ミトコンドリア病

 ミトコンドリア病はオルガネラ病の一つで、ミトコンドリア機能が障害され、臨床症状が出現する病態を総称している。ミトコンドリアはエネルギー産生に加えて、活性酸素産生、アポトーシス、カルシウムイオンの貯蔵、感染防御などにも関わっているため、ミトコンドリア病ではこれらの生物学的機能が変化している可能性がある。しかし、現在のところミトコンドリア病における機能異常の主体はエネルギー産生低下と考えられており、そのエネルギー代謝障害による病態が基本である。

 代表的なミトコンドリアDNA上の遺伝子変異である3243変異による患者が調べられており、10万人に5.7人、軽微な症状の人もいれると236人と推測されています。

病因・病態
 ミトコンドリア病の病因は、核DNA上の遺伝子の変異の場合とミトコンドリアDNA(mtDNA)の異常の場合がある。核DNA上の遺伝子には、酵素タンパクをコードする遺伝子、酵素複合体を正しく構成する際に必要な集合因子をコードする遺伝子、ミトコンドリアへの輸送に関わるタンパクをコードする遺伝子、mtDNAの複製、転写、飜訳に関わる遺伝子などがある。すでに200近い遺伝子の変異が同定されている。
 一方、環状のmtDNA上には、電子伝達系酵素サブユニット遺伝子が6個、転移RNAが22個、リボソームRNAが2個コードされている。MtDNAには、欠失/重複、点変異(質的変化)とともに、通常一細胞内に数千個存在しているmtDNAの量が減少しても(量的変化)病気の原因になる。
 すでにmtDNA上に100個を超える病的点変異が同定されており。変異mtDNAが細胞内で正常mtDNAと共存している状態(ヘテロプラスミー)とほぼすべてが変異mtDNA(あるいは正常mtDNA)である状態(ホモプラスミー)があり、一般的に転移RNA領域の点変異はヘテロプラスミー、タンパクをコードしている領域はホモプラスミーの場合が多い。
 点変異がヘテロプラスミーで同定される代表的な疾患に、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)と赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群(MERRF)がある。また欠失/重複もヘテロプラスミーで同定され、慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)となることが多い。  
 一方、点変異がホモプラスミーで認められる事が多い疾患にLeigh脳症やレーバー遺伝性視神経萎縮症がある。ただし、Leigh脳症の大部分(8割)は、核DNA上の遺伝子の変異で起きることが知られている。

症状
代表的なミトコンドリア病の病型を表に示す。これらの病型は主に特徴的な中枢神経症状を基準に診断しているが、実際はこれらを合併してもつ症例や中枢神経症状がない症例も多数存在している。
 代表的な臓器症状は、下の表に示すようなものになるが、これらを組み合わせて持っている患者はミトコンドリア病が疑われ診断にいたることが多いが、単一の臓器症状しかみえない患者では、なかなか疑うことすら難しく、確定診断に至るまで時間を要することがまれでない。

ミトコンドリア病の症状

中枢神経

けいれん、ミオクローヌス、失調、脳卒中様症状、知能低下、偏頭痛、精神症状、ジストニア、ミエロパチー

骨格筋

筋力低下、易疲労性、高CK血症、ミオパチー

心臓

伝導障害、WPW 症候群、心筋症、肺高血圧症

視神経萎縮、外眼筋麻痺、網膜色素変性

肝機能障害、肝不全

ファンコニー症候群、尿細管機能障害、糸球体病変、ミオグロビン尿

糖尿病、外分泌不全

血液

鉄芽球性貧血、汎血球減少症

内耳

感音性難聴

大腸・小腸

下痢、便秘

皮膚

発汗低下、多毛

内分泌腺

低身長、低カルシウム血症

診断
 確定診断にはミトコンドリア機能や構造の変化を証明することが必要である。通常は3種類の検査が行われており、生化学的にエネルギー代謝障害を、病理学的には細胞内ミトコンドリアの数や大きさの変化を、遺伝学的にはミトコンドリア関連遺伝子の変異を証明する。それぞれが専門的な技術と経験が必要でなので、ミトコンドリア病の診断をよく行っている施設に必要な検査材料を提供して検査をしてもらうことが必要になる。
 核DNA上の原因遺伝子の場合は血液からのDNA用いて検査するが、mtDNAの場合、特にヘテロプラスミーで起きる病気の場合は血液での遺伝子検査では不十分なことがある。筋での変異率が80%で、血液では1%程度であったという症例の報告もあり、できるだけ変異率の高い組織(通常は症状が出ている組織・臓器)を検査に用いることが望ましい。
実は骨格筋には変異率の高い細胞が残っていることが多いため遺伝子検査の材料として適しているとともに、同時に生化学検査や病理検査もでき、臨床的に診断に必要な情報が多く得られやすいメリットがある。ミトコンドリア病が疑わしい時は、筋生検を念頭にいれた診断手順を考慮すべきである。

 

治療

対症療法
 対症療法は基本的に各臓器症状に応じて適切に行われる必要があり、患者の全身状態を改善させるためにきわめて重要である。糖尿病を合併した場合には、血糖降下剤やインシュリンの投与が必要になる。てんかんを合併した場合には、抗てんかん剤の投与が必要になるであろう。
 また、心伝導障害に対するペースメーカー移植や難聴に対する補聴器の使用をはじめ、極度の下痢や便秘、貧血や汎血球減少症(Pearson 症候群)なども対症療法が重要である。各臓器症状への対症療法は、それぞれの専門医へのコンサルトが必要になるであろう。

原因療法
ミトコンドリア内の代謝経路では、各種のビタミンが補酵素としてはたらいており、その補充は理にかなっている。実際は、水溶性ビタミン類(ナイアシン、B1、B2、リポ酸など)が用いられる。コエンザイムQ10の効果は明らかではないが、使用することが多い。またMELASの卒中様症状の軽減と予防を目的にL-アルギニンの臨床試験が行われたが、その結果は公表されていない。ミトコンドリア病患者の治療薬として薬効を科学的に証明する臨床試験に至った薬剤は我が国ではアルギニンが最初であり、今後もこのような臨床試験を進めてゆくことが肝要である。

経過観察の注意点
ミトコンドリア病では多彩な症状を呈する可能性があるので、定期的な全身状態の検査を行うべきである。その際、眼科、耳鼻科などのミトコンドリア病で比較的症状が出やすい臓器を専門で診ている医師の診察や検査も合わせて行うことが望ましい。その際、他科へのコンサルト結果などを踏まえて、患者の全体象を把握して医療を行う「主治医」の存在がきわめて重要である。

食事・栄養
ミトコンドリア病の本態はエネルギー代謝障害であることから、食事と栄養は重要である。生化学的検査で酵素欠損の部位が明らかになった場合には、それに応じた栄養の摂り方を行う事が可能になる場合がある。ピルビン酸からコエンザイムAを経て、TCA回路、電子伝達系に入る経路に障害がある場合には、高脂肪食(ケトン食)を試してみたり、カルニチンを使用してみたり、乳児の場合にはMCTミルクを使ってみることが可能である。しかし、それで劇的に改善するかどうかは定まったものはない。基本的に栄養素のバランスを考慮した、ビタミンの多い食事を心がけるように指導することは重要である。

予後
 ミトコンドリア病の臨床経過は症例によって差が大きい。ある臓器症状の程度以外に、合併している他の臓器症状の多さや程度も大きく影響する。一般的な予後については、現状の様子と経過をみながら判定することになる。

 

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