未払い賃金

賃金不払い残業解消のための指針

  厚労省は2003年(平成15年)に、回答ポイントに示した指針を発しています。

 指針は、まず、労使が「事業場内において賃金不払残業の実態を最もよく知るべき立場にあり、各々が果たすべき役割を十分に認識」すべきであるとの前提に立っています。そして、使用者には、「賃金不払残業を起こすことのないよう適性に労働時間を管理」する役割が求められ、労働組合には、「本社レベル、事業場レベルを問わず企業全体としてチェック機能を発揮して主体的に賃金不払残業を解消するために努力するとともに、使用者が講ずる措置に積極的に協力すること」役割が求められています。その上で、労使の協力の実践として、「労使からなる委員会(企業内労使協議組織)を設置して、賃金不払残業の実態の把握、具体策の検討及び実施、具体策への改善のフィードバックを行うなど、労使が協力して取り組む体制を整備する」が要請されています。

 労使が取り組むべき具体的事項としては、以下のものがあげられています。

 厚労省が発している労働時間を適正に把握するための基準の遵守です。この基準(平成13・4・6基発339号)は労働者の労働日ごとの始終業時刻の記録などを通して使用者が労働者の健康を確保するために設けられたものですが、当然ながら、労働時間の適正な把握は不払残業の防止につながります。そこで労使が取り組むべき具体的事項として第一にこの点があげられているのです。

 次に、職場風土の改革です。不払残業が蔓延する企業には、それも仕方がないという労使双方の意識が反映されていることが多いのです。ちょうど、女性の人格の尊重について鈍感な企業風土がセクハラ事件を起こすように、不払残業について鈍感な企業が摘発されやすいのは言うまでもありません。そこで、指針では、「経営トップ自らによる決意表明や社内巡視等による実態の把握」、「労使合意による賃金不払残業撲滅の宣言」、「企業内又は労働組合内での教育」といった方法を通して、そうした悪しき職場風土の改善をめざすことが求められています。

 さらに、適正に労働時間の管理を行うためのシステムの整備も重要です。これは、前掲の労働時間適正把握基準にもとづいて、始終業時刻の正確な記録などの具体的実践とともに、制度としても労働時間管理のあり方を変える必要があります。労働者、管理者双方からヒアリングを行って、業務指示と所定外労働のための予算額との関係を含めた勤務実態や問題点の把握が望まれています。

 最後に、責任体制の明確化とチェック体制の整備です。たとえば「同じ指揮命令系統にない複数の者を労働時間の管理の責任者とすることにより牽制体制を確立して労働時間のダブルチェックを行う」ことや、相談窓口の設置、それに対する労使の積極的取り組みなどが要請されています。

 

使用者の未払い賃金についてのペナルティ

 もし、賃金(定期賃金、支給条件が定められている退職金、休業手当、割増賃金等)を支払わなかった場合、使用者に対するペナルティは下記のように大きいものとなります。

(1) 労働基準法関連では、使用者に罰金が科せられます。

 休業手当、割増賃金等の未払いについて、従業員が裁判所へ請求した場合、未払い金の他、これと同額の付加金の支払い命令も出されることがあります。

 訴訟に至った場合に最も怖いのは、本人の請求により裁判所が、不払い残業手当と同額の付加金の支払を命じることができる点です。(労働基準法第113条)

 過去2年間の未払い賃金の2倍を支払うことになりますので、注意が必要です。

(2) 商法では、賃金などが支払われない場合、本来支払われるべき日の翌日から、遅延期間の利息に相当する遅延損害金がつくこととされています。(民事上の請求権)

 

未払い賃金 倒産状態の場合

 法律に基づく未払賃金の立替払制度があります。

 企業が「倒産」したために、賃金が支払われないまま退職した労働者に、その未払賃金の一定範囲について労働福祉事業団が事業主に代わって支払う制度です。

 賃金の支払いの確保等に関する法律(以下「賃確法」という)は、
 (1) 社内預金の保全措置
 (2) 退職手当の保全措置
 (3) 退職労働者の賃金に係わる遅延利息
 (4) 未払賃金の立替払事業
の4つについて定めており、社内預金や退職金については、使用者はその第5条で、一定額について保全措置を講じるように努めなければならないと定めています。

 保全措置の内容は、
(1) 労働者に対する退職手当の支払いに係わる債務を、銀行その他の金融機関に、要保全額について保障することを約する契約を締結すること
(2) 要保全額について、労働者を受益者とする信託契約を信託会社と締結すること
(3) 労働者の退職手当の支払いに係わる債権を被担保債権とする質権または抵当権を、要保全額について設定すること
(4) 退職手当保全委員会を設置すること
としています。

 しかし、これらの保全措置がとられていない場合、または保全措置を講じていても、これによって賄い切れないときは、独立行政法人労働者健康福祉機構が雇用保険の財源から一定の範囲で未払い賃金の立替払い事業を行うこととしており、立替え払いが行われています。

 このほか、民法は、退職金および労働者が受けるべき最後の6ヵ月の賃金債権に限り、「先取特権を有する債権」とし、他の債権者に対して優先して支払いを受ける権利を保障し、また、商法でも、民法と同様に雇用関係に基づいて発生する労働者の債権すべてについて、会社の総財産の上に、先取特権を認めています。

 しかし、これらの定めは、倒産した会社に財産がある場合のことで、実際には倒産と同時に財産はなくなっている(債務超過)ものと思われますので、特殊な場合を除いて、これらの法律が適用されることはないものと思われます。 

 いずれの場合も、就業規則や労働協約等によって予め支給条件が明確である場合の退職金については、賃金と認められますが、口頭での約束や恩恵的に支給されている退職金に対しては、賃金とは認められませんのでご注意ください。

 

未払い賃金の立替払い

 既往の労働に対して支払われる債権である賃金や退職金の未払い分については、「賃金の支払いの確保等に関する法律」に基づいて、未払い賃金の立替え払いが行われます。

 立替払いの対象となる未払い賃金は、基準退職日の6ヵ月前から立替払いの請求があった日の前日までの間に支払期日が到来し未だ支払われていない賃金及び支払根拠が明確な退職金です。

 立替払いの額は、未払い賃金総額の100分の80 です。

 ただし、退職時の年齢に応じて88万円~296万円の範囲で上限が設けられています。

 以下の年齢区分に応じてその年齢区分に定める額を超える場合
  その額の100分の80 
 基準退職日において30歳未満の者 → 110万円(× 0.8 = 88万円)
 基準退職日において30歳以上45歳未満の者 → 220万円(× 0.8 = 176万円)
 基準退職日において45歳以上の者 → 370万円(× 0.8 = 296万円

 対象となるのは、資本金の額および常時使用する労働者の数等によっても制限されております。

 未払賃金の総額が2万円未満の場合は対象とはなりません。

 ボーナスは立替払の対象とはなりません。

 

未払い賃金の立替払い 手続き

 国による未払い賃金の立替払いの制度があります。

 会社が倒産した場合だけでなく、事業活動が停止していて、再開する見込みもなく、現在、 賃金の支払能力もないという状態になっている場合でも、労働基準監督署に申請しますと、事実上の倒産として認定してくれます。

 労働基準監督署が認定しますと、「確認通知書」を交付してくれます。

 次に、労働基準監督署が会社の「倒産」を認定したことを確認のうえ、会社を退職します。

 そのうえで、労基署からもらった確認通知書の用紙の左側に未払い賃金の額を記入する欄がありますので、必要事項を記入し、独立行政法人労働者健康福祉機構へ請求します。

 会社に退職金を支給する定めがある場合は「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」という用紙がありますので、それに本来なら支給されるはずの退職金の額を書き入れ、あわせて請求します。

 

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