営業と「孫子の兵法」

 営業活動は、企業にとって最も大切なものである。営業活動なくして企業は成り立たない。従業員全員の生活がかかり、企業の存亡に関わる 命がけの仕事なのである。

 

敵のことも知り、味方のことも知る

 顧客ニーズや競合の動きをつかみ、自社の対応状況をつかんで、日々その修正を行うことはマネジメントそのものである。

 「彼を知る」とは、顧客ニーズや競合の動きなどマーケット情報をつかむことであり、これが企業経営の出発点となります。そして、つかんだ顧客ニーズに対応し、競合の動きに対抗する自社の営業活動状況をつかんでおくことが「己を知る」ということです。さらに、そのマッチングを日々行う仕掛けを構築します。営業マネジメントの基盤を整備することで、当り前のことを当り前に行える営業組織を作ります。

 しっかりとお客さんを知り、自分を知らなければ商品やサービスは売れません。お客さんが安いものを買いたいと思ってやってきているところに、高級ブランドを置いても売れないわけです。

 しかし、お客さんがもともと高級志向の人であれば・・・いつも高島屋などのデパートに通っているセレブな人が相手なのであれば、高級品を惜しげもなく買ってくれるわけです。あなたのお客はどの層になるのか。

 そのうえで、あなた自身がなにを提供するのか。これを知ることができれば「百戦して殆うからず」なわけです。

 どこも同じものを同じようなメッセージで打ち出しているのであれば、逆の方向で打ち出せないか。打ち出せるとしたら、自分の会社の一貫性が一致しているのか。ここをしっかりと問う必要がある。

 自らのお客様の悩みをしっかりと把握できているでしょうか。もし、お客様の悩みを把握できていないのであれば、そこからスタートをするとよいでしょう。お客様の声をお願いすると断られることが多いのですが、アンケートなら答えてくれる。そのような人は顧客の中にたくさんいますので、しっかりとお客が悩んでいることを知りましょう。その上で あなたが価値あるものを提供すれば、物やサービスは売れるわけです。

 経営は競合他社との戦でもあります。相手を知って、お客を知って、自分を知れば、おのずと答えがでてくるものです。経営は、難しく考える前にシンプルに考えてみましょう。それが一番、顧客にも届くのです。

 「戦わずして勝つ」というのは、経営に直して考えるとポジショニングになるでしょう。競合がいないがら空きのところを攻めるということです。現在は、これだけインターネットの時代ですから、逆に言えばアナログの方がよいことも多い。より顧客との信頼関係が築きやすいためです。ライバルがみんなメルマガやLINEを使っているのであれば、紙媒体のチラシをポスティングするのがよいのかもしれません。そんなことを考えていくべきです。

 「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」という言葉は、顧客が本当は何を悩んでいるのかを知り、解決できていない悩みをあなたが提供できる商品やサービスで解決してあげることができると、負けないといっています。そのためには、自分に何が提供できるのか、どこに価値があるのかということを知っていなければなりません。そのようなことを孫子の兵法の名言から学ぶことができます。

 

守りを固めて確実に勝てる戦いをせよ

 どんなに営業成績が良くても、ルールを守らなかったり、マナーが悪すぎるとなかなか信用されない。その為、普段から短所をなくしておくことで、好機が訪れた時、上司や同僚の信頼を勝ち取ることができます。

 売上が上がるかどうか、儲かるかどうかという攻めの局面は、自社だけではどうにもならず、景気に左右されたり、顧客次第であったり、競合との兼ね合いで影響を受けることがあるが、潰れないようにする、赤字にならないように備えるという守りの面は、自社の努力次第で固めておくことができるのです。

 景気が悪いから倒産するという場合にも、景気が悪いからと言って、すべての企業が倒産するわけではない。景気が悪くてちょっと売上が下がったくらいで行き詰まるのは、景気が悪くなる前から借金過多であったり、利益率が低かったり、高コスト体質だったり、営業力が弱かったりしたからである。景気が悪くなったことで、そうした弱い部分を補う余力がなくなって倒産するわけである。景気が良かろうが悪かろうが、大丈夫なように、自社の経営を磐石にする努力を継続しておかなければならない。自社の企業体質、収益構造を把握しておくことが大切です。どこでどう利益が出ているのか、なぜそれが実現できているのか、もし、問題があれば、それはなぜなのか、なぜ改善できないのかを知ること。

 自社の体質を把握せず、守りも固めずにいる会社は、売上が伸びることによって傾くことすらある。

 新規事業や新商品、新規エリア開拓など攻めの局面では経営資源が必要となるのと同じこと。人もいるし、金もいる。だから、攻めという積極策よりも、守りを固めて、兵力を蓄えて、来るべき攻めに備えるというのが常道と言える。負ける理由は社内にある。外部要因はきっかけにはなるけれども、負け(倒産、業績悪化)の原因にはならない。自社のことは自前で手が打てるが、外部の環境や敵のことは思うように動かせない。自力でなんともできないことを問題の原因だと考えてはならない。まずは、負けない準備、負けない備えを優先させることである。

 

勝ってから戦う

 企業経営者が心すべきは、勝てる戦しかしないということである。自信のある分野、商品に絞って、勝ち戦を重ねることである。営業に行くなら、「お役に立てる」確信の持てる顧客に絞り込んで訪問するべきである。無理に売上拡大、規模拡大を狙わず、強い商品、得意分野、勝てる仕組みにこだわって、小なりといえども、毎期確実に利益を出して、社員や株主にも還元し、しっかり納税もして、内部留保を積み増して行く堅実な経営者こそ、プロが認める優れた経営者である。

 営業活動において、客先に訪問し、実際に商談に入る前に、勝てる準備、勝てる商談ストーリーを持っていることが重要である。売れる営業マンは、商談前にストーリーがイメージできている。必要な資料の準備もできるし、顧客からの反論にも冷静に対応できる。「先に勝って後で戦う」という孫子の兵法を実践している。しかし、売れない営業マンは、客先に行ってから、「今日は何かないですか?」「お困りごとはありませんか?」「御社のニーズは何ですか?」と御用聞きをやっている。

 ところで、営業の「日報」というと、営業マンの行動管理をイメージするかもしれない。また、営業担当者をサボらせないようにする行動管理ツールと捉えられることがあるが、それは戦略的ではない。計画を立て、それが日々実践に移されているか、その実践、実行の結果、計画通りに進捗しているかどうかを把握する仕組みが日報であるのだが。日報を書けと言われて いやいや書いているだけのことがある。

 孫子の兵法を活用し、営業力を強化するには、日々の日報に、今日どうだったかという結果報告や行動報告を書くだけでなく、次にどうするのか、次回のアプローチはいつにするのか、次はどういう提案をするのかを書くようにする。商談が終わった時点で、常に次回の商談ストーリーを明確にしておく習慣をつける。次の戦いの前に勝つ段取りを考えておくということである。そこで、日報の中に計画欄を設けて、「次回予定」を必ず書かせるようにすると良い。通常、日報は「報告書」だと思われているから、その日の商談内容を事後報告する。戦い(商談)の後で事後報告しても、注文はもらえない。大切なことは、事前に考えることであり、それによって上司や先輩などから事前にアドバイスをもらい、商談の精度を上げていくのです。事前に予定を書くから、それに対して事前にアドバイスができる。全員の智恵や経験知を営業マン本人に注入できる。これによって経験の浅い、営業力のない営業マンでも商談のストーリーが描けるようになるし、成功をイメージできるようになる。

 顧客のニーズや競合の動き、商談のニュアンスなどを共有しながら、上司と部下が智恵を出し合う。タイミングが遅れそうになると、日報から警告が発せられたり、商談の抜け漏れもチェックしてくれる。顧客に合わせ、商談の流れに合わせて、正しいタイミングで、適切な手を打つ仕組みを営業組織に仕組むわけである。

参考

勢いと節目

 営業活動というものは、常識どおりの正攻法で対応するのが原則です。状況の変化、相手の出方に応じた対応で「イエス」と言わせるものである。営業活動商売の上手い企業は、顧客のニーズ、市場の変化に対応して、臨機応変に常にその方法を変化させることができる。常に新しく、その変化はつきることがない。

 商売の駆け引きは、「押し」と「引き」の二通りであるが、そのタイミングは極めることができないほど難しい。

営業活動の原則は「勢い」「節目」である。

 「勢い」には迫力、熱心さ、自信とかが含まれる。客に決断させるためには、この節目が最も大切である。その場で、決断を促し、時間をおいてはいけない。待ってはいけない。逃げ道を与えないためにも時期を区切る必要がある。

 ただ、「節目」がなければ、目標の設定、結果に対する業績の判断もできない。節目を決めて、反省と新たな決意をする事は、各々個人にとっても大切なことである。

 成功するためには、オーソドックスな方法を基本とし、状況変化に応じ臨機応変な応用的方法を用いらなければならない。

 どうしても受注したい大事な案件があり、競合他社と争っている時は、正攻法として提案内容で互角に戦って、顧客がどちらにしようか迷っている状態まで持ち込み、その後は接待をしたり、何かのお祝いの品を贈ったりして、いろんな奇策を繰り出すと効果的です。これを逆の順番で使うと失敗します。正攻法をせずに先に奇法を使ってしまうと、実力も無いのに、いきなりコネを使ったり、怪しい奴だと警戒されて逆効果になってしまいます。

 

勢いとタイミング

 企業経営においては、勢いとタイミングが求められる。積水の計(第四章 軍形篇)で水を満々と溜めたとしても、それを一気に決壊させるタイミングがズレたら、せっかくの積水が無駄になってしまう。パワーを蓄積していても、それをダラダラと長期間に渡って放出させたのでは、効果が薄い。逆に、短期間に一気に集中して動こうとしても、蓄えられたエネルギーが少なければ大したことにはならない。

 新商品の投入や新規事業への参入は、まさに時間をかけて力を溜めた弩を一気に解き放つものだと言える。新商品、新規事業が斬新で独自性の高いものであればあるほど、タイミングが難しい。顧客の認知もなく、ニーズが潜在化している状態で、知名度の低い中小企業が新しい商材を投入すると、啓蒙や市場創造に時間がかかって息が続かないことが少なくない。かと言って、中小企業が大企業に先行されてから後追いでついて行ったのでは話にならない。二番煎じである。

 営業活動において、タイミングを逸した無駄な努力、訪問、提案は徒労に終わることが多い。

 あなたが、これから新しい仕事に取りかかろうとしていたら、まずそれをできるだけの資料や情報が手元にあるかどうかを確認しましょう。そして、条件が整ったことを確認したなら、その力を一気に注ぎ込めば、大概の仕事は上手くいくはず。ただし、大切なのはタイミングです。力と時のバランスを見失わないこと。それが勝利の鍵となる。

 

経営に勢いをつけるためには顧客のダムを作る

 企業経営において、勢いを作り出すために必要なことは何でしょうか。売ること、売れることである。営業部門においては、隣の営業マンが売ってくれば、負けずに売ろうとするし、周囲が売っていれば、「売れるはずだ」となる。逆に、売れないとなれば、「あいつも売ってないし、こいつも目標未達だったし、俺も売れていない」・・・となって、商品が悪い、会社が悪い、景気が悪い、となる。これでは勢いなど出ない。  売るから勢いが出て、勢いがあるからまた売れる。売らないことには勢いも何もないから、売るための仕掛けを用意する必要がある。それが「積水」であり、「顧客のダムを作る」ことである。このダムを作ることで、売れるべくして売れる、勝つべくして勝つ、というストーリーを描くことができるようになる。今売れなくても、来年には売れるかもしれないし、次の入れ替えではリベンジできるかもしれない。

 勝つには理由がある。負けるのにも理由がある。業績が上がるには理由がある。業績が下がるのにも理由がある。営業がうまく行くには理由がある。失注するのにも理由がある。それらの道理、尺度、基準を踏まえ、予め準備して勝てるストーリーを持って臨めば、自ずと勝ちが確定する。やるべきこともやらずに楽して勝てる魔法はない。やるべきことをきっちり積み上げて、粛々とそれを繰り返すのみ。それが孫子の教えである。

 

競争・交渉をうまく進めるには

 様々な駆け引きを持って得られる『勢い』は、有利な情況を見抜いた上で臨機応変に対応することで生まれるものである。ビジネス上でも、「これだけは譲れない」という一線を決め、 そこに引き寄せるために臨機応変に対応していくことが重要です。

 事業展開するには、ライバル企業の士気が高く勢いがある時は避けて、その士気、勢いが衰えたタイミングを見計らって事業展開することで、自社の勢いをつけることができる。

 事業展開するときに、ライバルの意表を突けば、ライバルは対抗できなくなる。撤退するときに迅速にすれば、損害は少なくてすむ。

 困難に見える事業でも、ライバルの参入していないマーケットで展開すれば、失敗の恐れは少なくなる。ライバルの弱点を逆手にとって事業展開すれば、新規参入しても成功できる。

 

始めは処女、後は脱兎の如く

 経営者、人の上に立つ人は、敵だけでなく、人の嫉妬心を忘れてはならない。「すごいですね」「立派ですね」などと言う言葉に踊らされてはならない。相手は おべんちゃら を言っているだけかもしれない。調子に乗らせて、ベラベラ喋らせようと思っているのかもしれない。

 現代のビジネスにおいて、勝てるシナリオや体制が整わないうちは、極力敵を作らないようにして、自らの意図や戦略、計画を相手(競合や市場)に悟られないようにするべきである。いざという時に、脱兎の如くなるための力を蓄えて、好機を待つべきなのです。勝つためには我慢も必要ということなのだが、つい喋ってしまったり、つい焦って始めてしまったり、つい自慢してしまったりして、敵に気付かれ、敵を作り、敵に手を打たれてしまうことがある。乙女のようにしおらしくしておこう。だが、経営者ともなると、なかなか しおらしくしておけない人が多い。しかし、それを表に見せてはいけないと孫子は説く。

相手の出方がわかれば強気に交渉できる

 うまく人間関係が築けない人は、自己中心にしか世の中を見ることができないところに大きな原因があります。いわゆる空気が読めないというのは、自己中心的で視野が狭いため、自分が置かれた立場がわからないのです。

 常に相手を意識し、相手の意図がわかれば、自分がどう行動すれば有利になるか読めてきます。ビジネスでも、ライバル企業がどのような商品を開発し、どのような販売戦略を立てようとしているのか、どこに支店を出そうとしているのかが把握できれば、先回りして対策を立てられます。

交渉が決裂して困るのはどちらかを見極める

 相手の意図を探る重要性が如実に現れるのが、交渉の場においてです。交渉に臨むにあたっては、自分と相手の立場をよく理解しておかなければなりません。立場が強いほうが より強気な態度で臨むことができ、立場が弱ければ下手の態度に出て、相手の立場を引き出すようにしなければなりません。これを見誤ると、有利な立場にあるにもかかわらず、不利な交渉をしてしまいかねません。

 

敵を弱体化させる戦略

20倍の敵に勝った韓信(かんしん)の戦法

「退路を断つ」

 この退路を断つという行為は、わざと逃げ道をふさいで目前の敵に集中させるという軍事作戦の一つであり、中でも「背水の陣」が有名である。古代中国の漢と趙との戦いで韓信という漢の名将が用いた戦法である。

 趙軍は有利な地形に砦を築いた。20万もの大軍である。漢軍はわずか1万。しかも寄せ集めである。わずかでも敗色濃厚という雰囲気が兵士に伝われば、皆逃げ散ってしまうに違いない。そこで、韓信は生き延びられるように逃げ道を確保しておくというセオリーの逆を行った。川の前に布陣し、後ろに下がったら死んでしまうという状況に自軍を置いた。これで寄せ集めの兵士たちも必死で戦うしか生きる道はなくなった。迫りくる趙軍。前線で戦っていた韓信は頃合いを見てわざと負け、退却するふりをしてみせた。趙軍はここぞとばかり砦を空にして20万の軍勢で襲い掛かる。「背水の陣」により全力で戦っているとはいえ、いくらなんでも1万人が20万人に勝てるわけがない。

 このとき、振り向いて自軍の砦を見た趙軍の兵士は驚いた。砦には漢軍の赤い旗が大量に立っているではないか。韓信は、趙軍の砦近くに2千人の兵を潜ませておき、趙軍が出撃した後にやすやすと占拠したのである。

 「漢軍の大勢力に砦を奪われ、しかも前後を挟まれた!」 そう誤認した趙の兵士たちは大慌て。漢軍は混乱する趙軍を打ち破った。

 孫子の軍争篇に、『負けたふりをして逃げる兵士を追いかけてはならない』とある。逃げる敵は追いかけたくなるもの。背後を襲えば簡単に討ち果たせるからです。しかし、そこに追いかける側の隙が生まれる。韓信が狙っていたのはこれだったのです。ただ「背水の陣」を敷いたのではない。勝利を手にするための手順を綿密に描いていたのです。

勝利を手にするための2つの視点

 勝つか負けるかは相対比較の世界である。味方が強くても、敵がそれより強ければ敵が勝つ。味方が弱くても、敵がそれより弱ければ味方が勝つ。よって、戦って勝つかどうかは2つの側面から見る必要がある。

 ①どうすれば味方が敵より強くなるか

 ②どうすれば敵が味方より弱くなるか

 先の韓信の戦いの場合、「背水の陣」により兵士の必死さを引き出した。1人で2~3人の敵を倒すくらいのパワーは出せたとすれば、敵が2~3万人の軍勢ならばこれだけで互角になったことになる。しかし、敵は20万人。あと17万人分の力を削がなければ勝ち目はない。そのための作戦が、2千人で砦を占拠するというものだった。楽観から一転、恐怖に支配された敵は大混乱に陥り、実質的に20万人の兵士はただの弱い人に変わってしまったのである。凡将ほど自軍の力ばかりにとらわれる。兵隊の数、勇猛さ、武器の量や性能。確かにこれらは重要だが、総合的な兵力で勝る敵に勝つことは出来ない。

 

経営とは相手を欺くこと

 孫子は、「戦わずして勝つ」ためには「敵を欺く」ことが大切だといいます。

 孫子の言う詭道とは 相手を欺くこと。ここで言う相手とは、競合先と顧客の二通りで考えることができる。

 こちらの動き、実力、考えなどを競合先に悟られないようにし、相手の裏をかかなければならない。馬鹿正直にこちらの手の内を見せるようなことをしてはならない。

 相手の手の内を読みながら、こちらはその裏を行く詭道で攻める。攻めると見せかけて退き、出来ないと思わせて、裏で虎視眈々と準備を進めるのです。それぞれ、強くとも敵には弱く見せる、遠方にあっても近くにいるように見せる、低姿勢に出て敵を驕らせる、相手の無防備を攻めたり予想していないところに出るということで、すべて相手を欺き、相手の裏をかくような行動である。

 相手を顧客とした場合、顧客満足とは顧客の期待を超えることであり、顧客の期待を良い方向に裏切る詭道である。期待に応えるとは予想通りということであって、不満足は生まないが、満足度を上げることにはならない。顧客の評価は、事前の期待値と商品なりサービスなりを購入した後の実績値とのギャップの大きさによって決まる。高いものが上等だったり美味しかったりするのは当然である。  普通は商売だから、顧客の期待値を高めようとする。当然のことであって、それが悪いわけではないが、詭道ではない。敢えて期待値を下げてみることもあってよい。

 顧客が考えていないことを考えよ。顧客にニーズを聞いているようでは、ただの御用聞きである。

 顧客を良い意味で裏切り、欺くことができなければならない。そのためには、顧客をよく理解し、自社の商品力を高めておくべきなのは言うまでもない。

 戦はあくまで敵を倒すことを目的とするものである。しかし、企業の競争は競合相手を打ち負かすことが目的ではない。顧客を獲得すること、顧客の満足を競合相手よりもより多く勝ち取ることを目的としている。競合相手を負かしても、顧客にそっぽを向かれるのなら、戦略に意味はない。顧客を欺き裏をかくのは、企業戦略の基本にもとる。顧客を相手に偽りの道は長期的には成立しない。しかし、競合相手の裏をかく、競合相手の動きを巧みに利用する、という意味での詭道は戦略としてありうる。競合相手の裏をかいて、より顧客の満足を勝ち取るという意味での「詭道」である。

 あるいは、「顧客を驚かす」という意味での詭道ならば、戦略としてありうるでしょう。顧客が新しい製品を使って、「大いに驚き、感動する」ことで、市場は大きく動く。それではじめてイノベーションが実現するという。

 ビジネスという戦場において、自分たちを有利な状況に置くためには、例えば、諦めたフリをするなど、時には謀略も必要かもしれません。予算や企画など、真っ正面から戦って勝利を得ることが理想ですが、世の中はそれほど甘くないはず。いかに敵を欺いて油断させるか、そういう戦術を考えてみるのも悪くない。今の状況を打破する秘策として、一度トライしてみるとよい。

 ビジネスと恋愛には似ているところがあります。好きな女性をくどくのには、押しの一手だけでは、なかなか上手くいきません。やはり、「押しても駄目なら退いてみな」という作戦が必要です。ビジネスも同じで、相手を攻めるにしても、一本調子であれば相手はこちらの出方を予想してしまいます。そうなれば話はなかなか前に進みません。そんな時、一度退くそぶりを見せるのも場合によっては有効です。この短い言葉が持つ深い意味を噛みしめて、新たな戦略を練ってみましょう。

 ライバルにうち勝つためには、欧米などでは自分をいかに上手くアピールするかが大事だと言われています。しかし、それが過剰になりすぎた場合は、逆に嫌われる要因にもなりかねません。とは言いつつも、逆に自分ができないフリをした時に、本当に仕事ができない人間だと思われてしまう可能性もあります。要は、そのさじ加減が大切だということです。言い換えれば、自分の身の丈に合った仕事をし続けることが、最終的な勝利につながるということでもあります。ビジネスでは、押したり引いたりすることが大切です。

 

強大な敵に対しても戦い方がある

 強大な競合企業に対しても、決して対応する方法がないわけではない。相手が強大であるその理由こそが、相手の動きを封じ込めるポイントであり、冷静に相手の急所を突くことが肝要である。

 仮に強大な競合企業があり、万全の組織、豊富な品揃え、圧倒的な人的パワーで自社の商圏に攻め込んで来たとしよう。何ともしようがない、手の打ちようがないと考えてしまうのも当然のようではあるが、そういう場合でも手が打てると言う。相手が強大であればあるほど生じる弱点がある。それはスピードが遅くなるということである。驕りや慢心による緩慢さかもしれないし、情報伝達の遅れや組織が分断されて壁が出来た故かもしれない。敢えて、相手の強い部分、得意分野にスピード勝負をかけてみるのもよい。スピードとは意思決定のスピードです。社員が走ったり、作業スピードを上げる努力をしても、高が知れている。強大になった相手だからこそ意思決定がどうしても遅くなる。相手が商品開発に強みを持っているなら、商品開発期間、サイクルの短縮で勝負する。仮説検証スピードを速くすればよい。相手が生産能力に自信を持っているとすると、納期短縮で勝負する。相手が何千人という営業マンを抱えて攻めてくるなら、エリア限定で絞込みながら、そこでの営業対応スピードで勝負するという具合である。

 営業で大切なのがスピード。速きこと風の如く何事も速くやること。顧客は忙しいし、こちらも暇な客を相手にしている暇はない。顧客が3日かかるだろうと思うところを2日でやる。

 次に顧客の話を聴く。静かに素直に聴く。喋り過ぎない。気持ちよく話してもらうために、心地よい傾聴姿勢が必要である。相手のことを理解しよう、どうやったらお役に立てるかという心情が必要です。顧客の話を聴き、相手の事情を理解したら、こちらがお役に立てることを提案する。提案する時には、「お客様のためにお役に立つ」という熱い思いで提案すること。自社の都合、自分の都合を押し付けるのではなく、「お客様にとって良いものだ」という確信がなければならない。売る気があるのか、ないのか良くわからないような、気の抜けた覇気のない事務的な提案で人が動くはずがない。理屈では人は動かない。熱い思いをぶつけよ。しかし、過度な値引きを要求されたり、過剰なサービスを強要されたりする場合には動いてはならない。

 

攻撃と防御

 企業の周囲には、顧客、競争相手、取引先、株主、その他の人的環境、自然環境など多くの変動要因があり、これらが絶えず企業を揺さぶっている。企業が軌道に乗ったように見えてもそれは一瞬のことであり、じっとしていたら次の瞬間には脱線させられるのである。

 周囲が動いているならばこちらも動く、あるいは静であってもすぐ動に移れる態勢でいなければ、急な変化に対応できない。対応できないと主導権は相手に握られて、こちらはいつか滅び去ることになる。

 敵に対して主導権を握るには、このような計算を事前に行っておかなければならない。マーケティングツールという武器も、コミュニケーションのプロセスを細かく計算し、どの段階でどう活用するかを設定しておくことで効果を高められる。

 業績下降中であっても、自社の強みを武器として攻めるのが基本。

 

勝率を上げる秘策

 ライバル会社と自社の実力を正しく認識していれば、ほぼ勝ちが見込めますが、それにプラスして市場動向を味方につければ なおさら勝利は固くなるということです。ライバル会社との競争に際しては、ライバル会社と自社とではどちらの実力が上なのか、市場動向から見て障害になるものはないか、ということをよく考えて、競争に打ってでるかを決断します。

 

敵情を把握せよ

第九章 行軍篇)

 「うちは御社の足元にもおよびません。同じ土俵で戦えません。」などと言って、妙に腰が低く、下手に出ているのは怪しい。裏で参入の準備を着々と進めている可能性がある。勝つ気満々と思って間違いない。

 強気の発言を繰り返し、こちらに無理難題を押し付けてくるのは、交渉を決裂させたいからにほかならない。

 具体的な計数が出始めるのは、相手が真剣な議論を要求していることの証である。そういう話が出てこないようなら、交渉するのは時間の無駄である。

 まだ追い詰められてもいないのに妥協案が出るということは、相手に何かこちらを騙したり陥れたりしょうとする策があるからである。

 数字が細かく提示され、具体案がどんどん出てくるということは、相手が解決を望んでいる証拠である。ひよっとしたら時間がないのかもしれない。

 押したり引いたりを繰り返しているということは、こちらを苛立たせて妥協案を出させようという腹積もりである。

 大事なところを確認もせずに、ひたすら交渉をまとめようとしているのは、かなり疲れているとみてよい。

 営業で仕事を取るときの成否のカギは、「相手の心をどこまでつかめるか」にかかっています。人は誰でも「他人に認められたい」という欲求を持っています。自分を認めてくれる人には親近感を抱くものです。誉め言葉は相手の関心を買うことになり、誉めてくれた人間に好意を抱き、心を開くキッカケともなります。お世辞もしかりです。

 下心のあっての誉め言葉や、誰でも言うような当たり前の誉め言葉は効果がありません。言われて当然といった意識があり、嬉しくありません。それより、本人も気づいていないような意外な点を見つけて誉めるのです。

 

無形への道

 ビジネス上でも、マニュアル優先での対応でうまくいくとは限りません。ある程度は柔軟さを持って取り組むことが必要です。

 もちろん、過去の成功体験やマニュアルはそれまでの蓄積なので重要ですが、それに固執してはいけません。

 企業経営においては、顧客の判断基準、購買基準をつかむことに置き換えることができる。顧客訪問し、いちいち顧客のニーズや考えを聞いていたのでは、後手に回ることになる。言われてから動いたのでは二度手間となる。顧客が「いつ買うのか」「いくらなら買うのか」「誰が意思決定するのか」「どうなれば買うのか」が分かれば、それに合わせて先回りして先手を打つことができる。

 まず、営業マンが顧客と商談する時には、「視」で相手の言動を客観的によく見る。表情の変化や微妙な間も読み取ろう。しかし、顧客は本当のことを言ってくれなかったり、本心を隠していたりするから、その裏を読む推察をしなければならない。これが「察」。

 相手に合わせて柔軟に変えること。それが無形への道である。何があるか分からないので、決まった形だけで対応しようとしてはならない。

 企業経営において、とにかく売れればいい、顧客が買うと言うなら買ってもらえばいい、という姿勢ではまともな商売にならない。顧客が誤解していたり、買いかぶって過剰な期待をしていたりすると、あとでトラブルになり、クレームになって、余計な手間が増えるばかりである。顧客が必要としていないのに無理矢理売り込むとか、騙して売るなどは論外である。顧客には、とにかく買ってくれと売り込むのではなく、まずは自社の理念や考え方、製品のコンセプトや品質へのこだわりなどを理解してもらうべきである。そこがずれていては長い付き合いにならない。その上で、商品説明があったり、価格交渉があったりする。きちんと儲けるためには、この努力を怠ってはならない。安易に迎合し、何でもやります、何でも言うことを聞きますと言っていては、儲かるものも儲からない。便利に使われて、安く叩かれて、最後はポイ捨てとされるだけである。

 顧客に対して、自信を持って自社の理念やコンセプトを語り、もしそれが気に入らないなら付き合ってくれなくてよいと言える経営を目指せば、儲かるようになる。目指さなければいつまで経ってもそうはならない。

 一時の感情で一生の顧客を失ってしまうということもある。ついカッとなって客にキレる。そんな営業マン、顧客対応係もいる。これは問題外である。キレないまでも、不機嫌そうにしてしまう、不愉快さを相手に伝えようとしてしまう人がいる。特に若い人に多いように思う。その場の感情で戦いを始めてはならない。顧客は本来わがままなものである。金を払うのだから、何でも言うことを聞け、といったことを平気で言う人もいるし、それを当然だと思っていたりする。営業する側も、その辺りの心をくすぐり、顧客を調子づかせていたりもする。自業自得の面もある。もちろん、相手が金を払うからと言って、何でも言うことを聞くべきだとは思わない。利があれば対応し、利がなければ応じる必要はない。ビジネスであり、WIN-WINの対等な関係である。売り手と買い手の関係であっても、冷静に判断しなければならない。その顧客のためにあれこれ考え、工夫もし、努力もしたのに、失注してしまったり、業者扱いされてしまったりしたら、腹も立つし、残念な気分になる。文句の一つも言いたくなるが、グッと我慢すべき。頭に来る顧客がいれば、「いつかギャフンと言わせてやる」と心の中で叫んで、外面は笑顔を繕い、「また何かあればお願いします」とでも言って、その場を立ち去る。そしてリベンジである。まさに「臥薪嘗胆」である。相手にギャフンと言わせるというのは、「あの時、あの営業マンに頼んでおけば良かったな」と言わせることであり、「あの会社にお願いしておけば良かった」と後悔させることである。そのためには、その断った相手が気付かざるを得ないくらい自社が成長し、商品が売れ、評判を高めて行かなければならない。目立つほどの成長、発展を実現したい。

 「臥薪嘗胆」とは、まさに呉越の戦いから生まれた故事成語である。孫武が仕えた呉王の闔廬は、越に侵攻したが敗れ、負傷したことがもとになって死んでしまった。闔廬の子、夫差は、父の仇を取ることを誓い、薪の上で寝ることの痛みでその屈辱を忘れないようにした(臥薪)。そして、ついに夫差は越に攻め込み、越王勾践の軍を破った。敗れた勾践は、苦い胆を嘗めることで屈辱を忘れないようにして、後に呉王夫差を滅ぼした(嘗胆)。呉越の戦いは、こんなところでも教えを残してくれる。

 ビジネスの場でも、儲かる話・得する話には人が寄ってきます。「こうすればあなたは得しますよ」というメッセージを伝えたり、「こうするとあなたは損をしますよ」とメッセージを伝えることで、その人の行動を操ることもできます。

 決裁者や交渉相手や、お客さんや動かしたい人が何を重視しているのかよく考えて、その人が一番欲するものを与えてあげたり、その人が一番嫌がることを遠ざけてあげたりすることで、人を動かすことができます。

マーケティングは、市場内のポジション、自社の強み・弱みなどを見極めること

「敵を知り、己を知る情報力」にあたる

敵の観察

 ビジネスの場合、どうしたら利益をあげることができるかをよく観察します。状況は様々に変化します。その変化に対し、利益に転換する術を探らなければなりません。現代の場合、顧客ターゲットを絞り、その顧客がどうすれば購買を決定してくれるか、その条件や状況を観察することです。

 

水攻めと火攻め

 孫子の火攻めと水攻めを現代のビジネスに応用し活用するには、火攻めを新規開拓、水攻めを既存客のダム作りと捉えてみるとよい。新規開拓のための戦略を定め、ターゲットを絞り込んで確実に攻めていく火攻めを実行します。火攻めがすべてうまく行くとは限りません。水攻めである「積水の計」も同時に進め、火攻めと水攻めの良いところを合わせていきます。これによって強い営業組織を構築することが可能になるのです。

 既存顧客を大切に守ることが水攻めに相当する。堰を作り、水路を掘り、ダムを作る。常に顧客を蓄積し、貯めていく「積水の計」。そして、既存顧客から追加受注、リピートオーダー、サプライ品購入、メンテナンス依頼、紹介客をいただく。この際には規模がモノを言う。ダムの水量が多ければ多いほど、すなわち、顧客数が多ければ多いほど経営は安定するし、まとまった施策が打てる。ダムは大きければ大きいほど良い。そのためには兵力がいる。既存顧客をダムにして守るだけではジリ貧になる。それが人口減少、マーケット縮小の怖いところでもある。

 ところで、守るだけではジリ貧になる。ダムに水を注ぎこまなければ、そのうち水は減り、渇水となる。常に新規開拓を行って、新たな客をダムに注ぎ込まなければならない。これが火攻めに相当するのです。競合企業から自社へのスイッチを狙わなければならない。新ルート、新チャネルを開拓し、新商品、新サービス、新企画を投入し、新業態、新ビジネスモデルを開発していかなければならないのです。

 

人により敵の情報をつかむ

 優れたリーダーが人並み以上の成果を収めるのは、能力や知力ではなく、事前に敵情を知る「先知」なのである。そのための間諜であり、企業で言えば営業マンである。

 孫子は、2500年も前に、決して神仏に頼ったり祈祷や占いで知るのではなく、人間が直接動いて情報をつかむことによって、先に知るべきだと説いた。我々が運勢や神頼み、仏頼みになったり、気合と根性と誠心誠意で乗り切ろうとするのではまずい。

 情報もないのに、ただ訪問件数を増やせ、電話本数を増やせと尻を叩くのも、無駄なコストばかりかかって大した成果にはならない。  

 勝つためには情報収集しなければならない。顧客の情報、競合の情報、世の中のトレンド、自社の活動状況などの情報を地道に集め、それらを分析して、どう動くべきかを考える。その情報も鮮度の高い情報が求められるし、その情報によって先手を打つことができるようになる。営業活動、売上創出活動においては、「先知先行管理」が必須である。先々の売上や受注を見通しながら、先手を打っていく。先に情報をつかみ、先手を打って行く。自社の商談期間や納品リードタイムなどを見て、先々への仕込みをする。そうすると、取れるべくして取れる受注もあるし、棚ボタでもらえる受注もあることが分かる。もちろん、取れると思っていたのに失注してしまうものもある。それをつかむのがリーダーである。

 大きな事業投資をすれば、稼働・維持するために膨大な人件費や管理費等が必要になる。投資資金を回収するのに何年もかかったあげくに、わずかな事でライバル企業との競争に敗れてしまうこともある。にもかかわらず、事前に入念なマーケティングやライバル企業の情報収集を怠るのは、経営者として失格である。

 優れた経営者が事業展開して成功できるのは、事前に入念なマーケティングやライバル企業の情報収集を行うからである。しかも、それらの情報は、机上の空論でなく、人が足で稼ぐ現場の生の情報でなければならない。

 インターネットが発達し、色々な人が情報発信源になっている。ググれば大抵のことを知ることができる。既に知識の宝庫と言ってよい。そのため、情報がタダだと勘違いしているようにも思える。決まりきったことであれば その通りである。手順を追ってやっていけば済むことであれば、専門家のアドバイスなんていらない。

 情報がタダとは思わない方がよい。どうでもいい情報はタダでもよいが、必要と思う情報はお金を出して買った方がよい。リスクを負いたくない情報、時間を無駄にしたくない情報、そして自分が真剣に取り組みたい情報は、専門家からお金を出して入手すべきです。情報の対価をケチる者は、良い経営者にはなれはしない。

  ・無料の情報を鵜呑みにするのはやめておこう

  ・情報の対価をケチる者は、良い経営者にはなれな。

 現代社会では、ネットの情報が拡散し、有象無象の情報がある。どの情報が価値があるか、価値がないかということは正直よくわからない。信頼できない人からのネタは仕事にならないネタしかないから、そのルートを切断しよう。時間の無駄でしかない。信頼できる人通しのネットワークの中で確実に仕事をしていこう。まさに情報は金(宝)なのである。

 やってみなければ分からないという経営ではなく、先を読んで手を打ち、決して結果オーライに甘んじないようにしていきます。

 「明君とか賢将とか言われる者が相手に勝ち、目覚しい成功を遂げるのは、人より先に敵情を知り、事態を予知しているからである。」とのことです。

 

情報戦略こそ兵法の要

 営業活動が諜報活動に相当すると思えば、いろいろと工夫する余地がある。営業マンはモノ売りではなく、情報の力で人を動かす人でなければならない。情報と言っても、インフォメーションではなく、インテリジェンス。まさに諜報であり、それが孫子の兵法を現代の営業活動に応用する時の重要ポイントである。したがって、営業活動は、顧客へのプロパガンダとも言えるし、情報リークとも捉えることができる。顧客に適時適切な情報を流すことによって、顧客の判断軸を作り、またそれを変えて行く。人は見ようと思ったものを見、聞こうとしたものを聞く。いきなり商品の説明や売り込みを行うのではなく、予めその商品を正しく判断できるようにするための情報を流してあげて、判断軸や評価尺度を作ってあげることが必要なのです。

 孫子は「お金を惜しんで敵情視察をしないものはバカである」と言っています。

 ビジネスでも、情報収集をせずに新規事業を立ち上げる人が大勢います。市場調査、競合調査、ノウハウの獲得、経営情報の獲得など、それらの情報がなければ成功しないでしょう。

 

攻める前に周到に諜報すべし

 何としても成功させたい商談や事業企画があり、攻略したい顧客やキーマンがいるなら、その情報を徹底して収集し、それに通ずる人脈をたどり、相手の取り巻きや過去からの経歴、経緯などを調査した上で慎重に事を進めなければならない。

 法を犯して産業スパイをせよというのではない。日頃の業務、活動の中でいろいろな情報が取れるはずである。それらを捨ててしまわずに蓄積しておけば良い。そうして、相手からの信頼を得、信用を勝ち取り、友情とも言えるような感情や関係性を築けたならば、その相手を反間として、また、内間、郷間として利用することもできるようになる。競合企業の営業マンは、まさに反間である。同業者の集まりや、同業者が一堂に会するイベント、展示会などで隣り合わせになったりする。そこであれこれ世間話などもしていれば、自ずと競合企業の内部事情などが聞けたり、読み取れたりする。

 

上智を間者とし大功を成せ

 営業(諜報活動)の重要性を認識した優秀な経営者のみが、優れた営業担当者を使いこなすことができる。その担当者が集めてくる情報の価値を活かすことができるのである。営業力強化のポイントは、営業マンの売り込む力、押し込む力にあるのではなく、マーケット、すなわち、顧客や競合の動きを把握する情報力、諜報力にある。どんなに営業力、戦闘力、兵力があろうとも、顧客の情報、競合の情報、マーケット情報、敵の情報、戦場の情報がなければ、戦いに勝利することはできない。商品力や開発力は小さくても、相手の動きを把握していれば、マーケットニーズを探り、ニッチな分野に絞り込むなど戦いようがある。その判断、戦略立案の元になるのが、営業マンが諜報してくる情報である。殷や周が、最優秀の人間を敵国に送り込み諜報させたように、21世紀の今も、戦う時には情報が必要であり、その情報をとってくる人間は、上智でなければならない。営業マンを諜報マンとして捉え直し、優秀な人材を充てて育成していくことは、企業経営にとって大切である。作れば売れ、売れれば儲かるという時代ではなくなった。売れるものを作らなければならないし、儲かるように売らなければならない。そのためには、顧客のニーズを汲み取り、斟酌して、先回りする諜報力が必要です。競合の動きを察知し、その意図を読み、有利にビジネスを進める智恵が求められる。

 だが、この営業部門を軽視している会社がある。技術系、開発系の下請け体質の会社に多い。また、経営者が技術者、開発者だとそういう傾向が強い。「安くて良いものを作れば売れる」という発想の会社である。技術力があり、商品力があるのは大いに結構なことだが、それでは営業機能を親会社に依存した下請け構造に甘んじるか、たまたま当たれば売れるが、継続して売れるものを出し続けられないという。

 営業活動を諜報活動と考えるというのは、営業活動を仮説検証活動だと捉え直すことに等しい。こちらの持つ情報をマーケットにぶつけてみて、その反応をつぶさにつかんでフィードバックし、それに基づいて次の手を打つ。間諜を送り込んで、敵国に情報を流しつつ、敵国の動きを探り、それを自国に持ち帰り、戦い方を考えるのと同じ。諜報(営業)活動によって、先知し、攻めたい先の周辺情報までしっかりと探る。その情報に基づいてターゲッティング(絞り込み)し、全軍を動かす。製造も開発も仕入も施工も物流も、すべてはマーケット情報、顧客起点の情報によって動き、それに合わせていかなければならない。

 経営者は企業の存在目的を忘れてはならない。このことを常に念頭に置いていれば、常識外の新発想、新機軸を生み出すことも可能となる。先例にとらわれず、現在から未来を見据えるようになるからです。

そういう経営者は、自然と世の中の新しい動きに関心が向くようになる。そして、「これはわが社の役に立つのではないか」と感じる新情報に接するとワクワクし、「試してみたい」「他の人にも教えてあげたい」と思うものです。

 

社内体制とは「守り」であり、営業活動とは「攻撃」である

 企業経営の成功例では、社内体制の重要性を説く人が多い。

 優秀な経営者は、事業を成功させるために、成功することを前提とした体制を固めたうえで、どんな状況にも対応できるようにして営業活動を行う。

 体制とは「内部事情」のことであり、営業活動とは、「外部の要件」が関係する。であるから、優秀な経営者でも、社内体制は自分達の創意工夫・努力次第で確立することができるが、営業活動は相手があることであるし、思いどおりにいかないこともある。したがって、「成功する方法は知ることはできても、実際に成功することはむずかしい。」と言われるのである。

 社内体制が確立されていなければ、営業活動をしても内部で処理できないために、利益は確保できず、信用も落とす。営業活動をするのは、社内体制に余裕がある場合である。管理が上手い管理職は、内部事情を知られることも、社内の弱点を知られることもない。営業の上手な管理職は、相手の意志、行動、弱点をよく知って活動する。どちらも その思惑を知られることがない。ゆえに、そのような管理職を持つ企業は、市場の変化にも、景気の動向にもよく対応し、順調に成長することができるのである。景気の善し悪しに企業が左右されるということは、営業の問題と言うより、内部体制に問題がある。

 「売れない」とは言い訳であり、結果には必ず理由がある。その理由を分析したうえで、体制を整える必要がある。  

 1.どんな状況にも対応できるような体制を作ること

 2.売れる商品を作り、売れない商品は切り捨てること

 3.組織内の人材をどう生かすことができるか。

 以上が、経営者にとって大切な能力であり、営業力はその次である。

 

MBAに苦言を呈する

 MBAの講義では、極端な「利益の極大化」「市場至上主義」「効率性」を求め、倫理や道徳が置き去りにされています。

 「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・F・ドラッカー(1909~2005年)は、以下のように指摘しています。

 「マネジメントとは実践である。したがって、マネジメントの仕事に免許を与え、あるいは特別の学位をもつ者だけに資格を与えることによってマネジメントを専門職化することほど、経済と社会に害をもたらすことはない」(『現代の経営・上』)

 経営は単なる金儲けでなく、人を幸福にすることによって成り立つものです。その人間の幸福とは何かを明らかにしている経営成功学からは、経営の真髄を学べます。

参考

創造の喜び 井深大の技術者魂

 「まず強い目標を立てる。それを達成するためにあらゆる技術を動員する。『できそうだったらやってみよう』というのとは大きな違いがある」

井深自身、こう語っているように、技術に関しては一切の妥協を許さない厳しい姿勢で臨んでいた。

 

付加価値の創造

 経営者は、「製品」「流通」「サービス」の面で顧客を満足させるものを提供し、付加価値の総合点を上げることが求められます。経営とは「付加価値の創造」あるいは「総合芸術」であり、事務管理ではありません。さらに言えば、この創造には終わりがないのです。環境や時代は常に変化し、経営もその中で新しいものを創造していく必要があるからです。「無限の創造」という意味では、経営は神や仏のそば近くにある仕事だと考えるべきでしょう。

参考

 ドラッカーは、「人間は精神的な領域でしか付加価値を生めない」と言っています。「心」は未来を拓いていく原動力であり創造力です。

 ヒット商品やまだ存在しないものを生み出すには、未来をイメージするような「心」「思い」の力が必要です。「まず思いがあって、それが具体化していく」という「思いの先行性」を知っている経営者と知らない経営者とでは、発展の速度や規模がまるで違ってくるのです。

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