統合失調症

 統合失調症は、現在ではおよそ100人に1人がかかる頻度の高い病気です。発症する年代は、主に10歳代後半の思春期から青年期の30歳代にかけて多い病気で、ピークは10歳代後半から20歳代にかけて最も多く発症しています。中学生以下や40歳以降の発病は稀です。発症の頻度にそれほど男女差はありませんが、発症年齢では女性の方が男性よりもやや遅めです。発症のきっかけは、進学や就職、独立や結婚など、人生の進路が大きく変化するときに多くみられます。

 統合失調症は、幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患です。それに伴って、人々と交流しながら家庭や社会で生活を営む機能が障害を受け(生活の障害)、「感覚・思考・行動が病気のために歪んでいる」ことを自分で振り返って考えることが難しくなりやすい(病識の障害)、という特徴を併せもっています。

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 多くの精神疾患と同じように慢性の経過をたどりやすく、その間に幻覚や妄想が強くなる急性期が出現します。

 以前は「精神分裂病」が正式の病名でしたが、「統合失調症」へと名称変更されました。

原因ときっかけ

 統合失調症の原因は、今のところ明らかではありません。 例えば、高校や大学などの進学におけるストレス、就職活動やリストラなど就労に関するストレス、起業や開業などの独立するときに背負うストレス、あるいは結婚などに関する人生の重要な転機といった、ある種の大きな心理的負担や不安がきっかけとなることが多いといわれています。ただ、それらは発症のきっかけではあっても、原因ではないと考えられています。 というのは、こうした人生の転機はほかの人には起こらないような特別な出来事ではなく、同じような経験をする大部分の人は発症に至らないからです。

統合失調症の症状

 ここでは幻覚・妄想、生活の障害、病識の障害の3つにまとめてみます。

幻覚・妄想

 幻覚と妄想は、統合失調症の代表的な症状です。幻覚や妄想は統合失調症だけでなく、ほかのいろいろな精神疾患でも認められますが、統合失調症の幻覚や妄想には一定の特徴があります。幻覚と妄想をまとめて「陽性症状」と呼ぶことがあります。

幻覚

 幻覚とは、実際にはないものが感覚として感じられることです。 統合失調症で最も多いのは、聴覚についての幻覚、つまり誰もいないのに人の声が聞こえてくる、ほかの音に混じって声が聞こえてくるという幻聴(幻声)です。 「お前は馬鹿だ」などと本人を批判・批評する内容、「あっちへ行け」と命令する内容、「今トイレに入りました」と本人を監視しているような内容が代表的です。 普通の声のように耳に聞こえて、実際の声と区別できない場合、直接頭の中に聞こえる感じで、声そのものよりも不思議と内容ばかりがピンとわかる場合などがあります。 周りの人からは、幻聴に聞きいってニヤニヤ笑ったり(空笑)、幻聴との対話でブツブツ言ったりする(独語)と見えるため奇妙だと思われ、その苦しさを理解してもらいにくいことがあります。

妄想

 妄想とは、明らかに誤った内容であるのに信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのことです。 「街ですれ違う人に紛れている敵が自分を襲おうとしている」(迫害妄想) 「近所の人の咳払いは自分への警告だ」(関係妄想) 「道路を歩くと皆がチラチラと自分を見る」(注察妄想) 「警察が自分を尾行している」(追跡妄想) などの内容が代表的で、これらを総称して被害妄想と呼びます。 時に「自分には世界を動かす力がある」といった誇大妄想を認める場合もあります。 妄想に近い症状として、 「考えていることが声となって聞こえてくる」(考想化声) 「自分の意思に反して誰かに考えや体を操られてしまう」(作為体験) 「自分の考えが世界中に知れわたっている」(考想伝播) のように、自分の考えや行動に関するものがあります。思考や行動について、自分が行っているという感覚が損なわれてしまうことが、こうした症状の背景にあると考えられることから、自我障害と総称します。

生活の障害

 統合失調症では、先に述べた幻覚・妄想とともに、生活に障害が現れることが特徴です。この障害は「日常生活や社会生活において適切な会話や行動や作業ができにくい」という形で認められます。陰性症状とも呼ばれますが、幻覚や妄想に比べて病気による症状とはわかりにくい症状です。 患者本人も説明しにくい症状ですので、周囲から「社会性がない」「常識がない」「気配りに欠ける」「怠けている」などと誤解されるもととなることがあります。 こうした日常生活や社会生活における障害は、次のように知・情・意それぞれの領域に分けて考えると理解しやすいでしょう。

会話や行動の障害

 会話や行動のまとまりが障害される症状です。 日常生活では、話のピントがずれる、話題が飛ぶ、相手の話のポイントや考えがつかめない、作業のミスが多い、行動の能率が悪い、などの形で認められます。症状が極端に強くなると、会話や行動が滅裂に見えてしまうこともあります。こうした症状は、注意を適切に働かせながら会話や行動を目標に向けてまとめあげていく、という知的な働きの障害に由来すると考えられます。

感情の障害

 自分の感情についてと、他人の感情の理解についての、両者に障害が生じます。 自分の感情についての障害とは、感情の動きが少ない、物事に適切な感情がわきにくい、感情を適切に表せずに表情が乏しく硬い、それなのに不安や緊張が強く慣れにくい、などの症状です。 また、他人の感情や表情についての理解が苦手になり、相手の気持ちに気づかなかったり、誤解したりすることが増えます。こうした感情の障害のために、対人関係において自分を理解してもらったり、相手と気持ちの交流をもったりすることが苦手となります。

意欲の障害

 物事を行うために必要な意欲が障害されます。 仕事や勉強をしようとする意欲が出ずにゴロゴロばかりしてしまう(無為)、部屋が乱雑でも整理整頓する気になれない、入浴や洗面などの身辺の清潔にも構わない、という症状として認められます。 さらにより基本的な意欲の障害として、他人と交流をもとうとする意欲、会話をしようとする意欲が乏しくなり、無口で閉じこもった生活となる場合もあります(自閉)。

病識の障害

 病識とは、自分自身が病気であること、あるいは幻覚や妄想のような症状が病気による症状であることに自分で気づくことができること、認識できることをいいます。 統合失調症の場合には、この病識が障害されます。 多くの場合、ふだんの調子とは異なること、神経が過敏になっていることは自覚できます。 しかし幻覚や妄想が活発な時期には、それが病気の症状であるといわれても、なかなかそうは思えません。 症状が強い場合には、自分が病気であることが認識できない場合もあります。

治療が進んで病状が改善すると、自分の症状について認識できる部分が増えていきます。 ほかの患者さんの症状については、それが病気の症状であることを認識できますから、判断能力そのものの障害ではないことがわかります。 自分自身を他人の立場から見直して、自分の誤りを正していくという機能の障害が背景にあると考えられます。

症状の分類

 全体的にみて、統合失調症の症状は大きく4つに分類されます。
 ・陽性症状
 ・陰性症状
 ・解体症状
 ・認知障害

 陽性症状は、正常な機能の過剰やひずみとしてみられ、次のような症状がみられます。
 妄想は誤った思いこみのことで、一般に知覚や体験を誤って解釈することで生じます。たとえば統合失調症では、いじめられている、後をつけられている、だまされている、見張られているなどの被害妄想が起こることがあります。。
 関係妄想では、本、新聞、歌詞などの1節が特に自分に向けられていると思いこみます。
 人は自分の心が読める、自分の考えが人に伝わっている、外部の力によって考えや衝動が自分の中に吹き込まれているなどと思いこむ思考奪取や思考吹入という妄想もあります。
 音、視覚、におい、味、感触の幻覚が起こることがあり、圧倒的に多いのは音の幻覚(幻聴)です。自分の行動に関して意見を述べたり、互いに会話したり、あるいは批判的で悪口を言う声が聞こえることがあります。

 陰性症状では、正常な機能の低下または消失がみられます。次のような症状がみられます。
 感情鈍麻がみられ、感情が平板化します。顔の表情に動きがないようにみえます。
 人とほとんど、あるいは一切目を合わさず、感情表現が欠如します。
 本来なら笑う、あるいは泣くような状況でも、何の反応も示しません。
 会話の乏しさがみられ、言葉数が少なくなります。
 質問に対する返答は1語か2語と短く、内面が空虚な印象を創ります。
 快感消失がみられ、楽しいと感じる能力が低下します。
 以前は楽しんでやっていたことにほとんど興味を失い、無目的なことに時間を費やします。
 社会性の喪失がみられ、他者とのかかわりに興味を失います。

 これらの陰性症状は、全般的な意欲喪失、目的意識の欠如、目標の喪失としばしば関連しています。

 解体症状には、思考障害や奇異な行動がみられます。

 思考障害とは思考が支離滅裂になることを意味し、話にとりとめがなく、話題が次々に変わります。話すことが多少混乱している程度の場合もあれば、完全に支離滅裂で理解できない場合もあります。

 奇異な行動は、子供のようなばかげた行為、興奮、不適切な外見、不衛生、不適切な行動などの形で現れます。奇異な行動の極端な形をカタトニー(緊張病)といい、硬直した姿勢を崩さず、周囲の人が体を動かそうとすると強い抵抗を示したり、それとは対照的に目的なく誘因のない動作をしたりします

 認知障害とは、集中力、記憶力、整理能力、計画能力、問題解決能力などに問題がある状態をいいます。集中力が欠如しているために、本が読めなかったり、映画やテレビ番組のストーリーが追えなかったり、指示通りにものごとができなかったりします。また、注意が散漫になり、1つのことに集中できない人もいます。その結果、細部まで注意が必要な仕事、複雑な作業、意思決定ができなくなります。

治療法

治療の場を決める  外来と入院

 病気が明らかになった場合、治療の場を外来で行うか入院で行うか決める必要があります。 治療の進歩により、以前と比較して外来で治療できることが増えてきました。外来か入院かを決める一律の基準があるわけではありません。 入院治療には、家庭の日常生活から離れてしまうという面があるものの、それが休養になって治療にプラスになる場合もあります。医療の側から見ると、病状を詳しく知ることができますし、検査や薬物治療の調整が行いやすいことが入院治療の利点です。これらのバランスを考えて、治療の場を決めます。 医療者としても、できれば外来で治療を進めたいのですが、入院を検討するのは次のような場合です。

 日常生活での苦痛が強いため、患者さん本人が入院しての休養を希望している。

 幻覚や妄想によって行動が影響されるため、通常の日常生活をおくることが困難。

 自分が病気であるとの認識に乏しいために、服薬や静養など治療に必要な最低限の約束を守れない。

 薬物療法の位置づけ

 統合失調症の治療は、外来・入院いずれの場合でも、薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせて行います。 心理社会的な治療とは、精神療法やリハビリテーションなどを指します。薬物療法なしに行う心理社会的な治療には効果が乏しく、薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせると相乗的な効果があることが明らかとなっています。

 「薬物療法か、心理社会的治療か」と二者択一で考えるのではなく、薬物療法と心理社会的治療は車の両輪のようにいずれも必要であることを理解しておくのが大切です。とくに、幻覚や妄想が強い急性期には、薬物療法をきちんと行うことが不可欠です。

抗精神病薬が有効な精神症状

 統合失調症の治療に用いられる薬物を「抗精神病薬」、あるいは「神経遮断薬」と呼びます。精神に作用する薬物の総称である向精神薬のうちのひとつのカテゴリーが、この抗精神病薬です。 抗精神病薬の作用は、大きく3つにまとめられます。

 幻覚・妄想・自我障害などの陽性症状を改善する抗精神病作用 不安・不眠・興奮・衝動性を軽減する鎮静催眠作用 感情や意欲の障害などの陰性症状の改善をめざす精神賦活作用の3種類です。

 幻覚や妄想が薬物によりよくなるというのは、なかなか理解しにくいことのようで、「薬によって強制的に考えが変えられる」「薬で洗脳される」と誤解される場合があります。 しかし、実際に抗精神病薬を服用した患者さんの感覚は、「幻覚や妄想に無関心になる」「行動に影響しなくなる」というものです。 ある患者さんは、「どうしてもあることにとらわれて気持ちが過敏になること、がなくなる」「頭が忙しくなくなる」「薬を飲んでも『最初にグサリときた感じ』(被害妄想を体験していた頃の恐怖感のこと)を忘れることはできないが、それだけにのめりこむことがなくなる」と表現していました。 実感としては、楽になるとかリラックスすると感じることが多いようです。

 

リハビリテーション

 統合失調症では、様々な症状のために家庭生活や社会生活に障害が生じます。 症状の改善だけではなく、日常生活におけるこうした障害の回復も治療の目標になります。 先に述べた薬物療法は、統合失調症により障害された機能の修復を図る治療です。こうした治療と並行して、障害を受けていない機能を生かすことで家庭生活や社会生活の障害を克服し、生きる意欲と希望を回復し、充実した人生をめざすのがリハビリテーションです。

 リハビリテーションに用いられる方法は、病状や生活の状態により様々です。病気や薬についてよく知り、治療の参考にして再発を防ぎたいとの希望がある患者・家族のためには「心理教育」、回復直後や長期入院のために身の回りの処理が苦手となっている場合には生活自立のための取り組み、対人関係やコミュニケーションにおける問題が社会復帰の妨げとなっている場合には、認知行動療法の原理を利用した「生活技能訓練(Social Skills Training;SST)」、仕事における集中力・持続力や作業能力の回復をめざす場合には「作業療法」、対人交流や集団参加に自信がもてない場合には「デイケア」、就労のための準備段階としては「作業所」など、個々の患者さんの病状に合わせて利用していきます。

 

 統合失調症の方は、正確な診断を受けるまで複数の病院を転々としていることが多くあります。例えば、最初は神経衰弱症状とされ、違う病院に行くと強迫症状とされ、さらに別の病院では抑うつ状態へと診断されたというような場合です。この場合、障害年金の申請では、統合失調症と確定診断を受けた病院が初診の病院ではなく、最初の神経衰弱症状とされた病院が初診の医療機関となってきます。

 うつ病統合失調症などの症状を訴えて精神科以外の診療科を受診した場合、最初に受診した病院の医師が、「精神科を受診するように」と指示をしたり、精神科のある病院への紹介状を初診の医師が作成したことが条件です。そうでない場合、精神科以外の病院ではなく精神科を初めて受診した日が初診日と認定されます。

 統合失調症での障害年金の場合、「初診日の証明がとれない」または「初診日がいつなのか分からない」という方が少なくありません。しかし、初診日を特定しない限り障害年金は支給されません。

 統合失調症は予後不良の場合もあり、国年令別表・厚年令別表第1に定める障害の状態に該当すると認められるものが多い。
 しかし、罹病後数年ないし十数年の経過中に症状の好転を見ることもあり、また、その反面急激に増悪し、その状態を持続することもあります。したがって、統合失調症として認定を行うものに対しては、発病時からの療養及び症状の経過を十分考慮します。

 統合失調症等とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、 併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定します。

 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。
 また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を充分確認したうえで、日常生活能力を判断すること。

 診断書に統合失調症の陽性症状(幻聴や妄想、解体した会話、緊張病性の行動など)や陰性症状(意欲の欠如、感情の平板化、自閉・引きこもりなど)が具体的に明記され、その症状により日常生活能力がどれだけ低下しているかが判定の大きな部分を占めています。
 労働能力や対人関係など、通常の日常生活ができなくなった場合には、障害年金が認定されます。また、統合失調症は闘病期間が長期に及ぶことが多く、医療機関にカルテが残っていないことで請求自体を断念せざるを得ない方が多くなる傾向にあります。

 統合失調症は、予後不良の場合もあり、障害の状態に該当すると認められるものが多い傾向にありますが、罹病後数年ないし十数年の経過中に症状の好転を見ることもあり、また逆に、急激に増悪した状態を持続することもあります。そのため、統合失調症として障害年金の認定がされるには、発病時からの療養及び症状の経過が十分に考慮されます。

WHO国際疾病分類第10版(ICD-10)による統合失調症の分類
 妄想型(F20.0)
 破瓜型(F20.1)
 緊張病型(F20.2)
 鑑別不能型(F20.3)
 統合失調症後抑うつ(F20.4)
 残遺型(F20.5)
 単純型(F20.6)
 その他の統合失調症(F20.8)
 特定不能の統合失調症(F20.9)

 

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