意思決定の方法

捨てる力がなければリーダーとして失格

 『未来創造のマネジメント』では経営者のあるべき姿を次のように示している。

「それまで『最も強い武器だ』『最大の成功要因だ』と考えていたものを思い切って捨てない限り、それ以上、発展していけない段階が来るのです。これを、『脱皮』あるいは『イノベーション』といいます。この脱皮をすべきときに、『何を捨てるか』を見極め、それを思い切って捨てる力がなければ、やはり、リーダーとしては失格です」

 だが、同時に、組織のトップの意思決定の難しさについて、次のように語られている。

「意思決定が正しいかどうかは、結果でしか分からないのです。トップの判断が間違った場合は、戦争であろうと、会社であろうと、何であろうと、敗れていきます。つらいことですが、それに耐えて、大きくなっていかなければならないのです」

 

経営者の「意思決定のために必要なもの」

 ①考えられる手を一通り考え、一つひとつ詰める「論理的作業」

 ②生き筋を見極める「インスピレーション・ひらめき」

 ③反対者を「説得する力」

 ④脱皮すべきときに、今までの成功要因を「捨てる力」

 ⑤成果が出るまで、持ち堪える「肚の力」

 

「経営は、大きな意味では、やはり『人類への貢献』なのです。『人類への愛』のためにやっているのですから、そこに悪意や手抜きがあったり、知らず知らずのうちに他の人に害を与えたり、『自分のみ、よかれ』という心があったりしたならば、それは地獄的なものになります」(『経営入門』)

  優れた経営によって企業が潤えば、そこで働く人やその家族が豊かになり、その企業がいい商品やサービスを提供すれば、消費者の生活も豊かになる。さらには、税収も増え、国全体が発展していく。

 優れた経営は多くの人々の幸福を増進することにつながる。大川隆法総裁が経営論を説く理由はこうした点にあるのではないか。

参考

 意思決定の難しさについて、経済学者の清水龍瑩氏がこう指摘しています。

 「『決定力』というのは、不思議な状況で意思決定する力なんです。社長は決断できなければならない。

 絶対間違いのない方策なら、誰でも決断できるんです。しかし、現実はそうではない。やってみなければ分からないほうが多い。方向が三つも四つもあって、どれかを選ばなければならない。もはや理屈で決められない状況。それを決めるのが社長の役割なんです。」

 

 意思決定をする際には以下の9点に注意しなければなりません。

1 課題の種類を知る

 課題には4つの種類があります。

 1つ目は、基本的な課題です。これは原則と手順を通して解決しなければならない種類の、仕事の中で起こることの最も多い課題です。

 例えば、店員の接客に対してのクレームが多いので、その都度クレームをもらった店員に対して指導をしているが、一向にクレームの数は減らないという状況があるとします。その課題に対し、店員に対しての最初の接客教育を徹底させたところ、クレームの数が格段に減り問題が解決したとします。これは、最初の接客教育を徹底させるという原則と手順を通して解決される基本的な課題の一つです。

 2つ目は、当事者にとっては例外的だが、一般的には基本的な課題です。

 例えば、企業合併に関する課題は、その企業にとっては最初で最後の特殊な課題かもしれませんが、世の中的には常日頃行われている基本的、一般的課題です。この課題に対処するには、既に合併経験のある他企業から学べばよいのです。

 3つ目は、真に例外的、特殊な課題です。

 稀に起こる例外的、特殊な課題には個別に対処しなければなりません。しかし、実際には真に例外的なものは極めて少ないのです。

 4つ目は、まだ分からない何か新しい課題の最初の現れです。

 3つ目の課題に出会ったときに、4つ目の課題ではないのかと疑い、慎重に見極めて対処していくことが肝心です。

 何か課題に直面したときに課題の種類を意識して、個別的に対処するべきなのか、原則と手順を通して解決すべきなのかをよく見極める必要があります。

 よくある間違いは、一般的な課題を特殊な課題の連続だと勘違いしてしまうことです。意思決定の成果を上げるには、この点を時間をかけて冷静に対処しなければいけません。

 

2 課題解決の必要条件を明確にする

 意思決定の前提として、以下の3点を明確にしなければなりません。

 「その決定の目的は何か」 「達成すべき最低限の目標は何か」 「満足させるべき必要条件は何か」

 決定が成果を上げる為には、必要条件を満足させなければいけません。  

 この必要条件を明確にする為には、以下の質問に答える必要があります。 

  「この課題を解決する為に最低限必要なことは何か」

 必要条件を簡潔かつ明確にするほど、決定による成果は上がり、達成目的を達成できる可能性が高まります。

 逆に、いかに優れた決定に見えても、必要条件の理解に不備があれば、成果を上げられないことが確実なのです。したがって、必要条件を明らかにしなければならないのと同時に、明らかに必要条件を満たさないような決定を行ってはなりません。

 

3 何が正しいかを考える

 意思決定においては何が正しいかを考えなければなりません。誰が正しいか、何が受け入れやすいかという観点からスタートしてはなりません。

 いずれは妥協が必要な場面が訪れるので、満たすべき必要条件を満足させる上で何が正しいかを知らなければ、正しい妥協と間違った妥協を見分けることができなくなってしまいます。

 ピーター・ドラッカー曰く、妥協には二種類あります。

 一つは「半切れのパンでも、ないよりはまし」という諺に表されるような半分は必要条件を満たすものです。半切れのパンであろうが、それは実際に食べられる食用のパンであることに変わりはありません。

 もう一つは、ソロモン王の裁きの「半分の赤ん坊は、いないより悪い」という認識に基づく、必要条件を全く満たさないものです。半分の赤ん坊は、命あるものではなく、二つに分けられた赤ん坊の死骸です。

 妥協をする場合には、この二つを見極めなければなりません。

 

4 行動を決定のプロセスに組み込む

 組織内の決定事項では、行動への取り組みがその中に組み込まれていないことが多々あります。 決定において最も時間のかかる部分は、成果を上げるべく決定を行動に移す段階です。

 決定は行動に移されなければ意味がありません。 したがって、決定は最初の段階から行動への取り組みをその中に組み込んでおかなければ、成果を上げることは難しいのです。

 決定の実行が具体的な手順として誰か特定の人の仕事と責任になるまでは、いかなる意思決定も行われていないものと考えなければなりません。

 長い時間会議をして、ある仕事の方針は決まったが、誰の担当にするかは後ほど決めようと言ったまま、結局その決定が実行されないということがあります。

 社長が年始の挨拶で新たな経営方針を打ち出し皆の前で発表したとしても、その担当者を明示しなかったがために、今年も結局去年と何も変わらないということがあります。

 決定というものは、その場で誰の責任においてどういう手順で実行されるかまで決めなければ、結局は形骸化し意味のないものとなってしまいます。

 決定を行動に移すには以下の4点を問う必要があります。

(1) 誰がこの意思決定を知らなければならないか

(2) どのような行動が必要か

(3) 誰が行動をとるか

(4) その行動はいかなるものであるべきか

 (1)と(4)が忘れられることがよくあるので注意しなければなりません。 意思決定を実施に移すための行動は、その行動をとるべき人たちの能力に合ったものでなければなりません。自分たちには当たり前のようにできると考えていたものでも、実際に行動する人たちにとって、あまりに難しいものであっては実行されないからです。

 決定を実行に移し成果を上げるには、評価の基準や仕事の水準、動機などを、現状からその決定に見合ったものへ変更しなければなりません。

 

5 フィードバックの仕組みを作る

 意思決定は、なるべく正しいものになるべく慎重に行わなければなりません。

 しかし、意思決定を行うのは人間です。人間は必ず間違いを犯します。また、一度行った意思決定がそのときには正しいものでも、時間の流れによって現実に則さなくなってくることもあります。したがって、決定を現実に照らして継続的に検証していくために、決定そのものの中にフィードバックを講じておかなければなりません。

 現代では、ITの普及により、意思決定者が現場から離れていることが多く、ますますこのフィードバックが重要になってきています。意思決定を行った人間が自ら出かけ確認するというフィードバックの仕組みを作ることは、単純で知恵のない方法だと思うかもしれません。しかし、実際には唯一ではないにしても最善の方法なのです。

 

5 評価測定の為の基準を見出す

 意思決定というのは判断をすると同義です。いくつかの選択肢からの選択です。

 しかし、その選択肢が良いものと悪いものからの選択であることはほとんどありません。そのほとんどは、良さそうなもの同士の中からの選択です。または、悪くないもの同士の中からの選択です。

 意思決定については、よく事実を探し検討するように言われます。しかし、成果をあげる人は、事実からはスタートできないことを知っています。

 事実とは、それを見る者によって、またはその側面によって変わってしまいます。同じ事象を見ても、見る人によって違った見方ができます。

 まず、事実ではなく、意見からスタートしなければなりません。正しい意思決定は、共通の理解と対立する意見、競合する選択肢をめぐる検討から生まれます。したがって、はじめに意見を持つことを奨励しなければなりません。そして、意見を表明した後には、事実による検証をしなければなりません。

 そして、意見からスタートした選択肢の中からどれを選択するのか、それを何故選択するのかという理由を明らかにしなければなりません。

 

6 選択肢の評価測定の基準を見出す

 新たな決定を行う場合には、それまでの評価測定の基準は捨てなくてはなりません。 評価測定の基準を見出す最善の方法は、現実からフィードバックを得ることです。 

 評価測定の為の適切な基準を見出すことは統計上の問題ではありません。判断を行うにはいくつかの選択肢が必要であり、それらを検討することによって正しい洞察が得られるのです。したがって、評価測定の基準についてもいくつかの選択肢が必要です。

 

7 満場一致に注意する

 意思決定を行う際、多くの場合意見の一致を試みます。 会議でも満場一致において決定を行うことが多々あると思います。しかし、今日私たちが直面する課題は、満場一致で決められるものではありません。相反する意見の衝突、異なる視点との対話、異なる判断があって、初めて良い決定が行えるのです。したがって、意見の不一致が存在しない場合は、決定を行うべきではないのです。 

 意見の不一致は3つの理由から必要です。

 第一に、組織の囚人になることを防ぐからです。意思決定を行う際には多くの人の思惑がからみます。意識している・していないに関わらず、多くの人が自らに都合の良い意見を述べます。また、恣意的に自分の利益の為に決定を誘導しようとする人もいるかもしれません。そのような特別な要請や意図から脱却する唯一の方法が、十分に検討され事実によって裏付けられた反対意見なのです。

 第二に、選択肢を与えるからです。

 決定には常にリスクが伴います。最初から間違っていることもあれば、状況の変化により有効でなくなることもあります。決定が有効に働かなくなったときに、十分に検討され理解された次善の策としての他の選択肢があれば、途方に暮れるというようなこともなくなります。

 第三に、想像力を刺激するからです。

 不確実な問題においては、ときに創造的な答えが必要です。しかし、想像力は刺激しなければ出てきません。

 一つの意見を検討しているだけで画期的なアイディアは生まれないのです。 その刺激となるものが論理づけられ検討し尽くされ、裏づけられている反対意見なのです。

 一つの行動だけが、正しく他の行動は全て間違っているという仮定からスタートしてはいけません。自分は正しく彼は間違っているという仮定から入ってもいけません。

 明らかに勉強不足な人や不真面目な人もいることは確かです。しかし、明白でわかりきったことに反対する人は、バカか悪人に違いないと思ってはいけないのです。反証がないかぎりは、反対する人も知的で公正であると仮定しなければなりません。したがって、明らかに間違った結論に達している人は、自分とは違う現実を見て、違う問題に気づいているのだと考えるべきです。

 誰が正しく誰が間違っているかは問題ではないのです。 何よりも、問題の理解に関心をもつことが、成果をあげるうえでは大切なのです。

 多くの人が、無意識のうちに、自分の意見が唯一正しく、相手の意見は間違っているという前提で話を進めてしまっています。正しい意思決定を行おうとするならば、選択肢を十分に検討するための手段として、反対意見が出るよう意識的に取り組まなければなりません。

 

8 決定は本当に必要か自問する

 意思決定も手術と同じです。何もしなくても問題は起こらないという状況はあります。 何もしないと何が起こるかという問いに対して、答えが何も起こらないという場合には、状況が気になっても何も手をつけてはなりません。何もしないと状況が悪化する場合には、行動しなければなりませんし、急いで行動しなければチャンスが去ってしまうという場合も同じです。

 しかし、ほとんどの場合、何もしなくても上手くいくわけでもないし、何かしないと取り返しがつかなくなるわけではないという状況です。このような場合、行動した場合としなかった場合の犠牲とリスクを比較しなければいけません。

 その指針は大きく2つあります。

 第一に、得るものが犠牲やリスクを大幅に上回るのならば行動しなければいけません。

 第二に、行動するかしないかいずれかにしなければいけません。

 二股をかけたり両者の間をとろうとしたりしてはいけません。

 半分の行動こそ常に誤りであり、必要条件を満たさない行動なのです。

 

9 勇気を持って決断する

 以上のことを全て入念に検討すれば決定の準備は整ったことになります。 しかし、多くの人がここまできて決定を下すことができません。

 決定には判断と同じくらい勇気が要ります。 良薬は口に苦しという諺がありますが、成果をあげる決断も苦い場合が多い。しかし、「もう

 一度検討し直そう」という声に耳を傾けてはなりません。これまで多くの時間をかけて検討してきたことを蒸し返してはならないのです。

 再検討する場合には、「再検討したら何か新しいことが出てくると信じられる理由は何か」を問うことです。

 もし、その答えがノーであれば、再検討せず決断を下さなければなりません。

 自らの決断力のなさのために、周りの人の貴重な時間を奪ってはいけません。自ら決断を下す勇気を持たなければならないのです。

 今日、意思決定は少数のトップだけが行うべきものではありません。組織で働くほとんどあらゆる知識労働者が なんらかの方法で意思決定を行っています。あるいは、少なくとも意思決定のプロセスにおいて積極的な役割を果たさなければならなくなっています。現代に働く知識労働者にとって、意思決定をする能力は まさに成果を上げる能力そのものなのです。

 

 インターネット、ビジネスの教科書や経営学のプレゼンテーションではさまざまな意思決定のフレームワークが取り上げられていますが、実務上は以下の7つのステップがよく使われています。

1 決定する対象を特定する

 意思決定を行うには、まず解決したい問題や答えがほしい問いを特定し、意思決定を明確に定義します。解決する問題を誤って特定したり、あまりに広範囲に対象を定めてしまうと、意思決定プロセスをスムーズに始めることができなくなります。

 決定内容から具体的な目標を達成したい場合は、プロセスの完了時に達成の有無が明確に分かるよう、タイムリーで測定可能な目標とするようにしましょう。

2 関連情報を収集する

 決定すべき内容を特定したら、選択に必要な情報を収集します。社内で評価を行い、関連分野で組織として成功した点と失敗した点を洗い出し、さらに研究、市場調査や有料コンサルタントからの評価など、外部のソースからも集めましょう。

 ただ、情報を集めすぎて身動きが取れなくなることもありますので注意が必要です。役立ちそうな情報や統計がプロセスを複雑にするだけということもままあります。

3 代案を特定する

 関連情報が出揃ったら、問題の解決策として考えられるものを特定していきます。通常、目標を達成するには、いくつかの方法があります。例えば、ソーシャルメディアでのエンゲージメント増加を目指すなら、有料ソーシャル広告を使う、オーガニックソーシャルメディア戦略を変更する、これらを組み合わせるなどの選択肢があるはずです。

4 エビデンスを検討する

 複数の案を特定したら、これらをエビデンスと照らし合わせて検討していきます。対象分野で企業がこれまでに行ってきた施策を検討し、自社の成功と失敗についても厳しく見ていきます。それぞれの案について考えうるデメリットを特定し、メリットと比較して検討しましょう。

5 選択肢の中から選ぶ

 意思決定プロセスの中で実際に決定を行うのがこのステップとなります。これまでの過程ですべき決定を明確に特定し、関連情報を全て収集し、考えうる選択肢を洗い出したので、選択の準備は万端のはずです。

6 行動に移す

 意思決定を行ったら、いよいよ実行に移ります。決定内容を具体的で達成可能なものにする計画を策定します。決定に関するプロジェクト計画を作成し、完成したら各チームがそれぞれのタスクに取り掛かります。

7 意思決定を見直す

 意思決定プロセスの最初で決めた期間が経過した後に、行った意思決定を正直に振り返ってみましょう。問題は解決したか、質問への回答にはなったか、目標は達成できたかを見直します。

 もしこれらが達成できているなら、今後の参考のため、上手くいった点を書き出しておきます。達成できていない場合は、意思決定プロセスに再度取り組む際に同じミスを繰り返さないよう、問題があった点を振り返っておきます。

 

意思決定の方式

 企業経営は、意思決定の方式によって、「トップダウン経営」と「ボトムアップ経営」に分かれます。

 「トップダウン経営」とは、経営者や経営幹部が意思決定した内容に基づいて、現場従業員が行動することを徹底する経営となります。

 トップダウン経営がうまく機能するためには、経営層と現場従業員の双方で信頼関係が成り立ち、意思疎通がスムーズに行えることが条件となります。その場合、経営層が積極的に意思決定し、意思をストレートに伝えることができ、非常に有効と言えます。示された方向に従って人的リソースを集約して活用することができるので、迅速に成果を刈り取ることが可能となります。

 一方、経営層と現場従業員の信頼関係がない中で、経営層の意思が強ければ強いほど、従業員は指示に従わなくなります。現場の意見を無視して一方的に指示を出し続けていれば、トップダウン経営は機能せず、反発を受けることになります。

 「ボトムアップ経営」とは、現場従業員からの提案を基に意思決定していく経営となります。

 経営者は事業全体を俯瞰して意思決定を行いますが、現場の従業員にしかわからない肌感覚的なこともあります。現場で感じ取る課題や改善点を拾い上げ、最終的に経営層が方向性を定めることができれば、組織的に底から持ち上げる力となり、成果を挙げられます。

 一方、詳細な改善点を挙げ、それらを実行する裁量権を経営層に付与した場合でも、それらのエネルギーを活用する方向性が定まらなければ、従業員のやる気がバラバラになってしまいます。

 これら2つの意思決定方式は、優劣のあるものではなく、それぞれのメリットとデメリットを鑑みた上で、状況に応じて組み合わせることが重要です。

 トップダウン経営とボトムアップ経営のどちらを採用するにしても、経営層と従業員の相互理解がないと組織は混乱し、意思決定機能は働かなくなります。

 トップダウン経営では、経営者の言動が合理的でなければ現場従業員は従いません。そのため、経営層には一定のカリスマ性が求められます。

 ボトムアップ経営は、会社の明確なビジョンを経営層が打ち出すことと、コミュニケーションが強く求められます。

 これらが欠落してると、現場の従業員たちは自社が目指している方向性がわからず、何に対して精進していくべきかわからなくなります。

 

答えがわからない苦しみのなかで意思決定するのがリーダー

 幸福の科学大川隆法総裁は、『未来創造のマネジメント』で以下のように説かれました。

「リーダーになる人の意思決定というのは、非常に難しい問題を含んでいます。

 あらかじめ、意思決定の仕方を知識として学んでいれば、それが役に立つこともありますが、現実には、自分がそういう立場に立ち、さまざまな試練のなかで、苦しみながら意思決定をしていかなければ、本当は腕が上がっていかないのです。

 大抵の場合は、意思決定まで行かずに、判断のレベルで止まっていると思いますが、もう一段、判断が難しくなってきたり、重い責任がかかってきたりして、どうしたらよいかが誰にもわからないような状況になると、「リーダーの意思決定」が強く打ち出される必要があります。

 どうしたらよいかが分かるのであれば、リーダーの意思決定は必要ありません。わからないから苦しいのです。そして、分からないから、そのなかで、「何を選び取り、どの方向を示すか」ということが、リーダーの仕事になるわけです。

 意思決定は難しいことですが、「難しい」ということを知っているだけでも、十分な勉強になるのではないかと思います。」(P-195~196)

 新しいことを行うとき、多数決をとると判断を間違えることが多く、みなが反対するときこそ、成功する可能性が極めて高い。

 しかし、大きな意思決定をするときには、単なる思いつきや勘に頼るのではなく、一つひとつの案件について、やれるだけのことはやって、じっくりと考えを詰めた上で判断しなければならない。

 その次に来るのが、インスピレーションやひらめきである。

 総裁は、『未来創造のマネジメント』で以下のように説かれました。

「新しいことを行うときというのは、たいていの場合、多数決は利きません。多数決をとると、普通、判断を間違えます。
 逆に、みなが反対するときは、成功する可能性が極めて高いことも事実です。なぜなら、それは、誰も考えていない手だからです。誰も考えていない手であるからこそ、ほかの人には「なぜ成功するのか」が分からず、まねのできない部分があるため、意外に成功することもあるのです。
 このような言い方をすると、「では、すべて、勘だけでやっているのか」と思うかもしれませんが、そういうことはありません。大きな意思決定をするときには、単なる思いつきや勘に頼っては駄目なのです。やはり、一つひとつの案件について、じっくりと考え方を詰めていかなければいけません。将棋において、何十手、何百手と読むのと同じように、「こういう手を打ったら、どうなるか」ということを、論理的に、詰めていく必要があるのです。
 「資金的にどうなるか。人材的にどうなるか。時間的にどうなるか」、あるいは「トップの持っている能力から見て、どうなるか」ということについて、幾つかの手を緻密に読んでいくのです。
 そして、考えられるだけ考え、しばらく思案した上で、「やはり、このやり方をとる」という判断をするわけです。
 こうしたことをせずに、単なる思いつきだけでやったら、危険が大きすぎるし、失敗することも多いと思います。
 そのときに、インスピレーションが湧いてくると思いますが、最初から、インスピレーションに頼っては駄目です。まずは、人間として、やれるだけのことはやらなければなりません。
 要するに、「人事を尽くして天命を待つ」ではありませんが、仕事レベルにおいて、集められるだけの材料を集め、考えられるだけのことを考えた上で、「やるか、やらないか」「イエスか、ノーか」ということを判断しなければならないのです。
 また、このとき、民主主義的に判断しようとすると、小田原評定になり、なかなか物事が進みません。今までやっていないことをやるときには、たいてい、トップの最終決断が必要になります。これは、会社であろうと、どこであろうと同じです。初めてのプロジェクトを組んだり、初めての方針を出したりするときは、みな、すぐには信じることができず、すごく抵抗するので、そこを決断するためには非常に力が要るのです。
 そして、その次には、やはり、「ひらめき」がなければ駄目です。要するに、「どちらのほうが、自分たちの会社や組織が生き残り、発展していける『生き筋』なのか」というインスピレーションやひらめきに、命を懸けるつもりでなければいけないのです。
 これは、「事前に、どれだけ真剣に情報を集め、論理的な考え方で詰めたか」ということにかかっています。脂汗を流して詰めれば詰めるほど、そのあとのひらめきが真実味を帯びてきて、いいかげんなものにはならないのです。」
(217~223ページ)

 

「タイムベース・マネジメント」は、意思決定の速度を上げるということでもある。

 大きな組織になると、階層が増えるので、どうしても意思決定が遅くなり、情報が届くのも遅くなるので、どうやってアクセスタイムを短くするかをみな苦労している。

 さらには、なるべく現場に近いところに判断させ、そもそも決裁しなくてもよいようにする方向に時代は流れてきている。

  大川隆法総裁は、『社長学入門』で以下のように説かれました。

「それから、この「タイムベース・マネジメント」は、「意思決定の速度を上げる」ということでもあります。
 大きな組織になると、階層が増えるので、どうしても意思決定が遅くなりますし、情報が届くのも遅くなります。これをどうやって崩し、アクセスタイムを短くするかということで、現代の企業はみな苦労しているのです。大きな組織では、アクセスタイムを短くするために、電話、ファックスなど、文明の利器をいろいろと使っているわけです。
 釈迦教団において、釈迦は四十五年間、何をしていたかというと、私がインドを視察して感じたかぎりでは、「大部分の時間は歩いていたのだ」ということが見えるのです。教団の拠点と拠点の間は、二百キロも三百キロも距離があるので、一年のうち、ほとんどは、移動のために歩いていたわけです。「雨安居で、雨宿りをし、“夏休み”を取っていたとき以外は、ほとんど歩いていた」ということです。
 そういう意味では、やはり、生産性は低かったと言わざるをえないのです。
 現代では、その歩いていた部分が、活字になったり、CDやDVDになったり、衛星中継になったりしているので、生産性は上がっているわけです。
 このように、昔に比べて、現代では、人生の長さは同じであっても、使える時間が増えています。無駄なものを排除し、アクセスタイムを短くすることによって、時間を生み出すことができるようになっているのです。
 したがって、新しい企業、ベンチャー企業をはじめとして、現在、急発展中の企業は、どこも、「タイムベース・マネジメント」を使っており、「どうやって速度を上げるか」ということを考えています。
 さらには、「そもそも、決裁しなくてもよいようにする」という方向に時代は流れてきています。「判子を二十個も三十個も押すようなやり方は、もう時代遅れである。なるべく現場に近いところに判断をさせる」という方向に、流れは来ているのです。」
(36~39ページ)

 

意思決定の正しさは結果でしかわからない

「結局、軍事であろうと、事業経営であろうと、それ以外のいろいろな活動であろうと、負けるときはトップの意思決定のところに原因があります。これに失敗したら、やはり負けていくのです。

 意思決定の時点では、それが正しいかどうかは分かりません。その後をずっと追っていき、出てきた結果や成果を見て、初めてその意思決定が正しかったかどうかが分かるのです。

 意思決定というのは、本当に難しく、重要な仕事です。

 しかし、単なる直観に頼るのではなく、直前に人間としてやるべきことはやらなければいけません。詰められるだけの手を詰めなくてはならないのです。

 そして、「最後に、意思決定をしない」というのは駄目です。やはり、何らかの意思決定をしなければいけません。「イエスかノーか」「イエスならば、どこまでやるのか」ということを判断しなければならないのです。その間、抵抗や反対等に持ち堪え、成果を出さなければいけません。

 トップの判断が間違った場合は、戦争であろうと、会社であろうと、何であろうと、敗れていきます。つらいことですが、それに耐えて大きくなっていかなければならないのです。」(『未来創造のマネジメント』P-251~253)

 

システムシンキング

 どんな企業にも多くの課題があります。

 アイデアひとつで解決できるような課題は少なく、さまざまな要素が複雑に絡み合って解決を困難にしているケースが大半でしょう。

 こうした複雑な課題に取り組むために、システムシンキングは非常に有効な思考法です。

 システムシンキングは「課題を根本的に解決する」ことを目的としています。また、矢印によって各要素に「こうすることによって、こうなる」という流れを与え、すべての要素が最終的に「循環する系」としてまとまるという点にシステムシンキングの大きな魅力があります。

 たとえば、「商品の差別化」→「市場シェアの向上」→「売上増」→「スケールメリットによるコスト減」→「開発費の増加」→「商品の差別化」といった、好循環の流れを生むための要素をうまくシステム図に表すことができます。

 ただし、実際の経営課題はもっと複雑で、構成要素が数十あるいはそれ以上になり、それらを循環する系にまとめるためにはかなりの試行錯誤が必要となるかもしれません。

しかし、経営課題を「見える化」して思考を整理するには極めて効率的な方法です。

 

PDCAサイクルを短くする

 意思決定を効果的かつスピーディーにするためには、さまざまなPDCAサイクルの周期を縮めることも非常に重要です。

 計画(plan)→実行(do)→評価(check)→改善(act)の循環であるPDCAサイクルは、周期が短ければ短いほど価値や精度が高くなります。

 たとえば、資金計画を立てる際、年に1回の本決算のデータだけで経営状況を評価し、改善策を考えていたのでは、1年に1回しかPDCAサイクルを回せません。

 上場企業では四半期決算が義務づけられ、実質的には月次決算が必要不可欠となっています。これは、PDCAサイクルを短くすることで、経営上の問題点を素早く発見して対策を立てたり、最新の経営情報を営業戦略に反映して戦略の精度を高めたりすることに大いに役立ちます。

 財務や経理方面では、こうしたPDCAサイクルを短縮するための財務・経理ソフトを導入している企業が数多くみられますが、営業面では、顧客管理・商談の進捗管理などにPDCAが欠かせないにもかかわらず、サイクルを短縮するために役立つCRMツールやSFAツールを導入する企業がまだまだ少ないようです。

 経営者が意思決定に割ける時間は限られているのですから、時間を最大限に活用するために、こうしたツールの導入も考えてみるべきかもしれません。

 

CRMツールの導入メリット

 CRMとは(Customer Relationship Management)の略語であり、「顧客関係管理」です。その名の通り、顧客との関係性を構築・管理するマネージメントシステムです。

 顧客の関係性を構築・管理するシステムとは、顧客の立場から製品・サービスやビジネスモデル、マーケティング、情報を整理することで、顧客にとって絶妙なタイミングで求めているものを提供し、継続的な製品やサービスの利用を促すことを目指すものです。 

 CRMは、1990年代に米国で誕生しました。その後、1998年に総合コンサルティング会社アクセンチュア(当時はアンダーセン・コンサルティング)による著書「CRM-顧客はそこにいる」で広く知られるようになりました。

 CRM導入で得られるメリットは、 顧客情報を一元的に管理可能なことです。従来の営業は、担当者に任せっきりで属人化してしまうのが当たり前でした。しかし、現代のビジネスでは、営業全体が1つのチームとして活動することが求められています。そのため、CRMを導入すれば、登録した顧客情報は瞬時に共有され、アクセスすれば誰でも確認することができます。

 また、顧客の段階に合わせたアプローチが可能になります。BtoB企業が商品やサービスの購入を行う際は、窓口となる担当者だけではなく、複数の社員による検証会議や経営者の承認を得るなど、多くのプロセスを行う必要があります。その際、顧客がどの階段にいるのか把握することは非常に重要です。CRMによって蓄積された成功事例を分析したデータを活用すれば、顧客の状況に合ったアプローチが可能になります。 

 さらに、顧客管理を徹底することで売上予測を立てやすくなるため、長期的な戦略を練りやすくなり、意思決定スピードが早くなるでしょう。 

 加えて、CRMツールは営業部門のみで管理するのではなく、他部門をまたいで共有することで全社一体となって顧客の対応にあたることができるようになります。そして、適切な対応によって顧客満足度が向上するという新たなメリットが生まれます。

 

 

SFAツールの導入メリット

 SFAとは(Sales Force Automation)の略語で、日本では「営業支援システム」と呼ばれるシステムのことです。SFAツールは、営業プロセスの効率化を図るためのICT(Information and Communication Technology)のひとつです。

 SFAツールを導入することで、営業活動全体の生産性向上を実現することができます。具体的には、営業部の社員が各自で持っている顧客情報や営業アプローチ進捗状況をデーターベース化して共有していきます。これにより、営業活動の効率化を図り、売上や利益の向上につなげる役割を果たすことができます。 

 口頭や紙ベースでの報告だけでは、プロセスまで含んだ細かな情報の共有やリアルタイムの更新ができません。しかし、SFAを導入することで日々の営業情報を蓄積し、細かなプロセスを含む多様なデータを効率的に保存できるので、営業活動を可視化して一目で理解しやすいものにすることができます。また、営業担当者の活動を可視化することで、成功事例の再現性を持たせる組織を作り出すひとつのヒントとなるでしょう。 

 さらに、ナレッジやノウハウが共有できて情報資産を有効活用できるため、組織内での営業活動を標準化することができます。現代の営業活動ではどの会社でも情報収集と活用が大きな鍵であるため、「顧客情報」「人脈」「商談事例」などをナレッジとして収集、活用することは重要です。SFAを導入すればそれらすべてを共有できるので、担当者が部署替えや退職したとしても別の担当者にスムーズに引き継ぐことができます。

 

 意志決定を組織に共有・浸透させるスピードにも配慮を経営者の意思決定を効果的かつスピーディーにするためには、

・経営データを重視すること
・必要な経営データを経営者にリアルタイムで集中させること
・ロジカルシンキングにより、課題の本質を抽出してその解決策を見つけること
・あらゆるPDCAサイクルを短縮させること
・CRMツールなどの情報システムの導入も検討すること
・ツールの導入に際しては組織的なしくみづくりも必要であること

などが役立つと考えられます。

 なお、経営データに関しては、経営者だけでなく各部門の部門長、責任者といったキーマンともある程度共有するといいでしょう。そうすることによって「データ・数値の意識づけ」が組織のメンバーに徹底され、トップの意思決定の背景や決定理由などが理解しやすくなり、組織全体の行動がスピーディーかつ高精度になるというメリットも得られるようになります。

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