医療改革

 日本が世界に誇る国民皆保険制度は、いつでもどこでも 低い自己負担で医療を受けられる便利さで、日本人の健康生活に長く貢献してきた。

 誰もが低い自己負担で医療を受けられる国民皆保険は、1961年に導入された。これにより、高度経済成長期以降、日本人の平均寿命は世界最高レベルへと上昇した。しかし、高齢化社会を迎え、生活習慣病なども増えたことから、医療費は増大の一途をたどっている。

 政府の推計では、医療費は2025年度に54兆円に達する見込みで、その後ますます肥大していくと見られる。2025年には団塊の世代が75歳を迎え、いよいよ日本は「超高齢社会」に突入する。医療制度の改革は急務です。

参考

 医師の半数が現在の国民皆保険を「持続不可能」だと考えていることが明らかとなった(2017年6月30日付日経新聞)。

 1030人の医師がアンケートに回答し、「現状の皆保険制度に基づく医療は今後も持続可能と思うか」という質問に対し、52%が「そうは思わない」と回答。25%が「そう思う」、22%が「分からない」と答えている。

 持続できないと答えた医師からは、「高齢者の医療費が増大しすぎている」「過剰医療も大きな問題」との声が挙がった。持続可能だとした医師も、「消費増税があれば」「患者負担の増加が必要」という条件を示しており、現状のままでの制度維持は難しいという認識です。

 

日本の医療の問題点

1 患者のニーズに合った医療サービスが提供できていない
  夜間や休日に診療をしている病院が少ない
  大病院に人が集中し「3時間待ちの3分診療」などの問題がある
  混合診療が禁止され、患者が最新の治療を選びにくい

2 国による規制で自由な医療ができず、病院の7割は赤字
  政府の規制が多く、医師が医療技術やサービスの向上のために切磋琢磨するモチベーションが高まらない
  非効率な病院経営で赤字になっても、税金で補填されるために病院として経営マインドが育ちにくい

3 医療費の増加による財政の圧迫
  高齢化・生活習慣病の増加で、医療費が増大し、国の財政を圧迫している

 

現状は政府が医療サービスの内容と価格を決定・管理している

 医療の世界は、提供できるサービスの内容と値段を政府が決めています。政府が認めた治療法や薬でなければ保険が利かないため、それ以外のサービスを提供することは困難です。さらに、医療者の腕の善し悪しに関係なく、一律にサービスの価格が定められています。

国民側

 実は高い日本の医療負担
  収入の約1割が医療保険料として徴収される(会社勤めの場合は労使折半)。
  それではまかないきれず、医療費の約4割は税金から補てんされている。 

 安易な受診による医療費の増加
  自己負担が低いため、軽症でも病院を受診。
  生活習慣病の増加と高齢化で医療費が拡大。

医療者側

 「市場原理」が働かない
  医師としての技術を磨くモチベーションが上がりにくい。
  外科、産婦人科、小児科などリスクが高い診療科は担い手が少なく、医師が偏在している。

 必要以上の投薬や検査が行われている
  治療をするほど収入が増える「出来高払い制度」によって過剰医療に陥りやすい。

このままでは

 2025年には団塊の世代が75歳を迎え、「超高齢社会」になる。
 莫大な高齢者医療費で国家財政が悪化する。
 優れていると言われた日本の医療システムが崩壊し、国民の健康を守れなくなる。

 高齢者や非正規社員の加入が増えている国民健康保険は、加入者の年齢が高く医療費がかかる一方、平均収入が比較的低くて十分な保険料が集まらないため、赤字構造を抱えている。

 国保を維持するため、運営を市町村から都道府県に移すことで、財政基盤を強化することや、国保への公費投入額を年3400億円に拡大することも決定した。この財源を捻出するため、大企業の社員が加入する健保組合と公務員が加入する共済組合の負担増が盛り込まれている。

 しかし、国保を救済するために、大企業の社員が加入する健保の保険料負担を増やすという安易な方法では、時間は稼ぐことはできても、根本的な解決にはならない。

 近年、生活習慣病の診療が増え、医療費を押し上げている。窓口負担が少ないため、安易に病院に行く患者が多いことや、医療行為が多ければ多いほど医療機関の収入が増える「出来高方式」の診療報酬制度によって、病院による不必要な検査や薬の使用が行われる「過剰医療」などが問題になっている。

診療報酬の解禁

 医療費の肥大の原因として、日本の「過剰医療」制度が挙げられる。日本の医療は、「出来高払い制度」を採用しており、治療をすればするほど病院側の収入は増える。そのため、必要以上に患者に薬を処方しがちになるなど、過剰医療に陥りやすい。

 生活習慣病などの症状を抑えるために一生薬を飲み続けたり、抗がん剤の副作用を和らげるためにさらに薬を処方されるなど、患者が薬漬けになるケースが増えている。

 実際に、日本の平均在院日数、人口当たりの病床数のどちらも諸外国と比較して異常なほど高い。また、国民一人当たりの外来受診回数も群を抜いている。

 必要な人に必要な医療を施すことは重要だ。だが、自立できる人までも病院漬けにしてしまうような医療には問題がある。

 個人の医療費負担が少ないため、努力して病気を予防するという「予防医療」の観点が欠けがちであることも指摘される。政府や医療機関、国民が一丸となって予防医療に取り組むことが必要です。

 予防医療の推進に加え、具体的な制度の改革としては、医療サービスの価格を段階的に自由化することを検討すべきだ。病院によって患者へのサービスには差があるはずだが、現在は同じ医療行為に対しての価格は統一されている。

 この価格設定を自由化することで、病院間・医療者間の健全な競争環境が整い、患者を回復させる実績のある医者や病院が適切な評価を受けるようになる。さらに、「診断を中心とした安い病院」「高価だが丁寧なサポートをする病院」などサービスが多様化し、患者の選択肢も広がる。

 増税ではなく、「患者を卒業させた病院が評価される医療」に変化することが、医療問題を根本的に解決することになるでしょう。 

 新しい医療サービスのあり方は、自分の健康状態と相談しながら、働き方を決める「生涯現役社会」の重要なインフラとなる。

 増大する医療費の主な原因は、高齢者医療と生活習慣病の治療費である。必要以上の医療費が使われていないかを見直すとともに、病院経営を効率化させ、予防医療を強化するなど、根本的な医療費問題の解決策が求められる。

 その前提として必要なのは、患者と医療者の両方の意識改革です。国民一人ひとりが自助努力の精神で自分の健康に責任を持ち、管理すること、そして医療者側も必要以上の医療行為を控え、患者が本来持っている力を引き出す方向で治療を行うことで、行き過ぎた医療負担を適正にすることができる。

 人間、自分の健康や老後のことは、基本的には自分個人の責任です。まず個人があって、次に個人を支える家族の絆がある。その外側に、隣り近所や地域の助け合い、そして民間の医療や福祉サービスがある。そういういろんな主体があったうえで、それでもあぶれた人を救うのが、国や自治体が税金で賄う最低限のセーフティーネットであるべきなのです。

ところが今の日本は、セーフティーネットの部分を中心に担うべき国が、個人や家族の分まで一律に強制的にやったり、さまざまな制度や規制で民間の自由な参入を制限したりしている。国や自治体による社会保障の部分があまりに大きすぎて、本来あるべき姿が逆転している。

従来の「社会主義的システム」から、今後は「自助努力型」が基本の社会に