孫子に読むビジネスリーダー

第一章 計篇

経営は企業の大事である  

 営業活動は、企業にとって一番大切なものである。営業活動なくして企業は成り立たない。従業員全員の生活がかかり、企業の存亡に関わる 命がけの仕事なのである。

経営者は、企業の存亡をかけた大きな決断をする際に、一時の欲望や感情に駆られることなく、様々な角度から慎重に検討したうえで、決断すべきである。

孫子は、戦争の重大さについて触れ、それを徹底して研究するのは当然のことであると指摘している。孫子の言う兵、戦争は、現代の企業では「経営」と置き換えることができる。

 戦うということはお金も人も資源も多くのものを使います。ビジネスも同じ。だからこそ、じっくりと行うべきかどうかを考える必要があります。

 事業とは、「社会貢献という利益」を与えることにより、その「対価としての正当な利益」を得ることが目的(大義名分)である。

 経営において、情報の収集とその活用は成果を実現させる最も大切な要素であって、マーケティングの最も根幹をなす考え方です。顧客が何を欲しているかという情報がわかれば、「百戦してあやうからず」の状況が実現されます。最小の経営資源で最大の成果を得るのは、情報が最も肝要な要素であり、時代を超えて基本戦略になります。

 現代の経営においても、競合他社と戦う前に本当に戦うべきかよく検討する必要がある。価格競争のような消耗戦を仕掛けて目の前の戦いに勝ったとしても、それは自社の利益が減り経営体力を奪うことに繋がります。  たとえそれで何度か勝つことができても、そのような戦いを続けていれば、いずれ滅びることになるでしょう。  以上を心得ている経営者が社員を動かす場合は、ちょうど満々とたたえた水を戦陣の谷底へきって落とすように、万全の体制を整えて、一気に集中して、目標達成に向かって活動させる。だから成功するのである。成功する事業は、万全の体制を整えて事業活動を行っているから成功する。失敗する事業は、基本をわからずに活動しているから失敗するのである。

 

五事と七計 

五事

 戦争に突入するかどうかの判断をするための5つの基本事項を説きます。

 孫子は、存亡を左右する戦争において、徹底研究すべきテーマを5つ挙げております。「道・天・地・将・法」の5つの条件が整っているかどうかで、戦争をするかどうかを判断することが大事と言っています。

 企業経営においては、

 1 経営理念や組織としての使命感

 2 時流、トレンドや環境変化

 3 事業構造や競合状況

 4 経営者やリーダーの資質

 5 組織体制や制度・規則

と考えれば良いでしょう。

 第一に、経営理念や使命感が明確になっていて、社員と共有されていなければならない。自社が何のために存在し、どこへ行こうとしているのか、それによってどのようなプラスが世の中に生じるのかを明らかにしなければならない。真・善・美を感じる仕事をするからです。

 第二に、それが時流やトレンドに合っているかどうかを考えてみる。理念や使命感の発露を時流や環境に合わせると言っても良い。真はともかく、善や美は時代によって移り変わる。独りよがりな思い込みでは経営にならない。

 第三に、自社の事業構造、収益構造を見直し、競合とのポジショニングを考える。自社の収益構造がどうなっているのかをつかみ、利益を生み出す仕組みというものを知ること。その上で競合との差別化を考える。

 第四は、経営者、管理者について考えます。物事の本質を見抜く智。部下や取引先からの信頼。部下を慈しみ育てる仁の心。困難に立ち向かい信念を貫く勇。組織を動かすルールを徹底し処断する厳しさ。人の上に立つ人間が「智・信・仁・勇・厳」の要素を有しているかどうかを見る。

 第五には、組織体制や制度・規則が有効に機能しているかどうか。人事と言っても良い。何を評価し、それをどう処遇するかが明確になっていて、それが戦略と整合しているかどうかが重要である。

「道」とは道義のこと

 「道」とは、民の意志を統治者が考えている意志に同化させること。平時からこれが実現されていれば、戦時において、統治者の命令について民衆が疑いを抱かずに、行動させることが可能になる。ビジネスに置き換えると、上司と部下のコミュニケーションを円滑にして、メンバー全員のベクトルを一致させることが大切だと説いています。

 孫子は上に立つものと民衆の心がひとつになることが肝心だと説いています。

 リーダーとメンバー、マネージャーとリーダー、役員と社員など、立場が違っていても、同じ方向を向いている組織は強い組織であると解釈できます。

 どうやって同じ方向を向いているチームを作れるのでしょうか? 同じ方向を向いているとは、メンバーとリーダーが共通の目標を共有できており、同じ認識を持てている状態だと仮定することができます。

 組織として、共通の目標があり、上司や部下ともに認識が合っていることが大事です。

 新しい組織やなかなか成績の出ないチームでは、以下のようなことはないでしょうか?

・メンバーに部のミッションが伝わっていない

・危機的状況にも拘わらず全くメンバーに一体感がない

・営業メンバーがなかなか成長しない

 その戦争に納得するだけの「大義名分」があるのか? 大義名分があれば、国民も納得し賛成してくれるはず。そうすれば、「主君と生死をともにする」という気持ちにもなる。  

 ビジネスで言えば、そのビジネスをやってなんの問題が解決し、誰が幸せになるのか? 

  ミッションやビジョンがしっかりとあるのかどうかということ

  事業理念  ビジョン  製品で実現する未来  顧客の欲求

理想的な社会組織としての理念を誠心誠意つくり、社員に明示する

 会社の理念を明示し、全社に周知徹底させたうえで、経営計画の「道」、すなわち目標を設定します。

 一つは、自社の生存領域を明確にすること。それが結果として会社のアイデンティティを形成・強化することにつながります。

 もう一つは、他に類のない価値の創造を見据えることです。

 この二点を踏まえて、経営計画の目標を設定すれば、組織は知力を尽くした創造活動の場となり、新しい商品・サービス・システム・ビジネスモデルが次々と生み出されるようになります。

「天」とはタイミングのこと

 時流や季節、天気などを考慮して今すべきことなのかどうか? ビジネスで言えば、世界情勢、時代の流れ、成長市場なのか、衰退市場なのか。社長個人レベルで言えば、自分の人生の中で今すべきことかどうかということ。天とは「強み」が活きかつ活かされる機会です。

   世の中の情勢  マクロ環境(政治、経済、社会、技術など)

地」とは場所のこと

 どの場所でことを起こすのか? 場所の優位性、地の利があるのか? ということ。 ビジネスで言えば、どの市場に参入するのか? ということ。細かいレベルで言えば、どの地域で店を出すのか? ネットか? 女性向けか? なども場所、市場ということです。

  戦う場所の状況  ターゲット市場  既存のバリエーション  競合分析

「将」とはリーダーのこと

 リーダーが立派かどうか、信頼されているか? ということ。いかなる優れた戦略であっても、リーダーがマヌケではうまくはいかない。  

 ビジネスで言えば、社長やプロジェクトリーダーが信頼される人物か? 指揮をとることができる決断力を持っているか? ということ。

社会人にリーダーとして求められる5つの資質(要素)  智・信・仁・勇・厳

 将軍とは、知謀、信義、仁慈、勇気、威厳などの器量を備える者である。

 将軍に必要な素養は、知力、部下からの信頼、部下を思いやる心、勇気、部下から恐れられる威厳、この5つであると孫子は説いています。これは現代のリーダーにおいてもそのまま当てはまる条件です。「知力だけでなく勇気(実行力)が必要」「部下から恐れられるだけではなく、信頼が必要」。5つをバランスよく備えるリーダーでありたい。

 ・社会の情勢や求められる仕組みなど常に外にアンテナを向け(

 ・社会のルールを守り(

 ・難しいプロジェクトや仕事にも前向きに挑戦し(

 ・独りよがりな仕事、立場を利用しない(

 ・事を肝に銘じて動いていれば社会からの信頼も受け入れてもらえる()。

「法」とは軍の力のこと

 軍の能力はどうか?ということ。戦争を実行するのは軍。軍が強いかどうか? 武器は?資金は? 編成は? 配置は? 足の速さ、食料は? と言った様々な要素で軍の力は決まります。

 ビジネスで言えば、業態と組織のこと。武器は商品サービス。マーケティング戦略の実行、マネジメント、オペレーションといった実行に関することです。

 これらの条件が揃って、初めて戦いに出る決断ができると孫子は言っています。相手と自分を見比べて、これらの基本的な条件をどちらが満たしているかで、勝てるか勝てないかの判断をする。「勝てない戦争はしない」というのが孫子の鉄則ですから、おのずと戦争をするかしないかの決定もすることになります。

 勝敗の鍵は「道」「天」「地」「将」「法」にある。この五つの要因を企業にも通用する言葉で言いかえれば、「道」『理念』「天」「地」『環境』「将」『現場の指揮官』「法」『経営システム』ということになる。これらの定義は、現代のビジネスにおいての組織のあり方や、戦略の進め方にも通用する普遍性を持ったものであるといえます。

 企業経営について考えるなら、『戦略』をあげることができる。

 理念、戦略、現場の指揮官、経営システム、この四つが経営の成否を決める企業の内部変数で、企業を取り巻く外的要因として環境があると孫子の言葉を読み解くことができる。孫子は、道あるいは理念を最も大切と考えている。

 孫子の説く五事は、事業計画や商品計画にも応用できます。

事業計画

 「道」・・・他にない価値は何か

 「天」・・・社会のどのようなニーズに応えるか

 「地」・・・市場におけるポジショニングをどう取るか

 「将」・・・発揮すべき必須の能力は何か

 「法」・・・どういう組織で行うのがベストか

 商品計画

 「道」・・・商品コンセプトをどうするか

 「天」・・・どのようなトレンドに応えるか

 「地」・・・自社の既成商品に対して、どのようなポジショニングを取るか

 「将」・・・どんな能力のある者をリーダーにするか

 「法」・・・商品が優位性を持つための条件は何か

 

七計

 「七計」は、敵対する相手との戦力比較をするための項目です。

 ビジネスの場合、明確な商売敵が存在する場合は少ないので、五事と同じように自らのとして考えればよいと思います。

1.リーダーは人々の心をつかんでいるか

  どちらの経営者の経営が良いのか   

  どちらの価値創造が素晴らしいか

  自分たちの商売は、お客様に支持されているか

2.将軍が優秀か

  どちらの役員が有能なのか  

  →良い人材を幹部登用しているか

3.戦う環境が有利か

  どちらが外部環境やマーケット環境に合致しているか  

  →市場の状況

4.ルールや仕組みが守られているか

  法令が行き届いているか  

  →組織力、意思決定の早さ

   雇用者がいるときのルールは徹底できているだろうか

5.兵力は大きいか

  どちらの営業力・開発力が強いのか  

  →社員の資質、胆力  

  雇用者のスキルチェックを確認し、戦える武器(ビジネスツール)を用意できているだろうか

6.兵士が訓練されているか

  どちらの組織力が強いのか  

  →社員の熟練度  

  雇用者の訓練を行い。常に最善の対応ができるように鍛えてやれているだろうか

7.賞罰が分かりやすく行われているか

  賞罰はどちらが公平に行っているか

  →報奨、適正評価・査定

 

競争・交渉をうまく進めるには

 様々な駆け引きを持って得られる『勢い』は、有利な情況を見抜いた上で臨機応変に対応することで生まれるものである。ビジネス上で「これだけは譲れない」という一線を決め、そこに引き寄せるために臨機応変に対応していくことが重要です。

 孫武は、呉王に対して泰然と自分の採否の決断を迫りました。5つの要点をもとに自分のモノサシ(判断基準)を定めたら、安易に意見を曲げることなく、異論に対して自らの考えをきちんと主張しましょう。孫武のように「聞き入れないのなら辞めてやる」くらいの覚悟が時には必要です。孫子は国王に迎合してまで将軍になろうとはしなかった。戦争の素人である国王がプロである孫子の言うことを聞かないようでは戦争で勝てないからです。あくまでも孫子の考えを理解し、賛同してもらわなければならない。それが先決であって、もしそれができないなら、自ら去ると宣言した。

 

経営とは相手を欺くこと

 『孫子』では、「戦争とは、敵を欺く行為である」と書かれており、戦争の本質を「詭道」だとしています。また、「戦争はまず正攻法で相手にあたり、奇策によって勝利する」ともいい、真向から勝負するのではなく、意表を突くことを説いております。

 作戦なしに戦うことによって、両軍に被害が生じ、利益の損失が発生することを避けよといっています。ビジネスにおいても同様だといえるでしょう。

 孫子の言う詭道とは 相手を欺くこと。ここで言う相手とは、競合先と顧客の二通りで考えることができる。こちらの動き、実力、考えなどを競合先に悟られないようにし、相手の裏をかかなければならない。馬鹿正直にこちらの手の内を見せるようなことをしてはならない。

 相手の手の内を読みながら、こちらはその裏を行く詭道で攻める。攻めると見せかけて退き、出来ないと思わせて、裏で虎視眈々と準備を進めるのです。それぞれ、強くとも敵には弱く見せる、遠方にあっても近くにいるように見せる、低姿勢に出て敵を驕らせる、相手の無防備を攻めたり予想していないところに出るということで、すべて相手を欺き、相手の裏をかくような行動である。

 相手を顧客とした場合、顧客満足とは顧客の期待を超えることであり、顧客の期待を良い方向に裏切る詭道である。期待に応えるとは予想通りということであって、不満足は生まないが満足度を上げることにはならない。顧客の評価は、事前の期待値と商品なりサービスなりを購入した後の実績値とのギャップの大きさによって決まる。高いものが上等だったり美味しかったりするのは当然である。  普通は商売だから、顧客の期待値を高めようとする。当然のことであって、それが悪いわけではないが、詭道ではない。敢えて期待値を下げてみることもあってよい。

 顧客が考えていないことを考えよ。顧客にニーズを聞いているようでは、ただの御用聞きである。

 顧客を良い意味で裏切り、欺くことができなければならない。そのためには、顧客をよく理解し、自社の商品力を高めておくべきなのは言うまでもない。

 戦はあくまで敵を倒すことを目的とするものである。しかし、企業の競争は競合相手を打ち負かすことが目的ではない。顧客を獲得すること、顧客の満足を競合相手よりもより多く勝ち取ることを目的としている。競合相手を負かしても、顧客にそっぽを向かれるのなら、戦略に意味はない。顧客を欺き裏をかくのは、企業戦略の基本にもとる。顧客を相手に偽りの道は長期的には成立しない。しかし、競合相手の裏をかく、競合相手の動きを巧みに利用する、という意味での詭道は、戦略としてありうる。競合相手の裏をかいて、より顧客の満足を勝ち取るという意味での「詭道」である。

 あるいは、「顧客を驚かす」という意味での詭道ならば、戦略としてありうるでしょう。

 顧客が新しい製品を使って、「大いに驚き、感動する」ことで、市場は大きく動く。それではじめてイノベーションが実現するという。

情報戦を制せよ

 戦力は、ビジネスにおいては資金力であったり、社員のスキルであったりします。例えば、新規事業に参入しようとすれば、経営者は事業計画書を策定します。勝算(=ビジネスでの成功)の見込みを立てるには、自社の競争力、ライバルの動向などマーケットの状況をつぶさに調査しなければなりません。

 また、戦場においては、戦闘がビジネスで新規事業をスタートさせたときは、市況などが刻一刻と変化していきます。指揮官はその状況を見極めながら、臨機応変な対応を取らなければなりません。戦い方を変えなければならないこともあれば、時には撤退も考えなければなりません。そういった判断を正しく下すには「情報力」が必要です。

 戦略を立てるには、戦況やマクロ環境の情報をいかに集めるかというのが重要になります。

 ただし、単に調べものをすることだけではありません。戦う相手も同じように情報を集めているのですから、まさに「情報戦」を勝ち抜く必要があるのです。それゆえ、強くとも敵には弱く見せかけ、勇敢でも敵には臆病に見せかけ、近づいても敵には遠く見せかけ、遠方にあっても敵には近く見せかけ、敵が利を求めているときにはそれを誘い出し、敵が混乱しているときはそれを奪い取り、敵が充実しているときはそれに防備し、敵が強いときはそれを避け、敵が怒りたけっているときはそれをかき乱し、敵が謙虚なときはそれを驕りたぶらせ、敵が安楽であるときはそれを疲労させ、敵が親しみあっているときはそれを分裂させる。こうして敵の無備を攻め、敵の不意をつくのである。

 競争に勝つには、したたかな駆け引きが必要である。経営とは、良い意味で相手を欺くことであって、相手の考えていないことを考え、新たな価値を生み出すことで驚きを与えるものでなくてはならない。当り前のことができていないのでは話にならないが、当り前のことを当り前にやっているだけでは、儲けることはできない。差別化差異化独自性と考えれば、企業経営においても必須であることが分かる。

 

計画失くして経営なし

 机上で勝ちがイメージできないのに、実戦で思うように事が運ぶはずがない。計画なくして経営なしである。

 計画性のない投資は失敗します。成功するためには、慎重に計画し、リスク管理を徹底し、勝算を立ててから投資すべきです。

 孫子の兵法では、当たって砕けたら死ぬ、負けたら死ぬ、という命がけの判断にあるという。経営者は社員の命を預かっていると考えてみてはどうか。管理職は部下の命を預かっていると考えてみよう。勝てるかどうかも分からない戦いに社員や部下を追いやるだろうか。戦場に投入する前に、勝てるかどうかを吟味し、慎重に命令を下すのではないか。きちんとストーリーを描き、計画を立てて、シミュレーションしてみるのではないか。

 そもそも、計画やストーリーは、その通りに行くことだけのために作るものではない。少しでも計画からズレたら、すぐそれに気付き、早めに修正を行えるようにするために計画がある。ズレるから計画するのであって、計画通りに事が進むなら、なんでも思い通りになるということだから、計画など不要である。

 机上の空論段階、すなわち計画策定段階で「勝ち」がイメージできないのに、実戦で勝つことはないし、社員が納得、得心して取り組めませんから、組織を動かすこともできません。まずは、勝つための戦略ストーリー、その展開計画を明確にしていきます。

 

 

第二章 作戦篇

拙速と功遅

 作戦で大事なのは、短期決戦をすべきであって、戦いは長期に渡ってはいけない。

 ビジネスで言えば、利益を出すまでの期間が長いと消耗戦で潰れてしまいます。例えば、最初の投資額が大きく、利益が出るまでに何年もかかるビジネスであるとか、最初の計画が甘く、スタートしてみたら利益が出ずに、広告で集客し続けて消耗戦に流れ込んでいたりと言った場合です。

 事業の成否の判断は、早めに下すべきである。希望的観測や見栄でその判断を長期間先延ばしすると、損失は多大なものになる。そのリスクを十分に認識しなければ、事業で成功することは出来ない。

 計画段階、戦略立案段階では、勝てるイメージができるまでしっかり練り込まなければならないが、いざ実行段階になれば拙速を尊ぶ。スピードは最も費用のかからない差別化ポイントであり、これだけ変化の激しい時代に、トロトロしていては話にならない。

 企業経営においては、拙速を尊び、スピードを重視する。スピードは最も費用のかからない差別化であり、完璧を目指して遅れをとるようでは話にならない。

 経営スピードは、現場の作業を急いだり、社員が走って客先に行ったからと言って速くなるわけではありません。経営スピードを上げるためには情報伝達スピードを上げることです。素早く情報が伝わるから意思決定が速くなります。

 企業経営は勝たなければならない。特に人口減少のマーケット縮小が避けられない日本国内では、引き分け経営、後追い経営、モノ真似経営をしているとジリ貧に陥る。マーケット全体が拡大し、多少負けていても成長できた時代を引き摺ってはならない。

 

冷静に敵の資源を取り込め

 優れた経営者は、事業展開する際に経営資源の調達を現地で行うなどして、調達の迅速化、調達コストの低減、調達の安定化を図る。

 営業の上手い者は、内勤スタッフを効率よく利用し、無駄な「足」を使わず、無駄な経費を使わず、契約が済み、顧客からの入金を確認して行動する。無駄な金は使わないし、先行投資による「損」をする事はない。どちらも、人の力をあてにせず、人の力を利用して動く。

 兵站とは、前線の舞台に食糧その他の物資を補給する機関のことです。兵站は、戦争において重要な役割を果たします。長い道のりを敵に襲われる危険を抱えながらの輸送は、かなりの労力を要します。そこで、敵地で食料を調達すれば、輸送の労力が軽減できるだけでなく、敵の戦力を削ぐことにもなり、二重の効果があることになります。

 戦力はビジネス現場では人材にも例えられます。組織の中には、優秀な人材とそうでない人材が混在します。企業は、業績を上げるために、社員教育に力を注ぎ、優秀な人材を一から育てようと躍起になりますが、その一方で即戦力も期待します。その方法の一つにヘッドハンティングがあります。ライバル会社から優秀な人材を引き抜けば、自社にとって戦力がプラスになります。一方、人材を引き抜かれた会社にとっては、優秀な人材を失うことになり、戦力がダウンします。一方で、他社のヘッドハンティングにより優秀な人材を失わないために、成果主義の報酬制度を採用したり、働きやすい環境を心がけるなど、社員のモチベーションを高める必要が出てきます。

 ライバル会社がよい刺激となり、触発も受け、それがそれぞれの成長の動機づけとなるという大きなメリットがあります。正当な過当競争のなかで、互いに相手に負けまいと切磋琢磨することによって、それぞれの仕事の水準や作り出す製品・サービスの質が向上し、業界全体の社会ことにも通じていく。

 ライバルと正しく競うことにより、自分の成長角度を上向かせ、成長速度を大いに成長させてくれるのです。

 

経営スピードを上げる

 経営スピードを上げるためには、情報伝達スピードを上げることである。事業の成否の判断は、早めに下すべきである。希望的観測や見栄でその判断を長期間先延ばしすると、損失は多大なものになる。そのリスクを十分に認識しなければ、事業で成功することは出来ない。

 ビジネスは、まず最初に仕組み化して、顧客獲得をしていけば月日とともに売り上げが向上していくというリピートモデルでなければいけない。そうなれば、半年後、1年後には利益がしっかりと出てくるという消耗している期間をいかに短くするかが重要です。ヒト・モノ・カネで競合他社に劣る中小企業は、大企業に持久戦に持ち込まれたら勝てる可能性は極めて低い。

 受注できるまでに長い時間がかかる案件、代金回収までに時間がかかる長期プロジェクト、これらは経営体力の小さな企業には不利な戦いになるため、勝てる見込みのない時は戦わないという勇気も必要です。

 ビジネスの場においては、品質よりもスピードを重視するほうが良いケースが多々あります。

 企画書や提案書を提出する時には、完成度を高めて納期ギリギリに提出するのではなく、5割くらいできた案を納期よりかなり早く提出することで、顧客や上司のフィードバックをもらうことができて、そのフィードバックをもとに納期までの間にさらに完成度を高めることができます。

 

 

第三章 謀攻篇

相手を傷つけない勝ち方

 戦争では、敵国を保全した状態で傷つけずに攻略するのが上策である。敵国を撃ち破って勝つのは次善の策である。

 

上策と下策

 息の根を止めるような相手を完膚なきまで攻め滅ぼしてしまう戦いをすると、そこに残るのは敗者の恨みだけです。また、疲弊した国を自領にしても、すぐに他国から攻め込まれる弱点にしかなりません。だからこそ、孫武は「負けないためには、無駄な敵を作らない方が良い」と言っているのです。

 知恵をしぼり、敵を味方にしてしまう。恨みを買うような勝ち方ではなく、相手も納得する勝ち方をする。それはスポーツマンシップに似ているかもしれません。

 

戦わずして勝つ

 100回戦って100回勝ったとしても、それは最善の策ではない。戦わずに敵を屈服させることこそ最善の策である。「百戦百勝」は もちろん悪いことではありませんが、最善とも言えません。100回も戦えば、こちらも相手も疲弊してしまいます。戦いでは損害が生じ、双方とも消耗してしまうからです。100回消耗戦を繰り返すのではなく、戦いは20回に減らし、あとの80回は戦わずに勝つことができれば、双方の損害は減り、敵を味方にできる可能性は高まります。

 人間の歴史は、争いの歴史であり、現代もまた未来もなくなることはない。  国同士の場合でも、企業同士の場合でも、社内のライバル同士でも、競争するということは避けることができない。しかし、その争いに ことごとく勝っても「最善の生き方」とは言えない。相手を納得させて、争わずに心服させて、協力させ、平和に生きることが「最善の生き方」である。目的は、勝つことではなく「利」を得ることである。

独自ドメインの構築

 では、戦わずに相手を屈服させるにはどうすればよいのか? もっとも良いのは、絶対に負けない唯一無二の独自領域を確立し、戦う前に相手に戦意を喪失させることです。「この分野では叶わない」と相手に思わせることができれば、戦いを回避できます。

 この独自領域は、単なる強みではありません。誰も気づかなかった、誰も手を出さなかった、誰も追求しなかった、そのような領域を開拓し、徹底的に特化しましょう。

 競合企業との局地戦(客先での奪い合い)に勝ったからと言って喜んでいてはならない。最も有利な経営戦略とは、競合のない市場を開拓することであり、新しい市場を創り出すことである。

 敵の経営資源も取り込んでしまえれば 一石二鳥 である。ほとんどの企業は、自社の事業ドメインを物理的定義で認識している。扱っている商品に着目している。これでは同業者がたくさんいて、多くの敵と血みどろの戦いをしなければいけないことになる。そこで、自社の事業ドメインを「物理的定義」から「機能的定義」に変えてみる。自社の商品なりサービスが、顧客に対して実現している機能や効用に着目する事業ドメイン設定である。独自の土俵を作り、そこで一人横綱になるものだと考えれば良い。それができて、自社のビジネスに一つの切り口ができ、独自戦略となる。そうなれば、部分的に競合していたりする企業はあっても、会社全体でぶつかり合うようなガチンコ勝負はなくなる。戦えば、勝っても自社に棄損がある。ダメージがある。戦わないための準備をしておかなければならない。それが「上策」なのです。

 最善の戦略は、競合の戦略を無力化するものであり、次は競合の提携先や販路を断つことです。敵味方の戦力分析もせずに、無理な戦いをしようとしてはならない。  ただ、機能的なドメイン設定で、競合のない市場を創り出すことができれば、それが最善なのだが、その途上であったり、それができない場合には、競合との戦い方を考えていかなければならない。その際には、競合企業の戦略や意図、経営方針、営業方針などを読んで、その戦略を意味のないものにすることを考える。それができなければ、提携関係、友好関係を分断して切り崩す。一見強固な提携関係に見えても、時代は大きく変わり、企業の競争環境も刻々と変化している。従来の提携、友好などに囚われていては、そうした変化に対応できない。そこに付け入るスキが生まれる。

 勝者は、「勝つべくして勝つ」体制を整えてから事に臨む。一方、負ける人は、イチかバチかで、勝負に臨み運に任せて戦う。ビジネスも事前の準備をどれだけするかで結果が異なってきます。

 起業する場合は、事前に、どこの、誰に、何を、どのように販売して、どれだけの利益を出す、といったことを具体的に策定しておく必要があります。

 これらの戦法をとるには、自社に強みをもっているという条件がなくてはなりません。

 戦略は、コアコンピタンスをベースに考えなければなりません。自社の強みをベースにした戦略策定が重要です。

 

自分が不利な場面で無理をしない

 最上の戦略とは、相手の戦略・思惑・本音を察知し、それに先制攻撃を加えることである。次善の策としては、相手に協力している者、補助をしている者を攻撃して、相手を孤立化させることである。その次は、万全の体制で戦うことです。最もまずいやり方が、相手の「城」を攻めることであるという。「城」とは、相手が得意とするもの(分野)、大切にしているもの、営業の基盤、地盤等のことである。そこを攻めるという方法は、ほかに方法がなく やむを得ない場合にだけ行うものである。相手は自信を持っているので、そこを攻めるための準備には、費用も時間もかかり、こちらの損害を少なくするための準備も必要である。

 それゆえ、用兵に巧みな者は、敵の野戦軍を屈服させても、決して戦闘によったのではなく、敵の城を陥落させても、決して攻城戦によったのではなく、敵国を撃破しても、決して長期戦によったのではない。必ず敵の国土や戦力を保全したまま勝利するやり方で天下に国益を争うのであって、そうするからこそ、軍も疲弊せずに軍事力の運用によって得られる利益を完全なものとできる。これこそが、策謀で敵を攻略する原則なのである。

 「敵の城」を現代社会に置き換えるなら、「相手にとって唯一無二の領域」と言えます。「敵の城」はアウェーでの戦いです。それでも、不利を承知で戦わねばならない時には、慎重に事前準備を重ねましょう。

 アウェーだと気づかず、勝手が分からないまま相手の領域で戦うのは最悪です。本来、戦いは自分の領域に相手を引きずり込んで行うもの。やむを得ず相手の領域で戦う場合は、不利を自覚し、いつも以上に慎重に戦いを進めることを忘れてはいけません。

 準備期間が長くかかるということは、事業のタイミングを逸し、また、準備不足で攻撃すれば効果は期待できず、費用ばかりかかってしまう。そして、ついに撤退することにでもなれば、企業の存亡に関わる。これが相手の「城」を攻めることの害である。

 ライバルの戦略を見抜いて、それに先んじる、あるいは、それ以上の戦略を打ち出すことが最良の戦略と言えます。

 

勝つべくして勝つ

 事業展開するにあたっては、慎重に事業計画を立て、勝算がなければ進めてはいけない。無謀な挑戦は命取りとなる。

相手と自分を知り尽くす

 相手の実情や実態を知って、自己の状況も知っていれば、危険な状態には陥らない。

 相手の実情を把握せず、自分の状況だけ知っているなら、勝負は五分五分である。

 相手のことも自分のことも知らなければ、戦うたびに必ず危機に陥る。

 注目すべきは、相手と自分のことも知っていても、「危険な状態には陥らない」と言うだけで「戦いに勝つ」「百戦百勝」とは言えない点です。敵の方が自軍より優れている場合には、戦いを回避する(逃げる)という選択があるからです。

 相手も自分も分かっているのに負けるのなら、本当にそうなのか真摯に自問自答してみましょう。単にがむしゃらだけで戦いには勝てません。

 勝算がなければ、戦いは避けるべきである。小さな兵で大きな兵に挑めば、格好の餌食となる。

 戦う前の作戦会議の段階で、勝利する方には勝算があり、負ける方には勝算がない。実際戦ってみても、勝算があった方が勝つ。当り前のことのようだが、負ければ死に、国が滅ぶわけだから、勝算もないのに「当たって砕けろ」と指示するわけにはいかない。企業経営も同様である。経営戦略や経営計画、年度方針、場合によっては将来ビジョンなどがある。そこに充分な勝算があるか、その通りに事を進めれば「勝てる」という確信が持てているのか。とりあえず成り行きで数字を作り、とにかく頑張ろうという計画では意味がない。

自分の分を知り、意地を張らない

 自分の兵力が劣っているのは明らかなのに、無理をして大きな兵力に戦いをしかけても、敵の餌食になるだけである。

 実力が劣っているのに、「負けるはずがない」「たとえ大敵でも負けてなるものか」と根拠もなく戦うのは無謀です。それは弱者の意地に過ぎず、ほぼ負けるでしょう。

 「小よく大を制す」という言葉があるように、とかく小さな力の者が大きな敵を倒すことを賛辞する考え方があります。しかし、これを鵜呑みにしてはいけません。自分の兵力を冷静に見極めなければ、負けない仕事、負けない生き方はできないのです。

 孫子は、戦って良いのは、自軍が敵軍と同等以上の兵力を持っている時だけと言っています。自軍の兵力が低ければ撤退する。まったく及ばないのなら、敵との衝突自体を回避する道を選べと言っています。

 撤退を選択して長期的に負けない方向をめざすのは決しておかしくはありません。意地を張っても負ければ終わりです。勝たなくても、負けなければ いつか必ずチャンスは巡ってきます。

 ビジネスでは、強者と弱者の立場ははっきりしています。シェアで勝る企業、強力な商品を持つ企業、全国展開する企業など、戦力を計るモノサシはいくつもあります。全ての戦力面で自社を上回るライバル会社に真正面から勝負を挑んでも、勝てる見込みはありません。そこで、「強大な相手の商品とは差別化した商品を開発する」「相手の営業が及ばないテリトリー外のところに拠点を築く」「ゲリラ的に広告・宣伝を行う」といった戦略です。

弱者は隙を突いたゲリラ戦に打って出る

 孫子は、逃げるのも一つの戦法であり、弱い立場にある者でも戦機を見つけて戦いを挑めばよいと説いています。強大な敵の隙を突き、真正面から衝突するのではなく、ゲリラ戦に徹した戦いをするのが弱者の戦い方なのです。

 

「孫子の兵法」から発展したドラッカーのマーケティング

 マーケティングの中には「競争戦略」がある。いかにして競争相手に勝つか。ドラッカーが捉えるマーケティングは、「勝つべくして勝つ」という「孫子の兵法」そのものである。

 ・われわれの事業は何か

 ・顧客は誰か

 ・顧客はどこにいるか

 ・顧客は何を買うか

 ・顧客は何を価値と見るか

 ・顧客の満たされていない欲求は何か

 ・競争相手は誰(何)か

 このように、自らが置かれている環境の中で、多角的な視点で、わが社の「勝ちパターン」を見つけ出し、それをプロセスとして体系化し、具体的な組織レベルや行動レベルにまで落とし込んでいくことが本来のマーケティングある。

 具体的に、どんな商品・サービスを提供するのか、いくらで販売すべきなのか、どんな見せ方・紹介の仕方をすべきなのか、どこで販売すれば良いのか、といったことにまで落とし込んでいかなければならない。

 これらのことを体系立て、整理し、限られた経営資源で、効率良く市場に働きかけるには、どのすれば良いかなどの道筋(勝ち筋)を見出すことが必要である。

 ドラッカーは、マーケティングの理想は販売を不要にすることである。そして、マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に商品とサービスを自ら売れるようにすることであると述べている。

 顧客の心を鷲掴みにし、買いたくなるように仕向けること、これがドラッカーのいうマーケティングの本質である。ここで必要なことは、「顧客の立場」で「顧客が何を求めているのか」をキャッチし、それに合った商品やサービスを提供することです。さらに、製品発表の仕方やタイミングなどにも工夫が必要となってくる。

 ミッションは、「何を行うべきか」とともに「何を行うべきでないか」を規定する。企業としての成果を最大にするためには、自らがミッションとするものに徹底して的を絞らなければならない。経営資源の集中である。その上で、「われわれの顧客は誰か」を見極め、「顧客にとっての価値は何か」を明らかにしていく。これがマーケティングである。

 顧客にとっての関心は、自分にとっての価値、欲求、現実である。現実の中に潜む欲求の種を探し出し、顧客ニーズに合った製品やサービスを生み出し、その顧客に価値を提供する。そのためには、顧客ターゲットを絞る必要がある。

 

現場を知らない経営者、管理者は害悪 経験知を活かせ

 管理職とは、社長の大切な補佐役であり、管理職と社長との関係がうまくいっている企業は成長するが、そうでなければ企業は衰退する。  

 次のような場合は、社長と管理職の関係はよくない。

1.市場の状況が積極的な事業戦略を行うべきではないのに、それを知らない社長が管理職に積極的な営業を命令し、逆に積極的な営業が必要なときに それを止めたりする。

2.営業現場の経験もなく内部の事情も知らない社長が、管理職の頭ごしに社員に直接命令をする。社員はどちらに従うか迷ってしまう。

3.その時々の営業現場の事情により臨機応変に対応していることを、社長が 原理原則ばかりをいって干渉する。社員は社長の能力を疑ってしまう。

 管理職や社員が会社に対して迷ったり疑ったりして、組織がうまく機能しないようになると、企業の競争力も落ちて、他企業に付け込まれてしまう。

組織力(社長、管理職及び社員のそれぞれの責任の認識と協力関係)がなくては、企業の成長はない。

 会社においてよくあるシーンといえるのではないでしょうか。特に大企業において現場のことをよく知っているのは、社長ではなく現場の幹部・管理職です。よく知りもしないのに口出しをすれば、社員たちは戸惑い、上司を疑うことになります。

 トップは現場が働きやすい環境を作り、現場は部長や課長などの現場の指揮官に任せて干渉しないことが大事です。現場のことは現場に任せて、幹部・管理職のサポーターに徹するべきなのです。現代のようなマーケットがすごいスピードで変化している状況においては、トップが細かい事に口出しせずに、現場にある程度の決裁権を与えて部下に任せるほうが変化に強い組織になります。

 業務プロセスの標準化を図り、現場の実体をつかみ、的確な指示が出せなければ、経営者や管理職の指示命令によって社員行動を妨げることになりかねない。

 現場も見えず、現状も ろく に把握してもいないのに、「ああしろ、こうしろ」と指示をすれば、現場はかえって動きにくくなり、経営者や管理職は邪魔な存在となる。では、現場任せにして余計な口出しをしなければ良いかというと、そうではない。特に小さな会社では、経営者が現場のことにまで気を配り、指示する必要がある。

 軍隊が迷って疑うことになれば、外国の諸侯たちが兵を挙げて攻め込んでくる。これを「軍隊を乱して勝利を取り去る」というのである。

「逃げる」という事は、敗北を意味するのではなく、「次に勝利するための準備で、積極的な作戦である」と認識しましょう。

 

それぞれの立場を超越して同じ目的や同じ目標を持て

 組織において、立場が違うと対立が発生しやすいのですが、経営者と労働者、上司と部下、親会社と子会社など、それぞれの立場を超越して同じ目的や同じ目標を持てた時は凄い力を発揮することができます。

 他社が経営者と労働者で対立してストライキをしている時に、かたや自社は経営者と労働者が顧客のために心を一つに頑張って働いて、稼いだ収益で経営者も儲かってそれを労働者に還元することができれば、その会社はますます伸びていきます。

 優れたリーダーとは、立場の違う者に同じ目的と目標を示して、上下の利害を一緒にして引っ張っていける人です。

 

戦いのタイミングと組織編成の重要性

 戦いに臨むに際して、孫子は5つの重要性を説いています。

 第一の戦ってよいときと戦いを避けるべきとき。これは、行動を起こすときのタイミングの重要性を説いています。

 マーケットの状況が悪いときに、新商品を売り出すなど愚の骨頂。タイミングをうまく計って行動を起こすことです。

 第二の大軍の動かし方、小部隊の動かし方については、組織の編成についての重要性を説いています。

 小規模の会社なら、一人のリーダーが指揮権を握った上で、全員に意思伝達が可能です。しかし、何百、何千といった大きな組織となると、事情は変わってきます。トップ一人で全員を束ねることは困難です。そこで、大人数をいくつかの組織に分けて、各小組織にそれぞれリーダーを据えます。そして、トップから末端の兵士まで意思伝達がスムーズに伝わるようにしなければなりません。

 第三に、一つの目標に向かって組織が一丸となって邁進しているかどうか。

 リーダーから人心が離れれば、組織はあっという間にバラバラになってしまいます。上に立つ者と従う者の心が離反してしまっていては、組織がうまく機能しません。

 部下たちの心を一つにまとめあげるには、リーダーは難敵に対して一歩もひるまない断固たる姿勢をもって臨むという姿勢をアピールしなければなりません。

 第四は、戦う前の用意周到さの重要性を説いています。

 第五は現場主義の重要性です。

 

勝利を知るための条件

 企業を取り巻く様々な外部環境やライバル企業の動向を理解し、自社の状況・強み・弱みを理解し、それに基づいて戦略を立てれば、成功することが出来る。

 謀攻篇では、5つの条件を出して、それに当てはまっているかどうか、それができるかどうかで、戦いに勝てるかどうかの判断をするようにと教えています。

 1 事業展開をすべきか否かの判断が出来ること

 2 組織の力量に応じた戦略が立てられること

 3 経営者と社員が同じ理念・方針を共有すること

 4 慎重に計画・準備をした上で、ライバルより先んじて行動すること

 5 リーダーが有能で、トップがリーダーに信任を与え干渉しないこと

 こうした五つの状態が揃っていれば、企業は勝てる、発展できる。経営の本質をついた、五つの「あるべき状態」の姿である。

 

リーダーに求められる4つの資質

1 熟慮・・・よく考えて動く

 「Aをしたいとき、Bをすればうまくいくから、Bをしょう」といった具合に、まず考えてから動く。

2 協調 チームワークを保つ

 「ひとり は みんな のために。みんな は ひとり のために」を心がけ、自分のペースで動かない。

3 調査 敵のことを調べる

 「敵はどういう相手で、どこが強くて、どこが弱いか」など、事前の調査を欠かさない。

4 統率 みんなを従わせる

 自分が「○○するぞ」と言ったことにたいし、みんなも「○○しよう」と言うように従わせる。

 

敵のことも知り、味方のことも知る

 戦いは、己を知るところから始まります。

「敵を知り、自分を知っていれば百戦しても負けない」

 「敵を知らず自分を知っていれば戦いは五分五分、敵を知らず自分の事も知らなければ必ず負けるだろう」と孫子は言います。

 ビジネスで言えば、「顧客」を知ること、「自分の強み」を知ることに置き換えられます。情報を集めれば必ず勝てるということです。無用な戦い、消耗は避けて、確実に勝てる方向性を探ることが重要である。それは、戦うというよりも、求める成果さえ手に入れば良いと孫子は言っています。

 現実的な自社の置かれた経営環境、開発力、生産力、営業力を確認すれば、それを生かした戦い方をしなければ、勝つことはできません。

 敵を知るとは、マーケットを知り競合他社の状況を知ることであるが、自社の状況についても冷静に判断することが重要です。そうしてから戦えば、あやういことはないということをうたっています。「危険がない」だけで「百戦百勝」とは言っていない。敵と味方を知ることが、ビジネスにおけるスタート地点ということではないでしょうか。

 敵の実情を知らなくても、自分を知っていれば勝てることもあるが負けることもある。しかし、自分を知らなければ全ての戦いで負けてしまう。  組織やチームが「己を知る」ためには、きちんと情報を共有できる仕組みと共有できる信頼関係の構築が重要です。不透明な部分が多ければ多いほど、「己を知ること」ができなくなり、勝てる勝負も勝てなくなります。

 敵の動きをつかみ、味方の把握もきちんとできていれば、百回戦っても危なげなく戦える。これは、敵の方が強くて味方が弱いと分かれば逃げることも含まれているから、百戦百勝ではなく、百戦殆うからずとなる。敵の把握は不充分でも、味方の掌握はしっかりできていれば、勝ち負けは五分五分となる。敵の把握もできておらず、味方の動きもつかんでいないとすれば、毎度毎度危ない目に遭う。この一節は、企業経営、マネジメントの要諦を示している。競合対策もどうだろうか? 現場任せや営業任せになっていないか? 敵のことを知らない将軍が指揮をとっては、それこそ孫子の兵法に反することになる。

 彼を知り己を知れば、当然そこに軌道修正や指導がなされて、マーケットニーズと自社の対応状況とのマッチングが行われなければならない。何もしないのでは知った意味がない。それは、当然のことながら、タイムリーに日々日々行われなければならない。マッチング作業が週単位、月単位、四半期単位で行われていては、常に変化するマーケットニーズに対応することなどできない。特に小さな会社が経営スピードで勝負しようと思えば、ここのサイクルを速くすることは必須である。

 ここにおいて、必須となる3つの機能、「マーケット情報収集機能」「自社対応状況管理機能」「日次行動修正機能」を整備し、スピードアップし、精度向上させることがマネジメント力アップにつながる。

自社の強み、弱みを知る

 自社はどの市場で優位にたっているのか、どの商品分野が強いのかなどを知ることである。自社、他社、顧客、周囲の環境をよく認識した上で、経営に臨むことが肝要である。

 会社経営・ビジネスにおいては、SWOT分析(強み(Strength)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の分析)が相当すると思います。その中でも、自社の強みとそれを投入する機会(顧客等)をしっかり把握することが重要です。

 企業に実力以上の勢いをつけるためには、充実した人員と強みをもって、ライバルの弱みや意表を突く方法をとるのがよい。

 企業において、顧客や競合他社の動向と同時に自社の前線の状況を把握しておくことが重要である。さらに、「孫子」では、これに先立って、時勢の把握、用兵の熟知、人心の一致、周到な準備、有能なリーダの五つを勝利のコアコンピタンスとして取り上げている。このことは、現代の企業におけるリスクマネジメントやコンティンジェンシープランにおいても通じる。

 ビジネスでは、戦う前に目的目標となる市場や顧客、敵であり障害となる競合他社をよく調べましょう。

 まず、市場の状況はどうか、顧客は何が欲しいのか、顧客の決裁者は誰か・予算を出すのは誰か・製品を選ぶのは誰か、予算はいくらか・納期はいつか・製品サービスを選ぶポイントは何かなど、マーケットや顧客について調べましょう。

 次に、競合他社の戦略・組織・製品・担当者・企画内容・提案内容など、敵についての情報も調べられる限り調べましょう。

 自社についても冷静に分析しましょう。ヒト・モノ・カネは充分か、製品やサービスはマーケットの求めるものに合致しているか、競合に勝っているかなど冷静に分析しましょう。

 これらの顧客・競合・自社の情報をよく知っておけば負けることはありません。

 仮に分析の結果、自社が劣っていて どうやっても勝てない場合には、戦わないという選択をすれば負けません。

 ライバル企業の状況、自社の状況、市場、地域の状況、経済の時流、事業のタイミング等を正しく把握すれば、確実に成功できる。

 企業に実力以上の勢いをつけるためには、充実した人員と強みをもって、ライバルの弱みや意表を突く方法をとるのがよい。

 顧客ニーズや競合の動きをつかみ、自社の対応状況をつかんで、日々その修正を行うことはマネジメントそのものである。

 「彼を知る」とは、顧客ニーズや競合の動きなどマーケット情報をつかむことであり、これが企業経営の出発点となります。そして、つかんだ顧客ニーズに対応し、競合の動きに対抗する自社の営業活動状況をつかんでおくことが「己を知る」ということです。さらに、そのマッチングを日々行う仕掛けを構築します。営業マネジメントの基盤を整備することで、当り前のことを当り前に行える営業組織を作ります。

 

 

第四章 軍形篇

守りを固めて確実に勝てる戦いをせよ

 守りを優先する局面では、自陣、自国を固めるだけだから、兵力にも余裕が生まれやすい。しかし、攻めに転じる場合には、当然戦線が伸びて、兵器や食糧の手当ても必要となり、攻撃によって自軍にもダメージがあるから、兵力、戦力に不足が生じる恐れがある。

 新規事業や新商品、新規エリア開拓など攻めの局面では経営資源が必要となるのと同じこと。人もいるし、金もいる。だから、攻めという積極策よりも、守りを固めて、兵力を蓄えて、来るべき攻めに備えるというのが常道と言える。負ける理由は社内にある。外部要因はきっかけにはなるけれども、負け(倒産、業績悪化)の原因にはならない。自社のことは自前で手が打てるが、外部の環境や敵のことは思うように動かせない。自力でなんともできないことを問題の原因だと考えてはならない。まずは負けない準備、負けない備えを優先させることである。

 同じ規模、経営資源のライバル企業同士が、あるジャンルでシェア争いを演じたとする。お互いに必死で努力を重ねていれば「一進一退」、どちらが勝ったとも負けたともいえない状態が続いていく可能性が高い。『孫子』は、これを「不敗」、つまり「負けていない」と言う。そして、これは自分の努力次第で維持できると指摘する。

 ライバルに勝るとも劣らない努力を重ねている限り、そうそう負かされることはない。

ところで、「勝利」できるか否かは、相手次第だと孫子は説く。

 もし、ライバル企業が代替わりに失敗して内部がボロボロになったり、不祥事を起こしてマスコミに袋叩きにされたりすれば、これは相手からシェアを大きく奪ったり、ライバルを圧倒してしまったりする格好のチャンスになる。

 だからこそ、まず不敗の態勢をつくっておいて、ライバルや環境のチャンスを見て勝ちに行くという道筋を『孫子』は戦いの基本に据えた。

 「先に守りを固めて、敵の隙を狙うこと」と言っています。つまり、守りが頑丈で負けさえしなければ勝つチャンスはある。守りが肝心だということです。

 昔の戦いが上手な将軍は、まず誰もこちらに勝てないような態勢を固めてから、敵に隙ができて打ち勝てるようになるのを待った。

 「攻撃は最大の防御なり」という言葉があるが、「孫子の兵法」にそのような教えは無い。戦力互角、あるいは味方が劣っている場合、まず守りを固めよと孫子はいう。経営資源がほとんどない小さな企業でも、資源は皆無ではない。第一に事業主がいる。この事業主が中心となって不足している条件を整備し、徐々に戦える状態を作っていかねばならない。

 事業主に賛同する人が徐々に集まってきて仲間が増え、企業は規模を拡大するわけである。ただ、その後も永遠に成長し続けられるか否かは、これもまた人にかかってくる。

 多くの人に賞賛されるような勝ち方をするものを、多くの者は優れていると思っているが、そうではないと孫子は言っています。名将は勝つべくして勝つのだと。準備をし、情報を集め、勝てるとき、勝てる相手のみと戦うのが名将なのだと言っている。先に敵が攻撃しても負けない備えをしておいてから、敵がミスをしたり弱みを見せるのを待つ。

 ビジネス上でも、どんなに営業成績が良くても、ルールを守らなかったり、マナーが悪すぎるとなかなか信用されない。その為、普段から短所をなくしておくことで、好機が訪れた時、上司や同僚の信頼を勝ち取ることができます。

 孫子は、先に敵から攻められてもいいように、守りを固めた上で敵が弱みを露呈し、攻めれば勝てるような状況になるのを待てと説いた。負けないように守りを固めることは自軍次第で行えるが、勝つかどうかは敵次第の面があるという。

 企業経営で言えば、売上が上がるかどうか、儲かるかどうかという攻めの局面は、自社だけではどうにもならず、景気に左右されたり、顧客次第であったり、競合との兼ね合いで影響を受けることがあるが、潰れないようにする、赤字にならないように備えるという守りの面は、自社の努力次第で固めておくことができるのです。

 景気が悪いから倒産するという場合にも、景気が悪いからと言って、すべての企業が倒産するわけではない。景気が悪くてちょっと売上が下がったくらいで行き詰まるのは、景気が悪くなる前から借金過多であったり、利益率が低かったり、高コスト体質だったり、営業力が弱かったりしたからである。景気が悪くなったことで、そうした弱い部分を補う余力がなくなって倒産するわけである。景気が良かろうが悪かろうが、大丈夫なように、自社の経営を磐石にする努力を継続しておかなければならない。自社の企業体質、収益構造を把握しておくことが大切です。どこでどう利益が出ているのか、なぜそれが実現できているのか、もし、問題があれば、それはなぜなのか、なぜ改善できないのかを知ること。

 自社の体質を把握せず、守りも固めずにいる会社は、売上が伸びることによって傾くことすらある。

 孫子は、守りを固めて地下に潜伏して、攻めの好機が来るのを姿を消して待てと説いている。そして、ここがチャンスと見たら、一気に天高く舞い上がって攻めよと言う。

 

社内体制とは「守り」であり、営業活動とは「攻撃」である

 企業経営の成功例では、社内体制の重要性を説く人が多い。

 優秀な経営者は、事業を成功させるために、成功することを前提とした体制を固めたうえで、どんな状況にも対応できるようにして営業活動を行う。

 体制とは「内部事情」のことであり、営業活動とは、「外部の要件」が関係する。であるから、優秀な経営者でも、社内体制は自分達の創意工夫・努力次第で確立することができるが、営業活動は相手があることであるし、思いどおりにいかないこともある。したがって、「成功する方法は知ることはできても、実際に成功することは難しい。」と言われるのである。

 社内体制が確立されていなければ、営業活動をしても内部で処理できないために、利益は確保できず、信用も落とす。営業活動をするのは、社内体制に余裕がある場合である。管理が上手い管理職は、内部事情を知られることも、社内の弱点を知られることもない。営業の上手な管理職は、相手の意志、行動、弱点をよく知って活動する。どちらも その思惑を知られることがない。ゆえに、そのような管理職を持つ企業は、市場の変化にも、景気の動向にもよく対応し、順調に成長することができるのである。景気の善し悪しに企業が左右されるということは、営業の問題と言うより、内部体制に問題がある。

 「売れない」とは言い訳であり、結果には必ず理由がある。その理由を分析したうえで、体制を整える必要がある。  

 1.どんな状況にも対応できるような体制を作ること

 2.売れる商品を作り、売れない商品は切り捨てること

 3.組織内の人材をどう生かすことができるか。

 以上が、経営者にとって大切な能力であり、営業力はその次である。

 孫子は、先に敵から攻められてもいいように、守りを固めた上で敵が弱みを露呈し、攻めれば勝てるような状況になるのを待てと説いた。負けないように守りを固めることは自軍次第で行えるが、勝つかどうかは敵次第の面があるという。

 孫子は、守りを固めて地下に潜伏して、攻めの好機が来るのを姿を消して待てと説いている。そして、ここがチャンスと見たら一気に天高く舞い上がって攻めよと言う。

 守備に巧みな者は、地下に潜っているように身を潜め、攻撃に巧みな者は、空高く飛ぶように自在に動く。

 守りを優先する局面では、自陣、自国を固めるだけだから、兵力にも余裕が生まれやすい。しかし、攻めに転じる場合には、当然戦線が伸びて兵器や食糧の手当ても必要となり、攻撃によって自軍にもダメージがあるから、兵力、戦力に不足が生じる恐れがある。

 「守りを固めよ」というのは、ビジネスでは消極的に思えるかもしれません。さらに、孫子は、守ってからすぐに攻めるのではなく、「敵が弱みを露呈するまで待て、下手に攻めるな」と言っています。いわば、「負けない仕事術」の極意と言えるでしょう。たとえ、負けない理由が多くあっても、勝てるかどうかは時の運。自分に都合良く敵をコントロールすることはできません。ただし、自分のことはコントロールできます。しっかり準備をして待つ。コントロールできる自分の準備をしっかりと進めておくのです。ここで言う「守る」とは、「弱点を無くす」こと。「強みを伸ばせ」と聞きますが、自分の弱点がわかっているのなら、事前に補強しておく方が賢明です。その上で、敵の弱点がわかったら、そこを集中して攻めるのです。

 孫子は、「勝利の方法を知ることと、実際に戦って勝つことは別である」とも記しています。方程式通りにやれば必ず答えが見つかるわけではありません。どれほど準備しても、相手がもっと備えをしていたら勝てません。それほど準備をすることは重要です。理想的な勝ち方は、守備を固め、守って 守って 相手が疲れたら速攻で カウンターパンチ という流れなのです。

 成功する経営者は、大きなリスクを冒さず、成功できる状況を確信した上で事業展開し成功する。優れた経営者が成功しても、その成功は大きなリスクを冒さず、さりげない地道な努力によるものなので賞賛されにくい。しかし、そういう成功こそが真の成功であると言う。優れた経営者はピンチに陥る前に手を打つので、一見普通で平凡な経営をしますが、それこそが名経営者の証なのです。

 

犯人捜しをしない

 優秀な人材がいてくれると助かるが、属人的能力に頼った成果は組織全体を弱体化させ、 組織全体の勢いを殺す可能性を孕んでいることを忘れてはならない。

 優れたリーダーは、組織全体の勢いを生み出すことによって勝利し、決して「あいつが悪い、こいつのせいだ」と人のせいにしたりしないと孫子は言います。業務の属人化は、短期的には良いのですが、長期的には組織の弱体化を招くことになります。リーダーとして組織をどう動かすかを考え、仮にダメ社員であっても、その能力を引き出し活用する勢いを作らなければなりません。

 

不敗の地に立つ

 成功する企業は、入念に事業計画を立て、失敗しないよう準備を整えた後に事業展開する。失敗する企業は、事業展開した後に成功を追い求めようとする。

 市場の獲得にあたって、そのコスト全てを自社で賄うのは良くない。

 製品を生産する前、販売する前のマーケティングが重要です。勝つ見込みを立ててから戦いを始めなければ、勝てる確率は非常に低い。ある程度構想ができた段階で市場にそのニーズがあるか、顧客がその製品やサービスを求めているか、しっかり聞いた後で製品を作るというのが正しい順番である。

 上手に戦う者は、自分は「不敗」の状態にしておき、敵のミスや隙は見逃さない。武田信玄は、強敵である北条家と今川家との間で同盟を結びました(甲相駿三国同盟)。これにより、攻め込まれる敵を減らし、信濃攻略に兵力を集中させました。

 また、情報収集を重要視した信玄は、「三ツ者」と呼ばれるスパイを多用。スパイからもたらされる情報を頼りに、大名の対立を利用したり、戦を仕掛けるタイミングなどを計算した。

 信玄は戦う前に勝率を高めていく手法を取りました。逆に、大量の犠牲者が出かねない、越後(現・新潟県)に本拠地を置いた上杉謙信との戦い(川中島の戦い)は、5度にわたって行ったものの、本格的な戦闘は1度きり。結局、信玄は謙信との戦いを引き分けに持ち込み、最小限の犠牲にとどめました。信玄は、このような戦略をとることでリスクを減らし、戦国の乱世を生き抜こうとしたわけです。

 さらに、信玄が優れた点は人使いの上手さにあります。信玄の配下には名将が多く集まり、後に「武田二十四将」と称される軍団を形成しました。

 

タイミングを計る

 戦略の本質は、「実際の戦いの前に」勝てる態勢と状況を作っておくこと、そして、そうした事前準備をした上でタイミングを見て実際の戦いを始めることであるという。

 タイミングを見るとは、「敵の動きなどによって勝てる状況になるタイミングを計る」ということである。戦場の情勢は刻々変化する。その変化の中で勝てるタイミングを見計らうことが勝ちを得るために重要である。

 事前の仕込みこそが戦略の真髄ということになる。技術の蓄積、生産体制の整備、流通チャネルの構築などなど、ビジネスをきちんと行えるだけの体制を整え、製品の魅力を十分に作った上で、狙いをつけたターゲット顧客に向けて攻勢をかけるということ。それでこそ、持続的に競争相手に対して勝てる市場競争戦略になる。

 

勝ち易きに勝て

 企業経営者が心すべきは、勝てる戦しかしないということである。自信のある分野、商品に絞って、勝ち戦を重ねることである。営業に行くなら、「お役に立てる」確信の持てる顧客に絞り込んで訪問するべきである。無理に売上拡大、規模拡大を狙わず、強い商品、得意分野、勝てる仕組みにこだわって、小なりといえども、毎期確実に利益を出して、社員や株主にも還元し、しっかり納税もして、内部留保を積み増して行く堅実な経営者こそ、プロが認める優れた経営者である。

 勝つ軍は勝ってから戦う。負ける方は、戦い始めてからどうやったら勝てるかを考えている。負けない態勢を整え、勝つための仕込み、仕掛けをした上で、これなら勝てるというストーリーを描き、勝つ自信が持てれば、戦いに踏み切ることです。

 営業活動において、客先に訪問し、実際に商談に入る前に、勝てる準備、勝てる商談ストーリーを持っていることが重要である。売れる営業マンは、商談前にストーリーがイメージできている。必要な資料の準備もできるし、顧客からの反論にも冷静に対応できる。売れない営業マンは、客先に行ってから、「今日は何かないですか?」「お困りごとはありませんか?」「御社のニーズは何ですか?」と御用聞きをやっている。

 日報も、書けと言われて いやいや書いているだけのことがある。孫子の兵法を活用し営業力を強化するには、日々の日報に、今日どうだったかという結果報告や行動報告を書くだけでなく、次にどうするのか、次回のアプローチはいつにするのか、次はどういう提案をするのかを書くようにする。商談が終わった時点で、常に次回の商談ストーリーを明確にしておく習慣をつける。次の戦いの前に勝つ段取りを考えておくということである。

 孫子は、まず、素人にも分かるようなことをやっていてはプロとして失格であると指摘している。一流の人間にしか分からないような玄人仕事をせよと。

 孫子は、兵法家が考える優れた将軍は、勝ちやすい相手に勝つ者だという。兵法のプロが見た評価ということ。素人が見たら、強大な相手、勝てない敵を打ち破った方が優れていると評価するだろうが、プロはそうではなく、勝てる相手に勝つことを評価すると言う。だから、そうした有能な将軍は、世間から智将だと称えられることもなく、勇敢だと褒められることもないと言う。

 勝つ者は先に勝ってから戦い、負ける者は戦ってから勝つ方法を模索する。孫子に言わせれば、「勝敗はもう戦う前に決まっているようなものなのだ」というのです。

(兵法で大事な五項目)

 いつ攻めるのか? この判断が勝利への鍵なのです。

 孫子の言うところの「守りを固める」の「守り」というのは、「軍の守り」だけではありません。戦争の勝敗は五つの要素で決まるという。

 兵法で大事なのは、

 1:ものさしではかること=度  

 2:ますめではかること=量  

 3:数えはかること=数

 4:くらべはかること=称

 5:勝敗を考えること=勝

 戦場の土地について広さや距離を考え()、その結果について投入すべき物量を考え()、その結果について動員すべき兵数を数え()、その結果について敵味方の能力をはかり考え()、その結果について勝敗を考える()。

 そこで、勝利の軍は充分の勝算を持っているから、重い目方で軽い目方に比べるように優勢であるが、敗軍では軽い目方で重い目方に比べるように劣勢である。

戦争の上手な人は、上下の人心を統一させるような政治を立派に行ない(=)、さらに軍隊編成などの軍政をよく守る(=)。だから勝敗を自由に決することができるのである。

 これは新商品・新サービスを開発するときの尺度として応用できます。

商品開発の場合

 「度」・・・顧客に「これが欲しかった」と言わせることができるか

 「量」・・・色や形、大きさなどのバリエーションが揃っているか

 「数」・・・販売ならびにメンテナンスの体制は万全か

 「称」・・・ブランド品にも負けない高品質か

 「勝」・・・市場を一変させられるか

サービス開発の場合

 「度」・・・そのサービスを持っていた人はたくさんいるか

 「量」・・・オプションは豊富か

 「数」・・・誰でも、どこでも このサービスを受けられるか

 「称」・・・「世界一」と言えるクオリティがあるか

 「勝」・・・「こんなサービスはいままでなかった」と言わせることができるか

新事業を起こしたり新しい拠点に進出するときは必須

 戦争においては、戦力の比較検討が戦略において非常に重要になってきます。

 敵・味方の兵士の数や武器の性能、数量、それを支える国力などを見謝ると、国の進むべき道を間違うことになります。

 新しいビジネスを起こそうとするときや、新しい拠点に進出するときなど、必ず勝算を検討しなければいけません。「なんとかなるさ」などと行き当たりばったりで始めるなどは愚の骨頂。

 マーケティングや社員数、資金力といった戦力を冷静に分析することです。その上で勝ち目があるとわかったら行動を起こします。

 企業の活動方針や営業活動の方向性を決定づけるのは、マーケット調査であり、その調査データは作戦立案のもとになります。

組織力をいかに強化するか

 絶対に負けない自社にするためには、内部充実を図るということに尽きます。

 基本は、「収益構造の強化」と「経営効率の向上」です。

 経営トップや幹部、管理職は、最先端の技術に目を向け、経営効率をさらに上げる手法を採り入れていかなくては立ち行かない。

例 

人材採用

 1 スキルズ・イベントリーの充実

 2 キャリア・ディベロップメントの充実

 3 職務・職責体系の充実

 4 コーポレート・デザインに基づく人材配置の充実

顧客

 顧客にメリットを提供することで、ファンを醸成してサークル化し、自社の商品企画開発に活かしたり、基礎売上に貢献させたりする。

 得る前に顧客を作り、絶対に売れる商品にしてから売り出す。それくらいの戦略が必要です。

 

経営に勢いをつけるためには顧客のダムを作る

 孫子は、ダムを決壊させるような勢いを作れと説きました。戦いに勝利する者は、人民を戦闘させるにあたり、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に決壊させるような勢いを作り出す。これこそが勝利に至る態勢であると。

 軍をうまく動かすためには、進むべき道筋や思想を正しく示して、軍制や評価を徹底させなければならない。そのためには、物事を正確に把握する尺度や基準、すなわち、ものさしや升目、数、比較対象などを予め明らかにしておかなければならないと孫子は説いた。

 勝つためのストーリー、すなわち、戦略が実地のデータに基づいて論理的に組み立てられており、それゆえに、組織構成員のすべてが勝利を確信しているという状態をイメージしてみる。鎰を以て銖を称るが如く、勝利は確定的である。そういう経営を目指したいものです。

 企業経営において、勢いを作り出すために必要なことは何でしょうか。売ること、売れることである。営業部門においては、隣の営業マンが売ってくれば、負けずに売ろうとするし、周囲が売っていれば、「売れるはずだ」となる。逆に、売れないとなれば、「あいつも売ってないし、こいつも目標未達だったし、俺も売れていない」・・・となって、商品が悪い、会社が悪い、景気が悪い、となる。これでは勢いなど出ない。  売るから勢いが出て、勢いがあるからまた売れる。売らないことには勢いも何もないから、売るための仕掛けを用意する必要がある。それが「積水」であり、「顧客のダムを作る」ことである。このダムを作ることで、売れるべくして売れる、勝つべくして勝つ、というストーリーを描くことができるようになる。今売れなくても、来年には売れるかもしれないし、次の入れ替えではリベンジできるかもしれない。

 勝つには理由がある。負けるのにも理由がある。業績が上がるには理由がある。業績が下がるのにも理由がある。営業がうまく行くには理由がある。失注するのにも理由がある。それらの道理、尺度、基準を踏まえ、予め準備して勝てるストーリーを持って臨めば、自ずと勝ちが確定する。やるべきこともやらずに楽して勝てる魔法はない。やるべきことをきっちり積み上げて、粛々とそれを繰り返すのみ。それが孫子の教えである。

積水を千仭の谷に

 成功する経営者は、事業展開する時に、社員が勢いよく積極果敢に動ける態勢を整えるのです。

エネルギーを貯め込み、ここぞというときに一気呵成に放つ。それが負けないための型です。

 軍をうまく動かすためには、進むべき道筋や思想を正しく示して、軍制や評価を徹底させなければならない。そのためには、物事を正確に把握する尺度や基準、すなわち、ものさしや升目、数、比較対象などを予め明らかにしておかなければならないと孫子は説いた。

 

 

第五章 兵勢篇

組織を動かすには情報共有と情報伝達が不可欠

 能力のある管理職は、営業活動の「勢い」によって勝利を得ようとするものであり、個人の能力や人材に頼ろうとはしない。適材適所で人を選び、その勢いのままに活動させることができる。

 大きな組織を小さな組織のように統制するためには、合理的に組織編成を行わなければならない。

 組織を常にフレキシブルに動かし、情報伝達および共有を迅速に行うことは、企業間競争を勝ち抜く上で不可欠である。大きな組織を小さな組織のように一丸となって目標に向かわせるためには、指揮命令系統を確立しなければならない。

 組織を動かす時には、情報共有と情報伝達が欠かせない。これはいつの時代にも変わらない 組織運営の原点であるが、時代の変化によってやり方や道具は変えなければならない。

 組織を動かすためには、自分たちは何者で、目的地はどこで、今どこにいるのか、といった情報を共有し、いつ動くか、いつ止まるのかというタイミングを知る情報伝達ができていなければなりません。2500年前の孫子の時代には、それを旗や幟、鉦や太鼓で実現したわけですが、時代が変わってもその本質は変わらず、やり方や道具を変えて実現していかなければなりません。

 戦争のとき、大勢の兵士たちを指揮していても、まるで小人数を指揮して動かしているようにきちんとできるのは、部隊を小分けして上手に組織編成しているからです。

 メンバーが好き勝手に動いていては、戦力的に敵を上回っていても勝つのは難しくなる。チーム全体の戦略・戦術がまずあって、期待される役割が生まれ、その役割を各自が果たすことで、チーム全体がひとつの意思のもとで動くから勝つ確率が高まる。まるで一人の人間であるかのように、チームがひとつになるのである。

 孫子は、5名を部隊の最小単位とした。企業ではどうか? 5名なら会議中に居眠りしてもすぐにばれる。1人がさぼると20%の戦力ダウンとなり、業績悪化に直結するため、嫌でも仕事に力を注がざるを得なくなる。仮に仕事が少なければ、役割を自分から求めることにもなる。このような5名1組のチームがいくつもあって、それらを全体の戦略・戦術に応じて使い分ければ、軍隊も企業も環境変化への対応は自由自在。生き残れる可能性が高まる。

 

正には奇 奇には正

 何事にも正攻法というものがある。企業経営にも正攻法、定石、セオリーがある。正と正でぶつかれば、より力の強い方が勝つのが道理である。相手が正攻法で来るなら、こちらは奇法、奇策で対抗しなければならない。

 営業活動というものは、常識どおりの正攻法で対応するのが原則であり、状況の変化、相手の出方に応じた対応で「イエス」と言わせるものである。  営業活動の上手な企業は、顧客のニーズ、市場の変化に対応して、臨機応変に常にその方法を変化させることができるので、常に新しく、その変化はつきることがない。  商売の駆け引きは、「押し」と「引き」の二通りしかないが、そのタイミングは極めることができないほど難しいものである。  そこで、最も大切なものが「勢い」というものである。営業活動の原則は、「勢い」と「節目」である。企業経営にも同じことが言える。

 様々な戦術は、正攻法と奇襲の組み合わせで考えられるものなのです。

定石通りに立ち会い、奇策で状況に対応する

 相手が正で来れば こちらは奇で、相手が奇法で来れば こちらは正法で受ける。何が正で何が奇なのかは、相手との組み合わせにもよる。  正とは目に見える動き(有形)、奇とは目に見えない動き(無形)とする解釈もある。目に見えるもの、目に見える形、目に見える兵隊の動きだけを考えていてはダメである。目には見えない背後にある因果関係、力関係、情報の流れや意図や狙い、そして士気などもある。戦略的な意図や狙いを持って作戦を立てる。その段階ではまだ無形であり「奇」である。実際に動けば、それが「正」となり、相手にも見えるようになる。すると、相手はこちらの意図を推し測って、対抗しようとする。そこではまだ形がなく奇である。しかし、それが実行に移されれば、目に見える形「正」となって、それによってまたこちらの動きも変わってくる。「正」と「奇」は循環して尽きることがなく、その組み合わせは無限である。「正」には「奇」、「奇」には「正」。相手の出方によって、「正」が「奇」になり「奇」が「正」にもなるわけだから、常識的、固定的に考えてはならない。

戦いは 正攻法で会戦し、奇法をもって勝つ

 成功するためには、まずはオーソドックスな方法を基本とし、状況変化に応じ臨機応変な応用的方法を用いらなければならない。

 戦闘というものは、定石どおりの正法で不敗の地に立って敵と会戦し、情況の変化に適応した奇法でうち勝つのである。

 戦略の基本は正、そこへ奇を加えると勝てる。正とは、正統的で定石通りの戦略であり、奇とは、意外性をもった戦略である。奇正の組み合わせが重要で、その組み合わせにはいろいろなバリエーションがあり、それを考え抜くことが肝要である。

 奇と正の二つの基本形の組み合わせも多様で、その多様さの中からの選択こそが、戦略の選択の肝だと孫子はいう。

 孫子は、奇正の組み合わせを考えることの重要性を説いているだけではない。奇正の順序が大切だとも考えている。まず、正の戦略をきちんともち、その路線で動き出して、後に奇を加えるのが勝負の肝、というのである。

 なぜ、まず正なのか。二つの理由があると言う。

 第一に、自分の活動基盤を堅牢にするものとして、正が必要である。それがあるから、いろいろな動き、「奇」をその後に付け加えられる。その基盤を作るのが正の戦略なのである。

 第二に、敵の意表をつく奇が効果をもつためには、相手の予想をまず正で誘導する必要がある。その予想を相手がもっているからこそ、はじめて予想の裏をかく奇手が生きてくる。つまり、相手の予想の裏をかくような行動をとるためには、まず相手に「こんな行動をとる可能性が高い」という予想をもたせなければならない。そのために正が必要なのである。

 自分の側の柔軟な行動への基盤の準備、敵の側の予想の誘導、この二つの意義を正の戦略がもつのである。そして、特定の状況で二つの意義のどちらがより重要であるにせよ、とにかく正なしの奇は意味をもたない。

 一つの正に一つの奇が組み合わさって成功すると、その成功が次の段階の正の基盤となり、さらに別な奇が加わってさらなる勝利をもたらす。最初の奇が終わると、その奇正のミックス全体がつぎの正となり、そこから新しい正と奇のダイナミクスが始まる。それはまさに孫子が想定した通りの戦略展開のパターンである。

 奇中に正あり、正中に奇あり、正から奇が生まれ、奇から正が生まれるという循環過程である。丸い輪には端がない、どこを端と指定することはできない、という比喩で、正と奇のダイナミクスを孫子は表現しているのである。そして、そのダイナミクスのパターンは無数にあり、誰も窮めることができない。

 

勢いと節目

 営業活動というものは、常識どおりの正攻法で対応するのが原則です。状況の変化、相手の出方に応じた対応で「イエス」と言わせるものである。営業活動商売の上手い企業は、顧客のニーズ、市場の変化に対応して、臨機応変に常にその方法を変化させることができる。常に新しく、その変化はつきることがない。

 商売の駆け引きは、「押し」と「引き」の二通りであるが、そのタイミングは極めることができないほど難しい。

 営業活動の原則は「勢い」「節目」である。

 「勢い」には迫力、熱心さ、自信とかが含まれる。客に決断させるためには、この節目が最も大切である。その場で、決断を促し、時間をおいてはいけない。待ってはいけない。逃げ道を与えないためにも時期を区切る必要がある。

 ただ、「節目」がなければ、目標の設定、結果に対する業績の判断もできない。節目を決めて、反省と新たな決意をする事は、各々個人にとっても大切なことである。

 成功するためには、オーソドックスな方法を基本とし、状況変化に応じ臨機応変な応用的方法を用いらなければならない。

 どうしても受注したい大事な案件があり、競合他社と争っている時は、正攻法として提案内容で互角に戦って、顧客がどちらにしようか迷っている状態まで持ち込み、その後は接待をしたり、何かのお祝いの品を贈ったりして、いろんな奇策を繰り出すと効果的です。これを逆の順番で使うと失敗します。正攻法をせずに先に奇法を使ってしまうと、実力も無いのに、いきなりコネを使ったり、怪しい奴だと警戒されて逆効果になってしまいます。

 

勢いとタイミング

 『兵勢篇』では、「奇・正」の使い分けとともに、勢いに乗ることの重要性も説いています。

 企業経営においては、勢いとタイミングが求められる。積水の計で水を満々と溜めたとしても、それを一気に決壊させるタイミングがズレたら、せっかくの積水が無駄になってしまう。パワーを蓄積していても、それをダラダラと長期間に渡って放出させたのでは、効果が薄い。逆に、短期間に一気に集中して動こうとしても、蓄えられたエネルギーが少なければ大したことにはならない。

 新商品の投入や新規事業への参入は、まさに時間をかけて力を溜めた弩を一気に解き放つものだと言える。新商品、新規事業が斬新で独自性の高いものであればあるほど、タイミングが難しい。顧客の認知もなく、ニーズが潜在化している状態で、知名度の低い中小企業が新しい商材を投入すると、啓蒙や市場創造に時間がかかって息が続かないことが少なくない。かと言って、中小企業が大企業に先行されてから後追いでついて行ったのでは話にならない。二番煎じである。

 営業活動において、タイミングを逸した無駄な努力、訪問、提案は徒労に終わることが多い。

 

利によって客を動かす

 企業経営においては、常に顧客の視点を持って自社の事業を組み立てるということだと考えること。顧客の利を知るということである。顧客はそもそも何を自社に求めているのか。顧客の求めているもの、利が明確になった後で、やはり低価格化に対する要望が大きいということであれば、そこで安くするためにはどうするかを考える。

 自社の売上目標や利益目標を実現するために、顧客の立場、顧客の視点から見て、どういう価値が実現されれば良いか、どういう利点があれば良いのかを明確にする。

 まず、「財務の視点」として、売上や利益の目標を設定する。財務的な数値で表す目標を実現するためにはどうすれば良いのかを考える。すると、多くの企業はいきなり自社が努力すること、取り組むことを考えようとする。だが、自社都合、自社商品の押し売り、ゴリ押しになりかねない。過去からの延長で「頑張ろう」という掛け声をかけることにしかならない。

 二番目には「顧客の視点」が入る。顧客の立場に立って、どういう価値が提供されれば、その売上なり利益なりを自社に認めて下さるのかを考える。

 三番目に「業務プロセスの視点」である。どうすれば実現できるのか、自社にどのような業務プロセスが回れば価値提供が可能なのかを考える。

 四番目に「人材と変革の視点」というものが入る。ここで、人の問題や組織体制、教育などが検討される。理想を語るのは簡単だが、実行していくのは個々の社員である。社員のレベルアップや教育や体制作りも考えなければ、絵に描いた餅になってしまう。

 顧客の利から発想し、その利を実現して見せることで、顧客はその利をとる。それによって、こちらの思うように顧客を動かせるようになるのです。これが孫子の兵法である。CS(顧客満足)経営とは違う。

 顧客を得るためには、顧客の利益になることをはっきりと示せば、それに反応するし、その利益を与えれば必ずそれを欲する。利益を見せて誘い、その裏をかいて こちらの利益とするのである。企業発展の基本は、社会に「利」を与えることであり、営業の基本は顧客に「利」を与えることである。

 「名将とは、個人個人の兵の能力に頼らずに、勢いを重視して戦うものである」と言っています。

 孫子は、治乱、勇怯、強弱は、固定的なものではなく、常に入れ替わり、そして、あくまでも相対的なものであって、絶対的なものではないと指摘した。安心したり、慢心したり、油断していてはいけない。「陽極陰転」、「陰極陽転」。その時のポイントが「数」「勢」「形」である。「数」は、分数のことで、組織編制や組織運営ノウハウを言う。それを動かす時の勢いが「勢」。同じ人、同じ組織でも、勢いがある時とない時ではパフォーマンスが全然違う。そして、それがプラスに働くかマイナスに働くか、強みとして生かされるか、弱みになってしまうかは、その軍形、態勢、敵味方の配置による。これが「形」である。

 そして、敵味方の駆け引きにおいて、孫子は、敵が動かざるを得ないような態勢に追い込めばそのように動くし、敵の利益になるようなエサを撒けばそれを得ようとする敵は思うように動くものだと説いた。相手の利は何かをつかむことで先回りして待てば良いのです。

 

勢いを作る

 戦いに巧みな指導者は、戦闘における勢いによって勝利を得ようとし、兵士の個人的な力に頼ろうとはしない。適切な人を選び出し、勢いを生むように人員配置ができるのである。戦場での勢いを巧みに利用する指導者が、兵士たちを戦わせる様は、まるで木や石を坂道に転落させるようなものである。木や石の性質は、平らな場所に安定していれば静止しているが、傾いた場所では動きやすい。方形であれば止まっているが、円形であれば動き出す。したがって、兵士たちを巧みに戦わせる勢いとは、丸い石を千仭の(高い)山から転げ落としたように仕向けることであり、これが戦いの勢いというものである。

 企業の競争力を強化するためには、人材を適材適所に配した組織全体での最適化をはからなければならない。異なる組織構造をミックスし、指揮命令系統を多次元化するマトリックス組織や、複数の部門から多様なメンバーを集めて構成されるクロスファンクショナルチームなどのコンセプトが登場しているが、その本質は「能く人を択びて勢に任ぜしむ」に通じる。

 優れた経営者は、事業展開において組織を勢いに乗せることを重視し、個人の技量に頼らないのです。

良い戦い方とは、兵士一人一人の行動に期待するのではなく、勢いに乗じて一瞬で力を発揮するものである。

 スタッフ個人の能力や社長の能力で勝負しようとしたり、そうした個人技に頼って、できなければ個人を責めるというのは馬鹿らしいものです。重要なのは「全体の流れ」「勢い」なのです。

 市場のニーズや競合の弱い部分を考慮して開発された商品サービスがあり、それを効果的なオファーで広告宣伝し、見込み客を集めてからセールスをするという一連の流れ。そうしたシステム、仕組みこそ、流れを生み出す重要なものであり、個人の能力が重要なわけではないのです。

 組織のトップたる者は、組織に勢いをつけることをいつも考えて、時には盛大に奢ったり表彰したり感謝を伝えて、組織みんなに勢いをつけるのが上手い。 

 また、誰か一人のエースに仕事を丸投げすることもなく、誰か一人のダメ社員の失敗を責めることもなく、いつも組織全体で成果を上げて組織全体で失敗をカバーできる人が、名将でありみんなが憧れるリーダーです。

 

 

第六章 虚実篇

主導権を握る

 ビジネスの世界の戦略では、競争相手に主導権を握られるのと、こちらが主導権をもつのとでは、結果に大きな違いが出る。

 主導権を握るための戦略とは何かという観点から、二つのパターンを孫子は考えていると思われる。

 一つは、チャンスが到来したときに主導権を握れるように、自分の準備を整えておくという戦略である。敵がやって来ないことをあてにするのではなく、いつ敵が来てもいいような備えを自分がもつことを頼みとするべし というのである。その備えがあれば、敵が来たときにも主導権を握るような戦術をとれる余裕があるであろう。

 主導権を握る戦略の第二は、変幻自在に敵の裏をかき、スピーディーかつ徹底して自分の戦術を変化させることで、相手を翻弄し、疲れさせ、そこから相手の虚を多くすることである。そうして生まれる虚をつけば、主導権を握れるし、一気に勝てることもある。

 軍事の戦略の場合は、戦場の敵が「致す」対象としての「人」となるわけだが、企業の戦略の場合は、人とは二種類ある。競争相手と顧客である。

競争相手という人に対しての、「致して致されず」というのは、競争相手に対して主導権を握るということである。

 顧客に対して「致して致されず」とは、顧客に対して主導権を握るということである。それは、積極的に顧客に対して働きかけ、発信していって顧客の潜在ニーズに訴えかけるということになる。顧客に対して「致す」企業とは、顧客に対して自分の主張をする企業である。顧客に「致される」企業とは、ご用聞きのように顧客の言いなりになる企業である。孫子の戦略からすれば、自分の主張をして主導権を握ることのできる企業が大きな成功を収めるということになる。もちろん、その主張が顧客の真のニーズに合致しているという大前提はあるが。

 こうして、競争相手に対しては競争の主導権を握り、顧客に対しては大いに主張して顧客を導くような企業が大きな成功を収める。その両方の意味での「人に致して人に致されず」が戦略の真髄の一つなのである。

 仕事や人間関係で主導権を握りたいのであれば、何よりも先手必勝が大事です。先にマーケットに参入すれば有利に事業を進めることができ、後れてマーケットに参入すれば不利な競争を強いられる。ゆえに、優れた経営者は、ライバルに先んじて、ライバルの戦略に乗せられることなく、ライバルが自分の戦略に有利な行動に出るように仕向けて、主導権を確保する。

 先回りして先手を打っていれば楽に余裕を持ってできるのに、ギリギリになって、後手後手となり、慌てて手を打っても結局手遅れとなることがある。先行管理ができていないのである。先行管理とは、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後、できれば半年後くらいまで見通して、今何をすべきかを考えていくマネジメントを言う。商談が成立するのに3ヵ月程度かかるのであれば、最低でも3ヵ月後か4ヵ月後までの受注見込を把握して手を打っておかなければならない。当月の売上が足りないからと言って、焦って手を打っても、商談成立までには3ヵ月かかるわけだから、時すでに遅しである。3ヵ月後、4ヵ月後の受注見込、売上見込が少ないことが把握できた時点で手を打つ。ここで手を打っておくから、3ヵ月後、4ヵ月後に成果が出る。前月の売上結果を集計して、あれが良かった、これが悪かったと結果管理をしているようでは話にならない。

 営業部門がこうした先行管理にシフトできると、仕入購買から生産計画、資金繰りまでが先行管理で、先手を打てるようになる。会社に余裕が生まれ、経営の質がかなり上がる。

先行管理、先行指標によって受身経営から脱却せよ

 受注や売上などは、結果として出てくるものであって、これを見ているだけでは結果指標による管理だと言える。実際、受注や売上の前には、新規の見込創出数や、そのために行われる営業マンの訪問件数や電話本数などの活動がある。先行指標とは、これら結果が出るまでのプロセスにおける指標のことを言う。

 大切なことは、敵の考えを読むことである。敵が何を考えているか、どういう判断をするかが分かれば、自ずからこちらは先回りできる。

 交渉ごとで自分の利益や都合を出すのは厳禁です。相手を思い通りに動かしたいときや説得したいときは、そうすることによって相手が得られるメリットを強調することです。

 先行指標をマネジメントすることで、マネジメントのサイクルを速くすることができる。

 経営が先行管理になって、余裕ができたら、今度は顧客のニーズを先回りし、顧客をこちらのペースに巻き込んでいくことを考える。顧客がまだ気付いていない時点で、顧客がまだ感じていない時点で先回りする。顧客が予想していない、そこまで期待していないニーズを創造し、そこを急襲するのである。

 先行指標を設定することで、結果が出た後で反省するのではなく、途中段階で早めに手が打てるようにマネジメントサイクルを短縮して行きます。行動修正機会が増え、そのタイミングが早まることで、達成可能性が大幅にアップします。

 企業の力がその市場の中で強ければ、シェアを拡大してトップの座を守り、ライバル会社の商品と競合させて競争し、力が同等であれば全力で戦い、シェア拡大がむずかしい場合は、その市場から撤退し、その「すきま市場」をねらう。  技術力に自信があるからと、小さい企業なのに強気の戦略をたてるのは、営業力のある大企業に利用され乗っ取られるだけである。

 企業のあり方も、ライバルの優位なところ(商品・マーケット等)で競争するのを避けて、ライバルの手薄なところで競争するようにして、主導権を握るべきである。

 

差別化戦略

 困難に見える事業でも、ライバルの参入していないマーケットで展開すれば、失敗の恐れは少なくなる。ライバルの弱点を逆手にとって事業展開すれば、新規参入しても成功できる。

 ライバル会社が強大で、資金も人員も相手が優っているようであれば、真正面から対決することは避けるべきです。「強者」に対しては、マーケティングでもよく使われる「差別化戦略」をとることです。

 強者は弱者を潰してさらにシェアを広げるために、真正面からの対決を挑みます。この戦略は特に「ミート」と呼ばれています。弱者としては、この強者の「ミート」をできるだけ避けるような戦略をとらなければ生き残れません。

 それには、まず相手の動向を探り、観察することによって基本戦略を知り、差別化する必要があります。先行したヒット商品の二番煎じで売り出す戦略もありますが、これは一時的な売上しか見込めません。長く生き残るには、マネではなく、違いを出すために敵情を探るのです。

 自軍が近づいても敵が静まり返っているのは、相手が自らが位置する地形の有利さを頼みとしている。

 事業展開するときに、ライバルの意表を突けば、ライバルは対抗できなくなる。撤退するときに迅速にすれば、損害は少なくてすむ。

 困難に見える事業でも、ライバルの参入していないマーケットで展開すれば、失敗の恐れは少なくなる。ライバルの弱点を逆手にとって事業展開すれば、新規参入しても成功できる。

 相手が守っていない虚を撃てば、攻めに成功する。相手が攻めてこない虚を守れば、守りにも成功する。物理的な兵力の集中という実を避ける戦略である。そして、こうした戦略を変幻自在にとっていくうちに、相手が困惑してくる。敵は、自分たちのどこが虚でどこが実か、自身にも分からなくなってくるのである。そうすると、「敵 其の守る所を知らず。 敵 其の攻むる所を知らず」ということになる。そうして戦略の混乱した敵は、潜在的に力があったとしても、その力を現実には発揮できなくなって、敗れていく。

 

相手の出方がわかれば強気に交渉できる

 戦争においては、敵の意図や出方を察知することが肝要です。そのため、諜報活動を行い、さまざまなデータを分析し、情報として役立てます。敵の動向がわかれば、先回りして防御を固めたり、待ち伏せして迎撃したりすることができます。

 敵の意図を探るには、敵の立場に立って物事を考えることが重要です。

 ・今、自分が相手の立場だったらどのような心境になるか

 ・どのように戦況が映るか

というふうに、視点を変えることです。

 これを徹底すれば、自分だけの視点からでは決して見えないものが見えてきます。これは、ビジネスでも人間関係でも同じことが言えます。うまく人間関係が築けない人は、自己中心にしか世の中を見ることができないところに大きな原因があります。いわゆる空気が読めないというのは、自己中心的で視野が狭いため、自分が置かれた立場がわからないのです。

 常に相手を意識し、相手の意図がわかれば、自分がどう行動すれば有利になるか読めてきます。ビジネスでも、ライバル企業がどのような商品を開発し、どのような販売戦略を立てようとしているのか、どこに支店を出そうとしているのかが把握できれば、先回りして対策を立てられます。

交渉が決裂して困るのはどちらかを見極める

 相手の意図を探る重要性が如実に現れるのが、交渉の場においてです。交渉に臨むにあたっては、自分と相手の立場をよく理解しておかなければなりません。立場が強いほうが より強気な態度で臨むことができ、立場が弱ければ下手の態度に出て、相手の立場を引き出すようにしなければなりません。これを見誤ると、有利な立場にあるにもかかわらず、不利な交渉をしてしまいかねません。

 

弱者が強者に勝つ

 弱者、すなわち兵力の小さい軍隊が、強者、すなわち兵力の大きい軍隊に勝つ戦法を孫子は3つ挙げています。 1つめは「集中戦法」、2つめは「少数精鋭戦法」、3つめは「奇襲戦法」です。 現代の経営にも当てはめることができます。弱者を規模の小さい会社、または売り上げの小さい会社、強者を規模の大きい会社、または、売り上げの大きい会社と読み替えればよいのです。

 競合製品と自社製品との比較検討をよくして、競合製品の弱い点と比べて自社の優れている点をアピールしましょう。

 また、競合他社がまだ戦う準備がでしていない分野、組織も製品も備えられていない分野で戦いを仕掛けることができれば、新しいマーケットを早い時期に総取りできます。

 競合が重要さに気づいていない領域や、力を入れていない分野を見つけ、そこに自社の主力をぶつけることができれば、勝率はかなり高いでしょう。

 

選択と集中

 ビジネスの世界においては、不利な状況のまま競合相手との競争を強いられる場合もあるでしょう。そういうときは、ランチェスター流の局地戦や集中戦などの「弱者の戦略」が有効になってきます。兵力に劣る弱者が資本や規模で上回る強者と戦うときは、全面対決を避けて、相手の弱い部分をこちらの総力で叩く。このような一点集中型の戦いを選択すべきです。そこに いわゆる「選択と集中」が必要となってくるのです。

フォーカス戦略 小が大を制す

 競合があまり力を入れておらず、自社が得意で、しかも顧客ニーズの大きい分野に特化する ことが出来れば、その分野では勝てる可能性が出てくる。

 仮に敵の店が20人、こちらの店が5人で運営しているとすれば、敵はこちらの4倍の勢力であり、販売スペースも品ぞろえの規模でも圧倒され、勝ち目はほとんど無い。

 しかし、敵がⅠからⅣまで4分野を扱っていて、そのうちのⅣは20人中2人で細々とやっているとする。自社がもしこのⅣの分野に強ければ、こちらの5人すべてを集中させることで、Ⅳという局所では勝てる可能性が出てくる。

 小売業でいえば、大手は総じて顧客への目が行き届いていない。上得意客に対してはきちんとデータをとって接客しても、その他の大半の客には顔も名前も覚えぬまま、雑なサービスをしている。中小零細店はその弱点を突くべきなのです。

 こちらは、大企業の「ここだ!」と思う一点に狙いを定め、一点集中攻撃をかけるわけです。

 アイデアで勝負? サービスで勝負? 技術で勝負? 何か一つ相手に勝る物に戦力のすべてを賭けて勝負すれば、勝機が見出せるかも知れません。

 どんなに強大な相手でも、必ず守りが薄い場所があり、つけ込む隙があります。

 「ここが狙い目」という「時と場所」を定める事ができたなら、たとえどんなに遠くまで遠征しても勝てるし、それを見抜けなかったら戦力が分散され、お互いに協力し合う事もできないようになるのです。

 社員100人の会社が10万人の大企業と勝負する時は、1つの ニッチ な分野に戦力を集中させれば勝利できます。

 大企業は、10万人と言ってもいろんな製品を扱っていて、数多くの部署に人材を分けて配置しているので、某製品を扱う大企業の課は10人前後ということがあります。そのため、某製品に特化した100名の中小企業は、その分野においては大企業の10名の課よりも多くの戦力を保有しており十分に戦うことが可能です。

 相手はどこから攻撃されるかわからないわけですから、当然あぶない所を全部守備しなければなりません。たとえば、その守らなければならない場所が10ヵ所あったとしたら、兵を10に分けて守る事になります。こちらと相手のもともとの戦力がほぼ同じ場合、その10ヵ所のうちの1ヵ所に、こちらの戦力をまるまる使うとすれば、10の戦力で1を攻撃するという事になる。その場所に関しては、相手の10倍の戦力で攻撃できる事になります。

 自社と競合の経営資源を冷静に見極め、敵に味方の兵力を悟られないようにしながら、フォーカス戦略をとることが重要である。

 敵が大軍であっても、兵力を分散させてしまえば、恐れるには足らないと孫子は説いた。こちらは一点集中、一点突破である。

 

主体的に戦略ストーリーを描け  

 主体性を持って経営に取り組むこと。競合先や親会社や景気などに左右され、受身の経営をしていては、いつまで経っても儲かるようにはならない。仮に規模が大きくなっても、守りで兵力が分散して、一点集中で攻めてくる新興企業に撃破されることにもなりかねない。

 自社が主導し、構想し、主体的にビジネスモデル、戦略ストーリーを構築することができていれば、どんな競合企業とも有利に戦いを進めることができる。そもそも不利な戦いには近寄らないようにしていけば良いことになる。

 

手段と目的を履き違えてはならない

 ビジネスにおいて、元々は手段として取り組んでいるものなのに、いつの間にかそれを行うこと自体が目的化してしまうことがある。たとえば、売上を上げるために受注を増やす。受注を増やすために新規訪問件数を増やす。新規訪問を増やすためにアポをとる。しかし、アポをとることばかりに集中していては受注につながらない。新規訪問件数を増やそうと決めて、それを評価指標にしたりすると、今度は訪問数ばかりを増やそうとする。受注を増やすためなのだから、そこから次へつないで、提案書や企画書を提出したり、相手のキーマンを攻略したりと深耕していかなければならないのだが、新規訪問を回る時間を優先してしまって、肝心な商談進捗が後回しになる。

 生産性ということを正しく理解しなければならない。生産性とはインプット分のアウトプット。インプットを増やすばかりでアウトプットが増えなければ生産性は低下することになる。インプットを人件費として、アウトプットをその社員の行動量だと考えれば、「同じ給料を払うなら、より多くの行動をしてもらった方が得」ということになるが、そのような部分最適を是としていては、会社全体の生産性が落ちてしまうことになりかねない。  

 孫子は、局地戦で勝利したり、狙った領地を奪ったとしても、結果としてその戦争目的の達成ができなければ、「骨折り損」「時間の無駄」に過ぎないと斬って捨てた。企業経営においても同じである。経営者、リーダー、マネージャーは、手段と目的を履き違えてはならない。

 戦争、軍事行動はあくまでも手段であって、目的ではない。国益をもたらさない軍事行動は起こすべきではなく、勝算がなければ兵を動かしてはならず、危急存亡のやむを得ない状況でなければ戦争を仕掛けてはならないと、孫子は慎重論を貫く。敵に勝ったり、領土を拡張したとしても、そもそもの目的を果たすことが出来ていなければ、それは凶であると言う。目先の勝利に一喜一憂し、目的を見失ってしまう愚を指摘したのである。

 

相手の意図をつかむ

 敵と対峙した時には、ただ敵の動きを見張るのではなく、敵に揺さぶりをかけ、軽く攻撃してみたりして、相手の行動基準や、いつ動き、いつ動かないかの判断基準をつかめと孫子は説いた。それができれば、敵の動きを先回りして攻撃したり、敵の狙いを逆手にとって、敵をこちらの思うように動かすことができるようになる。相手の動きを見てから動き出していては後手を踏むのである。

 

無形への道

 ビジネス上でも、マニュアル優先での対応でうまくいくとは限りません。ある程度は柔軟さを持って取り組むことが必要です。

 もちろん、過去の成功体験やマニュアルはそれまでの蓄積なので重要ですが、それに固執してはいけません。

 望ましい軍形の極みは無形ということになる。定まった形がなく、意図が全く見えない無形であれば、深く入り込んだ間諜であっても動きを見抜くことができず、優れた智謀を持つ者であっても意図を見抜くことはできない。敵の形が読み取れれば、たとえ敵が多勢であっても勝利への道筋を示すことができるが、敵はこちらの企図を知ることはできない。一般の人は、我が軍が勝った形(陣形・態勢)を知ることはできるが、どのように勝利に至ったかという意図やプロセスを知ることはできない。だから、その戦いに勝っても同じ形を繰り返すことはなく、あくまでも相手の形に合わせて無限に変化し対応していくのです。

 敵と対峙した時には、ただ敵の動きを見張るのではなく、敵に揺さぶりをかけ、軽く攻撃してみたりして、相手の行動基準や、いつ動き、いつ動かないかの判断基準をつかめと孫子は説いた。それができれば、敵の動きを先回りして攻撃したり、敵の狙いを逆手にとって、敵をこちらの思うように動かすことができるようになる。相手の動きを見てから動き出していては後手を踏む。

 企業経営においては、顧客の判断基準、購買基準をつかむことに置き換えることができる。顧客訪問し、いちいち顧客のニーズや考えを聞いていたのでは、後手に回ることになる。言われてから動いたのでは二度手間となる。顧客が「いつ買うのか」「いくらなら買うのか」「誰が意思決定するのか」「どうなれば買うのか」が分かれば、それに合わせて先回りして先手を打つことができる。

 まず、営業マンが顧客と商談する時には、「視」で相手の言動を客観的によく見る。表情の変化や微妙な間も読み取ろう。しかし、顧客は本当のことを言ってくれなかったり、本心を隠していたりするから、その裏を読む推察をしなければならない。これが「察」。

 相手に合わせて柔軟に変えること。それが無形への道である。何があるか分からないので、決まった形だけで対応しようとしてはならない。

 企業経営において、とにかく売れればいい、顧客が買うと言うなら買ってもらえばいい、という姿勢ではまともな商売にならない。顧客が誤解していたり、買いかぶって過剰な期待をしていたりすると、あとでトラブルになり、クレームになって、余計な手間が増えるばかりである。顧客が必要としていないのに無理矢理売り込むとか、騙して売るなどは論外である。顧客には、とにかく買ってくれと売り込むのではなく、まずは自社の理念や考え方、製品のコンセプトや品質へのこだわりなどを理解してもらうべきである。そこがずれていては長い付き合いにならない。その上で、商品説明があったり、価格交渉があったりする。きちんと儲けるためには、この努力を怠ってはならない。安易に迎合し、何でもやります、何でも言うことを聞きますと言っていては、儲かるものも儲からない。便利に使われて、安く叩かれて、最後はポイ捨てとされるだけである。

 顧客に対して、自信を持って自社の理念やコンセプトを語り、もしそれが気に入らないなら付き合ってくれなくてよいと言える経営を目指せば、儲かるようになる。目指さなければいつまで経ってもそうはならない。

 一時の感情で一生の顧客を失ってしまうということもある。ついカッとなって客にキレる。そんな営業マン、顧客対応係もいる。これは問題外である。キレないまでも、不機嫌そうにしてしまう、不愉快さを相手に伝えようとしてしまう人がいる。特に若い人に多いように思う。その場の感情で戦いを始めてはならない。顧客は本来わがままなものである。金を払うのだから、何でも言うことを聞け、といったことを平気で言う人もいるし、それを当然だと思っていたりする。営業する側も、その辺りの心をくすぐり、顧客を調子づかせていたりもする。自業自得の面もある。もちろん、相手が金を払うからと言って、何でも言うことを聞くべきだとは思わない。利があれば対応し、利がなければ応じる必要はない。ビジネスであり、WIN-WINの対等な関係である。売り手と買い手の関係であっても、冷静に判断しなければならない。その顧客のためにあれこれ考え、工夫もし、努力もしたのに、失注してしまったり、業者扱いされてしまったりしたら、腹も立つし、残念な気分になる。文句の一つも言いたくなるが、グッと我慢すべき。頭に来る顧客がいれば、「いつかギャフンと言わせてやる」と心の中で叫んで、外面は笑顔を繕い、「また何かあればお願いします」とでも言って、その場を立ち去る。そしてリベンジである。まさに「臥薪嘗胆」である。相手にギャフンと言わせるというのは、「あの時、あの営業マンに頼んでおけば良かったな」と言わせることであり、「あの会社にお願いしておけば良かった」と後悔させることである。そのためには、その断った相手が気付かざるを得ないくらい自社が成長し、商品が売れ、評判を高めて行かなければならない。目立つほどの成長、発展を実現したい。

 「臥薪嘗胆」とは、まさに呉越の戦いから生まれた故事成語である。孫武が仕えた呉王の闔廬は、越に侵攻したが敗れ、負傷したことがもとになって死んでしまった。闔廬の子、夫差は、父の仇を取ることを誓い、薪の上で寝ることの痛みでその屈辱を忘れないようにした(臥薪)。そして、ついに夫差は越に攻め込み、越王勾践の軍を破った。敗れた勾践は、苦い胆を嘗めることで屈辱を忘れないようにして、後に呉王夫差を滅ぼした(嘗胆)。呉越の戦いは、こんなところでも教えを残してくれる。

 ビジネスの場でも、儲かる話・得する話には人が寄ってきます。「こうすればあなたは得しますよ」というメッセージを伝えたり、「こうするとあなたは損をしますよ」とメッセージを伝えることで、その人の行動を操ることもできます。

 決裁者や交渉相手や、お客さんや動かしたい人が何を重視しているのかよく考えて、その人が一番欲するものを与えてあげたり、その人が一番嫌がることを遠ざけてあげたりすることで、人を動かすことができます。

 

経営は水の如くあれ

 「手厚い場所を避けて、守りの弱い部分を攻めよ。水に形がないのと同じく、戦い方にも決まった形はないのである」と言っています。

 企業経営も、水の如く、柔軟に時代に合わせ、マーケットに合わせ、顧客に応じて形を変えなければならない。100年、200年と続く老舗企業も、創業時とまったく変わらない事業スタイルではない。時代に合わせて必要な変化を遂げて来たからこそ、世紀を超えて存続できている。

 水に形が無いように、軍は形を変える。敵の強いところでの戦いは避けて、弱いところを攻めましょう。水のように自由に形を変えながら攻めるのが効果的です。例えば、企画や提案を採用する立場の決裁者の人がなかなか攻め落とせない時は、「その決裁者の信頼している右腕の立場の人を攻めてその右腕から説得してもらう」「決裁者が可愛がっている孫が喜ぶプレゼントを贈る。孫に好かれる」など、攻めやすいところから攻めていく。

 経営方針も営業戦略も去年と変わらず、同じものであるとしたら、その方針や戦略に意味があるでしょうか。毎年毎年同じことしか言わないのであれば、それは方針でも戦略でもない。

 現場の個々の社員の仕事も、ルーティンな定型作業に陥っていないか再考してみる必要がある。毎度ワンパターンのお決まり業務になっていないか。5年、10年と同じことを繰り返していないか。大企業病にならないはずの中小企業なのに、官僚組織のような前例主義、形式主義に毒されていないだろうか。

 状況というのはあるものではなく、作るものだということです。ビジネスにおいても、競合が弱い部分、弱いニーズ、弱い商品、弱い地域、弱い手法を攻める事によって勝つのです。そうした有利な状況を生み出すのは自分であり、そうした状況が整っているわけではないのです。

 態勢は水の流れように変化させなければならない。水が高い所を避け低い方へ低い方へ流れていくように。充実した部分を避けて守りの薄い所を攻撃する。水に一定の形がないように、戦い方にも決まった形はないのである。

 うまく敵情のままに従って、変化して勝利を勝ち取ることのできるのが、計り知れない神業というものである。

 

 

第七章 軍争篇

損して得を取れ

 マーケットにおける後発の不利を克服するためには、「急がば回れ」の発想で、相手を油断させて、その間に自社に有利な展開に仕向ける戦略が必要になる。

ビジネスにおいて、一見損をしてしまうような選択こそ勝利への道であることが多々あります。勝利を急ぎ、利益を急ぐ人ほど利益が得られません。

 経営者には、長期と短期、全体と部分、プラスとマイナス、迂と直を見極める目が必要となる。現場の社員が焦って右往左往していても、泰然として進むべき道を示さなければならない。

 迂回して遠回りしているように見せかけておいて、実は先回りしているとか、後から出発したのに、先に到着するような、遠回りを近道に変える戦術を「迂直の計」と言う。  経営には正解はないから、それぞれの企業が一貫した考えを持って自社の経営を正解にしていくことを考えなければならない。他社がこうするから、競合がこう動くからと、相手の動きに合わせて右往左往しているようでは、「迂直の計」は実行できない。遅れて動いて、戦場に遅れて到着しているようでは戦いにならない。回り道をしながら直進し、損をしながら得をする。たとえば、競争などの場合、回り道を迂回しておいて敵を油断させ足止めを食らわせておいて、こちらが速やかに行動すれば、結果的に相手より先に到着するといった具合です。

 それがなぜできるのか。全体観を持ち、長期戦略と短期戦術とが頭の中でつながっているからです。

 迂直の計という戦略は、おもに開発や販売競争で出遅れてしまったり、何かアクシデントが起きて不利な立場に追いやられたりした場合に応用できます。そのときの考えとして大事なのは、それまでの戦法を以下の3つの点で少し変えてみることです。

1 戦う場所を変える

 企業にとっての戦う場所には、生存領域・事業領域・販売領域があります。

2 戦う時を変える

 どの業界でも「よく売れる時期」というものがあります。しかし、後発メーカーの場合、同じ時期に戦っても、なかなか先発には勝てません。であれば、販売時期をずらすことを試みます。同業他社がこぞって売ろうとする時期をはずし、そこで独壇場を目指すのです。

3 戦うテーマを変える

 多くの会社は流行を後追いします。力のある会社なら、そこでも そこそこ勝負できますが、後発の会社は、多くのライバルたちの間に埋もれてしまうだけです。流行を別の観点から見て、付加価値を付け、流行の先取りをすることを考えなければいけません。

 軍争を有利に進めようと思っても、後方支援部隊を失えば行き詰まるし、兵糧が続かなければ敗亡することになり、財貨がなければこれも結局は負けてしまうことになる。

 

変幻自在の進撃

 相手企業の戦略を読めなければ、協力関係は築けない。そのマーケットの状況を熟知しなければ、事業展開をすることはできない。そのマーケットに精通している案内役がいなければ、マーケットを活かした有利な戦略を立てることはできない。

 

先回りして待ち受ける

 巧みな指揮官は、敵が動かざるを得ない態勢をつくって自在に敵を動かす。敵の利益になるエサをちらつかせ、これを得ようとする敵を意のままに動かす。敵の利によって敵を動かし、知らずに動く敵を万全の準備で待ち受けるのである。

 顧客ニーズを考えてそれに応えれば、顧客は喜んでくれます。しかし、孫子に言わせれば、「顧客のニーズに応える」という発想で終わってはダメです。顧客ニーズに応えるのが目標ではなく、顧客が動いた瞬間をとらえ、次の行動を予測することが大事と語っています。相手の考えを越えよ ということです。周到な意図で、まるでエサでおびき寄せるかの如くニーズをとらえよと言っております。

 人は自分の思い通りには動きません。しかし、相手の立場を考え、「きっと こうしたいのだろう」とわかったら、そこへと進む流れをつくるのです。当然、相手はそちらに行くでしょう。相手が望むことを手助けする。すると、相手が思い通りに動く瞬間が自然に生まれる。そこへ先回りして仕掛けを用意しておく。相手をサポートしつつ、自分の望む態勢への流れをつくることが大切です。

相手の不意を突いて物事を有利に運ぶ

 戦いは敵をあざむく事で始まり、有利な方向へ動き、兵の分散と集中を繰り返しながら変化する。『兵は詐を以って立つ』というのは、『計篇』で登場した『兵は詭道(きどう)なり』と相通ずる。戦争は騙し合いだという事を もう一度ここで強調しています。もちろん、「迂直の計」もその騙し合いの一つ。迂回したかと見せて直進したり、奇襲をかけたかと思えば正攻法で攻める。陰と陽、静と動、そうやって騙しながら戦いを有利に導いていくのです。

 一見こちらが損に思える事というのは、敵にとっては有利に思える事なので、当然それに食いついてきます。そこを、速やかに裏を返し逆転する。もちろん、これには相手の事を充分調べておかなければなりません。敵の思考や動向を知らなければ駆け引きはできません。敵の国の地理を知らなければ、そこへ自軍を向かわせる事はできません。

意外なところを誉め、相手が心を開くキッカケとする

 営業で仕事を取るときの成否のカギは、「相手の心をどこまでつかめるか」にかかっています。人は誰でも「他人に認められたい」という欲求を持っています。自分を認めてくれる人には親近感を抱くものです。誉め言葉は相手の関心を買うことになり、誉めてくれた人間に好意を抱き、心を開くキッカケともなります。お世辞もしかりです。

本人も気づいていないような点を誉める

 下心のあっての誉め言葉や、誰でも言うような当たり前の誉め言葉は効果がありません。言われて当然といった意識があり、嬉しくありません。それより、本人も気づいていないような意外な点を見つけて誉めるのです。

 孫子の言うところの「その備え無きを攻め、その不意に出ず」です。

 

「風林火山」の如し

 事業展開するには、その状況に応じて、風のようにすばやく行動したり、林のように冷静に静観したり、火のように積極果敢に攻めたり、山のように動じることなく泰然と構えたり、臨機応変に行動することが必要である。

 仕事に真面目に取り組む時もあれば、楽しんで陽気に話す時、静かに聞く時、明るく周りを盛り上げる時、周りを落ち着かせる時、そのように状況に合わせて自分を変化させたり、組織を変化させることができる人が名将です。

 ビジネスでは、有利な状況を作り出すためにポジショニングをします。市場のトレンドの反対側にがら空きのポジションはないか? と裏をかきます。ほとんどの競合が提供しきれていないニーズはないか? 出店できていない立地はないか? 通販にできないか? など、「真逆」にニーズがないかを探します。そして、有利な状況を作るのです。一見して遠回りのように見えて、最短距離を見つけるのです。

 いきなり遠回りを近道に変えよう(迂直の計)としても、そう簡単にはいかないことがある。事前に準備しておく、備えておく、よくよく考えておく、ということが必要である。  企業経営において、戦略実現のために、他社とアライアンスを組み、ネットワーク化によって事業を進めて行こうとすれば、それぞれの企業がどういう利害と意図を持っているかを事前につかんでおかなければならない。自社さえ良いという自社都合、自社の勝手だけで進むわけではない。  企業経営は自社だけで進めて行くことはできない。事業を大きくし拡げて行くためには、他社の協力を得なければならない。周辺事業者の協力を得て、良き事業パートナーとして共に成長して行くためには、彼らのビジョンや戦略、長期展望などを理解し、共有しなければならない。

 相手の戦略意図が分かれば、こちらがどういう価値を提供できるかが分かる。充分価値があると思えば、誰を窓口にして、何を切り口にして、どう攻めるかをよく考えること。

 こうした提携や連携、パートナーシップ推進で問題となるのは、自社さえ良ければそれで良いという考え方である。たとえ、こちらが購買側であったとしても、お互いのビジョンや利害を踏まえて、Win-Win の関係を構築しなければならない。すぐに近道、安易な道、楽な道を進もうとするのではなく、遠回り、難儀な道、手間のかかる道を進むようであって、それが近道だったという展開に持って行くのが「迂直の計」なのである。

 「迂直の計」の具体例として登場するのが「風林火山」の一説です。

 

意思統一

 組織が大きくなると、トップからの伝令も、口頭や身振り手振りだけでは、十分に浸透させることはできない。様々な媒体を使って、伝令をすばやく隅々にまで伝え、組織を統率して、同じ目標に向かって行動させるようにしなければならない。

 情報伝達、情報共有と単純に考えずに、組織を動かす時には、全員が納得し、共感し、魅力を感じる旗印が必要だと考えたい。旗印とは、理念や目的、将来ビジョンである。自分たちは何者で、何をしようとしていて、それが実現することでどういう価値が生まれるのかを共有するということであると言ってもよい。それに対して、全員が魅力を感じ、共感共鳴していなければ、日々のマネジメントをいくら厳しくしたところで、有効な行動は導き出せない。この旗印もなく、仮にあっても共有されていない状態で、朝から晩まで「あれやれ、これやれ」「仕事なんだから頑張れ」「給料もらっているんだろ」と社員の尻を叩いても、イヤイヤ義務感で形式的に仕事をしているフリをするだけで、自発的かつ有効な行動は導き出せない。

 そして、「気」「心」「力」「変」によって敵を制する。これも現代の企業経営に通じる。

 社員の気力、モラル、モチベーションは日々変化し、ちょっとしたことで上がったり下がったりする。この「気」をどう扱うか、どう高めていくか、どう敵よりも良い状態にするかが戦いを左右する。  

 次に「心」。リーダーが泰然として、冷静かつ客観的に意思決定を行うことがピンチの時ほど重要である。危機的状況に陥って、慌てて騒いでみたり、人のせいにして怒り狂ったり、泣いたり落ち込んだりしていては、組織を維持し、統率することはできない。窮地に陥った時にこそリーダーの真価が問われる。  

 敵、味方の「力」、戦力、戦闘力、力量の見極めも重要であり、無駄なことに労力を浪費せず、備えを充分にして敵に当たる段取りが必要となる。  

 「変」とは、時の流れ、状況の変化を見極め、時機を待つ力である。一糸乱れず整然と旗印を掲げて迫ってくる敵に攻撃を仕掛けたり、堂々とした布陣で攻めてくる敵を攻めたりしてはならない。場合によっては、撤退の意思決定ができる人間が、勝機を待って勝ちを得る指揮官にふさわしいと孫子は言う。

 事業展開するには、ライバル企業の士気が高く勢いがある時は避けて、その士気、勢いが衰えたタイミングを見計らうことで、自社の勢いをつけることができる。

 

 

第八章 九変篇

物事の利と害、表と裏、メリットとデメリットの両面を考えて判断する

 ビジネスでは、常に状況、ケースに応じて条件が変わるため、確実な方法というのは存在しません。「このケースならこの方法」と局面に応じて戦術の決定や、判断をしなくてはいけない。ハウ・ツウ ものの本に書いてあったから、著名な人が言っているからと言った理由で判断をしてはいけない。それがたとえ社長や上司の命令であっても、理にかなっていないものはおかしいということです。

 企業経営においても、蓄積された先人たちの智恵があり、過去の経緯などから訪問してはならない顧客があったり、やってはいけないことがあったり、攻めてはいけない地域があったりする。それを予め教えておけば、余計なトラブルも、無駄な手間もなくなるのだが。ろくに教えもしないものだから、新人や中途入社の人間が知らずに失敗することがある。

 智将は、常に物事の利と害、表と裏、メリットとデメリットの両面を考えて判断するものだと孫子は言う。有利なことがあっても、それで気を緩めたりせず、その不利な面も合わせて考えて手を打つから、成し遂げようとしていることを実現させることができる。悪いことがあっても、その裏の利点を考え生かそうとするから、思い悩むこともなく困難を乗り越えることができると説いた。敵が攻めて来ないだろうという憶測をあてにするのではなく、自軍に敵がいつ攻めて来ても良いだけの備えがあることを頼みとせよと説いた。

 積み重ねられた過去の智恵を軽視してはならない。時間の経過、時代の変遷を経てもなお、有効なやり方やノウハウというものがある。過去の蓄積を活かしてこそ、現在の自分がそれを土台として更に積み上げていくことができる。

 組織にあっては、上司の命令は絶対的に近い大きな力をもっている。しかし、その中にも現場の状況にそぐわない誤った判断はある。そういうものに むやみに従ってはならない。現場を率いるリーダーの責任において、敢然と拒否すべきである。孫子は、そう説いて、上役の意向を忖度ばかりせず、ときには命に背く勇気や覚悟を持てと叱咤激励しているのです。

 これを経営やマネジメントに当てはめてみます。

 セオリー通りに事を進めればいというものではない。人とは逆のことをやった先に成功が見えてくる。独自の道を開拓したい。 

 ライバル会社を蹴散らすばかりが能ではない。自社の緊張感を維持するためには、ライバルはむしろいたほうがよい。自社の力量を切磋琢磨する大事な存在と捉えたい。 

 ライバル会社の本丸を攻めて勝つのはよい方法とは言えない。悪戦苦闘は必至。そのために費やす時間とエネルギーを冷静に計算して事に臨みたい。

 成長企業だからと安易に乗り出してはいけない。既に成熟市場になりつつあれば、あとは衰退に向かうだけ。金とエネルギーを投入する価値のある市場かどうかしっかり見極めたい。 

君命

 上の命令に異議を唱える社員をむやみに斥けてはならない。それが会社の利益を思う心から処分覚悟で申し出たものなのかどうかを吟味するべきである。社員に対して聞く耳を持つリーダーでありたい。

 企業経営においても、常に裏と表、プラスとマイナスの両面を見ることが重要である。こちらを上げれば、あちらが下がる。あることに力を入れれば、他が疎かになる。トレードオフの関係になっていて、それらが複雑に絡み合っているのが経営である。客数を増やそうと思えば、客単価が下がる。受注率を上げようと思っても、案件数、見込数が落ちれば意味がない。利益率を上げても、それによって売上が下がれば利益額は維持できない。将来のために人を採用すれば、人件費が増える。ある社員を登用すれば、他の社員はふて腐れる。客数が増え売上が増えたと喜んでいたら、それに伴ってクレームも増えたりする。しかし、クレームだと思ってガッカリしていたら、その中に新商品のヒントがあったりする。

 さらに、表と裏、利と害を見ようと思えば、定量情報と定性情報を合わせ見るということも重要である。たとえば、定量情報である売上高、販売実績データだけを見て、良い悪いを判断するようなことをしてはならない。仮に売上が増えていても、顧客が喜んで買ってくれているとは限らない。他社の商品が欲しいのに、それが欠品していたから自社商品が売れたのかもしれない。自社商品に不満があるのに、他にないから仕方なく買っていただけかもしれない。もしそうなら、他社が類似商品を出してくる前に、顧客不満足を消す商品改良を行わなければならない。それなのに、売上実績だけを見て喜んでいるようでは、「事実」はつかんでいても「真実」をつかんだことにはならない。

 

臨機応変

 「九変」とは、「その時々に応じて形を変える」という意味です。言い換えれば「臨機応変」という事である。

 孫子の中では色々な原則が語られます。その原則を充分に心得ておいて、臨機応変に応用する事が重要なのです。

 臨機応変の効果に精通している将軍は、軍隊を上手く指揮することができる。臨機応変の効果に精通していなければ、地の利を得ることはできない。

 臨機応変に意志決定できる経営者は、部下を上手に働かせることができる。臨機応変に意志決定できない経営者は、マーケットの優位性すら利用することが難しくなる。

 ビジネスにおいて、状況に応じて臨機応変に策を繰り出すことは重要です。ライバルの力量と周囲の状況を見極め、自分の力を最大限発揮できるように策を発することで、いわゆる奇策ということになります。

 「ランチェスター戦略」とは、物理の法則を応用した科学的な経営論です。特に営業の局面では精神論を排除し、ロジックに目標の達成をすることが大事である。ランチェスター戦略だけでは、目的・目標を達成する戦略(仕組み)を構築することは難しい。ビジネスは人間の心理で出来ているからです。

 人が物やサービスを購入する際、心理的要因が大半を占めています。この目に見えない人の心の動きを巧みに察知し、目的・目標に向かわせるのが孫子の兵法です。孫子の兵法には、「人はこう動けば、こう動く」と言ったように、直接的に人を動かそうとするのではなく、間接的、曲線的に人を動かします。決して直線的なやり方で目的・目標を達成しようとはしません。

 孫子の兵法とランチェスター戦略の原理原則は同じなのです。ランチェスター戦略の効果性を上げるには、孫子の兵法は必須と言えます。ランチェスター戦略に孫子の兵法を組み込むことによって、戦略という仕組みが出来上がってくる。

 

智者は利と害の両面で考える

 知恵のある経営者は、意志決定の際にメリット(利益、成果等)とデメリット(費用、リスク等)の両面から検討する。メリットになりそうな事でも、そのデメリットの大きさ、回避可能性、縮小可能性等を慎重に検討する事で目標を達成する事ができる。デメリットになりそうな事でも、そのメリットの大きさ、実現可能性、拡大可能性等を検討する事で、無用な心配がなくなり、ビジネスチャンスを逃しにくくなる。

 

他社との協力

 他社を利用するためには、共同事業をし、他社を奔走させるためには、利益を与える。人を動かすための極意とも言える。この仕事をする事が、多少利益があっても、害が大きいと判断すれば人は動かない。利があるような話をすれば、頼まなくても、自分で情報を集めるだろうし、具体的に利益を提示すれば、黙っていても動くものである。自身は動かず、他人に仕事をさせる為のテクニックである。

 

戦略実現手段としてM&Aを考える

 企業経営で、敵の経営資源をうまく活用することができれば、何倍もの効果、価値を産むことができると考えられる。  たとえば、競合企業だからと言っても、すべてにおいて利害が反しているわけではない。新商品や新規事業を開拓しているような場合には、敵でもあるが、一緒に認知度を上げ、啓蒙を進める同志とも言える。  競合がいて価格差、製品差があるから、顧客に説明しやすいこともある。競合先よりも自社の方が相対的に優位に立っていれば、比較対象にすることで自社を引き立てることも可能である。もちろん、こちらが劣位にあれば、領域、分野を絞り込んで優位な面を浮き立たせる。それも比較対象があればこそである。  競合が新製品を出してきたり、低価格を実現した時には、「どういう意図や狙いで新製品を出してきたのか」「なぜ低価格を実現することができたのか」「なぜ今なのか」と一歩踏み込んで考えてみる。すると、競合企業の研究開発やマーケティングや仕入、調達などが自社に智恵やヒントをもたらしてくれる。参考になるのは競合だからこそである。それで単に後追いのモノマネをしたのでは、孫子の兵法を活用することにはならないが、自社にはないリソースを活用できるという点では、敵地での食料調達に通じるものがある。自社の代わりにいろいろ考えてくれていると思えば有り難い。

 「敵を殺そうと思うのは怒りの気持ち。敵の物を奪おうと思うのは恩賞がもらえるから」という事ですが、やる気を出させるためには、成果に見合った正当で公平な評価をしなければいけない。ビジネスの世界の人事管理に通じることです。

 自社の利を考え、冷静かつ客観的に事業を継続させ、発展させる道を探るべきである。

 孫子は、勝つこと、すなわち目的を達成することに集中し、ズルズルと戦いを長期化させてはならないと説いた。そうした戦いの本質を理解している経営者こそが、企業の命運を握る守護者であり、社員をリードし、企業を存続させる統率者であることを許される。  人口減少によるマーケット縮小で、じわじわとデフレが続く厳しい環境の中、競合とガチンコでぶつかりながら、特に智恵もなく小手先の値引き商法でなんとか切り抜けようとしても無理である。日本国内の人口減少はずっと続く。新興国マーケットの成長も地球環境や資源問題で限界がくる可能性が高い。  勝たなければ生き残ることはできない。敵の資源を取り込むくらいのことは平然とやってのけなければならない。

 競合企業を憎んで叩き潰そうと考えるのではなく、貴重な経営資源として取り込むことを考えるべきである。

 M&Aで吸収した企業の社員とかの扱い。優秀な者は抜擢して昇進させ、充分な処遇を与える。こうすることによって企業の経営基盤を強化できる。

 

リスクマネジメント

 企業は様々なリスクに囲まれているが、リスクが発生しないことを期待するのではなく、リスクが発生しても対応できる準備をすることが経営管理の上で重要である。リスクマネージメントは、人の見えないところで地道に行い、事業展開する時は積極果敢に活動すべきである。

 敵が攻撃してこない事を願うのではなく、敵がしてこないように、こちら側が仕向けるという事ができるのです。たとえば、敵が「これは無理だ」と思うような強固な守りを固めたりしておけば、決して攻撃される事はないのです。

 

リーダーは五危に気をつけよ

 リーダーとして人を率いるためには、表と裏、利と害、長所と短所を使い分け、または同時に表出させて、マイナス面を消す胆力が求められる。そういうリーダーであってこそ、マイナスをプラスに転じながら、物事を成就させていくことができるのである。臨機応変に対応するものこそ優れたリーダーである。

 『九変篇』の最後に、将軍が過ちを犯す危険=間違い例として、『五危(ごき)』という5つを示しています。

1 必死(保守的)

 決死の勇気だけで思慮に欠ける者は殺される

2 必生(怒りっぽい)

 生き延びることしか頭になく勇気に欠ける者は捕虜にされる

3 忿速(まじめ)

 短気で怒りっぽい者は侮辱されて計略に引っかかる

4 廉潔(やさしい)

 清廉潔白で名誉を重んじる者は侮辱されて罠に陥る

5 愛民(情熱的)

 兵士をいたわる人情の深い者は兵士の世話に苦労が絶えない

 これら5つは、将軍としての過失であり、軍隊を運営する上で災害をもたらす事柄である。軍隊を滅亡させ、将軍を敗死させる原因は、必ずこれら5つの危険のどれかにある。充分に明察しなければならない。

 経営者においても 五つの危険がある。利を追いすぎるとリスクが見えなくなる。保身に走ると弱みを握られることになる。短気になると冷静な判断ができなくなる。清廉潔白すぎると大義にこだわり過ぎて実利を失うことになる。思いやりが強すぎるとストレスが絶えなくなる。この五つは経営者が冒しやすい危険であり、企業経営において大きなリスクになる。

 何事もバランス感覚が大事。「まじめ」なのは結構ですが、「くそまじめ」では困るという事です。こだわり過ぎると、逆にそれが弱点となる。経営者に求められるのは、広く浅く、総合的に判断する能力であって、一つの事に集中して力を注ぐ事は、かえってマイナスになるという事を教えている。

 

 

第九章 行軍篇

企業行動とは社員個々の行動

 企業の実体は「人」であり、「人」が強くなってこそ企業も強くなることができます。優秀な人材を獲得し、育成し、活躍してもらうには、相応の環境や処遇が必要となります。強い企業を作るには、いきなり好待遇を用意する必要はありませんが、継続的に環境改善していく姿勢とその実行が求められます。それが勝つための配慮なのです。社員が健康で元気に働くことができるように、衛生的で明るい労働環境や生活環境を整えてあげることが事業成功の基本となる。

 原理原則を知っているからこそ、その場、その時に合わせて応用が利くのであり、その意思決定のスピードが速くなる。

 孫子は、行軍する際には、兵を低い所ではなく高い所に置き、日陰ではなく陽の当たる場所 を選び、衛生面や健康面を考慮して疾病を防ぐことが重要であり、こうした兵への配慮が必勝体制を築くのだと説いた。

 兵の士気が上がり、気力、体力が充実していなければ、勝てるものも勝てない。そのために必要な配慮が「兵の利」なのである。

 一つ一つの具体的な戦法は現代の世の中では役に立たないかも知れませんが、常に敵の行動が見えやすい優位な位置にいなければならない、不利な条件では戦わない、兵士の健康面にも注意を払うことである。それらを注意していれば、兵士一人一人の安心感にもつながるのです。

 

敵情を把握せよ

 孫子は、敵兵の様子から実情を判定する方法をあげています。交渉を進めるときは、ただ相手の言うことを言葉通りに受け取ることをせず、出方を見ながら真意を探っていく必要があります。

 多くは「見るだけ」で「観察」しようとしません。何事も理由があってそうなっているのです。常に優位でいるためには、よく観察し、情報を集めることが大事なのです。

 敵が近くにいるのに攻めてこないのは、攻めるのが難しい場所だからである。敵が遠くにいるのに攻めてくるのは、こちらを誘い出しているからである。敵がそこに居るのは、有利な場所だからである」と孫子は言っています。

 ビジネスの場合、どうしたら利益をあげることができるかをよく観察します。状況は様々に変化します。その変化に対し、利益に転換する術を探らなければなりません。現代の場合、顧客ターゲットを絞り、その顧客がどうすれば購買を決定してくれるか、その条件や状況を観察することです。

 敵を包囲したら逃げ道を断たないことが重要であるとしています。あえて、敵に対して逃げ道を作り、逃げやすくすることで、戦わずして勝つことが可能になるわけです。

 自社内の社員に対して負荷を掛け過ぎるあまり、逃げ道のない状態にしているケースに当てはまりそうです。ビジネスや日々の暮らしで、誰かを叱ったり非難する時も、相手に逃げ道を残してあげることが優しさです。完璧なロジックで相手を論破して追い詰め過ぎてしまうと、相手の心に深い傷を残したり、会社を辞めてしまうリスクがあります。それよりも、相手に言い訳をできるように逃げ道を残してあげて、次に挽回のチャンスを与えてあげるほうが得策です。

 

普段からの信頼関係が人を動かす

 企業は、社員数が多ければよいというものではない。多ければ、個々の兵士にトップの目が行き届きにくくなる。そのため、中間管理職を置くわけだが、彼らにトップほどのリーダーシップはない。これが大手の弱点であり、中小零細の側からすれば、唯一優位に立てる点である。自社を少数精鋭化し、有利な点をより強化することは勝つために必須です。

 中小零細でも、少数精鋭化し、得意分野に集中して事業を営み、顧客に愛される企業になれば生き残れる。それには、社長が頑張るばかりでなく、右腕、左腕となる幹部社員が社長と同じ気持ちで仕事に取り組まないといけない。社長の幹部育成能力が中小企業の成否を分けると言う。

 「自社は弱者だ」と語る経営者、ビジネスマンは多い。本気でそう思うならば、自分たちを「精鋭」と自信をもって言えるまでに高める努力が欠かせない。それを抜きに「弱者の戦法」はありえないのである。

 人海戦術で闇雲に猛進するのではなく、精鋭部隊で力を集中し、正しい状況判断に努めれば成功することができる。思慮を欠いて状況判断を誤れば失敗する。

 

兵士の心を得る

 行軍篇の最後に登場するのは、自軍の兵士に対する心理作戦です。

 普段は温かく交わり、ときに厳しく接する。あるいは、最初のうちは温かく接して部下の心をつかみ、彼らの信頼を十分に得たのちには、部下を厳しく律することをためらわない。リーダーの温情と厳格さはそのように発揮されるべきだと孫子は教えているのです。

 やたら賞金をあげても、やたら罰しても、人は育たない。最初に散々怒っておいて、後になってご機嫌を伺うのは マヌケ のすることである。

 まだ親密になってもいないのに、厳しくしてばかりでは部下は育たない。逆に親密だからと言ってき厳しくしないのも部下は育たない。

 だから、思いやりによって教育をし、厳しさによって統制を取らなければいけないのである。

 それらに基づいて教育をすれば部下は育ち、そうでなければ部下は従ってはくれない。上司と部下との関係はそうして作られるのである。

 頑張っている人とそうではない人とに差がつかないというのもおかしな話である。信賞必罰で問題はない。成果主義人事自体は悪くはないが、その際にも、結果ばかりを見ず、途中のプロセスにも着目するものにしなければならない。ビジネスには必ず相手(顧客・競合)があるから、どんなに頑張っていても成果につながらないことがあるし、どんなに手を抜いていても、たまたまうまく行くということもある。当然、結果も見るが、プロセスも見る。プロセスもきちんと見なければ正しい処遇はできない。

 経営者が普段から正しく指揮命令をすれば、部下はそれに従うことができる。経営者の指揮命令が信用されていれば、経営者と部下との意思統一を図ることができる。

 

 

第十章 地形篇

参入の戦略

 リーダーとしては「マーケット戦略」として読むと、非常に示唆に富んだ教えになります。

 リーダーは、自社がいま勝負しているマーケットの状況を見極め、参入の戦略を立てるとよいでしょう。

 市場には、参入しやすいところ、障壁が多いところ、特性がわかりにくいところ、規模の小さなところ、過当競争のあるところ、距離の遠いところ等がある。その市場の状況を正確に把握し、事業展開の意思決定を行うことが経営者の重要な任務である。

 孫子では、大きく別けて6種類の地形があるとしています。

・通形(つう)・・・体力勝負

 敵軍も自軍も往来がたやすい地形が「通」。

 マーケットで言えば、どの会社にとっても侵入しやすい環境に相当します。したがって、有利・不利に差はなく、みんなが同じ条件で競争することになります。となれば、自社の疲労を極力軽減することが大事になってきます。例えば、ネット販売や通信販売など、初期投資とランニング・コストを軽減させる無店舗販売を利用するのも一つの方法でしょう。また、優秀なアドバイザーを持ち、少しでも効率の良いビジネスを考案してもらうのもよい。いたずらに ヒト・モノ・カネ を大量投入するのは避けたいところです。

・挂形(かいけい)・・・独自性で勝負

 いったん進んだら引き返せないのが「挂」という地形。

 マーケット戦略においては、「参入してみたら思わぬ強敵が控えていた。でも、既に事業は動き出していて撤退するわけにはいかない」という状況です。

 本来ならば、参入する前によく調べておくべきですが、調査が行き届かずに参入してしまった以上は仕方ない。独自の価値をアピールして、果敢に戦うしかありません。オンリーワンの商品やサービスを提供するように努めましょう

・支形・・・不戦勝  

 「支」は、脇道が枝別かれしていて、自軍・敵軍どちらが先に進出しても不利になるような地形。

 マーケットで言えば、「どう考えても その市場に利はない」状況です。そのような市場にわざわざ出ていく必要はありません。

 ライバル会社が進出して利のある市場のように見せかける、そういう誘いに乗らないように注意すべきです。

・縊形(あいけい)・・・先手必勝

 「縊」は、両側から岩盤が張り出していて、道端が非常に狭くなっている場所のこと。

 マーケット的には、先行者利益が見込める分野に相当します。ベストなのは、その市場に一番乗りして迅速に顧客獲得に全力を投入することです。そうすれば、他社の新規参入が難しくなります。ただし、ライバル会社に先を越されても、簡単に諦めることはありません。その会社に市場をたちまち席巻するほどの強みや戦略がないようなら、その脇の甘さに付け込めます。ライバル会社をしのぐ技術・ノウハウを駆使して逆転を計りましょう。

・険形・・・逃げるが勝ち

 文字どおり、高く険しい地形が「険」。

 マーケットで言うなら、規模があまり大きくなく、これまで何社も参入に失敗しているような状況を指します。こういう市場は一番乗り出来ない限り参入を見送るべきです。一番乗り出来た場合は、他社が参入を諦めるように、顧客の支持を獲得することに専念しましょう。

・遠形・・・相討ち覚悟  

 「遠」は、敵軍・自軍の陣地が遠く隔たっている地形。

 マーケット戦略上は、どの会社が参入してきても規模・能力から見て互角の勝負が予想される状況です。このマーケットでどうしても戦うなら、相討ち覚悟でいくしかありません。共倒れにならないよう注意が必要です。

 

強いリーダーシップを

 企業において、組織内にはいろいろな社員がいる。自己主張ばかりする者もいれば、遠慮と謙遜ばかりで本音を言おうとしない者もいる。リーダーシップを発揮する者もいれば、フォロワーに甘んじる者もいる。仕事ができる者もいれば、そうではない者もいる。上司の前では前向きなことを言うくせに、上司がいないとネガティブな言葉を発し、部下にまで後ろ向きの影響を与えるような者もいる。だが、そこに一定の規律や組織風土が保たれていれば、そう大きな問題は起こらない。誰しも長所もあれば短所もあり、強み弱みを併せ持つ。多様な人間がいるからこそ、組織としての活力が出てくるとも言える。しかし、一旦トップの統率が機能しなくなり、組織としての規律や風土、制度が緩んで、個々のモラル、モチベーションが低下してしまい、ついに限度を越えて、問題行動が出始めると、これが一気に拡がり、組織全体の崩壊を招くことになる。組織風土が崩れて、弛んだ風土、ギスギスした風土、冷ややかな風土が醸成されてしまうと、それを払拭するのは大変なことである。こうした問題の根本原因はどこにあるか。すべてはトップのリーダーシップの欠如、仕事への甘さ、自社の経営に対するコミットメントの弱さから来ていると言って良い。

 孫子は、将軍が弱腰で威厳がなく、兵に対する指示命令が不明確であり、将兵に対する指導方針に一貫性を欠き、布陣に秩序がなく雑然としているのを乱れた軍と言うと教えている。

 孫子は、負け戦になる6つの状況というのもあるとしています。

・逃走・・・

 軍の勢いや兵の置かれた状況が同じである時に、10倍の兵力の敵を攻撃しようとすれば、敵前逃亡させるようなものである。

  恐れて逃げてしまうかもしれないので、強すぎる敵と無理に争わせないこと

・弛緩・・・

 兵士の鼻息が荒く猛々しいのに、それを管理する軍吏が弱々しくては タガが弛む。

  メンバーを放任し過ぎないこと  緊張感が失われてしまう。

・陥没・・・

 軍吏が強気で優秀であっても、兵士が弱くて無能であれば士気が上がらず落ち込んだ空気となる。

  メンバーを管理し過ぎないこと  自分らしさを発揮することができなくなってしまう

・崩壊・・・

 高級将校が将軍に対して憤って服従せず、敵に遭遇した際にも将軍への怨みの感情から独断で戦うような状況となり、将軍もまたその事態をどう収拾すれば良いか分からないようなことでは、軍は崩壊する。

  仲違いを起こしてしまうかもしれないので、決まった個人を ひいき しないこと

・混乱・・・

 将軍が弱腰で威厳がなく、兵に対する指示命令が不明確であり、将兵に対する指導方針に一貫性を欠き、布陣に秩序がなく雑然としているのを、乱れた軍と言う。

  軸がぶれない強さをもつこと  優柔不断ではメンバーも不安になってしまう

・敗北・・・

 将軍が敵情判断を誤り、少人数で多数の敵に当たらせたり、自軍の弱い部隊を敵の強い部隊と戦わせるようなことをして、兵士の中にも先鋒として適任の精鋭がいないのでは、負けて退散するのみである。

  計画を練って指導すること  思い付きの指導ではうまくいかない

 これらは たまたまの偶然ではなく、君主や将軍が自ら引き起こしている状況だと言うのです。これら6つの敗因は、天災や災厄ではなく、将軍の過失であり人災である。この六つは戦場における地形の基本であるが、その地形に応じた状況判断は、将軍の重要任務である。

 戦いに勝つか負けるかは、軍を構成する兵の精強さ、規律や統制の確かさ、天候や地理などの環境条件といった諸条件以上に、組織を率いるリーダーの力量にかかるところがきわめて大である。 

 戦争で負ける側の軍隊には、規律や風土の崩壊、モラルダウンが起こるものだと孫子は言う。敵前逃亡する者、たるんでしまう者、落ち込んでしまう者、へたりこむ者、取り乱す者、負けて逃げ帰る者があり、それらは天の災いではなく、将軍に落ち度がある人災なのだと指摘しております。

 

自分のためでなく、顧客のために部下を指導せよ

 企業は目的集団である。仲良しクラブでも家族でもない。顧客価値の増大を目指して共に戦う同志である。その目的に対して勝つために何の遠慮をすることがあるのか。顧客のためにやろうとすることに何の遠慮が必要なのか。自分のために指導するのではなく、顧客のために指導するのです。使命感を持って部下や社員に接すべきです。

 

指揮官のあるべき姿

 マーケティングは成功するための補助的条件である。ライバル企業の戦略、動向を推し量り、市場の参入障壁、顧客ニーズの変化、需給動向、地域特性等に応じて営業戦略を立てるのが経営者の務めである。

 地形は、勝利を勝ち取るための補助的条件である。敵の動きを察知し勝算を立て、地形の険しさ遠近に応じて作戦を立てるのは、将軍の務めである。

 リーダーたる者、名誉欲や功名心をもたず、失敗の原因はわが身に引き受け、部下や構成員が存分に力を発揮できる環境を整え、彼らの意欲を高め、成長を促して、会社の利益にも貢献する。そうした人間力、すなわち、鋭い才覚や能力を上回る人格に優れたリーダーこそ組織を率いるにふさわしいということになる。

 

部下に対する愛情や期待が伝わるからこそ部下は動いてくれる

 社員を赤ん坊のようにいたわり、我が子のように接すれば、困難な状況になっても共に行動することができる。手厚くするだけで十分な仕事が与えられず、可愛がるだけで命令することができず、規律を乱しても罰することができなければ、社員は権利ばかりを主張し、会社に貢献することができなくなる。

 上司の期待や評価が部下を動かし、厳しい環境に立ち向かう部下を育てることを忘れてはならない。

 赤ちゃんのように、わが子のように愛さなければ、兵士は将と生死をともにしようとは思わないと言っておきながら、ここでは、「わざと退路を断てば、誰もが死ぬ気で戦う」などと書かれているのです。

 

勝率を上げる秘策

 勝率が五分五分というのはどういう状況でしょうか。孫子は3つあげております。

1 自軍の兵士の実力を把握していても、敵軍の戦力が強大であることを認識していない場合

2 敵軍の戦力が劣っているとわかっていても、自軍の兵士の実力を把握していない場合

3 敵軍の戦力も実力も把握していながら、地形が不利であることに気づかない場合

 敵軍の戦力、自軍の実力、地形の有利・不利の3点を把握していることが、勝つ確率を高めるための必須条件なのです。これは、ライバル会社と自社、市場動向に当てはめることができます。ライバル会社と自社の実力を正しく認識していれば、ほぼ勝ちが見込めますが、それにプラスして市場動向を味方につければ なおさら勝利は固くなるということです。ライバル会社との競争に際しては、ライバル会社と自社とではどちらの実力が上なのか、市場動向から見て障害になるものはないか、ということをよく考えて、競争に打ってでるかを決断します。

 戦争のことに通じた人は、敵・味方・土地のことをわかった上で行動を起こすから、軍を動かして迷いがなく、合戦しても苦しむことがない。だから、「敵情を知って、味方の事情も知っておれば、そこで勝利に揺るぎがない。土地のことを知って、自然界のめぐりのことも知っておれば、そこでいつでも勝てる」といわれるのである。

 敵の状況や動きを知り、自軍の実態を把握していれば、勝利に揺るぎがない。その上に、地理や地形、土地の風土などの影響を知り、天界の運行や気象条件が軍事に与える影響を知っていれば、勝利を完全なものにできると言われるのである。

 競合企業と自社との経営資源、経営力の差も大切ではあるが、その時の時流や勢い、環境の変化、事業構造や収益構造の変化なども複雑に絡まり合い、単純に敵、味方の企業力比較だけで勝ち負けを判断することはできない。  

 日頃から、属する業界や自社、競合企業のことばかりではなく、視野を広くして世のトレンドや動きをつかむ努力が必要である。大手企業であれば、経営企画などのスタッフ部門が色々な情報を集め、分析してくれることもあるが、多くの中堅・中小企業では、こうしたことは経営者の仕事であり、現場の社員に押し付けるような話ではない。だが、現場での些細な変化、ちょっとした気付きが重要なこともあるから、そうした情報が吸い上がる仕組みを整えておくことも忘れてはならない。

 相手を知って自分を知り、タイミングを待って、最適な場所を活かせば必ず勝てると孫子は言っています。

 

周到な準備によって勝つ確率を上げていく

 準備にも順番があります。まず、戦場となる土地の広さや距離を考えます。戦場がどういった地形や地面であるかを考慮し、どこに陣取るかも考えます。戦場に行くまでの道についても調べます。これは、ビジネス環境を整えることと言えます。

 次に、そこで必要となる物資の量を計算し、必要となる兵士の数を考えていきます。

 部隊の編成や兵士の配置も充分に検討します。その結果による自軍と敵軍の能力を比較し、勝敗を考察します。これは、目的を果たすために必要なリソースを計算することです。

 ただ戦争の勝敗を予想するのではありません。

 戦争に必要な戦力を順序立てて考えていき、その上で敵軍の情報と照らし合わせます。

 仮に、自軍が不利だと判断すれば、戦争を回避することもあります。無謀とチャレンジは違うのです。

 孫子の兵法では、戦争の上手な人は人々の心を掴むような政治を行うとされています。

 

 

第十一章 九地篇

 地形(自国と敵国との位置関係)は用兵判断において参考とすべきものである。散地、軽地、争地、交地、衢地、重地、泛地、囲地、死地の九つがある。

 地形を「心の状態」と解釈し、リーダーがざわつく心をいかに落ち着けて事にあたるかということを学べます。

 ここでいう9つは、いずれも気持ちが乱れる状態です。

1:散地(軍の逃げ去る土地

 自国の領内で戦う状況ですから、兵士たちは家にいる家族のことが心配でなりません。戦うどころではなくなる。それが「散地」です。

 役職にかかわらず、誰しも家族やプライベートのことで何か心配があると仕事に身が入らないものです。特にリーダーがこんな風だと、下の者にまで その 気もそぞろ感 が伝染し、組織のまとまりがなくなってしまいます。そういうときには、「戦いを中断して仕切りなおせ」と孫子は言っております。志が一つになるよう態勢を立て直すということです。心配事を引きずったまま仕事を続けても生産性は上がらない。心配事を解決して、すっきりした気持ちになってから仕切り直しにかかるとよいでしょう。

2:軽地(軍の浮き立つ土地)

 「軽地」は敵国内に足を踏み入れた状態。まだ深く入りこんでいないので、兵士たちは今ならまだ逃げ帰れるという思いもあって、軽々しい行動に出るおそれがあります。

 会社の場合、人事異動が頻繁に行われるようだと、社員は「またすぐに異動になる」と思うので、所属意識が薄れます。会議などでも口先で適当なことを言うだけで、目標への追及力が弱まってしまうのです。社員の新しい能力を開発するために異動も必要ですが、あまり頻繁だと一つの仕事に熱が入りません。人事を預かる立場にある者としては、その点に注意が必要です。

 孫子は、「信頼できる協力者を集めて、落ち着いて事に当たれ」と言っております。

3:争地(敵と奪い合う土地)

戦略的要地となるのが「争地」。どの軍も「ここを押さえたら有利になる」と激しい争奪戦を繰り広げ、兵士たちも躍起になって戦います。これはシェア争いの熾烈な市場と相通じるものがあります。前者一丸となり、シェア獲得に向けて一生懸命になるのはよいのですが、元気はそうそう長続きしません。会社でも、新規に事業を立ち上げたり新しい市場に参入したりするときは、最初のうちは「よし、行くぞ」と威勢がよいのですが、段々に失速してしまうのです。

 そうならないために、孫子は、「勇み足にならぬよう、落ち着いて事態を静観し、競争が一段落してから攻めるのも一つの戦略だ」としています。

 リーダーとしては、社員みんなと一緒になって初速を上げようとするよりも、「出るのは今でなくてもよいのではないか」という目で市場動向を睨み、その上で頑張りどころをしっかり示すことが大切です。

4:交地(往来の便利な土地)

 「交地」は自軍も入りやすい障害のないところです。それだけに、兵士たちは気の休まる暇がありません。

 市場に置き換えれば、次から次へとライバルが現れてくるような状態ですから、常に緊張が強いられます。攻めに注力して、いかに新規顧客を開拓しても、わずかの隙にライバルに奪われてしまいかねないからです。

5:衢(く)地(四通八達の中心地)

 「衢地」は交通の要衝。敵国自体は小さくとも、いつでも周りの大国に助力を求めることができます。そこを攻めるとき、自軍は終始大国の影に怯えることになります。

 独立系の企業にとって、目の前のライバル会社の頭越しに大企業と親しくなればよい。たとえば、下請けの下請けのような地位に甘んじることなく、大企業からの直受けを目指すことを考える。そりが孫子の言う「交を合わせる」こと。よりスケールの大きな仕事ができようになるでしょう。

6:重地(重要な土地)

 敵の領地に深入りし、後方に敵城が控えている状態が「重地」。兵士たちは、動きが取りにくくなり、生きて帰れないのではないかと うろたえます。

 これは、自社の得意でない領域に首を突っ込み、競争に巻き込まれてしまったような状態に似ています。社員は実力不足でアップアップになり、いつ強豪に呑み込まれるかわからないという不安に駆られるでしょう。そのようなときは、「持久戦を覚悟して食料や物資を現地調達しろ」と、孫子は言っております。会社に置き換えると、とにかく目の前のできることをやって、細々とでも事業を続けながら、現状を打開する機会を持つということです。どんな事業領域も、やがて衰退していきます。そうして先細りになっていくなかで、ねばっていれば、ライバルたちのほうが撤退してくれるかもしれません。「粘って粘って一人勝ち」を狙うのも一つの方法です。

7:泛(はん)地(軍を進めにくい土地)

 難所続きで行軍がままならないのが「泛地」。兵士たちは疲弊し、苛立ちを募らせます。

 会社の経営でも、難題に続く難題という状況だと、「こんな状況がいつまで続くのか。永遠に終わらないのではないか」と、気持ちが暗澹としてきます。難題の向こうに広がる夢を思い描けなくなってしまうのです。そんな状況からは早く脱け出さなくてはいけません。孫子が、「速やかに通過しろ」と言っているように、少しでも体力のあるうちに全力疾走で乗り越えるのみです。その際のポイントは、諸問題の根本をえぐり取るつもりで、大胆な策を講じることです。リーダーは、同時に、「ここを抜ければ素晴らしい世界が開ける」と、困難の先に広がる夢のある風景を描いてみせるとよい。困難を前に逡巡している暇も、「一つずつ解決していこう」とのんびり構えている暇もないと腹をくくりましょう。

8:囲地(囲まれた土地)

 「囲地」は文字通り周囲は敵だらけの状態です。こんなところに追い詰められたら、兵士の心は無力感に襲われます。

 例えば、中途採用で優秀な社員をどんどん増やし、これまで中心となってきた古参社員を孤立させてしまうといったことが それに当たります。場合によっては、トップ自身が似たような目に遭うこともあります。また、市場にあっては、長い時間をかけて自社の独壇場としたところへ、うまみを嗅ぎ取った他社がどんどん参入してきて、じりじりとシェアを食われていくような場合です。

 やる気を失ってうずくまっているだけでは何も解決しません。孫子は、「退路を断って一点突破をはかれ」と言っています。

9:死地(死すべき土地)

 「死地」は死と隣り合わせの絶体絶命のピンチを意味します。兵士は身がすくみ、金縛りに遭ったようになってしまいます。

 会社が倒産の危機に立たされると、白旗を振りたい気持ちに駆られるでしょう。しかし、会社は存続させることに意味がある。安易に諦めずに、決死の覚悟でなんとしてでも生き残る道を算段しなければなりません。「どうしてこんなことになったのだろう」などと悠長なことを考えず、ひたすら前を向いて、死に物狂いで迅速に攻めていくしかないのです。

 

セクショナリズムの弊害が生じていないか

 敵から付け入られる隙を与えていないか見直してみる。

 自社内に部門間の壁ができて、セクショナリズムの弊害が生じていないか。中堅・中小企業で、人数も大して多くないのに、部門ごと業務ごとに反目したりいがみ合ったり、ロクに話もしなかったり、ということになっていないだろうか。仕入部門や製造部門、開発部門などと営業部門では、業務上の利害は大きく反する。経理などの管理系と営業系も犬猿の仲だったりすることが多い。お互いに悪意があるわけではなく、それぞれ自分の仕事を忠実に一生懸命やろうと思えば思うほど、部門間の対立が起こりやすくなる。全社の効率を上げるための分業体制が、逆に仇となって効率を落とす結果となってはいないか。部門間の議論や多少の衝突を恐れたり隠したりしてはならない。それを誤魔化しつつ問題の解消を先送りしているから、敵から付け込まれることになる。また、人数の多い部署、部門が幅を利かせ、小所帯の部署が肩身の狭い思いをしているということはないか。人数が多いと、それだけで声が大きくなって何でも優先されるようなことがある。特に時代の変化が激しい時に、従来のメイン業務、主要事業の声が大きくなり、時代の変化に合わせて、新たに設置、挑戦する新規部署、新チームが発する声が通らなくなるというのは避けたい。まだ売上もない、利益も出ていないのに、実績を上げてから言え、などと言ってしまっては、新しいチャレンジはできない。それこそ社内に亀裂を生じさせることになる。

 

強大な敵に対しても戦い方がある

 強大な競合企業に対しても、決して対応する方法がないわけではない。相手が強大であるその理由こそが、相手の動きを封じ込めるポイントであり、冷静に相手の急所を突くことが肝要である。

敵軍が大兵力で隊列を整え攻めて来たら、どのようにしてこれを迎え撃てば良いか

 勝てる戦しかしない、有利にならないと戦わない、勝ち目がないなら動くなと説いた孫子に、敢えて問うと物言いが入った。国王です。

 「では、尋ねるが、敵軍が、大兵力で隊列を整え攻めて来たら、どのようにしてこれを迎え撃てば良いだろうか。」

 「答えるに、まず、敵が重要視しているものを奪えば、こちらの思うように動かすことができるだろう。」

 孫子は、まずその敵が重要視しているものを奪えば、相手は混乱し、後はこちらの意のままに動かせると答えた。それに続けて、戦争の要諦はスピードであり、速攻で、敵の不備を衝き、予測していない方法をとり、警戒していない地点を攻めれば良いのだと説いた。敵がいくら強大だからと言っても、それで焦らず、冷静に敵が強大だからこそ抱えている急所を見つけ出せと説いた。

 現代のビジネスにおいても、仮に強大な競合企業があり、万全の組織、豊富な品揃え、圧倒的な人的パワーで自社の商圏に攻め込んで来たとしよう。何ともしようがない、手の打ちようがないと考えてしまうのも当然のようではあるが、そういう場合でも手が打てると言う。相手が強大であればあるほど生じる弱点がある。それはスピードが遅くなるということである。驕りや慢心による緩慢さかもしれないし、情報伝達の遅れや組織が分断されて壁が出来た故かもしれない。敢えて、相手の強い部分、得意分野にスピード勝負をかけてみるのもよい。スピードとは意思決定のスピードです。社員が走ったり、作業スピードを上げる努力をしても、高が知れている。強大になった相手だからこそ意思決定がどうしても遅くなる。相手が商品開発に強みを持っているなら、商品開発期間、サイクルの短縮で勝負する。仮説検証スピードを速くすればよい。相手が生産能力に自信を持っているとすると、納期短縮で勝負する。相手が何千人という営業マンを抱えて攻めてくるなら、エリア限定で絞込みながら、そこでの営業対応スピードで勝負するという具合である。営業で大切なのがスピード。速きこと風の如く何事も速くやること。顧客は忙しいし、こちらも暇な客を相手にしている暇はない。顧客が3日かかるだろうと思うところを2日でやる。

 次に顧客の話を聴く。静かに素直に聴く。喋り過ぎない。気持ちよく話してもらうために、心地よい傾聴姿勢が必要である。相手のことを理解しよう、どうやったらお役に立てるかという心情が必要です。顧客の話を聴き、相手の事情を理解したら、こちらがお役に立てることを提案する。提案する時には、「お客様のためにお役に立つ」という熱い思いで提案すること。自社の都合、自分の都合を押し付けるのではなく、「お客様にとって良いものだ」という確信がなければならない。売る気があるのか、ないのか良くわからないような、気の抜けた覇気のない事務的な提案で人が動くはずがない。理屈では人は動かない。熱い思いをぶつけよ。しかし、過度な値引きを要求されたり、過剰なサービスを強要されたりする場合には動いてはならない。

 

背水の陣が勇者を生み出す

 逃げ場のない、絶体絶命の状態に置かれたら、誰しも一致団結し決死の覚悟で戦うようになると孫子は説く。そうなれば、特に教えたり指示したりする必要もないと。窮地に追い込まれて、そうせざるを得ないからです。リーダーたる者、時と場合によってはそうした状況に部下を追い込む必要がある。

 仕事は自分のものであり、自社は自分が作っているのだということを教えなければならない。目の前の仕事が自分の仕事であり、その仕事がうまく行くことが自分のためになるのだと確信すれば、自ずとその仕事に身が入る。だが、その仕事が会社のもので、給料をもらうために仕方なくなっているものだと思えば、なるべく手を抜いて楽をして給料をたくさんもらおうと考える人も出てくる。

 そこで、共有してもらいたい考え方が、「全個一如」というものである。全個一如とは、全体の中に部分があり、部分の中に全体があるという関係です。部分である個が集まって全体を作り、その個に全体がまた影響を与えるという状態を表す。それを会社に当てはめ、全体が会社で、それを支える部分が個人であると考えてみると、会社の中には個人がいて、個人の中に会社があることになる。会社の評価と個人の評価はつながっていて、全体と部分では相互フィードバックがあるということである。

 この全個一如という考え方を共有し、納得してくれる社員だけに残ってもらえば、各社員は自ら主体的に動く自己発働社員となる。後は、自分で自律し自発的に動くために、会社や本人が置かれている状況などをフィードバックしてあげることである。自ら考え、自ら動けと言っても、置かれた状況を教えてやらなければ、自律的な判断はできないからです。 

 経営者は、社員を成長させ、事業に貢献させるためには、時として逆境に立ち向かわせる状況に置いてやる必要がある。そうすることで、覚悟、闘争心、団結心を育むことができる。

 敵地内に深く侵入するほど不利になるばかりです。しかし、敢えてそのような危険な状況に兵士を追い込むことで、軍隊は一致団結し、奮闘するといいます。そこで、孫子は、自軍を窮地に追い込むことで、底力を発揮させろと言っております。

 ビジネスでも、その人の持つ力量内の作業だけをやらせていても成長はありません。より高いハードルを設定することで、より成長するのです。特に最初が肝心です。簡単に達成できるハードルの仕事をやらせては、「こんなものか」という安心感から気が緩み、後々まで後遺症を残すことになります。ビギナーズ・ラックなどで最初に成功したりすると、その成功経験から発想を変えることが出来ず、その後の足かせとなることがあります。

 リーダーたる者、時と場合によっては「背水の陣」のような状況に部下を追い込む必要がある。

 なお、背水の陣は、孫子ではなく、史記の淮陰侯列伝に出てくる。漢の韓信が趙と戦った際に、川を背にして退却できないように布陣し、兵たちが決死の覚悟で奮戦したことで不利な状況を活かして勝利したという故事に基づく。韓信は孫子の兵法を用いたと言われている。孫子の時代もそうだが、兵の大部分は、渋々駆り出された農民兵であって戦意が低かった。戦意もなく、いつ逃げ出そうかと考えているような兵を本気にさせるには、逃げ場をなくして、背水の陣を敷き、覚悟を決めさせることが必要だったのです。

 また、軍隊を縦横無尽に使いこなす将軍のことを、孫子は「卒然」という蛇にたとえています。孫子の「リーダーが組織を勇士の集団にしていくための知恵」がこの話で示唆されています。

 「頭を打つと尾ではたかれる。尾を打つと頭が襲いかかってくる。ならばと胴を打つと頭と尾の両方で反撃してくる。」

 どこから攻撃しても、手ひどい反撃が返ってくるのですから、何とも攻めようのない蛇です。

 どんなに攻撃されても、すぐに態勢を立て直し、持てる力を最大限使ってしぶとく反撃を繰り返す。そのような執念深い社員の集団であれば、自社は強靭になります。

 

呉越同舟

 ビジネス上でも新しい仕事をやりたいと思っているメンバーがいても、今までと全く異なる業務をするのは不利でしょう。これまでの経験を活かしてその延長線上にある分野から進めるべきです。

 普段仲の悪い社員同士でも、助け合わないと自分が生き残れないとなると助け合うようになる。勇気を出して団結し成果を出させるためには、経営者の指導力と状況判断が必要である。優秀な経営者は、社員が団結せざるを得ない状況をつくることができる。

リーダーとして必須の心構え

 経営者は冷静沈着に意思決定を行い、公明正大に行動すれば、求心力を得て、企業を統治することができる。

 リーダーの考えていることが浅薄で、部下から「どうせこんなことを考えているんだろう」などと先読みされてしまうようでは、何とも頼りないし、部下が心服することなどない。少なくとも、経営者たる者が軽口でペラペラと考えていることを喋り、その裏に隠しているつもりの本音、本心を社員から見透かされているようでは話にならない。社長の考えていることがよく分からないこともあるけど、1年後、2年後には社長が言っていたことが正しかったと分かるし、それを信じておけば間違いないと思えるという安心感、信頼感が得られるようにしたいものです。

 古代中国では、長い間、軍隊を構成する大多数は農民からの徴募兵で、非常に練度と士気が低い存在でした。したがって、マグレガーのX理論・Y理論にある通り、2つの人間観の内、農民主体の徴募兵は「X理論」がよく当てはまる。「人間は本来なまけたがる生き物だ。命令や強制で管理し、目標が達成できなければ懲罰をかければ思うように動かせる」という人間観を持っているということです。しかし、これに少しでも違和感をおぼえる人は、自分と自分の周りにいる人たちが「Y理論」で動く人であると認識していると思われます。

・「X理論」

 生理的欲求や安全欲求という低次の欲求しか持っていない人間をコントロールするには、アメとムチが有効である。

・「Y理論」

 高次の自己実現欲求の高い人間をコントロールするには、自己実現を図れるような機会を与える管理が有効である。

 こうした考え方をもっていれば、「人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をするものだ。だから、労働者の自主性を尊重する経営手法を採るべきだ」という思考回路になります。

 自分が統率すべき組織の構成員が、どちらの価値観で動く人たちなのかを正確に知る必要があります。

 

隙のあるところを知る

 戦の法則は、敵の強い部分を避けて、隙のあるところ=弱いところを攻撃することである。

 経済情勢や技術発展など、企業を取り巻く環境はめまぐるしく変化しており、企業はそれに対応して組織を柔軟に編成し、迅速にオペレーションを行わなければならない。ネットワークを活用して、必要な技術やノウハウなどを外部から調達し、組織化するバーチャルコーポレーションや、メンバーの自主的な学習により、持続的な変化を行う組織的能力を身に付けたラーニングオーガニゼーションなど、新しい企業組織論が登場している。これらは現代における「変化して勝を取る」ための戦略である。

 ビジネス上でも、メンバーの弱い部分を知り、他メンバーをフォローすることで社内での良いポジションを獲得できるでしょう。

 

企業の宝

 仕事を我が事とし、「給料をもらっているから」とか「仕事だから」という義務感、やらされ感で動かない。まさにこういう人財は金では買えない「企業の宝」。自己発働研修を通じて、人材を人財化していきましょう。

 戦闘を行うときに自らの功名を求めたりせず、ただ守るべき民のことを考える。そのような行為が君主の利益にもかなうような将軍は国家の財産である、と孫子は説いています。

 自分の評価のためでもなく、上司から怒られるからでもなく、ひたすら顧客のために何をすべきかを考え、結果として自社にも利益をもたらす社員は企業の宝である。

 社長の指示命令に、現場の管理者、マネージャーが背いても良いという教えになってしまうではないかと、懸念される経営者もいる。だから、孫子は そうした行為に条件をつけたのです。進撃する時にも、己の功名心によって動くのではなく、退却する時にも罰を免れようとするのではなく、ひたすらに国を守り人民の命を守ること考えて動くものであり、そしてその結果として君主の利益にも適うものでなければならない。そうした判断、行動がとれる将軍は国の宝であると説かれた。

 企業規模が小さくなればなるほど、人材の層も薄いから、肩書きが付いた管理者といえども相応の実力が伴わない場合が少なくない。年齢も上だし、経験も長いから・・・、といった理由で役職に就いているような場合も多い。上から言われたことをただ下に伝え、下から突き上げられたことを上に伝えるだけの伝書鳩上司では役に立たない。下から上がってくる情報も、都合のいい情報だけは上に上げ、そうではない情報は握りつぶすという取捨選択をしたりするようでは問題である。

 

正しい評価が威厳を作る

 人は報酬のために動く。それが仕事だと一般に考えられている。だが、実際に人を動かそうと思うと、ただ報酬を与えるだけでは、なかなか思うように動いてくれない。すぐに当たり前になってしまうのである。

 孫子は、人を動かすためには、通例、慣例に囚われない法外な褒賞を与えたり、人事を行うことがあっても良いと説く。そうすることで、大勢の部下をまるでたった一人の部下を使っているかのように動かすことができるのだと。

 ただ、むやみやたらに報賞を行ったり、処罰したりするのは行き詰まっている証拠である。

 部下を上手に用いるためには、正しい方針に基づき、規律正しく信賞必罰を行わなければならない。むやみやたらに賞罰を与えると、モラルの低下やモチベーションの低下を招き、組織の規律を失うことにつながる。

 

始めは処女、後は脱兎の如く

 経営者、人の上に立つ人は、敵だけでなく、人の嫉妬心を忘れてはならない。「すごいですね」「立派ですね」などと言う言葉に踊らされてはならない。相手は おべんちゃら を言っているだけかもしれない。調子に乗らせて、ベラベラ喋らせようと思っているのかもしれない。

 こちらの意図や作戦を敵に悟られないようにしつつ、相手を油断させておいて、隙が生まれてチャンスとなったら、一気に攻める。それには、軍全体への統制も効いてなければいけないでしょうし、情報の取り扱いにも細心の注意が必要である。それができてこそ、「神業」「巧事」と言える鮮やかな戦いができるというわけである。

 現代のビジネスにおいても、勝てるシナリオや体制が整わないうちは、極力敵を作らないようにして、自らの意図や戦略、計画を相手(競合や市場)に悟られないようにするべきである。いざという時に、脱兎の如くなるための力を蓄えて、好機を待つべきなのです。勝つためには我慢も必要ということなのだが、つい喋ってしまったり、つい焦って始めてしまったり、つい自慢してしまったりして、敵に気付かれ、敵を作り、敵に手を打たれてしまうことがある。乙女のようにしおらしくしておこう。だが、経営者ともなると、なかなか しおらしくしておけない人が多い。しかし、それを表に見せてはいけないと孫子は説く。

 孫子は、処女の如くあれと説いた。そして、後は 脱兎の如く逃げる。すなわち、目的を果たしたら、さっさとその場を立ち去る。それが賢い戦い方である。一定の成果を挙げれば、偉そうにしたいこともある。

 

 

第十二章 火攻篇

様子を見てから実行する

 孫子のいう 火攻 とは、敵が戦いに使うものに日を付けて、使い物にならなくなくさせる戦法です。現代で言えば、新しいビジネスを生み出して、爆発的な影響を与えてしまうことをいう。

 火攻めの時の攻撃法に関して、5種類の場面があるとしています。

・敵陣に火の手があがった時・・・

 外側から素早く攻撃して追い討ちをかける

・火の手があがっても敵陣が静まりかえっている時・・・

 そのまま待機して様子を観察し、攻め時を見極め、チャンスが無ければ攻め込まない

・敵陣の外側から火を放つ事が可能な時・・・

 内応者(敵に潜入している味方)の放つ火の手を待つ事なく、チャンスがあるのなら、外側から火を放つ

・風上に火の手があがった時・・・

 風下から攻撃してはならない

・昼間の風は長く続くが、夜の風はすぐにやむので、その点に注意しなければならない

 

ブームを起こすタイミングの読み方

 ブームのプランを決めたら、次はタイミングを見て実行に移します。孫子では、その対応について、5つの方法が説かれております。

1 拡散する

 ブームを仕掛けた直後は、すぐに口コミなどで拡散を始めるとよい。

  ・敵陣に火の手があがった時・・・外側から素早く攻撃して追い討ちをかける

2 観察する

 しばらく経っても話題になりそうもなければ、いったん様子をうかがうとよい。

  ・火の手があがっても敵陣が静まりかえっている時・・・そのまま待機して様子を観察し、攻め時を見極め、チャンスが無ければ攻め込まない

3 便乗する

 似たようなブームが既に起こり始めていたら、すぐに便乗するとよい。

  ・敵陣の外側から火を放つ事が可能な時・・・内応者(敵に潜入している味方)の放つ火の手を待つ事なく、チャンスがあるのなら、外側から火を放つ

4 逆行しない

 他のブームが起きていたら、逆行せずに追い風に乗ったほうがよい。

  ・風上に火の手があがった時・・・風下から攻撃してはならない

5 長期的に見る

 既にブームが長く続いていたら、下火になる可能性を考えたほうがよい。

  ・昼間の風は長く続くが、夜の風はすぐにやむので、その点に注意しなければならない

 

新規開拓を怠ってはならない

 孫子は、火攻めと対照させるように水攻めについても書いています。

 火攻めと水攻めを現代のビジネスに応用し活用するには、火攻めを新規開拓、水攻めを既存客のダム作りと捉えてみるとよい。新規開拓のための戦略を定め、ターゲットを絞り込んで確実に攻めていく火攻めを実行します。火攻めがすべてうまく行くとは限りません。水攻めである「積水の計」も同時に進め、火攻めと水攻めの良いところを合わせていきます。これによって強い営業組織を構築することが可能になるのです。

 既存顧客を大切に守ることが水攻めに相当する。堰を作り、水路を掘り、ダムを作る。常に顧客を蓄積し、貯めていく「積水の計」。そして、既存顧客から追加受注、リピートオーダー、サプライ品購入、メンテナンス依頼、紹介客をいただく。この際には規模がモノを言う。ダムの水量が多ければ多いほど、すなわち、顧客数が多ければ多いほど経営は安定するし、まとまった施策が打てる。ダムは大きければ大きいほど良い。そのためには兵力がいる。しかし、既存顧客をダムにして守るだけではジリ貧になる。ダムに水を注ぎこまなければ、そのうち水は減り、渇水となる。常に新規開拓を行って、新たな客をダムに注ぎ込まなければならない。これが火攻めに相当するのです。競合企業から自社へのスイッチを狙わなければならない。新ルート、新チャネルを開拓し、新商品、新サービス、新企画を投入し、新業態、新ビジネスモデルを開発していかなければならないのです。

 水攻めのダムを用意しているから、火攻めの新規開拓が無駄にならない。火攻めの失敗を水攻めで補い、水攻めの効果を火攻めで促進するのです。

水攻めは火攻めと同じくらい有効である。ただし、水攻めの場合は、あくまで敵の補給路を断つ事に専念すべきで、決して既に蓄えてある物資を奪おうとしてはならないとしています。

 

レッドオーシャン・ブルーオーシャン

 無理な事業展開で成功を重ねたとしても、最善の策とは言えない。

 ビジネスで、「レッドオーシャン」と言われる強力な競合がひしめく環境で戦い続けた場合、たとえ勝利を続けても充分な利益は得られません。

 それよりも、「ブルーオーシャン」で先行して プラットフォームを作り、後から参入してくる競合にも、そのプラットフォームを利用させてあげるくらいのほうが、戦うよりも利益を得ることができます。ライバル会社と競合し自社が消耗し衰弱してしまうようであれば、争いを避けるのも一つの手なのです。

 ときには吸収合併してしまうのも得策となります。

 競合するライバル会社の商品開発や販売戦略といった情報やマーケットの動きを確認し、細かく分析することも大切です。

 正確なデータや情報を用いて、ライバル会社が次に何を仕掛けてくるかを探ること、自社の情報をライバル会社に安易に利用されないようにすることです。

 ときに、企業買収時に敵対的買収で徹底的に戦って勝ったとしても、買収先の優秀な人材が他社に流れてしまっては、勝利の価値が減ってしまいます。それよりも、友好的買収かつ買収先の人材を主要ポストに就かせて活かすほうが、企業価値の向上につながります。

 

軽々しく戦ってはならない

 自社よりも有利な立場、状況にある敵に対して戦いを挑むようなことはしてはならない。もし、敵がその優位性を活かして勢いづいて攻めて来たら、迎え撃ってはならない。こちらが攻める時には、騙して逃げる姿勢を見せる敵を深追いしてはならない。囲い込んでも逃げ道を用意しておき、「窮鼠猫を噛む」ようなことを避ける。

 

企業を安んじ経営を全うせよ

 「戦わずして勝つ」「勝つべくして勝つ」 この冷静な判断が孫子兵法の真骨頂と言える。それを感情的になり激昂して、開戦を決めるようでは話にならない。

 経営者は、一時の感情で事業展開を行ってはならない。慎重に事業計画を立てた上で、自社の利益に合致すれば進めるべきである。どれだけ思いがあったとして、不利になれば事業撤退も考えるべきです。感情は時間が経てば収まるが、会社が倒産すれば、取り返しのつかないことになる。社員を犠牲にすることにもなる。

 優れた経営者は、慎重な計画に基づき、事業を進める。これが企業を安全なものにし、社員を守る方法である。

 

 

 第十三章 用間篇

人により敵の情報をつかむ

 優れたリーダーが人並み以上の成果を収めるのは、能力や知力ではなく、事前に敵情を知る「先知」なのである。そのための間諜であり、企業で言えば営業マンである。

 孫子は、2500年も前に、決して神仏に頼ったり祈祷や占いで知るのではなく、人間が直接動いて情報をつかむことによって、先に知るべきだと説いた。我々が運勢や神頼み、仏頼みになったり、気合と根性と誠心誠意で乗り切ろうとするのではまずい。

 情報もないのに、ただ訪問件数を増やせ、電話本数を増やせと尻を叩くのも、無駄なコストばかりかかって大した成果にはならない。  

 勝つためには情報収集しなければならない。顧客の情報、競合の情報、世の中のトレンド、自社の活動状況などの情報を地道に集め、それらを分析して、どう動くべきかを考える。その情報も鮮度の高い情報が求められるし、その情報によって先手を打つことができるようになる。営業活動、売上創出活動においては、「先知先行管理」が必須である。先々の売上や受注を見通しながら、先手を打っていく。先に情報をつかみ、先手を打って行く。自社の商談期間や納品リードタイムなどを見て、先々への仕込みをする。そうすると、取れるべくして取れる受注もあるし、棚ボタでもらえる受注もあることが分かる。もちろん、取れると思っていたのに失注してしまうものもある。それをつかむのがリーダーである。

 大きな事業投資をすれば、稼働・維持するために膨大な人件費や管理費等が必要になる。投資資金を回収するのに何年もかかったあげくに、わずかな事でライバル企業との競争に敗れてしまうこともある。にもかかわらず、事前に入念なマーケティングやライバル企業の情報収集を怠るのは、経営者として失格である。

 優れた経営者が事業展開して成功できるのは、事前に入念なマーケティングやライバル企業の情報収集を行うからである。しかも、それらの情報は、机上の空論でなく、人が足で稼ぐ現場の生の情報でなければならない。

 何年にも渡って敵国とにらみ合うようなことになれば、戦費も莫大である。だが、その勝敗を分ける決戦は一日で終わる。川中島の決戦も、天下分け目の関ヶ原も、せいぜい半日程度。そこで負ければ、すべての努力はその時点で水泡に帰す。そこで、重要になるのが、敵国の情報をスパイ(間諜)を使って収集すること。敵方への調略、情報流布活動(プロパガンダ)なども必要である。決戦時に失敗が許されないからである。そのスパイに払う褒賞をケチって敵の情報を収集しない将軍がいたとしたら、指揮官失格であると孫子は断じる。節約した金は、莫大な戦費の中ではほんのわずかな金に過ぎないからです。

 神様、仏様に頼ったり、気合と根性で乗り切ろうとするだけでは、安定した成果を生むことはできません。孫子は優れたリーダーの特徴は先知であると説きました。先に知って、先に手を打ち、先々を見通しているからこそ優れた成果をあげることができるのだと。

 やってみなければ分からないという経営ではなく、先を読んで手を打ち、決して結果オーライに甘んじないようにしていきます。

 「明君とか賢将とか言われる者が相手に勝ち、目覚しい成功を遂げるのは、人より先に敵情を知り、事態を予知しているからである。」とのことです。

 

スパイを利用せよ

 孫子は、間諜に5種類あることを示した。

 現代企業における間諜である営業マンに置き換えてみる。

・因間(郷間) 顧客の身近、周辺にいる人間を利用する諜報活動    

  近所の人、親族、出入りしている人、取引業者、口コミの評判

・内間 顧客の内部にいる人間をスパイにする    

  客先で内部情報を聞き出す、秘書・受付と仲良くなる

・反間 敵のスパイを利用する こちらのスパイにしてしまう    

  競合の営業マンと親しくなり情報を聞き出す、自社に転職の誘いをしてみる    

  軽くニセ情報を流してみる

・死間 死ぬ(失注)からこそ聞ける情報をとってくる    

  失注した時にこそ聞ける本音情報をとる    

  失注してもそこで終わらずに伝えるべき情報を伝えてリベンジに備える

・生間 一度で終わらず二度三度と諜報活動を繰り返す    

  受注したら更に突っ込んで色々と裏情報、内部情報を聞き出す    

  その情報は蓄積し、今後の取引に備える

 営業活動が諜報活動に相当すると思えば、いろいろと工夫する余地がある。営業マンはモノ売りではなく、情報の力で人を動かす人でなければならない。情報と言っても、インフォメーションではなく、インテリジェンス。まさに諜報であり、それが孫子の兵法を現代の営業活動に応用する時の重要ポイントである。したがって、営業活動は、顧客へのプロパガンダとも言えるし、情報リークとも捉えることができる。顧客に適時適切な情報を流すことによって、顧客の判断軸を作り、またそれを変えて行く。人は見ようと思ったものを見、聞こうとしたものを聞く。いきなり商品の説明や売り込みを行うのではなく、予めその商品を正しく判断できるようにするための情報を流してあげて、判断軸や評価尺度を作ってあげることが必要なのです。

 孫子は「お金を惜しんで敵情視察をしないものはバカである」と言っています。

 ビジネスでも、情報収集をせずに新規事業を立ち上げる人が大勢います。市場調査、競合調査、ノウハウの獲得、経営情報の獲得など、それらの情報がなければ成功しないでしょう。

 

情報の価値を汲み取り漏洩は決して許さない

 人生をかけ、キャリアをかけて仕事をするなら、それ相応の人と仕事をしたいと考えるのが普通である。「報酬を払っているのだから、黙って言うことを聞け」という態度、姿勢では人は動いてくれない。2500年前ですらそうだった。気に入らなければ斬って捨てても許される時代であっても、人を使うリーダーには多くの要件が求められた。このことを現代の経営者は忘れてはならない。ここで、リーダーとしての条件である、「智・信・仁・勇・厳」に加えて「聖」が追加される。聖人とはまさに人知を超えた神なる存在とも言うべきか。そして、現場に出て集めてきた情報から真実を読み取る洞察力と論理力。たとえば、営業マンや顧客対応窓口が顧客から収集してくる情報は、貴重なマーケット情報ではあるけれども、断片情報であり、主観が混じっていたり、誤解があったりして、そのまま鵜呑みにはできない情報も多い。真偽も定かではないから、裏もとらないといけない。個々の情報は点に過ぎない。それを、リーダーは点をつなげて線にして、線を面にする。その面も表から裏から見て、過去から現在の積み重ねを見て、そこから未来へと延長する推察や論理も必要となる。こうした情報の裏にある因果や背景、真実を読み取って、何らかの意思決定を下さなければ、せっかく集めた情報も成果には結び付かない。ただ集めたデータを見て「あれが悪い」「これが悪い」と言っているだけでは何の意味もない。なぜそうなっているのか、その真因はどこにあるのか、どうすればその真因を取り除くことができるのか までつかんで、手を打ってこそ情報を分析したと言えるし、インフォメーションからインテリジェンスへの昇華がなされたと言える。

 現場の営業マン、諜報マン、現場の人間は、すべて情報をもたらしてくれる間諜であるが、事実だけでなく感じたことを添えて伝えてもらう。その場で感じた実感を添えてもらうことで、単なるデータや事実が温度感のある生々しい情報となる。経営者には、その情を汲み取る思いやりや慈悲の心があれば良い。そして、その情報を重ね合わせ、時系列に並べてみて、その裏にある流れを読み取る。一時点では読み取れなかった事が、時系列に追いかけてみると見えてくることがある。営業担当者や顧客対応窓口がせっかく収集した顧客の声やマーケット反応も、その価値をとらえて企業経営に活かすマネージャーや経営者がいなければ、ただのゴミ情報と化してしまう。情報活用とはIT活用とは違う。読み取る人間の側の問題なのです。

 危険を顧みず、敵国に侵入し、何年もかけて情報を収集するような諜報活動をさせるためには、間諜が優秀な人材であることはもちろんだが、依頼する側に余程人間的な力や魅力がなければならない。そして、個々の間諜が伝えてくる情報は、個別、断片情報に過ぎないから、それらを統合し、その因果を読んで、隠れている真実をつかむ洞察力がなければ、せっかくの情報も役には立たない。

 顧客のためにやるべきだと考えている仕事や業務を徹底しない、実行しない社員を許してはならない。業務命令違反だとか、ルール破りとか、社内の問題の前に、顧客に対する背信行為であることが問題である。会社に対する背信行為であれば、その経営者なり組織が許せばそれで済むが、顧客に対する背信行為を会社が許してしまったら、今度はその会社丸ごとが顧客からそっぽを向かれることになる。そうした問題行動をとる社員を処断できない弱腰なリーダーが、組織の崩壊、企業の倒産へと導く。

 機密情報の漏えいは競争上死活問題につながることから、企業の組織内における情報統制を厳格にすることは重要である。近年、企業におけるコンプライアンス導入の必要性が高まっているが、ここでは規律の遵守を徹底させなければならないことが、組織の課題として明示されている。

 

攻める前に周到に諜報すべし

 何としても成功させたい商談や事業企画があり、攻略したい顧客やキーマンがいるなら、その情報を徹底して収集し、それに通ずる人脈をたどり、相手の取り巻きや過去からの経歴、経緯などを調査した上で慎重に事を進めなければならない。

 法を犯して産業スパイをせよというのではない。日頃の業務、活動の中でいろいろな情報が取れるはずである。それらを捨ててしまわずに蓄積しておけば良い。そうして、相手からの信頼を得、信用を勝ち取り、友情とも言えるような感情や関係性を築けたならば、その相手を反間として、また、内間、郷間として利用することもできるようになる。競合企業の営業マンは、まさに反間である。同業者の集まりや、同業者が一堂に会するイベント、展示会などで隣り合わせになったりする。そこであれこれ世間話などもしていれば、自ずと競合企業の内部事情などが聞けたり、読み取れたりする。

 

上智を間者とし大功を成せ

 営業(諜報活動)の重要性を認識した優秀な経営者のみが、優れた営業担当者を使いこなすことができる。その担当者が集めてくる情報の価値を活かすことができるのである。営業力強化のポイントは、営業マンの売り込む力、押し込む力にあるのではなく、マーケット、すなわち、顧客や競合の動きを把握する情報力、諜報力にある。どんなに営業力、戦闘力、兵力があろうとも、顧客の情報、競合の情報、マーケット情報、敵の情報、戦場の情報がなければ、戦いに勝利することはできない。商品力や開発力は小さくても、相手の動きを把握していれば、マーケットニーズを探り、ニッチな分野に絞り込むなど戦いようがある。その判断、戦略立案の元になるのが、営業マンが諜報してくる情報である。殷や周が、最優秀の人間を敵国に送り込み諜報させたように、21世紀の今も、戦う時には情報が必要であり、その情報をとってくる人間は、上智でなければならない。営業マンを諜報マンとして捉え直し、優秀な人材を充てて育成していくことは、企業経営にとって大切である。作れば売れ、売れれば儲かるという時代ではなくなった。売れるものを作らなければならないし、儲かるように売らなければならない。そのためには、顧客のニーズを汲み取り、斟酌して、先回りする諜報力が必要です。競合の動きを察知し、その意図を読み、有利にビジネスを進める智恵が求められる。

 だが、この営業部門を軽視している会社がある。技術系、開発系の下請け体質の会社に多い。また、経営者が技術者、開発者だとそういう傾向が強い。「安くて良いものを作れば売れる」という発想の会社である。技術力があり、商品力があるのは大いに結構なことだが、それでは営業機能を親会社に依存した下請け構造に甘んじるか、たまたま当たれば売れるが、継続して売れるものを出し続けられないという。

 営業活動を諜報活動と考えるというのは、営業活動を仮説検証活動だと捉え直すことに等しい。こちらの持つ情報をマーケットにぶつけてみて、その反応をつぶさにつかんでフィードバックし、それに基づいて次の手を打つ。間諜を送り込んで、敵国に情報を流しつつ、敵国の動きを探り、それを自国に持ち帰り、戦い方を考えるのと同じ。諜報(営業)活動によって、先知し、攻めたい先の周辺情報までしっかりと探る。その情報に基づいてターゲッティング(絞り込み)し、全軍を動かす。製造も開発も仕入も施工も物流も、すべてはマーケット情報、顧客起点の情報によって動き、それに合わせていかなければならない。

 間諜からの情報が間違っていたり、不充分であったなら、それを元に立てた作戦は自ずと失敗することになるし、それを信じて動かした兵隊は思わぬ罠に陥るかもしれない。信頼できる情報を得てこそ、戦争に勝つことができる。紀元前も今も、戦争は情報戦。どんな武力も兵力も、情報なくして有効に動かすことはできない。