定年・高齢者雇用

○定年

 定年とは、従業員が一定の年齢に達した場合に退職する制度をいいます。

定年に達したときとは  
 ・誕生日の前日を含む賃金計算期間の末日
 ・誕生日の属する月末  
 ・誕生日の属する年度末  
 ・誕生日の属する月の賃金締切日(←これが計算上都合よい)

 会社によっては「定年年齢に達した場合は、解雇し、または退職させる」として、退職なのか解雇なのか曖昧な規定にしている場合があると思いますが、これではトラブルになりかねません。なぜなら、解雇とする場合は、労働基準法の規定により、解雇制限が適用されたり、解雇予告が必要となってしまうからです。

 定年は基本的に解雇には該当しないため、解雇予告の問題は生じませんが、「一定の場合には継続して使用する場合がある」旨規定されており、現に当該規定により継続雇用されている者がいる場合には、解雇に該当するという行政解釈があります(昭22.7.29 基収2649号)。したがって、30日前の予告が必要となります。

 継続雇用制度を設けていない場合であっても、本人に定年を自覚させるため、30日前を目安に本人に通知するルールを設けておくのが望ましいです。

  定年を定めるかどうかは会社の自由です。

 定年について、労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはなりません(均等法第6条)。

 労働者の定年を定める場合は、定年年齢は60歳を下回ることはできません(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)第8条)。

 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条において、事業主には65歳までの高年齢者雇用確保措置が義務付けられています。

 したがって、定年(65歳未満のものに限る。)の定めをしている事業主は、
 ①定年の引上げ
 ②継続雇用制度の導入
 ③定年の定めの廃止
のいずれかの措置を講じなければなりません。

就業規則規定例

第○条(定年等)
 従業員の定年は、満60歳とし、満60歳に達した月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない場合は、65歳まで継続雇用する。

 

注意すべき規定

第 条 (定 年)
 定年は満60歳とし、定年に達した日の属する賃金締切日をもって退職とする。

2 前項の定めにかかわらず、会社が業務上必要と認めた者については、定年退職後嘱託として再雇用することがある。

 「会社が特に必要と認めた者」の表現は基準がないことに等しく、改正の趣旨に反するおそれがあります。

 

 平成25年4月からの特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢の引上げにより、60歳定年以降、継続雇用を希望したとしても、雇用が継続されず、無年金・無収入となる者が生じる可能性があり、年金支給と雇用との接続が課題となっていました。 これにより、定年後原則として希望者全員の再雇用を企業に義務付ける高年齢雇用安定法の改正案が国会に提出され、平成24年8月29日に改正高年齢者雇用安定法が成立しました。

 

高年齢雇用安定法の改正の概要

 ○継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止

 労使協定で基準に合わない社員は再雇用の対象からはずし、再雇用を希望する者全員を継続雇用の対象とする必要はありませんでしたが、改正によりこの緩和規定が廃止されました。

 平成25年4月1日からは、継続雇用の対象となる労働者が希望すれば、その全員を再雇用の対象にしなければならないことになりました。

 

 65歳未満の定年を定めている事業主が高年齢者雇用確保措置をして継続雇用制度を導入する場合、希望者全員を継続雇用制度の対象とする必要があります。

就業規則規定例

(1) 希望者全員を65歳まで継続雇用する場合の例

第○条(定年等)
 従業員の定年は満60歳とし、60歳に達した年度の末日をもって退職とする。ただし、本人が希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者については、65歳まで継続雇用する。

心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用

 対象者個人を個別にみていくと、業務の遂行に堪えないと判断される人もおられます。

 実施・運用に関する指針では、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たしえないこと等、就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合は、継続雇用しないことができます。ただし、継続雇用しないことについて、客観的合理性・社会的相当性が求められます。

 

 (2) 経過措置を利用する場合の例

経過措置

 基準の廃止にあたっては経過措置があります。労使協定によって継続雇用の対象となる基準を定めている場合には、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢に合わせて、以下の範囲において段階的にその基準が適用されることになります。

適用年度による区分

基準適用可能年齢

平成25年4月1日~28年3月31日

61歳以上

平成28年4月1日~31年3月31日

62歳以上

平成31年4月1日~34年3月31日

63歳以上

平成34年4月1日~37年3月31日

64歳以上

 

就業規則規定例

第○条(定年等)
 従業員の定年は満60歳とし、60歳に達した年度の末日をもって退職とする。ただし、本人が希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者であって、高年齢者雇用安定法一部改正法附則第3項に基づきなお効力を有することとされる改正前の高年齢者雇用安定法第9条第2項に基づく労使協定の定めるところにより、次の各号に掲げる基準(以下、「基準」という)のいずれにも該当する者については、65歳まで継続雇用し、基準のいずれかを満たさない者については、基準の適用年齢まで継続雇用する。
 ① 引き続き勤務することを希望している者
 ② 過去○年間の出勤率が○%以上の者
 ③ 直近の健康診断の結果、業務遂行に問題がないこと
 ④ ・・・

2 前項の場合において、次に掲げる期間における当該基準の適用については、(A)に掲げる区分に応じ、それぞれ(B)に掲げる年齢以上の者を対象に行うものとする。

 

適用年度による区分(A)

基準適用可能年齢(B)

平成25年4月1日~28年3月31日

61歳以上

平成28年4月1日~31年3月31日

62歳以上

平成31年4月1日~34年3月31日

63歳以上

平成34年4月1日~37年3月31日

64歳以上

 特別支給の老齢厚生年金が支給される年齢に達すると、再雇用の際、場合によっては再雇用契約の対象としないことができます。

 たとえば、平成28年3月31日までは、61歳未満の者については希望者全員を対象にしなければなりませんが、61歳以上の者については基準適合者に限定することができます。

 ただし、経過措置により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることができるのは、施行日前の平成25年3月31日までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主に限られます。

 実質的に、65歳までの全員雇用が完全義務化されるのは、平成37年4月以降ということになります。

 継続雇用の対象となった社員を再雇用する際の基準は、労働組合との労使協定、労働組合がない企業では労働者の過半数を代表する者との書面による労使協定によって定める必要があります。

 以下の点に留意されて策定されたものが望ましいとされています。
(1) 意欲、能力等をできる限り具体的に測るものであること(具体性
 労働者自ら基準に適合するか否かを、一定程度予見することができ、到達していない労働者に対して、能力開発等を促すことが出来るような具体性を有するものであること。

(2) 必要とされる能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見することができるものであること(客観性
 企業や上司等の主観的な選択ではなく、基準に該当するか否かを労働者が客観的に予見可能で、該当の有無について紛争を招くことのないよう配慮されたものであること。 

働く意思・意欲に関する基準の例
 ・引き続き勤務することを希望している者
 ・定年退職後も会社で勤務に精勤する意欲がある者
 ・本人が再雇用を希望する意思を有する者
 ・再雇用を希望し、意欲のある者
 ・勤労意欲に富み、引き続き勤務を希望する者
 ・定年退職○○年前の時点で、本人に再雇用の希望を確認し、気力について適当と認められる者

勤務態度に関する基準の例
 ・過去○○年間の出勤率○○%以上の者
 ・懲戒処分該当者でないこと
 ・人事考課、昇給査定において、著しく評価が悪くないこと
  ・無断欠勤がないこと

健康に関する基準の例
 ・直近の健康診断の結果、業務遂行に問題がないこと
 ・直近○ヵ年の定期健康診断結果を産業医が判断し、就業上、支障がないこと
 ・60歳以降に従事する業務を遂行する上で支障がないと判断されること
 ・定年退職○年前の時点で、体力について適当と認められる者
 ・体力的に勤務継続可能である者
 ・勤務に支障がない健康状態にある者
 ・直近の健康診断の結果、業務遂行に問題がないこと

能力・経験に関する基準の例
 ・過去○年間の賞与考課が管理職○○以上、一般職○○以上であること
 ・過去○年間の平均考課が○○以上であること
 ・人事考課の平均が○○以上であること
 ・業績成績、業績考課が普通の水準以上あること
 ・工事、保守の遂行技術を保持していること
 ・職能資格が○級以上、職務レベル○以上
 ・社内技能検定○級以上を取得していること
 ・建設業務に関する資格を保持していること
 ・技能系は○級、事務系は実務職○級相当の能力を有すること
 ・定年時管理職であった者、又は社内資格等級○以上の者
 ・○級土木施工管理技士、○級管工事施工管理技士、○級建築施工管理技士、○級造園施工管理技士、○級電気工事施工管理技士等の資格を有し、現場代理人業務経験者又は設計者である者
 ・企業に設置義務のある資格又は営業人脈、製造技術、法知識等の専門知識を有していること

技能伝承等その他に関する基準の例
 ・指導教育の技能を有する者
 ・定年退職後直ちに業務に従事できる者
 ・自宅もしくは自己の用意する住居より通勤可能な者
 ・勤続○年以上の者

適切ではないと考えられる例。
 ・『会社が必要と認めた者に限る』  基準がないことに等しい
 ・『上司の推薦がある者に限る』  基準がないことに等しい
 ・『男性(または女性)に限る』     男女差別に該当するため
 ・『年金(定額部分)の支給を受けていない者に限る』  男女差別に該当する恐れがある
 ・『組合活動に従事していない者に限る』  不当労働行為に該当する

 

労働相談・人事制度は 伊﨑社会保険労務士 にお任せください。  労働相談はこちらへ

人事制度・労務管理はこちらへ