余剰次元モデル

 重力がほかの力に比べてこんなに非力なのはなぜなのか。リサ・ランドール教授のモデルでは、私たちが知る4次元時空を1枚のブレーン、つまり、膜のようなものと考える。そして、私たちのブレーンでないもう1つのブレーン「並行宇宙(パラレルワールド)」が存在し、その間に、「第5の次元」が広がっている。むしろ、「第5の次元」の中に2つのブレーンが浮かんでいるというイメージである。私たちのブレーンは重力子がまばらにしか存在しないが、もう1つのブレーンは重力子が密に存在する。そして、重力子だけが第5の次元を伝わり、2つのブレーンの間を行き来している。余剰次元の方向に、時空の幾何が歪曲していることを示している。イメージとしては、こちらの広い入り口からもう1つのブレーンの入り口に向かい、道が狭くなっている感じである。第5の次元の曲がりは重力の強さを変化させる働きをもつ。結果として、私たちのブレーンでは重力が弱くなり、もう1つのブレーンでは重力が強くなるといった状況が生じうることを、このモデルは示している。

 このモデルには、2つの大きな特徴がある。一つは、私たちのブレーンだけでなく、もう1つのブレーンである「並行宇宙」を想定している点である。もう一つの特徴は、ランドール教授自身の言葉 を借りれば、「第5の次元がワープ(歪曲)している」点である。アインシュタインが「重力は4次元時空の曲がりである」と述べた時の「曲がり」と同じ意味である。

 「モデル構築」は、電磁気力、強い力及び弱い力を統一的に説明できる従来の標準モデルを基礎として、4つの力のうちの残る重力を取り込んでいこうとする在来型の理論である。

 ランドール教授は、従来の標準モデルは良く機能していると評価している。電磁気力、強い力、弱い力についての質量と荷重は、高い精度で検証済みで、どのようにして真空が電弱対称性を破り、WZのケーシーボソンに質量を与え、クォークとレブトンにも質量を与えるかを証明済みである。ところが、重力の場合と同様に、ヒッグズ粒子については、ウィークボゾンの質量が16桁も低いということを説明できないという「階層性問題」がある。これは、なぜプランク・スケールのエネルギーが、ウィーク・スケールのそれよりもはるかに大きいのかという疑問である。これについては、超対称性粒子か、あるいは余剰次元にエネルギーが漏れていくようなことでも考えない限り、説明がつかないという。その余剰次元で動く粒子を4次元モードで見たものが、カルツァー・クライン粒子である。その性質を知るということは、余剰次元についての知見が得られるということであるが、これが実在するとすれば、余剰次元の数は、10-17センチよりも大きいことはないと考えられてきた。ところが、最近、この余剰次元はもっと大きいのではないかという説がいくつか出てきた。従来の標準モデルは、4次元時空(ブレーン)を説明するものであるが、宇宙には、そうしたブレーンがいくつもある。そのような 2つのブレーンに挟まれた5次元時空があるとすると、空間が強烈に曲がり、それでもって自動的に階層性問題が解決されるというのである。標準モデルの粒子は、4次元時空の3次元にしか広がらないが、ひも理論と同様に、重力はブレーンに閉じこめられないので、5次元バルクの至るところに広がる。しかし、この5次元の世界も、それ固有のエネルギーをもっていて、それが時空を強烈に曲げて(歪曲)いる。そして、この5次元の世界において、重力も含めた4つの力を大統一できるかもしれないというのである。これが階層性問題を解決した「RS1理論」だという。これだと、我々の世界に4次元時空に次いで、もう一つの4次元時空を考えなくてはならないが、その次の局所集中した重力のモデルである「RS2理論」では、それが要らなくなった。5次元時空、つまり、余剰次元を考えるだけでよく、それは無限にある可能性があるというのである。