川崎製鉄(水島製鉄所)事件 岡山地方裁判所倉敷支部(平成10年2月23日)

(分類)

 労災損害賠償請求事件

(概要)

1.

(1) 製鉄所の掛長の自殺は、同人が常軌を逸した長時間労働による疲労からうつ病に陥った結果によるものであるとして、長時間労働とうつ病、うつ病と自殺との間にはいずれも相当因果関係があるとされ、被告会社には、右掛長の常軌を逸した長時間労働及び健康状態の悪化を知りながら、その労働時間を軽減するための具体的措置をとらなかった点において安全配慮義務の不履行があるとして、損害賠償責任が認められた事例。

(2) 1掲記のうつ病の罹患については、掛長本人の心因的要素や家族が専門医の診察を受けさせる等の対応を怠ったことなどの事情も寄与しているとされ、被告が負担するのは損害の5割であるとされた事例。

2.業務上の過重な負荷と常軌を逸した長時間労働による社員の過労とうつ病、うつ病と飛び降り自殺の間に相当因果関係があるとされ、会社に安全配慮義務違反による過失が認められたが、うつ病による自殺につき社員の心因的要素等被害者側の過失を考慮して、会社に対して5割の損害の負担が命じられた事例。

3.一般私法上の雇用契約において、使用者としては指揮監督に付随する信義則上の義務として、労働者の安全を配慮すべき義務を負いその社員の労働時間及び労働状況を把握し、過剰な長時間労働によりその健康を害されないよう配慮すべき安全配慮義務を負っている。

4.掛長に昇任後、社会通念上許容される範囲をはるかに逸脱した長時間労働によりうつ病に陥り、うつ病のため自殺した従業員につき、会社はこのような長時間労働またこの従業員の健康状態の悪化を知りながら、その労働時間を軽減させるなどの具体的な措置をとらなかった債務不履行が認められた事例。

5.掛長に昇任後、社会通念上許容される範囲をはるかに逸脱した長時間労働によりうつ病に陥り、うつ病のため自殺した従業員につき、会社の債務不履行責任を認めたが、同人の几帳面、完全志向、責任感が強いといった性格も寄与しており、また、毎晩相当量のアルコールを摂取しそれが睡眠不足の一因ともなっており、さらに、会社内では特段異常言動があったわけではないが、家庭での異常言動にもかかわらず同人の妻が適切な対応をしていないことなどから、民法722条2項を類推適用して、損害の5割のみの賠償に限定された事例。

(判例集・解説)

 労働判例733号13頁  労働経済判例速報1669号5頁

 

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