マネージャー

マネジメントの目的

 マネジメントの目的は、設定した目標に沿って組織を運営すること。具体的には、組織の資源である人材、情報、お金、モノを効率的に活用して、設定した目標に向かって組織を発展させ続ける、成果を上げて機能させ続けるかということです。

 

マネジメントとリーダーシップの違い

 マネジメントは、しばしばリーダーシップと同義と捉えられる場合があります。リーダーシップとマネジメントは、いずれも目的を同じとしていますが、リーダーシップは具体的な目標や結果を示す役割を持ち、一方のマネジメントは、その手段や どのように目標を達成するのかを示す役割を持っています。

 ものづくりに例えるなら、「どんな物を作りたいのか」の What の部分を指し示すのがリーダーシップであり、実際にその物をどのように作るか考え制作する、How の部分を担当するのがマネジメントであると言われています。

 

組織・社会・個人とマネジメントの関係

 組織と社会と個人、そしてマネジメントの関係を見てみましょう。

 まず、「組織と社会」の関係です。組織は、自社の製品やサービスを通じて社会貢献を行います。そうする事で、その存続や発展が見込めます。

 「個人と組織」の関係を見てみると、個人(社員)は組織に対し働く事で自己実現をはかるのに対し、組織は個人にその機会と対価・地位を与えます。

 「マネジメント」は、この社会と個人が作用した「組織」に対し、成果を挙げさせて機能させるという役割を持つ位置づけとなります。

 

マネージャーとリーダー

 組織におけるマネージャーとリーダーの役割は大きく異なります。

 リーダーは組織の先頭に立って大きなプロジェクトを動かし、マネージャーは目標達成のために組織を管理する役割を果たします。

 マネージャーという語は、本来「経営管理者」と訳されるべきものです。しかし、このように表現すると、どうしても企業のトップ・マネジメントのニュアンスが強くなります。

 マネジメントの定義を前提にすると、マネージャーの意味は全く異なるものになります。「マネジメントを実行する人」、そのような人すべてを マネージャーと呼びます。

 マネジメントを実行するとはどういうことなのでしょうか。

 マネジメントとは、組織をして成果を上げさせることです。「マネジメントを実行する」とは、組織が上げるべき成果に責任を持つことに他なりません。したがって、組織の成果に責任を持つ人、これがマネージャーということになります。

 仮に、部課の長、グループの長に就いているとしたならば、部課やグループが上げるべき成果に責任を持っているはずです。また、部下がいなくても、組織の成果に対して何らかの責任を持っているはずです。

 このように、組織が上げるべき成果の一部にでも責任を持つ人ならば、皆マネジャー、すなわち経営管理者の一人なのです。

 

マネージャーに必要な5つの基本能力

  (『マネジメント 基本と原則』より)

1 目標を設定する能力

 マネジメントは、目標に対して、深く広く向き合い、具体的かつ適切に設定する能力が求められます。目標をきちんと設定するには、目標とは一体どう在るべきかを知らなければりません。『マネジメント 基本と原則』では、目標について以下のように述べられています。

 目標には、はじめからチームとしての成果を組み込んでおかなければならない。それらの目標は、常に組織全体の目標から引き出したものでなければならない。組み立てラインの職長さえ、企業全体の目標と製造部門の目標に基づいた目標を必要とする。

 組織としての成果を軸に、多様な視点で適切な目標を設定する能力が必要だということです。

 ドラッカーの言うマネジメント理論では、以下のような分類がされています。

①短期的目標

 短期的目標は、1週間から1ヵ月のスパンで達成する目標のことです。

 短期的目標の期間は、長期目標のスパンの長さに準じて変動していきます。

②長期的目標

 長期的目標は、標準として2~3年のスパンで達成する目標のことです。

 本人の環境や境遇、立場といった条件の関わり方で、その長さは変動していきます。

③無形の目標

 無形の目標とは、有形の目標達成をするのに欠かせない、あるいは身に付けなければならないことです。具体的には、才能や能力、習慣などのことを指します。

④部下の仕事ぶりと態度における目標

 部下がどのような目標を持ち、達成するつもりなのかを個々に確かめ把握しておくことも、マネージャーに求められる能力です。また、その目標に向けている途中で起こり得る悩みや問題への対応にも注力していくことになります。

⑤社会に対する責任についての目標

2 組織化する能力

 マネジメントには、人を束ね、組織として機能させる力が求められます。

 組織化する能力は、個の集合から全体を創造する力です。ドラッカーは、『マネジメント 基本と原則』の中で、「マネージャーは、自らの資源、特に人的資源のあらゆる強みを発揮させるとともに、あらゆる弱みを消さなければならない、これこそ真の全体を創造する唯一の方法である」と述べています。

 資源が何かを常に考え、資源を強い力に変え、弱みを削ぎ落しながら、全体の組織を昇華させる力がマネジメントには必要であるという考え方です。

3 コミュニケーション能力

 マネジメントには、組織の成果を上げるための高いコミュニケーション能力が求められます。ドラッカーは、コミュニケーションについて、「コミュニケーションとは、知覚であり、期待であり、欲求であり、情報法ではない」と定義しています。

 受け手の知覚能力を考慮しなければ、コミュニケーションは成立しません。コミュニケーションは、期待しているものは受け入れられ、期待されていないものは避けられます。相手の期待を知ることで、期待を利用することができると考えているのです。

 コミュニケーションは、相手の欲求との合致に左右され、また、コミュニケーション力次第で、欲求を変えることもできます。そして、コミュニケーションは、単に情報を与えることではなく、きちんと知覚させることが大事であるという考え方です。

 「相手の期待や欲求を理解し、利用しながら、知覚レベルに落とし込むコミュニケーションを行う力がマネジメントに求められる」という考え方と言えるでしょう。 

4 評価測定能力

 マネジメントには、組織を構成する基礎単位となっている人を評価し、測定する能力が求められます。ドラッカーは、「人には、それぞれの理想、目的、欲求、ニーズがある。いかなる組織であっても、メンバーの欲求やニーズを満たさなければならない。この個人の欲求を満たすものこそ、賞や罰であり、各種の奨励策、抑止策である」と述べています。組織に属する人の欲求やニーズをきちんと評価し、評価に対する具体策を管理することで、組織で働く人は自らの位置付けや役割を理解していくと述べているのです。

5 問題解決能力

 マネジメントには、問題を見極め、適切に対処する力が求められます。問題の対処の仕方について、ドラッカーの『マネジメント 基本と原則』の中では、「あらゆる決定と行動において、ただちに必要されているものと遠い未来に必要とされているものを調和させていくことである」と定義されています。問題とは、ネガティブな壁ではなく、組織が成果を出すために考えられるあらゆる可能性です。

 

マネージャーの資質である「真摯さ」

 ドラッカーは、『マネジメント 基本と原則』の中で以下の様に述べています。

 「真摯さという言葉を繰り返しこの書籍でドラッカーは用いていますが、部下の仕事ぶりを結果で評価し、成長する環境に注力するマネージャーの姿が浮かびます。

 マネージャーは、人という特殊な資源とともに仕事をする。人は、ともに働く者に特別の資質を要求する。

 人を管理する能力、議長役や面接の能力を学ぶことはできる。管理体制、昇進制度、報奨制度を通じて人材開発に有効な方策を講ずることもできる。だが、それだけでは十分ではない。根本的な資質が必要である。真摯さである。最近は、愛想よくすること、人を助けること、人づきあいをよくすることが、マネージャーの資質として重視されている。そのようなことで十分なはずがない。」

 事実、うまくいっている組織には、必ず一人は、手をとって助けもせず、人づきあいもよくないボスがいる。この種のボスは、とっつきにくく気難しく、わがままなくせに、しばしばしばしば誰よりも多くの人を育てる。好かれている者よりも尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも知的な能力を評価したりはしない。

 このような資質を欠く者は、いかに愛想がよく、助けになり、人づきあいがよかろうと、またいかに有能であって聡明であろうと危険である。そのような者は、マネージャーとしても、紳士としても失格である。  真摯さとは、部下のモチベーションを高めたり好感を得ることではなく、部下の仕事ぶりを厳しく成果で評価することである、とドラッカーは伝えたかったのかも知れません。

 部下を成果で評価することは大事です。プロセスを評価してしまうと、部下は良いプロセスを見せることに集中してしまい、自らの成果を出すことを疎かにしてしまいます。  部下のプロセスには口出しをせずに、成果を評価し続けることが、マネジメントでは重要となってきます。

 ドラッカーは、スキルや能力、愛想の良さよりも、「真摯さ」がマネージャーの資質として重要であると述べています。まじめ、熱心、誠実などを意味する言葉です。

 マネージャーには、必ず成果をあげるという強い意思を持って仕事に取り組み、成果をあげるために何をするべきかを考えて判断することが求められます。

 部下を評価するときも、プロセスではなく成果を評価することが大切です。プロセスを評価してしまうと、部下は良いプロセスを見せることを重視するようになり、結果を真剣に追い求めなくなってしまう恐れがあります。

 

マネージャーに求められる課題

 組織と人材のマネジメントに関する課題は、人事部門だけの問題ではないということをマネージャーは認識しなければなりません。

 人事システムを設計して構築していく権限は人事部門にありますが、設計・構築されたシステムを実際に機能させていくのは現場で働く組織メンバーの一人ひとりであり、その中でもマネージャーは特に大きな役割を担っているのです。

 しかし、この点に関してビジネスの現場でどの程度理解されているでしょうか。

 マネージャーは担当業務についての結果責任を負わされているため、その業務をどのように進めるかについては特に力を注ぎます。特定の業務に優れたマネージャーであればあるほど、自らが進んで業務に取り組むでしょう。

 しかし、このようなマネージャーは、部下のことを仕事のための道具・機能としてしかみなしていないことがあります。

 部下の能力や経験値が不足していることから、部下に対して自分の指示通りに動くことだけを期待しがちになります。

 しかし、このようなやり方では、そのマネージャー自身が持っている能力の範囲内での成果しか期待することはできません。

 そのような制限を超えた成果をあげていくためには、部下のひとりひとりが持つ能力を最大限に活用していくようなマネジメントが求められるのです。

 マネージャー自身の持つ能力の範囲内でしか成長できないようでは、組織として協働する意味はありませんし、組織的な成長も期待できません。

 現場でマネジメントを行うマネージャーにとっては、部下であるメンバーを人間として独立した存在であることを認め、そのうえで仕事を進めていくことが必要です。

 部下を独立した存在として認めるためにも、マネージャーは指示や命令を下して部下を動かそうとする際には、部下の存在を尊重しなければなりません。

 上司と部下という関係においては、部下は上司の命令を受けて行動することが多いため、受け身の存在として考えられがちです。

 上司と部下の間には、業務に対する能力や経験の点で部下の方が劣っているかもしれませんが、それを前提としてコミュニケーションを行っていては、部下の自尊心を傷つけてしまう可能性があります。

 そして、自尊心を傷つけられた部下は仕事に対するやる気を失ってしまい、指示待ち型での行動しかできなくなることもあります。

 そのような状況を避けるためには、マネージャーには部下のことを自律した一人の人間としてとらえることが求められます。

 部下のことを自律した存在として認めるためには、部下の考え方を尊重することや相互に納得がいくまでコミュニケーションを図ることが重要です。

 また、上司であっても一人の人間である以上はその認知能力に限界があります。

 その認知能力の限界を補うためには、部下の一人ひとりがビジネスの主役となるように工夫していく必要があります。

 そのためには、部下が自律した状態を作り出すように日常的に接することが求められます。

 上司に対して依存心の強い部下は、一見上司の指示に従って行動しているように見えますが、彼ら自身の考えや判断に自分自身の価値観が反映されていなければ、部下の成長にはつながりません。

 部下が自ら考えて行動を起こしていくような状況を作り出すためには、上司は部下との間に健全な関係を維持しなければならないのです。

 

マネージャーに求められる心構え

 マネージャーの心構えとしては、次の4点が挙げられます

信頼を獲得する

 組織の目標がいかに経済的合理性にかなったものであっても、また、いかに上司が打ち出した方針が優れているとしても、部下がそれに従わないことがあります。

 組織の目標や上司の打ち出す方針がいかに合理性を欠いたとしても、部下はその指示に従うということもあります。

 このような違いが発生するのは、結局は部下が上司のことを信頼しているか否かによるのではないかと考えられます。

 組織と人材のマネジメントの成功は、最終的に上司が部下から信頼されているかどうかにかかってきます。

 このような信頼関係を築くために、何が求められるのでしょうか。マネージャーとしての課題に取り組むこと、そして、ビジネス・スキルをより一層向上させることや、人間的な魅力を高めることです。そして、日頃から部下と密にコミュニケーションを図ることです。

 上司であるからと言うだけで、部下が上司のことを信頼するとは限りませんが、業務において困難に直面した時に、様々な角度からアドバイスをくれる人やサポートしてくれる人に対しては、感謝の気持ちを持ち、良い感情を抱くでしょう。

 マネージャーにとって重要なことは、困難な状況を打開するためのビジネス・スキルを身につけるだけでなく、同時に人間的魅力を高めて、部下との間で健全な社会的関係を築き、信頼関係を築きあげることです。

 マネージャーとはその地位に価値があるのではなく、部下のマネジメントも含めた仕事全般に対する責任を負うことに価値があるのです。

 

部下を尊重する

 部下との間で信頼関係を築くための第一のポイントとして、部下を一人の人間として尊重することが求められます。

 部下に自発性や自立性を発揮させたいと考えるのならば、できる限り部下自身の考え方を尊重し、行動させることが重要です。

 そのために、部下が誤った方向へ進みそうになった場合には、正しい方向に導いてあげなければなりません。

 その際に、お互いに納得するまで話し合うことが必要ですが、頭越しに部下のことを否定してはいけません。

 無論、部下の自発性や自立性に任せるということは、部下のことを甘やかすとか好き勝手させるということではありません。

 ここでの重要なポイントは、長期的に部下を育成していくという視点をマネージャーが持つことです。

 短期的な業績を優先して目の前の仕事を処理していくためには、上司が一方的に細かく指示を出して部下を動かしたほうがよい結果につながるでしょう。

 しかし、それではいつまでも上司が部下に対して指示を出し続けなければならず、部下の潜在的な能力を引き出すことはできず、常に指示待ちの部下が出来上がるだけです。

 また、部下が育たないことから、企業組織内の世代交代がうまくいかずに、長期的な企業の存続が危機に陥ってしまうこともあり得ます。

 人は、相手から承認されたり認められたと感じたときに、モチベーションが上がるものです。

 部下の存在を承認することによって、メンバーが自主性や自発性を発揮しやすい風土を作り出していくことが重要です。

 

部下を受け入れる

 部下との間で良好な社会的関係を深めていくためには、部下を受け入れるという態度を示すことが求められます。

 部下のことを受け入れるためには、相手の話をよく「聴く」ということが重要です。

 ここでの「聴く」は、ただ単に相手の話している内容を聞いて言葉の意味を文法的、語彙的に理解するというだけでなく、その話している内容について共通の認識をもつことが求められているのです。

 社会言語学の分野では、言葉には「記号としての言葉」「イメージとしての言葉」の2種類があると言われています。

 「記号としての言葉」は、文法や語彙を駆使して形式的に扱うものを指します。

 一方、「イメージとしての言葉」は、心情や感情を表現するものであり、必ずしも論理的であるとは限りません。例えば、日常的な会話の中で、「話している内容はよく分かったが、結局何が言いたいのかよくわからない」という状況や、「話している内容はよく分からないが、その熱意はよく伝わった」という状況に出くわすことがあります。

 前者の状況においては、記号としての言葉が持つ論理性が良く伝わっているが、その発言者の意図するところが相手に通じていないということです。

 後者の状況においては、その発言者の言葉は論理的に間違っている部分があったとしても、その想いだけは相手に伝わっているということです。

 相手を受け入れるために話を聴く時には、相手の話における「イメージとしての言葉」に含まれる思いや感情を汲み取って具体化していくことが重要なのです。

 こうして、部下との会話の内容に関して共通の認識を醸成していくことによって、部下との社会関係を強化していくのです。

 近年注目されている「傾聴」「ファシリテーション」「コーチング」等のスキルの中で重要な要素となっているのが、これらのイメージとしての言葉を大切にし、言葉を具体化・記号化していくプロセスです。

 上司が、ただその場で付き合って話を聞くというだけではなく、部下の存在を肯定的に認めた上で、相手に興味を持って話を聴こうとすることにより、そういった態度や反応が『会話をすることの満足感や自分が理解されて受け容れられている感覚』を部下の中に生み出すようになります。

 上司が、これらの傾聴やファシリテーション等のスキルを駆使して部下のことを受け入れるという態度を表すことにより、部下の方でも、上司は自分自身のことを受け入れてくれるという確信を持つことができるようになります。

 部下の中で、自分が相手から受け容れられていて好意的・共感的に話を聴いてもらえているという実感があれば、『好意の返報性』を無意識的に発揮し、部下は積極的に自らの考えを述べ、自発的に行動に移していくようになるでしょう。

 

部下の感情に注目する

 部下を尊重することや部下を受け入れることを通じて、最終的には部下の感情に影響を与え、上司との社会的関係を好ましいものであると部下は感じるようになります。
 もし、上司に対して悪感情をもたれると、部下との間の社会的関係だけでなく仕事の業績に対しても悪影響が出ることが考えられます。

 しかも、感情に関する問題は理性的に話しあいをしても解決するようなものではないため、より一層慎重な対応が求められます。

 そのため、上司は部下が感情的にどのような状態にあるのかに対して常に注意を払い、また、上司としてどのような発言が部下の感情面に対して影響を与えるのかをよく考えることが重要です。

 トップ・マネジメントの立場から考えると、企業組織としての数値目標を達成させていくことも重要ですが、マネージャーが部下との間で良好な人間関係を築くために、ビジネス・スキルや人間的魅力を高められるような機会や仕組みを準備していくことが重要となってきます。

 

 いかに良い人事システムや企業組織を作り上げたとしても、それを構成し動かしていくのは人間であり、構成メンバーの持つ能力や経験だけでなく、その時々の感情や情動による影響を受けます。 

 その影響を最小化し、企業組織の目標とする成果をあげていくためには、ビジネス・スキルだけでなく、個々のメンバーの人間的魅力を高めることも重要なのです。

 その点も人事システムの中に意図的に織り込んでいくことも求められるでしょう。

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