過去の偉人のエピソード

 どれだけ社会が便利になっても、機械に振り回されることなく、心を練り、魂を成長させていくことが大切です。過去の偉人たちがいかにして心を練り上げていたのか。ここで、佐藤一斎、新渡戸稲造、安田善次郎の言葉やエピソードを引用してみます。

参考

3度の食事で体を養うように心を養う

 江戸時代の儒学者・佐藤一斎は、明治維新の志士たちに読み継がれてきた名著『言志四録』の中で以下のように指摘しています。

 「生き物は養わなければ死ぬ。心は自分の中にある一番大切な生き物であるから、これを最も養わなければならない。どうすればいいか。物事の道理に照らして各自の心を見る以外に方法はない」

 1日3回食事をとるように、日々、物事の道理に照らして心を見つめる。それが積もり積もって立派な人物を築き上げると。

 また、一斎は、志さえあれば邪念は湧き出てこなくなると指摘しています。

 「つまらないことを考えたり、外部のことで心を動かしたりするのは、志が立っていないからである。一つの志をしっかり立てれば、さまざまな邪念は退散する。それは清らかな水が湧き出ると、外からの水が混入できないことに譬えられる」

 一斎は、40年もの歳月をかけて『言志四録』を書き上げました。著書の中では、聖人のたとえがよく引き合いに出されています。『言志四録』とは「聖人になるための思想」なのです。

 一斎の教えを学んだ維新の志士たちの活躍からも、器が広く学徳、見識の優れた「聖人」を目指すことの重要性が分かります。その高潔な志や理想が明治維新を起こしたわけです。一斎の感化は後世にも及んでいる。新渡戸稲造も影響を受けた一人でした。

 

修養のある人は平凡に見えて非凡

 明治から昭和初期にかけて教育思想家として活躍した新渡戸稲造は、著書『修養』の中で一斎の言葉をたびたび引用し、修養の大切さを切々と説いています。

 例えば、日々の修養を行っている人の言動が一見平凡に見えても、非常事態にその非凡さが明らかになる。修養を続けることで、自ら省みて潔しとし、いかに貧乏しても心の中では満足し、いかに誹謗を受けても自ら楽しみ、いかに逆境に陥ってもその中に幸福を感じ、感謝の念を持って世を渡ろうとする人になれるというのです。

 新渡戸の特徴は、実体験を基にした具体的なアドバイスを行っていることにあります。例えば、「志を立てても継続できない」という悩みは万人が抱えるものでしょう。そうした場合、どうしたらよいのでしょうか。

 「年一回ぐらいでなく、毎月、毎日、もしくは一日中に三度も四度も、自分の発心に注意しなければ、勢いそれは鈍くなりやすい。『習慣は第二の天性なり』と言うが、毎日、幾度となく発心に注意すれば、発心を継続することができる。最も必要なことは、常に発心を忘れないように心に掛けて、記憶することであると思う」(『自分に克つための習慣』)

 自らを「平凡」だと称する新渡戸も、若いころはアメリカの政治家ベンジャミン・フランクリンの「13の徳目」を参考に徳目を定めて実行していたようです。新渡戸の周りには人生論に関わるアドバイスを求める若者が絶えませんでした。 

 

大富豪になった後でも勤倹貯蓄

 江戸から明治にかけて活躍し、旧安田財閥をつくった安田善次郎は、「勤勉」と「倹約」を合わせた「勤倹」を大切にしました。

 「ただ自分がやってきたのは、他人が贅沢をし、栄華を極めるときに、私はその真似をせず、淡々と馬鹿正直に、真面目にやるということである。勤倹とは、単に金銭のために言うのではない。結局は自己の欲を制するということに帰するのである」(『大富豪になる方法』)

 安田は生涯を通して2つの誓いを立てていました。一つは、どんな場合でも嘘を言って自分の一時の都合を図り他人に迷惑をかけないこと。もう一つは、どんなことがあっても身分不相応な生活はしないことです。

 この誓いの目的は、独立心と克己心を養うためでした。一見簡単そうに見える誓いですが、並々ならぬ努力の末に大富豪となった安田にとって、「勤倹貯蓄」を一生実行することは容易ではありませんでした。しかし、徐々に習慣として知らず知らずのうちに実行することでやり遂げたのです。並外れた自制心がなければできないことでしょう。

 安田は倹約家である一方で、慈善事業や公益事業にはとても熱心であり、かつ、篤い信仰心も持っていました。こうした事業家が日本の屋台骨を創ったという事実は驚きでもあり、感動的でもあります。

 

 3人に共通しているのは、形は違えど、精神修行を行っている点です。その遺した言葉やエピソードから、「大きな仕事をする原動力は、最終的には心の力」だということが分かります。

 心の力の使い方が上達すればするほど、人生も好転していきます。そのためには、一定の時間を取り、読書をして、偉人たちの生き方や心の使い方を学ぶことが重要です。

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