孫子に学ぶ 営業

 マーケティングは成功するための補助的条件である。ライバル企業の戦略、動向を推し量り、市場の参入障壁、顧客ニーズの変化、需給動向、地域特性等に応じて営業戦略を立てるのが経営者の務めである。

『地形は兵の助けなり。敵を料りて勝ちを制し、険易遠近を計るは、上将の道なり。』第十章 地形篇

 地形は、勝利を勝ち取るための補助的条件である。敵の動きを察知し勝算を立て、地形の険しさ遠近に応じて作戦を立てるのは、将軍の務めである。

 

勢いと節目  

 営業活動というものは、常識どおりの正攻法で対応するのが原則です。状況の変化、相手の出方に応じた対応で「イエス」と言わせるものである。営業活動商売の上手い企業は、顧客のニーズ、市場の変化に対応して、臨機応変に常にその方法を変化させることができる。常に新しく、その変化はつきることがない。

 商売の駆け引きは、「押し」と「引き」の二通りであるが、そのタイミングは極めることができないほど難しい。

 営業活動の原則は「勢い」と「節目」である。

 孫子は、「せきかえった水が激しく流れて、石までも漂わせるのが勢いである。」「猛禽がひとうちにして打ち砕いてしまうほどであるのが節目である。」「こういうわけで、戦いに巧みな人は、その勢いは険しく、その節目は切迫させる。」「勢いは石弓を張るときのようで、節目は引き金を引くときのようである。」と語った。

 「勢い」には迫力、熱心さ、自信とかが含まれる。客に決断させるためには、この節目が最も大切である。その場で、決断を促し、時間をおいてはいけない。待ってはいけない。逃げ道を与えないためにも時期を区切る必要がある。

 ただ、「節目」がなければ、目標の設定、結果に対する業績の判断もできない。節目を決めて、反省と新たな決意をする事は、各々個人にとっても大切なことである。

 成功するためには、オーソドックスな方法を基本とし、状況変化に応じ臨機応変な応用的方法を用いらなければならない。

 どうしても受注したい大事な案件があり、競合他社と争っている時は、正攻法として提案内容で互角に戦って、顧客がどちらにしようか迷っている状態まで持ち込み、その後の奇法として、接待をしたり、何かのお祝いの品を贈ったりして、いろんな奇策を繰り出すと効果的です。これを逆の順番で使うと失敗します。正攻法をせずに先に奇法を使ってしまうと、実力も無いのに、いきなりコネを使ったり、怪しい奴だと警戒されて逆効果になってしまいます。

 

敵のことも知り、味方のことも知る

 顧客ニーズや競合の動きをつかみ、自社の対応状況をつかんで、日々その修正を行うことはマネジメントそのものである。

 「彼を知る」とは、顧客ニーズや競合の動きなどマーケット情報をつかむことであり、これが企業経営の出発点となります。そして、つかんだ顧客ニーズに対応し、競合の動きに対抗する自社の営業活動状況をつかんでおくことが「己を知る」ということです。さらに、そのマッチングを日々行う仕掛けを構築します。営業マネジメントの基盤を整備することで、当り前のことを当り前に行える営業組織を作ります。

『彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。』第三章 謀攻篇

 

守りを固めて確実に勝てる戦いをせよ

 「先に守りを固めて、敵の隙を狙うこと」と言っています。つまり、守りが頑丈で負けさえしなければ勝つチャンスはある。守りが肝心だということです。

『先ず勝つべかざるをなして、以って敵の勝つべきを待つ』第四章 軍形篇

 昔の戦いが上手な将軍は、まず誰もこちらに勝てないような態勢を固めてから、敵に隙ができて打ち勝てるようになるのを待った。

 「攻撃は最大の防御なり」という言葉があるが、「孫子の兵法」にそのような教えは無い。戦力互角、あるいは味方が劣っている場合、まず守りを固めよと孫子はいう。経営資源がほとんどない小さな企業でも、資源は皆無ではない。第一に事業主がいる。この事業主が中心となって不足している条件を整備し、徐々に戦える状態を作っていかねばならない。

 事業主に賛同する人が徐々に集まってきて仲間が増え、企業は規模を拡大するわけである。ただ、その後も永遠に成長し続けられるか否かは、これもまた人にかかってくる。

 多くの人に賞賛されるような勝ち方をするものを、多くの者は優れていると思っているが、そうではないと孫子は言っています。名将は勝つべくして勝つのだと。準備をし、情報を集め、勝てるとき、勝てる相手のみと戦うのが名将なのだと言っている。先に敵が攻撃しても負けない備えをしておいてから、敵がミスをしたり弱みを見せるのを待つ。

 ビジネス上でも、どんなに営業成績が良くても、ルールを守らなかったり、マナーが悪すぎるとなかなか信用されない。その為、普段から短所をなくしておくことで、好機が訪れた時、上司や同僚の信頼を勝ち取ることができます。

 孫子は、先に敵から攻められてもいいように、守りを固めた上で敵が弱みを露呈し、攻めれば勝てるような状況になるのを待てと説いた。負けないように守りを固めることは自軍次第で行えるが、勝つかどうかは敵次第の面があるという。

 企業経営で言えば、売上が上がるかどうか、儲かるかどうかという攻めの局面は、自社だけではどうにもならず、景気に左右されたり、顧客次第であったり、競合との兼ね合いで影響を受けることがあるが、潰れないようにする、赤字にならないように備えるという守りの面は、自社の努力次第で固めておくことができるのです。

 景気が悪いから倒産するという場合にも、景気が悪いからと言って、すべての企業が倒産するわけではない。景気が悪くてちょっと売上が下がったくらいで行き詰まるのは、景気が悪くなる前から借金過多であったり、利益率が低かったり、高コスト体質だったり、営業力が弱かったりしたからである。景気が悪くなったことで、そうした弱い部分を補う余力がなくなって倒産するわけである。景気が良かろうが悪かろうが、大丈夫なように、自社の経営を磐石にする努力を継続しておかなければならない。自社の企業体質、収益構造を把握しておくことが大切です。どこでどう利益が出ているのか、なぜそれが実現できているのか、もし、問題があれば、それはなぜなのか、なぜ改善できないのかを知ること。

 自社の体質を把握せず、守りも固めずにいる会社は、売上が伸びることによって傾くことすらある。

 孫子は、守りを固めて地下に潜伏して、攻めの好機が来るのを姿を消して待てと説いている。そして、ここがチャンスと見たら、一気に天高く舞い上がって攻めよと言う。 守りを優先する局面では、自陣、自国を固めるだけだから、兵力にも余裕が生まれやすい。しかし、攻めに転じる場合には、当然戦線が伸びて、兵器や食糧の手当ても必要となり、攻撃によって自軍にもダメージがあるから、兵力、戦力に不足が生じる恐れがある。

 新規事業や新商品、新規エリア開拓など攻めの局面では経営資源が必要となるのと同じこと。人もいるし、金もいる。だから、攻めという積極策よりも、守りを固めて、兵力を蓄えて、来るべき攻めに備えるというのが常道と言える。  負ける理由は社内にある。外部要因はきっかけにはなるけれども、負け(倒産、業績悪化)の原因にはならない。自社のことは自前で手が打てるが、外部の環境や敵のことは思うように動かせない。自力でなんともできないことを問題の原因だと考えてはならない。まずは負けない準備、負けない備えを優先させることである。

 

勝ってから戦う

 孫子は、素人にも分かるようなことをやっていてはプロとして失格であると指摘をした。一流の人間にしか分からないような玄人仕事をせよと。

 孫子は、兵法家が考える優れた将軍は、勝ちやすい相手に勝つ者だという。勝てる相手に勝つことを評価すると言う。そうした有能な将軍は、世間から智将だと称えられることもなく、勇敢だと褒められることもない。

 企業経営者が心すべきは、勝てる戦しかしないということである。自信のある分野、商品に絞って、勝ち戦を重ねることである。営業に行くなら、「お役に立てる」確信の持てる顧客に絞り込んで訪問するべきである。無理に売上拡大、規模拡大を狙わず、強い商品、得意分野、勝てる仕組みにこだわって、小なりといえども、毎期確実に利益を出して、社員や株主にも還元し、しっかり納税もして、内部留保を積み増して行く堅実な経営者こそ、プロが認める優れた経営者である。

 勝つ軍は勝ってから戦う。負ける方は、戦い始めてからどうやったら勝てるかを考えている。負けない態勢を整え、勝つための仕込み、仕掛けをした上で、これなら勝てるというストーリーを描き、勝つ自信が持てれば、戦いに踏み切ることです。

 営業活動において、客先に訪問し、実際に商談に入る前に、勝てる準備、勝てる商談ストーリーを持っていることが重要である。売れる営業マンは、商談前にストーリーがイメージできている。必要な資料の準備もできるし、顧客からの反論にも冷静に対応できる。売れない営業マンは、客先に行ってから、「今日は何かないですか?」「お困りごとはありませんか?」「御社のニーズは何ですか?」と御用聞きをやっている。

 日報も、書けと言われて いやいや書いているだけのことがある。孫子の兵法を活用し営業力を強化するには、日々の日報に、今日どうだったかという結果報告や行動報告を書くだけでなく、次にどうするのか、次回のアプローチはいつにするのか、次はどういう提案をするのかを書くようにする。商談が終わった時点で、常に次回の商談ストーリーを明確にしておく習慣をつける。次の戦いの前に勝つ段取りを考えておくということである。

 

経営に勢いをつけるためには顧客のダムを作る

 孫子は、ダムを決壊させるような勢いを作れと説きました。戦いに勝利する者は、人民を戦闘させるにあたり、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に決壊させるような勢いを作り出す。これこそが勝利に至る態勢であると。

 軍をうまく動かすためには、進むべき道筋や思想を正しく示して、軍制や評価を徹底させなければならない。そのためには、物事を正確に把握する尺度や基準、すなわち、ものさしや升目、数、比較対象などを予め明らかにしておかなければならないと孫子は説いた。

 勝つためのストーリー、すなわち、戦略が実地のデータに基づいて論理的に組み立てられており、それゆえに、組織構成員のすべてが勝利を確信しているという状態をイメージしてみる。鎰を以て銖を称るが如く、勝利は確定的である。そういう経営を目指したいものです。

 企業経営において、勢いを作り出すために必要なことは何でしょうか。売ること、売れることである。営業部門においては、隣の営業マンが売ってくれば、負けずに売ろうとするし、周囲が売っていれば、「売れるはずだ」となる。逆に、売れないとなれば、「あいつも売ってないし、こいつも目標未達だったし、俺も売れていない」・・・となって、商品が悪い、会社が悪い、景気が悪い、となる。これでは勢いなど出ない。売るから勢いが出て、勢いがあるからまた売れる。売らないことには勢いも何もないから、売るための仕掛けを用意する必要がある。それが「積水」であり、「顧客のダムを作る」ことである。このダムを作ることで、売れるべくして売れる、勝つべくして勝つ、というストーリーを描くことができるようになる。今売れなくても、来年には売れるかもしれないし、次の入れ替えではリベンジできるかもしれない。

 勝つには理由がある。負けるのにも理由がある。業績が上がるには理由がある。業績が下がるのにも理由がある。営業がうまく行くには理由がある。失注するのにも理由がある。それらの道理、尺度、基準を踏まえ、予め準備して勝てるストーリーを持って臨めば、自ずと勝ちが確定する。やるべきこともやらずに楽して勝てる魔法はない。やるべきことをきっちり積み上げて、粛々とそれを繰り返すのみ。それが孫子の教えである。

『勝者の民を戦わしむるや、積水を千仭の谷に決するが若き者は、形なり。』第四章 軍形篇

積水を千仭の谷に

 戦いに勝利する者は、人民を戦闘させるにあたり、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に決壊させるような勢いを作り出す。これこそが勝利に至る態勢(形)である。

 エネルギーを貯め込み、ここぞというときに一気呵成に放つ。それが負けないための型です。

 軍をうまく動かすためには、進むべき道筋や思想を正しく示して、軍制や評価を徹底させなければならない。そのためには、物事を正確に把握する尺度や基準、すなわち、ものさしや升目、数、比較対象などを予め明らかにしておかなければならないと孫子は説いた。

 

新規開拓を怠ってはならない

 孫子は、火攻めと対照させるように水攻めについても書いています。

 火攻めと水攻めを現代のビジネスに応用し活用するには、火攻めを新規開拓、水攻めを既存客のダム作りと捉えてみるとよい。新規開拓のための戦略を定め、ターゲットを絞り込んで確実に攻めていく火攻めを実行します。火攻めがすべてうまく行くとは限りません。水攻めである「積水の計」も同時に進め、火攻めと水攻めの良いところを合わせていきます。これによって強い営業組織を構築することが可能になるのです。

 人口減少で客が減る時代だから、既存顧客を大切に守ることが大切になる。これが水攻めに相当する。堰を作り、水路を掘り、ダムを作る。しかし、守るだけではジリ貧になり、ダムに水を注ぎこまなければ、そのうち水は減り、渇水となる。常に新規開拓を行って、新たな客をダムに注ぎ込まなければならない。これが火攻めに相当する。

 放っておけば顧客は減る。人口が減れば、衣食住も娯楽もサービスも減る。グローバル化が進めば、新たなマーケットもあるが、同時にグローバルな戦いもあり、そう簡単に打って出ることもできない。

 常に顧客を蓄積し、貯めていく「積水の計」が必要となる。顧客のダムを作るということである。そして、既存顧客から追加受注、リピートオーダー、サプライ品購入、メンテナンス依頼、紹介客をいただく。この際には規模がモノを言う。ダムの水量が多ければ多いほど、すなわち、顧客数が多ければ多いほど、経営は安定するし、まとまった施策が打てる。ダムは大きければ大きいほど良い。そのためには兵力がいる。だが、既存顧客をダムにして守るだけではジリ貧になる。それが人口減少、マーケット縮小の怖いところである。じわじわと減っていく。高齢者の比重が増えれば、亡くなる人も増える。今後、人口減少は加速していく。常に新規開拓を忘れてはならない。競合企業から自社へのスイッチを狙わなければならない。新ルート、新チャネルを開拓し、新商品、新サービス、新企画を投入し、新業態、新ビジネスモデルを開発していかなければならない。せっかくダムを作っても、そこに水が流れ込まなければ無用の長物となる。新規へのアプローチ、新規開拓のチャレンジは火攻めに相当するから、智恵の勝負、頭の勝負である。必ずしも規模や経営資源は必要ない。中小企業でも、零細企業でも、頭の使い方次第で火攻めはできる。規模が小さければ小さいほど、水攻めだけでは大きな敵に勝つことはできない。大きい方が有利だからです。新規開拓を怠る小さな会社がジリ貧に陥り、大手企業に踏みつぶされ、飲み込まれて行くのは当然の帰結である。それこそ、孫子の兵法を用いて、経営を見直し、営業を諜報に変えて行くべきである。

 水攻めのダムを用意しているから、火攻めの新規開拓が無駄にならない。火攻めの失敗を水攻めで補い、水攻めの効果を火攻めで促進するのです。

『火を以て攻を佐くる者は明なり。水を以て攻を佐くる者は強なり。水は以て絶つ可きも、以て奪う可からず。』第十二章 火攻篇

 水攻めは火攻めと同じくらい有効である。ただし、水攻めの場合は、あくまで敵の補給路を断つ事に専念すべきで、決して既に蓄えてある物資を奪おうとしてはなならいとしています。

火を攻撃の補助手段にするのは、将軍の頭脳の明敏さによる。

 水を攻撃の補助手段にするのは、軍の総合戦力の強大さによる。水攻めは敵軍を分断することはできても、敵軍の戦力を奪い去ることはできない。

 

強大な敵に対しても戦い方がある

 強大な競合企業に対しても、決して対応する方法がないわけではない。相手が強大であるその理由こそが、相手の動きを封じ込めるポイントであり、冷静に相手の急所を突くことが肝要である。勝てる戦しかしない、有利にならないと戦わない、勝ち目がないなら動くなと説いて来た孫子に、敢えて問うと物言いが入った。国王です。「そうは言うけれども、敵軍が大兵力で整然と隊列を組んで、隙なく攻めて来ようとしているとしたら どうするのか?」という問いである。理屈は分かるが、強大な敵が一気に攻めて来たら、戦わないと言っていられないだろう という疑念はもっともである。それに対して、孫子は、まずその敵が重要視しているもの(土地)を奪えば、相手は混乱し、後はこちらの意のままに動かせると答えた。それに続けて、戦争の要諦はスピードであり、速攻で、敵の不備を衝き、予測していない方法をとり、警戒していない地点を攻めれば良いのだと説いた。敵がいくら強大だからと言っても、それで焦らず、冷静に敵が強大だからこそ抱えている急所を見つけ出せと説いた。現代のビジネスにおいても、仮に強大な競合企業があり、万全の組織、豊富な品揃え、圧倒的な人的パワーで自社の商圏に攻め込んで来たとしよう。何ともしようがない、手の打ちようがないと考えてしまうのも当然のようではあるが、そういう場合でも手が打てると言う。相手が強大であればあるほど生じる弱点がある。それはスピードが遅くなるということである。驕りや慢心による緩慢さかもしれないし、情報伝達の遅れや組織が分断されて壁が出来た故かもしれない。敢えて、相手の強い部分、得意分野にスピード勝負をかけてみるのもよい。スピードとは意思決定のスピードです。社員が走ったり、作業スピードを上げる努力をしても、高が知れている。強大になった相手だからこそ意思決定がどうしても遅くなる。相手が商品開発に強みを持っているなら、商品開発期間、サイクルの短縮で勝負する。仮説検証スピードを速くすればいい。相手が生産能力に自信を持っているとすると、納期短縮で勝負する。相手が何千人という営業マンを抱えて攻めてくるなら、エリア限定で絞込みながら、そこでの営業対応スピードで勝負するという具合である。

 営業で大切なのがスピード。速きこと風の如く何事も速くやること。顧客は忙しいし、こちらも暇な客を相手にしている暇はない。顧客が3日かかるだろうと思うところを2日でやる。

 次に顧客の話を聴く。静かに素直に聴く。喋り過ぎない。気持ちよく話してもらうために、心地よい傾聴姿勢が必要である。相手のことを理解しよう、どうやったらお役に立てるかという心情が必要です。顧客の話を聴き、相手の事情を理解したら、こちらがお役に立てることを提案する。提案する時には、「お客様のためにお役に立つ」という熱い思いで提案すること。自社の都合、自分の都合を押し付けるのではなく、「お客様にとって良いものだ」という確信がなければならない。売る気があるのか、ないのか良くわからないような、気の抜けた覇気のない事務的な提案で人が動くはずがない。理屈では人は動かない。熱い思いをぶつけよ。しかし、過度な値引きを要求されたり、過剰なサービスを強要されたりする場合には動いてはならない。

 

敵軍が大兵力で隊列を整え攻めて来たら、どのようにしてこれを迎え撃てば良いか

『敢えて問う、敵、衆にして整えて将に来たらんとす。之を待つこと若何。

 曰く、先ず其の愛する所を奪わば、則ち聴かん。兵の情は速やかなるを主とす。人の及ばざるに乗じ、虞らざるの道に由り、其の戒めざる所を攻むるなり。』第十一章 九地篇

 「では、尋ねるが、敵軍が、大兵力で隊列を整え攻めて来たら、どのようにしてこれを迎え撃てば良いだろうか。」「答えるに、まず、敵が重要視しているものを奪えば、こちらの思うように動かすことができるだろう。」 戦争における要諦は、迅速に動くスピードにある。敵の不備を衝き、予測していない方法を取り、警戒していない地点を攻めるのである。

 孫子は、地形ごとに用兵、布陣のポイントを示し、通ってはいけない道があり、攻撃してはいけない場合もあり、攻めてはいけない城もあり、奪ってはならない土地もあり、受けてはならない君命もあると説いた。それらは、過去からの積み重ねによる智恵である。それを知っている者は、知らない者よりも優位に立てるのは自明のことである。

 

臨機応変

 ビジネスでは、常に状況、ケースに応じて条件が変わるため、確実な方法というのは存在しません。「このケースならこの方法」と局面に応じて戦術の決定や、判断をしなくてはいけない。ハウ・ツウ ものの本に書いてあったから、著名な人が言っているからと言った理由で判断をしてはいけない。それがたとえ社長や上司の命令であっても、理にかなっていないものはおかしいということです。

 企業経営においても、蓄積された先人たちの智恵があり、過去の経緯などから訪問してはならない顧客があったり、やってはいけないことがあったり、攻めてはいけない地域があったりする。それを予め教えておけば、余計なトラブルも、無駄な手間もなくなるのだが。ろくに教えもしないものだから、新人や中途入社の人間が知らずに失敗することがある。

 智将は、常に物事の利と害、表と裏、メリットとデメリットの両面を考えて判断するものだと孫子は言う。有利なことがあっても、それで気を緩めたりせず、その不利な面も合わせて考えて手を打つから、成し遂げようとしていることを実現させることができる。悪いことがあっても、その裏の利点を考え生かそうとするから、思い悩むこともなく困難を乗り越えることができると説いた。敵が攻めて来ないだろうという憶測をあてにするのではなく、自軍に敵がいつ攻めて来ても良いだけの備えがあることを頼みとせよと説いた。

『用兵の法は、将、命を君より受け、軍を合わせ衆を聚むるに、圮地には舎ること無く、衢地には交を合わせ、絶地には留まること無く、囲地なれば則ち謀り、死地なれば則ち戦う。

 塗に由らざる所有り。軍に撃たざる所有り。城に攻めざる所有り。地に争わざる所有り。君命に受けざる所有り。』第八章 九変篇

 軍の運用方法として、将軍が君主から命令を受けて、軍隊を編成し兵隊を集めて進軍するにあたり、圮地(低地で足場の悪い不安定な場所)には布陣、宿営してはならず、衢地(交通の要衝)では諸国・諸侯との通信・親交を図り、絶地(敵国に入り込んで進退が難しい地)には長く留まらず、囲地(三方を囲まれて動きにくい地)では包囲されないように計謀をめぐらし、死地(四方を塞がれて逃げ場のない土地)では必死に戦うしかない。

 戦争において、通ってはいけない道がある。攻撃してはいけない敵もある。また、攻めてはいけない城もあり、奪ってはならない土地もある。これらに反するようなら、たとえ君命であったとしても受けてはならない命令もあると孫子は説いた。

 たとえ君主の命令のもとに戦いを指揮しているとしても、軍には清軍してはならない道がある。攻撃してはならない敵軍がある。せめてはならない城がある。争奪してはならない土地がある。受けてはならない君命がある。

 組織にあっては、上司の命令は絶対的に近い大きな力をもっているが、しかし、その中にも現場の状況にそぐわない誤った判断はある。そういうものに むやみに従ってはならない。現場を率いるリーダーの責任において、敢然と拒否すべきである。孫子は、そう説いて、上役の意向を忖度ばかりせず、ときには命に背く勇気や覚悟を持てと叱咤激励しているのです。

『塗に由らざる所有り。軍に撃たざる所有り。城に攻めざる所有り。地に争わざる所有り。君命に受けざる所有り。』第八章 九変篇

 これを経営やマネジメントに当てはめてみます。

 セオリー通りに事を進めればいというものではない。人とは逆のことをやった先に成功が見えてくる。独自の道を開拓したい。

 ライバル会社を蹴散らすばかりが能ではない。自社の緊張感を維持するためには、ライバルはむしろいたほうがよい。自社の力量を切磋琢磨する大事な存在と捉えたい。

 ライバル会社の本丸を攻めて勝つのはよい方法とは言えない。悪戦苦闘は必至。そのために費やす時間とエネルギーを冷静に計算して事に臨みたい。

 成長企業だからと安易に乗り出してはいけない。既に成熟市場になりつつあれば、あとは衰退に向かうだけ。金とエネルギーを投入する価値のある市場かどうかしっかり見極めたい。

君命

 上の命令に異議を唱える社員をむやみに斥けてはならない。それが会社の利益を思う心から処分覚悟で申し出たものなのかどうかを吟味するべきである。社員に対して聞く耳を持つリーダーでありたい。

 それらは、過去からの積み重ねによる智恵である。それを知っている者は、知らない者よりも優位に立てるのは自明のことである。積み重ねられた過去の智恵を軽視してはならない。時間の経過、時代の変遷を経てもなお、有効なやり方やノウハウというものがある。過去の蓄積を活かしてこそ、現在の自分がそれを土台として更に積み上げていくことができる。

 企業経営においても、常に裏と表、プラスとマイナスの両面を見ることが重要である。こちらを上げれば、あちらが下がる。あることに力を入れれば、他が疎かになる。トレードオフの関係になっていて、それらが複雑に絡み合っているのが経営である。客数を増やそうと思えば、客単価が下がる。受注率を上げようと思っても、案件数、見込数が落ちれば意味がない。利益率を上げても、それによって売上が下がれば利益額は維持できない。将来のために人を採用すれば、人件費が増える。ある社員を登用すれば、他の社員はふて腐れる。客数が増え売上が増えたと喜んでいたら、それに伴ってクレームも増えたりする。しかし、クレームだと思ってガッカリしていたら、その中に新商品のヒントがあったりする。

 さらに、表と裏、利と害を見ようと思えば、定量情報と定性情報を合わせ見るということも重要である。たとえば、定量情報である売上高、販売実績データだけを見て、良い悪いを判断するようなことをしてはならない。仮に売上が増えていても、顧客が喜んで買ってくれているとは限らない。他社の商品が欲しいのに、それが欠品していたから自社商品が売れたのかもしれない。自社商品に不満があるのに、他にないから仕方なく買っていただけかもしれない。もしそうなら、他社が類似商品を出してくる前に、顧客不満足を消す商品改良を行わなければならない。それなのに、売上実績だけを見て喜んでいるようでは、「事実」はつかんでいても「真実」をつかんだことにはならない。

『諸侯を屈する者は害を以てし、諸侯を役する者は業を以てし、諸侯をはしらす者は利を以てす。』第八章 九変篇

 諸侯を屈服させるのは、受ける害悪を強調して意識させるからであり、諸侯を使役して疲弊させるのは、事業の魅力や利点を意識させ、マイナス面から目を背けさせるからであり、諸侯が奔走し右往左往するように仕向けるのは、目先の利だけを見せて害を意識させないからである。

 

敵情を把握せよ

 孫子は、敵兵の様子から実情を判定する方法をあげています。交渉を進めるときは、ただ相手の言うことを言葉通りに受け取ることをせず、出方を見ながら真意を探っていく必要があります。

『敵近くして静かなる者は、其の険を恃むなり。』第九章 行軍篇

 「うちは御社の足元にもおよびません。同じ土俵で戦えません。」などと言って、妙に腰が低く、下手に出ているのは怪しい。裏で参入の準備を着々と進めている可能性がある。勝つ気満々と思って間違いない。

辞強くして進駆する者は、退くなり。第九章 行軍篇

 強気の発言を繰り返し、こちらに無理難題を押し付けてくるのは、交渉を決裂させたいからにほかならない。

軽車の先に出でて側に居る者は陳するなり。第九章 行軍篇

 具体的な計数が出始めるのは、相手が真剣な議論を要求していることの証である。そういう話が出てこないようなら、交渉するのは時間の無駄である。

約なくして和を請う者は、謀るなり。第九章 行軍篇

 まだ追い詰められてもいないのに妥協案が出るということは、相手に何かこちらを騙したり陥れたりしょうとする策があるからである。

『奔走して兵を陳ぬる者は、期するなり。』第九章 行軍篇

 数字がかく提示され、具体案がどんどん出てくるということは、相手が解決を望んでいる証拠である。ひよっとしたら時間がないのかもしれない。

『半進する者は、誘うなり。』第九章 行軍篇

 押したり引いたりを繰り返しているということは、こちらを苛立たせて妥協案を出させようという腹積もりである。

『杖つきて立つ者は、飢うるなり。』第九章 行軍篇

 大事なところを確認もせずに、ひたすら交渉をまとめようとしているのは、かなり疲れているとみてよい。

 

相手の不意を突いて物事を有利に運ぶ

意外なところを誉め、相手が心を開くキッカケとする

 営業で仕事を取るときの成否のカギは、「相手の心をどこまでつかめるか」にかかっています。人は誰でも「他人に認められたい」という欲求を持っています。自分を認めてくれる人には親近感を抱くものです。誉め言葉は相手の関心を買うことになり、誉めてくれた人間に好意を抱き、心を開くキッカケともなります。お世辞もしかりです。

本人も気づいていないような点を誉める

 下心のあっての誉め言葉や、誰でも言うような当たり前の誉め言葉は効果がありません。言われて当然といった意識があり、嬉しくありません。それより、本人も気づいていないような意外な点を見つけて誉めるのです。

 孫子の言うところの「その備え無きを攻め、その不意に出ず」です。

『其の無備を攻め、其の不意に出づ。此れ兵家の勝にして、先には伝う可からざるなり。』第一章 計篇

『故に兵は、詐を以って立ち、利を以って動き、分合を以って変をなす者なり』第七章 軍争篇

 戦いは敵をあざむく事で始まり、有利な方向へ動き、兵の分散と集中を繰り返しながら変化する。

 『兵は詐を以って立つ』というのは、『計篇』で登場した『兵は詭道(きどう)なり』と相通ずる。戦争は騙し合いだという事を もう一度ここで強調しています。もちろん、「迂直の計」もその騙し合いの一つ。迂回したかと見せて直進したり、奇襲をかけたかと思えば正攻法で攻める。陰と陽、静と動、そうやって騙しながら戦いを有利に導いていくのです。

 一見こちらが損に思える事というのは、敵にとっては有利に思える事なので、当然それに食いついてきます。そこを、速やかに裏を返し逆転する。もちろん、これには相手の事を充分調べておかなければなりません。敵の思考や動向を知らなければ駆け引きはできません。敵の国の地理を知らなければ、そこへ自軍を向かわせる事はできません。

 

無形への道

 ビジネス上でも、マニュアル優先での対応でうまくいくとは限りません。ある程度は柔軟さを持って取り組むことが必要です。

 もちろん、過去の成功体験やマニュアルはそれまでの蓄積なので重要ですが、それに固執してはいけません。

 望ましい軍形の極みは無形ということになる。定まった形がなく、意図が全く見えない無形であれば、深く入り込んだ間諜であっても動きを見抜くことができず、優れた智謀を持つ者であっても意図を見抜くことはできない。敵の形が読み取れれば、たとえ敵が多勢であっても勝利への道筋を示すことができるが、敵はこちらの企図を知ることはできない。一般の人は、我が軍が勝った形(陣形・態勢)を知ることはできるが、どのように勝利に至ったかという意図やプロセスを知ることはできない。だから、その戦いに勝っても同じ形を繰り返すことはなく、あくまでも相手の形に合わせて無限に変化し対応していくのです。

 敵と対峙した時には、ただ敵の動きを見張るのではなく、敵に揺さぶりをかけ、軽く攻撃してみたりして、相手の行動基準や、いつ動き、いつ動かないかの判断基準をつかめと孫子は説いた。それができれば、敵の動きを先回りして攻撃したり、敵の狙いを逆手にとって、敵をこちらの思うように動かすことができるようになる。相手の動きを見てから動き出していては後手を踏む。

 企業経営においては、顧客の判断基準、購買基準をつかむことに置き換えることができる。顧客訪問し、いちいち顧客のニーズや考えを聞いていたのでは、後手に回ることになる。言われてから動いたのでは二度手間となる。顧客が「いつ買うのか」「いくらなら買うのか」「誰が意思決定するのか」「どうなれば買うのか」が分かれば、それに合わせて先回りして先手を打つことができる。

 まず、営業マンが顧客と商談する時には、「視」で相手の言動を客観的によく見る。表情の変化や微妙な間も読み取ろう。しかし、顧客は本当のことを言ってくれなかったり、本心を隠していたりするから、その裏を読む推察をしなければならない。これが「察」。

 相手に合わせて柔軟に変えること。それが無形への道である。何があるか分からないので、決まった形だけで対応しようとしてはならない。

 企業経営において、とにかく売れればいい、顧客が買うと言うなら買ってもらえばいい、という姿勢ではまともな商売にならない。顧客が誤解していたり、買いかぶって過剰な期待をしていたりすると、あとでトラブルになり、クレームになって、余計な手間が増えるばかりである。顧客が必要としていないのに無理矢理売り込むとか、騙して売るなどは論外である。顧客には、とにかく買ってくれと売り込むのではなく、まずは自社の理念や考え方、製品のコンセプトや品質へのこだわりなどを理解してもらうべきである。そこがずれていては長い付き合いにならない。その上で、商品説明があったり、価格交渉があったりする。きちんと儲けるためには、この努力を怠ってはならない。安易に迎合し、何でもやります、何でも言うことを聞きますと言っていては、儲かるものも儲からない。便利に使われて、安く叩かれて、最後はポイ捨てとされるだけである。

 顧客に対して、自信を持って自社の理念やコンセプトを語り、もしそれが気に入らないなら付き合ってくれなくてよいと言える経営を目指せば、儲かるようになる。目指さなければいつまで経ってもそうはならない。

 一時の感情で一生の顧客を失ってしまうということもある。ついカッとなって客にキレる。そんな営業マン、顧客対応係もいる。これは問題外である。キレないまでも、不機嫌そうにしてしまう、不愉快さを相手に伝えようとしてしまう人がいる。特に若い人に多いように思う。その場の感情で戦いを始めてはならない。顧客は本来わがままなものである。金を払うのだから、何でも言うことを聞け、といったことを平気で言う人もいるし、それを当然だと思っていたりする。営業する側も、その辺りの心をくすぐり、顧客を調子づかせていたりもする。自業自得の面もある。もちろん、相手が金を払うからと言って、何でも言うことを聞くべきだとは思わない。利があれば対応し、利がなければ応じる必要はない。ビジネスであり、WIN-WINの対等な関係である。売り手と買い手の関係であっても、冷静に判断しなければならない。その顧客のためにあれこれ考え、工夫もし、努力もしたのに、失注してしまったり、業者扱いされてしまったりしたら、腹も立つし、残念な気分になる。文句の一つも言いたくなるが、グッと我慢すべき。頭に来る顧客がいれば、「いつかギャフンと言わせてやる」と心の中で叫んで、外面は笑顔を繕い、「また何かあればお願いします」とでも言って、その場を立ち去る。そしてリベンジである。まさに「臥薪嘗胆」である。相手にギャフンと言わせるというのは、「あの時、あの営業マンに頼んでおけば良かったな」と言わせることであり、「あの会社にお願いしておけば良かった」と後悔させることである。そのためには、その断った相手が気付かざるを得ないくらい自社が成長し、商品が売れ、評判を高めて行かなければならない。目立つほどの成長、発展を実現したい。

 「臥薪嘗胆」とは、まさに呉越の戦いから生まれた故事成語である。孫武が仕えた呉王の闔廬は、越に侵攻したが敗れ、負傷したことがもとになって死んでしまった。闔廬の子、夫差は、父の仇を取ることを誓い、薪の上で寝ることの痛みでその屈辱を忘れないようにした(臥薪)。そして、ついに夫差は越に攻め込み、越王勾践の軍を破った。敗れた勾践は、苦い胆を嘗めることで屈辱を忘れないようにして、後に呉王夫差を滅ぼした(嘗胆)。呉越の戦いは、こんなところでも教えを残してくれる。

 ビジネスの場でも、儲かる話・得する話には人が寄ってきます。「こうすればあなたは得しますよ」というメッセージを伝えたり、「こうするとあなたは損をしますよ」とメッセージを伝えることで、その人の行動を操ることもできます。

 決裁者や交渉相手や、お客さんや動かしたい人が何を重視しているのかよく考えて、その人が一番欲するものを与えてあげたり、その人が一番嫌がることを遠ざけてあげたりすることで、人を動かすことができます。

 

主導権を握る  

 敵より先に戦場に行き、敵を迎え撃てば余裕を持って戦える。逆に遅れて行けば、戦いは苦しくなる。であるから、名将は人を致して人に致されず。「人を致して人に致されず」とは、「相手に左右されず自分が相手を左右する立場に立つ」ということ。つまり、主導権を握るという事です。

『能く敵人をして自ら至らしむる者は、之を利すればなり。能く敵人をして至るを得ざらしむる者は、之を害すればなり。故に、敵、佚すれば能く之を労し、飽けば能く之を飢えしめ、安んずれば能く之を動かす。其の必ず趨く所に出で、其の意わざる所に趨く。』第六章 虚実篇

 敵軍をこちらの思うように動かすことができるのは、敵の利になることを見せて誘うからである。敵軍が思うように動けなくなってしまうのは、動けば敵の害となるように仕向けて動けなくさせているのである。だから、敵が優位な状況にいれば、それを切り崩してその兵力を減殺することもできるし、敵が充分な食糧補給ができていれば、その補給を断って飢えさせることもでき、休息している敵には、動かざるを得ないようにさせることができる。敵が必ずやってくるであろう地点に先回りして出撃し、敵が予期していない地点に急襲をかけるのである。

 交渉ごとで自分の利益や都合を出すのは厳禁です。相手を思い通りに動かしたいときや説得したいときは、そうすることによって相手が得られるメリットを強調することです。

 

敵の観察

 多くは「見るだけ」で「観察」しようとしません。何事も理由があってそうなっているのです。常に優位でいるためには、よく観察し、情報を集めることが大事なのです。

 敵が近くにいるのに攻めてこないのは、攻めるのが難しい場所だからである。敵が遠くにいるのに攻めてくるのは、こちらを誘い出しているからである。敵がそこに居るのは、有利な場所だからである」と孫子は言っています。

『敵近くして静かなる者は、其の険を恃むなり。敵遠くして戦いを挑み、人の進むを欲する者は、其の居る所の者易利なればなり。衆樹の動く者は、来るなり。衆草の障多き者は、疑なり。鳥の起つ者は、伏なり。獣の駭く者は覆なり。塵高くして鋭き者は、車の来るなり。卑くして広き者は、徒の来るなり。散じて条達する者は、樵採なり。少なくして往来する者は、軍を営む者なり。』第九章 行軍篇

・軍隊の近くに、険しい地形・池・窪地・芦の原・山林・草木の繁茂したところがあるときには、必ず慎重に繰り返して捜索せよ。これらは伏兵や偵察隊のいる場所である。

・敵が自軍の近くにいながら平然と静まり返っているのは、彼らが占める地形の険しさを頼りにしているのである。

・敵が自軍から遠く離れているにもかかわらず、戦いを仕掛けて、自軍の進撃を願うのは、彼らの戦列を敷いている場所が平坦で有利だからである。

・多数の木立がざわめき揺らぐのは、敵軍が森林の中を移動して進軍してくる。

・あちこちに草を結んで覆い被せてあるのは、伏兵の存在を疑わせようとしている。

・草むらから鳥が飛び立つのは、伏兵が散開している。

・獣が驚いて走り出てくるのは、森林に潜む敵軍の奇襲攻撃である。

・砂塵が高く舞い上がって、筋の先端がとがっているのは、戦車部隊が進撃してくる。

・砂塵が低く垂れ込めて、一面に広がっているのは、歩兵部隊が進撃してくる。

・砂塵があちらこちらに分散して、細長く筋を引くのは、薪を集めている。

・砂塵の量が少なくて行ったり来たりするのは、設営隊が軍営を張る作業をしている。

 ビジネスの場合、どうしたら利益をあげることができるかをよく観察します。状況は様々に変化します。その変化に対し、利益に転換する術を探らなければなりません。現代の場合、顧客ターゲットを絞り、その顧客がどうすれば購買を決定してくれるか、その条件や状況を観察することです。

参考

『軍の傍に、険阻・潢井・葭葦・山林・翳薈の伏匿す可き者あらば、謹みて之を覆索せよ。此れ、伏姦の処る所なり。』第九章 行軍篇

六種の危険地帯

 行軍する進路に、険しい場所やため池や葦原、山林、草木の密生したところなど、身を潜めることができる地形があれば、慎重に繰り返し捜索すること。敵の伏兵や間者がいる可能性がある。

孫子では、近づいてはいけない場所を6つ挙げています。

 ・絶澗(ぜっかん):絶壁に囲まれた場所

 ・天井(てんせい):深い窪地

 ・天牢(てんろう):三方が険しい場所に囲まれた所

 ・天羅(てんら):草木が密集した場所

 ・天陥(てんかん):湿地帯

 ・天隙(てんげき):でこぼこした場所

 このような場所には絶対に近づかず、逆に敵をこのような場所に誘い込むようにしなさいと言っています。ここでも危険を避けて優位に立てという事です。

 そこから遠ざかって、敵にはそこに近づくように仕向ける。こちらではその方に向かい、敵はそこが背後になるように仕向けるのです。

 

様子を見てから実行する

 孫子のいう 火攻 とは、敵が戦いに使うものに日を付けて、使い物にならなくなくさせる戦法です。現代で言えば、新しいビジネスを生み出して、爆発的な影響を与えてしまうことをいう。

『凡そ火攻に五有り。一に曰く火人、二に曰く火積、三に曰く火輜、四に曰く火庫、五に曰く火隧。火を行うには因有り。因は必ず素より具う。火を発するに時有り、火を起こすに日有り。時とは天の燥けるなり。日とは宿の箕・壁・翼・軫に在るなり。凡そ此の四宿は、風の起こるの日なり。』第十二章 火攻篇

 火攻めの実行には、自軍に内応したり、敵軍内に紛れ込んで放火する破壊工作員が当たる。内応者や破壊工作員を必ず前もって用意しておくこと。

 火を放つには適当な時節がある。放火後 火勢を盛んにするには適切な日がある。火をつけるのに都合のよい時節とは、天気が乾燥している時候のことである。火災を大きくするのに都合のよい日というのは、月の宿る場所が 箕・壁・翼・軫の星座と重なる日のことである。これらの星座が月にかかる時は、必ず風が吹き荒れるそうです。「箕」「壁」「翼」「軫」というのは、古代中国で天体の位置や動きを知るために考え出された、『二十八宿』という天体観測方法に用いられる星座の中の4宿です。まず、天を東西南北の4つの方向の分け、東は蒼龍、西は白虎、南は朱雀、北は玄武の四神(四つの聖獣がそれぞれの方角を守っている)をあてはめ、それぞれの方角をさらに七分割で 全部合わせて二十八宿。それぞれの方角にある星座を使って方向を見るわけです。

 火攻めの時の攻撃法に関して、5種類の場面があるとしています。

・敵陣に火の手があがった時・・・

  外側から素早く攻撃して追い討ちをかける

・火の手があがっても敵陣が静まりかえっている時・・・

  そのまま待機して様子を観察し、攻め時を見極め、チャンスが無ければ攻め込まない

・敵陣の外側から火を放つ事が可能な時・・・

  内応者(敵に潜入している味方)の放つ火の手を待つ事なく、チャンスがあるのなら、外側から火を放つ

・風上に火の手があがった時・・・

  風下から攻撃してはならない

・昼間の風は長く続くが、夜の風はすぐにやむので、その点に注意しなければならない

 

ブームを起こすタイミングの読み方

 ブームのプランを決めたら、次はタイミングを見て実行に移します。孫子では、その対応について、5つの方法が説かれております。

1 拡散する

 ブームを仕掛けた直後は、すぐに口コミなどで拡散を始めるとよい。

・敵陣に火の手があがった時・・・外側から素早く攻撃して追い討ちをかける

2 観察する

 しばらく経っても話題になりそうもなければ、いったん様子をうかがうとよい。

・火の手があがっても敵陣が静まりかえっている時・・・そのまま待機して様子を観察し、攻め時を見極め、チャンスが無ければ攻め込まない

3 便乗する

 似たようなブームが既に起こり始めていたら、すぐに便乗するとよい。

・敵陣の外側から火を放つ事が可能な時・・・内応者(敵に潜入している味方)の放つ火の手を待つ事なく、チャンスがあるのなら、外側から火を放つ

4 逆行しない

 他のブームが起きていたら、逆行せずに追い風に乗ったほうがよい。

・風上に火の手があがった時・・・風下から攻撃してはならない

5 長期的に見る

 既にブームが長く続いていたら、下火になる可能性を考えたほうがよい。

・昼間の風は長く続くが、夜の風はすぐにやむので、その点に注意しなければならない

『一に曰く火人、二に曰く火積、三に曰く火輜、四に曰く火庫、五に曰く火隧。火を行うには因有り。因は必ず素より具う。火を発するに時有り、火を起こすに日有り。時とは天の燥けるなり。日とは宿の箕・壁・翼・軫に在るなり。凡そ此の四宿は、風の起こるの日なり。』第十二章 火攻篇

 

人により敵の情報をつかむ

 優れたリーダーが人並み以上の成果を収めるのは、能力や知力ではなく、事前に敵情を知る「先知」なのである。そのための間諜であり、企業で言えば営業マンである。

 孫子は、2500年も前に、決して神仏に頼ったり祈祷や占いで知るのではなく、人間が直接動いて情報をつかむことによって、先に知るべきだと説いた。我々が運勢や神頼み、仏頼みになったり、気合と根性と誠心誠意で乗り切ろうとするのではまずい。

 情報もないのに、ただ訪問件数を増やせ、電話本数を増やせと尻を叩くのも、無駄なコストばかりかかって大した成果にはならない。  

 勝つためには情報収集しなければならない。顧客の情報、競合の情報、世の中のトレンド、自社の活動状況などの情報を地道に集め、それらを分析して、どう動くべきかを考える。その情報も鮮度の高い情報が求められるし、その情報によって先手を打つことができるようになる。営業活動、売上創出活動においては、「先知先行管理」が必須である。先々の売上や受注を見通しながら、先手を打っていく。先に情報をつかみ、先手を打って行く。自社の商談期間や納品リードタイムなどを見て、先々への仕込みをする。そうすると、取れるべくして取れる受注もあるし、棚ボタでもらえる受注もあることが分かる。もちろん、取れると思っていたのに失注してしまうものもある。それをつかむのが明主・賢将である。

 大きな事業投資をすれば、稼働・維持するために膨大な人件費や管理費等が必要になる。投資資金を回収するのに何年もかかったあげくに、わずかな事でライバル企業との競争に敗れてしまうこともある。にもかかわらず、事前に入念なマーケティングやライバル企業の情報収集を怠るのは、経営者として失格である。

 優れた経営者が事業展開して成功できるのは、事前に入念なマーケティングやライバル企業の情報収集を行うからである。しかも、それらの情報は、机上の空論でなく、人が足で稼ぐ現場の生の情報でなければならない。

 何年にも渡って敵国とにらみ合うようなことになれば、戦費も莫大である。だが、その勝敗を分ける決戦は一日で終わる。川中島の決戦も、天下分け目の関ヶ原も、せいぜい半日程度。そこで負ければ、すべての努力はその時点で水泡に帰す。そこで、重要になるのが、敵国の情報をスパイ(間諜)を使って収集すること。敵方への調略、情報流布活動(プロパガンダ)なども必要である。決戦時に失敗が許されないからである。そのスパイに払う褒賞をケチって敵の情報を収集しない将軍がいたとしたら、指揮官失格であると孫子は断じる。節約した金は、莫大な戦費の中ではほんのわずかな金に過ぎないからです。

『凡そ師を興すこと十万、師を出だすこと千里なれば、百姓の費、公家の奉、日に千金を費やし、内外騒動して、道路に怠れ、事を操るを得ざる者、七十万家。相守ること数年、以て一日の勝を争う。而るに爵禄百金を愛みて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。民の将に非ざるなり。主の佐に非ざるなり。勝の主に非ざるなり。  故に明主・賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出づる所以の者は先知なり。先知なる者は、鬼神に取る可からず。事に象る可からず。度に験す可からず。必ず人に取りて敵の情を知る者なり。』第十三章 用間篇

 およそ10万の兵を集め、千里もの距離を遠征させるとなれば、民衆の出費や国による戦費は、一日にして千金をも費やすほどになり、官民挙げての騒ぎとなって、補給路の確保と使役に消耗し、農事に専念できない家が七十万戸にも達する。こうした中で、数年にも及ぶ持久戦によって戦費を浪費しながら、勝敗を決する最後の一日に備えることがある。(数年にも及ぶ戦争準備が、たった一日の決戦によって成否を分ける)にもかかわらず、間諜に褒賞や地位を与えることを惜しんで、敵の動きをつかもうとしない者は、兵士や人民に対する思いやりに欠けており、指揮官失格である。そんなことではとても人民を率いる将軍とは言えず、君主の補佐役とも言えず、勝利の主体者ともなり得ない。聡明な君主や優れた将軍が、軍事行動を起こして敵に勝ち、人並み以上の成功を収めることができるのは、事前に敵情を察知するところにこそある。先んじて敵情を知ることは、鬼神に頼ったりして実現できるものではなく、祈祷や過去の経験で知ることができるものでもなく、天体の動きや自然の法則によってつかむわけでもない。人間が直接動いて、情報をつかむことによってのみ獲得できるものである。

 

スパイを利用せよ

 孫子は、間諜に5種類あることを示した。

 現代企業における間諜である営業マンに置き換えてみる。

・因間(郷間) 顧客の身近、周辺にいる人間を利用する諜報活動    

  近所の人、親族、出入りしている人、取引業者、口コミの評判

・内間 顧客の内部にいる人間をスパイにする    

  客先で内部情報を聞き出す、秘書・受付と仲良くなる

・反間 敵のスパイを利用する こちらのスパイにしてしまう    

  競合の営業マンと親しくなり情報を聞き出す、自社に転職の誘いをしてみる    

  軽くニセ情報を流してみる

・死間 死ぬ(失注)からこそ聞ける情報をとってくる    

  失注した時にこそ聞ける本音情報をとる    

  失注してもそこで終わらずに伝えるべき情報を伝えてリベンジに備える

・生間 一度で終わらず二度三度と諜報活動を繰り返す    

  受注したら更に突っ込んで色々と裏情報、内部情報を聞き出す    

  その情報は蓄積し、今後の取引に備える

 営業活動が諜報活動に相当すると思えば、いろいろと工夫する余地がある。営業マンはモノ売りではなく、情報の力で人を動かす人でなければならない。情報と言っても、インフォメーションではなく、インテリジェンス。まさに諜報であり、それが孫子の兵法を現代の営業活動に応用する時の重要ポイントである。したがって、営業活動は、顧客へのプロパガンダとも言えるし、情報リークとも捉えることができる。顧客に適時適切な情報を流すことによって、顧客の判断軸を作り、またそれを変えて行く。人は見ようと思ったものを見、聞こうとしたものを聞く。いきなり商品の説明や売り込みを行うのではなく、予めその商品を正しく判断できるようにするための情報を流してあげて、判断軸や評価尺度を作ってあげることが必要なのです。

 孫子は「お金を惜しんで敵情視察をしないものはバカである」と言っています。

 ビジネスでも、情報収集をせずに新規事業を立ち上げる人が大勢います。市場調査、競合調査、ノウハウの獲得、経営情報の獲得など、それらの情報がなければ成功しないでしょう。

 

誠心誠意、気合と根性、神頼みから脱却し明主・賢将を目指す

 神様、仏様に頼ったり、気合と根性で乗り切ろうとするだけでは、安定した成果を生むことはできません。孫子は優れたリーダーの特徴は先知であると説きました。先に知って、先に手を打ち、先々を見通しているからこそ優れた成果をあげることができるのだと。

『明主・賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出づる所以の者は先知なり。』第十三章 用間篇

 やってみなければ分からないという経営ではなく、先を読んで手を打ち、決して結果オーライに甘んじないようにしていきます。

 「明君とか賢将とか言われる者が相手に勝ち、目覚しい成功を遂げるのは、人より先に敵情を知り、事態を予知しているからである。」とのことです。

 

情報の価値を汲み取り漏洩は決して許さない

 人生をかけ、キャリアをかけて仕事をするなら、それ相応の人と仕事をしたいと考えるのが普通である。「報酬を払っているのだから、黙って言うことを聞け」という態度、姿勢では人は動いてくれない。2500年前ですらそうだった。気に入らなければ斬って捨てても許される時代であっても、人を使うリーダーには多くの要件が求められた。このことを現代の経営者は忘れてはならない。ここで、リーダーとしての条件である、「智・信・仁・勇・厳」に加えて「聖」が追加される。聖人とはまさに人知を超えた神なる存在とも言うべきか。そして、現場に出て集めてきた情報から真実を読み取る洞察力と論理力。たとえば、営業マンや顧客対応窓口が顧客から収集してくる情報は、貴重なマーケット情報ではあるけれども、断片情報であり、主観が混じっていたり、誤解があったりして、そのまま鵜呑みにはできない情報も多い。真偽も定かではないから、裏もとらないといけない。個々の情報は点に過ぎない。それを、リーダーは点をつなげて線にして、線を面にする。その面も表から裏から見て、過去から現在の積み重ねを見て、そこから未来へと延長する推察や論理も必要となる。こうした情報の裏にある因果や背景、真実を読み取って、何らかの意思決定を下さなければ、せっかく集めた情報も成果には結び付かない。ただ集めたデータを見て「あれが悪い」「これが悪い」と言っているだけでは何の意味もない。なぜそうなっているのか、その真因はどこにあるのか、どうすればその真因を取り除くことができるのか までつかんで、手を打ってこそ情報を分析したと言えるし、インフォメーションからインテリジェンスへの昇華がなされたと言える。

 現場の営業マン、諜報マン、現場の人間は、すべて情報をもたらしてくれる間諜であるが、事実だけでなく感じたことを添えて伝えてもらう。その場で感じた実感を添えてもらうことで、単なるデータや事実が温度感のある生々しい情報となる。経営者には、その情を汲み取る思いやりや慈悲の心があれば良い。そして、その情報を重ね合わせ、時系列に並べてみて、その裏にある流れを読み取る。一時点では読み取れなかった事が、時系列に追いかけてみると見えてくることがある。営業担当者や顧客対応窓口がせっかく収集した顧客の声やマーケット反応も、その価値をとらえて企業経営に活かすマネージャーや経営者がいなければ、ただのゴミ情報と化してしまう。情報活用とはIT活用とは違う。読み取る人間の側の問題なのです。

『三軍の親は、間より親しきは莫く、賞は間より厚きは莫く、事は間より密なるは莫し。聖(智)に非ざれば間を用うること能わず。仁(義)に非ざれば間を使うこと能わず。微妙に非ざれば間の実を得ること能わず。密なるかな密なるかな。間を用いざる所なし。間の事未だ発せず、而して先ず聞こゆれば、間と告ぐる所の者と、皆死す。』第十三章 用間篇

 危険を顧みず、敵国に侵入し、何年もかけて情報を収集するような諜報活動をさせるためには、間諜が優秀な人材であることはもちろんだが、依頼する側に余程人間的な力や魅力がなければならない。そして、個々の間諜が伝えてくる情報は、個別、断片情報に過ぎないから、それらを統合し、その因果を読んで、隠れている真実をつかむ洞察力がなければ、せっかくの情報も役には立たない。

 

攻める前に周到に諜報すべし

 何としても成功させたい商談や事業企画があり、攻略したい顧客やキーマンがいるなら、その情報を徹底して収集し、それに通ずる人脈をたどり、相手の取り巻きや過去からの経歴、経緯などを調査した上で慎重に事を進めなければならない。

 法を犯して産業スパイをせよというのではない。日頃の業務、活動の中でいろいろな情報が取れるはずである。それらを捨ててしまわずに蓄積しておけば良い。そうして、相手からの信頼を得、信用を勝ち取り、友情とも言えるような感情や関係性を築けたならば、その相手を反間として、また、内間、郷間として利用することもできるようになる。競合企業の営業マンは、まさに反間である。同業者の集まりや、同業者が一堂に会するイベント、展示会などで隣り合わせになったりする。そこであれこれ世間話などもしていれば、自ずと競合企業の内部事情などが聞けたり、読み取れたりする。

『軍の撃たんと欲する所、城の攻めんと欲する所、人の殺さんと欲する所は、必ず先ず、其の守将・左右・謁者・門者・舎人の姓名を知り、吾が間をして必ず索めて之を知らしむ。』第十三章 用間篇

 攻撃したい敵や、攻めようとする城塞、殺害しようとする人間がいれば、事前に その護衛をしている指揮官や護衛官、側近の者、取次ぎ役、門番、雑役係などの姓名を調べ、間諜に命じて更に詳細な情報を得るようにしなければならない。

 

上智を間者とし大功を成せ

 営業(諜報活動)の重要性を認識した優秀な経営者のみが、優れた営業担当者を使いこなすことができる。その担当者が集めてくる情報の価値を活かすことができるのである。営業力強化のポイントは、営業マンの売り込む力、押し込む力にあるのではなく、マーケット、すなわち、顧客や競合の動きを把握する情報力、諜報力にある。どんなに営業力、戦闘力、兵力があろうとも、顧客の情報、競合の情報、マーケット情報、敵の情報、戦場の情報がなければ、戦いに勝利することはできない。商品力や開発力は小さくても、相手の動きを把握していれば、マーケットニーズを探り、ニッチな分野に絞り込むなど戦いようがある。その判断、戦略立案の元になるのが、営業マンが諜報してくる情報である。殷や周が、最優秀の人間を敵国に送り込み諜報させたように、21世紀の今も、戦う時には情報が必要であり、その情報をとってくる人間は、上智でなければならない。営業マンを諜報マンとして捉え直し、優秀な人材を充てて育成していくことは、企業経営にとって大切である。作れば売れ、売れれば儲かるという時代ではなくなった。売れるものを作らなければならないし、儲かるように売らなければならない。そのためには、顧客のニーズを汲み取り、斟酌して、先回りする諜報力が必要です。競合の動きを察知し、その意図を読み、有利にビジネスを進める智恵が求められる。

 だが、この営業部門を軽視している会社がある。技術系、開発系の下請け体質の会社に多い。また、経営者が技術者、開発者だとそういう傾向が強い。「安くて良いものを作れば売れる」という発想の会社である。技術力があり、商品力があるのは大いに結構なことだが、それでは営業機能を親会社に依存した下請け構造に甘んじるか、たまたま当たれば売れるが、継続して売れるものを出し続けられないという。

 営業活動を諜報活動と考えるというのは、営業活動を仮説検証活動だと捉え直すことに等しい。こちらの持つ情報をマーケットにぶつけてみて、その反応をつぶさにつかんでフィードバックし、それに基づいて次の手を打つ。間諜を送り込んで、敵国に情報を流しつつ、敵国の動きを探り、それを自国に持ち帰り、戦い方を考えるのと同じ。諜報(営業)活動によって、先知し、攻めたい先の周辺情報までしっかりと探る。その情報に基づいてターゲッティング(絞り込み)し、全軍を動かす。製造も開発も仕入も施工も物流も、すべてはマーケット情報、顧客起点の情報によって動き、それに合わせていかなければならない。

『昔、殷の興るや、伊摯は夏に在り。周の興るや、呂牙は殷に在り。惟だ明主・賢将のみ、能く上智を以て間者と為して、必ず大功を成す。此れ兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり。』第十三章 用間篇

 昔、殷王朝が天下を取った時、(のちに宰相となった有名な功臣である)伊摯は、(間諜として敵国である)夏の国に潜入していた。周王朝が天下を取った時、(建国の功臣である)呂牙は、(間諜として打倒すべき)殷の国に潜入していた。ただ、聡明な君主や優れた将軍だけが、智恵のある優秀な人物を間諜として用い、必ず偉大な功績を挙げることができる。この間諜の活用こそが戦争の要であり、全軍がそれを頼りに動く拠り所となるものである。

 間諜からの情報が間違っていたり、不充分であったなら、それを元に立てた作戦は自ずと失敗することになるし、それを信じて動かした兵隊は思わぬ罠に陥るかもしれない。信頼できる情報を得てこそ、戦争に勝つことができる。紀元前も今も、戦争は情報戦。どんな武力も兵力も、情報なくして有効に動かすことはできない。

参考・引用しました

孫子の兵法

「孫子の兵法」に学ぶ経営戦略

「孫子の兵法」に学ぶ組織・リーダーシップ