「孫子・謀攻篇(第三章)」に読むビジネスリーダー

相手を傷つけない勝ち方

 戦争では、敵国を保全した状態で傷つけずに攻略するのが上策である。敵国を撃ち破って勝つのは次善の策である。

『凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ。』

 

上策と下策

『軍を全うするを上と為し、軍を破るは之に次ぐ。旅を全うするを上と為し、旅を破るは之に次ぐ。卒を全うするを上と為し、卒を破るは之に次ぐ。伍を全うするを上と為し、伍を破るは之に次ぐ。』

 敵の軍団を無傷のままで降伏させるのが上策であり、敵軍を撃破するのは次善の策である。

 敵の旅団を無傷のまま手に入れるのが上策であり、旅団を壊滅させてしまうのは次善の策である。

 敵の大隊を無傷で降伏させるのが上策であり、大隊を打ち負かすのは次善の策である。

 敵の小隊を保全して降伏させるのが上策であり、小隊を打ち負かすのは次善の策である。

 息の根を止めるような相手を完膚なきまで攻め滅ぼしてしまう戦いをすると、そこに残るのは敗者の恨みだけです。また、疲弊した国を自領にしても、すぐに他国から攻め込まれる弱点にしかなりません。だからこそ、孫武は「負けないためには、無駄な敵を作らない方が良い」と言っているのです。

 知恵をしぼり、敵を味方にしてしまう。恨みを買うような勝ち方ではなく、相手も納得する勝ち方をする。それはスポーツマンシップに似ているかもしれません。

 

戦わずして勝つ

『百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。』第三章 謀攻篇

 100回戦って100回勝ったとしても、それは最善の策ではない。

 戦わずに敵を屈服させることこそ最善の策である。「百戦百勝」は もちろん悪いことではありませんが、最善とも言えません。100回も戦えば、こちらも相手も疲弊してしまいます。戦いでは損害が生じ、双方とも消耗してしまうからです。100回消耗戦を繰り返すのではなく、戦いは20回に減らし、あとの80回は戦わずに勝つことができれば、双方の損害は減り、敵を味方にできる可能性は高まります。

 では、戦わずに相手を屈服させるにはどうすればよいのか? もっとも良いのは、戦う前に相手に戦意を喪失させ、「かなわない」と思わせることです。現代のビジネス社会で例えるなら、絶対に負けない唯一無二の独自領域を確立し、「この分野では叶わない」と相手に思わせることができれば、戦いを回避できます。

 この独自領域は、単なる強みではありません。誰も気づかなかった、誰も手を出さなかった、誰も追求しなかった、そのような領域を開拓し、徹底的に特化しましょう。「真似しても到底追いつかない」と相手が戦意を失うほど圧倒的な強みを確立できれば、戦う必要は無くなります。

 争うことは やたらとすべきではない。しかし、争えば必ず勝たなければならない。

『戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。』第三章 謀攻篇

 戦わずに敵を屈服させるのが最善の戦略である。

 「戦わずに勝つ」、これがなぜ最善なのかというと、自社にも損害がないからである。戦って勝てば、敵よりも損害は少ないが、無傷というわけにはいかない。戦えば、仮に勝ったとしても、自社にも必ず棄損がある。値引き合戦で勝っても利益が出ない。

 この基本的な考えは、ビジネスの基本戦略であるともいえます。

 

自分が不利な場面で無理をしない

 最上の戦略とは、相手の戦略・思惑・本音を察知し、それに先制攻撃を加えることである。次善の策としては、相手に協力している者、補助をしている者を攻撃して、相手を孤立化させることである。その次は、万全の体制で戦うことです。最もまずいやり方が、相手の「城」を攻めることであるという。「城」とは、相手が得意とするもの(分野)、大切にしているもの、営業の基盤、地盤等のことである。そこを攻めるという方法は、ほかに方法がなく やむを得ない場合にだけ行うものである。相手は自信を持っているので、そこを攻めるための準備には、費用も時間もかかり、こちらの損害を少なくするための準備も必要である。

『上兵は謀を伐つ。其の次は交を伐つ。其の次は兵を伐つ。其の下は城を攻む。城を攻むるの法は已むを得ざるが為なり。』第三章 謀攻篇

 軍事力の最高の運用法は、敵の策謀を未然に打ち破ることである。その次は敵国と友好国との同盟関係を断ち切ることである。その次は敵の野戦軍を撃破することである。最も劣るのは敵の城を攻撃することである。城を攻めるという方法とは、他に手段がなくてやむを得ずに行なうものです。

『櫓・轒轀を修め、器械を具うること、三月してのちに成る。距闉また三月にしてのちに已わる。将その忿りに勝えずしてこれに蟻附すれば、士を殺すこと三分の一にして、城の抜けざるは、これ攻の災いなり。』第三章 謀攻篇

 城攻めの原則としては、おおだてや城門へ寄せる装甲車を整備し、攻城用の機会を完備する作業は3ヵ月も要してやっと終了し、攻撃陣地を築く土木作業も同様に3ヵ月かかってようやく完了するのである。もし、将軍が怒りの感情をこらえきれず、攻撃態勢ができあがるのを待たずに、兵士絶ちにアリのように城壁をよじ登って攻撃するよう命じ、兵員の3分の1を戦死させてもさっぱり城が落ちないのは、これぞ城攻めがもたらす災厄である。

 それゆえ、用兵に巧みな者は、敵の野戦軍を屈服させても、決して戦闘によったのではなく、敵の城を陥落させても、決して攻城戦によったのではなく、敵国を撃破しても、決して長期戦によったのではない。必ず敵の国土や戦力を保全したまま勝利するやり方で天下に国益を争うのであって、そうするからこそ、軍も疲弊せずに軍事力の運用によって得られる利益を完全なものとできる。これこそが、策謀で敵を攻略する原則なのである。

 「敵の城」を現代社会に置き換えるなら、「相手にとって唯一無二の領域」と言えます。「敵の城」はアウェーでの戦いです。それでも、不利を承知で戦わねばならない時には、慎重に事前準備を重ねましょう。

 アウェーだと気づかず、勝手が分からないまま相手の領域で戦うのは最悪です。本来、戦いは自分の領域に相手を引きずり込んで行うもの。やむを得ず相手の領域で戦う場合は、不利を自覚し、いつも以上に慎重に戦いを進めることを忘れてはいけません。

 準備期間が長くかかるということは、事業のタイミングを逸し、また、準備不足で攻撃すれば効果は期待できず、費用ばかりかかってしまう。そして、ついに撤退することにでもなれば、企業の存亡に関わる。これが相手の「城」を攻めることの害である。

 ライバルの戦略を見抜いて、それに先んじる、あるいは、それ以上の戦略を打ち出すことが最良の戦略と言えます。

 

敵の力を取り込んで、大きな覇をめざす

 『善く兵を用うる者は、人の兵を屈するも、而も戦うに非るなり。人の城を抜くも、而も攻むるに非るなり。人の国を毀るも、而も久しきに非るなり。必ず全きを以て天下に争う。故に、兵頓れずして、利全うす可し。此れ謀攻の法なり。』第三章 謀攻篇

 戦上手の戦い方は、敵味方すべてを保全する形で天下に覇を競うことを考える。したがって、軍の疲弊も少なく、戦利を完全なものにできる。これが謀によって敵を攻略するやり方である。

 必ず、敵味方すべてを保全する前提で、天下の覇を競うことを考えよ。さすれば、軍を疲弊させることなく、戦利を得ることができる。謀(はかりごと)によって敵を攻略する方法である。

 

勝つべくして勝つ

 事業展開するにあたっては、慎重に事業計画を立て、勝算がなければ進めてはいけない。無謀な挑戦は命取りとなる。

『用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり。』第三章 謀攻篇

 戦争の原則としては、味方が十倍であれば敵軍を包囲し、5倍であれば敵軍を攻撃し、倍であれば敵軍を分裂させ、等しければ戦い、少なければ退却し、力が及ばなければ隠れる。小勢なのに強気ばかりでいるのは、大部隊の捕虜になるだけである。

相手と自分を知り尽くす

 相手の実情や実態を知って、自己の状況も知っていれば、危険な状態には陥らない。

 相手の実情を把握せず、自分の状況だけ知っているなら、勝負は五分五分である。

 相手のことも自分のことも知らなければ、戦うたびに必ず危機に陥る。

 注目すべきは、相手と自分のことも知っていても、「危険な状態には陥らない」と言うだけで「戦いに勝つ」「百戦百勝」とは言えない点です。敵の方が自軍より優れている場合には、戦いを回避する(逃げる)という選択があるからです。

 相手も自分も分かっているのに負けるのなら、本当にそうなのか真摯に自問自答してみましょう。単にがむしゃらだけで戦いには勝てません。

 勝算がなければ、戦いは避けるべきである。小さな兵で大きな兵に挑めば、格好の餌食となる。

 戦う前の作戦会議の段階で、勝利する方には勝算があり、負ける方には勝算がない。実際戦ってみても、勝算があった方が勝つ。当り前のことのようだが、負ければ死に、国が滅ぶわけだから、勝算もないのに「当たって砕けろ」と指示するわけにはいかない。  企業経営も同様である。経営戦略や経営計画、年度方針、場合によっては将来ビジョンなどがある。そこに充分な勝算があるか、その通りに事を進めれば「勝てる」という確信が持てているのか。とりあえず成り行きで数字を作り、とにかく頑張ろうという計画では意味がない。

自分の分を知り、意地を張らない

 自分の兵力が劣っているのは明らかなのに、無理をして大きな兵力に戦いをしかけても、敵の餌食になるだけである。

 実力が劣っているのに、「負けるはずがない」「たとえ大敵でも負けてなるものか」と根拠もなく戦うのは無謀です。それは弱者の意地に過ぎず、ほぼ負けるでしょう。

 「小よく大を制す」という言葉があるように、とかく小さな力の者が大きな敵を倒すことを賛辞する考え方があります。しかし、これを鵜呑みにしてはいけません。自分の兵力を冷静に見極めなければ、負けない仕事、負けない生き方はできないのです。

 孫子は、戦って良いのは、自軍が敵軍と同等以上の兵力を持っている時だけと言っています。自軍の兵力が低ければ撤退する。まったく及ばないのなら、敵との衝突自体を回避する道を選べと言っています。

 撤退を選択して長期的に負けない方向をめざすのは決しておかしくはありません。意地を張っても負ければ終わりです。勝たなくても、負けなければ いつか必ずチャンスは巡ってきます。

 ビジネスでは、強者と弱者の立場ははっきりしています。シェアで勝る企業、強力な商品を持つ企業、全国展開する企業など、戦力を計るモノサシはいくつもあります。全ての戦力面で自社を上回るライバル会社に真正面から勝負を挑んでも、勝てる見込みはありません。そこで、「強大な相手の商品とは差別化した商品を開発する」「相手の営業が及ばないテリトリー外のところに拠点を築く」「ゲリラ的に広告・宣伝を行う」といった戦略です。

弱者は隙を突いたゲリラ戦に打って出る

 孫子は、逃げるのも一つの戦法であり、弱い立場にある者でも戦機を見つけて戦いを挑めばよいと説いています。強大な敵の隙を突き、真正面から衝突するのではなく、ゲリラ戦に徹した戦いをするのが弱者の戦い方なのです。

「孫子の兵法」から発展したドラッカーのマーケティング

 マーケティングの中には「競争戦略」がある。いかにして競争相手に勝つか。ドラッカーが捉えるマーケティングは、「勝つべくして勝つ」という「孫子の兵法」そのものである。

 ・われわれの事業は何か

 ・顧客は誰か

 ・顧客はどこにいるか

 ・顧客は何を買うか

 ・顧客は何を価値と見るか

 ・顧客の満たされていない欲求は何か

 ・競争相手は誰(何)か

 このように、自らが置かれている環境の中で、多角的な視点で、わが社の「勝ちパターン」を見つけ出し、それをプロセスとして体系化し、具体的な組織レベルや行動レベルにまで落とし込んでいくことが本来のマーケティングある。

 具体的に、どんな商品・サービスを提供するのか、いくらで販売すべきなのか、どんな見せ方・紹介の仕方をすべきなのか、どこで販売すれば良いのか、といったことにまで落とし込んでいかなければならない。

 これらのことを体系立て、整理し、限られた経営資源で、効率良く市場に働きかけるには、どのすれば良いかなどの道筋(勝ち筋)を見出すことが必要である。

 ドラッカーは、マーケティングの理想は販売を不要にすることである。そして、マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に商品とサービスを自ら売れるようにすることであると述べている。

 顧客の心を鷲掴みにし、買いたくなるように仕向けること、これがドラッカーのいうマーケティングの本質である。ここで必要なことは、「顧客の立場」で「顧客が何を求めているのか」をキャッチし、それに合った商品やサービスを提供することです。さらに、製品発表の仕方やタイミングなどにも工夫が必要となってくる。

 ミッションは、「何を行うべきか」とともに「何を行うべきでないか」を規定する。企業としての成果を最大にするためには、自らがミッションとするものに徹底して的を絞らなければならない。経営資源の集中である。その上で、「われわれの顧客は誰か」を見極め、「顧客にとっての価値は何か」を明らかにしていく。これがマーケティングである。

 顧客にとっての関心は、自分にとっての価値、欲求、現実である。現実の中に潜む欲求の種を探し出し、顧客ニーズに合った製品やサービスを生み出し、その顧客に価値を提供する。そのためには、顧客ターゲットを絞る必要がある。

『将は国の輔なり。輔、周なれば則ち国必ず強く、輔、隙あれば則ち国必ず弱し。』第三章 謀攻篇

 将軍は国家の補佐役である。補佐役が君主と親密で意思疎通が図れていればその国は必ず強くなるが、補佐役と君主の間に隙間ができ、関係がギクシャクすると弱体化する。

 

現場を知らない経営者、管理者は害悪 経験知を活かせ

 管理職とは、社長の大切な補佐役であり、管理職と社長との関係がうまくいっている企業は成長するが、そうでなければ企業は衰退する。  

 次のような場合は、社長と管理職の関係はよくない。

1.市場の状況が積極的な事業戦略を行うべきではないのに、それを知らない社長が管理職に積極的な営業を命令し、逆に積極的な営業が必要なときに それを止めたりする。

2.営業現場の経験もなく内部の事情も知らない社長が、管理職の頭ごしに社員に直接命令をする。社員はどちらに従うか迷ってしまう。

3.その時々の営業現場の事情により臨機応変に対応していることを、社長が 原理原則ばかりをいって干渉する。社員は社長の能力を疑ってしまう。

 管理職や社員が会社に対して迷ったり疑ったりして、組織がうまく機能しないようになると、企業の競争力も落ちて、他企業に付け込まれてしまう。

 組織力(社長、管理職及び社員のそれぞれの責任の認識と協力関係)がなくては、企業の成長はない。

 会社においてよくあるシーンといえるのではないでしょうか。特に大企業において現場のことをよく知っているのは、社長ではなく現場の幹部・管理職です。よく知りもしないのに口出しをすれば、社員たちは戸惑い、上司を疑うことになります。

 トップは現場が働きやすい環境を作り、現場は部長や課長などの現場の指揮官に任せて干渉しないことが大事です。現場のことは現場に任せて、幹部・管理職のサポーターに徹するべきなのです。現代のようなマーケットがすごいスピードで変化している状況においては、トップが細かい事に口出しせずに、現場にある程度の決裁権を与えて部下に任せるほうが変化に強い組織になります。

 業務プロセスの標準化を図り、現場の実体をつかみ、的確な指示が出せなければ、経営者や管理職の指示命令によって社員行動を妨げることになりかねない。

 現場も見えず、現状も ろく に把握してもいないのに、「ああしろ、こうしろ」と指示をすれば、現場はかえって動きにくくなり、経営者や管理職は邪魔な存在となる。では、現場任せにして余計な口出しをしなければ良いかというと、そうではない。特に小さな会社では、経営者が現場のことにまで気を配り、指示する必要がある。

『君の軍を患わす所以の者三あり。軍の以て進む可からざるを知らずして、之に進めと謂い、軍の以て退く可からざるを知らずして、之に退けと謂う。是を軍を縻ぐと謂う。三軍のことを知らずして、三軍の政を同じうすれば、則ち軍士惑う。三軍の権を知らずして、三軍の任を同じうすれば、則ち軍士疑う。三軍既に惑い且つ疑わば、則ち諸侯の難至る。是れを軍を乱して勝を引くと謂う。』第三章 謀攻篇

 君主が軍隊に患いをもたらす3つの原因があることを知るべきである。

 1つ目に、軍が進撃してはならない状況にあるのを知らずに、進撃せよと命令し、軍が退却してはならない状況にあるのを知らずに退却を命令するようなことでは、軍事行動を阻害し、拘束しているに過ぎない。

 2つ目に、軍の内情をよく知らないのに、軍内の統治を将軍と同じようにしようとすると、兵士たちはどちらの指示命令に従えば良いのか惑うことになる。

 3つ目に、軍における臨機応変の対応に通じていないのに、将軍と同じように現場で指揮を取ろうとすると、兵士たちは疑念を抱くようになる。軍全体に戸惑いや疑念が広がるような事態になれば、それに乗じて周辺諸侯が攻め込んでくるようなことにもなる。軍の指揮命令系統をかき乱して敵に勝ちを引き渡しているのである。

 軍隊が迷って疑うことになれば、外国の諸侯たちが兵を挙げて攻め込んでくる。これを「軍隊を乱して勝利を取り去る」というのである。

 「逃げる」という事は、敗北を意味するのではなく、「次に勝利するための準備で、積極的な作戦である」と認識しましょう。

 

それぞれの立場を超越して同じ目的や同じ目標を持て

 組織において、立場が違うと対立が発生しやすいのですが、経営者と労働者、上司と部下、親会社と子会社など、それぞれの立場を超越して同じ目的や同じ目標を持てた時は凄い力を発揮することができます。

 他社が経営者と労働者で対立してストライキをしている時に、かたや自社は経営者と労働者が顧客のために心を一つに頑張って働いて、稼いだ収益で経営者も儲かってそれを労働者に還元することができれば、その会社はますます伸びていきます。

 優れたリーダーとは、立場の違う者に同じ目的と目標を示して、上下の利害を一緒にして引っ張っていける人です。

 

戦いのタイミングと組織編成の重要性

 戦いに臨むに際して、孫子は5つの重要性を説いています。

 第一の戦ってよいときと戦いを避けるべきとき。これは、行動を起こすときのタイミングの重要性を説いています。

 マーケットの状況が悪いときに、新商品を売り出すなど愚の骨頂。タイミングをうまく計って行動を起こすことです。

 第二の大軍の動かし方、小部隊の動かし方については、組織の編成についての重要性を説いています。

 小規模の会社なら、一人のリーダーが指揮権を握った上で、全員に意思伝達が可能です。しかし、何百、何千といった大きな組織となると、事情は変わってきます。トップ一人で全員を束ねることは困難です。そこで、大人数をいくつかの組織に分けて、各小組織にそれぞれリーダーを据えます。そして、トップから末端の兵士まで意思伝達がスムーズに伝わるようにしなければなりません。

 第三に、一つの目標に向かって組織が一丸となって邁進しているかどうか。

 リーダーから人心が離れれば、組織はあっという間にバラバラになってしまいます。上に立つ者と従う者の心が離反してしまっていては、組織がうまく機能しません。

 部下たちの心を一つにまとめあげるには、リーダーは難敵に対して一歩もひるまない断固たる姿勢をもって臨むという姿勢をアピールしなければなりません。

 第四は、戦う前の用意周到さの重要性を説いています。

 第五は現場主義の重要性です。

 

勝利を知るための条件

 企業を取り巻く様々な外部環境やライバル企業の動向を理解し、自社の状況・強み・弱みを理解し、それに基づいて戦略を立てれば、成功することが出来る。

 成功するには五つの条件があります。

1 事業展開をすべきか否かの判断が出来ること

2 組織の力量に応じた戦略が立てられること

3 経営者と社員が同じ理念・方針を共有すること

4 慎重に計画・準備をした上で、ライバルより先んじて行動すること

5 リーダーが有能で、トップがリーダーに信任を与え干渉しないこと

 こうした五つの状態が揃っていれば、企業は勝てる、発展できる。経営の本質をついた、五つの「あるべき状態」の姿である。

『勝を知るに五有り。以て戦う可きと、以て戦う可からざるとを知る者は勝つ。衆寡の用を知る者は勝つ。上下の欲を同じうする者は勝つ。虞を以て不虞を待つ者は勝つ。将の能にして君の御せざる者は勝つ。此の五者は勝を知るの道なり。』第三章 謀攻篇

 謀攻篇では、5つの条件を出して、それに当てはまっているかどうか、それができるかどうかで、戦いに勝てるかどうかの判断をするようにと教えた。

 ・敵と自分の戦力を比べ、戦うべきかどうかの判断ができる

 ・その兵力に応じた戦い方ができる

 ・君主とその配下が心を一つにしている

 ・こちらは準備万端整え、相手の不備につけ込む

 ・将軍が優秀で、君主がその指揮に干渉しない

 

リーダーに求められる4つの資質

1 熟慮・・・よく考えて動く

 「Aをしたいとき、Bをすればうまくいくから、Bをしょう」といった具合に、まず考えてから動く。

2 協調 チームワークを保つ

 「ひとり は みんな のために。みんな は ひとり のために」を心がけ、自分のペースで動かない。

3 調査 敵のことを調べる

 「敵はどういう相手で、どこが強くて、どこが弱いか」など、事前の調査を欠かさない。

4 統率 みんなを従わせる

 自分が「○○するぞ」と言ったことにたいし、みんなも「○○しよう」と言うように従わせる。

 

敵のことも知り、味方のことも知る

 戦いは、己を知るところから始まります。

『彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。』(第三章 謀攻篇

 一言でまとめると、「敵を知り、自分を知っていれば百戦しても負けない」 「敵を知らず自分を知っていれば戦いは五分五分、敵を知らず自分の事も知らなければ必ず負けるだろう」と孫子は言います。

 ビジネスで言えば、「顧客」を知ること、「自分の強み」を知ることに置き換えられます。情報を集めれば必ず勝てるということです。無用な戦い、消耗は避けて、確実に勝てる方向性を探ることが重要である。それは、戦うというよりも、求める成果さえ手に入れば良いと孫子は言っています。

 現実的な自社の置かれた経営環境、開発力、生産力、営業力を確認すれば、それを生かした戦い方をしなければ、勝つことはできません。

 敵を知るとは、マーケットを知り競合他社の状況を知ることであるが、自社の状況についても冷静に判断することが重要です。そうしてから戦えば、あやういことはないということをうたっています。「危険がない」だけで「百戦百勝」とは言っていない。敵と味方を知ることが、ビジネスにおけるスタート地点ということではないでしょうか。

 敵の実情を知らなくても、自分を知っていれば勝てることもあるが負けることもある。しかし、自分を知らなければ全ての戦いで負けてしまう。

 組織の実情を知るためにも、情報共有が欠かせません。不透明な部分が多ければ多いほど、「己を知ること」ができなくなり、勝てる勝負も勝てなくなります。  組織やチームが「己を知る」ためには、きちんと情報を共有できる仕組みと共有できる信頼関係の構築が重要です。

 敵の動きをつかみ、味方の把握もきちんとできていれば、百回戦っても危なげなく戦える。これは、敵の方が強くて味方が弱いと分かれば逃げることも含まれているから、百戦百勝ではなく、百戦殆うからずとなる。敵の把握は不充分でも、味方の掌握はしっかりできていれば、勝ち負けは五分五分となる。敵の把握もできておらず、味方の動きもつかんでいないとすれば、毎度毎度危ない目に遭う。この一節は、企業経営、マネジメントの要諦を示している。競合対策もどうだろうか? 現場任せや営業任せになっていないか? 敵のことを知らない将軍が指揮をとっては、それこそ孫子の兵法に反することになる。

 彼を知り己を知れば、当然そこに軌道修正や指導がなされて、マーケットニーズと自社の対応状況とのマッチングが行われなければならない。何もしないのでは知った意味がない。それは、当然のことながら、タイムリーに日々日々行われなければならない。マッチング作業が週単位、月単位、四半期単位で行われていては、常に変化するマーケットニーズに対応することなどできない。特に小さな会社が経営スピードで勝負しようと思えば、ここのサイクルを速くすることは必須である。

 ここにおいて、必須となる3つの機能、「マーケット情報収集機能」「自社対応状況管理機能」「日次行動修正機能」を整備し、スピードアップし、精度向上させることがマネジメント力アップにつながる。

自社の強み、弱みを知る

 自社はどの市場で優位にたっているのか、どの商品分野が強いのかなどを知ることである。自社、他社、顧客、周囲の環境をよく認識した上で、経営に臨むことが肝要である。

 会社経営・ビジネスにおいては、SWOT分析(強み(Strength)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の分析)が相当すると思います。その中でも、自社の強みとそれを投入する機会(顧客等)をしっかり把握することが重要です。

 企業に実力以上の勢いをつけるためには、充実した人員と強みをもって、ライバルの弱みや意表を突く方法をとるのがよい。

 企業において、顧客や競合他社の動向と同時に自社の前線の状況を把握しておくことが重要である。さらに、「孫子」では、これに先立って、時勢の把握、用兵の熟知、人心の一致、周到な準備、有能なリーダの五つを勝利のコアコンピタンスとして取り上げている。 

 このことは、現代の企業におけるリスクマネジメントやコンティンジェンシープランにおいても通じる。

 ビジネスでは、戦う前に目的目標となる市場や顧客、敵であり障害となる競合他社をよく調べましょう。

 まず、市場の状況はどうか、顧客は何が欲しいのか、顧客の決裁者は誰か・予算を出すのは誰か・製品を選ぶのは誰か、予算はいくらか・納期はいつか・製品サービスを選ぶポイントは何かなど、マーケットや顧客について調べましょう。

 次に、競合他社の戦略・組織・製品・担当者・企画内容・提案内容など、敵についての情報も調べられる限り調べましょう。

 自社についても冷静に分析しましょう。ヒト・モノ・カネは充分か、製品やサービスはマーケットの求めるものに合致しているか、競合に勝っているかなど冷静に分析しましょう。

 これらの顧客・競合・自社の情報をよく知っておけば負けることはありません。

 仮に分析の結果、自社が劣っていて どうやっても勝てない場合には、戦わないという選択をすれば負けません。

 ライバル企業の状況、自社の状況、市場、地域の状況、経済の時流、事業のタイミング等を正しく把握すれば、確実に成功できる。

 企業に実力以上の勢いをつけるためには、充実した人員と強みをもって、ライバルの弱みや意表を突く方法をとるのがよい。

 顧客ニーズや競合の動きをつかみ、自社の対応状況をつかんで、日々その修正を行うことはマネジメントそのものである。

 「彼を知る」とは、顧客ニーズや競合の動きなどマーケット情報をつかむことであり、これが企業経営の出発点となります。そして、つかんだ顧客ニーズに対応し、競合の動きに対抗する自社の営業活動状況をつかんでおくことが「己を知る」ということです。さらに、そのマッチングを日々行う仕掛けを構築します。営業マネジメントの基盤を整備することで、当り前のことを当り前に行える営業組織を作ります。

経営・マネジメント へ

「仏法真理」へ戻る