コーポレート・ブランディング
個別の製品やサービスではなく、企業そのものをブランディングするための「コーポレート・ブランディング」について解説します。
コーポレート・ブランディングの基本的な役割は、ここ数年で大きく変化しています。
かつては「コーポレート・アイデンティティ活動」などの名前で注目され、各企業がさまざまな施策を行ってきましたが、実際にはロゴのデザインを変更するなど表面的な活動にとどまっていました。
しかし、本来であれば、企業そのものをブランディングしなければ期待される効果は得られません。
その中でも、とくに成果をあげたのが、企業のブランド化とともに会社の方向性をも変質させた企業たちです。
たとえば、ある教育関連企業では、特定のターゲット層に絞って営業活動を行っていたものの、企業のブランディングにあわせて事業内容も変化させました。進学塾という立ち位置だけでなく、幅広い層に対して通信教育を提供するなどです。
また、ブランド化にあわせて、会社のロゴだけでなく、社名も変更しました。日本という市場に着目したときに、将来的な変化もあわせてイメージを醸成することにしたのです。
高度経済成長期の日本と、バブル崩壊後の日本で状況が違うことは誰の目にも明らかでしょう。そうした変化にあわせて、社名も柔軟に変えることが企業のブランディングにつながるのです。
2000年代に入り、IT技術が社会全体に浸透するようになると、ブランドの形成に顧客が強く関わるようになりました。
インターネット上では、シェアやリンクによって世論が形成されるようになり、現在では、マスメディアに勝るとも劣らない影響力をもつソーシャルメディアも台頭しています。
時代の変化によって、これまでのコミュニケーション戦略では、思うようなブランディングができなくなったのです。そこで、企業は、ホームページやSNSを運営し、あるいはクチコミサイトに積極的に働きかけ、コーポレート・ブランディングを醸成するための情報配信を行うようになりました。
そうした媒体においては、一方通行的な広告はなかなか読まれません。だからこそ、ストーリーやイベント性の強いキャンペーンを打ち出し、顧客に対してリアリティや共感を与えるようシフトしたのです。
製品やサービスを販売するということに特化せず、イメージだけを伝えるようなテレビCMやWEB広告が多くなりました。
それらのゴールには、コーポレート・ブランディングがあり、さらには社会的に受け入れられやすい企業理念を浸透させようとの狙いもあるかもしれません。
コーポレート・ブランディングが成功すれば、モノ消費からコト消費へと変化している日本の消費者の心をつかむことができるかもしれません。
世界的にみても、厳しい判断を下す消費者が多数存在している日本の市場では、これからも、個別の製品やサービスだけでなく、企業そのもののブランディングが必要になることでしょう。
コーポレート・ブランディングを見直すことで、企業の体質そのものを変化させることも可能です。
時代の変化に応じて、CMや広告も変えていかなければ、長期的な繁栄は難しいでしょう。
とくに、日本の消費者は、モノ消費からコト消費へと移行している傾向にあります。
自社のブランド力を見直し、正しい施策を行うことが求められます。
CSRを活用したブランディング
CSRとは「Corporate Social Responsibility」の略で、「企業の社会的責任」と訳されます。
企業は、利益を追求するだけでなく、その活動の中で社会に対しても責任を果たしていかなければならない、という考え方です。
そのためには、ステークホルダーの要求にも耳を傾け、適切に意思決定を行うことが求められます。
CSRをブランディングに生かすという発想は、高まった認知度や信頼度を上手にコーポレート・ブランディングへと転換させるということです。
社会に貢献するような活動を企業が主体的に行えば、それだけで企業イメージは良くなります。
それを企業のブランドイメージにも反映させ、事業活動そのものにも好循環をもたらすのです。
CSRの活動にも2種類あって、ひとつは「受動的CSR」、もうひとつは「戦略的CSR」と呼ばれています。
受動的CSRとは、社会的な問題を解決することで、受動的に顧客やステークホルダーから指示を得るというものです。
一方、戦略的CSRとは、社会的な活動を戦略の一部ととらえ、競合他社との差別化を実現するために活用するというものです。
日本において、CSRと言えば、どうしても慈善事業ととらわれがちです。
しかし、戦略的に考えることによって、単なる社会貢献から企業そのものを成長させるための施策として活用することもできるのです。
このことは、そのままコーポレート・ブランディングの構築にも応用することができるでしょう。CSRによるコーポレート・ブランディングです。
環境問題は世界規模の問題であるだけに、企業が積極的に取り組みやすいものだと言えます。
また、成果がすぐにでるということはなく、継続的に行えるという点も注目するべきです。行っていることは必ず社会の役に立ちます。もちろん、営利企業は利益をあげなければ存続することが許されません。だからこそ、本業は本業として行うのはあたり前として、広告活動や広報活動の一環としてCSRに関することを行う。
加えて、そこにマーケティングの要素を加味すれば、CSRという社会的な活動と事業活動が相互に関係するようになります。
事業活動とは関係のないCSRを行うことは、ときには利益の無駄遣いになり兼ねません。
そうなれば、ステークホルダーに対して説得力がなくなってしまうでしょう。
ただし、コーポレート・ブランディングをはじめとする事業活動の一環としてCSRとらえなおすことで、企業の成長に欠かせないものとなるのです。
具体的には、有害物質の削減、環境に配慮した製品の開発、資源の有効利用、あるいは水の寄付など、企業はさまざまなCSRに関連する活動を行っています。
そうした社会への高い貢献度は、直接的に顧客からも評価されるようになり、結果として、その企業の製品やサービスが選ばれるということも実際にあるのです。
いわゆる意識の高い消費者などは、判断基準に企業のCSRに関する活動を挙げている場合も少なくありません。
企業側としては、本業が順調でなければ、なかなかCSRの活動にまで手が回らないということも多いでしょう。
ただ、広告宣伝やイメージ戦略の一環として行うのであれば、長期的な意味での投資としてとらえることも可能です。
費用対効果を厳密に計測することは難しいのですが、無駄にならないと思えば、前向きに取り組むべきものだと判断できるでしょう。
マーケティングとしても、戦略の一部としても考えておきたいところです。
もちろん、ブランド戦略全体を見直す際には、CSRをどのように組み込むべきかを考慮し、全社的に施行することが求められます。