老齢年金の支給開始年齢の引上げ

 現役世代の公的年金負担を限度内に収めるためには、公的年金給付費を削減せざるを得ない。その方法としては、給付水準の引き下げよりも支給開始年齢の引き上げの方が、雇用が確保されるならば望ましい。公的年金は、高齢等により勤労収入を得られなくなった場合に生活費を確保するものであるから、より高齢まで就業できるようになれば、その年齢まで支給開始年齢を引き上げても公的年金の機能は損なわれない。また、就業者の増加に伴い、被保険者の増加による保険料率の軽減も見込めるためです。

 平均寿命は、1965年に男性67.74歳、女性72.92歳だったものが、2014年には男性80.50歳、女性86.83歳と12~14年も伸びている。

財務省が検討をしていた「67歳案」とは

 まず、平成16年の年金制度改革で、国民年金・厚生年金などすべての年金支給開始年齢を、2025年度以降、これまでに決まっていた「65歳支給」から「67歳支給」へと2歳引き上げるというものであった。この結果、長期的には年間数兆円の財政負担が軽減できるものと見られていた。

 根拠としては、平均寿命で2050年時点で男性 85.95歳、女性 89.22歳となり、65歳支給開始を続ければ、2年分の給付が年金財政の負担となる。年金保険料や税金で国民に負担が跳ね返るのを防ぐため、67歳支給開始が避けられないとの見方であった。

 ところで、サザエさんに出てくる磯野波平さんの年齢をご存知でしょうか? サザエさんの時代は、高度経済成長期。波平さんやマスオさんは正社員として働きに出て、お母さんは専業主婦。磯野家も3人姉弟妹であるように、人口ピラミッドも三角形であった。そして、波平さんの年齢は、なんと54歳。あの時代の54歳は波平さんのように年老いていて、55歳ころ定年を向かえ、60歳から年金生活に入るという時代だったのです。しかし、今の日本の54歳はもっと若々しい。より長く社会で活躍し、社会を支えることが可能になっている。テレビの設定では54歳の波平さんの姿は、現代の日本で言えば、65歳から70歳くらいの男性に見えるのではないでしょうか。

 

 政府は老齢年金の支給開始年齢の68歳への引上げを検討しているようです。団塊ジュニアの世代には70歳からになるよう画策しているのでしょう。

 現在、65歳が支給年齢となっている国が多いのですが、ドイツ、イギリス、アメリカなどの国では、段階的に67歳や68歳へと引き上げ中です。

 「受給開始年齢」の再引き上げ計画が本格的に動き出した。2014年(平成26年)10月10日、政府の社会保障制度改革推進会議で、清家篤議長が現在65歳の受給開始年齢について「引き上げることもありえる」と宣言した。  

 政府は2019年に行なわれる財政検証までに68歳に引き上げることを画策しています。

 清家委員が平成23年5月30日に集中検討会議に提出した資料のなかで可能性が高いのが、「厚生年金について、現在の65歳への引上げスケジュールの後、さらに同じペースで68歳まで引き上げ。併せて基礎年金についても68歳まで引上げ」というものです。

 男性で昭和36年4月2日以降生まれの方が老齢年金支給開始が2026年に65歳からとなっておりますが、これでいくと、昭和38年4月2日~40年4月1日生まれが66歳からになりそうです。昭和40年4月2日~42年4月1日生まれが67歳から、昭和42年4月2日以降生まれからは68歳になりそうです。

 さらに70歳に引き上げようとしています。

 68歳まで引上げと言っていますが、この流れで男性でいうと、昭和42年4月2日~44年4月1日生まれが69歳から、昭和44年4月2日以降生まれからは70歳になりそうです。

 女性は5年遅れで、現在のスケジュールでは2030年から昭和41年4月2日生まれの女性が65歳からとなっていますが、今後男性と足並みを揃える可能性が高い。5年に1度の財政検証が2019年予定されておりまして、ここで方向性が明らかになると思います。

 厚生労働省が年金の支給年齢を70歳に引き上げようとしていますが、そのターゲットは団塊ジュニア世代だからです。団塊ジュニアの定義は、日本において1971年から1974年までに生まれた世代のことで、第二次ベビーブーム世代とも呼ばれます。   

 「65歳→70歳」が実現すれば、厚生年金加入者の場合1人当たりおよそ1000万円の年金カットとなる。これが狙いでしょう。

 そこで、今回は支給開始年齢が70歳になったとして、払い込んだ保険料総額と受ける年金総額が一致する年齢が いつ なのかを検討してみようと思います。

 なお、複雑を避けるため、例では平成30年4月に20歳になった人、つまり平成10年4月生まれの人とします。

 マクロ経済スライド(年金額の改定を、平均賃金の上昇や物価の変動率だけでなく、年金財政を支える現役の人数の減少率、年金を受ける高齢者の増加(平均余命の伸び)を控除させようというもの)により、現在の給付水準は現役世代の給与水準の60%程度(モデル世帯:夫40年厚年40年・妻専業主婦で)ですが、年金額の伸び率を抑制することで2035年度までに50.2%になるまで低下させることにしています。よって、単純化して、現在の計算上の年金額に ×50/60 として将来に合わせることとしました。

ケースA
 20歳~60歳までの40年間国民年金保険料納付した方  年金支給開始 70歳

 ・納付保険料総額  16,340円 × 480月 = 7,843,200円
 ・1年間の年金額  779,300円 × 50/60 = 649,400円
 ・払い込んだ保険料総額に一致する年金額の年数 A
    7,843,200円 = 649,400円 × A
    A = 12.1年

  70歳支給開始年齢になると、82歳より長生きしないと モト を取れないということです。

ケースB 
 20歳~60歳までの40年間国民年金保険料納付した方  年金支給開始 65歳

 払い込んだ保険料総額に一致する年金額の年数 は上記 ケースA と同一で 12.1年

  これまでのように65歳支給開始年齢では、77歳で モト を取れることになります。

ケースC 
 23歳から65歳まで42年間厚生年金保険料を納付した方  年金支給開始 70歳

  平均標準報酬額 30万円  厚生年金保険料 27,450円 を504月納付とした

 ・納付保険料総額  27,450円 × 504月 = 13,834,800円
 ・1年間の年金額  
    老齢基礎年金  779,300円 × 50/60 = 649,400円
    老齢厚生年金  300,000円 × 5.481/1000 × 504月 × 50/60
            = 690,606円 *
      *現在の老齢厚生年金の年金額の計算は
        平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 被保険者期の月数
    合計額  1,340,006円

 ・払い込んだ保険料総額に一致する年金額の年数 C
    13,834,800円 = 1,340,006円 × C
    C = 10.3年

  70歳支給開始年齢になると、80歳より長生きしないと モト を取れないということです。

ケースD 
 23歳から65歳まで42年間厚生年金保険料を納付した方  年金支給開始 65歳

  払い込んだ保険料総額に一致する年金額の年数 は上記 ケースACと同一で 10.3年

  これまでのように65歳支給開始年齢では、75歳で モト を取れることになります。

ケースE 
 23歳から70歳まで47年間厚生年金保険料を納付した方  年金支給開始 70歳

  平均標準報酬額 30万円  厚生年金保険料 27,450円 を564月納付とした
 ・納付保険料総額  27,450円 × 564月 = 15,481,800円
 ・1年間の年金額  
    老齢基礎年金  779,300円 × 50/60 = 649,400円
    老齢厚生年金  300,000円 × 5.481/1000 × 564月 × 50/60
            = 772,821円 
    合計額  1,422,221円
 ・払い込んだ保険料総額に一致する年金額の年数 C
    13,834,800円 = 1, 422,221円 × C
    C = 9.7年

  70歳支給開始年齢になると、79歳や80歳より長生きしないと モト を取れないということです。

 

 ところで、 最近、ニュースを見て年金の受給が65歳から75歳になってしまうと心配している方が大勢おられますが、これは勘違いです。老齢年金の繰下げ制度というのがあります。今の年金制度の中に、普通は65歳から貰う年金を最大70歳まで遅らせる事により、65歳から貰うはずの年金を最大この5年間(60ヵ月)で42%増額させることができるものです。65歳以降1ヵ月遅らせるごとに0.7%ずつ年金が増えていく。この最大70歳まで遅らせられる「繰下げ制度」を75歳まで出来るようにしたらどうかという話なのです。

詳しくは こちら

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