老齢厚生年金の報酬比例部分の計算(平成28年度)

老齢厚生年金の報酬比例部分は複数の計算法があり、その中で最も高くなる計算法によって算定された額の年金が支給されます
 1.平成16年改正水準(本来水準)
 2.平成12年改正水準(従前額保障)

 平成6年改正水準(物価スライド特例水準)は平成26年度が最後になり、平成27年度以降は使われなくなりました。

 

1 本来水準の老齢厚生年金  平成16年改正水準

 平成12年水準の従前額保障から、5%減額された年金額となっています。(乗率 7.5/1000→7.125/1000、5.769/1000→5.481/1000へ)

算定式(平成28年度)
  下記の額が支給額となります。
  平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 平成15年3月以前の被保険者期間の月数
  + 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 平成15年4月以後の被保険者期間の月数

 7.125/1000及び5.481/1000は生年月日によって読み替えがあります。昭和21年4月2日以降生まれの人は読み替えがありません。

 平均標準報酬月額及び平均標準報酬額を求める際の再評価率のは、該当年度のものを使います。
 よって、平成28年度の算定には平成28年度の再評価率を用います。
 本来水準に用いる再評価率は名目手取り賃金変動率や物価変動率を反映させて毎年改定されることになっています。

 

2 従前額保障の老齢厚生年金  平成12年改正水準

 平成12年の改正で老齢厚生年金の給付乗率が5%減となりましたが、この影響を小さくするために、それまでの計算で算定した額より少なくなったときには従前の額を保障するとされました。

算定式(平成28年度)
 下記の額に「0.998」(従前額改定率)を掛けたものが支給額となります。
  平均標準報酬月額 × 7.5/1000 × 平成15年3月以前の被保険者期間の月数
 + 平均標準報酬額 × 5.769/1000 × 平成15年4月以後の被保険者期間の月数
   (昭和13年4月1日以前生まれの人の従前額改定率は1.000)

 7.5/1000及び5.769/1000は生年月日によって読み替えがあります。
 昭和21年4月2日以降生まれの人は読み替えがありません。

 平均標準報酬月額及び平均標準報酬額を求める際の再評価率は、平成6年改正のものを使います。

 

(参考) 物価スライド特例措置

平成6年改正水準  平成26年度まで

平成26年度算定式
 下記の額に「1.031×0.961」を掛けたものが支給額でした。
 (0.961はスライド調整率)

  平均標準報酬月額 × 7.5/1000 × 平成15年3月以前の被保険者期間の月数
 + 平均標準報酬額 × 5.769/1000 × 平成15年4月以後の被保険者期間の月数

 上記の従前額保障と同様に生年月日によって読み替えがありました。

 平均標準報酬月額及び平均標準報酬額を求める際の再評価率は平成6年改正のものが使われました。

 

○再評価の目的

 厚生年金の額は被保険者として勤めていた会社の給与額に基づいて算定されますが、時代によってその貨幣価値は大きく異なります。例えば、コーヒー一杯が50円の時代と400円の時代では同じ100円でも全く価値が異なるので、そのままの給与額で年金額を算定すると、初任給が2万円だったころの人たちの年金額は極端に少なくなってしまいます。このような不都合の補正に使用されるのが再評価率です。

 

○5%適正化

 5%適正化とは、将来世代の負担を過重なものにしないことを目的に今後の年金給付の伸びを抑制するという趣旨から、平成12年4月より講じられた厚生年金についての給付乗率引下げ措置のことを言います。
 具体的には、老齢厚生年金等の報酬比例部分の額の算定に用いる給付乗率を5%引下げ、受給権者の生年月日に応じて、「1000分の7.5~1000分の10」を「1000分の7.125~1000分の9.5」とされました。

 

○従前額の保障  

 厚生年金の額について、65歳以降は、賃金スライドを行わず、物価上昇率のみで改定することとされました。このため、老齢厚生年金等の報酬比例部分の額の算定に用いる平均標準報酬月額を算出する際に使用する再評価率表が定められました。年金額の計算に用いる平均標準報酬月額及び平均標準報酬額は、過去の報酬を現在の賃金や物価水準に応じた価格に再評価する必要があるという考え方から、過去の報酬については「再評価率」を乗じて算定した数値を用いています。この再評価率について、従来現役被保険者の名目賃金の上昇率に応じて定める方式がとられていました。

 その後、平成6年の法改正で税・社会保険料を除いた手取り賃金の上昇率に応じて定める方式に変わり、平成12年の法改正で、65歳以降の既裁定者については、賃金スライドを行わず、物価上昇率のみで改定することとされ、再評価率は受給権者の生年度区分に応じて定めることとしました。

 しかし、上記にもかかわらず、適正化前と適正化後、両方で年金額を算出して、金額を見比べます。

 適正前で計算した年金額の方が多い場合には、その額を保障することになっています。これが、従前額保障です。

 

○年金額の改定ルール

 年金額は現役世代の賃金水準に連動する仕組みとなっています。年金額の改定ルールは、法律上規定されており、年金を受給し始める際の年金額(新規裁定年金)は名目手取り賃金変動率によって改定し、受給中の年金額(既裁定年金)は購買力に着目して物価変動率によって改定することになっています。また、給付と負担の長期的な均衡を保つ観点から、賃金水準の変動がマイナスで物価水準の変動がプラスとなる場合には、現役世代の保険料負担能力が低くなっていることに着目し、ともにスライドなしとすることが規定されています(したがって、マクロ経済スライドによる調整も適用されません)。

 平成28年度の年金額は、平成28年度の年金額改定に用いる名目手取り賃金変動率(▲0.2%)がマイナスで物価変動率(0.8%)がプラスとなることから、新規裁定年金・既裁定年金ともにスライドなしとされます。

 マクロ経済スライドとは、平成16年の年金制度改正において導入された「賃金や物価の改定率を調整して緩やかに年金の給付水準を調整する仕組み」です。

 このマクロ経済スライドによる給付水準の調整を計画的に実施することは将来の年金の受給者である現役世代の年金水準を確保することにつながります。具体的には、現役被保険者の減少と平均余命の伸びに基づいて「スライド調整率」が設定され、その分を賃金や物価の変動により算出される改定率から控除するものです。

 

(参考)平成28年度の年金額改定に用いる各指標

・名目手取り賃金変動率・・・▲0.2%

 名目手取り賃金変動率
 = 実質賃金変動率(▲0.8%)× 物価変動率(0.8%)× 可処分所得割合変化率(▲0.2%)
  (平成24~26年度の平均)   (平成27年の値)     (平成25年度の変化率)

 「名目手取り賃金変動率」とは、前年の物価変動率に2年度前から4年度前までの3年度平均の実質賃金変動率と可処分所得割合変化率を乗じたものです。

・物価変動率・・・0.8%

・マクロ経済スライドによる「スライド調整率」・・・▲0.7%

スライド調整率(▲0.7%)
 = 公的年金被保険者数の変動率(▲0.4%)× 平均余命の伸び率(▲0.3%)
    (平成24~26年度の平均)

 平成26年財政検証では、平成28年度のスライド調整率は▲1.1%~▲1.2%と見込んでいましたが、60歳以上の高齢者雇用が見込みよりも進んだことなどにより、厚生年金被保険者が増加したことで実際のスライド調整率は見込みよりも低くなりました。

 ただし、平成28年度の年金額改定においては、マクロ経済スライドの調整は行われません。