リーダーシップの理論

 リーダーシップはいくつかの理論で分類されています。

コンセプト理論

 コンセプト理論は、ビジネスにおける環境、組織の状況、メンバー構成などの状況に応じたリーダーシップの具体的な方法に着眼した理論です。

 条件適合型理論という前提がありますが、理論を代表するリーダーシップの方法には下記のようなものがあります。

1 カリスマ型リーダーシップ

 カリスマ型リーダーシップとは、並外れた力を発揮するリーダーシップのこと。たとえば、Apple社の元CEOスティーブ・ジョブズ氏やセブン&アイ・ホールディングスの元CEO鈴木敏文氏などが発揮したリーダーシップです。

 明確なビジョンを提示すると同時に、リスクを一手に引き受けます。環境を現実的に評価しつつ、組織を構成するメンバーのニーズや感情に的確に対応し、理解を示すような特徴があります。

 カリスマ型リーダーシップが機能すれば、企業を業界トップにも押し上げる力をリーダーは発揮するのです。

 ただし、問題点もあることを忘れてはなりません。強烈なリーダーシップに甘んじた場合社員の自主性は失われます。リーダーへ依存すれば、次世代のリーダーの育成問題に大きな影を落とすでしょう。能力の差がプレッシャーとなれば、後継者は育ちにくくなります。

 

2 変革型リーダーシップ

 「企業の業績がV字回復した」といったニュースに象徴されるのが、変革型リーダーシップです。変革型リーダーシップは、経営危機に面した企業を大胆な改革により回復を遂げる場合に発揮されます。

 組織内の危機感を醸成し、それをもとに企業の進むべき新たなビジョンを構築します。変革のための組織づくりをし、組織内で自発的な活動を促すのです。そうすると、早い段階で小さな成功がもたらされるため、その成功の積み重ねで企業の業績は回復します。

 リーダーシップ論の権威であるハーバード大学ビジネススクールのジョン・コッター教授は、「リーダーシップは変革能力であり、マネジメントは管理能力である」と言っています。

 現代社会は、マネジメント能力に長けているリーダーは多いものの、変革をもたらす能力を持ったリーダーが不在であることを問題視しています。

 

3 EQ型リーダーシップ

 EQ型リーダーシップは、リーダー自らが組織の構成員の感情やモチベーションに働きかけ、ポジティブな方向へと舵を取っていくリーダーシップです。組織のマインドを高め、チームワークよく組織を動かしたいときに有効なリーダーシップといえます。

 EQ型リーダーシップは、リーダーが自分の感情を理解するところから始まり、自分の感情をコントロールし、他者理解に進むのです。

 他者を理解のうえで、他者の感情への働きかけをコントロールしていき、

 感情を汲み取ってもらったメンバーは、リーダーに対する忠誠心を持ち、職務に対して意欲的に取り組みます。その結果、企業業績にも大きな利益をもたらすといったリーダーシップの形です。

 

4 ファシリテーション型リーダーシップ

 多くのメンバーの自主的な意見を吸い上げる、ファシリテーション型リーダーシップがあります。リーダーとは、組織を率いるものではなく、上下関係のない中立な立場と捉えています。

 ファシリテーション型リーダーシップは、たとえば「君ならどうしますか?」「君ならどう考えるのかな?」といった傾聴や質問といった行為でメンバーの意見を最大限に引き出すのです。組織の課題すべてをメンバーが主体的に話し合い、意見をまとめ、行動に移していくことで組織を運営するのが特徴といえます。

 日本全国でリゾート経営を成功させている星野リゾートの星野佳路氏の手法は、まさにこのファシリテーション型リーダーシップに当てはまります。

 ファシリテーションを最大限に発揮し、自らの地位や権威を用いず傾聴を繰り返し行うことで、日本全国へリゾート展開する大企業へと変貌させました。

 

5 サーバント型リーダーシップ

 サーバントとは召し使いのこと。サーバント型リーダーシップは、リーダーがあたかも召し使いのように振る舞いながらチームを率いていくリーダーシップです。ミッションやビジョンといった設定の最終意思決定はリーダーが行います。

 実際のアクション過程において、リーダーは組織メンバーのサポートに徹し、メンバーはリーダーのサポートを受けながら顧客に満足を与えようとします。ピラミッド型の上位層が下位層に対し、支援を行うことでビジネスに良循環をもたらすのです。

 

行動理論

 国家の元首や宗教団体の教祖などのリーダーは、古代から永らく先天的に備わる類まれな資質を持った者のみがふさわしいと考えられていました。しかし、人間の資質を科学的に分析する手法が編み出された後、必ずしも優れた資質を持つ者だけがリーダーシップを発揮しているわけではないことが分かってきました。

 リーダーシップは世界中でさまざまな研究がされてきました。そして、現在までに、多くのリーダーシップ理論が確立されています。

 1940年代になると、優れたリーダーの行動に関する研究に多くの学者が携わりました。

 

PM理論

 「PM理論」は、1960年代に九州大学の三隅二不二らによって提唱された理論です。リーダーの行動には、P(Performance)行動(=集団の目的達成のための行動)とM(Maintenance)行動(=集団の維持を目的とする行動)の2因子があることから、「PM理論」として知られています。

 ①PM

 課題関連行動も対人関連行動ともに高く維持されているのがPMで、目標達成に力を入れながら、人間関係にも気を配る理想的なリーダーと考えられます。PMの文字が大文字なのにも訳があります。

 大文字で記された場合には、その効果が大きいことを示し、小文字で記された場合は、その力が弱いことを意味します。

 Pは、

 ・組織の決まり事を守るためメンバーを徹底して指導する

 ・スケジューリングに重きを置き、その進捗管理を徹底する

などが挙げられます。

 Mは、

 ・意見の対立があったとき、積極的に調整役として関与する

 ・メンバーが自己の課題を達成できるよう、声かけや指南まで幅広く対応する

といった行動を指します。組織としての成果をあげる力とともに、組織をまとめあげる力も強靭であるとわかります。

②Pm

 Pmとは、目標を達成することに重点を置くけれど、組織内の人間関係には大きく関与、配慮しないリーダー像です。

 目標の達成に関するPの文字が大文字で、対人関連行動に関するmが小文字であることからも、その特徴がわかるでしょう。

 Pの力を大きく伸ばすためにはどうしたらよいかについて、2つの必要要素があります。

 ・明確な目標提示とそこに行き着くまでの課程を具体的にイメージさせる 

   たどり着くゴールと、そこまでの地図を明らかにすることで目標達成に大きく近づく

 ・目標に向けた行動を徹底させる 

   いくら地図があっても、寄り道をしたり亀のような歩みをしたりするのでは結果は出ない

 組織内でそれぞれの行動をコミットメントさせたり、目標を意識する機会を多くつくったりすることで、意識を高めることが必要です。

③pM

 pMは、文字通り、目標達成という結果よりも集団内における人間関係に気を配るタイプの行動理論です。Mを伸ばすための能力に必要な要素は、組織内の対人関係にある2つの構図です。

 上司と組織メンバー 

   定期的な個人面談や上司からの声かけ実施といった具体的施策

 組織メンバー同士 

   自由に意見交換できるミーティングの設置など

 目標達成に力が及ばない部分があるので、企業としての即戦力にはなり得ないパターンですが、組織内の風通しが良くなるため、組織の成熟期を待てば、何らかの結果を生み出す可能性も秘めています。

④pm

 pmは、目標達成に関する力と対人関係行動に関する力が共に弱いという特徴があります。目標達成、人間関係の調整のどちらにも消極的なリーダーのパターンで、組織としては非常に問題です。

 リーダーとしての存在意義がないとみなされる場合が多く、このようなリーダーシップを執る人材がその地位に長くいることは難しいでしょう。

 企業はパフォーマンスを出し、経営目標を達成することを目的に日々活動しており、そのために円滑な組織運営は不可欠です。その両方に力を発揮できないのは、企業にとって致命的といわざるを得ません。

 PM、Pm、pM、pmの4つのパターンのなかで、この位置に属することだけは避けるべきと考えられているゾーンです。

 

マネジリアル・グリッド

 マネジリアル・グリッドは、テキサス大学のロバート・ブレイクとジェーン・ムートンにより提唱されたリーダーの行動分析ツールです。彼らの研究グループは、リーダーの行動の動機を「人への関心」と「生産への関心」の2軸でとらえます。この2軸は、「PM理論」でいう M行動と P行動に対応していると言えるでしょう。両者の関心がいずれも高い場合に、リーダーが最も優れた機能を果たすという結論に至りました。それぞれ、縦横に9段階づつに分け、合計81個のマスを作ります。リーダーが行動を起こす際に、何にどの程度関心を示していたかを調査し、このマネジリアル・グリッドにプロットしていきます。 

①1.1型(消極型)

 1.1型と呼ばれているのは、人間関心度、業績関心度ともに低いパターンです。リーダーは部下やチームの目標といったものに無関心で、仕事で生じる責任を回避する傾向にあります。

 自己防衛的な振る舞いも多く、部下に対して放任の態度を取るため、ある意味リーダーとしてのリーダーシップが機能していない状態を指します。取り組むのは与えられた仕事のみ、それもよりよい結果を追い求めることは少ないため成果も低いでしょう。

 職場内におけるリーダーの存在感は薄く、組織としての統制も取れず全体が崩壊状態にあります。企業の目標達成どころか、組織としての存在すら危ぶまれるような危機的状況をもたらします。

②1.9型(人間中心型)

 1.9型は、人間関心度は非常に高いが業績関心度は低いパターンです。企業の業績、組織の目標を犠牲にしてまでも、組織内のチームワークを重んじ、メンバーの意見に耳を傾けた人間中心の組織運営を指します。

 リーダーと部下、メンバー同士のコミュニケーションは密で人間関係は良好なのですが、お友達グループのような組織で終わってしまいます。

 業績や成果を求められる営利団体である企業経営の観点から考えると、これは非常に問題です。確かに、心身ともに安定した職場は、企業の成長には不可欠です。しかし、そこにのみ重点を置くようでは経営が成り立たず、結果的にはメンバーの生活を保障することもできなくなってしまうでしょう。

③9.1型(仕事中心型)

 9.1型は、人間関心度が低い一方で、業績関心度が非常に高いパターンです。リーダーが組織の人間を犠牲にしても、企業の目的や組織の目標達成に最大限の力を注ぐ、いわゆる仕事中心の思考が生み出したリーダーシップです。

 職務遂行、業績の最大化がもっぱらの関心事項なので、リーダーが強力なトップダウン式統治で組織を引っ張ります。権力型リーダーのもとに動いた組織は、一定の成果、業績を残すことができるでしょう。

 しかし、職場内にコミュニケーションや配慮はなく、部下の育成といった視点も欠如しているため、組織の成熟度もままならず、最悪の場合組織からメンバーが離れてしまうことにもなりかねません。

④9.9型(理想形)

 9.9型は、マネジリアル・グリッド論で理想形と呼ばれるもので、人間関心度と業績関心度がともに高い状態で組織運営をするパターンとなります。

 企業業績や組織目標といった結果に高い問題意識を持ちつつ、組織内の人間関係にも最大限の関心を払います。リーダーが組織メンバーに心を配り、綿密なコミュニケーションを取ることで、相互の信頼関係が芽生えます。その結果、メンバーはリーダーの献身的なサポートを受けて、自らを成長させながら、組織の目標達成に向かって努力を重ねるのです。

 すべてが友好的、協調的に進められるため、無理なく適度な成果が上げられるでしょう。バランス感覚を兼ね揃えた理想型リーダーがいることが、マネジリアル・グリッド論のなかで理想形とされている理由です。

⑤5.5型(中庸型)

 5.5型は、人間関心度と業績関心度ともに中くらいであるパターンです。中くらいというと中途半端なイメージと思うかもしれませんが、突出する部分がないバランスの良いリーダーシップのひとつであると考えましょう。

 リーダーは、組織のメンバーに関してほどよく関心を持っています。無理のない範囲でコミュニケーションを取るので、メンバーの負担感も少ないでしょう。

 また、企業や組織の目標に対しても、適度な意識を向けています。目標達成のためにやるべきこと、やらなければならないことに対してアクションを起こし、プロジェクトを進めます。過労といった問題は無縁の、無理のない範囲で適度な成果をあげていける妥協型リーダーシップの形です。

 提唱者であるロバート・ブレイクとジェーン・ムートンは、マネジリアル・グリッドのどこにプロットされるかで、5種類の型があると説明しています。そして、リーダーの成果が最も顕著になる傾向が強いのは、(9,9)のチーム・マネジメント型の場合であると結論付けています。

 

リーダーの行動の2タイプ

 「PM理論」と「マネジリアル・グリッド」においても、リーダーの行動の共通する2つの側面に注目している。2側面とは、簡潔にいうと、仕事の成果を追い求める側面と人のモラルを高める側面です。

 アメリカのオハイオ州立大学では、1950年代に「リーダー行動記述質問票」が開発され、現在に至るまでリーダーの行動を測定するスタンダードとなっています。この質問票の分析から、「部下への配慮」と「組織の構造づくり」の2点がリーダーの行動から導き出されるものであることがわかりました。

 同時期に違ったアプローチからリーダーの行動を研究したのは、ミシガン大学やハーバード大学です。ハーバード大学の研究では、リーダーの行動は、「社会・感情スペシャリスト」と「課題スペシャリスト」の2種類に分類できるという結論に達しました。

 一方、ミシガン大学では、「従業員志向型」と「生産性志向型」の2面が明らかになりました。 

 これらの研究において、いずれも「集団の成果に向けた行動」と「組織のメンバーの関係性や心理に関心を向けた行動」の2軸は、ほぼ共通していると言ってよいでしょう。

 

行動理論の成果と課題

 行動理論では、リーダーが2側面の両方に関心を寄せた場合に集団の成果が出やすいということがわかり、特別な資質を持たない普通の人物でもリーダーとして実績を挙げることができることも明確になったという成果がありました。 

 一方、リーダーがこの両面に関心を寄せた場合、必ず実績を挙げることができるかというと、必ずしもそうではないことも判明しました。つまり、リーダーの行動を分析するだけでは、リーダーシップを解明するには限界があることも見えてきたのです。

 リーダーの行動を分析するうえでは、現在も行動理論は有効な理論ですが、この後、リーダーシップ研究は、別の方向へも大きく展開して、より精度を高めていくこととなります。

 

条件適合理論

 条件適合理論は、すべての環境や条件に適合して必ず成果を出すリーダーの行動はなく、成果を出すには、環境に応じてリーダーの行動を変化させていくことが必要だという理論です。リーダーシップの理想的なあり方は固定ではなく、時代や事業環境の変化に伴って、適合させることの必要性を示唆しています。

 代表的な理論としては、「フィードラー理論」と「パス・ゴール理論」が挙げられます。

 フィードラー理論は、リーダーと集団の成員との信頼度、部下のタスクの明確さ、リーダーの人事権や報酬を与える力の3点に注目しました。それぞれの度合の高低の条件ごとに、成果の上がるリーダーの行動を示しました。

 パス・ゴール理論は、集団がどのような環境的条件(直面している課題、権限体系、組織等)のもとに置かれているかということと、部下の能力や性格、経験などの側面の2点に着目しました。

 それらの要因に応じて、リーダーは「指示型」「支援型」「参加型」「達成志向型」の4つのスタイルを使い分けると効果が上がることを、提唱者であるロバート・ハウスは主張しました。

条件適合理論の生まれた背景

 リーダーシップの研究は、優れた国家の首長や軍を率いた将軍などの資質を見出すというかたちで古代から近代まで続いてきました。近代に入って心理学の分野でリーダーの資質を科学的に分析する手法が編み出されると、「特性理論」として研究が進みます。

 その後、リーダーシップの発揮される局面は、リーダーの特性だけでは説明しきれないことが徐々に明らかになってきました。

 そして生まれてきたのが、優れたリーダーの行動に着目した「行動理論」です。リーダーに付き従う人(フォロワー)への関心(人間関係志向)とリーダーの率いる集団の目的達成への関心(タスク志向)の2軸がそれぞれ高い場合に、比較的リーダーシップが発揮されやすいことがわかってきました。

 ところが、特性理論と同じく、行動理論においても、いついかなる場合においても有効なリーダーシップのかたちが見出されたわけではありませんでした。そのような状況から生まれたのが、様々な条件ごとにどのようなリーダーの行動が有効なのかを研究する流れであり、1960年代に提唱された理論が「条件適合理論」です。

 

フィードラーの理論

 1960年代に台頭してきた組織論である「コンティンジェンシー理論」は、普遍的に有効な組織は存在せず、環境によって有効な組織も異なることが主張されていました。

 このコンティンジェンシー理論をリーダーシップ論に展開したのが、米国イリノイ大学の心理学者のフレッド・フィードラーです。フィードラーの理論は、様々な環境や条件により、有効なリーダーの行動は変化することを証明し、リーダーシップ研究における条件適合理論の基礎を築きました。

 リーダーの行動をタスク志向(任務実行を優先する)か人間関係志向(部下のケアや支援を重視する)かで分類し、集団の置かれた状況により、どちらのリーダーがより成果を出すかを解き明かしました。 

 フィードラーが、リーダーをタスク志向か人間関係志向かについて判定した方法は、LPC(Least−Prefered Co−worker)という手法です。これは、リーダーが最も一緒に働きたくないと考える仕事仲間をどうとらえるかという心理学的テストです。

 集団の置かれた状況は、以下の3つの軸の強弱で評価します。

 ・部下との信頼関係の度合

 ・部下の仕事が明確化されている度合

 ・リーダーの部下に対する報酬力や人事権の度合

 評価した結果を8段階に分け、リーダーにとって好ましい状況か好ましくない状況かで順位付けをします。そのうえで、8段階それぞれに、リーダーがタスク志向型と人間関係志向型の行動を取った場合の業績の良し悪しを測定しました。

 まず、状況を大きくリーダーにとって「好ましい状況」、「普通の状況」、「好ましくない状況」の3つに分けます。すると、「好ましい状況」と「好ましくない状況」の場合には、タスク志向型の行動の方が好業績となり、「普通の状況」の場合には人間関係志向型の方が好業績となる結論が得られます。

 フィードラーの理論は、普遍的に有効なリーダーの行動タイプは存在せず、環境や条件によって有効なリーダーの行動は変化するというということを解明したという点で意味のあるものでした。

 一方、タスク志向と人間関係志向という2種類の志向により、リーダーの行動を固定してしまっている部分において、フィードラーの考え方は融通に欠けるものとなっています。この後、条件によってリーダーの行動は変化させることができるという前提に立っての研究が進んでいくこととなります。

 

パス・ゴール理論

 フィードラーの理論がリーダーの志向がタスク志向か人間関係志向のどちらかであることを前提にしていましたが、リーダーの志向は可変的になりうることを提唱したのが米国の学者であるロバート・ハウスです。

ハウスは、1971年に「パス・ゴール理論」を発表しました。部下が目的(ゴール)に達するまでにリーダーは道筋(パス)をつけなければならないとする理論です。

この理論のベースには、期待理論(人間は、利益の最大値を求めて、努力に応じて報酬が得られるという期待から動機付けされていく存在であるという理論)があります。

「パス・ゴール理論」におけるリーダーの行動タイプ別の効果

 パス・ゴール理論では、リーダーは、その行動に影響を与える2つの要因を把握する必要があります。

 第一は、集団がどのような環境的条件(直面している課題、権限体系、組織等)の下に置かれているかという要因です。第二は、部下の要因(能力や性格、経験など)です。この2つの要因の状況によって、「指示型」「支援型」「参加型」「達成志向型」の4つのスタイルを使い分けることで、有効なリーダーシップを発揮できるとしています。

指示型

 ・部下の能力が低い場合

 ・部下の自立性が高くなく、経験値も低い場合

 ・タクスが曖昧な場合

 ・チームのメンバー間のトラブルがある場合

  (部下の能力が高い場合や豊富な経験がある場合に、リーダーがこの行動スタイルを取ると、逆に部下のモチベーションを下げてしまう)

支援型

 ・タスクが明確な場合

 ・リーダーと部下の権限が明確な組織の場合

参加型

 ・部下の能力が高い場合

 ・部下の自立性が高く、豊富な経験がある場合

 ・部下が自己解決する意欲が高い場合

達成志向型

 ・困難で曖昧なタスクの場合で部下の能力や経験値が高い場合

  (部下に努力により高業績が得られるという期待で動機付けを行う)

 

シチュエーショナル・リーダーシップ理論

 リーダーシップ理論のうち、集団の置かれた環境や部下の状況などの条件によって、有効なリーダーの行動は変化するということを主張したのが「条件適合理論」です。1960年代から心理学者であるフレッド-フィードラー(コンティンジェンシー理論)や経営学者のロバート・ハウス(パス・ゴール理論)が独自の理論を展開していました。1977年に、部下の発達度合いにより、リーダーが取りうる行動スタイルを示したのが、オハイオ州立大学のポール・ハーシーとケン・ブランチャードです。このモデルは、「シチュエーショナル・リーダーシップ理論」(SL理論)と呼ばれます。

部下の発達段階

 SL理論の提唱者であるハーシーとブランチャードは、リーダーシップのスタイルというのは部下の職務能力と意欲・責任感の発達度によって変える必要があると考えました。部下の発達段階を4段階に分類しました。

4つのリーダーシップ・スタイル

 リーダーシップのスタイルを、タスク重視の軸(指示的行動)と部下への人間的配慮を優先する軸(援助的行動)の2軸で4類型に分けました。

 この2つの軸は、リーダーシップ研究では1940年代に研究の始まった行動理論以来、既に定番となっている2つの要素です。

①S1:指示型

 S1は指示型で、指示の程度が高く、協労の程度が低い特徴を持ちます。この場合、リーダーは目標達成のノウハウを熟知している人物とみなされます。当然、組織のメンバーはリーダーを頼ります。

 これが効果的に作用すればよいのですが、メンバーへの一方的な指示はときに不信感や不愉快といった反発も招きます。目先の、いわゆる短期的な見通しや関心しか持っていないようにも受け取られかねないため、組織運営のリスクは高いでしょう。

②S2:説得型

 S2は説得型で、指示の程度は高く、また協労の程度も高い特徴を持ちます。目標設定や仕事の組織化といったプロジェクトの成功に向けて熱く取り組むだけでなく、チームのニーズも満たしたチームプレーによって、社会連帯的指示を与えているかのようにも見えます。

 一方、熱心な仕事の指示は時に必要以上の介入となり、メンバーに不快な思いをさせることもあります。せっかく築いたチームワークやメンバーとの信頼感も、誠意のない上辺だけの行為と思われてしまうシーンも多いでしょう。

 説得型というだけあって、相手の同意を得られるようコミュニケーションを取りながら、リーダーとして目標達成に進む姿勢がこのパターンの特徴です。

③S3:参加型

 S3は参加型で、指示の程度は低く、協労の程度は高い特徴を持ちます。リーダーは、組織メンバーに対して暗黙の信頼を寄せており、信頼関係のもとメンバーに任せることで掲げている目標の達成を推し進めるのです。

 基本的な考えは「和」で、「和」を保つことが最重要ポイントです。人間関係が険悪になるような状況、「信頼できるリーダー」という自分のイメージが崩壊するような状況を極度に恐れていますので、ときに仕事を犠牲にしてまでも「和」を重んじる傾向があります。

 企業にとっては「和」の精神を保っている点は評価できますが、ときに、仕事の結果にコミットメントできない場合もある点は看過できないでしょう。

④S4:委任型

 S4は委任型で、指示・協労ともに低調に維持されるパターンです。リーダーとしてチームワークを良好に保ったり、組織の目標を達成したりといった求められる課題があるにもかかわらず、すべてを組織メンバー任せにし、自らの社会的責任を放棄しているかのように見られるリーダー像です。

 組織メンバーに任せる、つまり、下手な干渉を一切しない点は組織の内部に伸び伸びとした動きを生み出すかもしれません。

 しかし、必要な仕事の組織化、アクションプランの作成、進捗状況の管理といった社会連帯的指示の提供を怠けていると見られても仕方がありません。組織の成熟度も4つのパターンで最も低いとされています。

SL理論に基づくリーダーの行動

 D1からD4の部下の発達段階ごとに、どのスタイルのリーダーシップを採用すべきでしょうか。

D1:経験が乏しい状態 → S1:教示的リーダーシップ

D2:業務に少し慣れてきた状態 → S2:説得的リーダーシップ

D3:業務を無理なくこなせる状態 → S3:参加的リーダーシップ

D4:リーダーの後任が務まる状態 → S4:委任的リーダーシップ

 

交換・交流理論

 リーダーシップの研究は、古代以来の歴史的な英雄や優秀な戦士の資質に注目するかたちから、近代に入ってリーダーの行動に着目した理論が出てきました。その理論が進化して、「条件適合性理論」が生まれました。

 この理論は、リーダーの行動タイプやリーダーと部下との関係などの条件によって、リーダーの行動を変えると、リーダーシップがより発揮されるというものです。また、リーダーシップは、一部の優れた人物のみが発揮できるというわけではなく、適切な行動をとれば誰でもが発揮できるものであることが証明されるにいたりました。

 1970年代に入ると、「交換・交流理論」が盛んになります。「交換・交流理論」は、部下(フォロワー)の存在を、従来の理論の前提となっていた「リーダーから一方的に影響を受ける存在」から、「リーダーに影響を与えうる存在」として浮かび上がらせています。

 つまり、リーダーとフォロワーとの相互関係の中に、リーダーシップの本質を見出そうとする理論です。

 

交換理論

 人間が行動を起こすか否かの判断は、それを行うことによりメリットがあるのかを検討したうえで下すものです。一方、他者を行動させたい場合には、他者がそれを行う場合に得られるメリットを示すことで、行動を促すでしょう。

 つまり、動かす側と動く側が共に利益となるような何かを「交換」することによって、お互いが満足を得ているということが言えるのです。このように、人間社会は お互いに「交換」することにより生活を成り立たせてきました。 

 米国の社会学者であるジョージ・ホーマンスは、この社会的な人同士の交換を、リーダーシップの観点にあてはめ、「社会的交換理論」を提唱しました。

 フォロワーは、一度リーダーの指示に従って満足な報酬を獲得できた、あるいは心理的な快感などの価値ある結果が得られた場合、そのリーダーに次の機会にも進んで付き従おうとします。フォロワーは、単に指示に従うだけではなく、より自発的行動も引き起こされるようになります。

 このように、「交換理論」では、リーダーだけではなく、フォロワーもリーダーシップに積極的に関わる存在として位置づけられています。

 

社会的交換理論

 ジョージ・ホーマンスの「社会的交換理論」において、交換されるのは物や金だけではありません。例えば、通り雨にあって困っている人に傘を貸してあげて、相手から感謝されたり、 

 自分自身が良い事をしたという達成感を味わったりといった心理的メリットも含まれます。

 上司(リーダー)と部下(フォロワー)の関係でも、部下が業績を挙げたときに、昇進や報奨などの直接的なメリットだけではなく、単に上司が部下を褒めるだけでも、部下にとっては努力が報われたと感じることはあると思われます。

 一度リーダーの指示に従って、フォロワーにとって良い結果が得られれば、次の指示にもフォロワーはよい結果を期待して従いやすくなるでしょう。

 リーダーとフォロワーは、相互に関係し合い、リーダーシップのあり方にも、リーダーだけではなくフォロワーも深く関わっていることがわかります。

 

信頼性蓄積理論

 社会心理学者エドウィン・ホランダーは、よりフォロワーの影響力に注目した「信頼性蓄積理論」を提唱しました。「リーダーの影響力は、リーダーが過去の言動や行動でフォロワーに対してどれだけ信頼を集められたかで決まる」としています。

 リーダーは、信頼を集める前に、フォロワーに対し双方が属する集団の規範を理解しているという「同調性」を示す必要があります。また、その集団の目的を達成するために有効な行動ができるという「有能さ」も示さなければなりません。この2点を示すことで、フォロワーのリーダーに対する信頼性を蓄積していくことができるのです。

 この理論では、さらにその先があります。リーダーは信頼性が蓄積されていくと、フォロワーから集団を変革することを期待されるようになるとしています。変革が成功すれば、さらなる信頼性の蓄積につながっていき、リーダーの影響力も増大します。

 もし、変革に失敗すれば、信頼性の蓄積が減少に転じ、フォロワーがリーダーに付き従うモチベーションは薄れていくことになります。

 

リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)理論

 リーダーシップの研究が進んで、1970年代に入ると、「交換・交流理論」が盛んになってきました。従来の研究で重要視されてこなかったフォロワーにより注目した理論です。

 アメリカの社会学者J.ホーマンスは、フォロワーの業務の遂行とリーダーの報酬との交換によりリーダーシップは成り立っており、リーダーとフォロワーの間には相互依存性があることを見出しました。(「社会的交換理論」)

 リーダーとフォロワーの間に、健全な交流が繰り返されると、相互の信頼が蓄積され、よりよいリーダーシップが発揮されます。次の段階では、フォロワーは、リーダーに変革を期待されるようになるという「信頼性蓄積理論」も唱えられました。

 リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)理論は、リーダーとフォロワーとの関係をより深く掘り下げた理論です。

 米国シンシナティ大学のジョージ・グレーンを中心とする研究者たちは、リーダーとフォロワーを様々な取引関係からなると考えました。その取引関係の質が高いほど、集団は高い成果を生み出すとしています。

 リーダーは、フォロワーとの関係の質を高めれば、よりリーダーシップを発揮しやすくなります。一方で、リーダーだけではなくフォロワー側からのリーダーシップへの影響力も重要視しており、従来の研究とは一線を画すものとなりました。

in-group(内集団)とout-group (外集団)

 ジョージ・グレーンたちは、リーダーとフォロワーとの関係性の”質”の違いにより、「交換」に差があることを発見しました。

 新たに就任したリーダーは、その組織の中に、リーダーに好意的に振舞う集団(in-group)と、非好意的に振舞う集団(out-group)が存在することに気付くとしています。そして、それぞれの集団に属する部下が同じことをやっていても、in-groupに属する部下の評価の方が高くなる傾向があるとグレーンは主張しました。

 例えば、リーダーの指示に対し、フォロワーの業務の完了が期限に間に合わなかったとしましょう。in-groupに属している部下であれば、「丁寧に仕事をしているのだな」という評価につながりますが、out-groupに属する部下の場合には、「サボって遅れたのだな」という評価になってしまいがちです。

 in-groupのフォロワーは、その評価に満足しますが、out-groupのフォロワーにとっては不当な評価だと感じるかもしれません。リーダーとフォロワーとの「交換」は、このような双方の関係の「質」によって変わってくると、ジョージ・グレーンのグループは考えました。

 このようなリーダーとフォロワーとの関係性は、上司部下の関係が始って数日から数週間の間の相互の印象によって大きく影響するとしています。

 このような状況について、組織の中で実際に働いている人にとっては、思い当たるふしがあるのではないでしょうか。

 LMX理論では、リーダーがフォロワーと望ましい関係を構築することで、よいリーダーシップが発揮されるとしています。この望ましい関係について、リーダーとフォロワーとの間で、暗黙のうちに交わされている「心理契約」という概念で説明したのが、米国オクスフォード大学のタクレブとテイラーです。

 彼らが、2003年に提唱したのは、リーダーがこの心理契約を守っているとフォロワーが信じていれば、両者は”望ましい関係”であると判断できるとしています。

 リーダーは、より良いリーダーシップを発揮するためには、個々のフォロワーをより多くin-groupに招き入れ、フォロワーとの関係性の「質」を向上させていくことが求められます。

 

リーダーシップ形成の成熟

 1990年代にLMX理論を発展させたジョージ・グレーンとアラスカ大学のメアリー・ウール=ビエンは、リーダーとフォロワーとの間の交換・交流関係か゛時間の経過とともに段階的に発達していくことをつきとめました。

 2人によると、他人関係→知人関係→成熟したパートナーシップへと変容していくと言います。

 リーダーとフォロワーとの関係の初期段階では、互いに金銭などの実利に重きが置かれています。両者に望ましい関係が構築されれば、互いに信頼し尊重し合い、フォロワーには、自発的に属するグループに貢献しようとする行動まで見られるようになることが判明しているのです。

 

LMX7によるリーダー・フォロワー間の関係の測定

グレーンとビエンは、リーダー・フォロワー間の関係の質を測定するために、「LMX7」という質問票を作成しました。7つの質問に答え回答をスコア化します。リーダーは、それぞれのフォロワーごとに1枚のLMX7を完成させる必要があります。

フォロワーは、自分のリーダーについて回答します。そのスコアが上位であれば、フォロワーはin-groupのメンバーであることを、逆に下位であればout-groupであることを示すというものです。現在でもリーダシップの質を明らかにするために広く利用されているツールです。

1. あなたは、あなたのリーダー(フォロワー)の立場を理解していますか また、あなたのリーダー(フォロワー)が、あなたの仕事にどれくらい満足しているか認識していますか

2. あなたのリーダー(フォロワー)は、あなたの仕事上の問題とニーズをどの程度理解していますか

3. リーダー(フォロワー)は、あなたの潜在能力をどの程度理解していますか

4. あなたのリーダー(フォロワー)が、正式な権限を有しているか否かにかかわらず、リーダー(フォロワー)は、あなたの仕事の問題を解決するために権限をどの程度を行使しますか

5. あなたのリーダー(フォロワー)が、正式な権限を有しているか否かにかかわらず、リーダー(フォロワー)は、自ら労力やコストを使って、どの程度あなたをサポートしますか

6. 私は私のリーダー(フォロワー)が不在の場合でも、リーダー(フォロワー)を守り、正当化するであろうことに、十分な自信を持っています

7. あなたのリーダー(フォロワー)との仕事上の関係をどのように考えますか

 7つの質問で選択した答えの番号を合計してスコア化し、関係性の高さを確認します。

 このLMX7は、研究者が現場でリーダーシップの質を測定するために最も一般的に使用されている検査方法です。リーダーの立場の方にとっては、自分のリーダーシップスタイルを分析することができます。フォロワーの立場からも、改善の糸口を見つけることができるでしょう。

LMX理論の発展と限界

 LMX理論はさらに発展し、リーダーとフォロワー間だけではなく、フォロワーの中での交換・交流関係も成熟すると、グループ内の成果が増大するという報告も出てきています。 

 一方、リーダーがフォロワーをout-groupからin-groupにどうしたら導きいれることができるのかが具体的に示されているわけではありません。

 また、リーダーとフォロワーとの関係が、異動などで短期間で変わったり、階層ができてリーダーとフォロワーが直接交流ができなかったりする大組織の場合には当てはまらない可能性もあります。このような事情から、違った視点でのリーダーシップ研究も展開されていくこととなりました。