表彰及び制裁

 表彰及び制裁について、その種類及び程度に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項に当たりますので、これらについて定めをする場合には、必ず就業規則に記載しなければなりません。

○表彰

 表彰とは、例えば永年勤続して他の模範となる場合や業務に有用な考案や発明をした場合などに行うものです。

 表彰は、労働者の士気を高め、会社の業績や生産性の向上等を図ることを目的として設けられるものです。Fotolia_97351057_XS

 永年勤続の表彰は、「10年」「20年」「30年」のように具体的に年数で決めておくとよいでしょう。

 この表彰については、相対的必要記載事項であり必ずしも記載する必要のないものですが、モデル就業規則にはほとんどの場合記載されています。中小企業においては、規定されていても実際にはなにも行われていないといったことも多いものですが、表彰の制度は比較的安価に会社の一体感の醸成やモチベーションの向上に役立つものであり、ぜひ活用したいものです。

 しかし、もし会社の負担になる等の理由で表彰を行わないのであれば削除してしまうほうがよいでしょう。

 ここで、注意したいのが職務発明、考案、意匠です。中でも職務発明については、青色発行ダィオードのように裁判で争われ、極めて高額な発明の対価が認められるケースもあります。  平成17年には、特許法の改正が行われ、職務発明についての対価について契約、勤務規則で定める場合の合理性の考え方が示されています。具体的には、「対価を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況」、「策定された当該基準の開示の状況」、「対価の額の算定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況」等を考慮することです。(特許法35 条4項)従って、職務発明については極めて慎重な取扱が必要になってきます。

  表彰については、優秀な人材の確保・定着の観点から重要です。表彰については、なるべく従業員のモチベーションの向上につながる工夫が必要です。長期雇用慣行の変化や賃金の減額などによって、従業員の会社への忠誠心が薄まれば、モラール(やる気)の低下にもつながります。そこで、会社への貢献度が高い者を表彰し、心理的・経済時に報いることで、従業員のモラールの低下を防ぎます。賞金は少額でも、従業員にとっては大きな動機づけ(インセンティブ)になります。

 就業規則に会社や社会に貢献した従業員を報奨する規定を定めます。

就業規則規定例

第○条 (表 彰)  
 会社は、従業員が次のいずれかに該当するときは表彰することがある。
 (1) 業務上有益な創意工夫、改善を行い、会社の運営に貢献したとき
 (2) 永年にわたって誠実に勤務し、その成績が優秀で他の模範となるとき
 (3) 事故、災害等を未然に防ぎ、又は異常に際し適切に対応し、被害を最小限にとどめるなど特に功労があったとき
 (4) 社会的功績があり、会社及び従業員の名誉となったとき
 (5) 前各号に準ずる善行又は功労のあったとき

2 表彰の授与等の具体的な内容については、その都度決定する。

 

○懲戒

 懲戒処分とは、使用者が会社内の秩序を乱した労働者に対して、一定の不利益処分を課すことによって、会社秩序を維持することを目的とするものです。

 労働基準法第89条により、「制裁」に関する内容については、定めをする場合は就業規則に記載しなければならない事項とされています。

 常時10人以上の労働者を使用しない事業主の方も、服務規律等を定めた他の文書において当該懲戒規定を定めてください。

 企業は、服務規律に違反した労働者に対して、懲戒処分と呼ばれる一定の制裁(不利益措置)を加える制度を設けています。

 懲戒権の根拠について、最高裁は、労働者が労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負い、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができるが(関西電力事件 最高裁 昭58.9.8)、その行使に当っては就業規則の定めるところに従ってなしうるとしています。(国鉄札幌運転区事件 最高裁 昭54.10.30

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懲戒処分が有効とされる要件

 服務規律によって維持される会社の秩序は、懲戒処分によってその実効性が担保されます。
 しかし、服務規律違反があったからといって、当然に懲戒処分ができるわけではありません。
 具体的に懲戒処分を行う場合には、一般に、次の4つの要件でその効力の有無が判断されます。これを欠いた場合、無効とされることになります。

(1) 刑法定主義の原則

 刑法の適用についての罰刑法定主義で、懲戒処分をするためには、その理由となる事由とこれに対する懲戒の種類・程度が就業規則上明記されていなければなりません(フジ興産事件 最高裁 平15.10.10)。

 法律や就業規則などによる具体的な規定がなければ、使用者は労働者に職場秩序を乱す行為があっても、その労働者を懲戒することはできないということです。ただ、例外として、明らかに企業秩序違反行為であると認められるレベルの行為は定めがなくても認められています。

 また、懲戒の規定は、それが設けられる以前の違反に対して遡って適用することはできません(不遡及の原則)。

 同一の事案に対し二度の懲戒処分を行うことは許されません(二重処罰の禁止)。

(2) 平等取扱いの原則

 違反行為の内容や程度が同じ場合には、それに対する懲戒の種類や程度も同じでなければなりません。

(3) 相当性の原則

 懲戒処分は、違反の種類・程度その他の事情に照らして社会通念上相当程度なものでなければなりません
 懲戒権の行使(懲戒処分)は、権利濫用法理によって規制されており、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為および態様その他事情に照らして、客観的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効となります。(ダイハツ工業事件 最高裁 昭58.9.16  労働契約法15条)

(4) 適正手続

 処分にあたっては、適正な手続きが要求されます千代田学園事件 東京高裁 平16.6.16)。

 懲戒処分を発動するまでの手続については、会社で定めた手続上のルールがあれば、これを遵守する必要があります。
 労働組合との協議、懲戒委員会の設置・審議、処分対象者の弁明の機会の付与など諭旨退職や懲戒解雇といった、最も重い懲戒処分をしようとする場合には、弁明の機会を与え、事情をよく聴取するなど、適正な手続によるべきものとされています(西日本短期大学事件 福岡地裁 平4.9.9)。

 なお、諭旨退職懲戒解雇に至らない程度の懲戒処分については、必ずしも全ての事案について弁明の機会を与える必要はなく、事案ごとに会社の判断に委ねることで良いと思います。

違反の程度の軽重またはその回数    

  たしかに違反しているが、軽微であるとか頻度が少ないとかいう場合は、適用した処分が重いと(引責処分が相当なのに懲戒解雇処分をした)、解雇権の乱用とされるおそれがあります。

 懲戒処分は、懲戒の種類とこれに対応した懲戒事由を定めます。

 

○懲戒処分の種類

 懲戒処分は、労働者が企業の規則に違反することを制裁する目的で規定されております。

 懲戒処分を適法に行なうには、懲戒処分の内容を就業規則に定めておかなければなりません。罪刑法定主義の考え方ですから、刑の内容についてあらかじめ特定しておくのです。

 懲戒の種類としては「譴責」「減給」「出勤停止」「懲戒解雇」の4段階を設けている企業が多いようです。就業規則に、懲戒基準を懲戒の種類ごとに程度を明記すべきです。

 このほかの定めとしては、例えば、
 ・停職(出勤停止の期間を数ヵ月以内とすること)、
 ・賞与の支給停止、
 ・昇給又は昇格の停止・延期、
 ・配置転換
 ・降職・降格、
などを規定することがあります。

 

1.戒告

 口頭で注意を行い、将来を戒めること(将来を戒める旨の申渡しをすること) 

 将来を戒めるのみで、始末書の提出はありません。

 戒告は直ちに不利益に結びつくものではありませんが、昇給、賞与、昇格などの考課査定でマイナス評価を行う場合もあります。

 戒告が何回も重なる場合は、もっと重い制裁がなされることになります。

 ・JR東日本(高崎西部分会)事件(最高裁 平8.3.28年)  
 就業規則等に規定がなく、それ自体としては直接的な法律効果を生じさせるものではない。厳重注意も、労働者の職場における信用評価を低下させ、名誉感情を害するものとして労働者の法的利益を侵害する性質の行為であるとされた。

・三和銀行事件(平成12年 大阪地裁判決)
 
主として労働条件の改善等を目的とする出版を行うことは、形式的に就業規則所定の懲戒 事由に該当するとしても、使用者に対する批判行為として正当であると評価され、労働者に対してなされた戒告処分は懲戒権の濫用とされた。

 

2.譴責

 始末書を提出させ、将来を戒めこと。

 一般的な就業規則では、これがもっとも軽い懲戒処分になっています。

 懲戒処分で重要なのは始末書または顛末書をとることです。懲戒事由の証拠となるからです。できれば始末書が良いのですが、始末書は謝罪・反省を記載するものですから、強制的にとることはできません。しかし、少なくとも顛末書はとるようにしたほうがよいでしょう。戒告とは始末書提出義務の有無で異なります。

 実務上起こる問題が「従業員が始末書を提出しない」というケースです。
 始末書を提出しない事に対してあらたに懲戒処分とする、という考え方もありますが、実務上は次のように対応しておいた方がよいでしょう。
 (1) まずは始末書の提出を促す。
 (2) それでも始末書提出を行わなかった場合には人事考課や賞与算定に反映する。
 (3) 将来に備えて「業務報告書または顛末書」を提出させる。

立川バス事件(東京高裁 平2.7.19)
 始末書を取り将来を戒める譴責処分の無効確認の訴えについて、過去の事実関係又は法律関係の確認を求める訴えを起こす必要性は特になく、労働者が当該企業から退職している状況においては、訴えの利益を欠いているとして却下された。

 

3.減給

 労働者が受け取ることができる賃金から一定額を差し引くこと。

 始末書を提出させるほか、給与の一部を減額します。

  就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法第91条 昭和23.9.20 基収1789号 昭和25.9.8 基収1338号)。この規定は、制裁としての減給の額があまりに多額であると労働者の生活を脅かすことになるため、減給の制裁について一定の制限を加えたものです。

 ここでは「賃金」ではなく、「平均賃金」としなければなりません。労働基準法第91条で「・・・その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額・・・}と規定されています。「平均賃金」とは解雇予告手当の計算にも使われる労働基準法第12条にいう「平均賃金」です。「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」とは、1回の事案に対しては、減給の総額が平均賃金の1日分の半額以内でなければならないことを意味しています。1回の事案について平均賃金の半額ずつ何回にもわたって減給して良いと言う意味ではありません。    当該賃金支払期における賃金総額とは現実に支払われる金額のことを意味するので、遅刻や欠勤で賃金が少なくなっていればその少ない金額の10分の1以内ということになります。

 遅刻、早退又は欠勤に対して、労働のなかった時間に相当する賃金だけを差し引くことは一つの賃金計算方法ですので、制裁としての減給に該当しません。

 しかし、遅刻、早退又は欠勤の時間に対する賃金額以上の減給は制裁とみなされます。

 なお、その10分の1を超えた場合、次の賃金支払期に減給するのは許されます。

 1日に2つの懲戒事由に該当する行為があれば、その2つの行為についてそれぞれ平均賃金の1日分の半額ずつ減給することは差し支えありません。

 減給の制裁は、毎月の賃金からだけでなく、賞与も対象とすることができます。通常、賞与の金額は毎月の賃金より多額となりますので、賞与からの減額は賃金からよりも総額として多く減額することができます。

 遅刻や早退をした時間分の賃金を支給しないことは、減給の制裁には該当しませんが、30分に満たない遅刻や早退を常に30分に切り上げて減給するような場合は、減給の制裁に該当します。

 3回遅刻した場合は1日欠勤とみなす取り決めなども、減給の制裁に該当します。

 制裁として、従来通りの仕事をさせながら、賃金額だけを下げた場合は、減給の制裁に該当します。

 就業規則に懲戒処分として出勤停止処分を定め、その期間中の賃金を支払わないことは、減給の制裁に該当しません。

 就業規則に懲戒処分を受けた場合は、昇給させないと定めても、減給の制裁に該当しません。

 懲戒処分として役職を降格させ、格下げとなった役職手当を支給することは、減給の制裁に該当しません。

 就業規則に定める制裁は、減給に限定されるものではなく、その他譴責、出勤停止、即時解雇等も、制裁の原因たる事案が公序良俗に反しない限り、禁止する趣旨ではありません。

 無断遅刻により平均賃金の2分の1をカットすることは認められますが、30分の遅刻で1時間に相当する賃金のカットは制裁とみなされます。

 

4.出勤停止

 始末書を提出させるほか、出勤を禁じること。

 法律上、出勤停止の期間の上限は定められていません。最長10日ないし15日間の期間が多いようです。不当に長い出勤停止は「公序良俗の見地」から無効になります。行政指導では7日間とされています(大15.12.13 労発第71号)。

 出勤停止中は、給料は支払われません(ノーワーク・ノーペイの原則)。

 自宅待機と出勤停止とは明確に区別されております。企業の都合による自宅待機には最低60%の賃金を支払う義務がありますが、懲戒処分としての出勤停止処分は賃金支払い免除となります。

 注意点は、「自宅待機」という言葉を使わず、「懲戒処分の出勤停止である」ということをしっかり伝えることです。
 自宅待機という言葉は次の二通りの状況で使われることがあります。
 (1) 「会社都合」→仕事がない、など理由が会社にある
 (2) 「懲戒処分」→ルール違反、など、理由が従業員にある

 (1)「会社都合」の場合には「休業手当(平均賃金の6割)」の支払い義務があります。
 一方、(2)「懲戒処分」の場合には、懲戒として就業規則に記載があれば、賃金は無給でOKです。

 出勤停止期間が「無給」であることから考えても、その期間が長すぎるのは問題です。一般的には「7日間を上限」としているケースが多い。それ以上長い出勤停止期間が必要と感じるような場合は、もう少し重い懲戒処分が適切なケースになるかと思います。

 出勤停止といっても、現実に外出を禁止する法的効果を有するものではありません。

 出勤停止は公休を入れるかどうかは企業の自由裁量です。出勤停止は懲戒的要素で減給をさせるのが目的ですから公休を含まない企業がほとんどのようです。

 懲戒処分前の出勤停止について、暫定的なものであり独立した懲戒処分ではないので、その後懲戒処分しても同一事由による二重処分にはならないようです。その場合の出勤停止期間中の賃金は支払っておいたほうがよいでしょう。

 出勤停止は、出勤停止期間中の賃金を受けられないことは制裁として出勤停止の当然の結果ですので、同様に制裁規定には抵触しません。

 職務ごとに異なった基準の賃金が支給されることになっている場合、格下げ、降職等の職務替えによって賃金支給額が減少しても制裁規定の制限には抵触しません。

 交通事故を起こした自動車運転手を制裁として助手に降格し、賃金も助手としてのものに低下させても、交通事故を起こしたことが運転手として不適格であるので助手に格下げするものであるならば、賃金の低下はその労働者の職務の変更に伴う当然の結果ですので、制裁規定には抵触しません。

 格下げ、降職については、職務ごとに異なった基準の賃金が支給されることになっている場合、職務替えによって賃金支給額が減少しても制裁規定に抵触しません。また、交通事故を起こした自動車運転手を制裁として助手に降格し、したがって、賃金も助手のそれに低下させても、交通事故を起こしたことが運転手として不適格であるから助手に格下げするものであるならば、賃金の低下はその労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるため、制裁規定の制限に抵触するものではありません。

 

5.昇給停止・延期

 次期の昇給を停止、減額すること、または延期すること

 

6.降格

 職制上の地位を免じ、または降格すること

 降格処分は職種の変更に限られており、減額となるときが多い。降格の場合には、従来の業務をさせながら賃金のみ減らすことはできません。

 降職処分を行った場合で、その後も反省の様子が見られないときに、処分後の服務規律違反の事実について新たに降職処分に処することになります。就業規則の制裁の条項に『制裁処分を受けたにもかかわらず、改悛向上の見込みがないと認められるとき』のように、制裁処分後の本人の状況によっては従前よりも重い制裁処分を行うことがある旨の定めがある場合には、新たに降職処分(あるいはそれより重い制裁処分)を行うことができます。

 

 7.諭旨退職

 本来は懲戒解雇の対象となる行為であるが、情状酌量の余地がある場合には退職届を提出させるように勧告すること

 退職金の全部または一部を不支給とすることも可能です。

 退職願や辞表の提出を勧告し、即時退職を求め、催告期間内に勧告に応じない場合は懲戒解雇に付するものです。

 

 8.懲戒解雇

 予告期間を設けずに即時解雇するもの(極刑として)

  重大な規律、秩序、勤務義務違反などをしたことにより、就業規則上の最も重い懲戒処分が科されて行われる解雇のことをいいます。

 普通解雇の場合は、30日前に予告するか平均賃金の30日分の予告手当を支払わなければなりませんが、懲戒解雇は即時に解雇するのが普通です。

 退職金を全額不支給にしたり、減額支給することもあります。

 ただ、懲戒解雇=退職金不支給 が必ず認められるわけではありません。 退職金は、功労報償的な性格(賃金の後払いとする考えもある)を有すると考えられますので、懲戒解雇となる懲戒事由があったとしても、こうした功労的な部分を全て打ち消すくらいの事由がなければ、全額不支給が認められるわけではありません。最終的にはケースバイケースで減額または不支給という取扱になることがあります。

 解雇予告なしに即時解雇するためには、労働基準監督署長に「解雇予告除外認定許可」を申請し、許可を受ける必要があります。「懲戒解雇」を行って、その解雇事由について労働基準監督署長の認定を受けた場合には、解雇予告手当を支払う必要がなくなります。認定を受けていない場合には、懲戒解雇であっても解雇予告手当の支払いが必要となります。ただし、就業規則に定めがない事項について、使用者が勝手に懲戒解雇を行うことはできません。それぞれの企業の事情に即した解雇事由を定めておくことが大切です。

 「懲戒解雇」という処分は懲戒処分の中でも非常に重い処分になるので、その根拠をより明確にするために他の懲戒処分とは「別に」懲戒事由を定めておきましょう。

就業規則規定例

第○条 (懲戒の種類及び程度)
 従業員が本規則及び付随する諸規程に違反した場合は、次に定める種類に応じて懲戒処分を行う。ただし、情状酌量の余地があるか、改悛の情が顕著であると認められるときは、懲戒の程度を軽減することがある。

(1) 訓 戒   :   口頭で注意を行い、将来を戒める。    

(2) 譴 責  :  本人より始末書を提出させ、再び同じことをしないことを誓約させる。

(3) 減 給  :  始末書を提出させ、1回の事案に対する額が平均賃金の1日分の半額、複数の事案の総額が1ヵ月の賃金総額の10分の1の範囲で行う。

(4) 出勤停止 :   始末書を提出させ、7日以内の出勤を停止し、その期間中の賃金は支払わない。ただし、状況によりこの期間を延長する場合がある。出勤停止期間は勤続年数に通算しない。

(5) 諭旨退職 :  非を諭し、退職を勧告し退職させる。ただし処分を受けて、1週間以内に退職願を提出しないときは懲戒解雇とする。

(6) 懲戒解雇 :  予告期間を設けることなく即時解雇する。この場合において所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは、予告手当(平均賃金の30日分)を支払わない。

 

○懲戒の事由

 懲戒処分については、最高裁判決(国鉄札幌運転区事件 最高裁第3小法廷判決昭和54年10月30日)において、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては、「規則の定めるところ」により懲戒処分をなし得ると述べられています。したがって、就業規則に定めのない事由による懲戒処分は懲戒権の濫用と判断されることになります。

 懲戒の事由の内容について、労基法上の制限はありません。しかし、契約法第15条において「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為を性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定められており、懲戒事由に合理性がない場合、当該事由に基づいた懲戒処分は懲戒権の濫用と判断される場合があります。

 懲戒処分の対象者に対しては、規律違反の程度に応じ、過去の同種事例における処分内容等を考慮して公正な処分を行う必要があります。裁判においては、使用者の行った懲戒処分が公正とは認められない場合には、当該懲戒処分について懲戒権の濫用として無効であると判断したものもあります。

 どのような行為が、どのような制裁にあたるのか、制裁理由とそれに対応する制裁の種類と程度を出来る限り具体的に定めておきましょう。

 就業規則のポイントとしては、「経歴詐称」「誠実義務違反」「職務懈怠」「業務命令違反」「業務妨害」「服務規律違反」「私生活上の非行」などの項目にそって事由を規定していくと良いでしょう。

 特に懲戒解雇とする行為に関しては、トラブルとなることが多いため、出勤停止や減給などとは別に定めておきます。懲戒解雇については、その事由を就業規則に限定列挙する必要があり、明示がなければ懲戒することができません。懲戒処分をするには、その禁止事由が就業規則に定めてあるものに該当した行為の違反でなければなりません。

 懲戒処分該当の事由は、起こりうる職場規律違反行為について、具体的かつ網羅的に定めておくべきです。「○○○をすれば、○○の処分を受ける」ということを事前に規定しておくことが重要です。

 しかしながら、起こるかも知れないすべてのことを規定するのは、現実には不可能です。

 該当事項がない場合は、包括規定に該当するかどうかで判断する。各事項を列挙した最後に、「その他、前各号に準じる事由のあるとき」という定めをおくことが重要です。

 

 ここでは、具体的に懲戒の事由について載せてみました。

○経歴詐称

 経歴詐称については、判例も一貫して懲戒事由になることを肯定しています。

 詐称された経歴は重要なものであることを要し、最終学歴、職歴、犯罪歴などがこれにあたるとされています。採用面接時に使用者がどの程度注目していたか、詐称がどの程度業務に影響を及ぼしたか、詐称の程度が悪質か否か等から、その処分の程度が妥当かどうか判断されます。

・大和毛織事件(東京地裁 昭25.8.31)
 経歴詐称の詐術を用いて雇入れられたこと自体を制裁の対象とするに妨げなきもの。

 ・炭研精工事件(最高裁 平3.9.19)
 経歴の詐称を理由とする懲戒解雇につき、他の情状をあわせ考慮し、懲戒解雇事由としては相当であり、使用者の懲戒権の濫用には当たらないとされた。

(不信義性と解雇)
 「資料の一つである前歴を秘匿してその価値判断を誤らしめたという不信義性が懲戒事由とされる。」(東京出版販売事件 東京地裁 昭30.7.19

(学歴詐称と解雇)
 「2回にわたり懲役刑を受けたことを及び雇入れられる際に学歴を偽ったことが被上告会社就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する。」(炭研精工事件 最高裁 平3.9.19

 

○職務懈怠

 職務懈怠はそれ自体では債務不履行として賃金カットの対象になるに過ぎませんが、そのことが同時に服務規律に違反する場合は懲戒事由ともなります。

 職務懈怠による懲戒解雇が有効とされた例
 ・東京プレス事件(横浜地裁 昭57.2.25)
 ・日経ビーピー事件(東京地裁 平14.4.22)

(労働者の責に帰すべき事由と解雇)
 「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」 「出勤不良又は出欠常ならず、数回に亘って注意を受けても改めない場合」(昭和23.11.11 基発1637号、昭和31.3.1 基発111号)

(多数回に及ぶ遅刻と解雇)
 「回数にして60回、累計時間にして6630分(110時間30分)に及ぶ遅刻」(日産自動車事件 東京高裁 昭61.11.28

 

○業務命令違反

 時間外労働、休日労働、出張、配転出向等の業務命令違反です。

 その命令が労働契約に基づく正当な権限の行使かどうか、労働者側にその命令に服しないことにやむを得ない事由が存在するかが判断事由になります。

  所持品検査など労働者の人格に関する侵害を伴いやすい場合には、使用者の権利行使の適法性は厳しい要件が課されることになります(西日本鉄道事件 最高裁 昭43.8.2)。

 ・愛知県教育委員会事件 最高裁第1小(平成13.4.26)

 

○業務上の虚偽報告
八戸鋼業事件(最高裁 昭42.3.2)
 同僚の出勤表にタイムレコーダーで退出時刻を不正に打刻した事例で、懲戒解雇が認められた。「警告を熟知していたにもかかわらず、あえてこれを無視し、前記不正打刻に及んだものであって、このような事実関係のもとにおいてはこの不正打刻がふとしたはずみの偶発的なものという認定は極めて合理性に乏しく、原告の懲戒解雇は有効である。」

 

○服務規律違反

 横領、背任、リベート、会社物品の窃盗、損壊、同僚への暴行、セクシュアルハラスメント、部下の不正の見逃しなどです。

崇徳学園事件(最高裁 平14.1.22)
 法人の事務局の最高責任者が会計処理上違法な行為を行い、法人に損害を与えた行為について、法人が同人を懲戒解雇したことは、客観的にみて合理的理由に基づくものであり、社会通念上相当であるとされた。

・関西フェルトファブリック事件(大阪地裁 平10.3.23)
 業所長ないし所長代理として、経理担当者の横領行為を容易に知り得る状況にあったにもかかわらず、経理内容のチェックを著しく怠ったため、横領行為の発見が遅れ、その結果、被害額を著しく増大させた事例で、懲戒解雇が認められた。

・バイエル薬品事件(大阪地裁 平成9.7.11)
 場合として、所定の手続を経ることなく無断で総額1, 500万円の機器を私用のため購入し、納入業者から不正納品書及び請求書を提出させ、同社から過払いとして返金を受けた現金10万円を勝手に使用した事例で、懲戒解雇が認められた。

・東栄精機事件(大阪地裁 平8.9.11)
 無断でコンピューターデータを抜き取り、メモリーを消去し、加工用テープを持ち帰った事例。本件は懲戒解雇事由が認められる場合であったが、通常解雇として解雇された。

・ナショナルシューズ事件(東京地裁 平2.3.23)
 商品部長という要職にありながら、勤務会社の業種と同種の小売店を経営し、勤務会社の取引先から商品を仕入れ、また、商品納入会社に対する正当な理由のないリベートの要求・収受を行った事例で、懲戒解雇が認められた。

○会社の名誉・信用の毀損

(会社の信用の毀損と解雇)    
 「会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認めなければならない。」(日本鋼管事件 最高裁 昭49.3.15

 

○内部告発と機密漏洩

 企業の違法行為を正すための労働者の内部告発行為に関しては、平成16年に制定された公益通報者保護法によって、一定の公益通報をしたことを理由とする解雇が無効とされ、その他の不利益取扱いが禁止されました。

(内部告発・機密漏洩と解雇)  
 「内部の不正疑惑を解明する目的で行動していたもので、実際の疑惑解明につながったケースもあり、内部の不正を糾すという観点からはむしろ被控訴人の利益に合致するところもあったというべき(中略)、控訴人らの各行為に懲戒解雇に当たるほどの違法性があったとはにわかに解されない。」(宮崎信用金庫事件 福岡高裁 平14.7.2

 

○会社内の政治活動

 会社内の政治活動について、判例は、従業員間に対立を生じさせやすく、また企業の施設管理や他の労働者の休憩時間自由利用に支障を及ぼすおそれがあることから、これを就業規則等で一般的に禁止したり、許可制や届出制によって制限することは合理性があるとし、労働者の行う政治活動が実質的にみて企業秩序に違反していない特段の事情のあるときには、就業規則等の規定の違反にならないと解しています。

目黒電報電話局事件(最高裁 昭52.12.13)
 「職場は業務遂行のための場であって政治活動その他従業員の私的活動のための場所でないから、従業員は職場内において当然には政治活動をする権利を有するというわけのものでない(中略)、企業秩序維持の見地から、就業規則により職場内における政治活動を禁止することは、合理的な定めとして許される。」 

明治乳業事件(最高裁 昭58.11.1)

 

○従業員たる地位・身分による規律違反

 二重就業、私生活上の非行等があります。

 二重就業禁止の違反について、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度、態様のものは禁止の違反とはいえず、そうでないものは懲戒処分の対象となるとされています。

・橋元運輸事件(名古屋地裁 昭47.4.28) 
 懲戒事由としての「二重就職」について、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないとした。

福井新聞社事件(福井地裁 昭62.6.19)
 ある会社の退職者が設立したライバル会社が、大量の労働者を引抜くという異常な事態が進展している中で、その会社を退職しライバル会社に就職した場合は、就業規則上の退職金不支給事由である、「競争関係にある同業他社へ就職するため退職したとき、又は引抜きに応じ退職したとき」に該当するとして、既に支払った退職金を不当利得として返還を認めた。

(二重就職禁止義務違反と解雇)  
 「無断で二重就職したことは、それ自体が企業秩序を阻害する行為であり、債務者に対する雇用契約上の信用関係を破壊する行為と評価されうる。」(小川建設事件 東京地裁 昭57.11.19

(二重就職禁止義務違反の例外と解雇)    
 「休職期間中近くの守田織物工場の主人の守田某に手伝いを頼まれた(中略)もので(中略)、企業秩序に影響せず、会社に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解する(中略)、したがってこれを懲戒事由とすることが出来ない。」(平仙レース事件 浦和地裁 昭40.12.16

 

○従業員の業務外の非行

 原則的には、従業員の業務外の非行に対して、会社が懲戒処分することはできません。しかし、業務外での行為でも、社会的に影響を与えるような行為であって、会社の信用を失墜させたり、名誉を著しく汚すような行為を行った場合には問題は違ってきます。社員が刑法上の犯罪を犯したときなどには、罪状によっては懲戒解雇などの厳しい処分に付することもできます。職場外で勤務時間外で行う行為でも、労働契約上の誠実義務違反となり、懲戒処分の対象となることがあります。

 職場外での犯罪行為については、その行為の性質、情状、会社の種類や規模や地位等、労働者の会社内での地位や職種などを総合的に判断し、会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当程度重大といえる場合には、客観的合理性が認められます。

 男女関係の問題については、懲戒解雇の社会的相当性が認められることはあまりないようです。

関西電力事件(最高裁 昭58.9.8)
 内容が事実を歪曲しかつ中傷誹謗にわたっている会社攻撃ビラをまき、従業員の不信感をあおるとして企業秩序に反するとされた事例

 業務外の私事行為について、会社の信用や名誉を失墜するほどまでなかった場合は、譴責処分等、比較的軽い処分で済むことが多いようです。

(例)
 ・終業後に酒酔い運転で物損事故を起こした場合
 ・終業後にパブやクラブ等で無断で働いていることが判明した場合
 ・妻子ある上司が、部下と不倫関係を続けていることが発覚した場合
 ・インターネットを使って会社や上司・同僚を中傷した場合
 ・カードによる買い物で自己破産の宣告を受けた場合

 (酩酊による非行と解雇)
 「右犯行は酔余に出たものであることが認められ、その処罰が小額の罰金刑に止まる点からみても、その罪質、情状において比較的軽微なものであった(中略)、社会的に報道されなかった事実は争いがなく(中略)、企業上問題となるような現実の損害を生じた事実については、疎明がない(従って、懲戒解雇は無効)(横浜ゴム平塚製作所事件 東京地裁 昭41.2.10

 いずれにしても、出来るだけ、具体的に禁止事項を明示する必要があります。古い就業規則は、禁止事項が抽象的なものが多く、『就業規則に定めがないのに、懲戒を命じるのは労基法違反だ』というように、反撃されないように、見直しが必要です。

・懲戒事由に包括条項を設けます。
 『その他、この規則に違反し、又は前各号に準ずる行為があったとき』

 該当事項がない場合は、包括規定に該当するかどうかで判断します。

 解雇の事由は絶対的必要記載事項(必ず記載しなければいけない事項)ですから、就業規則に記載しておくことが必要ですが、その際解雇事由を列挙し、「その他前各号に掲げる解雇事由に準ずるやむを得ない事由がある場合には解雇する」旨の包括的解雇事由を規定しておくことが、後のトラブル防止になります。

 「その他〇〇があったとき」とは、いわゆる包括条項と呼ばれる規定で、就業規則を作成する時点では想定できないような事情であって、かつ、他の事由との比較衡量からして、懲戒解雇に処することが必要である場合が発生する可能性があることを想定して規定するのです。

就業規則 懲戒規定の記載例

第○条(懲戒解雇)
 次の各号の一に該当するときは懲戒解雇とする。但し、情状によっては出勤停止又は諭旨退職にとどめることがある。
① 重要な経歴を偽り、又は不正な方法を用いて採用されたとき
② 会社の許可なく、在籍のまま、職務の遂行に支障をきたすと認められる他の事業所の役員に就任し、若しくは他の事業所に雇用され、又は自営を行ったときで、会社に対して重大な損害等を生じさせたとき
③ 正当な理由なく無断で遅刻、早退を繰り返し、3回以上にわたり注意を受けるも改善がなされないとき
④ 正当な理由なく、無断欠勤が14日以上に及び、かつ会社の出勤の督促に応じないとき
 ・・・
⑫ 故意又は重大な過失により、会社及び顧客等の業務上の機密情報、個人情報及び特定個人情報等を外部に洩らしたとき、又は社外に持ち出し若しくは粉出したとき(退社後においても同様とする。)で、会社に重大な損害を与えたとき、又は業務の正常な運営の阻害となったとき
⑬ 会社の内外を問わず、窃盗、横領、暴行、脅迫、放火、傷害等刑事法令に触れる行為があったときで、当該行為により会社の名誉及び信用を著しく傷つけたとき
⑭ 業務上・業務外を問わず、飲酒運転で人身事故又は物損事故を起こし、事故後の措置義務違反をしたとき
⑮ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、身体的接触、ストーカー行為等の性的な言動を執拗に行なったことにより、相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したとき
⑯ 職権を利用してパワーハラスメントを執拗に行ったことにより、相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したとき
⑰ その他この規則及び諸規程に違反し、又は非違行為を繰り返し、或いは前各号に準ずる重大な行為があったとき

第○条(懲戒処分)
 
所属長又は上長は、懲戒処分の対象となる事案が発生した場合は、速やかに会社に報告し、懲戒処分の申請を行うものとする。

2 会社が懲戒処分を行なうときは、対象となる従業員に対し懲戒の内容を通知する。

3 前項において、従業員の行方が知れず、懲戒処分の通知が本人に対してできない場合は、家族又は届出住所への郵送により、懲戒処分の通知が到達したものとみなす。

4 懲戒処分の際、会社は、従業員に書面又は口頭による弁明の機会を与え、事情を聴取して行なうものとする。

 

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