孫子の兵法
兵法は、「人間を対象とした術」である。知・情・意をそなえた人間を相手にしたものである。
その応用面の広さ、奥深さは、古典というにふさわしく、現代にもりっぱに通用する普遍的なものといえる。われわれの日本文化と中国の文化は、儒教・仏教・道教に原型を求めることができるが、似て非なるものといえる。それは「孫子」の理解の仕方の違いにも現れている。
「孫子の兵法」とは、中国最古の兵法書である『孫子』に書かれている兵法のことをいいます。
『孫子(そんし)』とは、今から2千5百年ほど前の中国春秋時代の軍事思想家であった「孫武」(そんぶ)が書いたとされる兵法書です。『孫子』は、中国における代表的な兵法書の古典、「武経七書」(ぶけいしちしょ)のうちの一つですが、その中でも最も優れているとされています。
当時は、中国の「春秋戦国時代」とよばれる多数の国家が乱立して戦争が絶えない混乱の時代でした。この時代には、いかにして世の中を治めるか、あるいはいかにして生きるべきか、また、どの思想が正しいのかというなど、さまざまな思想家や学者、学派が生まれ、論戦を繰り返しました。戦争の勝敗は天運に決定されるという考え方でした。孫武はそれに異を唱え、勝敗は運ではなく合理的な理由があることを主張します。そして、勝利を得るための方式を理論化して『孫子』にまとめたのです。
日本には 8世紀に唐から吉備真備が持ち帰ったと言われています。
『孫子』は「負けない」ための兵法 「勝つべくして勝つ」
『孫子』は、一言で言えば、勝つことよりも負けないことを重視した兵法です。戦争では、戦って負ければ多くの人が死に、国は滅びます。勝つことばかり考えていては、命がいくつあっても足りません。だから、まずは負けないこと、負けない準備をすることが大切だと『孫子』は教えています。負けずに命があれば、またリベンジできる。であるから、日々の勝ち負けではなく、最後まで生き抜いて勝つことを示唆している。
目の前の敵を撃破して勝ち続けることばかり考えるのではなく、負けずに最後まで人生の「勝ち」を狙うことが重要です。
「こうすれば勝てる」というような成功法則はあてはまるのでしょうか。「こうすれば負けない」という知恵を身に付けることが、私たちを強くするように思います。『孫子』には、2500年にわたって伝え続けられた「負けない知恵」が著されています。
慎重に計画を立て、勝算がなければ進めてはいけない。無謀な挑戦は命取りとなる。戦争の原則としては、味方が十倍であれば敵軍を包囲し、5倍であれば敵軍を攻撃し、倍であれば敵軍を分裂させ、等しければ戦い、少なければ退却し、力が及ばなければ隠れる。小勢なのに強気ばかりでいるのは、大部隊の捕虜になるだけである。
『孫子』は、戦争を通して人間の生き方や考え方を深く洞察しており、国や企業の運営、リーダーのあり方などのあざやかなヒントになる。戦争だけでなく、企業競争や経済戦争は、人間が引き起こし、人間が遂行するもの。勝つためには、技術の進歩や時代の変化を超えた普遍的な人間学が必要。生き方に迷い、リーダーとして何をすべきかを悩んだ時、『孫子』にはその道をさし示してくれる力がある。
『孫子』は、単に合理的な戦争の仕方を書いた戦争の指南書ではなく、いかに戦うのが人間の道であるかが書かれた人哲学書です。その教えは、実際の戦争だけでなく、ビジネスや人の生き方にも応用することができます。
後世のビジネス理論、マーケティング理論にも多大な影響を与えています。経済的な戦略の意思決定にも使われる「ゲーム理論」や、マーケティングで使われる「ランチェスター戦略」などです。
ランチェスター戦略とは、もともと戦場における戦闘員の消耗度を数理モデルで示したランチェスターの法則を、マーケティングに応用したものです。そこに共通するのは「弱者の戦略」です。
「孫子の兵法」が、戦争のみならず、ビジネスや現場、恋愛、スポーツなどあらゆる競争の局面で応用できる。
「相手を打ち負かす」のではなく、「負けない強い自分」「生き残る体力と知恵」を身に付けることが求められる。
戦わずして勝つ
『孫子』は、自国・自軍を勝利に導くためのノウハウを説いていますが、その前提として、「戦争はできるだけ起こさない、それに越したことはない」と言っています。準備が不十分なため、行き当たりばったりの戦い方になってしまいます。勝つ者は準備の段階で勝てる態勢を整えています。ときにはスパイを使って敵の情報を手に入れ、敵の動きを前もって知っておきます。
負けない準備では、敵よりも戦力が大きくなるまで待ち続け、それまでは戦いを避けることも大事だとされています。
負けない戦略とはいうものの、100回戦って100回勝つことがベストではありません。
孫子の兵法において最善の策とされるのが、戦わずに勝つことです。できれば相手を傷つけず、争わないで勝つ。これが戦略の原則である。
ほかの兵法書が単純に目先の戦いに勝つことを目標とする「戦術」に重きを置いているのに対し、『孫子』は、国家の運営という大所高所から戦争という外交の一手段を俯瞰しているのです。そのキーワードは「情報」です。そういう意味では、現代のビジネスの現場に大変通底するところがあります。「情報を制して、戦わずにして勝つ」 これこそが、現代人が学ぶべき、孫子の最も優れたポイントなのです。
『孫子』は全13篇から成り立っています。最初の3篇「計篇」「作戦篇」「謀攻篇」は、戦う前の準備や心構えについての説明です。次の「形篇」「勢篇」「虚実篇」は、勝利に向けての態勢づくり。あとの7篇は、より実戦的な戦場における軍の動かし方などについて提示しています。
『孫子』は全13篇から成り立っています。最初の3篇「計篇」「作戦篇」「謀攻篇」は、戦う前の準備や心構えについての説明です。次の「形篇」「勢篇」「虚実篇」は、勝利に向けての態勢づくり。あとの7篇は、より実戦的な戦場における軍の動かし方などについて提示しています。
自国と敵国の状況を比較し、勝算を計ることの重要性を説く
⇒ 無謀な戦争はしない
戦争を決断する前に、戦争をすべきか避けるべきか、被害の大きさなどを考える。
外征軍を派遣するために必要な軍費と国家経済の関係について述べる
⇒ 戦争を長期化させない
戦争が長期化しても、国の利益にはならず損失の方が大きい。
実際の戦闘によらず、計略によって敵を攻略すべきことを説く
⇒ 戦わずして勝利を収める
百戦百勝が最善ではない。戦闘をせずに敵を降伏させることこそ最善である。
自軍は不敗の態勢を維持しつつ、敵軍の敗形を待つ。軍の形勢を説く
⇒ 防御を強化し、勝利の形を作る
防御の形を作ると兵力に余裕が生まれるが、攻撃の形を作ると兵力は不足する。 攻撃は機を見て素早く行う。
軍全体の勢いによって勝利に導くことの重要性を説いた
⇒ 兵を選ばず、自軍の勢いを操る
戦闘を開始する際の勢いを、巧みに利用する。
実によって虚をうつための戦術を説いた
⇒ 主導性を発揮する
敵が攻撃できないように、また防御できないように戦う。戦いを思うままに操る。
敵に先んじて戦場に到達する戦術を説く
⇒ 敵よりも早く戦地に着く
回り道をいかに直進の近道にするか。兵士の集中を統一し、敵の気力を奪う。
臨機応変の対処法を説く
⇒ 将は戦局の変化に臨機応変に対応し、危険を予測する
敵に攻められても大丈夫な備え、攻撃させない態勢をとる。
軍の進止や敵情偵察など、行軍に必要な注意事項を述べる
⇒ 戦場では敵の事情を見通す
戦争は兵士が多ければ良いのではなく、集中して敵情を見れば勝利できる。
地形の特性に応じた戦術の運用法と、軍隊の統率法を述べる
⇒ 地形に合った戦術を用いる
優れた将は自軍・敵軍・土地のことをよく考えて行動する。
九種の地勢の特色と、それぞれに応じた戦術を述べる
⇒ 地勢に合った戦術を用いる
最初は控えめに、チャンスができたら一気に敵陣深く侵入する。
火攻めの戦術を述べるとともに、戦争に対する慎重な態度の重要性を説く
⇒ 利益にならない戦争はしない
火攻めは水攻めと違い、物資を燃やし尽くしてしまう。滅んだ国は再興せず、死んだ者は生き返らない。
間諜を用いて敵の実情を事前に察知することの重要性を説く
⇒ 事前に間諜(スパイ)を使って敵情を視察する
敵のスパイもうまく誘って、こちらのスパイにする。
今も通用する「孫子の兵法」 参考