日本の徴税の仕組み

 今年も確定申告の時期がやってきます。そこで、国際的には極めて特殊な「日本の徴税の仕組み」を考えたいと思います。この仕組みがどのようにできたのか、また、他国はどんな制度になっているのかを見ていきます。

源泉徴収制度は戦時中に始まった

 給与や報酬、利子などを支払う側が、お金を支払う時に所得税などの税金を差し引いて政府に納める制度を「源泉徴収」と呼んでいます。日本では、会社が各社員の所得税を「源泉徴収」しています。この仕組みによって、サラリーマンは自ら税務署に行かなくても、特に意識しないうちに所得税を納めています。

 この仕組みが導入されたのは1940年のことで、戦争のために税収を確保する目的がありました。税制の改正作業にあたった当時の大蔵省は、源泉徴収のメリットとして「天引きされるが故に納税上の苦痛が少ない」「徴税費が少なくて済む」といった点を挙げています。

 日本人は、もともと税金をまじめに払い、滞納も少なかったこともあり、源泉徴収の導入は比較的スムーズに受け入れられました。

 しかし、戦後もこの制度は続きます。さらに加えて、1947年の所得税法改正の際、新たな制度が加わります。それが年末調整制度です。

 日本の税制では、年間の収入を税務署に申告し、収入に応じた税金を払うことが原則です。しかし、サラリーマンの場合は、毎月の所得税天引きに加え、年間収入の報告についても、会社が代行してくれるのです。これが年末調整です。これによって税金の払いすぎや不足分を調整します。

 この制度の定着にあたっては、興味深い経緯があります。1949年、コロンビア大学教授のシャウプ氏が日本の税制度について「シャウプ勧告」というものを出します。現在の日本の税制の基礎を作ったといわれるもので、日本側はそのほとんどを受け入れました。しかし、「年末調整」の維持についてだけは、日本側が譲らなかったのです。シャウプ氏らは、「『年末調整』によって大部分の被雇用者(社員)は税務署と接点がなくなる。税負担額を認識させ、納税者意識を高めるべき。それがデモクラシーである」との趣旨の勧告をしましたが、日本はこの制度を押し通しました。

 もちろん、アメリカの税制度が万能というわけではありませんし、デモクラシー云々を説かれることも面白くはありませんが、「納税者意識が失われるのではないか」との指摘は一理あります。

 消費増税の際には、マスコミが煽ることもありますが、国民の大きな関心を呼びます。それは、買い物の際に払う税金の額が明確に変わるからです。

 一方、所得税や社会保険料の変化については、源泉徴収で毎月天引きされ、年末調整で年間トータルの所得税額も見えにくくなっているため、国民の大半を占めるサラリーマン層を中心に、関心が薄いようです。例えば、厚生年金保険料はこの10数年間で4%以上も増えています。年金保険料は、原則現在の高齢者層に払われており、自分には戻ってこない事実上の税金です。それなのに大きな議論にはなっていません。

 源泉徴収と年末調整がセットになっており、所得税や社会保険料の支払いについて意識する機会がほとんどない日本の仕組みは、世界的に見ても特殊と言えるでしょう。

 本来、税金は自主的に納めるものです。だからこそ尊い義務なのです。しかし、日本では「取られる」仕組みになっています。

 また、税制度は民主主義と深くかかわります。アメリカ独立戦争は、母国イギリスが行った不当な課税への反対から起きました。民主主義の観点からも、国民が意識しないところで増税が勝手に進められることはあってはなりません。

 民主主義と自由を守るためにも、日本では納税額が意識しにくい仕組みになっていることを理解したうえで、増税の動きに目を光らせることが大切といえます。

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