電通の長時間労働問題の経緯

2015年12月 電通でインターネット広告業務を担当していた入社1年目の女性社員(当時24)が寮から飛び降り自殺

2016年9月 三田労働基準監督署は、1カ月の時間外労働が約105時間に達していたとして、労災認定

11 厚生労働省は電通本社などを強制捜査

 従業員の自殺が労災認定された大手広告会社・電通に対し、2016年11月初旬、複数の社員に違法な長時間労働をさせていた疑いで強制捜査が入った。

 これに先立つ9月、政府は内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設けた。その際、安倍晋三首相は、「『モーレツ社員』の考え方が否定される日本にしていきたい」「長時間労働を自慢する社会を変えていく」と表明。電通への強制捜査は、長時間労働を悪とする政府の姿勢を示している。長時間労働への監督・指導を強化するため、労働基準監督官も増員する方針とのこと。

 以前は調査に入らなかったような小さな企業にも、近頃、労働基準監督署の調査が入っている。

 長時間労働を取り締まる流れの中で、一部社員の権利意識が高まっています。自主退職した社員が突然、『未払いの残業代がある』と要求してきたとか。

 長時間労働が問題視されているのは複数の理由があります。

 まずは企業の問題です。高度成長期までの日本経済は製造業中心で、長時間働いて多くの物を製造すれば業績が上がり、給与も増えました。現在は、長時間働いても以前ほど収入が上がらないのに、その成功体験が捨てられないのです。

 電通のケースなら、不幸にも過労自殺者が出たデジタル広告部門は、電通より低コストで請け負う競合他社が多い。そのため、成果を出そうと長時間労働になりがちだったのかもしれません。

 諸外国と比べて特徴的な日本の労働慣習の問題もあります。日本は、ほとんどの社員がトップを目指して長時間働きます。これに対して欧米は、エリートとノンエリートが厳然と分かれています。エリートは日本以上に長時間働き、高い報酬を手にしますが、ノンエリートは出世しない代わりに、残業もない。「欧米では長期休暇が取れる」という話を聞きますが、それにはこのような背景があるわけです。

 さらに、労働法制の問題があります。正社員を解雇しにくい代わりに、長時間労働については事実上制限がありませんが、これは時代に合わなくなっています。

 勤務時間に応じて給料を払う義務がある経営者としては、「時間の質」を高めてもらいたいもの。

 「労働時間」をめぐって会社と従業員との攻防戦が行われたケースを紹介する。

社員がサボっている時間は証明できるか? 
 注意散漫で重大なミスや事故を起こした電気通信設備工事会社の社員。一旦は退職届を出したものの納得がいかず、会社に残業代を要求した。会社側は「パソコンゲームに熱中したり、事務所を離れて仕事に就いていなかった時間がある」と主張したが、裁判所は「仕事していない時間は特定できないから、タイムカードに打刻された時間は仕事に当てられたものと推定されるべき」として会社に残業代の支払いを命じた。従業員がサボっている時間を会社が証明せよとはあまりに酷では。 (2009年4月23日仙台地裁)

上司の悪口メール送信は「連絡」?
 勤務時間中、「アホバカCEO」など経営陣の悪口を書いた私用メールを社内外に送っていた社員。会社は、「勤務時間中なのに職務に集中していない」と何度も注意したが、反省の様子が見られないので解雇したところ、裁判所は「仕事中は職務に専念すべき義務があるが、外部と連絡を取ることが一切許されないわけではないので、解雇は無効」と判断した。なお、メールの内容について、裁判所は「名誉毀損に当たる」と問題視している 。(2003年9月22日東京地裁)

作業服に着替える時間は「労働時間」
 造船所の作業員が、「始業前に指定の作業服に着替え、防護具や工具を身につける時間、就業後にこれを脱ぐ時間は労働時間」として、残業代を払えと主張した。裁判所は「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指し、作業服に着替える時間は労働時間」と認定した。(2000年3月9日最高裁)  ゆっくり着替えた人が得をする?

仮眠時間にも残業代&深夜手当を払うべし
 あるビル管理会社では、毎月数回、24時間勤務があった。2時間の休憩と、連続8時間の仮眠時間が設けられていたが、外出や飲酒は禁じられ、警報が鳴った時は緊急対応をすることになっていた。仮眠時間の間に何も起こらなければ、「泊まり勤務手当」として2300円が、仕事が発生したときは、作業時間に応じた残業代や深夜手当が支払われていた。

 従業員は「泊まり勤務中の仮眠時間は、労働時間」として、何も起こらなくても残業代や深夜手当を払うべきだと主張し、裁判所もこれを認めた。(2002年2月28日最高裁)

 仮眠時間は休みとは言えないかもしれないが、残業代や深夜手当まで上乗せされるのは経営者にはキツイかも。

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