能力主義と成果主義
能力主義とは、それぞれの労働者が持っている能力の高さ、つまり、職務遂行能力(仕事をする能力)の高さに応じて処遇を決める考え方です。そして、能力の高さに応じて報酬を決めるのが能力主義賃金制度です。
経済や事業が成熟化し、成長拡大が停滞すると、ビジネスの内容や手法が急速に変化しつつあるので、これまで能力の高さを測定するための有力な指標であった年功が使いものにならなくなり、必要な能力とこれまで企業が評価してきた能力とのミスマッチが起こります。それは能力主義賃金制度の下で高い賃金を支払ってきた労働者の過剰を生み、企業にとってはコストが高くついてしまうという結果をもたらしました。そこで、能力主義に代わり登場したのが成果主義です。成果主義では「どんな能力を持っているか」より「その仕事でどんな成果を上げたか」を重視します。つまり、インプットではなくアウトプットに着目するのです。多くは目標管理という手法を用い、一定期間における目標達成度を評価して報酬に反映させます。どんなに高い能力を持っていても、それが仕事の成果となって現れなければ報酬に反映されないわけでして、能力過剰や能力ミスマッチによるコスト高が解消されるというわけです。
成果主義成立の条件
・努力しても報酬増が無ければ効果は出ない。
・評価の納得性が低ければ効果は出ない。
・自由裁量度が高く、自分の努力に応じて業績が変化する度合いが大きいほど効果は高い。
・リスクを好まない人には適さない。
成果主義を徹底した場合の問題点
・評価の対象となる結果だけを手段を選ばず追い求める。
・高い評価を得やすい仕事には、できるだけ時間と労力を配分する。
・評価を得にくい仕事には、できるだけ時間と労力を配分しない。
・評価の対象とならない仕事は重要な仕事でもしなくなる。
目標達成度などの成果評価(業績評価)は、賞与に反映されるのが一般的です。しかし、近年では管理職を中心に、基本給の一部に成果給や業績給などと呼ばれる成果主義賃金を導入したり、成果評価によって大きく増減するような年俸制を採用する例があります。能力主義賃金制度では、従前の賃金額が下がることは稀で、むしろ年功とともに上昇していくのが通常の姿ですが、成果主義賃金制度では、賃金が大きく上がることもあれば、逆に下がることもあります。能力は短期間で極端に下がることはなく、むしろ着実に向上していくのに対して、仕事の出来ばえである成果は、仕事の内容によっては短期間で上下に変動することがありうるからです。したがって、成果主義賃金制度の導入そのものが、賃金に関する就業規則の不利益変更とみなされることがあります。
成果主義賃金制度には、一定の公平性や公正性、とくに人件費コスト管理から見た効率性はありますが、他方、長期にわたって人を育てるには不向きです。短期的な成果に応じて賃金を決めるので、将来の能力開発や能力発揮に投資するという考え方が後退してしまいがちだからです。
「能力主義」と「成果主義」と分けて考えた場合は、次のようになります。
能力主義 |
成果主義 |
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考え方 |
「何ができる」という職務遂行能力を処遇の基本とし、取り組み姿や仕事の結果・成果を加味して、処遇に反映する |
「何をどれだけやったか」という仕事の成果を評価し、処遇に反映する |
評価の対象 |
・インプット(投入能力、投入努力)とアウトプット(成績)、ウエイトは階層別に変える |
・アウトプットのみ ・職務価値とその達成度によって決まる |
評価のルール |
・上位等級者が簡単な仕事をしても高賃金を支給する ・同一職務で賃金格差が出る |
・簡単な仕事を担当すれば、賃金は低くなる ・職務異動で賃金が上下する |
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