ヘルメス思想とキリスト教の思想
『ヘルメス文書』の教えには、様々な宗教や哲学の内容が入りこんでおり、その思想も多岐にわたっています。そのなかでも、イタリア・ルネサンスにおいて、大きなインパクトを与えました。
一つ目は、「神様という存在をどう考えるか」という点です。キリスト教では、神様は唯一の神。つまり一神教です。父なる神、父性を前面に出しています。
一方、ヘルメス思想では、「至高神」という考えを取ります。人間を創った至高の神は、父性だけでなく母性、母なる性質も持っていると考えます。そして、唯一なる神でなく、さまざまな神々の存在も受け入れます。つまり、ヘルメス思想は、中心的な神様への信仰を立てながら、多様な神様の存在を認めます。寛容で多様な価値観を包含しえる思想で、仏教に非常に似ていると思います。
人間は神の一部という人間観
二つ目は、「人間をどう見るか」についての考え方です。
キリスト教では、人間は神様とは隔絶された存在として位置付けられています。旧約聖書の創世記では、人間は神様に逆らい、悪魔の誘惑に惑わされて堕落した、罪深い存在だ、と繰り返し書かれています。
ところが、ヘルメス思想では、人間は神の性質を宿している尊い存在だと強調します。そして、神の性質を磨き出すことによって、神に向かって成長することができる存在だとしています。さらに、「人間は、神様から隔絶された存在ではなく、神の一部だ」という人間観なのです。本当の意味で、人権の尊重の淵源になっているのが、ヘルメス思想なのです。
ヘルメス思想にある神秘性と合理性の融合
三つ目に、ヘルメス思想で特徴的なのは、「相反する概念や考え方を融合していく」ことです。
例えば、天と地、男性と女性、霊魂と肉体など、正反対に位置づけられる考え方や存在は、本質的には一つのもの、あるいは協調し合って何かを生み出すものと捉えようとします。
特に、ヘルメス思想が重視した両極の統合として、「神秘主義と合理主義の融合」があります。キリスト教では、アリストテレスの哲学の影響によって、地上の世界と天上の世界は別々の法則の下にあると、切り分けて考えていました。
一方、ヘルメス思想では、地上も天上界も貫く法則があると考えました。つまり、地上の世界や物質を探究することが、聖なる天上界の解明にもつながる尊いことだと考えられため、科学の研究が非常に進んだのです。
こうして、神秘主義と合理主義が融合されたために、医学や天文学、物理学などの発展につながったのです。実際、コペルニクスやガリレオやケプラーもヘルメス思想を研究していました。
ヘルメス思想が復活し、神と人間の魂の絆が復活したというのが、ルネサンスの真相です。ヘルメス思想を学ぶことによって、神から与えられた「人間の本来の力」が花開き、創造と繁栄の原動力となったのです。