離婚時の年金分割

 年金分割制度は、離婚等をした場合に、当事者からの請求により、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で分割することができる制度です。将来受け取る年金の額に夫婦で差が出てきます。将来受け取る年金の額の差を埋める制度が年金分割です。

 厚生年金保険料を納めてきた実績(記録)を、離婚する際に、一定の割合で夫婦で分け合うことになります。簡単に言えば、夫が支払った婚姻期間中の厚生年金保険料を、最大で半分まで妻が支払ったと扱って、妻が将来受け取る年金額を計算するという仕組みです。

 年金分割制度が導入された理由は、特に熟年離婚の場合の夫婦間の公平を実現するためです。たとえば、夫婦の片方のみが会社員として働いて収入を得て、もう片方の配偶者が専業主婦(主夫)としてがんばって家事を行っていた場合を考えてみましょう。この場合、年金保険料の支払には夫婦双方が貢献したといえるのに、夫婦の片方のみが厚生年金を全額受給できることは不公平です。このように、片方の配偶者が年金保険料の支払に貢献した以上、その一方、配偶者の年金受領金額に反映させることが公平であることから、この制度が導入されました。

 年金分割制度によって分割が可能なのは年金のすべてではありません。将来受け取る予定の年金金額の2分の1をもらえる制度ではなく、保険料の納付実績の分割を受けるという制度です。つまり、分割ができるのは、「厚生年金と共済年金の報酬比例部分」のみです。国民すべてに加入義務がある国民年金については、分割の対象ではありません。

 また、分割の対象となるのは、それらのうち「婚姻期間」(結婚年数)の部分となります。長ければ長いほど多額となるため、熟年離婚の方にとって重要です。なお、婚姻以前のものについては年金分割の対象とはなりません。

 例えば、夫が結婚と同時に就職し厚生年金に加入したとします。妻は無職で専業主婦のため、国民年金のみとします。離婚した段階で夫の厚生年金が140万円の場合で計算すると、このうちの半分の70万円が妻の取り分として年金分割をします。

 これに対し、結婚前から夫が厚生年金に加入していた場合については、結婚前の分については分割の対象から除外して計算します。また、夫婦共働きの場合は、婚姻期間に夫と妻で形成した厚生年金を一度合算して、それを半分にして分割することとなります。

 

合意分割制度

 婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること。共済組合等の組合員である期間を含みます。

 当事者双方の合意または裁判手続により按分割合を定めたこと。(合意がまとまらない場合は、当事者の一方の求めにより、裁判所が按分割合を定めることができます。) 

 請求期限(原則、離婚等をした日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと。

 また、合意分割の請求が行われた場合、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます。 したがって、3号分割の対象となる期間は、3号分割による標準報酬の分割に加え、合意分割による標準報酬の分割も行われます。

 

合意分割の方法

(1)夫婦間の合意による場合

 年金分割の割合につき、夫婦間の合意が成立した場合には、合意した内容を証明することにより年金分割手続をとることが可能です。

具体的には、

・当事者双方またはその代理人が、年金分割請求時に、合意した内容を記載した書類を年金事務所の窓口に持参する

・合意内容等を明らかにした公正証書の謄本もしくは抄録謄本または公証人の認証を受けた私署証書を添付する

のいずれかの方法によることになります。

 夫婦間の協議によって合意ができない場合は、家庭裁判所における調停や審判・離婚訴訟における手続によって決定することになります。

(2)調停による場合

 夫婦関係調整(離婚)調停に付随して、按分割合を定めることができます。離婚成立後も、按分割合を定める調停の申立をすることができます。

(3)審判による場合

 年金分割についての合意ができていない場合に申し立てることができます。按分割合を定める調停を申し立てたけれども、不成立で終了した場合には、審判手続に移行することになります。

(4)離婚訴訟における附帯処分の手続

 離婚訴訟において、「附帯処分」というかたちで付随して年金分割の分割割合を決定するよう請求することができます。

 

3号分割制度

 平成20年4月以降の第3号被保険者期間について、離婚した際に、第2号被保険者の厚生年金の被保険者保険料納付記録を自動的に半分に計算され分割できるという制度です。

 平成20年5月1日以後に離婚等をし、以下の条件に該当したときに、国民年金の第3号被保険者であった方からの請求により、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度です。

・婚姻期間中に平成20年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること。共済組合等の組合員である期間を含みます。

・請求期限(原則、離婚等をした日の翌日から起算して2年以内)を経過していないこと。

 なお、「3号分割制度」については、当事者双方の合意は必要ありません。自分だけで手続きを進めることができます。

 

合意分割

3号分割

離婚日

平成19年4月1日以後

平成20年4月1日以後

夫婦間の合意

按分割合(分割することおよび分割割合)について合意が必要

合意ができないときは裁判に分割割合を決定してもらう

合意は不要

分割対象期間

婚姻期間(平成19年4月1日以前も含む)

平成20年4月1日以降の婚姻期間のうち、第3号被保険者であった期間(特定期間)は自動的に分割される

分割割合

夫婦の標準報酬の合計の50%が上限

国民年金の第2号被保険者の標準報酬を、第3号被保険者だった者に2分の1を分割する

請求期限

原則として、離婚日の翌日から2年以内

原則として、離婚日の翌日の2年以内

対象者

両当事者

第3号被保険者だけでなく、第1号被保険者、第2号被保険者でも可能

平成20年4月1日以降の婚姻期間のうち、第3号被保険者の期間がある方のみ

 

障害年金との関係

1 障害厚生年金受給者が分割させられる場合

合意分割

 事者の合意の上で分割ができます。

 障害厚生年金の受給額が減額改定されます

3号分割

 基本的に分割はできません。 ただし、障害認定日後の期間のみの分割請求は可能です。

2 障害厚生年金受給者が分割を受けられる場合

 合意分割、3号分割とも可能です。

 障害厚生年金の金額が増額改定されます。障害厚生年金の年金額は、障害認定日までの厚生年金加入月数で年金額を計算します。その期間が300月以上であれば実納付月数で計算しますが、300月数に満たない場合、300月に切り上げて(300月とみなして)障害厚生年金額を計算しますが、「300月みなし」で計算された障害厚生年金を受給している者に対しての分割請求は認められません。

 

 年金分割を検討するときに、障害年金との関係で注意が必要な点があります。

 年金分割には合意分割と3号分割の二種類がありますが、年金分割を請求される配偶者が障害年金を受給していると、3号分割ができないことがあるのです。それは、平成20年4月1日以降に、障害年金支給のための障害認定日がある場合です。この場合、年金分割がされてしまうと、障害年金額の基礎となる報酬総額を分割(減額)することになるため、障害厚生年金の受給額が減ることになります。3号分割は、一方当事者の意思で強制的に年金分割をする制度ですから、結局、強制的に障害厚生年金の受給額が下がることとなってしまうのです。病気やけがによる年金である障害年金の制度趣旨からすれば、強制的に受給額が下がるのは望ましくないため、この場合の3号分割はできないのです。もっとも、障害年金の受給額が下がる当事者の合意があるのであれば、受給額を低下させないことにこだわる必要はありませんから、この場合でも合意分割は可能です。

 障害年金の性質は、障害基礎年金・障害厚生年金問わず同様ですから、いずれの障害年金も財産分与の対象とはなりません。もっとも、既に受給した障害年金が給与等と区別されて保管されていれば判別可能ですが、民法上、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、共有財産(財産分与の対象)と推定する規定もある。

 障害年金はその障害の状態の程度に応じて支給されるものであり、一方配偶者が年金を受給するについて、他方配偶者の寄与があるということはできない。

 財産分与は婚姻生活中に夫婦それぞれの協力や貢献によって得られた財産を、それぞれの寄与分を考慮して清算するものです。そのため、基本的には財産を形成する過程で両配偶者が貢献している財産のみが、財産分与の対象となります。これに対して、障害年金は、病気やけがが原因で、法令により定められた障害等等級表による障害の状態にある場合、その期間年金が支給されるものです。つまり、障害年金は夫婦間の協力関係とは無関係に、病気やけがにあるということから支給されるものであって、財産分与になじみません。障害年金は財産分与の対象とはならないと判断した裁判例もあります(東京高裁平成12年3月9日判決)。

 離婚分割が既に行われた後に障害厚生年金の遡及請求が認められた場合はどうなるのでしょうか? 合意分割には影響はありません。しかし、3号分割は本来できないはずの分割を行ったことになります。このような場合、年金分割でいう特定期間の全部又は一部が障害厚生年金の計算の基礎となる期間と重複することが生じます。取扱いとしては、3号分割は一旦取消しされ、改めて特定期間と重複しない期間のみ再度改定されます。

 

年金分割の流れ

〇「年金分割のための情報通知書」を入手する

 年金分割は、結局は双方の話し合いで決めることとなります。そこで、まずは今現在の保険料納付記録を調べることから始めます。

 どのくらいの割合で年金を分け合うのか決めるために、「年金分割のための情報通知書」という書類を手に入れます。この書類を手に入れると、配偶者の「標準報酬総額」がわかります。標準報酬総額とは、婚姻期間中の配偶者の給与と賞与の合計額です。厚生年金保険料は、報酬額がいくらかによって変わるので、標準報酬総額を知ることで、配偶者がこれまでいくら厚生年金保険料を納めたかがわかります。夫婦の双方または一方からの請求で保険料納付記録を請求することができます。そのため、相手方が年金額を開示しない場合でも、情報提供請求によって得られる「情報通知書」で知ることができます。

 また、50歳以上の人は、希望すれば、通知書とともに「年金分割をした場合の年金見込額」に関する書類も交付してもらうことができます。年金分割をした場合に将来どのくらいの年金を受け取れるかがわかるので、請求するとよいでしょう。

 情報提供請求を行うための必要書類は以下の通りです。

 ・請求者の年金手帳 または 基礎年金番号通知書

 ・戸籍謄本、それぞれの戸籍抄本等、婚姻期間等を明らかにできる書類

 ・事実婚・内縁の妻、夫を証明したい場合、世帯全員の住民票の写し、戸籍の付票等その事実を明らかにできる書類

 なお、一方のみが情報提供請求をした場合、すでに離婚している時は請求をしていない相手方に対しても同じ情報を提供します。離婚する前の場合は請求者のみに情報が提供されます。

 

〇按分割合について任意の話し合い

 取り寄せた情報提供通知書をもとに、どのように年金分割をするのかについて話し合います。

 夫婦で、年金分割をするかどうか、どのくらいの割合で分割するかを話し合います。

 合意できたら、年金分割をすることに合意したという文言や、分割の割合、自分と配偶者の氏名、基礎年金番号、生年月日などを記載した合意書を作ります。内容を法的な書面である公正証書によって合意書を作成するのが望ましい。

(年金分割の公正証書への必須記載事項)

 ・夫婦それぞれの氏名、生年月日

 ・それぞれの基礎年金番号

 ・年金分割について双方で合意した旨

 ・合意した年金分割の按分割合

 

話し合いで分割できない時

 年金分割の按分割合について、話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所における家事調停手続、家事審判手続により按分割合の話し合いを行います。また、場合によっては人事訴訟手続を利用することもあります。調停を申し立てた場合は、調停委員が双方の間に入って和解できるよう調整を手伝ってくれます。

 なお、裁判所で年金分割の按分割合に合意した場合は、調停調書が作成されるため、公正証書の作成は不要です。そのまま年金分割の請求をすることとなります。

 

〇年金分割の手続

 請求者の現住所を管轄する日本年金機構(年金事務所)に標準報酬改定請求書を提出して請求します。

合意分割請求の必要書類

① 請求者の年金手帳 または基礎年金番号通知書

② 婚姻日、離婚日がわかる書類(戸籍謄本、戸籍の抄本、全部事項証明書又は個人事項証明書) 請求日前1ヵ月以内に作成されたものです。

  戸籍謄本では、戸籍の筆頭者側の分です。

③ 当事者の生存を証明できる書類(戸籍の抄本、世帯全員の住民票など) 請求日前1ヵ月以内に作成されたものです。

 ②、③について、元夫側の「戸籍謄本」、妻側の「戸籍抄本」または「世帯全員の住民票」という組み合わせが一般的です。

 ②、③について、令和1年7月より、② 婚姻日、離婚日がわかる戸籍謄本があれば、③の書類は不要となりました。

④ 事実婚期間がある場合は、その事実を明らかにできる書類(世帯全員の住民票、戸籍の付票等)

⑤ 年金分割の按分割合が記載された書類

ア)当事者間の話し合いにより、年金分割の割合を定めたとき

 「年金分割の合意書」に、年金分割をすること および案文割合について合意している旨を記入し、二人が署名します。

 当事者二人そろって、または、代理人とともに年金事務所に起こしいただくこととなります。

 当事者は、運転免許証、パスポート、個人番号(マイナンバー)カード、住民基本台帳カード(または印鑑登録証明書とその印鑑)等をご持参ください。

 代理人が年金事務所に来所する場合は、ご本人の印鑑登録証明書の添付が必要となります。「委任状(年金分割の合意書請求用)」にご本人の記名および押印をいただきますが、印鑑登録に係る印鑑での押印をあらかじめいただいてください

   委任状(年金分割の合意書請求用)はこちら → (PDF)

 さらに、年金事務所指定の 委任状 も必要です。本人の記名および押印をいただいてください。  

    委任状様式はこちら → 委任状(PDF)

 この委任状に押印した本人の印鑑を持参してください。

 代理人においても、運転免許証、パスポート、個人番号(マイナンバー)カード、住民基本台帳カード(または印鑑登録証明書とその印鑑)等を身元確認のできるものをご持参ください。

 なお、按分割合や分割改定の請求についての当事者間の合意が記載された・公正証書の謄本 もしくは抄録謄本 または、・公証人の認証を受けた私署謄本 による場合は、当事者二人でなく、一方での手続きが可能です。

イ)裁判所による手続きにより、年金分割の割合を定めたとき

・審判(判決)の場合・・・審判(判決)書の謄本または抄本および確定証明書

・調停(和解)の場合・・・調停(和解)調書の謄本または抄本

 審判または調停の申立てをした日を称する証明書(裁判所が発行する証明書)が必要となるときがあります。

 これらでは、当事者二人でなく、一方での手続きが可能です。

3号分割請求の必要書類

① 請求者の年金手帳 または基礎年金番号通知書

② 婚姻日、離婚日がわかる書類(戸籍謄本、戸籍の抄本、全部事項証明書又は個人事項証明書)

  戸籍謄本では、戸籍の筆頭者側の分です。

③ 請求日前1ヵ月以内に作成された当事者の生存を証明できる書類(戸籍の抄本、世帯全員の住民票など)

 ②、③について、元夫側の「戸籍謄本」、妻側の「戸籍抄本」または「世帯全員の住民票」という組み合わせが一般的です。

 ②、③について、令和1年7月より、② 婚姻日、離婚日がわかる戸籍謄本があれば、③の書類は不要となりました。

④ 事実婚期間がある場合は、その事実を明らかにできる書類(世帯全員の住民票、戸籍の付票等)

 3号分割のみ請求の場合は、二人の合意は必要ありません。第3号被保険者であった方からの手続きにより年金分割ができます。

 

分割請求の期限

分割請求期限の原則

 分割請求の期限は、原則として、次に掲げる事由に該当した日の翌日から起算して2年以内です。 (1) 離婚をしたとき、(2) 婚姻の取り消しをしたとき、(3) 事実婚関係にある人が国民年金第3号被保険者資格を喪失し、事実婚関係が解消したと認められるとき

 (注)事実婚関係にある当事者が婚姻の届出を行い引き続き婚姻関係にあったが、その後(1)または(2)の状態に該当した場合、(1)または(2)に該当した日の翌日から起算して2年を過ぎると請求できません。

分割請求期限の特例  

 次の事例に該当した場合、その日の翌日から起算して、1ヵ月経過するまでに限り、分割請求することができます。

・離婚から2年を経過するまでに審判申立を行って、本来の請求期限が経過後、または本来請求期限経過日前の1ヵ月以内に審判が確定した

・離婚から2年経過するまでに調停申立を行って、本来の請求期限が経過後、または本来請求期限経過日前の1ヵ月以内に調停が成立した

・按分割合に関する附帯処分を求める申立てを行って、本来の請求期限が経過後、または本来請求期限経過日前の1ヵ月以内に按分割合を定めた判決が確定した

・按分割合に関する附帯処分を求める申立てを行って、本来の請求期限が経過後、または本来請求期限経過日前の1ヵ月以内に按分割合を定めた和解が成立した

 分割のための合意または裁判手続きによる按分割合を決定した後、分割手続き前に当事者の一方が亡くなった場合は、死亡日から1ヵ月以内に限り分割請求が認められます。(年金分割の割合を明らかにできる書類の提出が必要です。)

 

〇標準報酬改定請求書にもとづいて改定

標準報酬改定請求書に基づいて、日本年金機構が按分割合に基づいて、当事者それぞれの保険料納付記録の改定を行います。改定をした後の保険料納付記録が当事者双方に通知されます。

年金は大丈夫?