量子力学が創り出す不思議な世界

参考・引用

ミクロ世界と量子力学

 物質は分子・原子からできています。その原子は、さらに小さく分けることができます。その原子は、電子・陽子・中性子からできています。陽子と中性子はさらにクォークという粒子からできています。クォークは物質の最小単位の一つと考えられており、このような粒子のことを物理学では素粒子と言います。他に、我々に最もなじみの深い素粒子として電子と光子をあげることができます。光子は電子と電子との間で交換されて電磁力の担い手にもなります。

 このようなミクロの世界を記述する力学を量子力学と呼んでいます。これに対比するものとして古典力学があります。わざわざ量子力学を持ち出さなくてもすむ世界を記述するのが古典力学です。

 素粒子をはじめとしてミクロ世界の粒子は、古典物理学では説明ができない不思議な性質を持っています。その一つが、2つ以上の状態の重ね合せです。

 私たちは、電子を負の電荷と極めて小さな質量とを持った実体として教わっています。しかし、電子はこの他にスピン自由度というものを持っているのです。このスピンこそ極めて量子力学的な量であり、古典的な理解が成り立たないものなのです。スピンは状態という言葉を用いて記述します。電子のスピンは半整数の1/2であることが実験的に分かっていて、このスピン1/2をもった電子の基本的な「スピン状態」は2つあり、しばしば「上向き」と「下向き」というように言い表されます。ここで、「上向き」「下向き」というのは便宜上使っているだけであり、2つの状態にラベルを付けただけのものです。

 1つの電子は、同時にこの「上向きスピン」と「下向きスピン」の両方の状態を持つことができる。これを電子が「上向きスピン状態」と「下向きスピン状態」の重ね合わさった状態にあるといいます。これが量子力学のいう重ね合わせの一例です。観測するまではどちらの状態にあるのかは分かりませんが、観測することで、重ね合わせ状態からどちらかの確定した状態へと変わります。この変化を「状態の収縮」と呼びます。

 この状態の重ね合わせという概念は理解しがたいもので、量子力学建設の立役者であったシュレーディンガー自身による「シュレーディンガーの猫」という有名なパラドックスを生んだほどです。

シュレーディンガーの猫

観察するという行為が観察される行為に影響を与える

量子力学の非局所性

 さらに、この重ね合わせの真の不思議さは2つの粒子の重ね合わせにおいて決定的になります。それが量子もつれ(量子エンタングルメント)という状態です。これは、1粒子の重ね合わせが2つペアになった状態の特別な場合です。たとえば、ペアになった粒子Aと粒子Bのそれぞれのスピンの向きが「Aが上向き・Bが下向き」と「Aが下向き・Bが上向き」との重ね合わせ状態を形成している場合です。このような場合、一方の粒子を観測してその状態が分かれば、もう一方の粒子の状態は観測するまでもなく、決まってしまうのです。たとえば、Aが下向きだと観測されれば、その瞬間Bは上向き状態に決まります。これは状態の瞬間収縮により瞬時に起こります。

 エンタングルメントの関係にある2つの粒子は、どんなに離れていても、この性質を示します。しかも、これは一瞬で起きるため、2つの粒子の間に何かの作用を伝達するような粒子がある、というわけでもありません。何光年と離れていても一瞬で伝わるのですから、もしも何らかの粒子が媒介しているのであれば、その粒子は光の速度を超えていることになり、現在の理論では説明ができません。この量子エンタングルメントによる粒子間の遠く離れた相関を予言する量子力学の性質のことを「量子力学の非局所性」といいます。

 

天才も困惑した想像を超える世界

 量子エンタングルメントによる量子力学の非局所性は、今でこそ実験によってその正しさが確かめられていますが、その概念の基になったアイデアは量子力学を否定する目的で考え出された思考実験が発端というのですから皮肉なものです。  その思考実験は当初「EPRパラドックス」と呼ばれていました。EPRとは、この思考実験を提唱した、アインシュタイン(Einstein)、ポドルスキー(Podolsky)、ローゼン(Rosen)の3人の名前の頭文字をとって名づけられました。  

 彼らのオリジナルのEPRパラドックスは、スピンエンタングルメントとは少し違った思考実験にまつわるパラドックスですが、本質的なことは同じです。アインシュタインは、エンタングルメントによる非局所相関が本当にあるとすれば、エンタングルメントの関係にある2つの粒子が、光速度を超えた相互作用を持つことになり、因果律が破れ、また、彼自身の相対論と矛盾するので許せなかったのかも知れません。  アインシュタインは、「自然の事象が本質的に確率的である」ことを主張する量子力学の基本的な考え方に対して強い疑問を抱き、「神はサイコロを振らない」と量子力学を否定しつづけたと言われています。  相対論をはじめ、量子論にも多くの業績を残した天才物理学者でも間違えることがあるのです。量子力学が描く世界というのは、それほど私たちの日常感覚からは理解しにくいものだと言うこともできます。

 

意味のある情報を送るには

 このように、粒子の状態という情報は、どれだけ遠く離れていても光の速度を超えて一瞬で伝えることができます。ところが、この量子エンタングルメントのみで意味のある情報を遠く離れた相手に送ることはどうしてもできないのです。

 今、AさんとBさんがエンタングルメントの関係にある2つの粒子を1つずつ持っていて、アリスが月に、ボブが火星に旅行するとします。そして、2人は目的地に着くと自分の持っている粒子の状態を観測する約束をしているとします。今、Aさんが自分の持っている粒子Aの状態を観測しスピン下向きという結果を得たとします。その瞬間、Bさんが持っている粒子Bの状態は瞬時にスピン上向きだと分かります。ところが、この結果には2つの可能性が考えられます。1つはAさんが先に月に着いて自分の粒子Aを観測しスピン下向き状態を得た。もう1つは、Bさんが先に火星に着いて自分の粒子Bを観測しスピン上向き状態を得たので、すでにAさんの粒子Aのスピンが下向き状態になっていた。この2つの可能性のどちらが起こったのかを知るには、例えば、AさんはBさんに古典的な通信手段(現在の通信手段)で連絡をとる必要があります。このように、この問題を解決する鍵は古典通信にあることになります。つまり、量子エンタングルメントだけでは意味のある情報を伝達することはできません。

 そこで考え出されたのが、3つの粒子を使って量子状態を送る量子テレポーテーションというアイデアです。

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