「孫子」に学ぶ戦略

 戦略とは、「市場に多くの競争相手がいる中で、実際に競争をする以前に有利な状況をつくりだすことや、あるいは競争を避けながら有利に展開するための策略」のことです。

 第一に、経営理念や使命感が明確になっていて、社員と共有されていなければならない。自社が何のために存在し、どこへ行こうとしているのか、それによってどのようなプラスが世の中に生じるのかを明らかにしなければならない。真・善・美を感じる仕事をするからです。

 第二に、それが時流やトレンドに合っているかどうかを考えてみる。理念や使命感の発露を時流や環境に合わせると言っても良い。真はともかく、善や美は時代によって移り変わる。独りよがりな思い込みでは経営にならない。

 第三に、自社の事業構造、収益構造を見直し、競合とのポジショニングを考える。自社の収益構造がどうなっているのかが分かっていない経営者もいるから要注意である。利益を生み出す仕組みというものを知ること。その上で競合との差別化を考える。

 第四は、経営者、管理者。ここでは「智・信・仁・勇・厳」を考えます。物事の本質を見抜く智。部下や取引先からの信頼。部下を慈しみ育てる仁の心。困難に立ち向かい信念を貫く勇。組織を動かすルールを徹底し処断する厳しさ。人の上に立つ人間がこれら5つの要素を有しているかどうかを見る。

 第五には、組織体制や制度・規則が有効に機能しているかどうか。人事と言っても良い。何を評価し、それをどう処遇するかが明確になっていて、それが戦略と整合しているかどうかが重要である。

 

差別化戦略

 差別化戦略において、競合他社と違っていればよいというものでは無い。劣っている方向で差別化しても意味がない。

 では、どのように違っていればよいかと言えば、「お客様にとって価値がないところで差別化しても意味がない」ということ。差別化とは、「お客様に、より良い価値を提供する」ということが本質なのです。

最小抵抗線に乗ぜよ

 孫子の「戦わずして勝つ」の流れを汲んでいる部分です。戦うにしても、相手の一番弱いところを叩け、ということです。相手の商品の弱みが価格であればそこで戦い、相手の弱みがサービスであればこちらはしっかりしたサービスを提供して差別化するということです。

 競合相手と同じことをすると、相手の強みと自分の強みがぶつかります。逆に、競合相手の弱いところを研究して、そこに自分の強みをぶつけていけということ。マーケティング戦略的には「差別化」という概念と近い。

 矛盾のマネジメントが経営者の仕事だとも言えます。「選択と集中」ということで、ある一つのことだけをやっていれば楽かもしれません。しかし、それではリスクが大きすぎます。逆に分散しすぎると、自分の得意分野への集中が損なわれてそれもまずい。だから、集中と分散をどのようにバランスを取るか、というのが経営的意思決定の一つでもあるのです。

 困難に見える事業でも、ライバルの参入していないマーケットで展開すれば、失敗の恐れは少なくなる。ライバルの弱点を逆手にとって事業展開すれば、新規参入しても成功できる。

 ライバル会社が強大で、資金も人員も相手が優っているようであれば、真正面から対決することは避けるべきです。「強者」に対しては「差別化戦略」をとることです。

 強者は弱者を潰してさらにシェアを広げるために、真正面からの対決を挑みます。この戦略は特に「ミート」と呼ばれています。弱者としては、この強者の「ミート」をできるだけ避けるような戦略をとらなければ生き残れません。

 それには、まず相手の動向を探り、観察することによって基本戦略を知り、差別化する必要があります。先行したヒット商品の二番煎じで売り出す戦略もありますが、これは一時的な売上しか見込めません。長く生き残るには、マネではなく、違いを出すために敵情を探るのです。

 自軍が近づいても敵が静まり返っているのは、相手が自らが位置する地形の有利さを頼みとしている。

『千里を行きて労せざる者は、無人の地を行けばなり。攻めて必ず取る者は、其の守らざる所を攻むればなり。守りて必ず固き者は、其の攻めざる所を守ればなり。故に、善く攻むる者には、敵、其の守る所を知らず。善く守る者には、敵、其の攻むる所を知らず。微なるかな微なるかな、無形に至る。神なるかな 神なるかな、無声に至る。故に能く敵の司命を為す。』第六章 虚実篇)

 千里もの長距離を遠征しても疲労が少ないのは、敵のいないところを進むからである。攻撃すれば必ず奪取できるのは、敵が防御していない所を攻めるからである。守る際に堅固であるのは、相手が攻めてこない所を守っているからである。だから、攻撃が巧みな者に対すると、敵はどこを守ってよいかが分からないし、防御が巧みな者に対すると、敵はどこを攻めてよいのかが分からないのである。微妙な戦いの妙は、無形であり、神業のような戦いは音もない。それによって、敵の生死を自在に操ることができるのである。

 

弱者が強者に勝つ

 弱者、すなわち兵力の小さい軍隊が、強者、すなわち兵力の大きい軍隊に勝つ戦法を孫子は3つ挙げています。

 1つめは「集中戦法」、2つめは「少数精鋭戦法」、3つめは「奇襲戦法」です。 現代の経営にも当てはめることができます。弱者を規模の小さい会社、または売り上げの小さい会社、強者を規模の大きい会社、または、売り上げの大きい会社と読み替えればよいのです。

 競合製品と自社製品との比較検討をよくして、競合製品の弱い点と比べて自社の優れている点をアピールしましょう。

 また、競合他社がまだ戦う準備ができていない分野、組織も製品も備えられていない分野で戦いを仕掛けることができれば、新しいマーケットを早い時期に総取りできます。

 競合が重要さに気づいていない領域や、力を入れていない分野を見つけ、そこに自社の主力をぶつけることができれば、勝率はかなり高いでしょう。

 

選択と集中

 ビジネスの世界においては、不利な状況のまま競合相手との競争を強いられる場合もあるでしょう。そういうときは、ランチェスター流の局地戦や集中戦などの「弱者の戦略」が有効になってきます。兵力に劣る弱者が資本や規模で上回る強者と戦うときは、全面対決を避けて、相手の弱い部分をこちらの総力で叩く。このような一点集中型の戦いを選択すべきです。そこに いわゆる「選択と集中」が必要となってくるのです。

 

弱者は精鋭部隊を備えよ

 大企業や中堅企業が敵となった場合、中小零細企業は「もうダメだ」と気持ちが萎えがちです。大手に対しては人材の量も質も及ばないというイメージをもっており、何をやっても勝てそうにないのである。しかし、それは思い込みに過ぎない。

 ナポレオンはこう言った。

 「強い人が勝つとは限らない。素晴らしい人が勝つとも限らない。  私はできる、と考えている人が結局は勝つのだ」

 大手の場合、その人数の多さから従業員の1人ひとりはどうしても歯車の一部的になる。結果、個々の意識は低くなってしまいやすい。それに対して、中小零細は、社長と少数の従業員のみで構成されており、一致団結しやすいという強みがある。大手の従業員が高い能力を保有しているとしても、こちらにはそれを上回る意思の力がある。

『兵は多きを益とするに非ざるなり』第九章 行軍篇

 戦争は兵士が多ければよいというものではないということである。多ければ、個々の兵士にトップの目が行き届きにくくなる。そのため、中間管理職を置くわけだが、彼らにトップほどのリーダーシップはない。これが大手の弱点であり、逆に中小零細の側からすれば、唯一優位に立てるポイントです。自社を少数精鋭化し、有利な点をより強化することは勝つために必須です。

 中小零細でも、少数精鋭化し、得意分野に集中して事業を営み、顧客に愛される企業になれば生き残れる。それには、社長が頑張るばかりでなく、右腕、左腕となる幹部社員が社長と同じ気持ちで仕事に取り組まないといけない。逆にいうと、社長の幹部育成能力が中小企業の成否を分けるといっても過言ではない。

 「自社は弱者だ」と語る経営者、ビジネスマンは多い。本気でそう思うならば、自分たちを「精鋭」と自信をもって言えるまでに高める努力が欠かせない。それを抜きに「弱者の戦法」はありえないのである。

 

フォーカス戦略 小が大を制す

 競合があまり力を入れておらず、自社が得意で、しかも顧客ニーズの大きい分野に特化する ことが出来れば、その分野では勝てる可能性が出てくる。

 仮に敵の店が20人、こちらの店が5人で運営しているとすれば、敵はこちらの4倍の勢力であり、販売スペースも品ぞろえの規模でも圧倒され、勝ち目はほとんど無い。

 しかし、敵がⅠからⅣまで4分野を扱っていて、そのうちのⅣは20人中2人で細々とやっているとする。自社がもしこのⅣの分野に強ければ、こちらの5人すべてを集中させることで、Ⅳという局所では勝てる可能性が出てくる。

 小売業でいえば、大手は総じて顧客への目が行き届いていない。上得意客に対してはきちんとデータをとって接客しても、その他の大半の客には顔も名前も覚えぬまま、雑なサービスをしている。中小零細店はその弱点を突くべきなのです。

 こちらは、大企業の「ここだ!」と思う一点に狙いを定め、一点集中攻撃をかけるわけです。

 アイデアで勝負? サービスで勝負? 技術で勝負? 何か一つ相手に勝る物に戦力のすべてを賭けて勝負すれば、勝機が見出せるかも知れません。

 どんなに強大な相手でも、必ず守りが薄い場所があり、つけ込む隙があります。

 「ここが狙い目」という「時と場所」を定める事ができたなら、たとえどんなに遠くまで遠征しても勝てるし、それを見抜けなかったら戦力が分散され、お互いに協力し合う事もできないようになるのです。

 社員100人の会社が10万人の大企業と勝負する時は、1つの ニッチ な分野に戦力を集中させれば勝利できます。

 大企業は、10万人と言ってもいろんな製品を扱っていて、数多くの部署に人材を分けて配置しているので、某製品を扱う大企業の課は10人前後ということがあります。そのため、某製品に特化した100名の中小企業は、その分野においては大企業の10名の課よりも多くの戦力を保有しており十分に戦うことが可能です。

 相手はどこから攻撃されるかわからないわけですから、当然あぶない所を全部守備しなければなりません。たとえば、その守らなければならない場所が10ヵ所あったとしたら、兵を10に分けて守る事になります。  こちらと相手のもともとの戦力がほぼ同じ場合、その10ヵ所のうちの1ヵ所に、こちらの戦力をまるまる使うとすれば、10の戦力で1を攻撃するという事になる。その場所に関しては、相手の10倍の戦力で攻撃できる事になります。

 競合があまり力を入れておらず、自社が得意で、しかも顧客ニーズの大きい分野に特化することが出来れば、その分野では勝てる可能性が出てくる。

 仮に敵の店が20人、こちらの店が5人で運営しているとすれば、敵はこちらの4倍の勢力であり、販売スペースも品ぞろえの規模でも圧倒され、勝ち目はほとんど無い。

 しかし、敵がAからDまで4分野を扱っていて、そのうちのDは20人中2人で細々とやっているとする。自社がもしこのDの分野に強ければ、こちらの5人すべてを集中させることでDという局所では勝てる可能性が出てくる。

 小売業でいえば、大手は総じて顧客への目が行き届いていない。上得意客に対してはきちんとデータをとって接客しても、その他の大半の客には顔も名前も覚えぬまま、雑なサービスをしているのみである。中小零細店はその弱点を突くべきです。

『善く将たる者は、人を形せしめて我に形無ければ、則ち我は専りて敵は分かる。我は専りて一と為り、敵は分かれて十と為らば、是れ、十を以て其の一を攻むるなり。我寡なくして敵衆きも、能く寡を以て衆を撃つ者は、則ち吾が与に戦う所の者約なればなり。』第六章 虚実篇

 戦上手な将軍は、敵には陣形を露わにさせ、我が軍は秘匿して無形を維持する。我が軍は(敵の動きが分かっているので)兵力を集中させることができ、敵軍は(こちらの動きが分からないので)兵力を分散させることになる。我が軍が一点に兵力を集中させ、敵軍が分散して10隊に分かれたとすると、敵の10倍の兵力(敵が自軍の10分の1の兵力)をもって攻めることができる。我が軍の兵力が全体としては少なく、敵軍の方が多かったとしても、その小兵力で大兵力を打ち破ることができるのは、個々の戦闘において兵力を集約させ、集中して敵に当たるからである。

敵は分散、我は集中の状況を作れ

 自社と競合の経営資源を冷静に見極め、敵に味方の兵力を悟られないようにしながら、フォーカス戦略をとることが重要である。

 敵が大軍であっても、兵力を分散させてしまえば、恐れるには足らないと孫子は説いた。こちらは一点集中、一点突破である。

『吾が与に戦う所の地は知る可からず。則ち敵の備うる所の者多し。敵の備うる所の者多ければ、則ち吾が与に戦う所の者寡なし。故に、前に備うれば則ち後寡なく、後に備うれば則ち前寡なく、左に備うれば則ち右寡なく、右に備うれば則ち左寡なく、備えざる所無ければ則ち寡なからざる所無し。』第六章 虚実篇

 我が軍が兵力を集結させて戦おうとする地点を敵は知ることができない。したがって、敵が多くの地点に兵力を配備しなければならなくなる。敵が備える地点が増えるほど、それぞれの地点で我が軍と戦う兵力は小さくなる。すなわち、前方に備えようとすると後方が手薄になり、後方に備えようとすると前方が手薄になる。左翼に備えようとすると右翼が手薄になり、右翼に備えれば左翼が手薄になるのであり、すべての方面に備えようとすると、すべてが手薄になってしまう。

 敵の状況や動きを知り、自軍の実態を把握していれば、勝利に揺るぎがない。その上に、地理や地形、土地の風土などの影響を知り、天界の運行や気象条件が軍事に与える影響を知っていれば、勝利を完全なものにできると言われるのである。

 競合企業と自社との経営資源、経営力の差も大切ではあるが、その時の時流や勢い、環境の変化、事業構造や収益構造の変化なども複雑に絡まり合い、単純に敵、味方の企業力比較だけで勝ち負けを判断することはできない。

『寡なき者は人に備うる者なり。衆き者は人をして己に備え使むる者なり。故に、戦いの地を知り、戦いの日を知らば、千里なるも戦うべし。戦いの地を知らず、戦いの日を知らざれば、左は右を救うこと能わず、右は左を救うこと能わず、前は後を救うこと能わず、後は前を救うこと能わず。況んや、遠き者は数十里、近き者は数里なるをや。以て吾れ之を度るに、越人の兵は多しと雖も、亦た奚ぞ勝に益せんや。故に曰く、勝は擅ままにす可きなりと。敵は衆しと雖も、闘うこと無からしむ可し。』第六章 虚実篇

 兵力が分散して薄くなってしまうのは、相手からの攻撃に備える受身に回っているからである。兵力を集中させて優勢にできるのは、相手がこちらの出方に備えるように仕向けた主体的な立場だからである。そうしたことから、もし戦闘地点も分かっており、戦闘開始の時期(日時)も分かっていれば、仮に千里も離れた遠方であっても、主導権を持って戦うことができる。逆に、戦闘地点も戦闘時期も予測できず、受動的に戦わざるを得ないような場合には、左翼が右翼を救援できず、右翼も左翼を救援できない。また、前衛が後衛を救援することもできず、後衛が前衛を救援することもできない。一つの軍であっても、このような状態であるから、遠く数十里、近くても数里離れた別働の友軍支援などできるはずがない。

 日頃から、属する業界や自社、競合企業のことばかりではなく、視野を広くして世のトレンドや動きをつかむ努力が必要である。大手企業であれば、経営企画などのスタッフ部門が色々な情報を集め、分析してくれることもあるが、多くの中堅・中小企業では、こうしたことは経営者の仕事であり、現場の社員に押し付けるような話ではない。だが、現場での些細な変化、ちょっとした気付きが重要なこともあるから、そうした情報が吸い上がる仕組みを整えておくことも忘れてはならない。

 相手を知って自分を知り、タイミングを待って、最適な場所を活かせば必ず勝てると孫子は言っています。

 敵の状況、味方の状況を把握すれば、危うげなく勝利し、土地の状況、気象状況を把握すれば、勝利は万全である。

彼を知り己を知らば、勝、乃ち殆うからず。地を知り天を知らば、勝、乃ち全うす可しと。第十章 地形篇

 敵地で戦う時は、まず関所を封鎖し、敵の連絡網を断ち、すみやかに軍儀して、敵が最も重視している部分を見極め、決定したら行動を開始する。

 

戦わずして勝つ

 「戦わずして勝つ」 これは「百戦百勝は善の善なる者には非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」という一節からです。

 「百回戦って全勝するのが最善ではない。戦わずに敵を屈服させるのが最善である」と孫子は説いています。「孫子」は兵法書なので「勝つ」ための方策を説いているのですが、「戦って勝つ」ことが最善とは考えていないのです。戦闘になってしまえば民衆が巻き込まれてしまうことになり、自国も敵国も国力が疲弊してしまいます。

 ビジネスの世界でも同様です。競合先の企業と血を血で洗うような激しい競争になってしまうとお互いに疲弊してしまいます。

 このような事態を避けるためには、他社との「差別化」を模索していくことになります。独自のサービスを開発したり、特定のニーズに応える商品に特化したりして、他社と競争しない状態を自ら作っていくのです。

 戦略とは、目的達成の手段である。

 競争が少ない顧客セグメントに特化する、誰も手をつけていなかった製品カテゴリーを一番最初に出す。など、戦わない方法はあるのです。それが横並びの発想になると、どうしても相手を意識するあまり、相手がいるところを攻めてしまいます。それより、視点を変えてみて、戦わないで済むセグメントや売り方を考えればよいのです。

代表的な「戦わずして勝つ」方法

1 誰もいないところを攻める

 誰もいないところなら、労せずしてその領土を取ることが出来ます。「無人の野を行く快進撃」状態を自ら作るわけです。

 競争が少ない市場を選べば戦わずして勝てるのです。

2 圧倒的な強さを持つ

 ある特定の分野で圧倒的な強さを持つと、戦わずして勝てます。

 例えば、「スピード」というポイントで戦わずして勝つ。全ての分野で圧倒的に強ければ理想ですが、普通はそれは不可能ですので、地域、サービス、製品など、ある分野で圧倒的な強みを発揮すれば勝てるのです。

唯一無二の領域で相手を圧倒する

 百回戦って百回勝ったとしても、それは最上の勝利ではない。戦わずして相手を屈服させることこそ、最上の勝利なのである。「百戦百勝」は もちろん悪いことではありませんが、最善とも言えません。100回も戦えば、こちらも相手も疲弊してしまいます。戦いでは損害が生じ、双方とも消耗してしまうからです。100回消耗戦を繰り返すのではなく、戦いは20回に減らし、あとの80回は戦わずに勝つことができれば、双方の損害は減り、敵を味方にできる可能性は高まります。

『百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。』 『戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。』第三章 謀攻篇

 戦えば必ず勝つ。いわゆる「百戦百勝」が最高にすぐれたものではない。最もよい方法は、敵兵と戦わずして屈伏させる戦い方である。

 「戦わずに勝つ」、これがなぜ最善なのかというと、自社にも損害がないからである。戦って勝てば、敵よりも損害は少ないが、無傷というわけにはいかない。戦えば、仮に勝ったとしても、自社にも必ず棄損がある。値引き合戦で勝っても利益が出ない。

 この基本的な考えは、ビジネスの基本戦略であるともいえます。戦わずに敵を屈服させるのが最善である。

 孫子は戦争の悲劇をよく理解しており、「戦わないことを最善」とした。 孫子は、「戦争には2種類ある。望ましいものと望ましくないものである」と言っている。

 望ましい戦争とは、「お客様に満足いただくためのもの」、望ましくない戦争とは、「価格競争などの競合他社との消耗戦」ではないでしょう。

 競合他社が届かない高みにたどりつくことができれば、または参入してこない市場を見つけてそこで圧倒的なシェアを獲得できれば、他社はあきらめて競争にならないと考えます。

 自社がここで勝負すると決めた市場、ダントツNo.1になることです。 言い換えれば、ニッチトップ企業、ターゲット市場トップ企業になることをいいます。それらを確実に実現するために「あらゆる事態に、常に備えておく」ことも含みます。

 大企業が戦う市場を「大海」とすれば、中小企業は大企業が攻めそうにない自分たちが見つけた小さな「池」で、圧倒的に一番になる戦略を採るべきだ、というのがその内容です。

参考

独自ドメインの構築

 では、戦わずに相手を屈服させるにはどうすればよいのか? もっとも良いのは、絶対に負けない唯一無二の独自領域を確立し、戦う前に相手に戦意を喪失させることです。「この分野では叶わない」と相手に思わせることができれば、戦いを回避できます。

 この独自領域は、単なる強みではありません。誰も気づかなかった、誰も手を出さなかった、誰も追求しなかった、そのような領域を開拓し、徹底的に特化しましょう。

 競合企業との局地戦(客先での奪い合い)に勝ったからと言って喜んでいてはならない。最も有利な経営戦略とは、競合のない市場を開拓することであり、新しい市場を創り出すことである。

 敵の経営資源も取り込んでしまえれば 一石二鳥 である。ほとんどの企業は、自社の事業ドメインを物理的定義で認識している。扱っている商品に着目している。これでは同業者がたくさんいて、多くの敵と血みどろの戦いをしなければいけないことになる。そこで、自社の事業ドメインを「物理的定義」から「機能的定義」に変えてみる。自社の商品なりサービスが、顧客に対して実現している機能や効用に着目する事業ドメイン設定である。独自の土俵を作り、そこで一人横綱になるものだと考えれば良い。それができて、自社のビジネスに一つの切り口ができ、独自戦略となる。そうなれば、部分的に競合していたりする企業はあっても、会社全体でぶつかり合うようなガチンコ勝負はなくなる。戦えば、勝っても自社に棄損がある。ダメージがある。戦わないための準備をしておかなければならない。それが「上策」なのです。

 最善の戦略は、競合の戦略を無力化するものであり、次は競合の提携先や販路を断つことです。敵味方の戦力分析もせずに、無理な戦いをしようとしてはならない。  ただ、機能的なドメイン設定で、競合のない市場を創り出すことができれば、それが最善なのだが、その途上であったり、それができない場合には、競合との戦い方を考えていかなければならない。その際には、競合企業の戦略や意図、経営方針、営業方針などを読んで、その戦略を意味のないものにすることを考える。それができなければ、提携関係、友好関係を分断して切り崩す。一見強固な提携関係に見えても、時代は大きく変わり、企業の競争環境も刻々と変化している。従来の提携、友好などに囚われていては、そうした変化に対応できない。そこに付け入るスキが生まれる。

 仕事の上で、真っ正面から立ち向かって、予算やアイデアなどの内容で、その商談をまとめるのもありです。しかし、それはあくまでも次善であって、本当は戦わずに自然に仕事が転がり込んでくるように、日々から人間関係を築いているのが最もよい方法です。ファイトを持って戦い続けるばかりだと体力も気力も続きませんから、目の前の利益だけでなく、先のことも読みながら仕事をしたいものです。

 人間の歴史は、争いの歴史であり、現代もまた未来もなくなることはない。国同士の場合でも、企業同士の場合でも、社内のライバル同士でも、競争するということは避けることができない。しかし、その争いに ことごとく勝っても「最善の生き方」とは言えない。相手を納得させて、争わずに心服させて、協力させ、平和に生きることが「最善の生き方」である。目的は、勝つことではなく「利」を得ることである。

『凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ。』第三章 謀攻篇

 戦争では、敵国を保全した状態で傷つけずに攻略するのが上策である。敵国を撃ち破って勝つのは次善の策である。

 仕事も勝負ですから勝ち負けがあります。しかし、勝つにしても相手が負けたことを納得した上での勝利であれば、後に禍根は残りません。しかし、無理矢理な方法で得た勝利は、恨みを残し、後日、思わぬ形で仕返しをされることがあります。もし、今、そういう場面にいるならば、相手の立場をたてながらも勝利を得る方法を考えましょう。それはまた、自分にとっても利益になることです。

 

勝つべくして勝つ

 事業展開するにあたっては、慎重に事業計画を立て、勝算がなければ進めてはいけない。無謀な挑戦は命取りとなる。

『用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり。』第三章 謀攻篇

 戦争の原則としては、味方が十倍であれば敵軍を包囲し、5倍であれば敵軍を攻撃し、倍であれば敵軍を分裂させ、等しければ戦い、少なければ退却する。勝算がなければ、戦いは避けるべきである。小さな兵で大きな兵に挑めば、格好の餌食となる。小勢なのに強気ばかりでいるのは、大部隊の捕虜になるだけである。

 弱いくせに強がっていると、優勢な相手にやられてしまうということ。戦いにおいて、相手が自分より強いことが分かっていても、つい強がって虚勢を張りたくなることがありますが、それでは勝利は見込めません。まずは自分の実力を見極めることが最も大切であると言っています。

 織田信長が少人数で今川義元をうち破った「桶狭間の戦い」がありますが、あれはあくまでもレアケースで、非常な幸運と決断力があったからこそ起こせた奇跡のような勝利とも言えるでしょう。一般的には、戦いというのは数で勝負が決まることが多いのは確かです。今、もしビジネスで何らかの相手と競っていたならば、相手の戦力を分析して、それを分散させる作戦を進めること。そしてそれが無理で、勝てないと思った時には面子を捨ててでも撤退する勇気が、結果として最小限の痛手で済むことも少なくありません。何よりも冷静な状況判断が一番大切だということを忘れないでください。今回、もし負けても、いつか回復できるチャンスは必ずあるはずです。

 戦いは敵との比較が重要。戦力比に応じて戦い方を変えよと孫子はいう。企業も市場、流通、競合などの状況に応じて戦い方を変えねばならない。ただ、理想は大きな市場で多くの見込み客を前に「戦わずして勝つ」商売です。長く事業を継続させたいならば、経営者はこのような商売を探し続ける必要がある。

 戦略の本質は、「実際の戦いの前に」勝てる態勢と状況を作っておくこと、そして、そうした事前準備をした上でタイミングを見て実際の戦いを始めることであるという。

 タイミングを見るとは、「敵の動きなどによって勝てる状況になるタイミングを計る」ということである。戦場の情勢は刻々変化する。その変化の中で勝てるタイミングを見計らうことが勝ちを得るために重要である。

 事前の仕込みこそが戦略の真髄ということになる。技術の蓄積、生産体制の整備、流通チャネルの構築などなど、ビジネスをきちんと行えるだけの体制を整え、製品の魅力を十分に作った上で、狙いをつけたターゲット顧客に向けて攻勢をかけるということ。それでこそ、持続的に競争相手に対して勝てる市場競争戦略になる。

 勝者は、「勝つべくして勝つ」体制を整えてから事に臨む。一方、負ける人は、イチかバチかで、勝負に臨み運に任せて戦う。ビジネスも事前の準備をどれだけするかで結果が異なってきます。

 起業する場合は、事前に、どこの、誰に、何を、どのように販売して、どれだけの利益を出す、といったことを具体的に策定しておく必要があります。

 これらの戦法をとるには、自社に強みをもっているという条件がなくてはなりません。

 戦略は、コアコンピタンスをベースに考えなければなりません。自社の強みをベースにした戦略策定が重要です。

上策と下策 

 息の根を止めるような相手を完膚なきまで攻め滅ぼしてしまう戦いをすると、そこに残るのは敗者の恨みだけです。また、疲弊した国を自領にしても、すぐに他国から攻め込まれる弱点にしかなりません。だからこそ、孫武は「負けないためには、無駄な敵を作らない方が良い」と言っているのです。

 知恵をしぼり、敵を味方にしてしまう。恨みを買うような勝ち方ではなく、相手も納得する勝ち方をする。それはスポーツマンシップに似ているかもしれません。

『軍を全うするを上と為し、軍を破るは之に次ぐ。旅を全うするを上と為し、旅を破るは之に次ぐ。卒を全うするを上と為し、卒を破るは之に次ぐ。伍を全うするを上と為し、伍を破るは之に次ぐ。』第三章 謀攻篇

 敵の軍団を無傷のままで降伏させるのが上策であり、敵軍を撃破するのは次善の策である。

 敵の旅団を無傷のまま手に入れるのが上策であり、旅団を壊滅させてしまうのは次善の策である。

 敵の大隊を無傷で降伏させるのが上策であり、大隊を打ち負かすのは次善の策である。

 敵の小隊を保全して降伏させるのが上策であり、小隊を打ち負かすのは次善の策である。

弱者は隙を突いたゲリラ戦に打って出る

 孫子は、逃げるのも一つの戦法であり、弱い立場にある者でも戦機を見つけて戦いを挑めばよいと説いています。強大な敵の隙を突き、真正面から衝突するのではなく、ゲリラ戦に徹した戦いをするのが弱者の戦い方なのです。

 ビジネスでは、強者と弱者の立場ははっきりしています。シェアで勝る企業、強力な商品を持つ企業、全国展開する企業など、戦力を計るモノサシはいくつもあります。全ての戦力面で自社を上回るライバル会社に真正面から勝負を挑んでも、勝てる見込みはありません。そこで、「強大な相手の商品とは差別化した商品を開発する」「相手の営業が及ばないテリトリー外のところに拠点を築く」「ゲリラ的に広告・宣伝を行う」といった戦略です。

 

勝てる相手に勝つ

 孫子は、戦いに勝つ者は、絶対に負けないという状況を作り出して、相手が負けそうになる機会は見逃さないものであるということを言っています。つまり、実際に仕事の成果を上げる人は、地道に地固めをしているような人で、パフォーマンスが上手いだけで持て囃されるような人は、実際には、会社に貢献することは無いということです。

 一生懸命に仕事をしていてもなかなか認められないことがあるかもしれません。それはおそらく、商談を勝ち取るために地道な足固めなどをしているので、他の人に分かってもらえにくいからかもしれません。しかし、実際に会社に貢献するのは そのような人です。パフォーマンスに走りがちな人は、見た目は良くても、いつか正体がばれます。なかなか日の目は見ないかもしれませんが、しっかり働いていれば見ている人は見ています。

 本当に戦い方が上手な人は、無理をしないで勝てるような環境を作って勝つようにし向けます。そして、それが出来るのは、目立たない人であることが必要です。注目を集めないからこそ、目立たず作戦を進めることができるのだと孫子は言っています。

『勝兵は先ず勝ちて而る後に戦い、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む』第六章 虚実篇

 勝利する軍は先に勝つという見通しがたってから戦い、一方、敗北する軍は戦いを始めてからどうやったら勝てるかを考えている。

 名将、勝ちやすい者に勝つ。名将は勝ったとしても、その名を知られる事はないし、賞賛もされない。人々に絶賛されるような勝ち方をした人をすばらしい将軍だと思いがちですが、孫子からしてみれば、そういう勝ち方は最善の勝ち方ではないと言う。

 本当の名将は、事前にしっかりと準備を整え、勝てると思える戦いに無理なく自然に勝つ。それが当然の事であって、あえて人々から賞賛される事はないのです。

『勝を見ること、衆人の知る所に過ぎざるは、善の善なる者に非るなり。戦い勝ちて、天下善なりと曰うは、善の善なる者に非るなり。故に、秋毫を挙ぐるも多力と為さず、日月を見るも明目と為さず、雷霆を聞くも聡耳と為さず。』(第四章 軍形篇

 勝利の見立てが普通の人間にも分かる程度のことであれば、最高に優れているとは言えない。戦いに勝利して、それを天下の広く一般の人から褒め称えられるようでは、素人にも分かる程度の勝利であって、それも最高に優れているとは言えない。それは、細い毛を持ち上げたからと言って 力持ちとは言えず、太陽や月が見えたからと言って 目が良いとは言えず、雷鳴が聞こえたからと言って 聴力が優れているとは言えないのと同じことである。

 勝利を読み取るのに一般の人々にも分かる程度の理解では、最高に優れているものではない。また、戦争に打ち勝って天下の人々が称賛しても、最高に優れているものではない。

 日本のことわざで『能ある鷹は爪を隠す』というものがあります。人は往々にして自分の能力を認めてもらいたいと思うものです。しかし、名前が知られたり、能力があることがライバルに知られたりしてしまうと、あなたが居るというだけで、相手もそれ相応の用意や準備をしますから、戦いは厳しくなります。確実に勝利を得たいと思うなら、世間の評価などを気にせずに、真の実力を身に付けることが大事でしょう。

 

『『古の所謂善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に善く戦う者の勝つや、智名無く、勇功無し。故に其の戦勝忒わず。忒わざる者は、其の勝を措く所、已に敗るる者に勝てばなり。』(第四章 軍形篇

 

本当に戦い方が上手な人は、無理をしないで勝てるような環境を作って勝つようにし向けます。そして、それが出来るのは、目立たない人であることが必要です。注目を集めないからこそ、目立たず作戦を進めることができる。

 

軽々しく戦ってはならない

 自社よりも有利な立場、状況にある敵に対して戦いを挑むようなことはしてはならない。もし、敵がその優位性を活かして勢いづいて攻めて来たら、迎え撃ってはならない。こちらが攻める時には、騙して逃げる姿勢を見せる敵を深追いしてはならない。囲い込んでも逃げ道を用意しておき、「窮鼠猫を噛む」ようなことを避ける。

『戦えば勝ち攻むれば取るも、其の功を修めざる者は凶なり。命けて費留という。故に曰く、明主は之を慮り、良将は之を修むと。利に非ざれば動かず、得るに非ざれば用いず、危うきに非ざれば戦わず。』第十二章 火攻篇

 戦争は戦うために戦っているわけではない。何らかの目的があって戦いに挑んでいるわけですから、その目的が達成できなければ意味がない。

 有能な大将は、有利な状況でなければ動かず、必勝の作戦しか用いず、よほどの事が無い限り戦わないのです。

たとえ戦争に勝っても、その目的を達成できなければ、負けたのと同じである

 

意思決定は感情ではいけない 勘定で決めろ

 感情的になり、冷静さを欠く人間はリーダーとして失格です。感情的になった時点で、客観的な判断ができなくなる。特に戦争ともなれば、近親者を殺された恨みで、恨むべきでない人を恨み、それに固執し、無駄に兵力を毀損しては国力を奪う。三国志時代の蜀の劉備のように、関羽を殺された恨みで、呉に無謀な戦いを挑み、陸遜の火計に会い、気落ちして自らは白帝城でこの世を去った。どれだけ多くの兵士を無駄死にさせ、どれだけ魏への北伐が遅れたことだろうか。

 今のリーダーでも好き嫌いで物事を見る傾向を持った人がいる。ビジネスは好き嫌いも重要だが、それ以上に儲かるか儲からないかで見るべきです。たまたま好きなことが儲からないことで、嫌いなことが儲かることだったらどうするのか。この人は気が合うからと付き合い、この人は気が合わないからと付き合わない。しかし、気が合わない人の方がお金を払ってくれるとしたらどうする。当然気が合わないと永続的な関係は続かない。だから、継続課金が必要なビジネスでは、気が合う顧客との方が連絡が密になり、長続きする。客を選ぶのは儲かってからにすればよい。儲からないうちに客を選んでも始まらない。そもそも、ビジネスしたての頃は、客から選ばれる資格があるのかをまずは問わないといけない。であるから、感情ではなく、勘定で決める必要がある。

 感情論に固執しては身を滅ぼす。それ以上に、自分たちはいったい何がしたいのかを改めて自問自答すべきです。その目標を決めたら、あとはひたすら目標を数字に置く。その数字を達成した後で、好き嫌いは問えばよい。まずは、感情を押し殺して、収益の上がる、きちんとしたビジネスサイクルを作ることがリーダーの務めと言える。

 ・意思決定は感情ではいけない。勘定で決めろ。

 ・リーダーは数字の目標に忠実であるべき。自分の感情に忠実であってはならない。

『主は怒りを以て師を興す可からず。将は慍りを以て戦いを致す可からず。利に合えば而ち動き、利に合わざれば而ち止む。怒りは復た喜ぶ可く、慍りは復た悦ぶ可きも、亡国は以て復た存す可からず、死者は以て復た生く可からず。故に明主は之を慎み、良将は之を警む。此れ国を安んじ軍を全うするの道なり。』第十二章 火攻篇

 君主、将軍は、一時の怒りにまかせて戦争を始めてはいけない。国益に合えば軍を動かし、国益に合わなければ軍を動かしてはならない。怒りが喜びに変わることがあっても、滅んだ国は元には戻らず、死んだ者が生き返ることもない。だから、聡明な君主、優れた将軍は、軽率に戦争を始めない。これが国家を安泰にし、軍隊を保全する方法である。

企業を安んじ経営を全うせよ

 「戦わずして勝つ」「勝つべくして勝つ」 この冷静な判断が孫子兵法の真骨頂と言える。それを感情的になり激昂して、開戦を決めるようでは話にならない。

 経営者は、一時の感情で事業展開を行ってはならない。慎重に事業計画を立てた上で、自社の利益に合致すれば進めるべきである。どれだけ思いがあったとして、不利になれば事業撤退も考えるべきです。感情は時間が経てば収まるが、会社が倒産すれば、取り返しのつかないことになる。社員を犠牲にすることにもなる。

 優れた経営者は、慎重な計画に基づき、事業を進める。これが企業を安全なものにし、社員を守る方法である。

 

不敗の地に立つ

 成功する企業は、入念に事業計画を立て、失敗しないよう準備を整えた後に事業展開する。失敗する企業は、事業展開した後に成功を追い求めようとする。

 市場の獲得にあたって、そのコスト全てを自社で賄うのは良くない。

 製品を生産する前、販売する前のマーケティングが重要です。勝つ見込みを立ててから戦いを始めなければ、勝てる確率は非常に低い。ある程度構想ができた段階で市場にそのニーズがあるか、顧客がその製品やサービスを求めているか、しっかり聞いた後で製品を作るというのが正しい順番である。

 2千年の時を経ても人間の本質は変わらないようで、すぐに調子に乗りがちです。もし、仕事が上手く行っていて、勢いに乗って徹底的に攻めようと考えた時には、「守りは盤石か」と足元を見直しましょう。そうした用心深い動きが必勝態勢に結びつくことは少なくない。

 武田信玄が負けなかった大きな要因の一つには、次のような言葉によく表れています。

『善く戦う者は、不敗の地に立ちて、敵の敗を失わざるなり。是の故に、勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む。』第四章 軍形篇

 勝利する軍は、まず負けない態勢をとり、敵を破る機会を逃さないものである。勝利を収める軍は、勝利を確定しておいてから、その勝利を実現しようと戦闘に入る。敗北する軍は、先に戦闘を開始してから、その後で勝利を追い求めるのである。

 上手に戦う者は、自分は「不敗」の状態にしておき、敵のミスや隙は見逃さない。信玄は、強敵である北条家と今川家との間で同盟を結びました(甲相駿三国同盟)。これにより、攻め込まれる敵を減らし、信濃攻略に兵力を集中させました。

 また、情報収集を重要視した信玄は、「三ツ者」と呼ばれるスパイを多用。スパイからもたらされる情報を頼りに、大名の対立を利用したり、戦を仕掛けるタイミングなどを計算した。

 信玄は戦う前に勝率を高めていく手法を取りました。逆に、大量の犠牲者が出かねない、越後(現・新潟県)に本拠地を置いた上杉謙信との戦い(川中島の戦い)は、5度にわたって行ったものの、本格的な戦闘は1度きり。結局、信玄は謙信との戦いを引き分けに持ち込み、最小限の犠牲にとどめました。信玄は、このような戦略をとることでリスクを減らし、戦国の乱世を生き抜こうとしたわけです。

 さらに、信玄が優れた点は人使いの上手さにあります。信玄の配下には名将が多く集まり、後に「武田二十四将」と称される軍団を形成しました。

『善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。』第四章 軍形篇

 用兵に優れた者は、勝敗の道理、思想、考え方を踏まえて、進むべき道筋を示し、さらに軍制や評価・測定の基準を徹底させる。だからこそ、勝敗をコントロールし、勝利に導くことができる。

 勝つ人は、戦う前から勝てるか勝てないかを予想し、勝つイメージができたら戦い、勝つイメージが持てなければ戦いません。だから負けないのです。

 負ける人は、勝てるかどうかわからないのに戦い始めてしまう。戦いながら「どうしたら勝てるか」を考える。それでは、勝ち負けは五分五分でしょう。「勝つイメージができてから戦う」というのが大原則です。

 戦い方については、全容を把握し、十分に考えが及んでいることが重要です。そうすれば、事前準備を整えることができ、想定外の展開にも迅速に対処できます。

 評価基準では、日々の定型業務を漫然とこなすのではなく、自分なりの尺度(基準値、マイルール)を定め、それを意識しながら行うことが大切です。実際値と自分の尺度とのギャップを把握し、それを改善することで、勝ち負けを自在にコントロールする力が次第に身に付いていきます。勝ち負けの見極めができ、仕事のコントロールができれば、攻める・守る、戦う・戦わないなど、自分で決めて自由に判断することができます。

負けない態勢をつくる

 同じ規模、経営資源のライバル企業同士が、あるジャンルでシェア争いを演じたとする。お互いに必死で努力を重ねていれば「一進一退」、どちらが勝ったとも負けたともいえない状態が続いていく可能性が高い。『孫子』は、これを「不敗」、つまり「負けていない」と言う。そして、これは自分の努力次第で維持できると指摘する。

 ライバルに勝るとも劣らない努力を重ねている限り、そうそう負かされることはない。

 ところで、「勝利」できるか否かは、相手次第だと孫子は説く。

 もし、ライバル企業が代替わりに失敗して内部がボロボロになったり、不祥事を起こしてマスコミに袋叩きにされたりすれば、これは相手からシェアを大きく奪ったり、ライバルを圧倒してしまったりする格好のチャンスになる。

 だからこそ、まず不敗の態勢をつくっておいて、ライバルや環境のチャンスを見て勝ちに行くという道筋を『孫子』は戦いの基本に据えた。

『昔の善く戦う者は、先ず勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つ。勝つ可からざるは己に在り、勝つ可きは敵に在り。故に善く戦う者は、能く勝つ可からざるを為すも、敵をして勝つ可からしむること能わず。故に曰く、勝は知る可くして、為す可からずと。』第四章 軍形篇

 昔の戦い上手な者は、まず自軍をしっかり守って、誰にも負けないような態勢を整えた上で、敵が弱点を現して、誰もがうち勝てるような態勢になるまで待つ。誰にも負けない態勢を整えるのは味方のことだが、だれもが勝てる態勢とは敵側のことである。だから、戦い上手な者でも、味方をだれにも負けない態勢にできても、敵をだれもが勝てるような態勢にはできない。つまり、「勝利は分かっていても、それが必ずできるわけではない」と言う。

 仕事を進めていく中で、その商談をまとめるためには、どうしたらいいのか迷うことがあるかもしれません。そんな時は、相手と自分の信頼関係を築き上げて、さらに自らが主導して話を進めるのが大切です。ストレートに仕事の話をするのではなく、まず状況を固めることからはじめる。遠回しに思えるかもしれませんが、結局、それが一番の早道になることが、ビジネスにおいては少なくないからです。

 

自分の分を知り、意地を張らない

 自分の兵力が劣っているのは明らかなのに、無理をして大きな兵力に戦いをしかけても、敵の餌食になるだけである。

 実力が劣っているのに、「負けるはずがない」「たとえ大敵でも負けてなるものか」と根拠もなく戦うのは無謀です。それは弱者の意地に過ぎず、ほぼ負けるでしょう。

 「小よく大を制す」という言葉があるように、とかく小さな力の者が大きな敵を倒すことを賛辞する考え方があります。しかし、これを鵜呑みにしてはいけません。自分の兵力を冷静に見極めなければ、負けない仕事、負けない生き方はできないのです。

 孫子は、戦って良いのは、自軍が敵軍と同等以上の兵力を持っている時だけと言っています。自軍の兵力が低ければ撤退する。まったく及ばないのなら、敵との衝突自体を回避する道を選べと言っています。

 撤退を選択して長期的に負けない方向をめざすのは決しておかしくはありません。意地を張っても負ければ終わりです。勝たなくても、負けなければ いつか必ずチャンスは巡ってきます。

相手と自分を知り尽くす

 相手の実情や実態を知って、自己の状況も知っていれば、危険な状態には陥らない。

 相手の実情を把握せず、自分の状況だけ知っているなら、勝負は五分五分である。

 相手のことも自分のことも知らなければ、戦うたびに必ず危機に陥る。

 注目すべきは、相手と自分のことも知っていても、「危険な状態には陥らない」と言うだけで「戦いに勝つ」「百戦百勝」とは言えない点です。敵の方が自軍より優れている場合には、戦いを回避する(逃げる)という選択があるからです。

 相手も自分も分かっているのに負けるのなら、本当にそうなのか真摯に自問自答してみましょう。単にがむしゃらだけで戦いには勝てません。

 残念ながら、人は時に過ちを犯してしまいます。ビジネスにおいても、つい勢いで自分を大きくみせようとすることもあるでしょう。しかし、たとえ言葉などで自分の実力以上に見せることができたとしても、いつかは真の姿は相手に知られてしまいます。もし、これからビジネスチャンスを掴みに行こうと思っているなら、まずは、その要件に自分が応えられるだけの実力があるかどうかを顧みてください。見せかけだけの勢いだけでは、その仕事は失敗に終わってしまうはず。逆に、信用を無くすことにもなりますから、あまり無理はしない方がよいかもしれません。

 

主導権を握る

 敵より先に戦場に行き、敵を迎え撃てば余裕を持って戦える。逆に遅れて行けば、戦いは苦しくなる。であるから、名将は人を致して人に致されず である。「人を致して人に致されず」とは、「相手に左右されず自分が相手を左右する立場に立つ」ということ。つまり、主導権を握るということである。

 交渉ごとで自分の利益や都合を出すのは厳禁です。相手を思い通りに動かしたいときや説得したいときは、そうすることによって相手が得られるメリットを強調することです。

 ビジネスの世界の戦略でも、競争相手に主導権を握られるのと、こちらが主導権をもつのとでは、結果に大きな違いが出る。

 主導権を握るための戦略とは何かという観点から、二つのパターンを孫子は考えていると思われる。

 一つは、チャンスが到来したときに主導権を握れるように、自分の準備を整えておくという戦略である。敵がやって来ないことをあてにするのではなく、いつ敵が来てもいいような備えを自分がもつことを頼みとするべし というのである。その備えがあれば、敵が来たときにも主導権を握るような戦術をとれる余裕があるであろう。

 主導権を握る戦略の第二は、変幻自在に敵の裏をかき、スピーディーかつ徹底して自分の戦術を変化させることで、相手を翻弄し、疲れさせ、そこから相手の虚を多くすることである。そうして生まれる虚をつけば、主導権を握れるし、一気に勝てることもある。

 軍事の戦略の場合は、戦場の敵が「致す」対象としての「人」となるわけだが、企業の戦略の場合は、人とは二種類ある。競争相手と顧客である。

 競争相手という人に対しての、「致して致されず」というのは、競争相手に対して主導権を握るということである。

 顧客に対して「致して致されず」とは、顧客に対して主導権を握るということである。それは、積極的に顧客に対して働きかけ、発信していって顧客の潜在ニーズに訴えかけるということになる。顧客に対して「致す」企業とは、顧客に対して自分の主張をする企業である。顧客に「致される」企業とは、ご用聞きのように顧客の言いなりになる企業である。孫子の戦略からすれば、自分の主張をして主導権を握ることのできる企業が大きな成功を収めるということになる。もちろん、その主張が顧客の真のニーズに合致しているという大前提はあるが。

 こうして、競争相手に対しては競争の主導権を握り、顧客に対しては大いに主張して顧客を導くような企業が大きな成功を収める。その両方の意味での「人に致して人に致されず」が戦略の真髄の一つなのである。

 仕事や人間関係で主導権を握りたいのであれば、何よりも先手必勝が大事です。先にマーケットに参入すれば有利に事業を進めることができ、後れてマーケットに参入すれば不利な競争を強いられる。ゆえに、優れた経営者は、ライバルに先んじて、ライバルの戦略に乗せられることなく、ライバルが自分の戦略に有利な行動に出るように仕向けて、主導権を確保する。

 先回りして先手を打っていれば楽に余裕を持ってできるのに、ギリギリになって、後手後手となり、慌てて手を打っても結局手遅れとなることがある。先行管理ができていないのである。先行管理とは、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後、できれば半年後くらいまで見通して、今何をすべきかを考えていくマネジメントを言う。商談が成立するのに3ヵ月程度かかるのであれば、最低でも3ヵ月後か4ヵ月後までの受注見込を把握して手を打っておかなければならない。当月の売上が足りないからと言って、焦って手を打っても、商談成立までには3ヵ月かかるわけだから、時すでに遅しである。  

 3ヵ月後、4ヵ月後の受注見込、売上見込が少ないことが把握できた時点で手を打つ。ここで手を打っておくから、3ヵ月後、4ヵ月後に成果が出る。前月の売上結果を集計して、あれが良かった、これが悪かったと結果管理をしているようでは話にならない。

 営業部門がこうした先行管理にシフトできると、仕入購買から生産計画、資金繰りまでが先行管理で、先手を打てるようになる。会社に余裕が生まれ、経営の質がかなり上がる。

主導権は渡すな

 これは、「善く戦うものは人を致して人に致されず」という一節に由来します。上手に戦うものは相手の動きに翻弄されるのではなく、相手の軍を自分の思うままに動かすということです。ここで出てくる「致す」は「コントロールする」という風に解釈すればよいでしょう。

 ビジネスの世界でも、「交渉相手に合わせてうまくやろう」としても、望むような結果を手に入れることはできません。自分たちの望む結果を得るためには、自分たちが主導権を取り、相手を動かしていくようにしていかなければなりません。そのためには、交渉相手や市場の状況に関する分析を行い、複数のシナリオを用意しておくなどの事前準備が重要な意味を持ってきます。

 入念な事前準備に基づいて主導権を握る。これが成功につながる重要なポイントなのです。

 見切り発射で商談や提案をするのではなく、相手の事業内容や条件を考えて、自社のどのソリューションが役に立つのかをある程度整理してからアプローチしましょう。「とりあえずやる」や「上司に言われたからやる」では なかなかうまくいかないでしょう。

『能く敵人をして自ら至らしむる者は、之を利すればなり。能く敵人をして至るを得ざらしむる者は、之を害すればなり。故に、敵、佚すれば能く之を労し、飽けば能く之を飢えしめ、安んずれば能く之を動かす。其の必ず趨く所に出で、其の意わざる所に趨く。』第五章 兵勢篇

 敵軍をこちらの思うように動かすことができるのは、敵の利になることを見せて誘うからである。敵軍が思うように動けなくなってしまうのは、動けば敵の害となるように仕向けて動けなくさせているのである。だから、敵が優位な状況にいれば、それを切り崩してその兵力を減殺することもできるし、敵が充分な食糧補給ができていれば、その補給を断って飢えさせることもでき、休息している敵には、動かざるを得ないようにさせることができる。敵が必ずやってくるであろう地点に先回りして出撃し、敵が予期していない地点に急襲をかけるのである。

 先に戦場にいて敵の到着を待つ軍隊は安楽だが、後から戦場に辿り着いて戦いにのぞむ軍隊は苦労する。したがって、戦い上手な者は自分が主導権を握ることができ、相手を翻弄し、相手に翻弄されることがないという。

 孫子は、主導権を握るために、敵より早く戦場に到着せよという。戦争では準備が大切。事前に地形や天候を見て、布陣の仕方や攻撃の段取りを考える必要がある。敵に遅れをとったら、逆に主導権を奪われかねない。

 人生で起こる事象は自分の選択で起きたことと考え、すべての結果を甘んじて受け入れる。これが兵法思考の基礎であり、習慣化できれば明るい人生が送れると断言する。

 戦いはもちろん、何事においても物事を有利に運びたいと思ったならば、自分のペースに相手を巻き込むことが大切だと孫子は言っています。自分が有利な条件を引き出すためには、まずは先に動いて、自分が主導権を握れるような状況を作っておくことが肝心です。

 戦い上手な者は、相手ではなく自分のペースに巻き込むことができる人であるといことです。言い換えるならば、ことを上手く運ぶためには主導権を握ることが大切だということになります。同じ中国の「史記」に「先んずれば人を制す」ということわざがありますが、この言葉の意味と同じで、何事においても人より先に行うことができれば、有利な立場に立つことができるというわけです。

先行管理、先行指標によって受身経営から脱却せよ

 先行指標というものを考えてみます。たとえば、受注や売上などは、結果として出てくるものであって、これを見ているだけでは結果指標による管理だと言える。実際、受注や売上の前には、新規の見込創出数や、そのために行われる営業マンの訪問件数や電話本数などの活動がある。先行指標とは、これら結果が出るまでのプロセスにおける指標のことを言う。 

『先に戦地に処りて、敵を待つ者は佚し、後れて戦地に処りて戦いに趨く者は労す。故に善く戦う者は、人を致して人に致されず。』第六章 虚実篇

 敵より先に戦場に行き、敵を迎え撃てば余裕を持って戦える。逆に遅れて行けば、戦いは苦しくなる。であるから、名将は人を致して人に致されず。「人を致して人に致されず」とは、「相手に左右されず自分が相手を左右する立場に立つ」ということ。

 仕事では、クライアントからどういうことを求められるか予測できることも少なからずあります。そういう時、仕事ができる人は、前もって準備を怠らないものです。もし今、そうした案件があれば、「まだ時間があるさ」などと思わずに、先に動いておくことです。余裕があれば、商談においても自分の有利な状況に持ち込むことができるはずです。いつでも戦いの準備をしておく。それは、ビジネスにおいても同じかもしれません。

 ビジネスを成功させたいと思うのは当然です。しかし、何もないところからいきなり商談が進むことはありません。日頃からの人間関係づくりや情報収集を怠らないことが、「いざ」という時に役立つことは少なくありません。「早い」ということは、受けてからの完成だけでなく、「事前」に動いておくということでもあるのです。もし、今、仕事が上手く行っていなかったとしても、目の前の結論に落ち込まずに、次のチャレンジの機会を信じて、地道な積み重ねに取り組んでください。

 大切なことは、敵の考えを読むことである。敵が何を考えているか、どういう判断をするかが分かれば、自ずからこちらは先回りできる。

 先行指標をマネジメントすることで、マネジメントのサイクルを速くすることができる。

 経営が先行管理になって、余裕ができたら、今度は顧客のニーズを先回りし、顧客をこちらのペースに巻き込んでいくことを考える。顧客がまだ気付いていない時点で、顧客がまだ感じていない時点で先回りする。顧客が予想していない、そこまで期待していないニーズを創造し、そこを急襲するのである。

先行指標を設定することで、結果が出た後で反省するのではなく、途中段階で早めに手が打てるようにマネジメントサイクルを短縮して行きます。行動修正機会が増え、そのタイミングが早まることで、達成可能性が大幅にアップします。

 企業の力がその市場の中で強ければ、シェアを拡大してトップの座を守り、ライバル会社の商品と競合させて競争し、力が同等であれば全力で戦い、シェア拡大がむずかしい場合は、その市場から撤退し、その「すきま市場」をねらう。  技術力に自信があるからと、小さい企業なのに強気の戦略をたてるのは、営業力のある大企業に利用され乗っ取られるだけである。

 企業のあり方も、ライバルの優位なところ(商品・マーケット等)で競争するのを避けて、ライバルの手薄なところで競争するようにして、主導権を握るべきである。

 

主体的に戦略ストーリーを描け  

 主体性を持って経営に取り組むこと。競合先や親会社や景気などに左右され、受身の経営をしていては、いつまで経っても儲かるようにはならない。仮に規模が大きくなっても、守りで兵力が分散して、一点集中で攻めてくる新興企業に撃破されることにもなりかねない。

 自社が主導し、構想し、主体的にビジネスモデル、戦略ストーリーを構築することができていれば、どんな競合企業とも有利に戦いを進めることができる。そもそも不利な戦いには近寄らないようにしていけば良いことになる。

『寡なき者は人に備うる者なり。衆き者は人をして己に備え使むる者なり。故に、戦いの地を知り、戦いの日を知らば、千里なるも戦うべし。戦いの地を知らず、戦いの日を知らざれば、左は右を救うこと能わず、右は左を救うこと能わず、前は後を救うこと能わず、後は前を救うこと能わず。況んや、遠き者は数十里、近き者は数里なるをや。以て吾れ之を度るに、越人の兵は多しと雖も、亦た奚ぞ勝に益せんや。故に曰く、勝は擅ままにす可きなりと。敵は衆しと雖も、闘うこと無からしむ可し。』第六章 虚実篇

 兵力が分散して薄くなってしまうのは、相手からの攻撃に備える受身に回っているからである。兵力を集中させて優勢にできるのは、相手がこちらの出方に備えるように仕向けた主体的な立場だからである。もし、戦闘地点も分かっており、戦闘開始の時期(日時)も分かっていれば、仮に千里も離れた遠方であっても、主導権を持って戦うことができる。戦闘地点も戦闘時期も予測できず、受動的に戦わざるを得ないような場合には、左翼が右翼を救援できず、右翼も左翼を救援できない。また、前衛が後衛を救援することもできず、後衛が前衛を救援することもできない。一つの軍であっても、このような状態であるから、遠く数十里、近くても数里離れた別働の友軍支援などできるはずがない。

事業展開するマーケットとそのタイミングを正しく判断できれば、困難に見える事業でも勝算は大きくなる

 情報化社会においては、こちらの利点や弱点なども、用心を重ねないと相手に悟られてしまうことがしばしばあります。しかし、それを逆に利用して、わざと誤った情報を与えることで、相手を惑わせることも可能です。いわゆる「トラップ」というものを仕掛けることで、自分に有利な状況を生み出すわけです。そうした作戦も、時には必要かもしれません。ただし、それを実行するためには、自分たちの側の体制がキチンと整っている必要があり、いつでも使える戦法ではないことを忘れてはいけません。

『兵の形は実を避けて虚を撃つ』

 戦の法則は、敵の強い部分を避けて、隙のあるところ=弱いところを攻撃することである。 ビジネス上でも社内メンバーの弱い部分を知り、他メンバーをフォローすることで、社内での良いポジションを獲得できるでしょう。

 

手段と目的を履き違えてはならない

 ビジネスにおいて、元々は手段として取り組んでいるものなのに、いつの間にかそれを行うこと自体が目的化してしまうことがある。たとえば、売上を上げるために受注を増やす。受注を増やすために新規訪問件数を増やす。新規訪問を増やすためにアポをとる。しかし、アポをとることばかりに集中していては受注につながらない。新規訪問件数を増やそうと決めて、それを評価指標にしたりすると、今度は訪問数ばかりを増やそうとする。受注を増やすためなのだから、そこから次へつないで、提案書や企画書を提出したり、相手のキーマンを攻略したりと深耕していかなければならないのだが、新規訪問を回る時間を優先してしまって、肝心な商談進捗が後回しになる。

 生産性ということを正しく理解しなければならない。生産性とはインプット分のアウトプット。インプットを増やすばかりでアウトプットが増えなければ生産性は低下することになる。インプットを人件費として、アウトプットをその社員の行動量だと考えれば、「同じ給料を払うなら、より多くの行動をしてもらった方が得」ということになるが、そのような部分最適を是としていては、会社全体の生産性が落ちてしまうことになりかねない。

 孫子は、局地戦で勝利したり、狙った領地を奪ったとしても、結果としてその戦争目的の達成ができなければ、「骨折り損」「時間の無駄」に過ぎないと斬って捨てた。企業経営においても同じである。経営者、リーダー、マネージャーは、手段と目的を履き違えてはならない。 

 戦争、軍事行動はあくまでも手段であって、目的ではない。国益をもたらさない軍事行動は起こすべきではなく、勝算がなければ兵を動かしてはならず、危急存亡のやむを得ない状況でなければ戦争を仕掛けてはならないと、孫子は慎重論を貫く。敵に勝ったり、領土を拡張したとしても、そもそもの目的を果たすことが出来ていなければ、それは凶であると言う。目先の勝利に一喜一憂し、目的を見失ってしまう愚を指摘したのである。

 

周到な準備によって勝つ確率を上げていく

 ライバル会社と自社の実力を正しく認識していれば、ほぼ勝ちが見込めますが、それにプラスして市場動向を味方につければ なおさら勝利は固くなるということです。ライバル会社との競争に際しては、ライバル会社と自社とではどちらの実力が上なのか、市場動向から見て障害になるものはないか、ということをよく考えて、競争に打ってでるかを決断します。

 準備にも順番があります。まず、戦場となる土地の広さや距離を考えます。戦場がどういった地形や地面であるかを考慮し、どこに陣取るかも考えます。戦場に行くまでの道についても調べます。これは、ビジネス環境を整えることと言えます。

 次に、そこで必要となる物資の量を計算し、必要となる兵士の数を考えていきます。

 部隊の編成や兵士の配置も充分に検討します。その結果による自軍と敵軍の能力を比較し、勝敗を考察します。これは、目的を果たすために必要なリソースを計算することです。

 ただ戦争の勝敗を予想するのではありません。

 戦争に必要な戦力を順序立てて考えていき、その上で敵軍の情報と照らし合わせます。

 仮に、自軍が不利だと判断すれば、戦争を回避することもあります。無謀とチャレンジは違うのです。

 孫子の兵法では、戦争の上手な人は人々の心を掴むような政治を行うとされています。

 

経営は水の如くあれ

 戦い方には、決まった法則などはなく、相手に予断を与えないように変幻することが大切だということを、水にたとえて言った言葉です。これは一般的な仕事においても通じることで、相手によって、同じような仕事であっても変化をつけて、できるだけベストな対応をとるように動くことが大切だということです。

 同じような仕事を別の会社から受けることもあるでしょう。慣れていることなら、なおさらこれまでのやり方を踏まえて取りかかるのが普通です。しかし、よりビジネスチャンスを広げるためには、相手に応じて、少しでもやり方も変えるように心がけましょう。手慣れた方法は、確かに失敗の確率が低いのですが、広がりはしません。孫子は、状況によって自ら進んで変化することが勝利に結びつくと言っています。いろいろな形に姿を変える水のように柔軟な対応を心がけることが、より成功に結びつくことも忘れないようにしましょう。

 「手厚い場所を避けて、守りの弱い部分を攻めよ。水に形がないのと同じく、戦い方にも決まった形はないのである」と言っています。

 企業経営も、水の如く、柔軟に時代に合わせ、マーケットに合わせ、顧客に応じて形を変えなければならない。100年、200年と続く老舗企業も、創業時とまったく変わらない事業スタイルではない。時代に合わせて必要な変化を遂げて来たからこそ、世紀を超えて存続できている。

 水に形が無いように、軍は形を変える。敵の強いところでの戦いは避けて、弱いところを攻めましょう。水のように自由に形を変えながら攻めるのが効果的です。例えば、企画や提案を採用する立場の決裁者の人がなかなか攻め落とせない時は、「その決裁者の信頼している右腕の立場の人を攻めてその右腕から説得してもらう」「決裁者が可愛がっている孫が喜ぶプレゼントを贈る。孫に好かれる」など、攻めやすいところから攻めていく。

 経営方針も営業戦略も去年と変わらず、同じものであるとしたら、その方針や戦略に意味があるでしょうか。毎年毎年同じことしか言わないのであれば、それは方針でも戦略でもない。

 現場の個々の社員の仕事も、ルーティンな定型作業に陥っていないか再考してみる必要がある。毎度ワンパターンのお決まり業務になっていないか。5年、10年と同じことを繰り返していないか。大企業病にならないはずの中小企業なのに、官僚組織のような前例主義、形式主義に毒されていないだろうか。

経営は水の如くあれ 澱んだ水は腐る

 状況というのはあるものではなく、作るものだということです。ビジネスにおいても、競合が弱い部分、弱いニーズ、弱い商品、弱い地域、弱い手法を攻める事によって勝つのです。そうした有利な状況を生み出すのは自分であり、そうした状況が整っているわけではないのです。

 戦い方には、決まった法則などはなく、相手に予断を与えないように変幻することが大切だということを、水にたとえて言った言葉です。これは一般的な仕事においても通じることで、相手によって、同じような仕事であっても変化をつけて、できるだけベストな対応をとるように動くことが大切です。

『兵の形は水に象る。水の行は高きを避けて下きに走る。兵の勝は実を避けて虚を撃つ。水は地に因りて行を制し、兵は敵に因りて勝を制す。故に、兵に常勢無く、常形無し。能く敵に因りて変化して勝を取る者、之を神と謂う。五行に常勝無く、四時に常位無く、日に短長有り、月に死生有り。』第六章 虚実篇

 軍の形は水に喩えることができる。水は高いところを避けて、低いところへと流れる。軍も敵の兵力が充実した「実」の地を避けて、手薄になっている「虚」の地を攻めることで勝利を得る。水が地形に応じて流れを決めるように、軍も敵の動きや態勢に応じて動いて勝利する。したがって、軍には一定の勢いというものもないし、常に固定の形というものもない。敵の動きに応じて柔軟に変化して勝利をもたらすことを神業(神妙)と言うのである。これは、五行(木火土金水)にも常に勝つものはなく、四季(春夏秋冬)にも常に一定のものはなく、日の長さにも長短の変化があり、月にも満ち欠けがあるようなものである。

 状況というのはあるものではなく、作るものだということです。ビジネスにおいても、競合が弱い部分、弱いニーズ、弱い商品、弱い地域、弱い手法を攻める事によって勝つのです。そうした有利な状況を生み出すのは自分であり、そうした状況が整っているわけではないのです。

 一般の人は、皆我が軍が勝った形(陣形・態勢)を知ることはできるが、どのように勝利に至ったかという意図やプロセスを知ることはできない。だから、その戦いに勝っても同じ形を繰り返すことはなく、あくまでも相手の形に合わせて無限に変化し対応していくのです。

『兵を形すの極みは無形に至る。無形なれば、則ち深間も窺うこと能わず、智者も謀ること能わず。形に因りて勝を衆に錯くも、衆は知ること能わず。人は皆、我が勝の形を知るも、勝つ所以の者は知る可からず。故に其の戦い勝つや復さずして、形に無窮に応ず。』第六章 虚実篇

 望ましい軍形の極みは無形ということになる。定まった形がなく、意図が全く見えない無形であれば、深く入り込んだ間諜であっても動きを見抜くことができず、優れた智謀を持つ者であっても意図を見抜くことはできない。敵の形が読み取れれば、たとえ敵が多勢であっても勝利への道筋を示すことができるが、敵はこちらの企図を知ることはできない。

 

冷静に敵の資源を取り込め

 優れた経営者は、事業展開する際に経営資源の調達を現地で行うなどして、調達の迅速化、調達コストの低減、調達の安定化を図る。

 営業の上手い者は、内勤スタッフを効率よく利用し、無駄な「足」を使わず、無駄な経費を使わず、契約が済み、顧客からの入金を確認して行動する。無駄な金は使わないし、先行投資による「損」をする事はない。どちらも、人の力をあてにせず、人の力を利用して動く。

『智将は務めて敵に食む。敵の一鍾を食むは、吾が二十鍾に当る。』第二章 作戦篇

 遠征軍を率いる智将は、できるだけ適地で食糧を調達するよう努める。輸送コストを考えれば、敵の食糧50リットルを食するのは、本国から供給される千リットルにも相当し、牛馬の資料となる豆殻やわら30キログラムは、本国から供給される六百キログラムにも相当する。 敵地で調達する物資は、自分の国から運んだ場合の20倍の価値があるという。

 兵站とは、前線の舞台に食糧その他の物資を補給する機関のことです。兵站は、戦争において重要な役割を果たします。長い道のりを敵に襲われる危険を抱えながらの輸送は、かなりの労力を要します。そこで、敵地で食料を調達すれば、輸送の労力が軽減できるだけでなく、敵の戦力を削ぐことにもなり、二重の効果があることになります。

敵の力を取り込んで、大きな覇をめざす

 戦力はビジネス現場では人材にも例えられます。組織の中には、優秀な人材とそうでない人材が混在します。企業は、業績を上げるために、社員教育に力を注ぎ、優秀な人材を一から育てようと躍起になりますが、その一方で即戦力も期待します。その方法の一つにヘッドハンティングがあります。ライバル会社から優秀な人材を引き抜けば、自社にとって戦力がプラスになります。一方、人材を引き抜かれた会社にとっては、優秀な人材を失うことになり、戦力がダウンします。一方で、他社のヘッドハンティングにより優秀な人材を失わないために、成果主義の報酬制度を採用したり、働きやすい環境を心がけるなど、社員のモチベーションを高める必要が出てきます。 

『善く兵を用うる者は、人の兵を屈するも、而も戦うに非るなり。人の城を抜くも、而も攻むるに非るなり。人の国を毀るも、而も久しきに非るなり。必ず全きを以て天下に争う。故に、兵頓れずして、利全うす可し。此れ謀攻の法なり。』第三章 謀攻篇

 戦上手の戦い方は、敵味方すべてを保全する形で天下に覇を競うことを考える。したがって、軍の疲弊も少なく、戦利を完全なものにできる。これが謀によって敵を攻略するやり方である。

智将は敵に食む 

『善く兵を用うる者は、役は再びは籍せず、糧は三たびは載せず。用を国に取り、糧を敵に因る。故に軍食足るべきなり。』第二章 作戦篇

 巧みに軍を運用する者は、民衆に二度も軍役を課したりせず、食糧を三度も前線に補給したりはしない。戦費は国内で調達するが、食糧は敵に求める。このようにするから、兵糧も十分まかなえるのである。

『国の師に貧するは、遠き者に遠く輸せばなり。遠き者に遠く輸さば則ち百姓貧し。近師たるときは貴く売ればなり。貴く売れば則ち百姓は財竭く。財竭くれば則ち丘役に急にして、力は中原に屈き、用は家に虚しく、百姓の費は十に其の七を去る。公家の費は破車罷馬、甲冑弓矢、戟楯矛櫓、丘牛大車、十に其の六を去る。』第二章 作戦篇

 国家が戦争で窮乏するのは、遠征の戦争をして遠方の地まで糧食を輸送するからである。遠征して遠い土地まで糧食を運べば、民衆は貧しくなる。近い場所での戦争では、物価が高騰してしまう。物価が高くなれば民衆の備蓄は底を尽いてしまう。民衆の蓄えが無くなれば、村落に割り当てられている軍務・労務のための徴用も難しくなり、軍隊の勢力は中原で衰え尽きてしまい、国内では家々の財産が無くなり、民衆が賄っている経費は十のうち七までが失われてしまう(民衆が準備していた経費の70%が失われる)。公家(王侯貴族)が賄っている経費も、戦車が破壊されたり馬が疲弊したり、甲冑・弓矢を作ったり、戟・楯・矛・櫓(おおだて)を準備したり、運搬のための牛車・大車を用意したりで、十のうち六までが失われてしまう(王侯貴族が準備していた経費の60%が失われる)。

『敵を殺す者は怒なり。敵の貨を取る者は利なり。故に車戦に車十乗已上を得れば、其の先に得たる者を賞し、而して其の旌旗を更め、車は雑えて之に乗らしめ、卒は善くして之を養わしむ。是れを敵に勝ちて強を益すと謂う。』第二章 作戦篇

 孫子は、怒りに任せて敵を殺してしまい、物資や兵器を焼き捨てるようなことはせず、自軍の利を冷静に考えて、敵の装備や兵隊をも取り込んで行くべきだとも説いている。  そうすることで、戦いを重ねるごとに兵力を増していくことができる。普通なら、戦うたびに戦力を失い、勝ったとしても多大な損失を残してしまうことになる。それを敵憎しで感情的になって後先を考えないようではリーダー失格である。

 奪った敵の戦車も軍旗を自分たちの物に付け替えて、味方の兵に乗り込ませ、次からの戦力とするのです。  そして、捕虜にした敵の兵士は、危害を加えたりせず、むしろ手厚くもてなし、こちらの味方に引き入れるのです。これが、「勝ってさらに強くなる」という事。より少ない軍事費で、軍はますます強大になっていくのです。  この理論をちゃんと理解している将軍であれば、その人は信頼に値する人物だという。

 

相手の意図をつかむ

 敵と対峙した時には、ただ敵の動きを見張るのではなく、敵に揺さぶりをかけ、軽く攻撃してみたりして、相手の行動基準や、いつ動き、いつ動かないかの判断基準をつかめと孫子は説いた。それができれば、敵の動きを先回りして攻撃したり、敵の狙いを逆手にとって、敵をこちらの思うように動かすことができるようになる。相手の動きを見てから動き出していては後手を踏むのである。

『之を策りて得失の計を知り、之を作して動静の理を知り、之を形して死生の地を知り、之に角れて、有余不足の処を知る。』(第六章 虚実篇)

 敵の意図を見抜いて敵の利害、損得を知り、敵軍に揺さぶりをかけて、その行動基準をつかみ、敵軍の態勢を把握して、その強み弱み(生死を分ける土地)を明らかにして、敵軍と接触(小競り合い)してみて、優勢な部分とそうではない部分をつかむこと。

 孫子は、戦いの場所と戦う日が予め分かっている場合には、仮に千里も離れた遠い戦場であったとしても、充分な備えが可能だから戦っても良いと教えている。

 どんなに強大な相手でも、必ず守りが薄い場所があり、つけ込む隙があるものなのです。

 「ここが狙い目」という「時と場所」を定める事ができたなら、たとえどんなに遠くまで遠征しても勝てるし、それを見抜けなかったら戦力が分散され、お互いに協力し合う事もできないようになるのです。兵の数がいかに多かろうと、勝敗を決定する要因にはならない。勝利は人が造る物である。敵の数がいかに多くても、(こちらの作戦によって)それを戦えないようにする事ができるからである。

 人は、勝利を収めた時のやり方がベストだと思いがちです。ですから、次に戦う時もまた同じ態勢で挑んでしまいがちですが、「それはまちがいだ」と孫子は断言します。

 

損して得を取れ

 マーケットにおける後発の不利を克服するためには、「急がば回れ」の発想で、相手を油断させて、その間に自社に有利な展開に仕向ける戦略が必要になる。

 ビジネスにおいて、一見損をしてしまうような選択こそ勝利への道であることが多々あります。勝利を急ぎ、利益を急ぐ人ほど利益が得られません。

 経営者には、長期と短期、全体と部分、プラスとマイナス、迂と直を見極める目が必要となる。現場の社員が焦って右往左往していても、泰然として進むべき道を示さなければならない。

 迂回して遠回りしているように見せかけておいて、実は先回りしているとか、後から出発したのに、先に到着するような、遠回りを近道に変える戦術を「迂直の計」と言う。  

 経営には正解はないから、それぞれの企業が一貫した考えを持って自社の経営を正解にしていくことを考えなければならない。他社がこうするから、競合がこう動くからと、相手の動きに合わせて右往左往しているようでは、「迂直の計」は実行できない。遅れて動いて、戦場に遅れて到着しているようでは戦いにならない。

『用兵の法は、将 命を君より受け、軍を合わせ衆を聚め、和を交えて舎まるに、軍争より難きは莫し。軍争の難きは、迂を以て直と為し、患を以て利と為すにあり。

 故に、其の途を迂にして、之を誘うに利を以てし、人に後れて発するも、人に先んじて至る。此れ迂直の計を知る者なり。』第七章 軍争篇

 軍の運用方法として、将軍が君主から命令を受けて、軍隊を編成し兵隊を集めて、敵軍と対峙して戦闘準備を終えるまでの間で、戦場への先着を争い、機先を制する駆け引きほど難しいものはない。その難しさは、遠回りの道を近道として、憂いごとを有利なものに変えていくことにある。だから、わざわざ迂回して遠回りしておいて、敵を利益で誘い出して動きを止め、後から出発したのに、敵より先に戦場に到着できるようにする。これができる人間は、遠回りを近道に変える『迂直の計』を知っている者である。

 回り道をしながら直進し、損をしながら得をする。たとえば、競争などの場合、回り道を迂回しておいて敵を油断させ足止めを食らわせておいて、こちらが速やかに行動すれば、結果的に相手より先に到着するといった具合です。

 それがなぜできるのか。全体観を持ち、長期戦略と短期戦術とが頭の中でつながっているからです。

 迂直の計という戦略は、おもに開発や販売競争で出遅れてしまったり、何かアクシデントが起きて不利な立場に追いやられたりした場合に応用できます。そのときの考えとして大事なのは、それまでの戦法を以下の3つの点で少し変えてみることです。

1 戦う場所を変える

 企業にとっての戦う場所には、生存領域・事業領域・販売領域があります。

2 戦う時を変える

 どの業界でも「よく売れる時期」というものがあります。しかし、後発メーカーの場合、同じ時期に戦っても、なかなか先発には勝てません。であれば、販売時期をずらすことを試みます。同業他社がこぞって売ろうとする時期をはずし、そこで独壇場を目指すのです。

3 戦うテーマを変える

 多くの会社は流行を後追いします。力のある会社なら、そこでも そこそこ勝負できますが、後発の会社は、多くのライバルたちの間に埋もれてしまうだけです。流行を別の観点から見て、付加価値を付け、流行の先取りをすることを考えなければいけません。

商売でも「回り道」が大事

 劣勢に追い込まれたときのセオリーとしては、既存商品を既存客により多く売る「深耕」戦略を選択することである。これまで支えてくれた人たち=ファン客は、簡単にあなたを見捨てはしない。既存商品に新たなスポットライトを当てるなどすれば、既存客は買ってくれるものである。あせって見知らぬ新規客に案内したところで門前払いに近い対応を受けるでしょう。

 逆の立場で考えてみるとよい。これまで面識のない営業マンが突然あなたに何かの商品を売りつけてきた場合に、あなたは買う気になるだろうか? あなたの言葉に耳を傾けてくれる人に、今までよりもきちんと商品の説明をするなどした方が確実に売上は伸びるものです。しかし、こうしたやり方にもいずれ限界は来る。そうなったらどうすべきか。孫子は「迂直(うちょく)の計」という策を用いる。

軍争篇

『その途(みち)を迂(う)にして、之(これ)を誘うに利を以(もっ)てし、人に後れて発し、人に先んじて至る、これ迂直(うちょく)の計を知る者なり』

 相手よりも後から出発して不利な状態にある私たちが、敵を回り道の方へ誘うべく何かの利益で誘導しておいて、立場を逆転させ相手よりも先に行き着く。これが迂直の計、つまり立場を逆転させる方法を知る者のやることである。

 孫子は多角度からものごとを見る。普通に考えれば不利な状況に突っ込むしかないところを、まったく別の角度から見ることによって自軍を有利な状況に導き、立場を逆転させるのである。ただ、これは簡単なことではない。

 「敵を回り道の方へ誘う」には、そちらにチャンスがあると誤認させるだけの十分な情報を提供しなければならず、よほどの工夫が必要となる。誤認させられなければ失敗に終わる。

 企業経営で土壇場に追い詰められた時も、経営者が既存商品という第一の視点、既存客という第二の視点から離れて、第三の視点をもてるか否かが極めて重要となる。からまったヒモをほどくのに無理やり引っ張ってはいけない。どこをどうほどくべきか、じっくり観察することが肝要である。 

『軍争は利たり、軍争は危たり。軍を挙げて利を争えば、則ち及ばず。軍を委てて利を争えば、則ち輜重捐てらる。

 是の故に、甲を巻きて利に趨り、日夜処らず、道を倍して兼行し、百里にして利を争えば、則ち三将軍を擒にせらる。勁き者は先だち、疲るる者は後れ、則ち十にして一以て至る。五十里にして利を争えば、則ち上将を蹶し、法は半ばを以て至る。三十里にして利を争えば、則ち三分の二至る。』第七章 軍争篇

 軍争はうまくやれば利となるが、下手をすると危険をもたらす。もし、全軍を挙げて利を得ようと動けば、組織が大きくなって動きが鈍くなり敵に遅れをとることになる。だからと言って、全軍にかまわず利を得ようとすれば、動きの鈍い輜重部隊が捨て置かれることになって、兵站の確保ができない。軍争においては、鎧を外して身体に巻き、身軽になって利を得ようと走り、昼夜を分かたずに行軍距離を倍にして強行軍を続け、百里も離れた場所で利を得ようとしても、上軍・中軍・下軍の三将軍とも捕虜にされてしまうようなことになる。強健な兵士は先に進むが、疲労した兵士は落伍して行き、結果として十分の一ほどしか辿り着かないようなことになるからです。これが五十里先の利を争うものであっても、先鋒の上将軍が討ち死にし、兵も半分程度しか到着しないようなことになる。三十里先の利を争うものでも、三分の二程度しか辿り着かない。

 このように、軍争を有利に進めようと思っても、後方支援部隊を失えば行き詰まるし、兵糧が続かなければ敗亡することになり、財貨がなければこれも結局は負けてしまうことになる。

 

「風林火山」の如し

 仕事に真面目に取り組む時もあれば、楽しんで陽気に話す時、静かに聞く時、明るく周りを盛り上げる時、周りを落ち着かせる時、そのように状況に合わせて自分を変化させたり、組織を変化させることができる人が名将です。

 ビジネスでは、有利な状況を作り出すためにポジショニングをします。市場のトレンドの反対側にがら空きのポジションはないか? と裏をかきます。ほとんどの競合が提供しきれていないニーズはないか? 出店できていない立地はないか? 通販にできないか? など、「真逆」にニーズがないかを探します。そして、有利な状況を作るのです。一見して遠回りのように見えて、最短距離を見つけるのです。

 いきなり遠回りを近道に変えよう(迂直の計)としても、そう簡単にはいかない。事前に準備しておく、備えておく、よくよく考えておく、ということが必要である。  企業経営において、戦略実現のために、他社とアライアンスを組み、ネットワーク化によって事業を進めて行こうとすれば、それぞれの企業がどういう利害と意図を持っているかを事前につかんでおかなければならない。自社さえ良いという自社都合、自社の勝手だけで進むわけではない。  企業経営は自社だけで進めて行くことはできない。事業を大きくし拡げて行くためには、他社の協力を得なければならない。周辺事業者の協力を得て、良き事業パートナーとして共に成長して行くためには、彼らのビジョンや戦略、長期展望などを理解し、共有しなければならない。

 相手の戦略意図が分かれば、こちらがどういう価値を提供できるかが分かる。充分価値があると思えば、誰を窓口にして、何を切り口にして、どう攻めるかをよく考えること。

 こうした提携や連携、パートナーシップ推進で問題となるのは、自社さえ良ければそれで良いという考え方である。たとえ、こちらが購買側であったとしても、お互いのビジョンや利害を踏まえて、Win-Win の関係を構築しなければならない。すぐに近道、安易な道、楽な道を進もうとするのではなく、遠回り、難儀な道、手間のかかる道を進むようであって、それが近道だったという展開に持って行くのが「迂直の計」なのである。

『故に其の疾きこと風の如く、其の徐なること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷震の如し。

 嚮うところを指すに衆を分かち、地を廓むるに利を分かち、権を懸けて而して動く。迂直の計を先知する者は勝つ。此れ軍争の法なり。』第七章 軍争篇

 疾風のように早いかと思えば、林のように静まりかえる。燃える炎のように攻撃するかと思えば、山のように動かない。暗闇にかくれたかと思えば、雷のように現れる。兵士を分散して村を襲い、守りを固めて領地を増やし、的確な状況判断のもとに行動する。敵より先に「迂直の計」を使えば勝つ。これが勝利への道である。

 「迂直の計」の具体例として登場するのが「風林火山」の一説です。

 疾風のように早いかと思えば、林のように静まりかえる。燃える炎のように攻撃するかと思えば、山のように動かない。暗闇にかくれたかと思えば、雷のように現れる。兵士を分散して村を襲い、守りを固めて領地を増やし、的確な状況判断のもとに行動する。敵より先に「迂直の計」を使えば勝つ。これが勝利への道である。

 事業展開するには、その状況に応じて、風のようにすばやく行動したり、林のように冷静に静観したり、火のように積極果敢に攻めたり、山のように動じることなく泰然と構えたり、臨機応変に行動することが必要である。

 

臨機応変に策を繰り出す

 ビジネスにおいて、状況に応じて臨機応変に策を繰り出すことは重要です。ライバルの力量と周囲の状況を見極め、自分の力を最大限発揮できるように策を発することで、いわゆる奇策ということになります。

 「ランチェスター戦略」とは、物理の法則を応用した科学的な経営論です。特に営業の局面では精神論を排除し、ロジックに目標の達成をすることが大事である。ランチェスター戦略だけでは、目的・目標を達成する戦略(仕組み)を構築することは難しい。ビジネスは人間の心理で出来ているからです。

ランチェスター戦略と孫子の兵法

 人が物やサービスを購入する際、心理的要因が大半を占めています。この目に見えない人の心の動きを巧みに察知し、目的・目標に向かわせるのが孫子の兵法です。孫子の兵法には、「人はこう動けば、こう動く」と言ったように、直接的に人を動かそうとするのではなく、間接的、曲線的に人を動かします。決して直線的なやり方で目的・目標を達成しようとはしません。

 孫子の兵法とランチェスター戦略の原理原則は同じなのです。ランチェスター戦略の効果性を上げるには、孫子の兵法は必須と言えます。ランチェスター戦略に孫子の兵法を組み込むことによって、戦略という仕組みが出来上がってくる。

『用兵の法は、将、命を君より受け、軍を合わせ衆を聚むるに、圮地には舎ること無く、衢地には交を合わせ、絶地には留まること無く、囲地なれば則ち謀り、死地なれば則ち戦う。

 塗に由らざる所有り。軍に撃たざる所有り。城に攻めざる所有り。地に争わざる所有り。君命に受けざる所有り。』第八章 九変篇

 軍の運用方法として、将軍が君主から命令を受けて、軍隊を編成し兵隊を集めて進軍するにあたり、圮地(低地で足場の悪い不安定な場所)には布陣、宿営してはならず、衢地(交通の要衝)では諸国・諸侯との通信・親交を図り、絶地(敵国に入り込んで進退が難しい地)には長く留まらず、囲地(三方を囲まれて動きにくい地)では包囲されないように計謀をめぐらし、死地(四方を塞がれて逃げ場のない土地)では必死に戦うしかない。

 戦争において、通ってはいけない道がある。攻撃してはいけない敵もある。また、攻めてはいけない城もあり、奪ってはならない土地もある。これらに反するようなら、たとえ君命であったとしても受けてはならない命令もあると孫子は説いた。

 それらは、過去からの積み重ねによる智恵である。それを知っている者は、知らない者よりも優位に立てるのは自明のことである。  積み重ねられた過去の智恵を軽視してはならない。時間の経過、時代の変遷を経てもなお、有効なやり方やノウハウというものがある。過去の蓄積を活かしてこそ、現在の自分がそれを土台として更に積み上げていくことができる。

『将 九変の利に通ずる者は、兵を用うるを知る。将 九変の利に通ぜざる者は、地形を知ると雖も、地の利を得ること能わず。兵を治めて九変の術を知らざれば、五利を知ると雖も、人の用を得ること能わず。』第八章 九変篇

 この九変(九つの対処法)の効用をよく知っている将軍こそが、兵の運用法を弁えていると言える。将軍とはいえ、この九変をよく理解していなければ、戦場の地形を知ることができても、その地の利を活かすことはできない。軍を統率しながら、九変の術策を知らないようでは、五つの地の利を理解していたとしても、兵を充分に働かせることができないのである。

 戦争において、通ってはいけない道がある。攻撃してはいけない敵もある。また、攻めてはいけない城もあり、奪ってはならない土地もある。これらに反するようなら、たとえ君命であったとしても受けてはならない命令もある。

 「九変」とは、「その時々に応じて形を変える」という意味です。言い換えれば「臨機応変」という事である。

 孫子の中では色々な原則が語られます。その原則を充分に心得ておいて、臨機応変に応用する事が重要なのです。

 ビジネスでは、常に状況、ケースに応じて条件が変わるため、確実な方法というのは存在しません。「このケースならこの方法」と局面に応じて戦術の決定や、判断をしなくてはいけない。ハウ・ツウ ものの本に書いてあったから、著名な人が言っているからと言った理由で判断をしてはいけない。それがたとえ社長や上司の命令であっても、理にかなっていないものはおかしいということです。

 企業経営においても、蓄積された先人たちの智恵があり、過去の経緯などから訪問してはならない顧客があったり、やってはいけないことがあったり、攻めてはいけない地域があったりする。それを予め教えておけば、余計なトラブルも、無駄な手間もなくなるのだが。ろくに教えもしないものだから、新人や中途入社の人間が知らずに失敗することがある。

 智将は、常に物事の利と害、表と裏、メリットとデメリットの両面を考えて判断するものだと孫子は言う。有利なことがあっても、それで気を緩めたりせず、その不利な面も合わせて考えて手を打つから、成し遂げようとしていることを実現させることができる。悪いことがあっても、その裏の利点を考え生かそうとするから、思い悩むこともなく困難を乗り越えることができると説いた。敵が攻めて来ないだろうという憶測をあてにするのではなく、自軍に敵がいつ攻めて来ても良いだけの備えがあることを頼みとせよと説いた。

 組織にあっては、上司の命令は絶対的に近い大きな力をもっているが、しかし、その中にも現場の状況にそぐわない誤った判断はある。そういうものに むやみに従ってはならない。現場を率いるリーダーの責任において、敢然と拒否すべきである。孫子は、そう説いて、上役の意向を忖度ばかりせず、ときには命に背く勇気や覚悟を持てと叱咤激励しているのです。

 これを経営やマネジメントに当てはめてみます。

 セオリー通りに事を進めればいというものではない。人とは逆のことをやった先に成功が見えてくる。独自の道を開拓したい。

 ライバル会社を蹴散らすばかりが能ではない。自社の緊張感を維持するためには、ライバルはむしろいたほうがよい。自社の力量を切磋琢磨する大事な存在と捉えたい。

 ライバル会社の本丸を攻めて勝つのはよい方法とは言えない。悪戦苦闘は必至。そのために費やす時間とエネルギーを冷静に計算して事に臨みたい。

 成長企業だからと安易に乗り出してはいけない。既に成熟市場になりつつあれば、あとは衰退に向かうだけ。金とエネルギーを投入する価値のある市場かどうかしっかり見極めたい。

君命

 上の命令に異議を唱える社員をむやみに斥けてはならない。それが会社の利益を思う心から処分覚悟で申し出たものなのかどうかを吟味するべきである。社員に対して聞く耳を持つリーダーでありたい。

 それらは、過去からの積み重ねによる智恵である。それを知っている者は、知らない者よりも優位に立てるのは自明のことである。  積み重ねられた過去の智恵を軽視してはならない。時間の経過、時代の変遷を経てもなお、有効なやり方やノウハウというものがある。過去の蓄積を活かしてこそ、現在の自分がそれを土台として更に積み上げていくことができる。

 企業経営においても、常に裏と表、プラスとマイナスの両面を見ることが重要である。こちらを上げれば、あちらが下がる。あることに力を入れれば、他が疎かになる。トレードオフの関係になっていて、それらが複雑に絡み合っているのが経営である。客数を増やそうと思えば、客単価が下がる。受注率を上げようと思っても、案件数、見込数が落ちれば意味がない。利益率を上げても、それによって売上が下がれば利益額は維持できない。将来のために人を採用すれば、人件費が増える。ある社員を登用すれば、他の社員はふて腐れる。客数が増え売上が増えたと喜んでいたら、それに伴ってクレームも増えたりする。しかし、クレームだと思ってガッカリしていたら、その中に新商品のヒントがあったりする。

 さらに、表と裏、利と害を見ようと思えば、定量情報と定性情報を合わせ見るということも重要である。たとえば、定量情報である売上高、販売実績データだけを見て、良い悪いを判断するようなことをしてはならない。仮に売上が増えていても、顧客が喜んで買ってくれているとは限らない。他社の商品が欲しいのに、それが欠品していたから自社商品が売れたのかもしれない。自社商品に不満があるのに、他にないから仕方なく買っていただけかもしれない。もしそうなら、他社が類似商品を出してくる前に、顧客不満足を消す商品改良を行わなければならない。それなのに、売上実績だけを見て喜んでいるようでは、「事実」はつかんでいても「真実」をつかんだことにはならない。

『諸侯を屈する者は害を以てし、諸侯を役する者は業を以てし、諸侯をはしらす者は利を以てす。』第八章 九変篇

 諸侯を屈服させるのは、受ける害悪を強調して意識させるからであり、諸侯を使役して疲弊させるのは、事業の魅力や利点を意識させ、マイナス面から目を背けさせるからであり、諸侯が奔走し右往左往するように仕向けるのは、目先の利だけを見せて害を意識させないからである。

 

変幻自在の進撃

 相手企業の戦略を読めなければ、協力関係は築けない。そのマーケットの状況を熟知しなければ、事業展開をすることはできない。そのマーケットに精通している案内役がいなければ、マーケットを活かした有利な戦略を立てることはできない。 

『是の故に、諸侯の謀を知らざる者は、予め交わること能わず。山林・険阻・沮沢の形を知らざる者は、軍を行ること能わず。郷導を用いざる者は、地の利を得ること能わず。』第七章 軍争篇

 軍争とはこのようなものだから、諸侯の思惑をつかんでいないようでは、事前に手を結び同盟するようなこともできず、山林や険しい要害や沼沢地などの地形を把握していなければ、軍隊を動かすことができず、その土地に詳しい道案内を使わないようでは、地の利を活かすことはできない。

『兵を形(あらわ)すの極みは無形に至る。』第六章 虚実篇

 軍の態勢の極致は無形になることである。無形であれば、敵に合わせて変幻自在に対応し、それを敵に悟らせなければ、敵は攻めようがなくなる。

 ビジネス上でも、マニュアルやルール優先での対応ではうまくいきません、ある程度は柔軟さを持って取り組むことが必要です。もちろん、過去の成功体験やマニュアルはそれまでの蓄積なので重要ですが、それに固執してはいけません。定期的に新しい試みもしていきましょう。

 メンバーの育成に困った場合、プロジェクトの進め方や組織の在り方に迷った場合は、古典に頼ってみるのも一つの手です。

 例えば、見切り発車の提案をしそうな営業メンバーに、「『勝兵は先ず勝ちて而る後に戦い、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む』という言葉も昔からあるからもう少し考えてみて。」と言うと、説得力が増すのでないでしょうか。

 

積水を千仭の谷に

 成功する経営者は、事業展開する時に、社員が勢いよく積極果敢に動ける態勢を整える。

『勝者の民を戦わしむるや、積水を千仭の谷に決するが若き者は、形なり。』第四章 軍形篇

 戦いに勝利する者は、人民を戦闘させるにあたり、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に決壊させるような勢いを作り出す。これこそが勝利に至る態勢(形)である。

 多量に貯まった水を深い谷に一気に流すと、それを止めることは誰にもできません。このように、いざ戦闘になる場合は、相手が止めることができないような状態にしておくことが必勝の方法であると孫子は言っています。そのためには、相手に悟られないようにして水を貯めておくことが重要になります。「戦う前には、絶対に負けない態勢を作り上げておく」。それが孫子が唱える必勝の方法です。

 仕事をする際に、「何とかなるだろう」と思って進めたことはありませんか? たまたま運が良ければそれが上手く行くことはあるかもしれません。しかし、絶対に勝つためには、運にまかせる方法では上手くいきません。もし、これから大きな仕事にかかるような状況にあったなら、まずは態勢を整えることから始めましょう。また、動き出したならば、常に物事の推移に注意を払うのを忘れてはいけません。孫子の言葉は、逆にとれば、もし相手に勢いがついた時には止める術がないということでもあるからです。相手に逆転のチャンスを与えないことも、勝利に大切な要因であることを忘れないでください。

 臨機応変に意志決定できる経営者は、部下を上手に働かせることができる。臨機応変に意志決定できない経営者は、マーケットの優位性すら利用することが難しくなる。

 

 

先回りして待ち受ける

 巧みな指揮官は、敵が動かざるを得ない態勢をつくって自在に敵を動かす。敵の利益になるエサをちらつかせ、これを得ようとする敵を意のままに動かす。敵の利によって敵を動かし、知らずに動く敵を万全の準備で待ち受けるのである。

 顧客ニーズを考えてそれに応えれば、顧客は喜んでくれます。しかし、孫子に言わせれば、「顧客のニーズに応える」という発想で終わってはダメです。顧客ニーズに応えるのが目標ではなく、顧客が動いた瞬間をとらえ、次の行動を予測することが大事と語っています。相手の考えを越えよ ということです。周到な意図で、まるでエサでおびき寄せるかの如くニーズをとらえよと言っております。

 人は自分の思い通りには動きません。しかし、相手の立場を考え、「きっと こうしたいのだろう」とわかったら、そこへと進む流れをつくるのです。当然、相手はそちらに行くでしょう。相手が望むことを手助けする。すると、相手が思い通りに動く瞬間が自然に生まれる。そこへ先回りして仕掛けを用意しておく。相手をサポートしつつ、自分の望む態勢への流れをつくることが大切です。

 

競争・交渉をうまく進めるには

勢とは利に因よりて権を制する』

 物事には、人事が及ばぬ運と不運が確かにあります。ビジネスにおいても同じで、大切な商売に勝つためには物事の『勢い』が必要な時もあるでしょう。しかし、その勢いは決して偶然に生み出されるものではありません。それは日々の勉強や観察の積み重ねが生み出すものであると孫子は言っています。

 他社と争っているプロジェクトを競い合って自社のものにしたいと思うのは当然です。しかし、ビジネスも戦争の一種と考えれば、馬鹿正直に力押しすればいいわけではありません。そこには敵を欺くための駆け引きも必要です。そして、その駆け引きを上手くいかせるためには、日々勉強を積み重ね、さらにライバルの動きを観察しておくことが必要です。

様々な駆け引きを持って得られる『勢い』は、有利な情況を見抜いた上で臨機応変に対応することで生まれるものである。ビジネス上でも、「これだけは譲れない」という一線を決め、そこに引き寄せるために臨機応変に対応していくことが重要です。

勢とは利に因よりて権を制する』第一章 計篇

 戦争とは敵を欺くことで勝利を得ることができるが、さまざまな駆け引きを持って得られる『勢い』は、有利な情況を見抜いた上で臨機応変に対応することで生まれるものである。

 

智者は利と害の両面で考える

 知恵のある経営者は、意志決定の際にメリット(利益、成果等)とデメリット(費用、リスク等)の両面から検討する。メリットになりそうな事でも、そのデメリットの大きさ、回避可能性、縮小可能性等を慎重に検討する事で目標を達成する事ができる。デメリットになりそうな事でも、そのメリットの大きさ、実現可能性、拡大可能性等を検討する事で、無用な心配がなくなり、ビジネスチャンスを逃しにくくなる。

『智者の慮は必ず利害を雑う。利に雑うれば、而ち務は信なる可し。害に雑うれば、而ち患いは解く可し。』第八章 九変篇

 智将が物事を考え、判断する時は、必ず利と害の両面を合わせて熟考するものである。有利なことにも その不利な面を合わせて考えるから、成し遂げようとしたことがその通りに運ぶ。不利なことに対しても、その利点を考えるから憂いを除き、困難を乗り越えることができる。

 仕事は、どんなに順調に進んでいても、相手があることですから、いつその状況が変わるか分かりません。まして、馴染みであったり、長い付き合いであったりすれば、どうしても「大丈夫だろう」と思いがちですが、実際には、常にその裏には危険が潜んでいることを忘れないことです。逆に言えば、常にそうした配慮をしておくことで、結局は安定した関係を保つことになります。

 市場には、参入しやすいところ、障壁が多いところ、特性がわかりにくいところ、規模の小さなところ、過当競争のあるところ、距離の遠いところ等がある。その市場の状況を正確に把握し、事業展開の意思決定を行うことが経営者の重要な任務である。

『地形には通ずる者有り、挂かる者有り、支るる者有り、隘き者有り、険しき者有り、遠き者有り。』第十章 地形篇

 市場には、参入しやすいところ、障壁が多いところ、特性がわかりにくいところ、規模の小さなところ、過当競争のあるところ、距離の遠いところ等がある。その市場の状況を正確に把握し、事業展開の意思決定を行うことが経営者の重要な任務である。

 孫子は、負け戦になる6つの状況というのもあるとしています。

・逃走・・・

 軍の勢いや兵の置かれた状況が同じである時に、10倍の兵力の敵を攻撃しようとすれば、敵前逃亡させるようなものである。

  恐れて逃げてしまうかもしれないので、強すぎる敵と無理に争わせないこと

・弛緩・・・

 兵士の鼻息が荒く猛々しいのに、それを管理する軍吏が弱々しくては タガが弛む。

  メンバーを放任し過ぎないこと  緊張感が失われてしまう。

・陥没・・・

 軍吏が強気で優秀であっても、兵士が弱くて無能であれば士気が上がらず落ち込んだ空気となる。

  メンバーを管理し過ぎないこと  自分らしさを発揮することができなくなってしまう

・崩壊・・・

 高級将校が将軍に対して憤って服従せず、敵に遭遇した際にも将軍への怨みの感情から独断で戦うような状況となり、将軍もまたその事態をどう収拾すれば良いか分からないようなことでは、軍は崩壊する。

  仲違いを起こしてしまうかもしれないので、決まった個人を ひいき しないこと

・混乱・・・

 将軍が弱腰で威厳がなく、兵に対する指示命令が不明確であり、将兵に対する指導方針に一貫性を欠き、布陣に秩序がなく雑然としているのを、乱れた軍と言う。

  軸がぶれない強さをもつこと  優柔不断ではメンバーも不安になってしまう

・敗北・・・

 将軍が敵情判断を誤り、少人数で多数の敵に当たらせたり、自軍の弱い部隊を敵の強い部隊と戦わせるようなことをして、兵士の中にも先鋒として適任の精鋭がいないのでは、負けて退散するのみである。   

  計画を練って指導すること  思い付きの指導ではうまくいかない

 これらは たまたまの偶然ではなく、君主や将軍が自ら引き起こしている状況だと言うのです。これら6つの敗因は、天災や災厄ではなく、将軍の過失であり人災である。この六つは戦場における地形の基本であるが、その地形に応じた状況判断は、将軍の重要任務である。

 

正には奇 奇には正

 何事にも正攻法というものがある。企業経営にも正攻法、定石、セオリーがある。正と正でぶつかれば、より力の強い方が勝つのが道理である。相手が正攻法で来るなら、こちらは奇法、奇策で対抗しなければならない。

 営業活動というものは、常識どおりの正攻法で対応するのが原則であり、状況の変化、相手の出方に応じた対応で「イエス」と言わせるものである。  営業活動の上手な企業は、顧客のニーズ、市場の変化に対応して、臨機応変に常にその方法を変化させることができるので、常に新しく、その変化はつきることがない。  商売の駆け引きは、「押し」と「引き」の二通りしかないが、そのタイミングは極めることができないほど難しいものである。そこで、最も大切なものが「勢い」というものである。営業活動の原則は、「勢い」と「節目」である。企業経営にも同じことが言える。

 様々な戦術は、正攻法と奇襲の組み合わせで考えられるものなのです。

『戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ。故に、善く奇を出す者は窮まり無きこと天地の如く、竭きざること江河(河海)の如し。』第五章 兵勢篇

 戦闘においては、正法によって相手と対峙し、奇法を用いて勝利を収めるものである。だから、奇法に通じた者の打つ手は天地のように無限であり、揚子江や黄河のように(大河や海のように)尽きることがない。

定石通りに立ち会い、奇策で状況に対応する

 相手が正で来れば こちらは奇で、相手が奇法で来れば こちらは正法で受ける。何が正で何が奇なのかは、相手との組み合わせにもよる。正とは目に見える動き(有形)、奇とは目に見えない動き(無形)とする解釈もある。目に見えるもの、目に見える形、目に見える兵隊の動きだけを考えていてはダメである。目には見えない背後にある因果関係、力関係、情報の流れや意図や狙い、そして士気などもある。戦略的な意図や狙いを持って作戦を立てる。その段階ではまだ無形であり「奇」である。実際に動けば、それが「正」となり、相手にも見えるようになる。すると、相手はこちらの意図を推し測って、対抗しようとする。そこではまだ形がなく奇である。しかし、それが実行に移されれば、目に見える形「正」となって、それによってまたこちらの動きも変わってくる。「正」と「奇」は循環して尽きることがなく、その組み合わせは無限である。「正」には「奇」、「奇」には「正」。相手の出方によって、「正」が「奇」になり「奇」が「正」にもなるわけだから、常識的、固定的に考えてはならない。

戦いは 正攻法で会戦し、奇法をもって勝つ

 成功するためには、まずはオーソドックスな方法を基本とし、状況変化に応じ臨機応変な応用的方法を用いらなければならない。

 戦闘というものは、定石どおりの正法で不敗の地に立って敵と会戦し、情況の変化に適応した奇法でうち勝つのである。

 戦略の基本は正、そこへ奇を加えると勝てる。正とは、正統的で定石通りの戦略であり、奇とは、意外性をもった戦略である。奇正の組み合わせが重要で、その組み合わせにはいろいろなバリエーションがあり、それを考え抜くことが肝要である。

 必勝の条件として、正攻法はもちろんですが、状況に応じては時には変化球を投げるような柔軟な対応も必要だということです。

『三軍の衆、畢く敵に受えて敗るることなからしむ可き者は、奇正是なり。

 兵の加うる所、石(たん)を以て卵に投ずるが如くする者は、虚実是なり。』第五章 兵勢篇

 全軍のすべての兵が、敵のどのような出方に対してもことごとく対応し、負けることのないようにできるのは、変幻自在に意表を衝く「奇法」と定石に則った「正法」の使い分けが絶妙だからである。

 攻撃を加えようとする時に、石を卵にぶつけたかのようにたやすく敵を撃破できるのは、敵の防除が手薄な「虚」に対して、充実し豊富な兵力である「実」をぶつけるからである。

 集団で力を発揮させるために必要な4つの条件を出しました。

  1 分数 2 形名 3 奇正 4 虚実

 この4つのうち、「分数」と「形名」は軍の組織に関する事で、「奇正」と「虚実」は戦略に関する事です。

 「分数」とは軍の組織・編成の事。「形名」とは軍の指揮系統の事。 この二つは、分母と分子のように お互いが影響し合うような関係なのです。

 大部隊が集団で力を発揮するためには、軍令(指揮命令系統)が確立されている事が重要です。  将軍の合図一つで、一進一退、一糸乱れぬ行動をとってもらわなければなりません。

 その軍令が確立されるためには、軍律(軍内の法律)が整っていて、手柄に対してはちゃんと賞賛し、規律を乱したら処罰するという。公正な賞罰が行われている事が必要です。軍律が整っていれば、軍の組織・編成が確立され、軍の組織・編成が確立されれば、軍令も確立されるという事です。軍律と軍令の確立 の重要性は、この章以外でも何度も登場しています。

 「奇正」とは、古代中国の軍事用語で、「正」は常識的な事を指し、「奇」はその反対、つまり、特殊な物や変った物を意味します。  

 2千年前の『孫臏(そんびん)兵法』という兵法書では、「形で形を制するのが正、無形で形を制するのが奇」と説明しています。

 さらに、色について、孫子は以下のように語っている。

『色は五に過ぎざるも、五色の変は勝(あ)げて観るべからざるなり』第五章 兵勢篇

 色の基本は青・黄・赤・白・黒の五つだけだが、その五色の混じり合った変化は無数にあってすべてを観ることはできない。

 

『終わりて復た始まるは、日月是れなり。死して復た生ずるは、四時是れなり。声は五に過ぎざるも、五声の変は勝げて聴く可からざるなり。色は五に過ぎざるも、五色の変は勝げて観る可からざるなり。味は五に過ぎざるも、五味の変は勝げて嘗む可からざるなり。戦勢は奇正に過ぎざるも、奇正の変は勝げて窮む可からざるなり。奇正の還りて相い生ずるは、環の端なきが如し。孰か能く之を窮めんや。』第五章 兵勢篇

 終わってはまた始まる。尽きることがないのは、太陽が昇っては沈み、月が満ちては欠けるようなものである。死んではまた生き返り、果てることがないのは、四季の移り変わりのようなものである。

 音(音階)は、宮・商・角・徴・羽の5つに過ぎないが、それらを組み合わせた調べは無限であり、すべての音楽を聴き尽くすことはできない。色は、白・黒・青・赤・黄の5つに過ぎないが、それが混じり合って生まれる色の変化は無限であり、すべての色を見尽くすことはできない。

味覚は、酸:すっぱさ・辛:からさ・醎:しおからさ・甘:あまさ・苦:にがみ の5つしかないが、その組み合わせによる変化は無限であり、すべてを味わい尽くすことはできない。これらと同様に、戦い方には「奇法」と「正法」があるに過ぎないが、その奇と正の組み合わせは無限であって窮め尽くせるものではない。正から奇が生まれ、奇から正が循環しながら生まれる様は、まるで丸い輪に端(終点)がないようなものである。誰がそのすべてを窮めることができるでしょうか。

 奇と正の二つの基本形の組み合わせも多様で、その多様さの中からの選択こそが、戦略の選択の肝だと孫子はいう。

『奇正の還りて相い生ずることは、環の端なきが如し。孰か能くこれを窮めんや。』第五章 兵勢篇

 奇中に正あり、正中に奇あり、正から奇が生まれ、奇から正が生まれるという循環過程である。丸い輪には端がない、どこを端と指定することはできない、という比喩で、正と奇のダイナミクスを孫子は表現しているのである。そして、そのダイナミクスのパターンは無数にあり、誰も窮めることができない。

 ビジネス上で日々ライバルに勝つため、努力をしている人は多いでしょう。しかし、それが上手くいかないで悩むこともあるはず。そんな時は、自分がやっていることを見直してみてください。例えば、自社の良いところだけをアピールするだけでなく、時には敢えて、自社の弱点をさらして、それをカバーするために何をしているのかを伝えるなど、攻め方にもメリハリや工夫をしてみてはいかがでしょうか。

攻撃のタイミングを計る

名将、李牧(りぼく)、鉄壁の防御

 孫子は防御と攻撃を一体のモノと考えた。基本的には守りを固めて隙を見せない ように気を付けながらも、守り一辺倒ではなく、チャンスと見れば攻める。戦力が互角であれば、こういう戦い方が基本です。

 

兵法で大事な五項目

 いつ攻めるのか? この判断が勝利への鍵なのです。

 孫子の言うところの「守りを固める」の「守り」というのは、「軍の守り」だけではありません。戦争の勝敗は五つの要素で決まるという。

 兵法で大事なのは、

 1:ものさしではかること=度  

 2:ますめではかること=量  

 3:数えはかること=数  

 4:くらべはかること=称  

 5:勝敗を考えること=勝

 戦場の土地について広さや距離を考え()、その結果について投入すべき物量を考え()、その結果について動員すべき兵数を数え()、その結果について敵味方の能力をはかり考え()、その結果について勝敗を考える()。

 そこで、勝利の軍は充分の勝算を持っているから、重い目方で軽い目方に比べるように優勢であるが、敗軍では軽い目方で重い目方に比べるように劣勢である。

 戦争の上手な人は、上下の人心を統一させるような政治を立派に行ない(=)、さらに軍隊編成などの軍政をよく守る(=)。だから勝敗を自由に決することができるのである。

 孫子は、「彼我の比較検討を行なって勝敗を正確に予測するためには、感覚や恣意、希望的観測などを交えてはダメで、数量的思考を用いるべきだ」と言っているというのです。

 たしかに、度や量がわかれば数がわかり、数がわかれば称が可能になります。その結果、勝が導き出され、必勝の形をつくり上げることができるわけです。現代の言葉でいう「シミュレーション」を数字と論理によって行ない、冷静に勝敗を分析して、「戦うかどうか」を判断するということ。そしていうまでもなく、こうした尊師の数量的思考は、今日のビジネスにおいても重要です。

 ビジネスを戦争と考えるなら、まず市場の大きさと将来性を測り、その市場に見あった資本の投下をどれだけすればいいのかを測る。そして、どれだけの人員を割けばいいのかや、相手に対して優位であるかという利点を測り、それら全てを冷静に判断できれば、勝利を得ることができます。勝つ側はこれらをキチンと踏まえているのに対して、負ける側はそれらの何かを疎かにしているので、負けるべきして負けているということを言っています。

 戦いは圧倒的に物量が多い方が勝利するのは当然です。孫子も、相手に必ず勝てる体制を整えてから戦争をしろと言っています。しかし、必ずしも数や量だけが絶対ではありません。どんな強敵であっても、1つや2つは自分たちの方が優れているところがあるはずです。もし、仕事上で強敵を相手にする場面に出会ったら、この言葉を思い出して、「相手に欠けているものが無いか」あるいは「自社が勝っているところはないか」を測ってみてください。そこを攻めれば勝利をものにすることも決して不可能ではないはずです。

 

事業のタイミング

 最上の戦略とは、相手の戦略・思惑・本音を察知し、それに先制攻撃を加えることである。次善の策としては、相手に協力している者、補助をしている者を攻撃して、相手を孤立化させることである。その次は、万全の体制で戦うことです。最もまずいやり方が、相手の「城」を攻めることであるという。「城」とは、相手が得意とするもの(分野)、大切にしているもの、営業の基盤、地盤等のことである。そこを攻めるという方法は、ほかに方法がなく やむを得ない場合にだけ行うものである。  相手は自信を持っているので、そこを攻めるための準備には、費用も時間もかかり、こちらの損害を少なくするための準備も必要である。

『故に上兵は謀を伐つ。その次は交を伐つ。その次は兵を伐つ。その下は城を攻む。』第三章 謀攻篇

 最も高等な戦争の方法は「敵の陰謀を陰謀のうちに破ること」、その次に上等なのは「敵と同盟国との外交を破る分断」、その次は「敵軍を破ること」。そして、最も悪いことは「敵の城を攻めること」で、それはやむを得ず行うものである。

 商売の話があって、自社にだけに話を持ちかけられたのではないと分かった時は、あくまで知らないフリをしながら、その相手のことを調べることが大切です。そして弱点をみつけたら、そこを攻めて公の競い合う場に持ち込まないようにするのが、結果として最小の時間・労力で勝ち取ることができる一番の方法かもしれません。「急がば回れ」という諺にあるように、最も遠いように感じる方法が時として最短な方法であることも少なくないでしょう。

 準備期間が長くかかるということは、事業のタイミングを逸し、また、準備不足で攻撃すれば効果は期待できず、費用ばかりかかってしまう。そして、ついに撤退することにでもなれば、企業の存亡に関わる。これが相手の「城」を攻めることの害である。

 ライバルの戦略を見抜いて、それに先んじる、あるいは、それ以上の戦略を打ち出すことが最良の戦略と言えます。

 相手がいて、その相手に勝つために何が必要なのか悩むこともあるでしょう。そうした時に「どうすればいいか」と考えることも重要ですが、自分がその仕事を引き受けて相手が望む以上の結果を出すだけの力があるかを顧みることも大切です。仕事をこなせる態勢が十分に整っていれば、自ずと、その仕事はあなたのところにやってくるはず。「灯台もと暗し」ということわざがありますが、のめり込むとつい足下を見失いがちです。そんな時こそ、立ち止まって周囲を見回すことも大切です。 

『櫓・轒轀を修め、器械を具うること、三月してのちに成る。距闉また三月にしてのちに已わる。将その忿りに勝えずしてこれに蟻附すれば、士を殺すこと三分の一にして、城の抜けざるは、これ攻の災いなり。』第三章 謀攻篇

 城攻めの原則としては、おおだてや城門へ寄せる装甲車を整備し、攻城用の機会を完備する作業は3ヵ月も要してやっと終了し、攻撃陣地を築く土木作業も同様に3ヵ月かかってようやく完了するのである。もし、将軍が怒りの感情をこらえきれず、攻撃態勢ができあがるのを待たずに、兵士絶ちにアリのように城壁をよじ登って攻撃するよう命じ、兵員の3分の1を戦死させてもさっぱり城が落ちないのは、これぞ城攻めがもたらす災厄である。

 それゆえ、用兵に巧みな者は、敵の野戦軍を屈服させても、決して戦闘によったのではなく、敵の城を陥落させても、決して攻城戦によったのではなく、敵国を撃破しても、決して長期戦によったのではない。必ず敵の国土や戦力を保全したまま勝利するやり方で天下に国益を争うのであって、そうするからこそ、軍も疲弊せずに軍事力の運用によって得られる利益を完全なものとできる。 これこそが、策謀で敵を攻略する原則なのである。

 「敵の城」を現代社会に置き換えるなら、「相手にとって唯一無二の領域」と言えます。「敵の城」はアウェーでの戦いです。それでも、不利を承知で戦わねばならない時には、慎重に事前準備を重ねましょう。

 アウェーだと気づかず、勝手が分からないまま相手の領域で戦うのは最悪です。本来、戦いは自分の領域に相手を引きずり込んで行うもの。やむを得ず相手の領域で戦う場合は、不利を自覚し、いつも以上に慎重に戦いを進めることを忘れてはいけません。

 準備期間が長くかかるということは、事業のタイミングを逸し、また、準備不足で攻撃すれば効果は期待できず、費用ばかりかかってしまう。そして、ついに撤退することにでもなれば、企業の存亡に関わる。これが相手の「城」を攻めることの害である。

 ライバルの戦略を見抜いて、それに先んじる、あるいは、それ以上の戦略を打ち出すことが最良の戦略と言えます。

 

拙速と功遅

 作戦で大事なのは、短期決戦をすべきであって、戦いは長期に渡ってはいけない。

『兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざるなり。夫れ兵久しくして国を利する者は、未だ有らざるなり。故に尽く用兵の害を知らざる者は、則ち尽く用兵の利をも知ること能わざるなり。』第二章 作戦篇

 戦争は、多少手際が悪かったとしても、できるだけ早く勝負をつけるほうがよい。戦術がすぐれていても、それが長く続くという保証はないからである。

 ビジネスで言えば、利益を出すまでの期間が長いと消耗戦で潰れてしまいます。例えば、最初の投資額が大きく、利益が出るまでに何年もかかるビジネスであるとか、最初の計画が甘く、スタートしてみたら利益が出ずに、広告で集客し続けて消耗戦に流れ込んでいたりと言った場合です。

 事業の成否の判断は、早めに下すべきである。希望的観測や見栄でその判断を長期間先延ばしすると、損失は多大なものになる。そのリスクを十分に認識しなければ、事業で成功することは出来ない。

 計画段階、戦略立案段階では、勝てるイメージができるまでしっかり練り込まなければならないが、いざ実行段階になれば拙速を尊ぶ。スピードは最も費用のかからない差別化ポイントであり、これだけ変化の激しい時代に、トロトロしていては話にならない。

 戦争には、多少拙い点があったとしても速やかに事を進めたという成功事例はあるが、完璧を期して長引かせてしまったという成功事例はない。「戦争が長期化して国家に利益があったなどということは未だかつてない」と孫子は言います。したがって、軍の運用に伴って生じる様々な弊害を知り尽くしていない者には、軍の運用によって生じる利点や有効性についても知り尽くすことはできない。

 よく「コストパフォーマンス」という言葉が使われます。ビジネスにおいて「成功額」の多寡がよく話題になりますが、その商談をまとめるのにかかった時間や費用が膨大かどうか判断することが大切。結果として利益が少なくなるのならば、今追いかけている話が、果たしてそれだけの労力をかけるだけに値するものかどうか、一度、冷静になって考えてみることも時には必要かもしれません。

 経営スピードを上げるためには、情報伝達スピードを上げることである。事業の成否の判断は、早めに下すべきである。希望的観測や見栄でその判断を長期間先延ばしすると、損失は多大なものになる。そのリスクを十分に認識しなければ、事業で成功することは出来ない。 

『兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。故に兵を知る将は、民の司命、国家安危の主なり。』第二章 作戦篇

 戦争では速やかな勝利が最高であり、長期戦を決して評価したりしない。それだからこそ、戦争の利害や損失をよく知る将軍は、人民の死命を司る者であり、国家の存亡を主導する者となれる。

 戦争では速やかに勝利を得ることを重視し、長期化することを評価しない。だからこそ、こうした戦争の利害・得失を理解している将軍が、人民の死命を制するリーダーとなり、国家の命運を司る統率者となれるのである。

短期決戦をしろ 長期戦はするな

 ビジネスは、まず最初に仕組み化して、顧客獲得をしていけば月日とともに売り上げが向上していくというリピートモデルでなければいけない。そうなれば、半年後、1年後には利益がしっかりと出てくるという消耗している期間をいかに短くするかが重要です。ヒト・モノ・カネで競合他社に劣る中小企業は、大企業に持久戦に持ち込まれたら勝てる可能性は極めて低い。

 受注できるまでに長い時間がかかる案件、代金回収までに時間がかかる長期プロジェクト、これらは経営体力の小さな企業には不利な戦いになるため、勝てる見込みのない時は戦わないという勇気も必要です。

 ビジネスの場においては、品質よりもスピードを重視するほうが良いケースが多々あります。

 企画書や提案書を提出する時には、完成度を高めて納期ギリギリに提出するのではなく、5割くらいできた案を納期よりかなり早く提出することで、顧客や上司のフィードバックをもらうことができて、そのフィードバックをもとに納期までの間にさらに完成度を高めることができます。