日本人は今こそ自助の精神を尊ぶべき

 明治維新の頃の日本人が一番強く感じていたのは、列強の植民地になってしまうという危機感でした。

 『四書五経』に代表されるように今まで日本が手本にしていた支那が、アヘン戦争以来ボロボロになっていくのを目の当たりにして、国防を強化しないと国がなくなることに気づいたのです。しかし、「これから何をお手本にすればいいのか」と迷っていた時期でもありました。

 その時期に出版されたのが、中村正直の『西国立志編』です。これは日本にとって極めて幸せなことでした。

 正直は江戸の昌平坂学問所という幕府の学校始まって以来の秀才でした。彼はイギリスに留学したのですが、当時のイギリスは「世界の工業製品の半分をつくっている」と言われるほどの極盛期で、日本にはまだなかった鉄道や軍艦、大砲があふれていました。

 正直は、同じ島国で国土面積も気候もそれほど変わらないイギリスと日本に、なぜここまで差があるのかと考えましたが、留学中にその理由を見つけることはできませんでした。

 しかし帰り際、イギリス人の友人に「今もっとも読まれている本だ」と渡されたのが『セルフ・ヘルプ(自助論)』でした。帰国の船の中でそれを読んで「そうか!」と目から鱗が落ちた。イギリスの発展の秘密は、このセルフ・ヘルプの精神だと悟るわけです。

 1870年、これを翻訳して『西国立志編』を出版するわけですが、この本を読んだたくさんの人々が志をたてて世に出、その後の富国強兵、殖産興業に尽力した結果、日本が急速に近代化していったわけです。

 また、この自助の精神は日本だけに留まりませんでした。日本の発展はその後、世界中の有色人種の独立、解放をも生んだのです。もしあの時代に、自助の精神で日本人が奮い立たなかったら、世界はいまだに白人が支配する19世紀のままだったでしょう。有色人種は奴隷か、少し気が利く人は召使いです。

 現代の日本では、国民自らが国に面倒を見てもらいたいからと言って増税を求めていますが、それは「動物園にしてくれ」と言っていることに等しい。人間の品位を失うことにつながる恐ろしい考えです。江戸時代に、「年貢を高くしてくれ」という農民がどこにいますか?

 「こき使われてもいいから、国に生活を保障してもらいたい」と考える人は、極端に言えば、食べさせてくれるならその主体が日本でなくてもいい。中国や北朝鮮でもいいということです。だからそういう考え方は怖いんです。自分の生活を守る気がない人が、国を守れるわけがありません。

 現代の日本人は今こそ、スマイルズ的な自ら助けようとする気概や努力などというものが、人間の基本的な尊ぶべき価値であるということを再認識すべきでしょう。