呼吸器

呼吸器系の器官

 

呼吸器系の器官は、鼻と口から始まり、気道から肺へと続きます。空気は鼻と口から呼吸器系へと入り、のど(咽頭)を下って、声帯がある喉頭を通過します。喉頭の入り口は小さなふたの組織(喉頭蓋[こうとうがい])で覆われており、ものを飲みこむときには自動的に閉じて、食べものや飲みものが気道に入るのを防ぎます。

 

一番太い気道が気管で、それより細い2つの気道に枝分かれして左右の気管支となり、それぞれが左右の肺につながっています。左右の肺はそれぞれ葉と呼ばれる部分に分かれており、右肺は3つの葉、左肺は2つの葉から成り立っています。左胸部のスペースは心臓と共有しているため、左の肺は右の肺より少し小さくなっています。

 

肺と気道の内部

 

 

左右の気管支は、より細い気道へと、次々と枝分かれして、最終的には細気管支という最も細い気道になり、細気管支の直径は0.5ミリメートルほどしかありません。気道全体をみると、木を逆さまにした形に似ているため、呼吸器系のこの気道部分は、「気管支樹」とよく呼ばれます。太い気道は、ある程度の柔軟性をもった軟骨と呼ばれる線維性の結合組織によって保たれています。細い気道は、周りの密着した肺組織に支えられています。気道を取り巻く平滑筋は、拡張したり収縮したりできるため、気道のサイズが変えられます。

細気管支の先端には、数千もの小さな空気の袋(肺胞)があります。肺にある何百万もの肺胞を合わせると、100平方メートルを超える面積になります。肺胞の壁の内部は、細い血管(毛細血管)が密集した網状の組織になっています。空気と毛細血管の間の壁はきわめて薄いため、酸素は肺胞内から血液中へ移動でき、さらに二酸化炭素は血液中から肺胞内の空気へと移動できるのです。

 

 

胸膜はすべすべした膜で、胸壁の内側と肺の外側を覆っています。この胸膜があるため、私たちが呼吸しながら動き回っても、肺はなめらかに動きます。通常、2層になっている胸膜の間には、わずかな量ですが、潤滑液があります。そのため、肺が形や大きさを変えても、2層の膜はそれぞれがなめらかに動くことができます。

 

 

 

 

呼吸器系の基本的な機能

 

呼吸器系の最も基本的な機能は、酸素と二酸化炭素を交換することです。吸いこまれた酸素は肺へ入っていき、肺胞に達します。肺胞の内面を覆っている細胞の層と肺胞を取り巻く毛細血管は、それぞれ細胞1個分の厚みしかなく、互いに密接しています。空気と血液の間の距離は平均すると約1マイクロメートル(1センチメートルの/10,000)の厚さしかありません。そのため、酸素はこの空気-血液障壁をすぐに通り抜け、毛細血管の血液の中へ入ります。同様に、血液中の二酸化炭素は肺胞へ入った後、体外へ吐き出されます。

酸素を含んだ血液は肺から肺静脈を通って心臓の左側へ送られ、全身へと送り出されます。酸素を失い、二酸化炭素を多く含んだ血液は、上大静脈と下大静脈という2本の大静脈を通って右側へ戻ります。その後、この血液は肺動脈を通って肺へと送られ、肺で酸素を受け取り、二酸化炭素を放出します。

 

安静にしているときでも、酸素と二酸化炭素の交換を維持するために、毎分6~10リットル程度の空気が肺を出入りしており、たとえ休んでいる間でも毎分約0.3リットルの酸素が肺胞から血液中に送られます。同時に、ほぼ同量の二酸化炭素が血液中から肺胞へ運ばれ、体外へ吐き出されます。運動中は、毎分100リットルを超える空気を呼吸して、そこから毎分3リットルの酸素を取りこむこともできます。酸素が体内で使用される速度は、体がエネルギーを消費する速度を測る方法の1つです。息を吸ったり吐いたりできるのは呼吸筋の働きです。

 

 

肺を流れる血液中に外気から酸素を取りこむには、呼吸、拡散、灌流という3つの過程が欠かせません。呼吸は、空気が肺に出入りする過程のことです。拡散は、体がエネルギーを使ったり努力したりすることなく、肺胞の空気と肺の毛細血管の血液との間で自然に行われている気体の移動のことです。灌流は、心血管系が肺全体へ血液を送り出す働きをいいます。このような体の循環器系は、酸素を含む大気と酸素を消費する体内の細胞とを結びつけるために欠かせません。たとえば、全身の筋肉細胞に酸素を行きわたらせるには、肺だけではなく、酸素を運ぶ血液の働きや、その血液を筋肉に運ぶ循環器系の能力に依存しています。

 

 

 

肺胞腔と毛細血管の間のガス交換

 

 

呼吸器系の機能は、酸素と二酸化炭素という2種類の気体を交換することです。交換は、肺にある数百万の肺胞とそれらを取り囲む毛細血管の間で行われます。吸いこまれた酸素は肺胞から毛細血管内へ移動し、二酸化炭素は毛細血管から肺胞の空気へと移動します。

 

 

呼吸器系の器官は、鼻と口から始まり、気道から肺へと続きます。空気は鼻と口から呼吸器系へと入り、のど(咽頭)を下って、声帯がある喉頭を通過します。喉頭の入り口は小さなふたの組織(喉頭蓋[こうとうがい])で覆われており、ものを飲みこむときには自動的に閉じて、食べものや飲みものが気道に入るのを防ぎます。

 

一番太い気道が気管で、それより細い2つの気道に枝分かれして左右の気管支となり、それぞれが左右の肺につながっています。左右の肺はそれぞれ葉と呼ばれる部分に分かれており、右肺は3つの葉、左肺は2つの葉から成り立っています。左胸部のスペースは心臓と共有しているため、左の肺は右の肺より少し小さくなっています。

 

 

肺と気道の内部

 

 

左右の気管支は、より細い気道へと、次々と枝分かれして、最終的には細気管支という最も細い気道になり、細気管支の直径は0.5ミリメートルほどしかありません。気道全体をみると、木を逆さまにした形に似ているため、呼吸器系のこの気道部分は、「気管支樹」とよく呼ばれます。太い気道は、ある程度の柔軟性をもった軟骨と呼ばれる線維性の結合組織によって保たれています。細い気道は、周りの密着した肺組織に支えられています。気道を取り巻く平滑筋は、拡張したり収縮したりできるため、気道のサイズが変えられます。

細気管支の先端には、数千もの小さな空気の袋(肺胞)があります。肺にある何百万もの肺胞を合わせると、100平方メートルを超える面積になります。肺胞の壁の内部は、細い血管(毛細血管)が密集した網状の組織になっています。空気と毛細血管の間の壁はきわめて薄いため、酸素は肺胞内から血液中へ移動でき、さらに二酸化炭素は血液中から肺胞内の空気へと移動できるのです。

 

胸膜はすべすべした膜で、胸壁の内側と肺の外側を覆っています。この胸膜があるため、私たちが呼吸しながら動き回っても、肺はなめらかに動きます。通常、2層になっている胸膜の間には、わずかな量ですが、潤滑液があります。そのため、肺が形や大きさを変えても、2層の膜はそれぞれがなめらかに動くことができます。

 

 

結核

 

結核は結核菌が空気で運ばれることによって伝染する感染症です。

結核が感染するのは、活動性結核にかかっている人によって汚染された空気を吸いこんだ場合に限られます。

最もよくみられる症状はせきですが、寝汗をかいたり体調不良を感じることもあります。また結核が他の器官を侵している場合は、他にもさまざまな症状が出ます。

診断では通常、ツベルクリン反応検査または血液検査、胸部X線検査、たんサンプルの検査と培養を行います。

結核菌に耐性が生じる可能性を減らすために、必ず2種類以上の抗生物質を投与します。

結核の伝染を防ぐにあたっては、早期に診断を下して治療を行い、さらに活動性結核の患者を治療に反応するまで隔離することが有効です。

通常、結核は肺を侵しますが、ほぼどの器官にも起こることがあります。ウシ型結核菌やマイコバクテリウム・アフリカナムのような他の関連菌(マイコバクテリア)も、似たような病気を起こすことがあります。

 

結核は長い間、公衆衛生上の重大な問題とされています。

1800年代のヨーロッパでは、結核による死者数は死因全体の30%を超えていました。1940年代後半に抗結核用の抗生物質が登場したことで、人類は結核との闘いに勝利を収めたかのようにみえました。しかし、公衆衛生対策の不備、エイズによる免疫力の低下、薬剤耐性の出現、世界各地に残る極度の貧困などの要因により、結核はいまもなお世界中で命を脅かす病気となっています。以下は2006年の統計数値です。

920万人が新たに症候性結核の診断を受け、300万人が死亡しています。新たに生じた患者数は国、年齢、人種、性別、社会経済的状況によって大きく異なります。

920万人の新規患者のうち、約300万人がアフリカ、300万人が東南アジア、約200万人が西太平洋地域で発生しています。

新規患者数の報告が最も多いのはインドと中国ですが、南アフリカでは新規患者の発生率が10万人中940件と世界最高になっています。

全世界の約3人に1人が休眠性(潜伏性)の結核に感染していると考えられていますが、実際に活動性結核に進行するのはそのうち5~10%程度にすぎません。

新規患者の半数以上は、結核が比較的よくみられる米国外の地域(アフリカ、東南アジア、中南米など)で生まれた人が占めていました。米国では、米国生まれの黒人、ホームレス、拘置所や刑務所の収容者、その他公民権をはく奪された少数派の人々がはるかに多く感染する傾向にあります。このような高リスク群での新規患者の発生率は高く、世界でも結核が比較的よくみられる地域に匹敵するほどです。

 

開発途上国では、結核は若年成人によくみられる病気ですが、米国をはじめとする先進国では、従来から高齢者に多くみられてきました。高齢者がより多く発症するのは、結核が現在より一般的であった時代に感染していた可能性があるうえ、加齢によって体の免疫機能が低下すると不活性な(休眠していた)菌が再び活性化しやすくなるためです。しかし、高齢者層に仲間入りする世代の不活性な(潜伏)感染者数が減りつつあるため、高齢者の結核発生率は減少傾向にあり、米国外で生まれた人に新規患者が増えていることから、米国の結核感染者の年齢構成は若年化しつつあります。

 

感染はどのように起こるのか

レンサ球菌性咽頭炎や肺炎をはじめとする感染症のほとんどでは、微生物が体内に侵入した直後から体調が悪くなり、1~2週間以内にはっきりした症状が出ます。しかし、結核はこのような経過をたどりません。

 

感染の各段階:

いくつかの段階があります。

初感染

潜伏感染

活動性結核

 

乳幼児や免疫機能が低下した人を除いて、結核菌が体内に入ってすぐに体調が悪くなる人はほとんどいません(この段階は初感染と呼ばれます)。大半の症例で、肺に侵入した結核菌は体の防御機能によってただちに死滅し、生き残った菌はマクロファージと呼ばれる白血球に飲みこまれます。飲みこまれた菌は、小さな瘢痕(はんこん)を形成する細胞集団として、何年も休眠状態で生き続けることができます(この段階は潜伏感染と呼ばれます)。感染しても90~95%は生涯問題を起こしませんが、残りの約5~10%ではやがて菌が増殖しはじめ、活動性結核を引き起こします。この段階になると、感染者は実際に体調が悪くなり、感染を広めることができます。

半数以上で、初感染から2年以内に休眠状態の細菌の再活性化が起こりますが、再活性化が長期間にわたり、時には数十年も起こらない場合もあります。休眠状態の菌が再活性化する理由についてはよくわかっていません。しかし高齢に達したり、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染、コルチコステロイド薬の使用、あるいはアダリムマブ、エタネルセプト、インフリキシマブなどある種の新しい抗炎症薬の処方により免疫機能が低下している人では再活性化しやすくなります。他の多くの感染症と同じく、免疫力が低下した状態だと結核は急速に広がり、危険度もより高くなります。このような人にとっては、この病気が命にかかわることもあります。世界でも結核がよくみられる地域の死亡率ははるかに高くなっています。

 

感染経路:

結核菌は人にのみ感染します。この菌は通常、動物、虫、土、あるいは他の無生物によって運ばれることはありません。感染する可能性があるのは活動性結核にかかっている人からのみです。感染経路はほぼ間違いなく空気感染であるため、活動性結核患者にさわっただけでは感染しません。ただし、動物に感染することのあるウシ型結核菌は例外です。開発途上国では、感染したウシの乳を殺菌せずに飲むことで小児が感染します。先進国では結核について牛を検査し、牛乳は殺菌されているため、このタイプの結核はもはや問題となっていません。

 

肺の活動性結核の患者は、せきやくしゃみ、さらには話すだけでも空気を汚染します。この菌は空気中で数時間生きることができるため、別の人がこれを吸いこむことで感染する可能性があります。このため、活動性結核の人と接触する人々(家族や患者を治療する医療従事者)は、感染するリスクが高くなります。潜伏感染や肺以外の結核の場合は、菌が空気中に放出されないため、感染は起こりません。

 

感染症の進行と伝染:

結核の潜伏感染から活動性結核への進行の仕方は、人によって大きく異なります。HIVに感染していたり、免疫機能が低下する状態(薬剤の使用を含む)にある人では、活動性結核へ進行する可能性ははるかに高くまたより速くなります。エイズ患者が結核菌に感染した場合、活動性結核を生じる確率は年率5~10%にのぼります。一方、潜伏性の結核にかかっているもののエイズにはかかっていない人では、生涯に活動性結核を発症する確率は5~10%にすぎません。

免疫機能が十分に働いている場合、活動性結核が生じる部位は通常肺に限られます(肺結核)。肺以外に広がる結核(肺外結核)は、肺結核が血流を通して肺から広がったものです。この場合も肺結核と同様に、菌は病気を起こさず、ごく小さな瘢痕組織の中で休眠したままとどまることがあります。このように休眠している菌は後に再活性化し、その器官に症状を起こすことがあります。

妊娠中の場合、結核菌が胎児に移行して病気を起こすことがありますが(先天性結核)、このようなケースは極めてまれです。

 

結核:多くの器官を侵す病気

 

感染部位

症状や合併症

腹腔

疲労感、腫れ、押したときの軽い痛み、虫垂炎に似た痛み

膀胱

排尿時の痛み、血尿

骨(主に小児)

腫れ、わずかな痛み

発熱、頭痛、吐き気、眠気、治療しない場合は昏睡や脳の障害

心膜(心臓を包む膜)

発熱、頸静脈の怒張、息切れ

関節

関節炎に似た症状

腎臓

腎臓の障害、腎臓周囲の感染症

リンパ節

痛みはないが、リンパ節が赤く腫れ、膿が出ることがある

男性生殖器

陰嚢内のしこり

女性生殖器

不妊

脊椎

痛みが生じ、やがて椎骨がつぶれ、脚の麻痺が起こる

 

症状と合併症

 

肺結核:

結核で最もよくみられる症状はせきです。病気はゆっくり進行するため、感染者は最初、せきの原因を喫煙や最近かかったインフルエンザ、かぜ、喘息のせいと考えることがあります。午前中にせきの中に黄色または緑色のたんが少量混じることがあります。最終的にはたんに血が混じってきますが、大量の出血はまれです。

夜中に大量の寝汗をかき目が覚めることもありますが、発熱はあったりなかったりします。汗の量は寝間着やシーツを取り換えなければならなくなるほど多くなることもありますが、一方で結核では必ず寝汗をかくわけではなく、また寝汗の原因となる病気は他にもたくさんあります。

体調がすぐれず、活力や食欲が低下します。少したってから体重が落ちてくることもよくあります。

急に息切れがして胸痛がある場合は、肺と胸壁の間のすき間に空気(気胸-胸膜疾患: 気胸を参照)や体液(胸水)がたまっている可能性があります(胸膜疾患: 胸水を参照)。結核感染者の約3分の1で、初めて現れる症状は胸水です。治療せずに放置すると通常は、感染が肺に広がるにつれ息切れがひどくなっていきます。

 

肺外結核:

肺以外で結核が最も生じやすい部位はおそらく腎臓とリンパ節です。また骨、脳、腹腔、心臓を包む膜(心膜)、関節(特に股関節や膝[ひざ]などの体重を支える関節)、生殖器にも生じます。このような部位の結核は診断が困難となりがちです。

 

肺外結核の症状はばくぜんとしており、疲労感、食欲減退、断続的な発熱、発汗がよくみられ、場合によっては体重が減少します。侵されている部位によっては、痛み、不快感、膿の集積(膿瘍)などの症状がみられることもあります。

 

リンパ節:

新しい結核感染症の場合、菌が肺から付近のリンパ節まで移動することがあります。体に本来備わっている防御機能が感染症を制御できれば、そこで感染症は止まり、菌は休眠状態になります。ところが乳幼児の場合は防御機能が万全でないため、リンパ節が大きく腫れて気管支を圧迫し金属製の咳が出て、場合によっては肺虚脱にまで至ることがあります。菌がリンパ管をつたって、首のリンパ節まで広がることもあります。首のリンパ節が感染すると、皮膚を破って膿が流れ出てくることがあります。

 

脳:

脳や脊髄(せきずい)を包む組織に感染する結核(結核性髄膜炎)は命にかかわる病気です。

先進国では、結核性髄膜炎は高齢者や免疫機能の低下した人によくみられます。開発途上国では、出生後から5歳までの小児に最も多く、症状としては、発熱、頻発する頭痛、首のこわばり、吐き気、昏睡に至ることもある眠気などが生じます。結核が脳そのものに感染することもあり、結核腫というかたまりができる場合があります。結核腫は、頭痛、けいれん、筋肉の脱力感などの症状を起こします。

 

心膜:

結核性心膜炎では、心膜が厚くなり、心膜と心臓の間のすき間に体液が漏れてたまることがあります。こうなると、心臓のポンプ機能が損なわれ、頸静脈が膨張し(怒張)、呼吸が苦しくなります。世界の結核が多い地域で、結核性心膜炎は心不全の原因としてよくみられます。

 

腸:

腸結核は主に開発途上国でみられます。この感染症では症状がまったく出ないこともありますが、腹部の組織が異常に腫れる場合があります。この腫れが癌と間違われることもあります。

 

診断

胸部X線検査で異常が発見されたり、ツベルクリン反応検査(マントー試験、精製ツベルクリン[PPD]としても知られています)が陽性になることで初めて結核が見つかることもあります。このような検査はしばしば定期的スクリーニングとして行われます。たとえば、ツベルクリン反応検査は、以下のような理由のために危険性の高い人において定期的に行われます。

活動性結核の人と暮らしていたり、一緒に働いている人(年1回のスクリーニングとして)

結核がよくみられる地域から移住してきたばかりの人

免疫機能を低下させ、潜伏感染者の結核を再活性化させるおそれのある薬剤の服用を始めた人

結核が疑われる症状を示す人には、以下の検査が行われます。

胸部X線検査

ツベルクリン反応検査

たんのサンプルの検査と培養

 

血液検査

 

結核用のツベルクリン反応検査と血液検査

ツベルクリン反応検査では、結核菌の菌体から調製したタンパク質を皮膚の層内(通常は前腕部)に少量注射し、約2日後に注射した部分を調べます。触れると硬く感じられ、ある大きさ以上に腫れていれば、陽性と判定します。赤くなるだけで腫れのない場合は陽性とはみなされません。非常に体調が悪かったり、免疫機能が低下していたりする人では、結核に感染していてもツベルクリン反応検査に反応を示さないことがあります。

結核感染症を検出する2種類の新しい血液検査では、血液のサンプルに結核菌がつくり出すものと似た合成タンパク質を混ぜます。結核菌に感染している場合は、合成タンパク質に反応して白血球がある種の物質(インターフェロン)をつくり出します。その後インターフェロンの有無について血液を調べ、結核感染症にかかっているかどうかを判断します。ときには判定がつかないこともありますが、このような検査は免疫機能が低下している人にとってより有益と考えられます。

血液検査やツベルクリン反応検査が陽性であれば感染を示しますが、必ずしも活動性の結核だということにはなりません。また、活動性結核の人が、血液検査やツベルクリン反応検査で陰性を示すこともあります。

 

たんのサンプルについて、結核菌の有無を顕微鏡で調べ、菌の培養も行います。顕微鏡による検査は培養に比べてはるかに早く結果が得られますが精度は劣り、培養で確認される結核の半分程度しか発見できません。しかし結核菌は増殖が遅いので、従来の培養検査では結果が出るまでに何週間もかかります。このため結核にかかっている可能性のある人に対し、たんの検査や培養の結果を待つあいだに治療を始めることがよくあります。広く用いられている培養検査では、結核菌の増殖を通常21日以内に確認することができます。

新たに利用されるようになった血液検査では、結核菌の存在を24時間以内に確認可能です。これらの検査は、少なくともツベルクリン反応検査と同程度、おそらくはそれ以上に正確とみられています。他にも、たんに含まれる菌の遺伝物質を数日で発見し、確認できる新しい検査があります。遺伝子検査でも、結核を治療するために通常使われる薬剤に耐性を持つ菌を迅速に確認することができるため、医師はこれをもとに有効な治療薬を選択することができます。たんや尿に含まれる結核菌を検出する新しい検査の開発も進められています。

 

胸部X線検査でみつかる結核の所見は他の病気のものと似ていることが多く、診断のためにツベルクリン反応とたんの検査で結核菌を検出しなければならないことがあります。ツベルクリン反応検査は結核を診断する上で最も有効な検査の1つですが、過去に結核菌による感染症が生じたことがわかるだけで、その感染症が現在活動性であるかどうかまではわかりません。

また、結核菌に近い種であっても一般的に害はない菌に感染していたり、最近結核の予防接種を受けた場合は、結核に感染していないのに感染を示す場合もあります(偽陽性)。新しい血液検査は最近受けた予防接種に影響されることはありません。ただしツベルクリン反応検査と同じく、そのような検査も感染を示すだけで、活動性であるかどうかまではわかりません。

たんのサンプルで十分なことが多いのですが、診断のために肺の体液や組織のサンプルを採取しなければならない場合もあります。これには気管支鏡という器具を口か鼻から気道へと挿入し、気管支を観察して肺の体液や組織のサンプルを採取します。これは肺癌など他の病気の疑いがあるときに最もよく行われる手法です。

結核性髄膜炎を思わせる症状があるときは、脊椎穿刺(腰椎穿刺)を行って髄液のサンプルを採取して分析しなければならないことがあります。髄液中に結核菌を見つけるのは難しく、また培養には通常何週間もかかるため、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を使うことがあります。これは遺伝子のコピーを多数作るもので、菌のDNAが確認しやすくなります。検査結果はすぐに得られますが、結核性髄膜炎の疑いが少しでもある場合、通常は抗生物質で治療をすぐに開始します。早期に治療を行うことで死を回避し、脳の障害を最小限に食い止めることができます。

 

治療

結核に有効な抗生物質はたくさんあります。しかし結核菌の増殖は大変遅いため、抗生物質の投与は長期にわたり、通常は6カ月以上行う必要があります。治療は、患者自身が完全によくなったと思った後も長期にわたって継続しなければなりません。これを怠ると、細菌が完全に死滅せず病気が再発しがちとなります。

このように長期にわたって毎日薬を忘れずに服用し続けることは多くの人にとって難しいことです。さまざまな理由から、具合が良くなるとすぐに治療をやめてしまう人もいます。このような問題があるため、結核患者が医療従事者から薬剤を受け取り、その監視のもとで服薬することを多くの専門家が推奨しています。この方法は直接監視下治療(DOT)と呼ばれます。DOTでは患者が確実に薬を服用することになるため治療期間が短縮されるケースが多く、薬の投与も通常は週に2~3回ですみます。

1種類の薬剤だけで治療すると、その薬剤に耐性を持つ少数の菌が残る可能性があるため、必ず作用の異なる2種類以上の抗生物質を使います。他の大半の細菌であれば、その数は再発を起こすほどではないでしょうが、結核菌の場合は単剤で治療すると、すぐにその薬に耐性をもつようになります。初期の集中治療段階では、通常は第3、第4の薬を併用し、治療期間を短縮し、最初から菌に薬剤耐性がある場合でも治療を確実に成功させます。

最もよく使われる抗生物質はイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトールです。この投薬計画にストレプトマイシンを加えることもあります。これらすべての薬剤には副作用がありますが、結核に感染している人のうち95%をこれらの薬剤で、重い副作用もなく治癒させることができます。

 

結核の治療に使う薬剤

 

薬剤名

投与経路

副作用

イソニアジド

経口

1万人に1人の割合で肝臓に障害が生じ、吐き気、嘔吐、黄疸が現れる。

腕や脚にしびれが生じることがある。

リファンピシン

経口

肝臓の障害、特にリファンピシンをイソニアジドと組み合わせた場合(服薬をやめると副作用は消失する)

尿、涙、汗が赤褐色に変色

ピラジナミド

経口

肝臓の障害、ときに痛風

エタンブトール

経口

かすみ眼や色覚の低下を起こすことがある(視神経に作用するため)

ストレプトマイシン

筋肉注射

めまいや軽い難聴(内耳の神経を障害するため)

 

これらの薬剤には、さまざまな併用法や投与スケジュールがあります。イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドの3剤を1つに含むカプセルも出ており、毎日服用しなければならない錠剤の数を減らし、薬剤耐性を生じにくくするのに役立ちます。他の抗生物質とは異なり、結核治療用の薬剤は、通常すべてまとめて1日に1回服用します。

薬剤による治療計画をしっかり守っている限り、手術で肺の一部を切除しなければならなくなることはほとんどありません。ただし薬剤耐性がきわめて強い症例を治療したり、たまった膿を抜き取る場合には手術が必要となることもあります。結核性心膜炎によって心臓の動きがかなり制約されている場合は、心膜を外科的に除去しなければならないこともあります。脳に結核腫ができた場合も、手術による摘出が必要なことがあります。

 

予防

予防には、病気の感染を抑えることと、病気が活動性になる前の早期感染症の段階で治療するという2つの側面があります。

 

感染の防止:

結核菌は空気感染するため、換気を十分に行い新鮮な空気を取り入れることで、空気中の菌の量を減らし、感染を抑えることができます。またホームレスの保護施設、刑務所、病院や救急外来の待合区域など、感染リスクの高い人々が集まる建物には、紫外線殺菌灯を設置して空気中の結核菌を殺すことも予防対策となります。感染組織のサンプルを扱う医療従事者や感染している可能性のある人と接触する人は、レスピレーターと呼ばれる特殊マスクを着用することが予防に有効です。ツベルクリン反応検査や血液検査で陽性であった場合でも、症状がなければ予防措置は不要です。

活動性結核の人がせきをするときにティッシュを口にあてるようにすれば、菌の拡散を減らすのに役立ちます。また、治療に反応し、せきが出なくなるまで隔離状態にとどめることも必要となります。適切な抗生物質で数日から数週間治療を行うだけで、他人に感染させるおそれは減ります。通常は2週間を超えて隔離する必要はありません。ただし乳幼児やエイズ患者など、感染するリスクの高い人と暮らしていたり、一緒の職場で働いている人の場合は、繰り返したんのサンプルの検査をして感染の危険がなくなったことを確認する必要があります。治療を受けてもせきが続く、指示通りに薬を服用しない、薬剤耐性の結核にかかっているなどの場合も、病気のまん延を防ぐために隔離期間が長くなる場合があります。

 

初期感染症の治療:

結核が感染力を持つのは活動性結核の場合だけなので、活動性結核を早期に発見して治療することが、感染拡大を抑える最も良い方法の1つとなります。ツベルクリン反応検査や血液検査で陽性を示した人は、まだ発病していなくても治療をうける必要があります。活動性結核となる前に感染症を抑えるには、抗生物質イソニアジドが非常に有効です。この薬剤は6~9カ月間毎日投与します。人によっては、リファンピシンのみを4カ月間毎日投与されることがあります。国によっては、イソニアジドとリファンピシンの併用投与が3カ月間行われます。

 

予防治療は、ツベルクリン反応検査で陽性と出た若年層には確実に有益な方法です。また高齢者でも、最近ツベルクリン反応検査や血液検査が陽性に変わった人、感染者と接触した人、免疫機能が低下している人など、結核のリスクが高い場合には予防治療が有益と考えられます。

長い間結核が潜伏感染の状態にある高齢者については、抗生物質の毒性による危険のほうが、結核が活動性に転じる危険よりも高くなる場合があります。このような場合は予防治療を行うかどうかを判断する前に、医師はしばしばこの問題の専門家に相談します。

ツベルクリン反応検査や血液検査が陽性の人がHIVに感染すると、活動性結核を生じるリスクが大きく高まります。同様に、潜伏感染している人がコルチコステロイド薬や免疫機能を抑制する他の薬剤(一部の新世代の抗炎症薬など)を服用する場合もリスクは高くなります。このような人については通常、潜伏している結核感染症を治療する必要があります。

開発途上国の多くでは、髄膜炎などの重い合併症を防ぐ目的で、BCG(カルメット・ゲラン桿菌)と呼ばれるワクチンが、結核菌に感染するリスクの高い人に使用されています。しかしBCGの意義については議論が分かれており、結核にかかる危険が非常に高い国でのみ使用されています。このワクチンは、医療従事者や、2種類以上の薬剤に耐性を持つ結核にさらされている人に対して、予防面で一定の役割を果たすと考えられます。現在、より効果の高いワクチン開発に向けて研究が行われています。生後すぐにBCGを接種した場合、15年後にツベルクリン反応検査を行うと、約10%の人が結核菌に感染していなくても陽性を示します。ただし生後すぐに接種を受けた人が、後年のツベルクリン反応検査の陽性結果を誤ってBCGワクチンのせいにされることもよくあります。多くの国で、結核には差別を招くイメージがつきまとい、多くの人が潜伏感染であってもかかっているなどと考えたがりませんし、活動性結核に至ってはなおさらです。なお新しい結核用血液検査はBCG接種による影響を受けません。

 

 

粟粒結核とは

免疫機能が低下した人によくみられる例として、血流に乗った大量の結核菌が全身に広がって起こる、命にかかわるタイプの結核があります。この感染症は、肺内にできる数百万個もの小さな病巣が鳥の餌に含まれる小さな丸い粟(あわ)と同じ大きさであることから、粟粒結核と呼ばれます。

体重減少、発熱、悪寒、脱力感、全身の不快感、呼吸困難といったばくぜんとした症状から、診断が難しいこともあります。骨髄が侵されると、白血病を疑わせるような重い貧血などの血液の異常が起こることがあります。隠れた病巣から細菌が散発的に血流にはいると、熱が上がったり下がったりを繰り返し、徐々にやせて衰弱することがあります。

 

 

結核に似た病気

マイコバクテリア(結核菌を含む細菌の仲間)には多くの種類がありますが、その多くが結核に似た症状の感染症を引き起こします。

最もよくみられるのがマイコバクテリウム・アビウム複合体(MAC)と呼ばれる細菌群です。これらのマイコバクテリアはどこにでもいるものの、感染症を起こすのは、免疫機能が低下している人や、長年にわたる喫煙や過去の結核感染、気管支炎、肺気腫などの病気により肺が障害されている人に限られます。MAC感染症は結核と同じく主に肺を侵しますが、リンパ節、骨、皮膚などの組織に広がることもあります。一方でこの病気は結核とは異なり、人から人へはうつりません。

この感染症は通常ゆっくり進行します。初期にはせきや粘液性のたんを吐き出し、病状が進むと、頻繁に血を吐き出したり(喀血)、呼吸困難が生じることがあります。胸部X線検査は、感染を示すこともあれば示さないこともあるため、結核とこの感染症を識別するには感染者から採取したたんを検査することが必要です。

エイズなどの病気で免疫機能が低下していると、MAC感染症が全身に広がることがあります。症状としては、発熱、貧血、血液疾患、下痢、胃痛などがみられます。

小児、特に1~5歳では、リンパ節のMAC感染症にかかることがあります。その多くは土を食べたり、マイコバクテリアで汚染された水を飲んだりしたことが原因です。この感染症の治療では通常抗生物質は不要です。その代わり、感染したリンパ節を手術で切除することがあります。

結核に効く抗生物質の大半に対し耐性をもつため、MAC感染症はかつて治療が非常に難しい病気でした。しかし、クラリスロマイシンやアジスロマイシンなど結核には無効な新世代の抗生物質は、エタンブトールやリファブチンと併用することでMACに対し有効となります。

このほか、プールや家庭の水槽でも繁殖するマイコバクテリアがあり、皮膚に感染症を起こすことがありますが、治療をしなくても治ります。ただし、慢性感染症を起こした場合は、通常テトラサイクリン、クラリスロマイシンなどの抗生物質で3~6カ月治療する必要があります。

また、別の種類のマイコバクテリウムであるマイコバクテリウム・フォーチュイタムが、傷口のほか、人工心臓弁や人工乳房などの体内に挿入した人工物に感染することがあります。しかし通常は抗生物質による治療や患部の外科的切除で治癒します。

 

 

 

胸膜疾患

 

胸膜は薄くて透明な2層の膜で、肺を覆うとともに胸壁の内側も覆っています。肺を覆う膜の層は、胸壁を覆う膜の層と密着しています。この薄くて柔軟性のある2層の膜の間には少量の液体があり、呼吸のたびにお互いの膜がなめらかに動くように、潤滑油のような働きをしています。

 

 

異常な状況では、胸膜の間に空気が入ったり、液体が過剰になったりして、すき間ができることがあります。液体が過剰になった(胸水と呼ばれる)状態や、空気が入った(気胸と呼ばれる)状態になると、片方または両方の肺が、呼吸の際に正常にふくらむことができなくなり、肺組織がつぶれてしまうことがあります。

 

 

 

呼吸器疾患による障害

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

2級

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

3級

身体の機能に、労働が制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの

 

・慢性肺疾患(肺気腫など)によって非代償性肺性心を発症しているもの

障害手当金

 

 


1 肺結核

 

結核は結核菌が空気で運ばれることによって伝染する感染症です。

肺結核は、結核菌が体内に入り肺で増殖することによって起こります。結核患者が咳やくしゃみをすることで菌が撒き散らされ、その菌を吸い込んだものが、飛沫感染、空気感染することが主な原因である。

 

肺以外で結核が最も生じやすい部位は腎臓とリンパ節です。

 

 肺結核の症状があらわれる場合は発熱、胸痛、血痰、体重減少、咳などが起こります。特徴的な症状がないために、風邪と勘違いする可能性もあります。

 

結核菌の有無を調べる検査には、主に次のようなものがあります。

 

ツベルクリン反応 結核菌の培養液から抽出した精製タンパク質(PPD)を前腕部の内側の皮膚に注射し、48時

間後、皮膚に一定の大きさの赤斑が出るか確認します。

 

塗沫検査 痰を採取し、ガラス板に塗沫してチール・ネールゼン染色という特殊な染色法を施し、顕微

鏡で観察します。

 

培養検査 塗沫検査だけで菌が確認できなかった場合には、痰を特殊培地で1ヵ月ほど培養・発育させ

たうえで、再び検査を行います。培地で発育した菌は抗酸菌といいます。結核菌のほかにも非

定型坑酸菌が育ちますが、これはナイアシンテストという方法で鑑別できます。

 

基準値 塗沫・培養検査で痰に結核菌が確認されなければ陰性(-)で異常なし、ツベルクリン反応で

皮膚に一定の大きさの赤斑が出れば陽性(+)で正常です。赤斑がなければ陰性(-)です。結

核の予防注射(BCG)を受けていると、ツベルクリン反応が陽性になります。陰性の場合には

この予防注射が必要です。

 

検査結果の見方と判定 塗沫・培養検査で痰に結核菌が確認されれば、陽性(+)で結核と診断されます。ツベルク

リン反応では皮膚に一定以上の大きさの赤斑が出れば、強陽性(++以上)で結核にかかってい

る疑いがあります。

 

肺結核の治療法  

 現在、肺結核の治療は、そのほとんどが薬物療法です。3~4種類の薬剤を併用して服用します。服用期間は、症状にもよりますが、およそ6ヵ月~1年です。

 

 

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・認定の時期前6ヵ月以内に常時排菌があり、胸部X線所見が日本結核病学会病型分類のⅠ型(広汎空洞型)またはⅡ型(非広汎空洞型)、Ⅲ型(不安定非空洞型)で病巣の拡がりが3(大)であるもので、かつ、長期にわたる高度の安静と常時の介護を必要とするもの

2級

・認定の時期前6ヵ月以内に排菌がなく、日本結核病学会病型分類のⅠ型(広汎空洞型)もしくはⅡ型(非広汎空洞型)またはⅢ型(不安定非空洞型)で病巣の拡がりが3(大)であるもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの

 

・認定の時期前6ヵ月以内に排菌があり、日本結核病学会病型分類のⅢ型(不安定非空洞型)で病巣の拡がりが1(小)または2(中)であるもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの

3級

・認定の時期前6ヵ月以内に排菌がなく、日本結核病学会病型分類のⅠ型(広汎空洞型)もしくはⅡ型(広汎空洞型)またはⅢ型(不安定非空洞型)で、積極的な抗結核薬による化学療法を施行しているもので、かつ、労働が制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とするもの

 

・認定の時期前6ヵ月以内に排菌があり、日本結核病学会病型分類のⅣ型であるもので、かつ、労働が制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とするもの

障害手当金

 

 肺結核の障害年金は、認定6ヵ月までの排菌の有無と、胸部レントゲン検査所見が、日本結核病学会分類のどの重症類型に該当するのか、また、日常生活や就労への制限がどれくらいあるのか等を含めて総合的に判断される。

 

 

3級の障害状態の「抗結核剤による化学療法を施行しているもの」とは

少なくとも2剤以上の抗結核剤により、積極的な化学療法を施行しているものをいう。3~4種類の薬剤を併用することにより約6ヵ月ほど服用する。  というものである。

 

結核の化学療法により副作用としての聴覚障害を起こした場合は、相当因果関係「あり」とされる。結核の化学療法をした日を初診日とする。

 

 加療による胸郭変形は、それ自体は認定の対象とならない。肩関節の運動障害を伴う場合には「上肢の障害」として、その程度に応じて併合認定の取扱いが行われる。

 

 障害年金の審査では、日常生活がどれだけ制限されているのかが重要視される。診断書には全身衰弱、倦怠感、発熱、痛み、易感染症など、癌による(または薬の副作用による)症状がある場合は、すべて記入してもらうこと。

 癌が複数の部位に転移している場合は、「骨、肝臓、卵巣に転移」といった文言を入れてもらうこと。

 


2 じん肺

 

 じん肺(珪肺症(けいはいしょう)、石綿肺(せきめんはい))とは、石綿(アスベスト)を吸い込み、長い期間をかけて胸膜を中心とした病変を生じさせるものである。

このアスベストの種類には、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、クリソタイル(白石綿)などが知られ、不燃性、耐熱性、非腐食性に優れ、軽く、強度があり、加工しやすいなどの特性により、建築現場をはじめとするさまざまな分野で使用されてきました。

 

 アスベストによる呼吸疾患には、主に以下のようなものがあります。 (1)胸膜プラーク(胸膜肥厚斑(ひこうはん))  壁側胸膜の限局性胸膜肥厚(1〜10mm)で、アスベスト曝露によって起きる最も早期の病変で、高頻度であることが知られています。ほとんどの場合、胸膜プラークのみによる症状はみられません。

 

(2)胸膜中皮腫  胸膜から発生する悪性の腫瘍で、曝露から時間がたつにつれて発生頻度が高くなります。従来、限局型と呼ばれていた多くの胸膜中皮腫は、単発性線維性腫瘍という別の名称で呼ばれるようになっています。

 

(3)アスベスト肺  アスベストの高濃度曝露によって発症し、胸部画像では両側下肺野に線状・網状陰影が内側から外側に、また下肺から上肺に病変が広がり、進行して蜂巣肺(ほうそうはい)がみられるようになります。胸部X線写真では、特発性間質性肺炎膠原病間質性肺炎などと類似していることが多く、鑑別が必要です。  確定診断には、アスベスト曝露の職業歴とともに、組織や細胞診断などによる病理組織・細胞診診断も重要となります。

 

(4)肺がん  アスベストそのものによる発がん作用と、アスベストによる肺線維化病変からの肺がんが考えられています。さらに、喫煙はアスベストによる肺がん発生のリスクを顕著に高めることが知られ、禁煙はアスベストによる肺がん発生の予防となります。

 

(5)良性石綿胸水  本症は、アスベスト曝露があり、悪性腫瘍、結核(けっかく)、膠原病などの他の原因がない胸水(多くは片側)で、さらに、胸水発生後3年間、悪性腫瘍が認められない場合に診断され、診断においては除外診断が重要となります。多くは、1〜10カ月で自然軽快します。

 

(6)びまん性胸膜肥厚  本症は、胸膜の肥厚が少なくとも5mm以上で、広がりが片側の肺の50%以上、両側の場合は25%以上で、著しい肺機能障害を認める場合に診断されます。

 

(7)円形無気肺  胸膜の癒着や線維化によって起こる末梢性の無気肺で、円形の腫瘤性陰影を示し、下葉背側に好発します。肺腫瘍との鑑別が必要になります。

 

 初期は無症状でゆっくりと進行し、労作時呼吸困難(歩行などの労作における呼吸困難)、咳などが生じる。さらに進行すると、安静時呼吸困難が出現するようになる。

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・胸部X線所見がじん肺法の分類の第4型であり、大陰影の大きさが1側の肺野の1/3以上のもので、かつ、長期にわたる高度の安静と常時の介護を必要とするもの

2級

・胸部X線所見がじん肺法の分類の第4型であり、大陰影の大きさが1側の肺野の1/3以上のもので、かつ、日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とするもの

3級

・胸部X線所見がじん肺法の分類の第3型のもので、かつ、労働が制限を受けるか、または労働に制限を加えることを必要とするもの

障害手当金

 

 

 じん肺症(じん肺結核を含む)と診断された場合、初診日じん肺症と診断された日である。

 

 

 


3 呼吸不全

 

 肺の病気が進行すると肺本来の働き、つまり大気中から酸素を体内に取り込み、体内で産生した二酸化炭素を大気中へ放出することができなくなる。その結果、血液中の酸素濃度が低下する低酸素血症や、二酸化炭素濃度が増加する高炭酸ガス血症を生じてしまう。

呼吸不全は、原因の如何を問わず、動脈血ガス分析値、特に動脈血O2分圧と動脈血CO2分圧が異常値であり、そのため体が正常な機能を営み得なくなった状態を言う。

 

 呼吸不全の主要症状としては、咳、痰、喘鳴、胸痛、労作時の息切れ等の自覚症状、チアノーゼ、呼吸促迫、低酸素血症等の他覚所見がある。

 

通常、動脈という体の各臓器に酸素と栄養を運ぶ血管の中にある血液には酸素分圧100mmHg程度の酸素が存在します。酸素のほとんどは赤血球という細胞の中にあるヘモグロビンに結合しています。酸素分圧が60mmHg未満になるとこのヘモグロビンに結合することが難しくなるので、十分に酸素を運ぶことができなくなります。

 

動脈血中の酸素分圧が60mmHg未満になることを定義上「呼吸不全」と言う。

二酸化炭素の増加を伴わない場合を「I型呼吸不全」、伴うものを「Ⅱ型呼吸不全」と呼ぶ。このような呼吸不全が1ヵ月以上続く状態を「慢性呼吸不全」と言う。

 

障害年金の認定の対象とされる病態は、主に慢性呼吸不全である

以下のように慢性呼吸不全は、

閉塞性換気障害(肺気腫、気管支喘息、慢性気管支炎等)

拘束性換気障害(間質性肺炎、肺結核後遺症、じん肺等)

心血管系異常

神経・筋疾患

中枢神経系異常等

多岐にわたる。 

 

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・下のA表およびB表の検査成績が高度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のに該当するもの

2級

・下のA表およびB表の検査成績が中等度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のエまたはウに該当するもの

3級

・下のA表およびB表の検査成績が軽度異常を示すもので、かつ、一般状態区分表のウまたはイに該当するもの

 

常時(24時間)の在宅酸素療法を施工中のもので、かつ、軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のもの

障害手当金

 

A表 動脈血ガス分析値

区分

検査項目

単位

軽度異常

中等度異常

高度異常

動脈血O₂ 分圧

Torr

70~61

60~56

55以下

動脈血CO₂ 分圧

Torr

46~50

51~59

60以上

病状判定に際しては、動脈血02分圧値を重視する。

 

B表 予測肺活量1秒率

検査項目

単位

軽度異常

中等度異常

高度異常

予測肺活量 1秒率

40~31

30~21

20以下

 

一般状態区分表

区分

一 般 状 態

無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの

軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの  (たとえば軽い家事、事務など)

歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの

身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの

身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの

 

障害認定基準には載っていないが、診断書様式には載っている項目として「活動能力(呼吸不全)の程度」というものがあります。

ⅰ 同年齢の健康人と同様に歩行、階段の昇降ができる

ⅱ ア 階段を人並みの速さで登れないが、ゆっくりなら登れる

イ 階段をゆっくりでも登れないが、途中休み休みなら登れる

ウ 人並みの速さで歩くと息苦しくなるが、ゆっくりなら歩ける

エ ゆっくりでも少し歩くと息切れがする

オ 息苦しくて身のまわりのこともできない

 

 

 呼吸不全の代表的な自覚症状は息苦しさですが、慢性呼吸不全は徐々に進行してその状態に至ることが多いため、症状を自覚しないこともしばしばあります。しかし、多くの場合、運動をすると息切れを感じます。

その程度をあらわす分類に次のようなものがあります。

 

MRC息切れスケール(Medical Reseach Council dyspnea scale) Grade0:息切れを感じない Grade1:強い労作で息切れを感じる Grade2:平地を急ぎ足で移動する、または緩やかな坂を歩いて登る時に息切れを感じる。 Grade3:平地歩行でも同年齢の人より歩くのが遅い、または自分のペー スで平地歩行して

いても、息継ぎのため休む。 Grade4:約100ヤード(91.4m)歩行した後息継ぎのため休む、または数分間平地歩行した後

息継ぎのため休む。 Grade5:息切れがひどくて外出が出来ない、または衣服の着脱でも息切れがする。

 

 


慢性呼吸不全を生じる主な病気

 

○慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性気管支炎肺気腫など、慢性的に気道が閉塞し肺への空気の流れが悪くなる病気の総称である。

 

COPDの症状

  COPDの症状には慢性気管支炎、慢性的な咳と喀痰、喘息様症状、呼吸困難などがあります。 呼吸困難の度合いにはフレッチャー・ヒュー・ジョーンズの分類というものがあります。

 COPDは気管支や肺などに障害が生じる病気で、その最大の原因はタバコです。

 COPDのもっとも代表的な症状は息切れです。

 そのほかには、咳や痰が頻繁にでることも病気発見の一つの目安です。ときには、ヒューヒュー、ゼイゼイといった喘鳴がでることがあります。

 

COPDの治療  COPDの治療にはいくつか方法がありますが、薬物療法など医師の判断で行う治療のほかにも、患者さん主導で行う治療があります。

 

患者主導で行う治療

 

禁煙  最初に行うべきことは禁煙です。本数を減らしたり、ニコチンの少ないタバコに変更したりするのではなく、完全禁煙こそが必要です。

 

運動療法  からだを動かすと息切れがする状況では運動を敬遠したくなりますが、運動不足は体力を低下させ、症状が悪化することもあります。ウオーキングなど無理のない範囲で運動をすることが大切です。運動前にはストレッチなど準備体操をしましょう。また、ウオーキング中に具合が悪くなったときの対処として気管支拡張薬を携帯していると安心でしょう。

 

栄養管理  COPDの方は栄養と水分の摂取に配慮するようにしましょう。  肥満傾向にある人は適正体重になるように食事に気をつけましょう。おなかに脂肪がつくと横隔膜の動きを悪くして、スムーズに呼吸することが難しくなることがあります。呼吸が効率よくできないと体内に二酸化炭素がたまりやすくなり、酸欠状態になります。このような状態になると息苦しさだけではなく、心臓へも負担がかかります。  一方、やせ気味の人では、呼吸をするだけで体力を消耗し、ますます体力が低下します。COPDの人が風邪やインフルエンザにかかると、ほかの人よりも重症化しやすいので、感染疾患の予防という観点からも、しっかりと必要な栄養を摂取し、体力を落とさないようにしましょう。  また、COPDは痰が気管支にからみやすくなります。痰を出しやすくするために、水分を多めに飲むようにしましょう。

 

医師の指導を守って行う治療

 

薬物療法  COPDの治療薬にはいくつかのタイプがあります。もっともよく使われる薬は気管支拡張薬という気管支を広げることで、空気の通りをよくする薬です。スポーツなどからだを動かす前に使うことで、息切れなく運動することができます。日常的に息切れがある場合は、長時間作用が持続する薬を使います。  そのほか、咳を鎮めたり痰を切れやすくしたりする作用の薬、気管支の炎症を鎮める薬、気管支の細菌を殺し感染を防ぐ薬などがあります。  いずれの薬を使用する場合も医師の指導を守ってください。

 

外科手術  内科的な治療で改善がみられず、十分な日常生活が送れない場合、手術という選択肢もあります。

 

酸素療法  内科的治療を行っても低酸素血症が改善されない場合は、酸素療法を開始します。酸素ボンベから専用のチューブを鼻に通して酸素を吸入します。最近の液体酸素はコンパクトになり、外出する際も以前より負担にならないようになってきました。酸素療法を行うことで、職場復帰を果たしている人もいます。

 

 


○慢性気管支炎

慢性気管支炎は慢性閉塞性肺疾患(COPD)に含まれる疾患で、気管支内における持続性あるいは反復性の粘液分泌の過剰状態をいう。

 

定義 「持続性あるいは反復性の痰を伴う咳が少なくとも連続して過去2年以上、毎年3か

月以上続くものを慢性気管支炎と言う。」

 

 原因不明の咳や痰が長期にわたって続く状態が慢性気管支炎と定義されており、肺結核や気管支喘息など原因が明確な場合には慢性気管支炎と診断されません。

 

 主に考えられる原因としては、長期の喫煙、アレルギーなど生活習慣や体質による内的要因と、大気汚染や有毒ガスといった外的要因が挙げられます。

 

症状  中年以降で、起床時に咳をともなった粘液性の痰を出す、感染が加わると痰の量が増し、ウミを含むようになる。  病状が進むと呼吸困難や息切れを覚えることがある。  特に胸部レントゲンでは肺気腫、肺繊維症、気管支拡張症がなければ特徴的な異常を示さないことも多いです。  ただ、気管支造影では細かい変化を気管支壁に変化を表すこともあります。

 

治療

 治療としては専門の内科、特に呼吸器内科で続けての治療と経過観察が必要になります。

 咳や痰への対症療法が中心となります。去痰薬、鎮咳薬などで症状を緩和、喘息のような症状がある場合には気管支拡張剤を用います。また、分泌物が気道に溜まると感染症の危険性があるので、ネブライザー吸入や体位ドナレージによって気道の浄化も行われます。また、環境や生活習慣によって気管支炎が引き起こされている場合にはその原因を除去することも重要です。喫煙者であれば禁煙をしたり、空気の悪い場所に住んでいるなら引越しを検討したりといったことが必要になります。

 

 


喘息

喘息の最も重要な特徴は、気道が一時的に狭くなるものの、回復する可能性があることです。基本的に、肺の気道(気管支)は筋肉の壁でできた管です。気管支の内面を覆っている細胞

は、受容体と呼ばれる極めて小さな構造物をもっています。この受容体には、主にベータアドレナリン作動性とコリン作動性の2種類があります。これらの受容体は、特定の物質の存在を感知すると、その下にある筋肉を刺激して、収縮させたり、弛緩させたりするため、空気の流れが変わることになります。ベータアドレナリン作動性受容体がエピネフリンという化学物質に反応すると、筋肉が弛緩するため、気道が広がり(気道拡張)、空気の流量が増加します。また、コリン作動性受容体がアセチルコリンという化学物質に反応すると、筋肉が収縮するため、空気の流量が減少します。

 

気道が狭くなるしくみ

 

喘息の発作が起きると、平滑筋の層がけいれんして、気道が狭くなります。炎症によって中央の層が腫れて、分泌される粘液が増えます。気道の一部に粘液のかたまりができて、気道が極端に狭くなったり、完全にふさがれたりします。

 

喘息の発作では、気管支の平滑筋が収縮して気管支が狭くなり(気管支収縮と呼ばれます)、炎症が起きて気道内面の組織が腫れ、気道内に粘液が分泌されます。気道内面の最上層が損傷するようになると、細胞がはがれて、さらに気道の直径が狭くなることがあります。気道が狭くなると、空気を肺に吸い込んだり、吐き出したりする力を余分に加える必要があります。喘息では狭窄は可逆的で、適切な治療により、または自然に、気道の筋肉の収縮が止まって気道が再び開き、肺への空気の出入りが正常になります。

正常な肺の気道であれば、通常は影響を受けないような刺激でも、喘息の患者では反応が現れて、気道が狭くなります。花粉、イエダニの断片、ゴキブリの分泌物、羽毛の断片、動物の鱗屑(りんせつ)など、さまざまなアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)を吸いこんだことが誘因となって、気道が狭くなることがあります。これらのアレルゲンが、肥満細胞の表面にある免疫グロブリンE(抗体の一種)と結びつくと、喘息を引き起こす化学物質が肥満細胞から放出されるようになります。(このタイプの喘息をアレルギー性喘息と呼びます。)食物アレルギーで喘息を起こすことはまれにしかありませんが、貝類やピーナツなどの特定の食物に過敏な人では、重篤な喘息発作を起こすことがあります。

 

タバコの煙、冷たい空気、ウイルス性感染症なども喘息発作を起こすことがあります。さらに、喘息患者が運動中に気管支収縮を起こすこともあります。ストレスや不安が誘因となって、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンが放出され、気道の平滑筋とつながっている迷走神経が刺激されることで、平滑筋が収縮して気管支が狭くなることもあります。胃食道逆流症(GERD)は、よくみられる喘息の誘因です。

 

喘息の予防と治療には、さまざまな薬を使用することができます。

喘息の予防に用いられている薬のほとんどは、喘息発作の治療にも使用されますが、用量を増量したり、投与方法を変えたりします。患者によっては、予防や治療のために複数の薬が必要になることもあります。

抗炎症薬と気管支拡張薬という2種類の薬を基本にして治療が行われます。抗炎症薬は、気道を狭くする炎症を和らげます。気管支拡張薬は、気道の緊張をゆるめ、気道を広げる(拡張)のに役立ちます。抗炎症薬には、コルチコステロイド薬(吸入薬、内服薬、静脈注射薬が使用可能)、ロイコトリエン拮抗薬、肥満細胞安定薬などがあります。気管支拡張薬には、ベータアドレナリン作動薬(すみやかに症状を和らげる短時間作用型と長期にわたって抑制する長時間作用型の2つがある)、抗コリン作用薬、メチルキサンチン類などがあります。

 

 

○気管支喘息

気管支喘息とは、気管支(気道とも言います)の粘膜に慢性的に炎症が起きる結果、気管支の内腔が狭くなり、肺への空気の吸入、呼出が困難になったり、過敏な状態を引き起こし、咳や痰、呼吸困難などの症状が急に起き、繰り返す病気です。

 

 喘息の原因物質としては、ハウスダスト、カビ、昆虫、小麦粉、コンニャクなどの生活環境から飛散する物質や、ソバ、カニなどの食べ物、アスピリンを代表とする痛み止め、解熱薬、かぜ薬などがある。

 

私たちの身体は空気中の様々な物質を常に吸いこんでいますが、多くの場合、身体は免疫反応をおこさずにこれらをうまく処理しています。一方で、家ダニやカビ、スギなどの花粉、イヌやネコのフケなどに含まれるタンパク質は、身体に免疫反応を引き起こさせる性質をもっています。これらのタンパク質は鼻粘膜や気管支粘膜に分布している抗原呈示細胞に取り込まれて細かい断片に砕かれ、その細胞膜の表面にあるアンテナに呈示されます。するとそれを見つけたリンパ球などの細胞が血液の中から出て次々と粘膜組織にやって来て刺激され、活性化されてゆきます。

リンパ球は形質細胞という細胞を刺激して、認識したタンパク質の分子に対する抗体(IgE抗体)を産生します。作られたIgE抗体は、肥満細胞や好塩基球という細胞の膜表面に出ている受容体に結合します。この状態を、そのアレルゲンに「感作された」状態であると表現します。

感作が成立した状態で私たちが再び同じアレルゲンを吸い込むと、そのアレルゲンタンパク分子がIgE抗体に結合することで肥満細胞や好塩基球が刺激され、ヒスタミン、ロイコトリエンなどの物質を放出する結果、気管支が急に収縮したり、浮腫みを引き起こすことで気管支が狭くなり、実際の症状として、患者さんは空気が通りにくい感じ、特に息が吐きにくい感じを覚えるようになります。

これらの活性化された細胞はさらに、好酸球などの様々な細胞を刺激し、様々な物質が産生されて気道の炎症が続き、悪化してゆきます。気管支の表面を覆う上皮細胞のバリアの一部が破壊されてその下の組織がむき出しになるので、気管支はタバコの煙などの刺激に敏感になり、ちょっとしたことで咳や痰が誘発されたり、気管支が収縮するようになってゆきます。これを「気道過敏性」と呼び、喘息に特徴的な現象とされています。

 

症状の現れ方  発作性の咳、喘鳴(ぜんめい)と呼吸困難が起こり、ごく軽度のものから死に至るものまであります。喘鳴と呼ばれる「ゼーゼー」、「ヒューヒュー」という音が、のどや胸で聞こえる特徴がありますが、軽症の場合は必ずしも聞こえるわけではありません。

 肺機能検査で、1秒間に息を十分に出せないこと(1秒率ならびに1秒量の低下)が証明され、それが気管支拡張薬(β2刺激薬)の吸入により改善すれば、喘息と診断されます。

 

喘息の呼吸困難の特徴は、息を吐こうとするときに気管支が狭くなり、スムーズに吐けないことです。これを、呼気性呼吸困難といい、こうした特徴をもつ障害を閉塞性呼吸障害といいます。閉塞性呼吸障害を示す代表的な病気が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。

 

喘息の状態を把握する指標、および発作の予知に役立つものとして、「ピークフロー値」とがあります。これは、息を勢いよく吐き出したときに息が流れる速度のこと。喘息によって気道が狭くなっていると空気が通りにくいため、ピークフロー値は標準値より低くなります。

ピークフロー値は、ピークフローメーターと呼ばれる簡単な機械でいつでも手軽に測定できます。喘息の患者さんにとってピークフローメーターは、体温計のようなものです。糖尿病患者さんが血糖値を測り、高血圧の患者さんが血圧を測るのと同じであるともいえるでしょう。

ピークフローの測定は毎日、朝と晩に3回ずつ測定し、一番高い値を日記に記録しておきましょう。測定は立った姿勢で、薬を服用あるいは吸入する前の決まった時間に測定することが大切です。

ピークフロー値を毎日決まった時間に測定することで、気道の状態を把握することができます。そして、喘息の悪化もいち早く知ることができるため、適切に対処できるのです。ピークフロー値を測定して喘息の状態を知り、それに応じた対応をすることを、「喘息管理のためのゾーン・マネジメント」といいます。

 

ピークフローの自己最高値や標準値を基準として判定します。

ゾーン

ピークフロー値

状態の判定

グリーンゾーン

80%~100%

良好な状態です。

イエローゾーン

50~80%以上

注意が必要です。

レッドゾーン

50%未満

ただちに受診が必要です。

*ピークフロー値の%は、基準に対する実測値の割合です。

 

喘息の治療法

喘息には、「症状が起こらないように毎日行う治療」と「症状や発作が起きた時に行う治療」の2つがあります。

症状が起こらないようにするには、慢性の気道の炎症をおさえることが重要です。基本の治療薬は、「吸入ステロイド薬」で、炎症をおさえる効果が高い薬剤です。最近は、この吸入ステロイド薬と、気道を広げ呼吸を楽にする長時間作用性β2刺激薬が一緒に吸入できる配合剤も使用されることがあります。

また、吸入ステロイド薬や配合剤などによる治療を毎日行うと同時に、症状のひき金となる刺激やアレルゲンを避けることも大切です。体調や室内の環境を整え、禁煙や十分な睡眠など生活習慣の改善や風邪をひかないよう心がけましょう。

一方、症状が起きた時は、それをしずめることが最優先なので、狭くなった気道をすみやかに広げる短時間作用性吸入β2刺激薬などの発作を抑える薬を使います。それでも症状が改善しない時や、苦しくて横になれないような状態の場合は救急外来をただちに受診してください。

 

発作を予防するための薬

喘息治療は気道炎症と気道狭窄(せまくなっていること)をおもにターゲットとしています。 中でも喘息の本態である炎症に対する治療が中心で、強力な抗炎症作用を持つ吸入ステロイ

ド薬が基本となっています。

その他に、気管支を広げる長時間作用性β2刺激薬やテオフィリン徐放薬、アレルギー反応を抑える抗アレルギー薬などがあり、状態に応じて吸入ステロイド薬と併用します。

 

・吸入ステロイド薬 吸入ステロイド薬は強い抗炎症作用があり、喘息治療に欠かせません。 この薬は、ゆっくり、じわじわと効いてくるので効果が出始めるまでに3日~1週間ほどか

かり、やめると効果がなくなってしまうので長期間、毎日続ける必要があります。 ステロイドというと副作用を心配する方も多いですが、吸入薬なので気道に直接とどき、内

服薬と比べて用いる量が非常に少なくてすみ(約100分の1)、全身への作用が少ない薬剤です。

ただし、吸入後は口の中に残った薬を洗い流すためうがいが必要です。

 

・長時間作用性β2刺激薬(気管支拡張剤) β2刺激薬は気管支を拡張する薬です。効果が速く出る短時間作用性のものは発作治療薬とし

て使われますが、効果が長く続く長時間作用性のものは長期管理薬として毎日使用します。長

時間作用性β2刺激薬は吸入薬、内服薬、貼り薬があり、吸入ステロイド薬と一緒に使用します。

 

・吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤 吸入ステロイド薬と長時間作用性β2刺激薬が一緒に配合されている吸入薬です。気道の炎症

をおさえる効果と、せまくなっている気道を広げる効果が同時に得られます。別々に吸入する

より効果が高くなることが分かっています。

 

・ロイコトリエン受容体拮抗薬 気道を収縮させたり、炎症を引きおこしたりするロイコトリエンというアレルギー反応によ

って生じる物質のはたらきを邪魔します。それにより気管支が広がり、また炎症もおさえられ

ます。喘息の合併症として多いアレルギー性鼻炎の治療薬としても使用されます。

 

・テオフィリン徐放薬 気道を広げる作用と、炎症をおさえる作用の両方を持っています。徐々に溶けるタイプの内

服薬で、作用が長時間持続します。血中のテオフィリンの濃度があがりすぎると中毒症状が出

ることがある。

 

・抗IgE抗体 気管支喘息の原因になっているIgE抗体という体内の物質のはたらきをおさえ、気道の炎症

をしずめます。高用量の吸入ステロイド薬など複数の治療薬を使用していてもコントロール

十分な難治性の患者に用いられます。2週間または4週間ごとに病院・診療所を受診して、皮

下に注射する薬です。

 

・抗アレルギー薬(ロイコトリエン受容体拮抗薬以外) 気道炎症の原因となるアレルギー反応をおさえます。さまざまな種類があり、最もよく使わ

れるのはロイコトリエン受容体拮抗薬ですが、その他にもメディエーター遊離抑制薬や、ヒス

タミンH1受容体拮抗薬、トロンボキサンA2阻害・拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬などがあ

ります。個人の症状に合った薬が用いられます。

 

喘息の発作がおきたとき

喘息の発作がおきたら、効果がすぐに出る発作治療薬を使って発作をしずめることが最優先となります。  喘息の発作治療薬としてよく用いられるのは、気管支を広げる短時間作用性吸入β2刺激薬です。テオフィリン薬を併用することもあります。

・短時間作用性吸入β2刺激薬 気管支を広げる作用が強く、速効性があり、喘息の発作時にすぐに呼吸を楽にしてくれる吸

入薬です。よく使われている噴霧式の器具の場合、吸入補助器具(スペーサー)を使うと、そ

のまま吸入するより効果が高くなります。ネブライザーで吸入する場合もあります。

改善が不十分であれば20分おきに吸入し、3回吸入しても(1時間たっても)呼吸困難があ

れば病院・診療所を受診しましょう。

 

・テオフィリン薬 気管支を広げるはたらきと、炎症をおさえるはたらきの両方を持つ薬です。ゆっくり効く徐

放薬が長期管理薬として用いられますが、すぐに効くタイプの内服薬もあり、喘息の発作治療

薬として使用されます。発作で病院・診療所を受診した際には注射薬が使われることがありま

す。

 

・経口ステロイド薬(プレドニゾロン) 吸入薬とは異なり、経口薬(内服薬)は喘息の発作時に使用します。β2刺激薬ほど速効性は

ありませんが、炎症の悪化を防ぎ、喘息の発作をしずめる効果が高い薬です。β2刺激薬などを

用いても発作がおさまらない場合や、中程度以上の喘息発作がおこった場合に使用します。発

作後数日間続けて服用することもあります。

 

・抗コリン薬 自律神経(副交感神経)から放出される気管支を収縮させるアセチルコリンという物質のは

たらきを抑えて、気道を広げる吸入薬です。短時間作用性β2刺激薬と一緒に使われることがあ

ります。

 

 

 

慢性気管支喘息の認定

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・最大限の薬物療法を行っても発作強度が大発作となり、無症状の期間がなく一般状態区分表のに該当する場合であって、予測肺活量1秒率が高度異常(測定不能を含む)、かつ、動脈血ガス分析値が高度異常で常に在宅酸素療法を必要とするもの

2級

呼吸困難を常に認める。常時とは限らないが、酸素療法を必要とし、一般状態区分表のエ又はウに該当する場合であって、プレドニゾロンに換算して1日に10㎎相当以上の連用、又は5㎎相当以上の連用と吸入ステロイド高用量の連用を必要とするもの

3級

喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難を週1回以上認める。非継続的なステロイド薬の使用を必要とする場合があり、一般状態区分表のウ又はイに該当する場合であって、吸入ステロイド中用量以上及び長期管理薬を追加薬として2剤以上の連用を必要とし、かつ短時間作用性吸入β2刺激薬頓用を少なくとも週に1回以上必要とするもの

障害手当金

 

 

喘息は疾患の性質上、肺機能や血液ガスだけで重症度を弁別することには無理がある。このため、臨床症状、治療内容を含めて総合的に判定する必要がある。

 


肺炎

肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)やその周辺組織に発生する感染症です。

世界で最も多い死亡原因の1つが肺炎です。

重い慢性的な病気が他にある患者にとって、肺炎はしばしば命にかかわる病気となります。

肺炎の種類によっては、ワクチン接種によって予防できます。

 

肺炎が発生する環境は、医師にとって最も重要なポイントの1つです。肺炎には、住んでいる地域で発生する市中肺炎、入院中に発生する院内感染肺炎、介護施設などの病院以外の施設で発生する施設内感染肺炎があります。この発生環境が、肺炎の原因となっている感染微生物の特定に役立ちます。たとえば、市中肺炎は、肺炎球菌という細菌の感染が原因となる可能性が高くなります。また、院内感染肺炎は、黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌や緑膿菌といったグラム陰性菌によって発生する可能性が高くなります。通常、感染微生物の種類によって、肺炎の重症度や治療法が異なり、たとえば、自宅で経口薬を飲むだけでよいか、病院で静脈注射を受けた方がよいかといった違いが生じます。

もう1つの重要なポイントは、肺炎が、健康な人に発生したのか、免疫力が低下している人に発生したのかということです。経口または静脈注射で投与するコルチコステロイド薬などの一部の薬剤は、エイズや癌などの病気にかかっているときと同じように、免疫力を低下させることがあります。また、高齢者によくみられるように、急性でも慢性でも重い病気があると、免疫力が低下する可能性があります。免疫力が低下している人は、肺炎にかかる可能性がきわめて高く、まれな微生物が肺炎を起こすこともあります。また、免疫力が低下している人では、治療を行っても、免疫が正常な人と同じような効果は得られない可能性があります。

肺炎にかかりやすくなる他の要因としては、アルコール依存症、喫煙、糖尿病、心不全、慢性閉塞性肺疾患などがあります。幼い小児や高齢者では、リスクが平均より高くなります。

 

原因

肺炎は1つの病気というよりは、むしろ多くの異なった病気の総称で、それぞれの病気は異なる微生物(細菌、ウイルス、真菌、寄生虫など)によって引き起こされます。肺炎は、一般に微生物が肺の内部まで吸いこまれて発症しますが、微生物が血流によって肺へ運ばれたり、付近の器官に感染した微生物が、直接肺へ移動したりして発症することもあります。特に腹部の手術や胸部のけが(外傷)の後で肺炎になることがあります。これは、呼吸が浅くなってせきが出にくくなり、粘液がたまるためです。また、衰弱している人、寝たきり状態の人、体が麻痺している人、意識がない人は、せき反射が損なわれたり、呼吸が浅くなっていたりするためにリスクが高くなります。また、口から吸いこんだ異物を除去できない場合や、肺内にできた腫瘍が気管をさえぎるなどして閉塞したところの裏側に細菌が増えた場合に肺炎になることもあります。前者を誤嚥性肺炎、後者を閉塞性肺炎と呼びます。

 

症状

肺炎で最もよくみられる症状は、たんがからんだせきです。その他、胸痛、悪寒、発熱、息切れなどがよくみられます。ただし、これらの症状は肺炎の広がる程度や原因となっている微生物の種類によって異なります。

乳児や高齢者では、さらに異なった症状が現れます。発熱しないこともあります。また、胸痛が生じないこともあり、胸痛があっても、それを伝えることができないこともあります。さらに、唯一の症状が、息が速くなるだけとか、突然食べなくなるだけという場合もあります。高齢者では、突然錯乱を起こすこともあります。

 

合併症:

重度の肺炎では、酸素が血流に移行しにくくなることがあり、そうなると息切れを覚えます。酸素濃度の低下は命にかかわることがあります。

 

肺炎の種類によっては、肺膿瘍を来す場合や、膿が肺周辺にたまる膿胸と呼ばれる状態になる場合があります。

 

診断

医師または看護師は、聴診器で胸部の音を聞き、肺炎かどうか調べます。通常、肺炎では独特の音が聞かれます。こうした異常音は、気道が狭くなることや、正常なら空気で満ちた部分が、炎症を起こした細胞や滲出液で満たされるために起こり、この過程を肺の硬化と呼びます。ほとんどの場合、胸部Ⅹ線検査によって肺炎の診断が確定します。

重症で入院が必要な患者では、肺炎の原因となっている微生物を特定するために、たん、血液、尿のサンプルの培養検査がよく行われます。たんのサンプルは、蒸気を吸入してたんが生じるようにした後、深いせきをしてたんを出す方法や、気管支鏡を気道に挿入する気管支鏡検査を行って採取します。せきを誘発させて採取したたんのサンプルや、特に気管支鏡により採取したサンプルは唾液を含んでいる可能性が少なく、自発的に吐き出したたんのサンプルよりも肺炎の原因となっている微生物をはるかに特定しやすくなります。病気が重い人や免疫力が低下している人、治療にうまく反応しない人の場合は、原因となっている微生物を特定することが特に重要になります。しかし、これらの検査を行っても、ほとんどの肺炎患者で正確に微生物を確定することはできません。

 

予防

肺炎を予防する最も効果的な方法は、禁煙です。肺炎球菌が引き起こす肺炎球菌性肺炎をある程度予防できるワクチンや、インフルエンザ菌が引き起こす肺炎をほぼ100%予防できるワクチンが利用できます。インフルエンザウイルスが引き起こす肺炎を予防するワクチンの効果は、ワクチンに用いたウイルスの型がその年に流行したウイルスの型とどれくらいマッチしていたかに左右されます。過去10年中9年で、ワクチンの予防効果は非常に良好でした。水痘ウイルスが引き起こす肺炎の予防にも、ワクチン接種が有効である可能性があります。

深呼吸の訓練や気道の分泌物を除去する治療は、胸部や腹部の手術を受けた人や衰弱した人など、肺炎になるリスクが高い患者に対して予防効果があります。

 

治療

肺炎になってしまった患者でも、気道の分泌物の除去は必要で、深呼吸の訓練や治療が有益です。肺炎患者に息切れがある場合や、血液中の酸素濃度が低い場合は、酸素補給が行われます。安静は治療の重要な一部ですが、体を動かしたりベッドからいすへ移るようにすることが勧められます。

通常、細菌性肺炎が疑われる場合は、原因菌が特定される前であっても、抗生物質の投与を開始します。抗生物質の使用開始が早ければ、肺炎が重症化する割合や、命にかかわる合併症を起こす可能性を減らすことができます。

抗生物質を選択する際に、医師は原因となっている可能性が高い微生物を検討します。微生物を特定して、さまざまな抗生物質に対する感受性を調べた上で、別の抗生物質に変更することもあります。肺炎の症状が軽い患者であれば、経口の抗生物質を服用して、自宅療養することもよくあります。高齢者や乳児の他、息切れがあったり、病状が重かったり、もともと肺や心臓の病気がある人では、通常、入院して抗生物質の静脈注射を開始します。この場合の抗生物質は、普通、数日後には経口投与に変更されます。このような人では、酸素補給や輸液も必要になることがあり、病状がきわめて重い場合は、人工呼吸器も必要になります。

抗生物質は、ウイルス性肺炎には効果がありません。しかし、RSウイルスに感染している乳児やインフルエンザウイルスの感染者など、少なくとも肺炎に非常にかかりやすい人に対しては、ウイルス性肺炎に続いて細菌性肺炎を起こす可能性がある場合、抗生物質を投与します。

 

 

ワクチンで予防できる肺炎

 

一部の肺炎は、ワクチン接種によって予防できます。

 

肺炎球菌ワクチン:

肺炎球菌性肺炎は、肺炎球菌が引き起こす肺炎で、肺炎球菌ワクチンで予防できる場合があります。肺炎球菌性肺炎を引き起こす微生物は、他にも血液の感染症や髄膜炎といった多くの感染症を引き起こす可能性があります。この肺炎球菌ワクチンによって、このような重篤な肺炎球菌性感染症の多くを予防することもできます。ワクチン接種が勧められるのは、65歳を過ぎたすべての高齢者の他、65歳以下であっても、肺や心臓の病気がある人、免疫機能が低下している人、糖尿病の人、脾臓を摘出した人といった肺炎球菌性肺炎のリスクが高い人です。ワクチンによる予防効果は一生続くと考えられますが、最もリスクが高い人は、5年後に再接種することが勧められます。注射したところが一時的に痛むことがよくありますが、ワクチン接種後に発熱や筋肉痛を起こす人は1%にすぎません。重度のアレルギー反応を起こす人は、さらに少なくなります。妊娠している女性はこのワクチンを接種すべきではありません。

 

肺炎球菌結合型ワクチン:

このワクチンにも、肺炎を含む肺炎球菌性感染症に対する予防効果があります。2歳未満の小児に対して、ワクチン接種が行われています。

 

インフルエンザ菌b型ワクチン:

インフルエンザ菌b型が引き起こす肺炎は、インフルエンザ菌b型ワクチンにより予防できます。この微生物が引き起こす他の感染症と同様に、肺炎の予防にも、すべての小児に対して、このワクチン接種が勧められます。米国では、生後2ヵ月と4ヵ月、ときには生後6ヵ月を加えて、2回ないし3回のワクチン接種が行われます。

 

インフルエンザワクチン:

インフルエンザウイルスが引き起こす肺炎は、通常、インフルエンザワクチンで予防できます。医療関係者や高齢者の他、肺気腫、糖尿病、心臓病、腎臓病などの慢性的な病気のある患者では、インフルエンザワクチンを毎年接種することが勧められます。十分な量のワクチンが供給可能であれば、すべての人にワクチン接種を勧める専門家もいます。インフルエンザが最も流行する11~3月にかけて抗体価が最大になるように、毎年秋(9~11月)にワクチンを接種すべきです。どのウイルス株が最も流行する可能性が高いかという予測に基づいて、毎年異なるワクチンが導入されています。

 

水痘ワクチン:

水痘ウイルスが引き起こす肺炎は、水痘ワクチンで予防できることがあります。このウイルスによる肺炎はきわめてまれです。初回のワクチン接種は生後12カ月から15カ月の間に行い、2回目の接種は4歳から6歳の間に行います。ワクチンをまだ接種したことがない6~12歳の小児では、過去の感染による自然免疫が検査で確認されない場合は、ワクチンを接種すべきです。水ぼうそう(水痘)になったことがある人でもワクチン接種は安全であると考えられるため、検査なしで接種しても問題ありません。13歳以上では、検査で自然免疫が確認されなかった場合のみ、ワクチンを接種すべきです。この場合、ワクチン接種は4~8週間の間隔をおいて2回行います。

 


○間質性肺炎

 肺は肺胞というブドウの房状の小さな袋がたくさん集まってできています。間質性肺炎は、この肺胞の壁の正常構造が壊れて線維化(ケロイドのような傷あと)が起こる病気です。肺胞の壁を通して人は酸素を取り込んでいますが、この壁が固く、厚くなるために、酸素を取り込みづらくなります。

 

間質性肺炎の原因はさまざまで、膠原病じん肺、放射線、アレルギー性のものなどがありますが、原因不明のものを特発性間質性肺炎といいます。

 

症状  症状には、呼吸困難、発熱、関節痛、皮疹、ばち指などが主な症状ですが、症状がほとんど見られない場合もあります。多くは50歳代以降に、労作時の息切れや咳嗽を自覚します。

 

間質に線維化がおこる病気を「肺線維症[はいせんいしょう]」とよび、原因が不明なもののなかで最も多いのが特発性肺線維症[とくはつせいはいせんいしょう]、IPFです。

 

健康な肺では、たとえ肺胞に傷がついても、その傷は修復され、スムーズなガス交換が維持されます。  しかし、肺胞に長期にわたって、くりかえし傷がつくと、その傷を治そうとする働きによって、大量のコラーゲン線維などが肺胞の壁(間質)に蓄積されます。その結果、酸素や二酸化炭素の通り道である間質が厚く、硬くなる線維化がおこると考えられています。  間質に線維化がおこると、肺が十分にふくらまなくなり、ガス交換がうまくできずに、酸素が不足し息苦しくなります。

 

予後と治療  病型の中で最も頻度が高いのは「特発性肺線維症」と呼ばれるものです。この病型では、息切れは徐々に進行し、平均的な予後は病気を指摘されてから約5年とされています。病気が進行すると、在宅酸素療法を用いることがあります。進行の程度が速い患者さんには抗線維化薬を用いることにより、進行を緩徐にすることができる場合がありますが、効果には個人差が見られます。その他の病型の特発性間質性肺炎には、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)や免疫を抑える薬が有効であることがあります。

 

急性増悪  風邪などを契機に急激に病状が悪化することがあり、これを急性増悪(ぞうあく)といいます。ステロイド薬などで治療を行いますが、非常に致死率の高い状態になりえます。急性増悪のリスクとなるため風邪をひかないように日常の手洗い、うがいを徹底する必要があります。また、肺炎やインフルエンザのワクチンを適宜受けておくことも推奨されます。

 

 間質性肺炎は、肺の間質組織の線維化が起こる疾患の総称です。進行して炎症組織が線維化したものを肺線維症と呼ばれ、間質性肺炎には原因不明の特発性間質性肺炎と、膠原病などを原因とする二次性の間質性肺炎があります。 症状が重くなると、24時間の在宅酸素療法に頼らなければならなくなります。

 

 

 肺疾患に罹患し手術を受け、その後呼吸不全に至ったとき、呼吸不全の発症までの期間が長いものでも、相互因果関係「あり」とされ、肺疾患に罹患し手術を受けた日が初診日となる。

 

 


肺気腫

 肺はスポンジの泡状の肺胞と呼ばれる小さな空洞の集まりあるが、肺気腫ではこの空洞が壊れて大きくなる。肺では酸素を取り入れているので、肺胞が壊れてくると十分な酸素が取り込めなくなる。そのため息切れが起こる。

 

 肺気腫の主な症状は息切れです。息切れの程度は様々です。病気の症状の最初は軽く、坂道や階段を登った時だけに現れます。それが段々と進行していき、平地を歩いていても息切れするようになります。最終的には話をするのも息苦しくなります。他の症状としては慢性の咳でしばしば一日中でます。

 

 肺気腫の主要因は喫煙といわれています。たばこの煙が刺激となり、気管支に炎症が起こり、最終的には肺胞が破壊されることによって呼吸困難な状況に陥るのです。

 

 肺気腫は、一度発病させると病気の進行を止めることも回復させることも不可能です。そのため、病気の進行を食い止めることが治療方針となります。まず行われることは禁煙です。また、症状の緩和のために気管支拡張薬や痰を出しやすくする薬剤などを使用した薬物療法が行われます。一般的にはβ刺激薬や抗コリン剤などが使用されます。症状の緩和のためには、体力をつけることも大切で運動療法や呼吸トレーニングなどが行われることも多いです。

 

 いよいよ呼吸困難が強くなると酸素吸入という方法もあります。酸素吸入というと病院でしか出来ないように思われがちですが、空気中から酸素を取り出して濃縮し、濃度の高い酸素を吸入できる機械があります。

 

 

肺性心

肺性心は、肺の基礎疾患に関連して発生する肺高血圧症である。

 肺の病気が原因で肺での血液の流れが悪くなり、肺へ血液を送り出している右心室に負担がかかって、右心室が大きくなったり(右室拡大)、右心室のはたらきが悪く(右心不全)なった状態である。もともとの心臓病でなく、肺の病気が原因で心臓に異常が起きたものをいいます。

 

肺動脈が酸素濃度の低下に反応して収縮し、肥厚化することによって肺性心が生じます。

この肥厚化によって肺に流れる血液の通路が狭くなり、この血管狭窄によって次には肺動脈の血圧が上昇します。一度肺高血圧症が発生すると、それに対処するために心臓の右側に大きな負担がかかるようになり、この負担増加によって心臓の右側は拡大化や肥厚化を起こします。このような変化によって右側心不全になることがあります。

右心室が機能不全に陥ると、血液の流れが異常に遅くなるため、脚に血液が滞留しやすくなり、肺塞栓症のリスクが高まります。血液が滞留して血栓ができると、最終的には血液の流れに乗って肺に到達し、そこの血管を詰まらせ、危険な結末になります。

 

 慢性閉塞性肺疾患、肺結核後遺症、肺線維症などの慢性の肺の病気と、肺血栓塞栓症や原発性肺高血圧症などの肺血管の病気が原因となります。通常、慢性に経過する病気が多いのですが、重篤な急性肺血栓塞栓症では、右心不全のためしばしば呼吸困難や意識消失を引き起こします。このような病態を急性肺性心と呼びます。

 

症状の現れ方は、咳(せき)、痰、易疲労感のほか、胸がゼーゼーしたり(喘鳴(ぜんめい))、呼吸困難が出現する。  進行すると呼吸困難が強くなり、酸素不足のために唇や爪が紫色(チアノーゼ)になったり、静脈の流れが悪くなるために肝臓がはれてきたり、むくみ(浮腫)が出てきたりする。

 

治療の方法  基本的には、肺性心の原因である肺の病気に対する治療を行います。

低酸素血症は肺血管の抵抗を上昇させ、肺性心を悪化させる要因となるので、慢性呼吸不全を合併した肺性心の患者さんは在宅酸素療法を行います。ただし、不用意に多量の酸素吸入を行うと、血液中の二酸化炭素がたまりすぎ、呼吸が止まってしまうことがあるので注意が必要です。

 右心不全に対しては、右心室にかかった負荷を軽くするため、フロセミドなどの余分な水分を尿として排泄させる利尿薬、ジゴキシンやジギトキシンなどの心臓のはたらきを強くする強心薬、マレイン酸エナラプリル(レニベース)やロサルタンカリウム(ニューロタン)などの血管拡張薬を使います。

 

 

 慢性肺疾患(肺気腫など)によって非代償性肺性心を発症しているものは3級です。

 

 


肺寒栓症

 

肺塞栓症は主に脚にできた深部静脈血栓が、血流によって肺動脈まで運ばれてくるために起こります。

 

手術や入院安静などの後に呼吸困難や胸部痛ではじまり、重篤な場合は死にいたる合併症です。  長時間の航空機搭乗や災害時に自家用車に避難していて生じたという報告もあります。いわゆる「エコノミークラス症候群」です。

 

原因と病態  下肢にも動脈と静脈があり、安静にしていると静脈の流れが遅くなり、血管の中で血液が固まることがあります。これを「深部静脈血栓症」といい、血液の塊(血栓)が流れて肺動脈に詰まったものが「肺血栓塞栓症」です。大きな血栓が詰まると救命できません。

 

動脈が完全に詰まるか、もしくは狭くなって起こる病気は、心筋梗塞や脳梗塞がよく知られています。これらの病気では各臓器の細胞の一部が死滅して、組織の一部に元の状態には戻らない「不可逆的」な変化(壊死)が起こり、機能は回復しません。しかし、肺塞栓症の場合は、肺組織が破壊されるのは患者さんの10~15%程度と考えられています。それは肺組織には、肺動脈とともに大動脈から枝分かれした気管支動脈からも、血液が供給されているからです。

 

肺塞栓症の治療法

治療法は一律ではありません。肺塞栓症の重症度、合併する疾患、深部静脈血栓の有無、治療する施設の特性によって変わります。

大きく分けて、薬、カテーテル治療、外科手術の三つがあります。それに、大半の方は酸素吸入が必要です。重篤な肺塞栓症では心臓の働きを強くする薬(強心薬)、人工呼吸器、心臓と肺の働きを一部肩代わりする装置(経皮的心肺補助装置)も併せて用いられます。

 

1.血液をさらさらにする治療(抗凝固療法)

肺は本来、体の各部分から流れてきた小さな血栓をとらえ、頭や心臓などの動脈に流れ込まないようにする働きがあり、血栓を溶かす作用もあります。ですから、新たな血栓ができなければ、時間はかかりますが、肺血管内の血栓の大半は自然に溶けていきます。

しかし、肺塞栓症を起こした方は、出血性の合併症などがない限り、抗凝固療法を行います。使用する薬剤はヘパリンとワルファリンがあります。ヘパリンは静脈注射(あるいは皮下注射)で、ワルファリンは経口薬です。ワルファリンは、血液をさらさらにする作用を十分に発揮するまでに時間がかかります。ですから、治療はヘパリンで始め、その後、ワルファリンを追加し、ワルファリンの効果が出たら、ヘパリンを中止します。効果が得られるワルファリンの量には個人差があります。

ワルファリンの効果は多くの要因に影響されるので、定期的に採血し、国際感度指数(INR)などの検査値を指標に使用量を増減します。

併用する薬、食べ物の種類や量、腸内に住みついている善玉の細菌の種類と数などによって、ワルファリンの効果は左右されるのです(反対に、ワルファリンが併用薬の効果に影響を与えることもあります)。

 

2.血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)

理屈では非常に有効な治療法といえます。しかし、血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)は、残念ながら出血を起こしやすくします。また深部静脈血栓が残っている場合は、それがはがれて肺動脈に流れ着き、肺塞栓症をさらに悪化させてしまう可能性もあります。こうしたマイナス面を考えても、なおメリットがある場合にのみ、この薬が用いられています。つまり、どの肺塞栓症にも血栓溶解薬が有効であるとは限らないのです。

患者の重症度からみて、血栓溶解薬の適応となるのは、ショック(末梢の血液の循環不全による血圧低下、意識の混濁など)に陥っている場合です。こうした重症の肺塞栓症に血栓溶解薬を使用すると、死亡率が下がることがわかっています。

また、ショックにはなっていない段階でも、肺塞栓のため右心室に負担がかかっているときには、血栓溶解薬なしでの治療は極めて難しくなるので、用いた方がよいと考えられています。

ただし、この程度の重症度の患者さんに使用する場合は、死亡率は改善しません。死亡率は下がらないものの、血栓溶解薬を使用すると、短時間で状態が改善するメリットがあります。血栓溶解薬の一種である「組織プラスミノーゲン・アクチベーター(t-PA)」は多くの場合、投与後2時間以内に効果が現れてきます。

血栓溶解薬には欠点もあります。採血をした部位など針を刺したところから、じわりじわり出血したり、手術の傷口からの出血が起こったりします。その量が少なければ、自然によくなりますが、大量であれば輸血が必要になります。

さらに重い合併症は消化管出血、頭蓋内出血です。とくに頭蓋内出血では後遺症が生じることがありますし、致命的となる場合すらありますので、十分慎重に検討した上で使わなければなりません。

使ってはならない場合(禁忌)もあります。脳血管疾患の既往のある方では頭蓋内出血が生じる可能性が高くなると考えられ、血栓溶解療法はしないことになっています。

手術直後の場合、手術部位からの出血が起こりうるのですが、血栓溶解薬を絶対に使ってはならないわけでなく、手術した臓器、手術後の日数、肺塞栓症の重症度などを考慮し、個々の症例ごとに使用するかどうかを判断します。

 

3.カテーテル治療

カテーテル(細い管)を使う治療法には、カテーテル血栓溶解療法、カテーテル血栓吸引術、さらに破砕術が含まれます。肺動脈内にできた血栓の近くまでカテーテルを進めて、色々な治療を行い血管を再開通させようとする方法です。

ただ、単にカテーテルの先端から薬剤を流すだけでは、点滴で投与する場合に比べ、より優れた効果があるとはいえませんが、圧力をかけて薬剤をスプレー状に放出し、積極的に血栓内に薬剤を入れる投与法は、治療効果を向上させるのではないかと期待されています。

カテーテル血栓吸引術と破砕術は、言葉が示すように肺動脈内の血栓を吸い取ったり、粉々に砕く方法です。吸引できれば血液の流れの障害になっている血栓が消えるわけで、状態は劇的に改善します。

粉々に砕いてしまっても肺血管内にある総血栓量としては変化しませんが、粉々になった血栓が薬剤と接触する表面積は、粉々になる前より増加して、血栓は溶けやすくなります。

カテーテル血栓吸引術では、血栓が十分に取り除ければ短時間で病状が改善します。しかし、この方法に習熟したスタッフがいる病院でないとできませんし、治療成績も手術者の技術にかかっているといえます。

 

4.外科治療(血栓摘除術)

肺血管内にある血栓を手術で取り除くのが、外科的血栓摘除術です。血栓が取り除ければ状態は急速に改善します。手術の適応範囲については意見が分かれています。しかし、重症なのに血栓溶解薬が使えず、カテーテル治療ができない場合は、外科療法を最優先すべきです。

 

5.下大静脈フィルター

下大静脈フィルターは、ここまで説明してきた治療とは異なります。

脚の静脈にできた血栓がはがれて流れてきたときに、それをフィルターでとらえ、肺塞栓症を起こさないよう予防道具として用います。

以前は、下大静脈に留置すると生涯、体に入れたままの永久留置型フィルターだけでしたが、その後、非永久留置型が開発され、現在では病状にあわせて使い分けるようになっています。

 

 


肺塞栓症

 

肺塞栓症は、ひとかたまりになった固形物が血液の流れに乗って肺の動脈(肺動脈)に運ばれ、そこを突然ふさいでしまう(塞栓)病気です。通常は血液のかたまり(血栓)ですが、まれに別の異物の場合もあります。

肺塞栓症は、一般に血栓によって発生しますが、別の物質が塞栓を形成して動脈をふさぐこともあります。

症状はさまざまですが、一般に息切れなどがみられます。

医師は、しばしば肺スキャンやCT血管造影検査を行い、肺動脈のふさがりを探して肺塞栓症と診断します。

肺塞栓症のリスクが高い場合は、予防に血液希釈剤(抗凝固薬)を使用することがあります。

体内で血栓が自然に溶けるまでは、抗凝固薬を投与して、塞栓が大きくならないようにしますが、命にかかわるおそれがある場合は、血栓を分解する薬の投与や手術といった別の手段が必要になることもあります。

肺動脈は心臓から肺へ血液を運んでいます。血液は肺から酸素を受け取り、心臓に戻ってきます。そして、心臓から全身の組織へ血液が押し出され、酸素が供給されます。肺動脈が1本でも塞栓でふさがれると、血液中に十分な酸素が得られなくなるおそれがあります。塞栓が大きいほど閉塞の程度が大きくなると考えられるため、まだ開いている肺動脈を通して血液を送り出そうとする心臓に負担がかかります。心臓から押し出される血液があまりにも少ない場合や心臓に過度の負担がかかった場合は、ショック状態に陥り、死亡することがあります。時には、血液の流れが止まることによって、肺組織が壊死する肺梗塞と呼ばれる状態になることがあります。

通常、血栓が小さければすばやく分解されるため、障害は最小限に抑えられます。血栓が大きいほど分解されるまでの時間が長くなるため、障害が大きくなります。

入院患者の約1%が肺塞栓症です。剖検を行った患者の約5%で、予期しない肺塞栓症が死因であったことが明らかになっています。

 

原因

肺塞栓症で最もよくみられるのは、一般に血液の流れが遅くなったり停滞したりした際に脚や骨盤の静脈に生じる血栓です。このような血栓は、同じ姿勢を長時間続けていた場合に、脚の静脈に発生することがあります。長期間寝たきりになっている人や大きな手術から回復しつつある人は、リスクが高くなります。飛行機に乗っているときのように長時間動き回らずに座っている場合は、リスクがやや高くなります。ごくまれに、腕の静脈や心臓の右側に血栓ができることもあります。血栓が砕けて血液の流れに乗ると、通常は肺に到達します。

 

特殊なタイプの塞栓:

肺動脈の突然の閉塞は、血栓により発生するだけではありません。ほかの物質も塞栓を形成することがあります。

 

脂肪は、長い骨が折れたときや骨の手術中に骨髄から血液中に漏れ出して、塞栓を形成することがあります。

羊水は、難産の場合に骨盤の静脈内へ押し出され、塞栓を形成することがあります。

癌細胞は、腫瘍塊から分離して血液の流れに乗り、腫瘍塞栓を形成することがあります。

空気の泡は、大静脈の1つ(中心静脈)に留置したカテーテルが不注意で開放された場合に侵入して、塞栓を形成することがあります。また、静脈の手術中(血栓を取り除いているときなど)や、蘇生を行っているとき(胸部圧迫で力が加わるため)に、空気塞栓が形成されることもあります。さらに、潜水時も空気塞栓のリスクが高くなります。

感染物質は、同様に塞栓を形成して、肺に達することがあります。その原因としては、静脈注射の薬物使用、ある種の心臓弁感染症、血栓形成や感染を伴う静脈の炎症(敗血症性血栓性静脈炎)などがあります。

異物は、通常、注射薬物使用者がタルクなどの無機物質を静脈注射することで血液中に入りこむ可能性があり、それが塞栓を形成して、肺に達することがあります。

 

症状

症状は、肺動脈のふさがっている範囲や、患者の全般的な健康状態によります。たとえば、慢性閉塞性肺疾患や冠動脈疾患といった他の病気があると、日常生活に支障を来す症状が現れやすくなります。

塞栓が小さければ、まったく症状がみられないこともありますが、症状が起こるのは突然なのが普通です。特に肺梗塞が起きていない場合は、息切れ以外の症状がみられないこともあります。多くの場合、呼吸が非常に速くなって、不安を感じて落ち着かず、不安発作を起こしているようにみえます。胸に痛みを感じる場合もあります。場合によっては、初期症状として、めまい、失神、けいれん発作などがみられることもあります。高齢者では、初期症状として、錯乱や精神機能低下がみられる場合もあります。これらの症状は、一般に酸素を豊富に含んだ血液を脳やその他の器官へ送る心臓の能力が突然低下するために生じます。

心拍が速くなったり、不規則になったり、両方が起こることがあります。塞栓が大きいと、血圧が危険なほど低くなったり(ショック)、皮膚が青みを帯びたり(チアノーゼ)することがあり、突然死亡することもあります。

肺梗塞の症状は、数時間後に現れます。肺梗塞になると、血の混じったたんを伴うこともあるせきがでて、息を吸うときに鋭い胸の痛みを感じ、場合によっては発熱することもあります。これらの症状は、数日間続くことが多いものの、通常は日ごとに軽くなります。

小さな肺の塞栓が繰り返し発生すると、慢性的な息切れ、足首や脚のむくみ、脱力感などの症状が、数週間ないし数カ月、あるいは数年にわたって、徐々に悪化する傾向がみられます。

 

診断

医師は、患者の症状に加え、最近の手術歴、長期間の寝たきり状態、遺伝性の血栓形成傾向などの危険因子に基づいて、肺塞栓症を疑います。肺の塞栓が大きい場合、特に、脚にみられる血栓の徴候など、明らかな前兆がある場合は、比較的容易に診断できることがあります。しかし、多くの場合、症状がみられなかったり、はっきりした特徴がなかったりします。これが、肺塞栓症の診断がしばしば困難となる重要な理由です。実際に医師にとって、肺塞栓症は認識や診断が最も困難な重大疾患の1つとなっています。

胸部X線検査で、塞栓後の血管影の微小な変化や、肺梗塞の徴候が明らかになることがあります。しかし、X線検査の結果は正常なことが多く、異常があっても、医師が確信をもって診断を下せることはほとんどありません。

心電図検査で異常がみられることがありますが、こうした異常はしばしば一過性で、肺塞栓症の可能性を支持するにすぎません。

患者の症状と危険因子に加え、さまざまな検査の結果から、医師は肺塞栓症の可能性を推定します。こうした推定のなかで、他に実施する検査を判断します。切開を伴ったり、体内に器具を入れたりする侵襲的な検査を行う前に、患者の負担が少ない非侵襲的な検査を行うようにします。非侵襲的な検査は、一般に実施が容易で、副作用のリスクも少なくなります。たとえば、肺塞栓症の可能性が低そうな場合は、Dダイマーと呼ばれる物質を測定する血液検査にとどめることがあります。肺塞栓症である可能性が高いような場合や、血液検査でDダイマーの値が異常な場合は、さらに検査を行います。これにはCT血管造影検査、脚の超音波検査、肺血流スキャンなどが含まれます。これらの検査は、非侵襲的な検査です。非侵襲的な検査を行っても診断がはっきりしない場合は、侵襲的な検査(たとえば、肺血管造影など)を行うことがあります。

CT血管造影検査は、CT(コンピュータ断層撮影)検査の一種です。検査時間が短い非侵襲的な検査で、特に血栓が大きい場合はかなり正確です。この検査では、まず造影剤を静脈に注射します。造影剤が肺に達したら、CTスキャナーにより動脈を流れる血液の画像を構成し、血液の流れを妨げている肺塞栓がないか判定します。CT血管造影検査は、肺塞栓症の診断に最も多く使用されている画像診断検査です。

脚の超音波検査も非侵襲的な検査で、肺塞栓症で一般的な原因となる脚の血栓を確認できます。この検査で血栓が認められなくても、肺塞栓症ではないとはいえません。しかし、この検査で血栓が明らかになれば、さらに検査をしなくても、通常は肺塞栓症を想定して治療を開始します。

肺血流スキャンも非侵襲的な検査で、かなり正確ですが、検査時間は短くありません。まず少量の放射性物質を静脈内に注射し、それが肺に達したら、肺への血液供給(潅流)状況を映し出します。スキャンの結果がまったく正常であれば、重大な血管の閉塞がないことを示しています。スキャンの結果に異常があれば、肺塞栓症の可能性が疑われますが、損傷を受けた肺組織への血流が減少することがある肺気腫など、肺塞栓症以外の病気を反映していることもあります。

一般に、肺血流スキャンは肺換気スキャンと同時に実施されます。まず、体に無害でごくわずかな放射性物質を含んだガスを吸入すると、そのガスが肺の小さな空気の袋(肺胞)全体に広がります。すると二酸化炭素が放出され、酸素が取りこまれている場所をスキャナーで見ることができます。この肺換気スキャンの結果を肺血流スキャンで得られた血液供給パターンと比較することにより、通常は肺塞栓症かどうかを判断することができます。

肺動脈血管造影法は、肺塞栓症を診断する最も正確な検査法ですが、侵襲的な検査で多少のリスクがあり、他の検査より強い不快感を伴います。通常は、他の検査ではっきりした結果が得られなかった場合にのみ行われます。

 

予後(経過の見通し)

肺塞栓症により死亡する可能性は非常に低いものの、重症の場合は突然死の原因になります。診断が下される前に死亡することがほとんどで、塞栓が発生してから1~2時間以内に死亡す

ることがよくあります。診断時に生存していれば、命が助かる可能性は約95%です。生存の重要な因子として、塞栓の大きさ、ふさがっている肺動脈の太さや数、患者の全般的な健康状態などがあります。心臓や肺に重度の障害があれば、肺塞栓症により死亡するリスクが高くなります。心臓や肺の機能が正常であれば、塞栓が肺動脈の半分以上をふさがない限り、通常は命にかかわることはありません。

 

予防

医師は、肺塞栓症の危険性や治療法が限られていることを考慮して、リスクがある人には静脈内に血栓ができないような予防を試みます。一般に、特に血栓ができやすい人は、体を積極的に動かすようにし、できるだけ動き回るようにすべきです。たとえば、飛行機による長時間の旅行では、2時間おきに立ち上がって歩き回るようにすべきです。

 

抗凝固薬による予防法:

特定の患者には抗凝固薬が投与されますが、その場合、ヘパリンが最もよく使用されます。ヘパリンには従来の製剤と低分子量の2種類があります。有効性はどちらも同じと考えられます。どんな大手術の後であれ、特に脚への手術の後には、ふくらはぎの静脈に血栓ができる可能性を減らすために、ヘパリンが最も広く使用されています。少量のヘパリンを手術の直前に皮下注射し、理想的には患者が起き上がって再び歩けるようになるまで、適切な用量が追加投与されます。肺塞栓症を発症するリスクが高い入院患者(心不全の患者、動けない患者、肥満の患者、以前に血栓ができたことがある患者など)は、手術を受けなくても、少量のヘパリン投与が有益です。低用量のヘパリンであれば、主な出血性合併症の頻度が高まることはありませんが、傷口から血液がにじみ出る軽い出血が増加することがあります。

ワルファリンは経口の抗凝固薬で、危険因子が1つ以上あれば、使用されることがあります。また、股関節部骨折の手術や人工関節置換術など、特に血栓ができやすい特定の手術法を受

けた場合にもワルファリンが使用されます。ワルファリンによる治療を数週間から数カ月にわたって続けなければならないこともあります。このような状況では、低分子量ヘパリンも有効です。

最新の抗凝固薬には、トロンビン(血栓の形成を促す物質)の産生を阻害するヒルジンという薬や、生体の血栓産生を亢進する他の物質の生成を抑制するダナパロイドやフォンダパリヌクスといった薬があります。これらの薬は血栓予防に有効ですが、ヘパリンと比べて優位性があるかどうか調べる研究がまだ行われています。

 

理学的な予防法:

手術を受けた患者(特に高齢者)では、加圧弾性ストッキングの着用、脚の運動を行う、できるだけ早くベッドから起き上がり積極的に動き回るなどによって、血栓ができるリスクを減らすことができます。脚を動かすことができない場合は、間欠的に空気で圧迫する装置により、脚を周期的に圧迫することで、脚の血液の流れを保つことができます。しかし、股関節や膝の手術を受けた患者では、こうした装置だけで血液凝固を予防するには不十分です。

 

治療

肺塞栓症の治療は、症状に合わせた対症療法から始めます。血液中の酸素濃度が低い場合は、酸素を投与します。痛みの緩和には鎮痛薬を使用します。血圧が低い場合は、静脈に輸液を行い、場合によっては、血圧を上げる薬を投与します。呼吸不全に陥った場合は、人工呼吸器(挿管)が必要になることがあります。

 

抗凝固療法:

ヘパリンなどの抗凝固薬を投与して、すでにできた血栓が大きくなったり、新たな血栓ができたりするのを防ぎます。医師は、すみやかに効果が現れるように、静脈からヘパリンを投与し、慎重に用量を調節します。また、治療開始から24時間以内に、最大の抗凝固作用が得られるように努力します。低分子量ヘパリンは、従来のヘパリンと同程度の効果があると考えられますが、従来のヘパリンで一般に推奨されていた血液検査による管理は必要ありません。ワルファリンも血液凝固を阻害しますが、効果が現れるまで時間がかかるため、ヘパリンの次に投与します。ワルファリンは経口薬で、長期間の使用が可能です。血液検査でワルファリンによる血栓の予防効果が確認されるまで、5~7日間はヘパリンとワルファリンを併用します。その後に、ヘパリンを中止します。

抗凝固薬の使用期間は、患者の状況によってさまざまです。手術などの一時的な要因で肺塞栓症が生じた場合は、2~3カ月間の治療が行われます。長期にわたる寝たきりなど、ある程度長期的な問題が要因となる場合は、通常、3~6カ月間の治療が行われますが、場合によっては、無期限に治療を続けなければなりません。たとえば、肺塞栓症を何度も再発する場合は、遺伝性の凝固障害によるものが多く、通常は生涯にわたって抗凝固薬を使用します。ワルファリンを服用している間は、定期的に血液検査を受けて、用量を調節する必要があるかどうか判定しなければなりません。

食生活の変化や他の薬の使用によって、ワルファリンの抗凝固効果が影響を受けることがあります。このために抗凝固作用が過剰に働くと、多くの臓器で大量出血を起こすことがあります。多くの薬がワルファリンと相互作用を起こす可能性があるため、抗凝固薬を使用する場合は、アセトアミノフェンやアスピリンのような処方せんなしで入手可能な薬(市販薬)、漢方生薬製剤、サプリメントなどを含めて、他の薬を使用する前には必ず医師に確認すべきです。ブロッコリー、ほうれん草、ケールなどの葉物の緑色野菜、レバー、グレープフルーツ、グレープフルーツジュース、緑茶といったビタミンK(血液凝固に影響を与える)を豊富に含む食物も避ける必要があります。

 

血栓溶解療法:

ストレプトキナーゼや組織プラスミノーゲンアクチベータ(TPA)などの血栓溶解薬は、血栓を分解して溶かします。これらの薬は、肺塞栓症が命にかかわると考えられる患者に使用することができます。しかし、最も差し迫った状況を除いて、最近2週間以内に手術を受けた患者、妊娠している患者、最近脳卒中を起こした患者、過度に出血しやすい患者には使用できません。

 

物理的手段:

施設によっては、重度の肺塞栓症により命の危険があると考えられる場合は、肺動脈にカテーテルを挿入して、塞栓の粉砕を試みる医師もいます。重度の塞栓がある患者を救うために、手術が必要となる場合があります。肺動脈から塞栓を除去することで、命が助かる可能性があります。長年にわたって肺動脈内の血栓が持続的な息切れや肺動脈の高血圧(肺高血圧症)を引き起こしている場合も、血栓を取り除く手術が行われます。

血液が脚や骨盤から心臓の右側へ流入する、腹部にある主な静脈内に、手術でフィルターを設置することができます。抗凝固薬による治療を行ったにもかかわらず塞栓が再発した場合、抗凝固薬が使用できないか、使用すると著しい出血を起こす場合は、このようなフィルターが使用できます。一般に、血栓は脚や骨盤に由来するため、このフィルターにより、通常は血栓が肺動脈へ運ばれないようになります。最新のフィルターは取り外せます。フィルターを取り外すことで、永久的に留置した場合に発生する可能性がある合併症をある程度防ぐのに役立ちます。

 


肺血栓塞栓症

 肺血栓塞栓症とは、肺血栓症と肺塞栓症の総称のことをいう。

 肺血栓症は肺血管に血栓ができることで血流が途絶える症状で、肺塞栓症は肺動脈で血栓や腫瘍などが詰まることで血流が途絶える状態である。  肺塞栓症の症状がさらに進行すると細胞に血液が行き届かなくなり、細胞が壊死することで肺梗塞症へつながる。

 

 

肺血栓塞栓症肺動脈性肺高血圧症は、心疾患による障害として認定する。

 

 

 

 


肺線維症

 

肺線維症とは、肺を構成しているやわらかい小さな袋である肺胞に傷ができ、その修復のためにコラーゲンなどが増加して肺胞の壁が厚くなってしまう病気です。この病気は50歳以上の男性にもっとも多く、患者のほとんどが喫煙者とされています。この病気で苦しんでいた著名人には美空ひばりさんがいます。  肺線維症の約半数は、発症原因がわからない状況にあります。このような肺線維症を「特発性肺線維症」と呼びます。喫煙が特発性肺線維症を発症する危険因子とされています。肺線維症の症状は肺が硬くなって縮小するため、ガス交換が不十分になって坂道や階段の上り下り等日常生活で頻繁に息切れするようになります。ちょっとしたことで疲れやすくなったり、痰のない咳である乾いた咳(空咳)が出ます。症状が進行すると、酸素不足により、皮膚の色が青紫色になる状態であるチアノーゼや呼吸困難がみられるようになります。漬によっては指の先がたいこの鉢のように太くなる「ばち指」が表れる場合があります。

肺線維症で行われる検査は家族歴、喫煙の有無、職業による粉塵吸入の経験の有無、ペットを飼っているか等の住環境、呼吸器以外の症状の有無を確認する問診、聴診器での呼吸音の確認、ばち指、その他の症状を医師が見る診察、血液中の酸素量の測定、血液検査、呼吸機能の検査、胸部レントゲン、CT検査等の画像判断が主に行われます。判断難しい場合は腋の下、腰の少し上、背中の3ヵ所に1cmくらいの穴を開けて胸腔鏡と呼ばれるカメラと肺の一部を切り取るための器具を挿入し、モニターに映し出された映像で確認しながら、肺組織を採取方法である胸腔鏡下肺生検を行う可能性があります。

肺線維症の治療では、薬物療法が中心になります。病状が安定している場合は、咳止めなどの薬を処方するのが一般的です。また、病状が悪化する場合はステロイドや免疫抑制剤などの薬も使用されます。これは世界的な標準治療として知られています。治療方針は個々の患者さまの病状に応じて決められます。さらに最近では、肺の線維化を抑える効果が期待できる薬も開発され、治療法は日々進化しています。病状が進行した場合、在宅酸素療法などの酸素療法が行われ、必要があれば残された肺の機能や呼吸筋を最大限利用できるようにする呼吸リハビリも行われます。

 

 

 


○在宅酸素療法

 在宅酸素療法とは、病院ではなく在宅で酸素吸入をする治療法である。酸素吸入に使用する装置は主に酸素濃縮装置である。酸素ボンベから専用のチューブを鼻に通して酸素を吸入する。

 

 在宅酸素療法の対象となる病気は、肺気腫間質性肺炎、肺繊維症、肺結核後遺症など、呼吸器疾患が大半を占める。そのほかにも、心疾患、神経疾患、癌などさまざまな疾患が対象となる。

 

酸素吸入量  Ⅰ型呼吸不全では、炭酸ガス蓄積がありませんので、十分量の酸素を吸入させることができます。一般的には、吸入酸素流量は2~4ℓ/分が適当です。

Ⅱ型呼吸不全では、不用意に高流量の酸素を吸入しますと、血液中の炭酸ガスが上昇し、頭痛や意識障害をおこすことがありますので、低流量の酸素吸入をする必要があります。一般的には、0.5~1.5ℓ/分が適当です。

 

歩行時の酸素吸入流量  慢性呼吸不全の人では、歩行時にPaO2が大幅に低下することが多く、間質性肺炎、肺線維症や肺気腫の場合は、とくにその傾向があります。歩行時の吸入流量のおおまかな目安は、安静時の2~3倍程度です。しかし、正確な流量は、指先に装着して酸素飽和度が測定できるパルスオキシメーターを用いて決定します。具体的には、日常生活で歩行しているのと同程度の速度で数分間歩行しながら、この器具で酸素飽和度を測定し、酸素飽和度が90%以上を維持できるように酸素吸入流量を決定します。

 

長期にわたって自宅で使用する酸素は、電動の酸素濃縮器、液化酸素装置、高圧酸素ボンベといった3種類の酸素供給装置から得ることができます。自宅で使用する液化酸素装置と高圧酸素ボンベは、酸素の保存に大きなタンクを用いています。数時間程度の外出には、小さい携帯型の酸素ボンベが必要になることもあります。いずれの装置にも長所と短所があります。

 

典型的な投与法は、先が2つに分かれた鼻用チューブ(鼻カニューレ)を通して酸素を持続的に供給する方法ですが、これは非常に多くの酸素を無駄にします。酸素効率を高めるとともに、患者が動きやすくなるように、リザーバー式カニューレ、呼吸同調式デマンドバルブ装置、経気管カテーテルなど、数種類の装置を利用できます。

 

 

在宅酸素療法を施工中のものについては、原則として次のように取り扱う。

 常時(24時間)の在宅酸素療法を施工中のもので、かつ、軽易な労働以外の労働に常に支障がある程度のものは3級と認定する。

病状が悪く日常生活が大きく制限される場合は、2級以上に認定されることがある。

障害の程度を認定する時期は、在宅酸素療法を開始した日(初診日から起算して1年6月以内の日に限る)とする。

 

 審査で重要視されるのは在宅酸素施行の有無ではない。実際の検査成績、日常生活に受ける制限、咳や痰などの自覚症状、他覚所見など、あらゆる観点から障害の状態を見て判定される。

在宅酸素を施行していなくても、一定の障害がある場合は3級に認定され、病状が重ければ2級や1級が認定されるケースがある。

 

環境性肺疾患

 

環境性肺疾患は、有害な粒子、霧、蒸気、ガスなどを吸いこむことによって発生する病気で、通常は作業中に起こります。肺疾患が粒子を吸いこんだことに起因する場合は、塵肺(じんぱい)症という病名がよく用いられます。吸いこんだ物質が気道や肺の中に達する範囲と引き起こす肺疾患のタイプは、吸いこんだ粒子の大きさや種類によって異なります。粒子が大きければ鼻腔や太い気道にとどまる可能性がありますが、粒子がきわめて小さい場合は肺まで達することがあります。肺では、一部の粒子は溶けて、血液中に吸収される場合もあります。固形粒子のほとんどは、体の防御機構によって排除されます。

体には、吸いこんだ粒子を除去する機構がいくつか備わっています。気道は分泌物(粘液)で覆われており、そこに粒子が取り込まれて、せきとともに吐き出しやすくなっています。さらに、気道の内面を覆っている小さな細胞上の線毛によって、吸いこんだ粒子が上方へ運ばれ、肺の外へ押し出されます。肺にある小さな空気の袋(肺胞)では、特殊な食細胞(マクロファージ)が、粒子を飲みこみ、無害化します。

肺を傷つける可能性がある粒子には、さまざまな種類があります。一部は有機物で炭素を含む物質からできており、穀物の粉塵、綿ぼこり、動物の鱗屑(りんせつ)といった生物の一部です。一部は無機物で、金属やミネラル(たとえば、アスベスト)など、通常は生物由来ではありません。

いろいろな種類の粒子が、体内でさまざまな反応を起こします。ある種の粒子は、花粉症に似た症状や一種の喘息症状のようなアレルギー反応を起こします。別の粒子はアレルギー反応の誘発ではなく、気道や肺胞にある細胞に対して毒性作用を及ぼすことによって、損傷を与えます。シリカ(石英)の粉塵やアスベストなどの一部の粒子は、肺組織の瘢痕化につながる慢性的な炎症を引き起こすことがあります。アスベストなどの特定の有害な粒子は、特に喫煙者に肺癌を引き起こしたり、喫煙歴に関係なく、胸郭の内側と肺の表面を包んでいる胸膜にできる癌(中皮腫)の原因となる可能性があります。

 

 

環境性肺疾患にかかりやすい人

アスベスト肺

断熱材などのアスベストが含まれる材料の設置や解体を行う建設作業員

造船所の作業員

アスベストの採掘、選鉱、製造を行う労働者

良性塵肺症

バリウムを扱う労働者

鉄の採掘を行う労働者

スズを扱う労働者

溶接工

ベリリウム症

航空宇宙産業に携わる労働者

鋳造などの冶金労働者

閉塞性細気管支炎

香料を扱う作業者(ポップコーン労働者の肺)

綿肺症

綿、麻、ジュート(黄麻)、亜麻を扱う労働者

炭坑作業員塵肺症

炭鉱労働者

過敏性肺臓炎

事務職員(特定の真菌や細菌によって汚染された空調装置が原因)

水泳プールや入浴施設の労働者(汚染された水しぶきが原因)

農業従事者、キノコの栽培者、鳥類の飼育者、イソシアネート(ウレタンの原料)を扱う労働者

職業性喘息

穀物、ベイスギ(ウエスタンレッドシダー)の材木、ヒマ(トウゴマ)の実、イソシアネート(ウレタン)、染料、抗生物質、エポキシ樹脂、茶葉、洗剤の製造過程で使用する酵素、麦芽、革製品、ラテックス、宝石、自動車の車体修理で使用する研磨材および塗料、動物、貝類、刺激性のガス、蒸気、霧などを扱う労働者

珪肺症

特定の炭鉱労働者(たとえば、岩に穴をあけたり、爆破したりする作業者)

鋳物工場の労働者

鉛、銅、銀、金などの鉱山労働者

陶器職人

サンドブラスト作業者

砂岩や花こう岩の加工労働者

墓石製造者

トンネルを掘る労働者

研磨剤を作成する労働者

サイロフィラー病

農業従事者

 

 

空気汚染関連病

先進国における主な大気汚染物質は、二酸化窒素(化石燃料の燃焼により発生)、オゾン(二酸化窒素や炭化水素に日光が作用を及ぼすことで発生)、固体または液体の浮遊粒子です。開発途上国では、バイオマス燃料を燃やすことが、屋内の粒状物質の重要な発生源となります。

また、タバコの副流煙も、屋内の空気汚染の重要な発生源となります。

喘息や慢性閉塞性肺疾患の患者では、空気の汚染度が高いと症状の悪化を誘発することがあります。また、交通量が多い地域に暮らしている人には、特別なリスクがあります。ほとんどの空気汚染物質が、気道狭窄の原因となります(気道過敏性)。一般住民(特に小児)が長期にわたって空気汚染物質にさらされると、呼吸器感染症が増え、症状が悪化することがあります。

オゾンはスモッグの主成分で、肺にとっては強力な刺激物となります。オゾン濃度は、他の季節と比べ夏場が最も高い傾向にあり、1日の時間帯では昼前と昼過ぎが比較的高くなります。オゾンに短期間さらされただけでも、呼吸困難、胸痛、気道過敏性などが生じることがあります。オゾンの汚染度が高い昼間に、屋外スポーツに参加している小児は、喘息を発症する可能性が高くなります。長期にわたってオゾンにさらされると、永久的な肺機能の低下がわずかながらみられます。

硫黄分が多い化石燃料が燃焼すると、上気道内に蓄積しやすい酸性の粒子が生成されます。このような粒子は硫黄酸化物と呼ばれ、気道が炎症を起こして収縮する原因となり、慢性気管支炎のリスクを高めます。

化石燃料(特にディーゼル燃料)の燃焼によって生じる粒子状の大気汚染物質は、複雑な混合物からできています。このような粒子は、気道に炎症を引き起こしたり、心臓などの他の器官に損傷を与える可能性があります。いくつかの研究データによると、粒子状の大気汚染物質は、あらゆる原因による死亡率(特に心臓や肺の病気による死亡率)を増加させることを示唆しています。

 

 

 

アスベスト肺

 

アスベスト肺(石綿肺)は、肺組織に広がった瘢痕化で、アスベストの粉塵を吸いこんだことが原因です。

アスベスト肺では、息切れや運動能力の低下がみられます。

通常は、胸部X線検査とCT検査によって診断が下されます。

アスベストへの暴露を最小限にすれば、アスベスト肺を予防できます。

治療法には、酸素吸入や、呼吸しやすいように肺の周りにたまった水を抜く方法などがあります。

アスベスト暴露によって中皮腫や肺癌が起こることもあります。

アスベストはさまざまな化学的組成をもつ繊維状のケイ酸金属塩からできています。吸いこまれたアスベスト繊維は、肺の奥深くまで入りこみ、瘢痕化を引き起こします。また、アスベストの吸引は肺を覆っている2層の膜(胸膜)を肥厚化させることもあります。このような肥厚化を、胸膜プラークと呼びます。この胸膜プラークが癌化することはありません。

ときには、アスベスト繊維の吸入により、肺の2層の胸膜の間(胸膜腔)に液体がたまります。このような液体の貯留を、非癌性(良性)アスベスト胸水と呼びます。

アスベストは、中皮腫と呼ばれる胸膜内の癌や、腹膜中皮腫と呼ばれる腹膜内の癌の原因にもなります。米国では、アスベストが中皮腫の唯一の原因として知られています。喫煙は中皮腫の原因ではありません。4種類のアスベストのうち、クロシドライト(青石綿)というアスベストを吸いこんだ場合に、最も多く中皮腫が発生します。アモサイト(茶石綿)という別のアスベストによっても、中皮腫が発生します。クリソタイル(白石綿)というアスベストは、他の種類より中皮腫を引き起こすことが少ないと考えられますが、クリソタイルには中皮腫を起こすトレモライトというアスベストが混入していることがよくあります。アスベストに暴露してから、通常は30~40年後に中皮腫を発症し、吸いこんだ量が少なくても発症する可能性があります。

 

アスベストは肺癌の原因となることもあります。アスベストによる肺癌は、吸いこんだアスベスト線維の量に、ある程度関係があります。アスベスト肺の患者のうち、特にタバコの量が1日に1箱を超える喫煙者に最も多く肺癌がみられます。

アスベストの危険性については広く注意喚起がなされましたが、アスベストを扱う仕事をしていなければ、アスベストに関連する肺の病気になるリスクはきわめて低くなります。アスベストは、非常に小さく砕かれないかぎり、肺の内部まで吸いこまれることはありません。アスベストを含む断熱材が使用されている建物を解体する作業者は、リスクが高くなります。日常的にアスベストを扱っている作業者は、肺疾患を発症するリスクが最も高くなります。アスベスト繊維にさらされる機会が多ければ多いほど、アスベストに関連する病気を発症するリスクが高まります。

 

症状

肺が広範囲にわたって瘢痕化した後に、アスベスト肺の症状が徐々に現れてきます。瘢痕化によって肺は弾力性を失います。初期症状は、軽い息切れと運動能力の低下です。アスベスト肺に加えて慢性気管支炎がある喫煙者では、せきや喘鳴がみられることがあります。次第に呼吸がますます困難になってきます。アスベスト肺の患者で、重度の息切れと呼吸不全を起こすのは約15%です。

非癌性アスベスト胸水がみられる患者では、胸水の貯留により呼吸が困難になることがあります。胸膜プラークでは、胸壁の硬化による軽い呼吸困難しかみられません。持続する胸痛や息切れは、中皮腫に最も多い症状です。

 

診断

アスベスト肺の患者では、一般に肺機能が異常となり、医師が聴診器で肺の音を聞くと、通常はクラックル(パチパチ音)と呼ばれる異常な音が聞こえます。アスベストにさらされた経歴がある人では、胸部X線検査や胸部CT(コンピュータ断層撮影)検査で特徴的な変化が認められると、アスベスト肺と診断できることもあります。アスベストにさらされた人の多くにみられる胸膜プラークは、カルシウムを含むことが多いため、胸部X線検査やCT検査で発見しやすくなります。診断を下すために、まれに肺生検が必要になります。

 

X線検査で胸膜に腫瘍が発見された場合は、それが癌かどうか判定するために、胸膜の小片を採取して顕微鏡で調べる生検を実施する必要があります。針を用いて肺の周囲にある液体を抜き取り、癌細胞があるかどうか分析することもあります(胸腔穿刺と呼ばれる検査法)。しかし、胸腔穿刺は、一般に胸膜の生検ほど正確ではありません。胸部X線検査で腫瘍と疑われる部分が認められた場合、そこが肺癌である可能性は十分にあるため、精密な検査を行うべきです。

 

予防と治療

アスベストの吸入によって発生する病気は、作業現場でアスベストの塵と繊維の量をできる限り減らすことで予防できます。アスベストを使用する産業での粉塵対策が改善されたため、現在ではアスベスト肺になる人は少なくなっていますが、30~50年も前にアスベストを吸いこんだ人は、依然として中皮腫が発生しています。家庭内にあるアスベストを含む材料が心配になるのは、一般的にそれを除去しようとする場合と家を改築する場合だけですが、そのような場合は、安全に除去できる技術をもった業者に依頼すべきです。これまでアスベストに接する機会のあった喫煙者は、禁煙して肺癌のリスクを減らすことができますが、年に1回は胸部X線検査を受けるべきです。これまでアスベストを取り扱ってきた労働者には、比較的かかりやすいと考えられる感染症から体を守るために、肺炎球菌とインフルエンザの予防接種が勧められます。

アスベスト肺に対する治療は、ほとんどが症状を緩和することです。酸素療法は、息切れを軽減します。また、肺の周囲にたまった水を抜くことで、呼吸が楽になります。アスベスト肺の治療に肺移植が成功した例もたまにみられます。

中皮腫は常に致死的で、診断から1~4年以内に死亡します。化学療法や放射線療法は効果がなく、腫瘍を手術で切除しても治癒しません。他の治療法は、できるだけ良好な生活の質(QOL)を維持しつつ、痛みや息切れを抑制することに重点がおかれます。

 

 

 

綿肺症(めんぱいしょう)

 

綿肺症は、綿、亜麻、麻の粒子を吸いこんだことが原因で気道が狭くなる病気です。

綿肺症になると、通常は休み明けの勤務初日に、喘鳴や胸の圧迫感が生じることがあります。

1日の労働における肺活量の低下を調べる検査で、診断が下されます。

まず暴露を止めて、喘鳴や胸の圧迫感は、喘息に使用される薬で治療できます。

米国や英国で綿肺症を発症するのは、加工前の綿を扱う労働者にほぼ限られています。また、亜麻や麻などを扱う労働者も、綿肺症を発症することがあります。加工前の綿の荷解きをする労働者や、綿を加工する最初の工程で働く労働者が、最も綿肺症になりやすいようです。おそらく、加工前の綿に含まれるなんらかの物質に感受性の高い人が、気道の狭窄を起こすのではないかと考えられています。農業環境で穀物の粉塵にさらされる労働者では、この綿肺症に類似した病気がみられることがあります(穀物作業者肺)。

 

症状と診断

綿肺症になると、通常は休み明けの勤務初日に、喘鳴や胸の圧迫感が生じることがあります。喘息とは異なり、暴露を繰り返すうちに、症状が治まる傾向がみられ、週末までに胸の圧迫

感が消える場合もあります。しかし、長年にわたって綿を扱う作業を続けると、胸の圧迫感が就業日の2日間から3日間続くことがあり、1週間を通して続くことさえあります。長期にわたって綿の粉塵にさらされ続けると、喘鳴や胸の圧迫感などの症状が現れる頻度が増えて、永続的な肺疾患につながり、機能障害を起こすこともあります。

1日の労働における肺活量の低下を調べる肺機能検査で、診断が下されます。肺活量の低下は、一般に週の勤務初日に最大になります。

 

予防と治療

綿肺症の予防には、綿の粉塵対策が最も良い方法です。何らかの症状がある労働者で、週の勤務初日に肺機能が急激に低下した場合は、暴露環境から離れるべきです。喘鳴や胸の圧迫感は、喘息に使用される薬で治療できます。気道を広げる気管支拡張薬が使用されることもあります。

 

 

 

珪肺症

 

珪肺症とは、シリカ(石英)の粉塵を吸いこんだことが原因で肺が永久的に瘢痕化する病気です。

運動中に呼吸が困難になり、ときには悪化して休息時でも息切れするようになり、一部の患者はせきが出て、たんを伴うものと伴わないものがあります。

胸部X線検査やCT検査によって診断が下されます。

場合によっては、気道をきれいに保つ効果がある薬が使用できます。

珪肺症は最も古くから知られている環境性肺疾患です。シリカ(通常は石英)の微粒子を吸いこんだことが原因で発生しますが、まれに、タルクなどのケイ酸塩も原因物質となります。最もリスクが高い労働者は、岩や砂を運んだり爆破したりする労働者(鉱山労働者、採石場労働者、石切り工など)や、シリカが含まれる岩や砂の研磨材を扱う労働者(サンドブラスト作業者、ガラス製造職人、鋳物工場の労働者、宝石加工職人、陶磁器職人、陶器職人など)です。炭鉱労働者は、珪肺症と炭坑作業員塵肺症の複合的なリスクがあります。

慢性珪肺症が最も多くみられますが、一般に数十年にわたってシリカの粉塵にさらされた後に発症します。急速に進行する珪肺症はまれですが、急性珪肺症は、数年または数カ月にわたってより多量のシリカ粉塵にさらされると発生することがあります。シリカは肺癌の原因にもなります。

吸いこまれたシリカの粉塵は肺の中に入って、マクロファージなどの食細胞によって取り込まれます。この食細胞が放出する酵素により、肺組織が瘢痕化を起こします。最初は、瘢痕化した部分が小さな丸いこぶになる単純型の慢性珪肺症ですが、最終的にはお互いが結合して大きなかたまりになる複雑型の慢性珪肺症になります。このような瘢痕化した部分は、酸素を正常に血液中へ移動させることができません。また、肺の弾力性がなくなって、呼吸に努力を要します。

 

症状

慢性珪肺症の場合は、数年間経過しても症状が現れないことが多いものの、最終的には多くの患者が運動中に呼吸困難を起こすようになり、ときには悪化して安静時でも息切れするようになります。せきがでて、たんがからむこともあります。シリカを扱う仕事をやめた後も、数年間にわたって呼吸が悪化することがあります。肺の損傷によって血液中の酸素濃度が低下することがあり、心臓の右側に負担がかかる可能性もあります。この負担は、肺性心と呼ばれる一種の心不全につながり、命にかかわるおそれもあります。急速に進行する珪肺症の場合は、慢性珪肺症と症状は同じですが、症状が現れる時期が早く、悪化する速度が速くなります。

急性珪肺症の場合は、息切れが急速に悪化します。また、体重が減少し、疲労も感じるようになります。多くの場合、2年以内に呼吸不全に陥ります。

珪肺症の患者が結核菌にさらされた場合、結核になる可能性は、珪肺症ではない人より数倍も高くなります。

 

診断

シリカを扱う仕事をしていた人の胸部X線検査で、珪肺症と一致する特有の陰影がみられた場合に、珪肺症と診断されます。X線検査の所見でははっきりしない場合、診断を確定するのに、肺組織のサンプルの検査が役立ちます。さらにCT検査などの検査を実施して、珪肺症と他の病気との鑑別を行います。

 

予防

職場におけるシリカの粉塵の抑制が、珪肺症を予防するカギとなります。サンドブラストを行っている工場のように、粉塵の発生が避けられない職場で作業する場合は、きれいな外気が供給されるフードや小さな粒子を効率的に除去する特殊なフィルター付きマスクなどの防護具を着用すべきです。こうした防護具は、粉塵の多い職場で作業している一部の労働者(たとえば、塗装工や溶接工など)では、着用できないこともあるため、可能な限り、砂以外の研磨材を用いるべきです。

シリカの粉塵にさらされる労働者は、問題があれば早期に発見できるように、定期的に胸部X線検査を受けるべきです。喫煙者であれば、禁煙すべきです。その他の防護策には、かかり易くなっている感染症から労働者の体を保護する対策として、肺炎球菌ワクチンや毎年のインフルエンザワクチンの接種があります。

 

治療

珪肺症は完治しませんが、特に発症した早期の段階でシリカへの暴露を避けられれば、進行を遅らせることができます。急性珪肺症の治療として、全肺洗浄を行うことができます。この治療法では、肺全体に生理食塩水を注入した後に、それを排出して、肺胞から異物を取り除きます。急性珪肺症や急速に進行する珪肺症では、コルチコステロイド薬を使用すると有益な場合があります。呼吸困難に陥った患者では、気道を広げて粘液がない状態に保つ気管支拡張薬を使用すると有益な場合があります。肺移植は最後の手段です。珪肺症の患者は、結核になるリスクが高いため、結核菌皮膚試験を含む定期健診を受けるべきです。

血液中の酸素濃度低下については常に監視し、治療すべきです。日常生活を行う上で、呼吸リハビリテーションが役立つ場合があります。

 

 

急性気管支炎

 

気管支炎は、気管から枝分かれした太い気道(気管支)の炎症で、通常は感染によって発生しますが、ときには、ガス、煙、粉塵、ある種の汚染物質などを吸入した刺激が原因となることもあります。

通常、急性気管支炎は、ウイルス感染によって発生します。

かぜの症状がみられた後にせきが出る場合は、一般に急性気管支炎が疑われます。

診断は主として症状に基づきます。

せき止め薬や解熱剤などの治療薬のほとんどは、症状が治まるまで使用され、比較的楽に過ごすことができます。

抗生物質はほとんど必要ありません。

急性気管支炎の症状は通常、数日から数週間持続します。しかしながら、90日位まで続くものも通常、急性気管支炎として分類されます。気管支炎がそれ以上の期間、ときに数カ月から数年にわたって続く場合は、一般的に慢性気管支炎に分類されます。慢性気管支炎で呼気流量の低下が起こった場合は、慢性閉塞性肺疾患の決定的な特徴とみなされます。この章では、急性気管支炎についてのみ解説します。

 

原因

急性気管支炎は、感染、または刺激物への暴露によって起こる可能性があります。

 

 

気管支炎では、気管支内面の壁が炎症を起こして腫れ、粘液量が増加します。その結果、気道が狭くなります

 

感染性気管支炎:

感染性気管支炎は冬に発生することが最も多く、ほとんどがウイルスによるものです。ウイルス性気管支炎は、インフルエンザウイルスを含む、多くの一般的なウイルスによって発生することがあります。ウイルス感染が治った後でも、それによって生じた炎症が残り、数週間ほど症状が続くことがあります。

細菌によっても感染性気管支炎が発生することがあります。多くの場合、細菌性気管支炎は、ウイルス性上気道感染症に続いて発生します。喫煙者は、細菌による急性気管支炎の割合が高くなります。肺炎マイコプラズマや肺炎クラミジアは、若い成人にみられる急性気管支炎の原因となることが多い細菌です。まれな例では、百日ぜき菌感染によって、急性気管支炎になることもあります。

喫煙者や慢性肺疾患の患者では、急性気管支炎を繰り返し発症することがあります。これらの発症の原因として、細菌、ウイルス、吸いこんだ煙による刺激、それらの複合要因などが考えられます。特に小児や高齢者では、栄養不良状態にあると、上気道感染症とそれに続いて発生する急性気管支炎のリスクが高くなります。慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、アレルギーの場合も、急性気管支炎を繰り返し発症するリスクが高くなります。扁桃肥大やアデノイドがある小児は、気管支炎を繰り返し発症することがあります。

 

刺激性気管支炎:

刺激性気管支炎(産業性または環境性気管支炎とも呼ばれる)は、タバコの煙やスモッグの他、鉱物性や植物性などのさまざまな粒子を吸いこむことによって発生することがあります。強酸、アンモニア、有機溶剤、塩素、硫化水素、亜硫酸、臭素などの蒸気を吸いこんだ場合も、刺激性気管支炎になることがあります。

 

症状

一般に、感染性気管支炎は、鼻水、のどの痛み、疲労感、悪寒といった、かぜの症状から始まります。特に、インフルエンザによる感染の場合は、やや高い熱(37.5~38℃)を伴って背中の痛みや筋肉痛が現れることがあります。せき(通常、初めはたんがからまない乾いたせき)が出はじめた場合は、急性気管支炎の信号です。ウイルス性気管支炎では、せきと一緒に少量の白い粘液がでることがよくあります。この粘液は、しばしば白色から緑色または黄色に変化します。このような色の変化は、細菌感染を示すものではありません。色の変化が意味するのは、炎症に関与している細胞が気道内に集まって、たんの色を変えていることだけです。

重度の気管支炎では、やや高い熱(38~39℃)が出て、3~5日続くことがありますが、インフルエンザによる気管支炎でない限り、これ以上熱が上がることはほとんどありません。せきは最も治りにくい症状で、治まるまでに数週間かそれ以上かかることがよくあります。ウイルスが気管支内面の上皮細胞を傷つけることがあり、その修復には時間がかかります。気道の過敏症は、一時的に気道が狭くなって、肺に出入りする空気の流れが妨げられたり、流量が制限されたりするもので、急性気管支炎ではよくみられます。気流の阻害は、低刺激物質(たとえば、香料、悪臭、排気ガスなど)や冷たい外気を吸いこむなど、一般的な環境にされされることによって誘発されることがあります。気流の阻害が大きいと、息切れを起こすことがあります。特にせきをした後には、喘鳴がよく聞かれます。

 

合併症:

急性呼吸不全や肺炎といった重篤な合併症が起こるのは、通常は基礎にある慢性肺疾患(慢性閉塞性肺疾患など)が悪化した人、高齢者、免疫力に問題がある人のいずれかに限られます。

 

診断

医師は通常患者の症状に基づいて気管支炎の診断を下します。熱が高いか長引く場合、あるい高熱が続く場合は、肺炎の徴候かもしれません。診察時に喘鳴が聞かれることもあります。主に、喘鳴が聞かれたり、肺内部のうっ血が疑われたりする場合や、息切れがある場合は、肺炎ではないことを確認するために胸部X線検査を行います。

インフルエンザを検出するために、のどからサンプルを採取することがあります。一般に、胸部X線検査や診察で肺炎の証拠が得られた場合のみ、たんの検査が行われます。せきが2カ月以上続く場合は、肺癌などの肺疾患を除外するために胸部X線検査を行います。

 

治療

乾いたせきがひどく、特に睡眠が妨げられる場合は、せき止め薬を使用して緩和することができます。しかし、通常、大量のたんがからんだせきを抑えるべきではありません。去たん薬は、分泌物を柔らかくして、せきと一緒に吐き出しやすくすると考えられますが、有用かどうかははっきりしていません。成人では、解熱や全身症状の緩和に、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなどの服用が考えられますが、小児では、アセトアミノフェンまたはイブプロフェンの服用にとどめ、アスピリンを使用すべきではありません。急性気管支炎で、特に熱がある患者は、十分な水分を摂るべきです。

 

抗生物質は、百日ぜき菌による感染症の患者や、一部の慢性閉塞性肺疾患の患者以外、気管支炎の治療には使用されません。抗生物質は、ウイルス性気管支炎には役立ちません。しかし、原因としてインフルエンザが疑われる場合は、症状が出てから48時間以内に抗ウイルス薬による治療を行うことで効果が得られることがあります。

 

小児の場合、空気の流れが制限されることによる症状がきわめて軽ければ、冷たい蒸気が出る加湿器やスチーム加湿器が役立つことがあります。さらに重い症状の小児や喘鳴が聞かれる成人では、気管支を広げる吸入式気管支拡張薬を使用することで、気道を広げ、喘鳴を緩和することができます。コルチコステロイド薬は、通常、定量噴霧式吸入器を用いて吸入しますが、特に感染症が治癒した後もせきが続く場合は、せきや炎症、気道過敏症を抑えるために使用することもあります。

 

 

 


びまん性汎細気管支炎

 

びまん性汎細気管支炎は、気管支の部分に慢性的な炎症ができてしまう病気です。

主な初期症状としては、鼻づまり、膿性の鼻汁が出る、嗅覚の低下などがあります。気道の細菌感染なども併発すると、気道が閉塞気味になり、長く咳やたんの症状が現れたり、息切れが現れたりします。この病気を放置しておくと、呼吸不全などを起こし命にもかかわる重大な症状に発展する可能性があるので、速やかに医師の診断を受け、治療を開始する必要性があります。

 

びまん性汎細気管支炎の原因は、残念ながらまだ不明です。現段階の研究では、親子や兄弟などで同時に発症することが多いため、遺伝的要因と環境的な要因の両方が関わりあって発症すると考えられています。小児期から青年期に発症することが多く、発症期は慢性福鼻炎の症状となります。その後、何年もの年月を経て、気管支炎症の症状が現れるようになり、慢性の咳やたん、息切れなどの症状が出ます。一方、白血球抗原のタイプがHLA-B54である人の発症率が高いことから、遺伝的要素である可能性も高いといえます。

 

この病床の診断は、医師による鼻づまり、咳・たんなどに関する診断を行った後、胸部レントゲン撮影を行います。本疾患にかかっている場合は、肺全体に小さな粒上の影が見られます。また、胸部レントゲン写真で確認が困難な場合は、胸部のCTスキャン検査にて詳細に検査される場合もあります。他にも、必要に応じて、呼吸機能検査を行うことにより閉塞性障害の有無、血液検査を行うことにより、寒冷凝集素価の数値が参照され、この数値が高いと診断が確定します。

 

びまん性汎細気管支炎は、かつては有効な治療法が無く、ときには命にかかわる重大な病気でしたが、最近ではきちんと治療すれば回復する病気となりました。治療には、薬物療法が採用され、エリスロマイシンの投与が行われます。それで効果が見られない場合は、クラリスロマイシンなどの、14員環マクロライド薬が使用される場合もあります。対症療法として、呼吸を楽にするために、喀痰調整薬の投与・ネブライザーなどによる吸入療法、気管支拡張薬の投与が行われます。

 

 

 

 

 

間質性肺疾患

 

間質性肺疾患は、びまん性実質性肺疾患または浸潤性肺疾患とも呼ばれ、間質間隙が損傷するいくつかの病気をまとめた総称です。間質間隙とは、肺胞(肺にある空気の袋)、肺胞の壁、血管と細い気道の周辺を指します。間質性肺疾患では、肺組織に炎症性細胞が異常に集積する結果、息切れやせきを引き起こし、画像検査所見に類似性がみられますが、それ以外に関連性はありません。間質性肺疾患の中には、きわめてまれなものもあります。

 

間質性肺疾患の初期には、間質間隙に白血球やマクロファージ、タンパク質を豊富に含む液体が集積して炎症を引き起こします。炎症が持続すると、正常な肺組織が瘢痕化した組織(線維症)に置き換わることがあります。肺胞の破壊が進行するにつれて、肺胞部分に壁が厚くなった嚢胞(ミツバチの巣穴に似ているため、蜂巣状化と呼ばれる)が残ります。こうした変化によって生じた病気を肺線維症と呼びます。

間質性肺疾患はさまざまな病気に分かれていて、発生原因もそれぞれ異なっていますが、類似した特徴がいくつかみられます。いずれも、血液中に酸素を運搬する能力が低下し、肺の硬化や萎縮が生じるため、呼吸が困難になり、せきがでるようになります。しかし、血液中から二酸化炭素を除去する機能は、一般に影響を受けません。

 

診断

間質性肺疾患は、これよりはるかに一般的な病気(たとえば、肺炎や慢性閉塞性肺疾患など)と同様な症状を引き起こすため、最初は間質性肺疾患が疑われないことがあります。間質性肺疾患が疑われる場合は、診断用の検査が行われます。疑われる病気の種類によって検査法が異なることがありますが、同様な検査が行われる傾向にあります。ほとんどの場合、胸部X線検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査が行われ、動脈血ガス分析もよく使用されます。CT検査は、胸部X線検査より感度が高く、より特異的な診断を下すのに有用です。また、高解像度CTという分解能を最大限に高めた技術を用いたCT検査も行われます。肺機能検査では、多くの場合、肺に吸いこめる空気の量が異常に少ないことが明らかになります。さらに、患者の運動に対する反応もよく検査されます。

医師は、診断を確定するために、ファイバー気管支鏡検査と呼ばれる方法で肺の小さな組織片を採取し、顕微鏡で調べる肺生検を行うことがあります。この方法で行う肺生検を、経気管支肺生検と呼びます。これより大きな組織サンプルが必要になって、外科手術を行って採取しなければならないことも多く、場合によってはビデオ補助胸腔鏡下肺生検と呼ばれる方法で胸腔鏡を使用することもあります。

通常は血液検査が行われます。血液検査で診断を確定することは一般にできませんが、他の類似疾患を調べる検査の一環として実施されます。この肺疾患による影響が心臓に及んでいないか判定するために、心電図検査(ECG)や心臓超音波検査(心エコー)が行われることもあります。

 

特発性間質性肺炎は、原因不明で、両方の肺に同じように影響する間質性肺疾患です。

この肺炎のいくつかのタイプは、ほかよりはるかに重篤になるものがあります。

診断には、胸部X線検査やCT検査が必要で、通常は肺組織のサンプルを分析する生検が行われます。

特発性という用語は原因不明という意味で、間質性肺疾患の原因が特定できない場合に特発性間質性肺炎と診断されます。肺炎は感染症ではないかとよく思われがちですが、特発性間質性肺炎は感染が原因ではないと考えられています。

特発性間質性肺炎には6種類あります。発生頻度が高いものから順に並べると、次のようになります。

特発性肺線維症

非特異的間質性肺炎

原因不明の器質化肺炎

呼吸細気管支炎関連間質性肺疾患

剥離性間質性肺炎

急性間質性肺炎

 

いずれの特発性間質性肺炎も息切れを引き起こし、両肺に影響します。しかし、進行速度、治療法、重症度については異なっています。たとえば、ほとんどの特発性間質性肺炎では、数週間から数カ月で症状が現れますが、特発性肺線維症では、はっきりとした症状が現れるまで1年以上かかります。また、急性間質性肺炎では、わずか1~2週間で症状が現れます。

 

診断

診断には、胸部X線検査、肺機能検査、CT検査が行われます。CT検査で、ほとんど診断できます。それでも診断できない場合、医師は肺から小さな組織片を採取して、顕微鏡で調べる肺生検を行います。通常の生検は外科的手術で、胸腔鏡を用いて行われます。

通常は血液検査も行われます。血液検査で診断が確定することは一般にありませんが、他の類似疾患を調べる検査の1つとして実施されます。この肺疾患による影響が心臓に及んでいないか判定するために、心電図検査(ECG)や心臓超音波検査(心エコー)が行われることもあります。

 

 


好酸球性肺炎

 

好酸球性肺炎は、肺好酸球浸潤症候群とも呼ばれ、肺の中や、血液の中にも多数の好酸球(白血球の一種)が認められる肺疾患の総称です。

特定の薬物、化学物質、真菌、寄生虫などが、肺の中に好酸球が集積する原因になることがあります。

せき、喘鳴、息切れなどの症状がみられ、一部の患者は呼吸不全になる場合もあります。

特に寄生虫が原因として疑われる場合は、この病気を発見して原因を特定するために、X線検査と臨床検査が行われます。

通常はコルチコステロイド薬が投与されます。

好酸球は肺の免疫反応に関与しています。喘息を含め、さまざまな炎症反応やアレルギー反応の際に好酸球の数が増加し、特定のタイプの好酸球性肺炎がしばしば伴います。好酸球性肺炎は、肺にある小さな空気の袋(肺胞)に、細菌、ウイルス、真菌などによる感染の徴候がみられない点で、典型的な肺炎とは異なります。しかし実際には、肺胞や、しばしば気道も、好酸球でいっぱいになります。血管の壁にも好酸球が浸潤することがあり、喘息になると、狭くなった気道が集積した分泌物(粘液)でふさがれてしまう場合もあります。

肺の中に好酸球が集積する正確な理由は十分解明されておらず、アレルギー反応を引き起こす物質が特定できないことも少なくありません。それでも、好酸球性肺炎の原因として知られているものもあり、それには、ペニシリン、アミノサリチル酸、カルバマゼピン、ナプロキセン、イソニアジド、ニトロフラントイン、クロルプロパミド、スルホンアミド(トリメトプリム・スルファメトキサゾール配合剤など)といった特定の薬剤、蒸気として吸いこまれるニッケルのような化学物質の蒸気、アスペルギルスのような真菌、回虫や線虫のような寄生虫などがあります。

 

症状と診断

症状には軽いものも命にかかわるものもあります。単純性好酸球性肺炎(レフラー症候群)や、これに類似した肺炎(フィラリアと呼ばれる線虫類の一種が体内に侵入して発症する熱帯性好酸球増多症など)では、症状が現れた場合に微熱や軽い呼吸器症状がみられることがあります。また、せき、喘鳴、息切れなどが現れることもありますが、通常はすぐに回復します。急性好酸球性肺炎として知られている別の病気では、血液中の酸素濃度が著しく低下し、治療をしなければ、数時間から数日で急性呼吸不全に進行する可能性があります。

数週間から数カ月間かけてゆっくりと進行する慢性好酸球性肺炎は、重症化することもある別の病気です。治療をしなければ、命にかかわるような息切れを起こすことがあります。

急性好酸球性肺炎では、血液検査で大量の好酸球が認められ、ときには正常値の10~15倍にもなることがあります。しかし、慢性好酸球性肺炎では、血液中の好酸球数が正常な場合もあります。

この病気の診断で最も決定的な証拠となるのは、薬を服用した後や、寄生虫へ感染するおそれがある地域に旅行した後に、比較的短い期間で症状が現れることです。好酸球性肺炎では胸部X線検査で異常が現れますが、似たような異常は他の病気でも起こります。急性好酸球性肺炎では、胸部X線画像に細い白い線や、もやのかかった斑点がみられるのが普通で、ときには肺に液体がたまっている特徴である大きな白い斑点がみられることもあります(浮腫と呼ばれます)。胸腔内に液体がたまる胸水が生じて、胸部X線検査で認められることもあります。慢性好酸球性肺炎では、胸部X線検査で主に肺の外側部分に白い斑点がみられ、その後に実施したX線検査では別の場所に移動しているようにみえる場合もあります。

せきとともに排出されたたんや、気管支鏡検査で採取した肺胞の洗浄液に含まれる細胞を顕微鏡で調べると、典型的な好酸球のかたまりがみられます。真菌や寄生虫による感染を調べるために、他の検査が行われる場合があり、便サンプルからぜん虫や他の寄生虫を顕微鏡で調べる検査などが含まれます。

 

予後(経過の見通し)と治療

好酸球性肺炎の症状は軽い場合があり、治療をしなくても回復することもあります。急性の例では、一般にプレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬が必要になります。慢性好酸球性肺炎では、プレドニゾロンの服用が数カ月から数年にわたって必要になる場合があります。喘鳴が聞かれる場合は、喘息と同じ治療が行われます。ぜん虫や他の寄生虫が原因であれば、それに対して適切な薬を用いて治療します。通常、この病気を引き起こす可能性がある薬は、服用を中止します。

 

 

 

 

原因不明の器質化肺炎

 

原因不明の器質化肺炎(閉塞性細気管支炎性器質化肺炎とも呼ばれる)は、急速に発症する特発性間質性肺炎で、肺の炎症と瘢痕化が特徴で細い気道や肺の空気の袋(肺胞)をふさぎます。

この病気は、一般に40~60歳で発生し、男女の割合は同程度です。喫煙により発症するリスクが高まることはないと考えられています。

診察を受ける2カ月前までは症状がなかった患者が約75%を占めています。せき、発熱、全身のけん怠感、疲労感、体重減少といったインフルエンザに似た前触れの症状がみられる患者は約50%です。

 

診断と治療

定期的な検査や診察では、特異的な異常を認めませんが、例外的に聴診器を胸にあてると、パチパチというクラックル音(ベルクロ・ラ音)がよく聞かれます。肺機能検査により、通常は肺に吸い込める空気の量が正常値よりも低いことが明らかになります。血液中の酸素濃度は、安静時でも低いことが多く、運動すればさらに低下します。

胸部X線検査では、肺炎が広範囲に及んだ場合に類似した特徴的な所見が典型的にみられ、両方の肺に白い斑点が広がっています。この白い斑点は、病気が持続したり、進行したりするにつれて、肺のある場所から別の場所に移動するようにみえることもあります。場合によってはCT検査が行われ、診断が確定することもあります。しばしば典型的な所見で十分に診断が下せるため、それ以上の検査は追加しません。

それでもはっきりしない場合は、診断を確定するために、気管支鏡を用いた肺生検が行われます。これより大きな組織サンプルが必要になって、外科手術を行って採取しなければならないこともよくあります。

コルチコステロイド薬による治療を行うことで、約2/3の患者が回復します。しかし、後で症状が再び現れることもあります。そうなった場合でも、通常はコルチコステロイド薬による再治療が有効です。

 

 

 

 

 

気管支拡張症

 

 気管支拡張症は、気道の壁が損傷を受けて、呼吸管や気道の一部(気管支)が広がったまま元に戻らない状態(拡張症)です。

 

 

気管支が円柱状や嚢状(のうじょう 袋状)に拡張します。肺全体に起こる場合と、局所に起こる場合があります。拡張した部分の浄化能力は低くなり、血管も増殖するため、膿性痰(のうせいたん)や血痰(けったん)が現れます。  いろいろな原因で気管支拡張は起こるため、原因となった病名が明らかな場合には、気管支拡張症よりも原因となった疾患名が病名として用いられます。

 

原因  原因は、感染症、気道閉塞、先天性、免疫異常などさまざまです。感染症は原因のなかで最も重要で、気管支・肺胞の発育が盛んな乳幼児期の感染がとくに問題となります。  先天性では原発性線毛機能不全があります。これは気道粘膜の線毛系などに先天異常があるために粘液線毛輸送系の機能不全を起こし、肺感染症を頻発する病気です。

 

気管支拡張症では、粘液の量が増加し、線毛が損傷を受けて破壊され、気管支壁の一部が慢性的な炎症を起こして破壊されます。

 

気管支拡張症には、肺のさまざまな部分に生じるびまん性気管支拡張症や、1、2カ所だけにみられる局所性気管支拡張症があります。気管支拡張症では、中程度の太さの気道が拡張するのが典型的ですが、それより細い気道が瘢痕化して破壊されることがよくあります。

 

合併症:

気管支の炎症や感染が、肺にある小さな空気の袋(肺胞)まで広がって、肺炎や瘢痕化を引き起こしたり、肺組織の機能が失われたりすることがあります。最終的には、重度の瘢痕化や肺組織の欠損によって、その異常な組織に血液を送り出そうとする心臓の右側に大きな負担がかかる可能性があります。この心臓の右側への負担は、肺性心と呼ばれる一種の心不全につながることがあります。

気管支拡張症の特に重篤な例は、開発途上国の人々や嚢胞性線維症が進行した患者に多くみられ、呼吸が大きく妨げられることで、血液中の酸素濃度が異常に低く、二酸化炭素濃度が異常に高くなって、呼吸不全と呼ばれる状態になることがあります。

 

 

治療の方法  痰の喀出(かくしゅつ)を促すために、喀痰調整薬の投与、吸入療法、体位排痰法や排痰を介助する器具などを用います。感染症を合併した時には、抗菌薬が投与されます。気管支拡張薬やマクロライド薬の少量投与が行われる場合もあります。  持続する血痰や喀血のある場合は、内視鏡的止血法、気管支動脈塞栓術や外科的切除術が考慮されます。

 

 

 

 

 

特発性血栓症

 

血栓症とは血管の中で血液が固まり血流が阻害されてしまう病気のことで、特発血栓症とはその中でも原因が特定できないものを指します。

血栓ができる場所によって症状は様々ですが最も多いのは下肢の血管に血栓ができる下肢深部静脈血栓症です。足のむくみ、靴・靴下の跡がつく、正座ができないといった症状が起こります。下肢にできた血栓の一部が肺まで運ばれてしまうと肺血栓塞栓症となり、激しい胸の痛みや呼吸困難を引き起こします。

 

特発性血栓症は前述の通り直接的な病気の原因ははっきりとはしていませんが、少しずつ解明されつつあります。血液中に含まれる特定のタンパク質の働き、血管の内側を覆っている血管内被細胞の働きが正常になされていないことがその原因の1つです。生まれつき素因を持っている場合、男女で罹患率に差はありません。病気発生の引き金としては、他の疾患で手術を受けた、長時間座っている場合(いわゆるエコノミークラス症候群)、妊娠、感染症などが挙げられます。

 

特発血栓症は多因性疾患なので生まれつき素因を持っている人が必ず全員発症するわけではありません。そのため症状が表面化して初めて気付くというケースが多いのですが、血の繋がった近親者に特発性血栓症の方がいる場合には注意が必要です。既にできてしまった血栓の発見はCTやMRI、超音波検査が有効です。また血液検査では、血栓が分解される際に分泌されるDダイマーという生成物の値が判断基準となります。

 

既にある血栓に対してはウルキナーゼのような血栓を溶かす薬を用いるか、もしくは外科手術が必要になります。下肢深部静脈血栓症の場合には重症化を防ぐためにカテーテルを使って下大静脈フィルターの留置を行う場合もあります。また、新たな血栓ができないようにワルファリンやヘパリンといった抗凝固薬を服用します。それに加え特発性血栓症を防ぐために最も重要なことは血の巡りを良くすることなので、積極的な運動も有効な予防策になります。

 

 

血栓ができやすい素因

 

静脈内に血栓ができる原因は、はっきりわからない場合もありますが、血栓ができやすい状態(危険因子)は明らかになっています。

これらの状態は、次のものです。

高齢者(特に60歳を超える場合)

心房細動(不整脈の一種)

血液凝固障害(凝固亢進状態と呼ばれ、血栓のリスクが高い)

 癌

喫煙(受動喫煙を含む)

心不全

体を動かせない状態

骨盤、股関節、脚の損傷

静脈カテーテルの留置

ネフローゼ症候群と呼ばれる腎臓疾患

過去3カ月以内の大きな手術

骨髄増殖性疾患(血液が過度に濃くなる過粘稠になる可能性がある)

肥満

妊娠中または出産後の一定期間

血栓の既往歴

鎌状赤血球貧血

エストロゲン薬の使用(たとえば、更年期症状の治療として使用したり、避妊のために使用したりする場合で、35歳を過ぎた女性や喫煙する女性では特にリスクが高くなる)

エストロゲン受容体モジュレータの使用(ラロキシフェンやタモキシフェンなど)

 

 

 

特発性肺線維症

 

特発性肺線維症は、特発性間質性肺炎の中で最も多くみられます。

特発性肺線維症になりやすい人は、主に50代から60代の男性で、多くは喫煙者です。

症状には、せき、体重減少、呼吸困難、疲労感などがあります。

肺移植が唯一有効な治療法と考えられます。

長い年月の間に肺は損傷を受け、徐々に悪化してきます。この損傷により慢性的な炎症が生じ、やがて肺が瘢痕化して線維症となります。

 

症状

肺の損傷程度、病気の進行速度、肺感染症や右側心不全(肺性心)などの合併症の有無などによって、症状は異なります。運動時の息切れ、せき、持久力の低下のような主な症状が、知らないうちに現れ始めます。その他によくみられるのは、体重減少や疲労感などの症状です。ほとんどの場合、症状は約6カ月から数年にわたって悪化していきます。

病気が進行するにつれて、血液中の酸素濃度が低下し、皮膚の色が青っぽくなるチアノーゼが生じる場合や、指先が太くなったり、ばち状になったりするばち指がみられる場合があります。心臓に負担がかかると、右心室が肥大して、やがて右側心不全に陥ることもあります。医師には聴診器を通して、しばしばパチパチというクラックル音(断続性ラ音)が聞こえます。この音は、ベルクロ社のマジックテープをはがすときの音に似ているため、その名前を取って、ベルクロ・ラ音とも呼ばれます。

 

診断

胸部X線検査では、細くて白い線が広範囲に認められることがあり、ほとんどが網の目状で、両肺の下側に最も多くみられます。CT検査では、典型的に肺の下側に斑状の白い線が認められます。病気が進行した部分では、厚くなった瘢痕が、しばしば蜂巣状にみえます。肺機能検査では、肺に吸いこめる空気の量が、正常値を下回っていることが明らかになります。血液サンプルを分析したり、パルスオキシメーターで測定すると、普通の速度で歩く程度の最低限の運動で血液中の酸素濃度の低下が認められ、病気が進行するとともに安静時でもみられるようになります。

診断を確定するために、医師は気管支鏡検査と呼ばれる方法を用いて肺生検を行うことがあります。これより大きな組織サンプルが必要になり、外科手術を行って採取しなければならないことも多く、胸腔鏡が使用されることもあります。

血液検査で診断を確定することはできませんが、同じような炎症や瘢痕化を生じる可能性がある別の病気を調べる検査の1つとして実施されます。たとえば、特定の自己免疫疾患ではないことを調べるために、血液検査が行われます。

 

予後(経過の見通し)と治療

ほとんどの場合、病状は悪化していきます。平均すると、診断後の生存期間は3年未満です。診断後の生存期間が5年を超える人はわずかしかいません。また、数カ月以内に死亡する人もわずかです。

胸部X線検査や肺生検で瘢痕化が広範囲に広がっていなければ、通常の治療法として、プレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬の単独療法またはアザチオプリンやN-アセチルシステインとの併用療法、あるいは3剤併用が行われます。医師は、胸部X線検査、CT検査、肺機能検査などを行って患者の反応を評価します。通常は、高用量のプレドニゾロンを約3カ月間投与し、それから3カ月間かけて用量を徐々に減らしていきます。その後、さらに少ない用量のプレドニゾロンの投与をさらに6カ月間続けます。しかしながら、この併用療法はほとんどの患者に効果がありません。肺線維症の軽減と生存期間の延長が期待できる有望な治療薬には、ピルフェニドンやボセンタンなどがあります。

その他の治療は症状の緩和を目的としたもので、日常生活動作を行う能力を高める呼吸リハビリテーション、血液中の酸素濃度低下に対する酸素療法、感染症に対する抗生物質、肺性心によって生じる心不全に対する薬などがあります。肺の移植は片肺移植が中心ですが、重篤な特発性肺線維症の患者を対象に成功した例もあります。

 

 

 

 

サルコイドーシス

 

サルコイドーシスとは、体のさまざまな器官に炎症細胞が異常に集積した肉芽腫ができる病気です。

サルコイドーシスは、一般に20~40歳で発生し、スカンジナビア系の人やアフリカ系アメリカ人に最も多くみられます。

多くの臓器に影響することがありますが、肺の障害が最も多くみられます。

せきや呼吸困難がみられますが、どの臓器が障害を受けたかよってさまざまな症状が現れる場合があります。

診断には、一般に胸部X線検査やCT検査の他、通常は肺から採取した組織サンプルの分析(生検)が必要になります。

ほとんどの場合、治療を行わなくても、そのうち症状はなくなります。

治療が必要な場合は、コルチコステロイド薬の投与から始められます。

サルコイドーシスの発生原因はわかっていません。感染症または免疫系の異常反応によって発生する場合があります。遺伝的要因が重要な場合もあります。典型的には20~40歳で発生します。誰にでも起こりえますが、スカンジナビア系の人やアフリカ系アメリカ人に最も多くみられます。

サルコイドーシスは、炎症細胞が集積した肉芽腫ができることが特徴です。この病気は、主に片方の肺にみられますが、肉芽腫がリンパ節、両方の肺、肝臓、眼、皮膚にできることもあり、まれに脾臓、骨、関節、副鼻腔、骨格筋、腎臓、心臓、生殖器官、唾液腺、神経系にできることもあります。肉芽腫はやがて完全になくなったり、瘢痕化した組織になったりすることがあります。

 

症状

サルコイドーシスでは、まったく症状が現れないことが多く、別の理由で実施した胸部X線検査によって発見されます。ほとんどの患者に軽い症状が現れますが、進行はみられません。重い症状が現れるのはまれです。

 

サルコイドーシスの症状は、肉芽腫のできた場所や範囲によって大きく異なります。

 

全身:

患者の約3分の1に最初の徴候として発熱、疲労感、鈍い胸痛、全身のけん怠感、体重減少、関節痛などが現れることがあります。リンパ節の腫大がよくみられますが、ほとんど症状は伴いません。病気中は、発熱や寝汗が繰り返し現れることもあります。

 

肺:

サルコイドーシスによって最も影響を受ける器官は肺です。胸部X線検査で、肺と心臓が接する部分にあるリンパ節、または気管の右側にあるリンパ節に腫大が発見されることがあります。サルコイドーシスにより肺に炎症が起き、いずれは瘢痕化や嚢胞の形成につながることがあり、そのためにせきや息切れが生じる場合もあります。幸いなことに、このような進行性の瘢痕化はめったに発生しません。場合によっては、アスペルギルスという真菌が、肺の嚢胞に付着し(コロニー形成)、増殖して出血を引き起こします。呼吸が困難になることがあり、ときには喀血することもあります。サルコイドーシスにより肺が重度の障害を受けると、やがて心臓の右側に負担がかかるようになり、右側心不全になることがあります。

 

皮膚:

皮膚は、しばしばサルコイドーシスによる影響を受けます。スカンジナビア系の人では、サルコイドーシスは通常はすねの上に隆起し、触ると痛い赤いしこり(結節性紅斑)から始まり、発熱や関節痛を伴うことがよくあります。こうした症状は、アフリカ系アメリカ人ではほとんどみられません。サルコイドーシスが長期間続くと、平らな斑点(プラーク)や隆起した斑点ができたり、鼻、ほお、唇、耳などの変色を伴うしこり(凍瘡状狼瘡)が皮膚のすぐ下にできたりします。この凍瘡状狼瘡は、黒人女性に最も多くみられます。

 

肝臓と脾臓:

サルコイドーシス患者の約70%に肝臓の肉芽腫がみられます。このような肉芽腫は症状を伴わないことが多く、肝臓の機能も正常と思われます。肝臓が腫大しているサルコイドーシス患者は10%未満です。肝機能の悪化によって黄疸が現れるのはまれです。脾臓の腫大も一部の患者にみられます。

 

眼:

サルコイドーシス患者の15%に眼の異常がみられます。眼の内部構造の一部に炎症が起こり(ぶどう膜炎)、眼が充血し、痛みを伴って、視覚を妨げます。炎症が長く続くと、眼からの涙の排出が妨げられ、緑内障になって失明する可能性もあります。結膜(まぶたの内側の眼球を覆っている膜)に肉芽腫ができることもあります。このような肉芽腫は普通は症状を起こしませんが、結膜は医師が検査用の組織サンプルを採取しやすい場所の1つとなっています。サルコイドーシス患者の中には、眼の乾き、痛み、充血を訴える人もいますが、これは、サルコイドーシスの影響を受けた涙腺の働きが鈍くなり、眼の潤いを保つ涙が十分につくれなくなるためだと考えられます。

 

心臓:

心臓に肉芽腫ができると、胸痛(狭心症)が生じたり、心不全に陥ることがあります。心臓の電気伝導系の近くに肉芽腫ができると、命にかかわることもある不整脈が誘発されることもあります。

 

関節と骨:

炎症によって、関節痛が広範囲に生じることがあります。手や足の関節が最も起こりやすい部分です。骨に嚢胞が形成され、その近くの関節が腫れたり、圧痛がみられることもあります。

神経系: サルコイドーシスが、脳神経系に影響して、ものが二重に見えたり、顔の片側が垂れ下がったりすることがあります。下垂体やその周囲の骨に作用すると、尿崩症になる可能性もあります。腎臓で尿を濃縮するために必要なバソプレシンというホルモンが下垂体でつくられなくなると、頻尿になり大量の尿がでるようになります。

 

高カルシウム:

サルコイドーシスにより、血液や尿の中に蓄積するカルシウム濃度が高くなることがあります。これは、サルコイド肉芽腫が活性型ビタミンDを産生して、腸管からのカルシウム吸収を促進するためです。血液中のカルシウム濃度が高くなると、食欲不振、吐き気、嘔吐、のどの渇き、尿の過剰産生などの原因となります。血液中のカルシウム濃度が高い状態が長く続くと、腎臓結石や腎臓内へのカルシウム沈着につながることがあり、やがて腎不全に陥ります。

 

診断

医師は、ほとんどの場合、リンパ節の腫大や胸部X線検査またはCT検査の異常所見などの特徴的な変化を観察して、サルコイドーシスを診断します。さらに検査が必要な場合は、組織サンプルの顕微鏡検査を行って、炎症や肉芽腫を確認することで診断を確定します。気管支鏡検査による経気管支肺生検は、正確さが90%で、肺に障害がある患者には最も優れた方法です。肺以外に組織サンプルが採取できるところは、皮膚の異常がみられる場所、皮膚から浅いところにある腫大したリンパ節、結膜上の肉芽腫などです。肝臓に異常がある証拠が得られていても、肝生検が必要になることはまれです。

結核は、サルコイドーシスの場合とよく似たさまざまな変化を起こすことがあります。そのため、医師はさらにツベルクリン反応検査を(ときには、肺生検も)行って、結核ではないことを確認します。

他にサルコイドーシスの診断や重症度の判定に有用と考えられる方法には、血液中のアンジオテンシン変換酵素(ACE)濃度の測定、肺洗浄と洗浄液の検査、全身ガリウムスキャンの実施などがあります。サルコイドーシスの患者の多くは、一般に血液中のアンジオテンシン変換酵素の濃度が高いものの、この検査が常に正確とは限りません。サルコイドーシスが活動性の場合、肺から採取した洗浄液には大量のリンパ球が含まれますが、サルコイドーシスに特有の所見とはいえません。ガリウムスキャンでは、サルコイドーシスの病変が肺やリンパ節にあれば、異常な像が認められるため、診断がつかない場合にときどき行われます。

肺に瘢痕化がみられる患者では、肺機能検査を行うと、肺に保持できる空気の量が正常値を下回っているのが明らかになることがあります。血液検査で、白血球、赤血球、血小板の数が減少していることが明らかになることもあります。特に黒人では、免疫グロブリンの濃度がしばしば高くなります。血液中のカルシウム濃度が高い場合もあります。肝臓が影響を受けた場合は、特にアルカリホスファターゼなどの肝臓の酵素が高いことがあります。

 

予後(経過の見通し)

肺のサルコイドーシスでは、患者の3分の2近くが自然に改善したり、完全に治ったりします。胸部のリンパ節腫大や広範囲の肺の炎症でも、数カ月から数年で消失することがあります。患者の10~30%では、慢性化や進行の経過をたどることがあります。病気の初期に肺以外の場所(たとえば、心臓、神経系、眼、肝臓など)に重度の病変がみられるのは、患者の4~7%です。肺の疾患が持続している場合は、肺以外に病変ができる可能性が高くなります。

サルコイドーシスが胸部以外に広がっていない患者の経過は、全身に病変がある患者と比べて良好です。胸部のリンパ節に腫大があっても、肺疾患の徴候がみられなければ、予後は非常に良好です。結節性紅斑、関節の圧痛や腫脹からサルコイドーシスが始まった場合は、しばしば予後が最も良好です。サルコイドーシスになったことのある人では、約50%が再発します。

サルコイドーシス患者の約10%では、眼、呼吸器系、その他の器官の損傷によって深刻な機能障害が生じます。肺の瘢痕化から進行した呼吸不全や肺性心が最も多い死亡原因で、次がアスペルギルスによる感染症からの出血です。

 

治療

サルコイドーシス患者のほとんどは、治療の必要はありません。息切れ、関節痛、発熱などの症状が重ければ、軽減するためにコルチコステロイド薬を使用します。この薬は、次の場合も使用されます。

症状が軽くても、血液検査でカルシウム濃度が高い場合。

心臓、肝臓、神経系の機能に異常がみられる場合。

サルコイドーシスにより、外観を損なう皮膚損傷やコルチコステロイド点眼薬では治癒しない眼疾患が発生した場合。

肺疾患が悪化した場合。

 

症状がみられない場合は、コルチコステロイド薬を使うべきではありません。コルチコステロイド薬は症状を抑えるのに有用ですが、数年にわたって肺の瘢痕化を防ぐ薬ではありません。コルチコステロイド薬のみでは、治療が必要な患者の約10%に効果が得られないため、メトトレキサートも併せて投与することで、高い効果が得られることがあります。ヒドロキシクロロキンは、外観を損なう皮膚病変を治すのに役立つことがあります。

治療が奏効しているかどうかは、胸部X線検査、CT検査、肺機能検査、血液中のカルシウム濃度やアンジオテンシン変換酵素濃度の測定によって監視できます。これらの検査は、治療を停止した後も再発を発見するために定期的に繰り返します。

 

 

 


膿胸

 

 膿胸とは、胸膜が炎症を起こし胸膜内に膿状の液体(うみ)がたまった状態をいいます。細菌性肺炎、胸腔内手術後に続いて起こるのが特色です。

 期間によって急性膿胸(3ヵ月未満)、慢性膿胸(3ヵ月以上)に分けられます。また、菌の種類によって結核性、化膿性、真菌性膿胸に分けられます。原因となる細菌はブドウ球菌が最も多く、ほかには、肺炎球菌、クレブシエラ、グラム陰性桿菌があります。まれに膿胸から悪性Bリンパ腫が発症します。

 

症状の現れ方  急性では悪寒を伴う高熱、咳、胸痛、呼吸困難が主な症状です。重症の場合は、血圧低下や敗血症を伴い、ショック状態となります。

 結核性膿胸の場合は慢性の経過をとり、多くは結核性胸膜炎の既往があって、胸水も膿性でなく褐色を示すことがあります。また、結核菌を証明できないことも多くあります。  膿胸症例の44%で糖尿病、肝疾患、うっ血性心不全閉塞性肺疾患などの基礎疾患を伴うことや、アルコール依存・喫煙との関係がいわれています。

 

治療の方法  原因となる細菌に感受性のある抗生物質の全身投与と胸腔ドレナージ(チューブによる排液)の両方が必要です。抗生物質は、広域ペニシリンや第2世代セフェム系の薬物が点滴で投与されます。しばしばアミノグリコシド系薬剤も併用します。

胸腔ドレナージに使うチューブは膿状の胸水の詰まりをなくすため、できるだけ太いものを使います。チューブから直接抗生物質を注入したり、生理食塩水で胸腔内を洗浄します。

慢性膿胸は難治性なので、胸膜肺切除などで肺の膨張を図る外科治療も行われます。

 

 

肺膿瘍

 

肺膿瘍とは、肺の中にできた膿で満たされた空洞のことで、周囲は炎症を起こした組織に囲まれており、感染症が原因です。

 

肺膿瘍は、通常、口やのどの中にいる細菌が肺の中へ吸いこまれ、感染症を引き起こすことで発生します。多くの場合、歯周病が、肺膿瘍を引き起こす細菌源となります。細菌が肺の内部へ侵入しないように、体には多くの防御機能(せきなど)が備わっています。主に感染がみられるのは、鎮静薬、麻酔、アルコールや薬物の乱用、神経の病気などによって、意識がない場合や意識がもうろうとしている場合です。免疫機能が低下した人では、口やのどにはほとんどみられない真菌や結核菌(結核を引き起こす微生物)などの微生物によって、肺膿瘍になることがあります。

その他の肺膿瘍の原因に黄色ブドウ球菌があり、重篤な感染症であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)もあります。この肺膿瘍は、一般に若くて健康だった成人や小児にみられ、特にインフルエンザにかかった場合に多く発生します。

 

気道の閉塞によって膿瘍が形成されることもあります。気管が分岐したところ(気管支)が腫瘍や異物でふさがれると、分泌物(粘液)が腫瘍の奥にたまって、膿瘍が形成されることがあります。

 

治療

抗生物質による治療が必要です。

ほとんどの場合、最初は静脈注射により抗生物質を投与し、症状が改善し、発熱が治まってから経口服用に切り替えます。抗生物質による治療は、症状が消え、胸部X線検査で膿瘍の消失が確認されるまで続けます。症状の改善には、抗生物質による治療が数週間から数カ月も必要になる場合があります。

 

 

肺胞低換気症候群

 

肺胞低換気症候群は、画像診断などではっきりした異常が見つからないのに、体内の酸素量が少なく、二酸化炭素が多い状態になってしまいます。代表的な初期症状は、疲れやすい・不眠・日中の眠気・起床時の頭痛などがあります。特に、就寝中は低酸素状態が顕著になり、呼吸困難になる可能性も有ります。症例数の少ない病気で、日本ではあまり報告例がありません。発症する年齢層は、幼児から高齢者まで幅広いです。日本では難病指定されている、治療が困難な疾患です。

 

現在のところ肺胞低換気症候群の発症の原因は不明です。脳幹部の神経網の障害か化学受容体の作用の低下が原因ではないかと推定されています。安静時にも高炭酸ガス血症と低酸素血症を示す症候群で、画像診断でも異常がなく、神経疾患もみられないため、原因の特定が困難です。本疾患の初期段階では、覚醒中には正常でも、睡眠中のみ、高炭酸ガス血症・低酸素血症等の症状が現れることも有ります。原因は現在も研究中ですが、症例数が少ないため、解明のめどは立っていません。

 

検査方法としては、血液検査が行われ、動脈血二酸化炭素分圧の値を参照します。正常値の35から45mmHgを超えた場合には、本疾患が疑われます。自発的過換気を行った後、血液ガスが正常化した場合は、原発性・中枢性肺胞低換気症候群の疑いも考慮されます。他の疾患となる、肺機能障害、呼吸器調節異常、呼吸筋力の低下などを疑った診断も並行して行います。胸部レントゲン写真、CTスキャン検査、MRTスキャン検査などが有効です。これらの検査で、疾患が見つからなかった場合は、本疾患の疑いが濃厚です。

 

残念ながら、肺胞低換気症候群の根本的な治療方法は確立していません。対症療法として、非侵襲的換気療法や非侵襲的陽圧換気療法がおこなわれます。日本での実績は少ないですが、海外では、横隔膜神経刺激が行われることも有ります。軽症の場合は、呼吸刺激剤としてプロゲステロンやアセタゾラマイドが投与されることも有り、呼吸器により酸素吸入が行われることも有ります。鎮痛剤の投与は、肺胞低換気の進行を促し、急性呼吸不全を誘導可能性が高まるため、注意が必要です。

 

 

 

 

 

肺ランゲルハンス細胞肉芽腫症(組織球増殖症)

 

肺ランゲルハンス細胞肉芽腫症(組織球増殖症)はランゲルハンス細胞肉芽腫症の一種です。

 

肺ランゲルハンス細胞肉芽腫症(組織球増殖症または好酸球性肉芽腫症)は、組織球や好酸球と呼ばれる細胞が肺の中で増殖し、しばしば瘢痕化を引き起こします。

 

症状がある患者では、せき、息切れ、発熱、胸痛、疲労感、体重減少などがみられます。

肺嚢胞の破損による一般的な合併症が気胸です。

 

この合併症は、患者の15~25%にみられ、最初に現れる症状の原因となる場合もあります。瘢痕化により肺が硬くなり、血液との酸素交換能力が損なわれます。少数の患者に、せきに血が混じる喀血がみられます。

 

この病気では、明らかに有効だといえる治療法はありません。

コルチコステロイド薬の他に、シクロホスファミドのような免疫抑制薬で治療することがあります。

 

 

チャーグ・ストラウス症候群

 

チャーグ・ストラウス症候群は、器官に損傷を与え、通常は喘息か鼻アレルギーまたはその両方の病歴のある人に起こる小血管の炎症です。

 

最初は喘息か鼻アレルギー、またはその両方が起こったり、悪化したりします。患者はくしゃみが出たり、鼻水や眼のかゆみが続いたりします。副鼻腔の炎症は顔の痛みを生じ、ポリープが鼻にできることがあります。

患者は全身に不調や疲労を感じます。発熱、寝汗、食欲不振、体重減少などがみられます。

 

腎臓の炎症の症状は、腎臓の機能障害や腎不全が起こるまで現れない場合があります。その他の合併症には、心不全、心臓発作、心臓弁障害などがあります。

 

治療

通常はコルチコステロイド薬(たとえば、プレドニゾロン)が使用されます。これらの薬は、炎症を軽減します。生命維持にかかわる器官がおかされている場合、免疫系を抑制する別の薬(免疫抑制薬)も使用します。アザチオプリンやメトトレキサートを使用することがあります。症状が重いときはシクロホスファミドを使用します。

症状がおさまった後、薬の用量を徐々に減らし、しばらくしたら薬を中止します。必要ならば、治療を再開します。これらの薬は、特に長期間服用すると、重い副作用が起こることがあります。

 

 

 

胸膜炎

 

胸膜に炎症が起こる病気をいいます。

多くが胸膜にある血管から血液中の水分などがもれ出して、胸水がたまります。

炎症を起こす原因としては細菌感染などで、細菌感染は多くが肺炎に続いて起こります。

 

 

慢性胸膜炎

慢性胸膜炎の症状は、初期の段階では風邪と似たような症状なので、軽視しがちなのが特徴です。咳をする期間が異常に長かったりすると、本疾患の疑いがあります。病状が悪化してくると、主には胸痛を訴えるようになり、咳に混ざって頻繁に痰が出るようにもなります。さらには、動悸や息切れ、呼吸困難などの症状が見られるようになり、場合によっては、発熱や悪寒がする、体のだるい状態が長く続く、背中が痛くなるなどの症状が現れることもあります。

 

一般的に、慢性胸膜炎の原因としては、がん性胸膜炎・感染性胸膜炎・結核性胸膜炎・肺炎や心疾患に起因するものに分類されます。がん性に関しては、胸膜自体にがん細胞が出現することは極めて稀です。大半は、肺がんなど胸膜と隣接する臓器にあったがんが胸膜に転移します。

稀に、胸膜に悪性腫瘍が突然発生することもありますが、その場合はアスベストが要因になっているのではないかと考えられています。アスベストを吸引してから10年後に発病する場合もあるので、アスベストを扱っている仕事を過去にしていた場合などには注意が必要です。

 

慢性胸膜炎の診断は、医師による聴診と打診のみで診断がつくことがあります。胸水が溜まっている場合は、打診にて濁音がするためです。聴診では呼吸音に特徴的な摩擦音があります。本格的に検査を行うには、胸水検査が行われます。肋骨の隙間から細い針を刺して、胸水を採取する検査です。胸水はレントゲン撮影では映らないとされていますが、MRIスキャン検査を行えば判定がつく場合が多いです。採取された胸水に血が混ざっていないか、蛋白濃度はどうか、などを確認し、結核や悪性腫瘍、他の感染症などの区別をつけていきます。

 

慢性胸膜炎の治療は、細菌感染が原因であれば、ペニシリンやセフェム系などの抗菌薬の点滴にて対応します。症状が重症な場合は、カルパペネムという抗菌薬が使用されることもあります。結核が原因の場合は、リファンビシン、ストレブトマイシン、イソニコチン酸ヒドラジド、エタンプトール、ピラジナマイドなどの抗結核薬が使用されます。悪性腫瘍が原因の場合は、肋骨の隙間から胸腔内に細いチューブを挿入して胸水を排出し、アドアマイシンなどの抗がん剤やピシバニールなどを注入します。

 

 

 

胸水

 

胸水とは、胸膜腔に液体が異常にたまった状態です。

 

胸水の種類

原因によりますが、胸水は、タンパク質を豊富に含む滲出(しんしゅつ)液か、水分が多い漏出(ろうしゅつ)液のいずれかであると考えられます。

 

胸水の一般的な原因は、

心不全

腫瘍

肺炎

肺塞栓

手術(最近の冠動脈バイパス術など)

などです。

 

治療

胸水の原因となっている病気は必ず治療する必要があります。胸水の量が多く、特に息切れがある場合は、胸水を抜き取るドレナージという処置が必要になります。ドレナージを行うことで、通常は息切れが劇的に軽減します。多くの場合、胸腔穿刺を用いて胸水を抜き取ることができます。下側の2本の肋骨の間の皮膚に局所麻酔を施した後、そこに細い針を刺して、胸水に届くまでゆっくりと挿入していきます。肺に穴を開けてしまい、気胸を引き起こす可能性を減らすために、多くの場合、細いプラスチック製のカテーテルを針を覆うように胸水の中まで誘導します。胸腔穿刺は、一般に診断目的で実施されますが、この方法を用いると、1回で約1.5リットルもの胸水を安全に抜き取ることができます。

さらに大量の胸水を抜き取る必要がある場合は、胸腔チューブという管を胸壁から挿入することがあります。2本の肋骨の間に局所麻酔薬を注射して麻酔を施した後、プラスチック製のチューブを胸腔内に挿入します。次に、この胸腔チューブの片方を、胸膜腔内に空気が漏れないようにしたウォーターシール式のドレナージ装置につなぎます。胸腔チューブの位置を確認するために、胸部X線検査を行います。胸腔チューブの位置が正しくない場合やねじれている場合は、ドレナージがうまくできないことがあります。また、胸水の粘り気が強い場合や完全にかたまっている場合も、うまく流れ出てこないことがあります。

 

 

 

気胸

 

気胸とは、2層の胸膜の間に空気があることによって、肺の一部または全部がつぶれてしまう病気です。

 

治療

小さな原発性自然気胸では、一般に治療の必要はありません。通常は、重い呼吸障害には至らず、空気は数日間で吸収されます。比較的大きな気胸では、空気が完全に吸収されるのに2~4週間かかることがあります。ただし、カテーテルや胸腔チューブを気胸内に挿入することで、さらに早く空気を抜くこともできます。

呼吸に支障を来すほど原発性自然気胸が大きい場合は、胸部に挿入したプラスチック製のカテーテルに太い注射器を取り付けて、空気を抜く吸引という処置も可能です。このカテーテルを空気が漏れないように密封しておき、再度空気がたまったら抜くことができるように、しばらくの間そのまま留置しておくことができます。カテーテル吸引で効果がない場合や、続発性自然気胸や外傷性気胸などの別の気胸の場合は、胸腔チューブを用いて空気を抜きます。胸壁を切開して胸腔チューブを挿入し、片方をウォーターシール式のドレナージ装置、または空気を逆流させずに放出できる一方向弁に接続します。気道と胸膜腔の間の異常な通路(瘻孔)から空気が漏れ続ける場合は、吸引ポンプを胸腔チューブに接続することもあります。場合によっては、手術が必要になります。手術は、多くの場合、胸壁から胸膜腔内へ挿入した胸腔鏡を用いて行われます。