照らし、月額を決定する。

 決定後の標準報酬月額を月額表にあてはめて記載します。

 

「算定基礎届」+7月に「報酬月額変更届」+賞与年4回以上 のケース

昨年7月1日~本年6月30日までの1年間に、賞与が年4回以上支払われ、かつ、4月・5月・6月と固定給の変動があり、報酬月額変更届に該当した場合

 算定基礎届には、以下のAとBの合算額となります。
 A 4月・5月・6月に支給された給与・報酬
 B 昨年7月1日~本年6月30日までの間に支給された賞与の額÷12

 「報酬月額変更届」にも、上記と同じ内容の数字を記入します。算定基礎届と報酬月額変更届の内容は同じということになります。

報酬月額変更届と算定基礎届では、報酬月額変更届の方が優先しますが、算定基礎届にも記入して提出しておいた方が無難です。

 

現物支給があったとき

 現物支給があったときは、その時価を記入します。食事・住宅は標準価額によって金銭に換算して、「現物によるものの額」欄に記入し、「備考」欄にその内訳を書きます。

 

年間平均による保険者算定方式に該当する場合

 「算定基礎届」の備考欄『年間平均』と記載します。

この場合は、さらに、以下の添付書類が必要となります。

・業務の性質上、例年見込まれるものである理由を記載した申立書

「年間報酬の平均で算定することの申立書」(様式1) ・被保険者の同意書

「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等」(様式2)

・当年の4、5、6月の報酬額等と前年7月から当年6月の報酬額等を比較した書類

※必要に応じて、賃金台帳等の資料の提出を求められることがあります。

 

算定基礎届総括表の作成

 添付書類として、「算定基礎届総括書」を付けて提出することとなっています。

 事業所や給与支払の情報を該当する欄に記載します。

 賃金台帳、出勤簿などの4月、5月、6月の3ヵ月分を一応用意したほうがよい。

 

届出書の提出

 郵送・持参など指定された方法で届出書を提出します。

 前回の算定基礎届提出以後の被保険者の異動について、届出に漏れがないかを確かめることも兼ねているので、提出するときに出勤簿や賃金台帳の提示を求められることがある。

 7月・8月・9月に随時改定の予定がある被保険者は、随時改定が優先されますが、算定基礎届も提出します。(算定基礎届+報酬月額変更届)

 

「算定基礎届」提出の時期

 毎年7月1日から10日まで

届出場所

 管轄の年金事務所

届出方法

 原則は郵送となります。ただし、算定基礎提出時の調査対象の事業者は直接持参する場合もあります。

 

標準報酬月額の決定

 算定基礎届の様式は、正副2枚複写になっています。届出に基づいて、年金事務所で認定および標準報酬月額の決定、9月からの保険料の計算がされます。その後、「標準報酬月額決定通知書」(副)が年金事務所より送付されてきます。決定した標準報酬月額は、の決定通知書の返送によって事業主へ通知されます。

 これにより決定した新しい標準報酬月額は、その年の9月1日から翌年8月30日までの1年間、原則として変わらない。10月の給与から徴収する9月分の保険料からは、この通知による新しい保険料になります。

 

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