ポリオ

 ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)は、予防接種(ワクチン)で防ぐことができる病気(VPD:vaccine-preventable diseases)の一つと考えられています。

 日本でもアメリカ合衆国でもポリオの予防接種が行われていますが、2012年8月までは、日本は生ワクチンを、アメリカ合衆国は不活化ワクチンを用いているという違いがありました。しかし、ワクチン由来のポリオ様麻痺患者の発生の予防のために、日本の定期予防接種においては、生ワクチンから不活化ワクチンへの切り替えが2012(平成24)年9月1日に行われました。

  ポリオは、英語の病名のpoliomyelitis(ポリオミエリィティス:灰白髄炎)を省略したものです。poliomyelitis のうちの polio は、ギリシア語で灰色を意味する polios に由来し、脊髄などの中枢神経系の灰白質を示します。myelは、ギリシア語で髄(marrow)を意味するmyelosに由来し脊髄を示します。itis は炎症あるいは病気を示します。また、「小児麻痺」は「脊髄性小児麻痺」を省略したものです。
 ポリオの流行地では、5歳未満の小児の脊髄性の麻痺がよく見られたことにより、「小児麻痺(infantile paralysis)」がポリオの代名詞となったようです。しかし、大人のポリオもありえるので「小児麻痺」の病名は、適切とは言えないようです。

 ポリオ(小児麻痺・急性灰白髄炎)の病原体であるポリオウイルスは、人の体の中には、口から入ります。ポリオウイルスが飲食物や手などに付着して口の中に入るようなことが考えられます。口の中に入ったポリオウイルスは、のどに定着したり、あるいは飲み込まれて、腸管に定着したりします。そして、その定着した場所で増殖します。発病前の段階で、ポリオウイルスは、のどや便の中に検出されます。ポリオウイルスは、のど(唾液)から1~2週間、便の中には3~6週間にわたって検出されることがあります。ポリオウイルスは、さらに付近のリンパ組織へと侵入し、血液の流れに乗ります。そして、血液の流れに乗って中枢神経にたどり着き、中枢神経を侵すことがあります。脊髄の前角や脳幹の運動神経細胞でのポリオウイルスの増殖が、その部位の運動神経細胞を減らし、麻痺の症状を起こします。

 ポリオウイルスに感染しても、何の症状も出なかったり、はっきりとした症状が出ない場合が90~95%程度を占めると考えられています。何の症状も出なくても、便の中にはウイルスが排出され、他の人への感染源となりえます。

 ポリオウイルスに感染した者のうち、4~8%程度は、中枢神経系の症状は見られず、特徴的な症状がない不全型の発病となります。ポリオウイルスが口から入って3~5日後に、のどの痛み・軽い発熱・嘔吐・吐き気・腹痛・便秘・下痢(まれ)などが見られることがありますが、いずれも2~3日の内に良くなるのが通常です。
 ポリオウイルスに感染した者のうち、1~2%程度は、非麻痺型の無菌性髄膜炎となる場合があります。不全型の発病と同様な症状の後、数日後に首・背・脚などの硬さが出現します。知覚過敏や感覚異常が起こることもあります。これらの症状は2~10日続いて軽快します。

 ポリオウイルスに感染した者のうち、1%未満が、弛緩性の麻痺(麻痺型)となります。弛緩性の麻痺(麻痺型)となる確率は、こどもよりも大人の方が高いです。不全型の発病と同様な症状の後、1~7日の良好な状態が見られ、その後、発熱・頭痛・筋肉痛などを伴って発病します。最初に見られる不全型の発病と同様な症状については、大きなこどもや大人などでは見られない場合もあります。最初に見られる不全型の発病と同様な症状を除けば、潜伏期は、通常6-20日ですが、3~35日のこともあります。弛緩性の麻痺は、2、3日間程度進行し数日から数週間は変化がない定常状態の時期に入ります。発熱がおさまり体温が正常に下がると麻痺はそれ以上進行しないのが通常です。弛緩性の麻痺は、右半身と左半身では違いがあり、非対称的に起こります。感覚の消失は見られません。定常状態の時期を過ぎると、筋力の回復が見られることがあります。麻痺から完全に回復する人もいます。一方で筋力がわずかしか回復しない人もいます。発病から1年経っても筋力低下や麻痺の回復がみられない場合には、永続的な後遺症となるかもしれません。
 弛緩性の麻痺(麻痺型)については、脊髄麻痺型、球麻痺型、脊髄麻痺・球麻痺型の三つの型に分類されます。脊髄麻痺型がもっともよく見られ、麻痺患者の79%を占めます。左右が非対称な麻痺で、脚の麻痺が多いです。球麻痺型は、麻痺患者の2%を占めます。脳神経支配の筋肉の筋力低下が見られます。食物を飲み込みにくくなったり、発音しにくくなったり、呼吸不全を起こしたりします。脊髄麻痺・球麻痺型は、19%を占めます。脊髄麻痺と球麻痺とが見られる型です。
 弛緩性の麻痺(麻痺型)を起こした場合の致死率は、こどもでは2~5%ですが、大人では、15~30%とより高くなります。球麻痺の見られる場合にも25~75%と高くなります。
 ポリオウイルスは、家族内では、感染しやすく、家族内に感染者がいれば、感染したことのない家族は、9割以上の確率で感染すると考えられています。特に、こどもは感染しやすく、100%近くの確率で感染すると考えられています。
 こども時代に麻痺型ポリオにかかった人の25~40%で、30~40年後に新たに筋肉痛や筋力低下を生じる場合があります。ポリオ後症候群( post-polio syndrome :ポストポリオ症候群)と言います。ポリオウイルスが新たに病変を作るわけではありません。以前の病変部で加齢により細胞が脱落して起こるのではないかと考えられています。

病原体
 ポリオ(小児麻痺)の病原体は、ポリオウイルスです。ポリオウイルスは、ピコルナウイルス(小さなRNAウイルス)科のエンテロウイルスの仲間です。ポリオウイルスには、1型(P1)、2型(P2)、3型(P3)の三つの血清型があります。また、ポリオウイルスが患者の検体から分離された場合には、ワクチン株由来のワクチン型か、その他の野生型かが、必要に応じて調べられます。ポリオウイルスは、酸に強いですが、熱・ホルムアルデヒド・塩素・紫外線によって不活化します。
 ポリオウイルスの2型の野生株については世界から排除されたと考えられています。最後の分離は、インドで1999年10月でした。

予防のために
 ポリオには、予防接種(ワクチン)があります。ポリオの予防接種(ワクチン)には、不活化ワクチンと生ワクチンとがあります。2012年8月31日まで、日本で正式に認可されているのは生ワクチンのみでした。しかし、日本でも不活化ワクチンが正式に認可されて、2012年9月1日からは、生ワクチンに代わって不活化ワクチンを使用するようになりました。

 

障害年金のことは『大分別府障害年金サポートセンター』の 伊﨑社会保険労務士 にお任せください。  こちらへ