就業時間

 一般的に、所定労働時間、休憩時間、休日や所定外労働、深夜労働等に関する事項を定めます。就業規則の絶対的必要記載事項であることから、これを省略することはできません。

○就業時間

 労働時間休憩及び休日に関しては、各社の業種や繁閑の有無など、会社の実情を考慮して、それぞれの会社の実態に合わせて規定する必要があります。

就業規則規定例

第○条 (就業時間及び休憩時間)
 1日の実労働時間は8時間とし、その始業、終業の時刻、休憩時刻は次の通りとする。
(1) 始業時刻  午前9時
(2) 終業時刻  午後6時
(3) 休憩     12時から13時まで60分

2 前項の時間は交通事情、その他業務の都合等により、あらかじめ通知して、全部又は一部の従業員に対し、始業・終業の時刻を変更することがある。

3 前項の休憩時間は自由に利用する事ができるが、他の従業員の休憩を妨げないようにしなければならない。

4 会社施設から外出する時は所属長又は上長に届けなければならない。

5 遅刻、私用外出等があったときは、それに相当する時間を自動的に当日の終業時刻の繰上げ・繰り下げとする。

 労働時間は、基本的には使用者の指揮命令下に置かれているか否かで判断されます。

 以下の判例があります。

 「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かで客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等により決定するものでない(三菱重工業長崎造船所事件:平成12年3月9日)」。

 このケースでは、始業前の保護具の装着等の時間が労働時間に該当するか否かを争点としていました。こうした保護具の装着等は使用者から義務付けられていますから、使用者の指揮命令下に置かれていると判断され、労働時間に該当するという判断が下されました。このケースは、保護具の装着等が争点でしたが、他の多くのケースも当てはまります。例えば、業務時間終了後の研修です。これも自由参加ではなく、使用者の業務命令が加われば、使用者の指揮命令下におかれますので、労働時間となります。労働時間に該当すれば、時間外労働として取り扱う必要がでてきますので、慎重に対応する必要があります。業務外の研修は積極的に行う必要があると思っています。社員の中には、例えば、就業後に教育訓練給付金等を活用して、国家資格の取得を目指したり、簿記や英会話のスクールに通う等のように、積極的に自己研鑽を行う方もいます。こうした真面目な社員は、会社にとっても貴重な人材といえます。こうした人材のニーズを満たすために、企業は多様な研修機会を創出し、受講機会を与えることがよいと思われます。その場合は使用者の指揮命令下にはおかず、自由参加ということを徹底し、労働時間の該当・非該当についてトラブルが生じないように工夫することが重要です。

 始業、終業がどのような状態で認められるかということを明示します。

 始業時刻=出社時刻 ではありません。

 ここは必ず明確にしておきましょう。

「始業時刻」とは労働提供義務の開始時刻ということですから、「労働できる状態になっている」のが当然です。出社した時刻にその瞬間からすぐに業務を行うというのはあまり現実的ではありません。例えば、パソコンを立ち上げるのにも数分かかります。

「着替えの時間」

 制服などに着替える時間は労働時間になるのでしょうか? これについても「会社で自由に決めたい」ところですが、平成12年最高裁において、「(制服等への着替えが“任意”である場合は労働時間に含めなくてもかまわないが、)制服着用が会社で定められている(強制である)場合、その着替えを行う行為も会社の指揮命令下にあると考えられるので、労働時間に該当する」という内容の判決がでています。

 「始業時刻前に出勤し、始業時刻に勤務ができるように準備すること。」とするとよいのですが、「始業時刻の前に着替え等を済ませておいて、始業時刻に勤務ができるように準備をしておくこと」とまで規定すると、着替えの時間も労働時間とみなされてしまいます。

 所定労働時間については、指揮命令に基づく実作業の開始から終了までを労働時間として把握する「実労働時間主義(労働基準法の原則)を採用します。必ずしも「終業時間を過ぎて仕事をしたら残業」ということにはなりません。

 「強制」か「任意」か、これにより労働時間に含めるか否かが変わってきます。始業前(終業後)の準備(片付け)、清掃、朝礼(終礼)等も同じです。

 労働時間の把握については、使用者自らが現認できない場合には、タイムレコーダー等客観的に把握できる手段によるのが望ましいのです。

 タイムカードで労働時間を管理しているものの、残業時間は本人の自己申告で管理する場合もあると思います。このような場合は、タイムカード情報が基本情報となります。従って、申告時間がタイムカードの打刻時間と異なっても、勝手にタイムカードの時刻を変更できません。

 「千里山生活協同組合事件」(大阪地裁H11.5.31) 「特段の事情がない限り、タイムカードの記載する時刻で出勤・退勤の時刻と推認でき、原則としてこれにより時間外労働時間を算定することが合理的である。タイムカードの時刻が、従業員の就労の始期・終期と完全に一致するものではない。しかし、タイムカードを打刻すべき時刻について特段の取決めがなされた事情が窺えない場合は、タイムカードの出勤・退勤時刻と就労の始期・終期との間に齟齬があることが証明されない限り、タイムカードの出勤・退勤時刻で実労働時間を認定するべきである。」

 このようにタイムカードの時刻が出退勤の基本情報となり、実際に残業時間と異なる場合は、証明が必要です。職場とタイムカードを打刻する場所が物理的に離れていて距離がある場合もあります。この場合は、労使間で協議して、職場からタイムカードを打刻る場所への移動時間は残業時間に組み込まないということを就業規則や労使協定等で明確にしておくと良いでしょう。

 

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準(抜粋)」

1 始業・終業時刻の確認及び記録
 使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。

2 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
 ア 使用者が、自ら現認することによりこれを確認し、記録すること。
 イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。

3 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
 2の方法によることなく、自己申告制により行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
ア 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
ウ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための、社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。

4 労働時間の記録に関する書類の保存
 労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき3年間保存すること。

 ところで、タイムレコーダーの位置から終業場所まで距離がある等、タイムレコーダーの打刻時刻と実作業開始時刻にギャップが生じることがあります。この場合には、実態に応じたルール(例えば、10分間のギャップが生じるのであれば、タイムレコーダーは実作業開始時刻の10分前に打刻すること)を労使で協議して定めておくのが望ましいといえます。

 シフト勤務体制の場合は、そのシフト全部を記載する必要があります。

 変形労働時間制を採用する場合においても、1日及び1週の所定労働時間を記載する必要があります。

 変形労働時間制を採用している場合であっても、ベースとなる始業・終業時刻、休憩時間は必ず具体的に記載しなければなりません。

 弾力的な時間の運営(始業時刻の繰り上げ、繰り下げ等)をする旨の規定を定めるべきです。

 

○時間外及び休日労働

 労働基準法では、原則として一週間につき40時間を超えて労働をさせることを禁止しています。時間外労働・休日労働の規定について、残業を拒否する社員、あるいはだらだらと残業代稼ぎのために残業を行なう社員に対抗するための規定を盛り込みます。残業は必ずトラブルになりますし、会社にとっても大きな影響がある事項です。慎重に規定しましょう。

就業規則規定例

第○条(時間外・休日労働及び深夜労働)
 業務の都合により、第○条の所定労働時間を超え、又は第○条の所定休日に労働させることがある。この場合において、法定の労働時間を超える労働又は法定の休日における労働については、あらかじめ会社は従業員の代表と書面による協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。

2 小学校就学前の子の養育又は要介護状態の家族の介護を行う従業員で時間外労働を短いものとすることを請求した者の法定の労働時間を超える労働については、前項後段の協定にかかわらず、事業の正常な運営に支障がある場合を除き、1か月について24時間、1年について150時間を超えて時間外労働をさせることはない。

3 妊産婦で請求のあった者及び18歳未満の者については、第1項後段による時間外若しくは休日又は午後10時から午前5時までの深夜に労働させることはない。

4 前項の従業員のほか小学校就学前の子の養育または要介護状態の家族の介護を行う従業員で会社に請求した者については、事業の正常な運営を妨げる場合を除き午後10時から午前5時までの深夜に労働させることはない。

5 第2項の時間外労働の制限及び前項の深夜業の制限の手続き等必要な事項については、「育児・介護休業規程」で定める。

 法定労働時間(1週40時間(特例措置対象事業場おいては1週44時間)、1日8時間)を超え、又は法定休日(週1回又は4週4日の休日)に労働させる場合、労基法第36条に基づく労使協定(いわゆる三六協定)の締結及び届出が義務付けられています。

 使用者は、労働者の代表と労使協定を締結し、当該協定を所轄労働基準監督署長に届け出た場合に、当該協定の範囲内で労働者に時間外労働又は休日労働をさせることができます。

 「労働者の代表」とは、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、そのような労働組合がない場合にはその事業場の労働者の過半数を代表する者をいいます。

 労働者の代表は、次の①、②のいずれにも該当する者でなければなりません(労基則第6条の2)。

 ① 労基法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと

 ② 労使協定の締結等を行う者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法により選出された者であること

 労働者の代表に対する不利益な取扱いは禁止されています。労働者の代表であること若しくは労働者の代表になろうとしたこと、又は労働者の代表として正当な行為をしたことを理由として、解雇や賃金の減額、降格等労働条件について不利益な取扱いをしてはなりません。

 就業規則と同様、三六協定についても労働者に周知する必要があります(労基法第106条第1項)。 

 三六協定において定める労働時間の延長の限度等に関しては、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年労働省告示第154号。以下「時間外労働の限度基準」といいます。)」で定められています。使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、三六協定の締結に当たって、その内容が時間外労働の限度基準に適合したものとなるようにしなければなりません(労基法第36条第3項)。

 三六協定で協定すべき内容は、
 ・時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由
 ・業務の種類
 ・労働者の数
 ・1日及び1日を超える一定の期間についての延長することができる時間
 ・労働させることができる休日
と定められています(労基則第16条)。

時間外労働に関する延長時間の限度時間

 

一般の労働者の場合

対象期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制を適用する労働者

期 間

限 度 時 間

限 度 時 間

1週間

15時間

14時間

2週間

27時間

25時間

4週間

43時間

40時間

1ヶ月

45時間

42時間

2ヶ月

81時間

75時間

3ヶ月

120時間

110時間

1年間

360時間

320時間

 ただし、上記の限度時間を超えて、臨時的に時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合、特別条項付き三六協定を結ぶことで、限度時間を超えて時間外労働時間を延長することができます。

 この特別条項付き三六協定は以下の要件を満たすことが必要です。
1 原則としての延長時間(限度時間以内の時間)を定めること。
2 限度時間を超えて時間外労働を行わせなければならない特別の事情を具体的に定めること。なお、「特別の事情」は臨時的なものに限られ、一時的又は突発的なものであって、全体として1年の半分を超えないことが見込まれるものでなければなりません。。
3 一定期間の途中で特別の事情が生じ、1により定めた原則としての延長時間を延長する場合に労使がとる手続を具体的に定めること。
4 限度時間を超えることのできる回数を定めること。
5 限度時間を超えて延長する場合の上限の時間を定めること。また、これをできる限り短くするように努めること。
6 限度時間を超える時間外労働に係る割増賃金の率を定めること。また、この率は法定割増賃金率を超える率とするよう努めること。

 なお、工作物の建設等の事業、自動車の運転の業務、新技術、新商品等の研究開発の業務等については時間外労働の限度基準は適用されません。

 年少者(18歳未満の者)については、一定の場合を除き、労基法により時間外労働、休日労働やいわゆる変形労働時間制により労働させることはできません(労基法第60条)。また、原則として午後10時から翌日5時までの深夜時間帯に労働させることもできません(労基法第61条)。

 使用者は、妊産婦から請求があった場合は、時間外、休日及び深夜労働をさせることはできません(労基法第66条)。また、請求をし、又は請求により労働しなかったことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(均等法第9条第3項)。

 

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