生活保護制度

1 生活保護制度の目的・原理・原則

 生活保護法は、憲法に定める生存権を実現するための制度として制定されている。

 生活保護法第1条にて「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」とされている。

 すなわち、生活に困窮している国民に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障(所得保障を指す)するだけでなく、さらに積極的にそれらの人々の社会的自立を促進する相談援助・支援活動(生活保護法では「自立助長」と条文規定している。対人サービスを指す。)を行うことが示されている(法第1条)。 

 また、同制度では、次の3つの基本原理を定めている。

1. すべての国民は,この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を無差別平等に受けることができる(無差別平等の原理 法第2条)。

2. 保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない(最低生活保障の原理 法第3条)。

3. 保護は、生活に困窮する者がその利用し得る資産、労働能力、その他あらゆるものを、その最低限度の生活のために活用することを要件とし、また、民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われなければならない(補足性の原理 法第4条)。

 そして、その運用に当たっては、次の4つの原則を定めている。

1. 法は申請行為を前提としてその権利の実現を図ることを原則としている。一方、保護の実施機関は、要保護者の発見、あるいは町村長などによる通報があった場合適切な処置をとらなければならない(申請保護の原則 法第7条)。

2. 厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基に、そのうちその者の金銭または物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行う(基準及び程度の原則 法第8条)。

 現行の保護基準は,最低生活に必要な費用を各種の扶助ごとに金額で示しているが、この基準は保護が必要かどうかを判定するという機能も有している。

 つまり、保護基準は、保護の支給基準であると同時に保護の要否の判定基準ともなっている。

1. 保護が要保護者の年齢別、健康状態といった個々の事情を考慮したうえで有効適切に行われなければならない(必要即応の原則 法第9条)。

2. 保護の要否や程度を世帯単位で判定して実施する。つまり,個々の困窮者には保護の請求権があるが、その者が生活困窮に陥っているかどうか、あるいはどの程度の保護を要するかという判断は、その者の属している世帯全体について行う(世帯単位の原則 法第10条)。

 

2 生活保護の種類と方法

 生活保護法は、その前提要件として、収入、資産、能力を活用し、さらに私的扶養、他の法律による給付を優先して活用し、それでもなおかつ生活に困窮する場合に初めて保護を適用する仕組みである。

 生活保護法で定める保護の種類は、8種類の扶助(生活扶助 住宅扶助 教育扶助 介護扶助医療扶助 出産扶助 生業扶助 葬祭扶助)に分けられている。

 保護は必要に応じて1種類(単給という)から2つ以上の種類の扶助が受けられる(併給という。)。

 給付は金銭給付を原則とし、それにより難い場合には現物給付を行っている。

 扶助の種類別でみれば、医療扶助と介護扶助においては、給付の性格上、現物給付で行っている。それ以外は金銭給付の方法で行うことを原則としている。

 介護保険法の制定にともない創設された介護扶助は、保険の1割負担部分と入所者生活費(従来の施設入所への入院患者日用品費に相当するもの)に対応する。

 一方、介護保険料は生活扶助で対応する仕組みとなっている。

 また、生活保護は居宅保護を原則としている。しかし、それにより難い場合には施設にて保護を行う。

 生活保護法で規定されている保護施設には、救護施設、更生施設、医療保護施設、授産施設、宿所提供施設の5種類があり(法第38条)、それぞれ施設の目的・対象・機能が違っている。

 

 生活保護世帯には次のような負担の軽減や免除があります。

・国民健康保険料(税)が免除になります

・国民年金保険料が法定免除されます

・上下水道が減免されます

・固定資産税が免除される場合があります

・医療費が無料になります

 

 障害年金を受給することができる人は、まず障害年金を優先的に受給し、その上でその人の最低限度の生活をする上で不足するものを生活保護として受けることになります。

 障害年金の受給額が生活保護の支給額よりも多くなれば、生活保護は支給されなくなります。

 障害年金と生活保護は同時に受給できますが貰える金額はトータルでは変わりません。

 

 生活保護には「障害者加算」の制度があり、障害等級1級または2級の障害年金を受給している人には生活保護に加算が行われますので生活水準は向上するといえます。例えば1級在宅者で障害年金1級の人は26,750円/月、2級の

 

3 被保護者の権利・義務

 生活保護を受けている者(被保護者)は、特別な権利を与えられている一方、義務も課せられる。

 被保護者の権利には次のものがある。

1. 正当な理由がないかぎり、すでに決定された保護を不利益に変更されることがない(不利益変更の禁止 法第56条)。

2. 保護金品を標準として、租税その他の公課を課せられることがない(公課禁止 法第57条)。

3. すでに給付を受けた保護金品、またはこれを受ける権利を差し押さえられることがない(差押禁止 法第58条)。

 また、被保護者の義務には,次のものがある。

1. 保護を受ける権利を譲り渡すことはできない(譲渡禁止 法第59条)。

2. 常に能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持、向上に努めなければならない(生活上の義務 法第60条)。

3. 収入、支出その他生計の状況について変動があったとき、または、居住地もしくは世帯の構成に異動があったときは、速やかに,福祉事務所長にその旨を届け出なければならない(届出の義務 法第61条)。

4. 福祉事務所長が行う生活の維持、向上、その他保護の目的達成に必要な指導に従わなければならない(指示等に従う義務 法第62条)。

 

4 費用の返還と徴収

 次のような場合、保護費の返還と徴収が行われる。

1. 急迫した事情などにより資力があるにもかかわらず保護を受けた場合(法第63条)

2. 届出の義務を、故意にこれを怠ったりあるいは虚偽の申告をした場合など不正な手段により保護を受けた場合(法第78条)

 なお、不正受給については、単に費用徴収にとどまらず、その理由によっては、生活保護法の罰則規定(法第85条)あるいは刑法の規定に基づき処罰を受けることもある。

1. 扶養義務者が十分な扶養能力を有しながら扶養しなかった場合

 この場合は、その扶養義務者の扶養能力の範囲内で、保護のために要した費用の全部または一部を徴収されることがある(法第77条)。

 

5 不服の申立て

 当然受けられるはずの保護が正当な理由もなく行われなかった場合は、行政上の不服申立てによる救済の途が認められている。

 それは次の二つの段階がある。

1. 福祉事務所長の行った保護開始・申請却下,保護停止・廃止などの決定に不服がある者は、都道府県知事に対し審査請求を行うことができる(審査請求 法第64条)。

2. 都道府県知事の裁決に不服のある者は、さらに厚生大臣に対して再審査請求を行うことができる(再審査請求 法第66条)。

また、都道府県知事の裁決を経た後は、裁判所に対して訴訟を提起することができる。

 

6 生活保護の実施

(1) 生活保護の実施機関としての福祉事務所

 福祉事務所は、社会福祉法において「福祉に関する事務所」と規定されている。

 生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉法、老人福祉法、知的障害者福祉法、母子及び寡婦福祉法のいわゆる福祉六法を中心に、援護、育成または更生の措置に関する業務を行っている第一線の総合的な社会福祉行政機関である。すなわち、生活保護の実施機関という側面と、福祉各法(福祉五法)の実施機関としての側面を併せ持っている。

 都道府県、指定都市、市及び特別区においては義務設置、町村は任意設置である。職員として福祉事務所長のほか、査察指導員、現業員及び事務職員を置くことになっており、対人援助に当たる職員は社会福祉主事資格を有する者が当たることになっている。

 

(2) 生活保護の実施

生活保護の決定実施過程は、受付 → 申請調査 → 要否判定 → 決定(開始・却下)→ 支給(変更・停止)→ 廃止のプロセスをとる。

原則として要保護者(生活困窮状態にある者)が申請を行い、保護の実施機関が保護の要否の調査、保護が必要な場合その種類、程度及び方法を決定し給付を行う。

保護の要否を判定し決定・実施する機関は、申請者の居住地または現在地(居住地がないか明らかでない場合)を所管する福祉事務所であり、そこが実施責任を負う。

福祉事務所では、申請を受け付けると地区を担当しているソーシャルワーカー(社会福祉主事)が家庭訪問などを実施し、保護の要否を調査する。これが補足性の原理を満たしているかどうかを確認するためのミーンズ・テスト(資力調査)である。

この調査結果に基づいて、原則として世帯を単位に保護の要否を決定し、それを申請者に文書で通知する。この通知は申請があった日から14日以内にしなければならないとなっているが、特別な理由がある場合は延長し、30日以内に行うこととなっている。

保護の要否や程度は、保護基準によって定められたその世帯の最低生活費と収入認定額とを対比させることによって決められる。そこで認定された収入が保護基準によって定められたその世帯の最低生活費を満たしていない場合に、その不足分を扶助費として給付する。