宇田工業事件 大阪地裁判決(昭和60年12月23日)

(分類)

 退職金  解雇

(概要)

 和議申請を理由に解雇された原告が退職金、解雇予告手当、附加金の支払を求めた事例  (一部認容)

 前掲甲1号証の2によれば、本件規定に基づく退職金については支払時期が定められていないことが認められるから、本件規定に基づく退職金支払債務はいわゆる期限の定めのない債務に当たるというべきである。そうすると、退職金については、これを使用者が就業規則等に規定を設け、予めその支給条件を明確にし、その支払を使用者の義務としている場合には、労基法所定の賃金に該当すると解するのが相当であるところ、(証拠略)により認められる本件規定の内容からすると、本件規定に基づく退職金も労基法所定の賃金に該当すると解されるから、その支払については、同法23条にもとづき退職した従業員の請求のあった日から7日以内にこれを支払うべきであり、その期間経過後は遅滞の責任を負うものと解するのが相当である。しかして、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告会社に対し、本件即時解雇の翌月である昭和57年10月5日から本訴請求に至るまで度々本件規定に基づく退職金の支払を請求したことが認められる。
 労基法20条(解雇予告制度)は、専ら労働者保護のために、解雇について、使用者に対し、労働者に次の就業の機会をみいだすための準備期間を与える趣旨で、解雇の効力発生までの間に少なくとも30日以上の期間を有する予告を予めなすか(1項1文)、若しくは、爾後の就業準備期間中の生活補償の趣旨で、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を解雇の意思表示と共に現実に支払うべき(同項2文)、各義務を罰則付きで定め民法627条1項を修正し、他方、労基法114条は、裁判所が使用者に対し、解雇予告手当についても、その未払の際に、未払金と共に附加金支払を命じうる旨定め、解雇の意思表示の後に使用者に解雇予告手当支払義務(債務)が残存することがあることを前提としているものである。右労基法20条の目的、趣旨と、同条、同一14条の相関関係に照らせば、使用者が労基法20条1項2文に違反して、労働者に対し、解雇予告手当の現実の支払をなすことなく即時解雇の意思表示をなしたときは、労働者においてその無効を主張することもできるが(なお、この際には、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、30日経過後解雇は有効となる(最判昭和35年3月11日判決民集14巻3号403頁参照))、他方、労働者において、右即時解雇の意思表示の瑕疵(効力)を争わず、その有効を前堤として解雇予告手当の請求を選択することも許されるものと解するのが、労働者の保護に欠けるところがなく相当である。そして、この場合、労働者の右請求により、使用者は、労基法20条に基づき即時解雇の時点において法律上発生した期限の定めのない債務たる性質を有する解雇予告手当支払債務を負担するものと解するのが相当である。

 そこで、これを本件についてみるに、原告が本件即時解雇の意思表示の有効を前堤として、解雇予告手当を請求していることは明らかであり、請求原因4のうち、原告の平均日額賃金が金8,315円であることは、被告会社において明らかに争わないから自白したものとみなすことができるので、これに30日を乗じた金249,450円の解雇予告手当請求権を認めることができる。また、請求原因5のうち、原告が、被告会社に対し、昭和58年4月5日到達の内容証明郵便をもって右解雇予告手当を請求したことを認めるに足りる証拠はない(成立に争いのない〈証拠略〉によれば、同日到達の内容証明郵便で催告したのは、退職金及び当時の未払給料のみであったと認めるのが相当である。)ものの、本件訴状をもって右解雇予告手当の支払を催告していることは、当裁判所に顕著であるから、被告会社は右解雇予告手当請求権につき、本件訴状送達の翌日である同月26日から遅滞に陥っているものと解される。
 以上の認定事実によれば、甲1号証の1、及び2の成立の真正を認めるに十分であって、結局本件規定は、被告会社の代表者であるA社長の了解にもとづいて作成されたうえ、従業員に周知徹底されたものと認められる。したがって、本件規定の効力発生は、これを肯認しなければならない。  (中略)
 以上によれば、原告は、被告会社に対し、本件規定にもとづく退職金請求権を有するといわなければならない。

(関係法令)

 労働基準法11条 20条

(判例集・解説)

 労働判例467号74頁  労経速報1264号21頁

 

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