航空や軍の基礎研究がアメリカの国力の源泉

 アメリカの基幹産業には、自動車産業や金融業などさまざまあるが、政府が積極的に関わって発展してきたのが、航空・宇宙産業、それと表裏一体をなす国防産業である。航空・宇宙産業は約60万人(生産額22兆円)、国防産業では軍人も合わせて約570万人(国防予算約50兆円)が働いている。

 ただ、2つの産業のすそ野はもっと広い。アメリカは、国家戦略として、国防総省と航空宇宙局(NASA)に巨額の予算を付けて民間企業や大学に基礎研究を行わせ、最先端の技術や産業を派生させてきた。それがアメリカの国力の源泉となったと言ってよい。

 例えば、人類初の月面着陸を果たしたアポロ計画は、その後のエレクトロニクス産業の基礎をつくった。

 「わが国は60年代が終わるまでに、人類を月へ送り、地球に帰還させる」

 ケネディ大統領が1961年5月に議会演説で宣言し、計画がスタート。1969年7月、ついにアポロ11号が月面に降り立った。この成功を支えるためには、当時の最新のコンピュータ技術が集められた。それらすべてを合わせたよりも、現代の携帯電話1台のほうがコンピュータ技術は多いとされるほど、まだ技術的には拙いものだった。

 それでも、このアポロ計画をきっかけに、集積回路(IC)の製造技術は飛躍的に向上。価格も50分の1近くに下がって、エレクトロニクス産業の勃興につながった。

 インターネットも、もとは軍事技術から始まっている。国防総省が核攻撃を受けても耐えられる通信ネットワークを構築しようと、1960年代に開発され、その後、1980年代に開放されてから、必要不可欠のツールへと成長していった。

 シリコンバレーに代表されるアメリカのベンチャービジネスは、NASAなどを中心とした宇宙開発や国防関連の研究開発プロジェクトから派生した新技術が出発点だったのです。

 宇宙・航空や軍事、海洋開発などへの投資を、同時並行的に国家プロジェクトとして進めなければなりません。日本とアメリカの2ヵ国が世界の高度技術の8割以上を独占しています。日本は失敗を恐れず、未知のフロンティアに資金と人材を投じることで、ものすごい力が発揮できます。

 日本は、これまで陰ながらアメリカの宇宙・航空産業、国防産業を技術的に支えてきた。アメリカがこれらの分野から撤退の兆しを見せる中、日本が自力で進出しても何らおかしくない。

 高度な技術を持つ日本の宇宙産業は、なぜ自動車のように基幹産業として発展してこなかったのか。それは自ら数々の阻害要因をつくってきたからです。

 国会は1969年、衆参両院が「宇宙の平和利用原則」を決議し、「宇宙開発を平和目的の利用に限る」と定めた。長年、この「平和目的」は「非軍事」と解釈されてきた。そのため、軍事転用できる技術の研究は忌避され、宇宙空間を通過する弾道ミサイル防衛も30年以上「不可」とされた。また、宇宙に打ち上げたものを再び地球に戻す回収技術を、弾道ミサイル技術と同一視してきたため、この技術でも大きく遅れをとっている。

 このほかにも、武器輸出三原則や宇宙条約(1966年の国連総会で採択)において、極端な平和思想に執着し、自ら開発を封印してきた。しかし、他国は当たり前に偵察衛星を使い、宇宙空間で衛星の破壊実験まで行っている。軍事目的を100%排除できる宇宙開発はありえないのが国際常識である。

 2008年に宇宙基本法が成立し、政府は「非軍事」から「非侵略」へと解釈を変更し、法制面でやっと他国と同じ土俵に立つことができた。

 

宇宙行政に関する政府の組織も、阻害要因となってきた

 通信衛星は総務省、気象衛星は国交省、環境観測衛星は環境省、資源探査は経産省、ロケットの打ち上げは文科省管轄下のJAXA(宇宙航空研究開発機構)という具合に、見事な縦割り行政となっている。計画立案も予算も別々で、一体的な取り組みがなされてこなかった。

 敗戦の影響から、宇宙開発や軍事面でアメリカの顔色をうかがい、自己規制してしまっていることも、阻害要因の一つ。

 アメリカは同盟国ながら日本の技術力に警戒を怠らず、日本が軍事衛星にも利用できるGPSの開発を目指そうとすると、タダ同然で自国のGPSを利用させるなどして阻止してきた。日米同盟を盾にして言い分を飲ませ、日本もそのけん制に唯々諾々と従ってきたのである。

 高度な技術を持ちながら、日本の宇宙産業が発展してこなかった理由には、政治家の無知と官僚の責任回避があると思います。

 政治家は、いまだに有人飛行の是非でもめていますが、開発の意義が理解できていません。官僚も失敗して責任を取りたくないので絶対にみずから手を挙げない。過去には、日本のロケットエンジンを買いたいという海外企業に対して、その企業がGPSを打ち上げていることを理由に、武器輸出三原則に抵触すると自主規制して破談にしたこともありました。

 そもそも、弾頭に爆発物を載せればミサイル、衛星を載せればロケットになる。果たして、そこで使われているエンジンは「武器」なのでしょうか。

 こうした問題については、政治家さえその気になって、制度や解釈について真剣に話し合い、解決の糸口を見つけ出していけば、様々な技術を売ることができます。

 また、もっとも責任が重いのはメディアです。メディアは成功したか失敗したかという単純な議論にしてしまって、込み入った話になると逃げてしまう。そのメディアの理解力の低下が、国民の理解力の低下につながっていき、知のマイナススパイラルができ上がっていく。

 宇宙開発というのは、自動車のようにハードやソフトなど非常にすそ野の広い産業そのもの。そして、宇宙産業の市場は最初から「世界」。これからの日本にとっては非常に重要な将来型の産業なのです。

 これを産業として盛り上げていくには、まず、「宇宙の有人飛行をやります!」と宣言してしまうことです。政府が本気で取り組めば、日本の実力なら5~6年で実現できるでしょう。

 大事なのは、技術研究にもっと投資すること。技術というのは揮発性で、継続していないと消えてしまいます。人材にも投資しないと、LEDを開発した中村修二さんのように優秀な研究者が海外に流出してしまいます。若いポスドク(博士研究員)もたくさん余ってますから、積極的に活用していけばいいと思います。

 また、宇宙開発を進めると、それが安全保障面の抑止力にもなります。「平和利用に徹します」と言って、日本独自の宇宙ステーションを持てば、高度400キロから常にいろいろな国を見られる。ロケットもGPSも積極的に飛ばす。宇宙開発をバンバン進めておけば防衛費も抑えることができます。

 結局、日本の宇宙産業を発展させていくには、技術者や企業、政治家や官僚、メディアも含めてそこに携わる人たちに「熱意」と「関心」と「知識」がないといけません。これは三位一体です。

 そうした人々が、「日本は宇宙という分野で、新しい国際的なイニシアチブをとるんだ」と決意を固めることが必要なのです。

未来産業投資 へ

「仏法真理」へ戻る