採用内定取り消し
採用内定者は、労働基準法上の労働者ではありません。採用内定は、「始期」および「解約権」が付いた状態といえども、一応は労働契約が成立している状態「始期付解約権留保付の労働契約」といえます。就労の始期が学校卒業直後であり、それまでの期間については、一定の内定取消事由に該当することにより、当該内定を解除できるというものです。
就労の有無という違いはありますが、採用内定者は社員と同等の地位がありますので、採用内定取消には解雇と同様に客観的に合理的で、社会通念上相当と是認できる理由が必要になります。
内定取り消しの合理的な理由としては、以下のようなものがあります。
(1) 条件付労働契約の場合の条件の成就又は不成就
卒業したら採用する
予定どおりに卒業しなかったら採用しない
所定の免許、資格を取得したら採用する など
(2) 提出書類の記載内容や面接内容に事実との重大な相違があったとき
(3) 採用内定取消事由を約束している場合その取消事由の発生
病気やケガなどで健康状態が悪化し、勤務に堪えられなくなった等の健康異常の発生
(4) その他の不適格事由の発生
犯罪行為を犯しての逮捕、起訴等
(5) 内定を取り消す以前に様々な企業努力を行ったが、著しい業務悪化や業務の縮小などに陥った場合
会社側の回答が単なる「会社の都合」だとか「不況になったから」という理由では、多くの場合、内定取消の合理性は認められないと考えられます。
(1) 判例で合理的な理由があるとされたもの
・公安条例違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受けたことが発覚したためになされた内定取り消しを有効とした(電電公社近畿電通局事件 最高裁55.5.30)
・労働者の性格が従業員に不適格であるとの印象を受けながら、これを打ち消す材料が出るかもしれないとして採用を内定したが、その印象を覆す材料が出なかったことを理由とした採用内定取り消しは無効とした。
・採用内定の取消が認められるのは、内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる(大日本印刷事件 最高裁 昭54.7.20)。
(2) 判例で合理的な理由がないとされたもの
・インフォミックス事件 東京地裁 平9.10.31
・オプトエレクトロニクス事件 東京地裁 平16.6.23
労働契約が成立しても内定を取り消すケースがありますので、就業規則に「内定取り消し理由」を明記しておく必要があります。
労働者の就労開始前に、労働契約を解消しようとするときは、内定者には内定取り消し理由を書面で明示し、同意を得ておくべきでしょう。
就業規則規定例 第○条 (内定の取り消し) |
さらに、解雇する場合と同様の配慮が必要となります。仮に合理的理由があり内定取消ができるとしても、労働基準法第20条で定める解雇予告規定の適用があり、30日前までに予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当といいます。)を支払う必要があります。
使用者の恣意的な内定取り消しについては、債務不履行や不法行為に基づく労働者の損害賠償が認められます。
経営不振を理由とする内定取消には、「整理解雇の4要件」に照らして判断されるべきですから、逸失利益については損害賠償を請求することが可能です。
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