脊髄損傷

 脊髄とは脳から背骨の中を通って伸びている太い神経のようなものです。頭をポリポリ掻いたり、こっそりつまみ食いをしたり、人間の体を動かす様々な指示は脳からこの脊髄を使って全身に伝わるので、人間にとってとても大切な部分といえます。「脊髄損傷」は、交通事故や高い所から落ちたりしたことが原因で起こるケースが大半です。脊髄は脳と同じ中枢神経なので、一度傷つくと二度と再生することができません。しかもその損傷個所に伴い、体に麻痺が残るので「ただ頭を打って、手足がしびれただけ」と言ってそのままにしておくのは避けた方がよいです。通常の単純X線撮影だけでは見逃してしまうような箇所もあるので、なるべくCTやMRI撮影を行った方がよいといえます。
 また、骨粗鬆症など骨が弱っている老人などには尻もちをつくなど簡単な外傷が原因で、胸から腰にかけて圧迫骨折を引き起こすこともあるので注意が必要です。さらに、最近では高齢者や持病を持った人が増えたため、約15%の脊椎骨折がくっつきません。

 このような脊椎外傷以外にも、最近の日本では高齢化による頸椎変形が原因でちょっとした刺激で引き起こる「非骨傷性頚髄損傷」が増加傾向にあります。「非骨傷性頚髄損傷」は「中心性頚髄損傷」(頚髄の中心部分が損傷している状態)となることが多いです。頚髄の中心には上半身に行く神経が集まっており、逆に外側には下半身に行く神経が集まっています。「中心性頚髄損傷」では手のシビレや麻痺、物に触れることができないような激しい痛みなどが慢性的に続きます。高齢者で発症時期や発症機転が不明確な場合、しっかりとした検査が実施されず、「脳梗塞」や「加齢変化」などと誤った診断がなされていることもあります。

症状
 損傷の程度により、「完全損傷」と「不完全損傷」に分けます。「完全損傷」とは、脊髄の機能が完全に壊れた状態であり、脳からの命令は届かず、運動機能が失われます。また、脳へ情報を送ることもできなくなるため、感覚知覚機能も失われます。すなわち、「動かない、感じない」という状態となります(麻痺)。しかし、全く何も感じないわけではなく、ケガをした部位から下の麻痺した部位に、痛みや異常な感覚を感じます。

 「不完全損傷」とは、脊髄の一部が損傷し一部機能が残った状態であり、感覚知覚機能だけが残った重症なものから、ある程度運動機能が残った軽症なものまであります。
 受傷後、時間がたって慢性期になると、今度は動かせないはずの筋肉が本人の意思とは関係なく突然強張ったり、けいれん(痙攣)を起こすことがあります(痙性)。
 麻痺の程度によっては、手ではハシを使うことや字を書くことが困難、あるいはできなくなり、特殊な道具が必要となります。足では歩くことが困難、あるいはできなくなり、杖や車イスが必要となります。さらに、高い位置の頚椎レベルで脊髄損傷となると手足だけでなく呼吸筋まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなります。

 排便や排尿などの排泄機能も障害されますから、オムツや導尿カテーテルなど、排泄に必要な道具が必要となります。また、男性では勃起などの性機能も障害されます。
運動・感覚だけではなく、自律神経系も損傷されます。麻痺した部位では代謝が不活発となるため、ケガなどは治りにくくなります。また、汗をかく、鳥肌を立てる、血管を収縮/拡張させるといった自律神経系の調節も機能しなくなるため、体温調節が困難となります。

合併症
 脊髄損傷による麻痺以外に、色々な全身の合併症が発生します。呼吸器合併症、循環器合併症、消化器合併症、泌尿器合併症、褥瘡などがあります。いずれも生命にかかわる重大なものです。

(1)呼吸器合併症(頚椎部脊髄損傷の場合)
 高い位置の頚椎レベルで脊髄損傷となると手足だけでなく呼吸筋まで麻痺し、人工呼吸器なしには生きられなくなります。低い位置の頚椎レベルの脊髄損傷でも、セキがうまくできないので、タンづまりや肺炎を起こしやすくなります。

(2)循環器合併症
 脈が遅くなったり(徐脈)、起き上がったときに低血圧となります(起立性低血圧)。足が動かせないことから、深部静脈血栓症(エコノミー・クラス症候群)を生じやすくなります。

(3) 消化器合併症
 ケガをしたばかりの急性期には、ストレス性胃潰瘍・十二指腸潰瘍の危険性があります。もし、潰瘍で胃や腸に穴があいても(潰瘍穿孔)、痛みを感じないので、手遅れとなることがあります。また、胃腸の動きも悪くなりますから、腸閉塞(麻痺性イレウス)となることもあります。

(4) 泌尿器合併症
 排尿機能が障害されたことにより、尿にバイ菌がつきやすくなります(尿路感染症)。尿路感染症から全身にバイ菌がまわってしまい(敗血症)、死にいたる方がたくさんみえます。尿路感染症を防ぐためには、陰部や排尿に使用する器具の清潔管理・操作が重要です。

(5) 褥瘡(床ずれ)
 普通の方は、長時間同じ姿勢で座っていたり横になっていると、床にあたっている部分の血流が不足し、しびれるので無意識的に座っている格好を変えたり、寝返りを打ったりしています。ところが、脊髄損傷によって感覚を失っているとそれがわからず、圧迫された部位が血行不良となって、皮膚や筋肉などの組織が壊れてしまいます(壊死)。褥瘡が発生すると、ここにもバイ菌がつきやすくなります。褥瘡を防ぐためには、こまめに体位を交換する(自力でできない場合は介助が必要となる)しかありません。

 

  診断書では、頚髄損傷胸髄損傷腰髄損傷といった病名がつけられることもありますが、脊髄損傷のことを言い、障害の程度に応じて障害年金の認定がされます。

 脊髄損傷による障害の程度や部位は人により異なります。上肢がほとんど動かなくなる場合もあれば、下肢が全廃する場合や、四肢機能の障害が軽度な場合もあります。
 障害年金の手続きの際には、診断書の内容が大変重要となります。特に診断書の「麻痺」の項目や、診断書裏面の「筋力低下および日常生活動作」の項目は、認定に関わる大切なポイントです。

 

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