河北新報社事件 仙台地裁判決(昭和58年12月28日)

(分類)

 均等

(概要)

 男子55歳、女子45歳定年制を定めた就業規則の適用を受けて解雇されたが、協約の嘱託制度により2年を限度に再雇用された女子社員が、右定年制は性による差別待遇にあたり無効であるとして、普通社員としての地位の確認等求めた事例。 (一部認容)

 本件就業規則37条は、女子の定年を男子の定年より10歳低く定めているから、被告の企業経営の観点から、定年年令において女子を低くしなければならない合理的理由のない限り、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして、民法90条の規定により無効であると解すべきである(憲法14条1項、民法1条の2)。そこで、右認定事実に基づいて、被告の主張を検討してみるに、被告主張の業務の特殊性、退社の慣行が男女の定年を区別する合理的理由とならないことは、前示の各事実特に原告の業務が一般事務系に属し、普通社員と2号嘱託とで著しい相違がないこと、昭和39年当時既に被告の如き大きな規模の新聞社においては男女55歳の定年制を採用していることに照らして明らかである。

 被告は、2号嘱託制度の採用により、本件就業規則37条の瑕疵が治癒され、被告の女子定年制が社会的に認容される限度内にあった旨主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、2号嘱託は、賃金が退社時の本俸及び第2本俸の60パーセントを目途に決められること、昭和46年当時の雇用限度期間が2年であること等普通社員に比べ著しく雇用条件の低下を伴うものであり、また、2号嘱託制度は、前示のとおり、組合との協約に基づくとはいえ、男女の定年を同一にする前提として、年功型賃金体系の見直しをするための暫定的なものであるから(このことは、昭和41年6月当時被告の人事部長であった証人加茂貞雄が、年功型賃金体系の検討に2年位かかるということで、2号嘱託の雇用限度期間を一応2年とした旨の証言により明らかである。)、被告は相当な期間内に右賃金体系を改正し、男女同一の定年制を採用すべきことが要請される。したがって、2号嘱託制度の採用は、かかる改正措置を採るに必要な相当期間内においてのみ、社会的に認容される余地がないとはいえないが、右相当期間を経過すると、2号嘱託の制度自体が存続の目的を失い、違法無効となるものと解すべきである。被告は、昭和41年6月から昭和46年3月までの間、右改正措置を採っていないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、昭和46年3月当時2号嘱託制度は違法無効となり、これをもって、被告の男女差別定年制を合法化することはできない。  よって、本件就業規則37条中女子定年部分は、専ら女子であることを理由として差別したことに帰着し、性別のみによる差別を定めたものとして、民法90条により無効であると解するのが相当である。
 被告主張の各賃金賞与請求権がその主張のように2年間の時効期間を経過していることは当裁判所に顕著であり、そして、被告がその主張のように消滅時効を援用していることは訴訟上明らかである。しかしながら、無効である定年制を適用して原告を定年解雇とし、違法無効な2号嘱託として原告を処遇し、その間女子の定年を延長しながら、これを原告に適用することなく、違法状態を10年余りに亘り継続してきたのは、ほかならぬ被告自身であることは前示のとおりであり、これに原・被告間の地位関係等を合せ考えると、原告が権利の上に眠り権利行使を怠ったとして責を負わすことは、著しく公正の原則に反するということができ、結局被告の時効援用は権利の濫用として許されないと解するを相当とする。

(関係法令)

 労働基準法3条 115条

(判例集・解説)

 時報1113号33頁  タイムズ516号195頁  労経速報1175号6頁
 労働判例423号29頁  労働判例427号4頁

 

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